遠藤和良が詠んだ今月の俳句です。

(徳島県 山城町)
「大歩危峡 谷の流れはひすい色」
撮影 三好和義 提供:阿波銀行

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二〇一〇年七月
日を得ては色増しにけり鉄線花
白てふは穢れ無き色沙羅の花
雨の露滴るほたる袋かな
紫陽花の色を仕上げてゆきし雨

いつの世も雨に咲く花濃紫陽花

そのなかに白い紫陽花ありにけり

はるかより泰山木の白い花

手の届く位置に泰山木の花

掃かれゐて泰山木の落花かな

庭園の木下暗がり半夏生

艶のある色でありけり青花梨

ゆで卵剥けばこの艶花梨の実

まだ歪始まってゐぬ青花梨
この雨の中にも散りし花菖蒲
殿の花菖蒲なり真白なり
掛川の城の天守の風涼し
一豊の掛川城の涼しかり
掛川城土佐城共に風涼し
二十ある部屋開け放つ夏館
武具に風通す御殿の夏座敷
開け放つ二の丸御殿風涼し
一豊の住まゐし天守風涼し
まづ桔梗眺めて茶席始まりぬ
掛川の城見て帰りの百合の花
梅雨霧らふ木曽三川の水の嵩
梅雨霧や夕暮れ早き関が原
孤愁とはサウダーデとはモラエス忌
孤愁とは孤独にあらずモラエス忌
老ゆるとは凄まじきものモラエス忌
生まるるも死ぬるも独りモラエス忌

一人生まれ一人死ぬるもモラエス忌

人は皆独り逝くものモラエス忌

踊笛阿波に響きてモラエス忌

山門に入るを待ちゐて道をしへ

道をしへぷいと横向きそれっきり

道をしへいきなり跳ねてそれっきり

道をしへ心変わりの早すぎる

道をしへ心変わりの早さかな

道をしへ心変わりのその早さ

庭づくりまづ箱庭の庭つくり

箱庭に諸行無常のなかりけり

箱庭に仕上げの人をつまみ置く

箱庭に時の止まってをりにけり

店毎の朝顔市の法被かな

午後の市どの朝顔も疲れをり

皆同じ朝顔市の値札かな

江戸っ子の朝顔市でありにけり

オーシャンブルー朝顔市を占領す

四片咲く谷埋め尽くし埋め尽くし

濃紫陽花わがもの顔の丘に立つ

涼風に風車十五基廻る丘

高原の風の涼しき句会場

晴れ間あり一日なれどほととぎす

窓開けて風を入れればほととぎす

雨霧の下界にひびきほととぎす

富士見ゆる茶屋の窓辺の月見草

月見草太宰暮らせし天下茶屋

ハンモック南の島へ行く気分

玉虫の玉虫色は美しい

暇あり海水浴の巡視船

暇あり巡査が二人夏の浜

水着の子総出に宝探しかな

潮浴びの子を追う親の視線かな

だだ眺めゐるも海水浴であり

大方は浜の人なる水着かな

梅雨明けて紀伊の山まで見ゆる海

二〇一〇年六月
躑躅山裏の裏まで躑躅かな
躑躅山人来ぬところにも躑躅
奥の奥なほその奥の躑躅山
群生の躑躅一千二百本

躑躅群れ天然記念の碑と同座

咲き満てる躑躅の樹齢三百年

躑躅散り散りて躑躅のその上に

散り急ぐ躑躅遅れて咲く躑躅

森林浴したり躑躅も厭かず見て

閑古鳥人恋しげに鳴くと云ふ

閑古鳥夏鶯と鳴きゐたり

通学のペダルの軽し更衣

銀輪の子のまぶしさよ更衣
若さとはほとばしるもの更衣
二の腕のまぶしかりけり更衣
佇みて二人静でありにけり
咲き初むはいつもこの株花菖蒲
抽んでし花菖蒲より咲き始む
真青なる空に泰山木の花
山帽子一本あれば景となる
日の陰り花も陰りて山帽子
そのかみの松の廊址の青楓
波消えて浜茄子のまだ揺れてをり
花茨昔むかしの香りかな
卯の花の俯き癖のつきて午後
御殿山ねぐらに親子つばくらめ
鈴蘭や北海道の空の色
鈴蘭の鈴の音色を聞きたしや
鈴蘭の鈴に音色のなかりけり
出水跡倒れ標識あるばかり

葭原の河口一キロ行々子

吉野川葭原広し行々子

視界みな葭の原なり行々子

この甕に目高の世界ありにけり

甕替へて目高の流転流転かな

水中でホバリングをもして目高

楊梅は阿波の県木わが家にも

実のならぬ楊梅ばかり街路樹は

楊梅のご馳走なりし日の遠く

街灯に来るかぶと虫待ちし夜

火取虫今宵の命燃え尽くす

嫁の持ち来たる紫陽花庭に咲く

紫陽花の寺紫陽花の山を背に

紫陽花の寺紫陽花に埋もれをり

掌すり抜けて行く蛍かな

着る服の同系色の夏帽子

夏帽子二つ並びて行きにけり

金輪際肌身離さず夏帽子

大方は女物にて夏帽子

同じものなきご婦人の夏帽子

弘法の遊学の寺風薫る

山深き寺の紫陽花丈高し

切支丹灯籠にまで蜘蛛の網

登り窯際の際まで蟻地獄

皮脱ぎつ竹の子伸びる速さかな

山寺に大樹が二本ほととぎす

山門に入れば忽ちほととぎす

山寺を辞さんとすればほととぎす

ほととぎす浴びるほど聞き山下る

梅雨晴のまぶしき街となりにけり

東京に緑まぶしき梅雨晴間

モラエスよサウダーデよとほととぎす

孤愁とは流浪にあらずモラエス忌

望郷の像の視線よモラエス忌

ほととぎす夢博士なる師の句碑に

つくづくと水木の花の眉山かな

梅雨霧らふ眉山は緑深き山

夏燕眉山山頂平らなり

父の日のお好み焼きのディナーかな

父の日をお好み焼きで祝杯す

二〇一〇年五月
新しき空港真白けふ立夏
東京に里山のあり山躑躅
芝居見て火照りし頬に若葉風
桝席の人と花冷分かちゐる

麗らかやここはお江戸の金丸座

風薫る丘の上なる金丸座

芝居終へ金比羅さまは夏に入る

行く春や金比羅歌舞伎あすは跳ね

ぼうたんや阿波の宰相眠る寺

汚れなき色でありけり白牡丹

妖艶は黒い牡丹に極まれり

七半のバイク飛ばして来し遍路

遍路来て遍路発つ茶屋大手鞠
団参の遍路に埋まる草餅屋
烏の巣本門の両脇にして
芝桜風車の丘の大斜面
硬さうな殻脱ぎ捨てて桐の花
遠目にもあの紫は藤の花
新緑や地球は水の星なりき
遠回りして躑躅咲く道帰る
この辺り桐下駄の里桐の花
桐の花阿波から伊予へ続く尾根
風鈴や水子地蔵の寺小さき
花蜜柑仁王門まで香の届く
緑陰へ浸み渡りゆく寺の鐘
幻の子規の句帳や旅五月
石手寺は句碑多き寺風薫る
句碑の字は子規の直筆青楓
宿浴衣道後湯の町坂の町
湯籠提げ道後の町を青柳

万緑や地球は水の星である

天守より登城太鼓や風薫る

旅五月「なじみ集」なる子規に会ふ

城内の桜も梅も実をつけて

天守閣その一隅の杜若

文明に明治の余韻薔薇の花

洋館は明治の遺産薔薇の花

財閥の残せし庭の花薔薇

風見鶏ある異人館薔薇匂ふ

白き家多き町内薔薇の花

海見ゆる外人墓地の薔薇の花

スペインの旅空揚げの蛍烏賊

ビニールのテープの擬似餌烏賊を釣る

烏賊を釣るさびきと云ふは引っ掛けて

産卵の掬ひて蛍烏賊の網

風音の乾きて届く袋掛

知らぬ間に済ませてをりぬ袋掛

天守より下りて薄暑のご城下へ

外つ国の言葉飛び交ふ寺薄暑

中世の街の城門橡の花

城門の中に街あり橡の花

文豪の常宿なりし花は橡

飛魚を蝶捕るやうに網で獲る

一泊の人間ドック明易し

遠足の列の殿乳母車

薔薇咲いて次々に来る車椅子

薔薇園に老若男女来る日和

赤も黄もピンクも競い咲きて薔薇

二〇一〇年四月
太き幹節くれだちてゐる桜
墓守は一際高き山桜
真青なる空へ散りゆく桜かな
青空を渡りゆきたる落花かな

生命とは華やげるもの春の山

鶯や母とスキップ姉弟

つばくらや父より伝ふ耕運機

つばくらめ農を楽しむ日曜日

燕来て里山に活入りにけり

虚子の忌へ虚子の曾孫に迎へられ

参道の花屑どれも新しき

我もまた虚子の一門椿好き

釈迦生まれ虚子死す日なり落椿
墓地うらら久闊を叙す長話
その奥の源氏山より花吹雪
虚子の忌の花びらけふのものばかり
麗らかや虚子の墓参へ足軽く
省略のなき鶯の谷渡り
墓守のけふの鶯よく鳴きて
墓守は鶯ぞよく鳴きゐたる
鶯や虚子の一門揃ふ寺
墓地うらら虚子の一門話好き
袋小路多き鎌倉著我の花
寺苑けふ一飲みにする落花かな
花筏吹き寄せられてゐる静寂
大銀杏倒れし根株新芽萌ゆ
ひこばえや八幡宮の大銀杏
桜貝七里ヶ浜を往き来の子
春の雲ふはりふはりと浮かぶ昼
藩侯も愛でられしこの初桜

桜貝紅葉のやうな手の平に

梵鐘の余韻残して遍路発つ

黄山を模せし石庭草青む

復元の天平の庭草青む

逝きし人思ふてをれば桜散る

お札所の梵鐘一打桜散る

のどけしや梵鐘もまた夢の中

淋しさの一人静でありにけり

蓼科に一人静を咲かす茶屋

六甲に一人静と出会ふ旅

茶の席に牡丹一輪凛として

ひとひらの落花と入りぬ野点席

二〇一〇年三月
竹林の方よりの声初音らし
それらしきもののはっきり初音なる
竹林の風に乗り来る初音かな
省略の正調となり来し初音

仄かなる初音を聞ける嬉しさよ

また初音またまた初音また初音

また初音竹林の空晴れ渡る

千年の楠蘇り豆の花

職退きてよりの農なり豆の花

彼の人も晴耕雨読豆の花

豌豆の花咲いて旧屋敷畑

庭先の豌豆の花盛りなる

此れやこれ桃の節句の花見かな
蜂須賀候残せしといふ紅桜
雛の間に蜂須賀候の桜見る
花も葉も蜂須賀桜出て同時
菜の花をたどりてゆけば記念館
司馬邸へ菜の花咲かせ案内さる
町中に菜の花咲かせ菜の花忌
菜の花や司馬遼太郎もうゐない
菜の花に埋め尽くされてゐる書斎
菜の花や司馬遼太郎亡き書斎
司馬邸の奥の奥まで花菜かな
鴨の陣港神戸の波頭にも
膨らみて美しきさみどり牡丹の芽
日に尖り日に日に割れて牡丹の芽
紅白のぼうたんの芽の同じ色
ぼうたんのどの芽も同じ色形
牡丹の芽湿らせてゐる雨の糸
店頭に菱餅の跡形もなく

菱餅と縁なき齢重ねけり

不意打の鬼の霍乱春の風邪

先見えず居座ってゐる春の風邪

予定皆吹き飛ばしけり春の風邪

抜け切らぬ鬱陶しさよ春の風邪

春の風邪につき纏はれてゐる始末

宅地化を免れ畑耕せる

日曜は俄百姓耕せる

茎立てる菜は大束に朝の市

茎立つは残る命を燃やすこと

残したるもの悉く茎立てり

どの峰も撫で肩となり春の山

海岸は草木の多し雉走る

雉走る忍者の如く小走りに

二の門をくぐりて花の本堂へ

奥院の奥の奥まで桜かな

遍路には桜の花がよく似会ふ

花の寺極楽浄土なる言葉

中興の和尚の碑文花の寺

囀も読経も絶えず山の寺

花見上げ花見下ろして磴登る

二〇一〇年二月
節分の鬼になるたる日の遠く
立春の東京の空真青なる
立春の東京にして気温二度
立春の黒潮の海真っ平

真青なる空に風花舞ひにけり

春待たず逝かれし佳人偲ぶ句座

遍路来る韓国人にして二人

外つ国の女遍路の大きな荷

春隣佳人の訃報聞こうとは

囀りに独占されてゐる古刹

短パンにブーツなる子も遍路なる

鶴岡八幡宮の冬牡丹

見頃なる木札立てあり冬牡丹
小顔なる少女は美人冬牡丹
雪国の少女にも似て冬牡丹
蓑着せて傘差し掛けて冬牡丹
冬牡丹頭巾のやうな蓑つけて
寒牡丹小さけれども凛として
気風よきをみなにも似て寒牡丹
青春はほろ苦きもの蕗の薹
甘かりし地酒の肴蕗の薹
蕗の薹まづ料亭に罷り越し
蕗の薹せせらぎの音近くなる
列なして並ぶさ緑蕗の薹
春立ちて待たるるものに鰊蕎麦
青海苔の吉野川埋め尽くすひび
紅梅の遠目に煙る仄かさよ
枝天を差して紅梅一重なり
都会にも静寂ありけり浮寝鳥
弔電を二通送る日春寒し

観音の梅に目白の来る日和

浅草寺奥は静寂の梅の花

白梅や五重塔は朱色がち

のれそれのこの喉越しも春来る

梅便り雪の信濃の里からも

二〇一〇年一月
長き夜の日の出とともに漁船出る
朝の日に映える海面浮寝鳥
年毎に増える家族と初詣
家族持つ子らも揃ひてお正月

子ら帰り元の二人に早や三日

冬灯一つに一つある生活

水遣らぬやうに気をつけ室の蘭

水遣りは三月に一度室の蘭

玄関に置く大鉢や室の蘭

時折は外の日に当て室の蘭

室の蘭「冬のソナタ」と言ふ名なり

日当たりの良き家建てむ室の花

階段に手摺子よりのお年玉
羽織着た少女にも似て寒牡丹
江戸の世を屏風絵に見し餅の花
知る宿のけふは餅花飾られて
温泉の町の老舗大屋根大氷柱
どの宿も氷柱氷柱の草津かな
団子蒸す湯気棒立ちに軒氷柱
温泉の湯気にけむる草津の氷柱かな
乗初の飛機の白無垢富士指呼に
年賀状整理で終る初仕事
来ぬ人は如何に如何にと年賀状
鰤捌き三人の子にお裾分け
鰤大根母の味よと恋しさよ
数の子とごまめにて足る御節かな
雑煮餅歳の数てふ日の遠く
深々と雨滴置く瑠璃竜の玉
侘助のちぢこまりたる今朝の雨
山茶花のこはれるやうに散りにけり

紅白と咲き分く椿ありにけり

ひよどりの波を描ける飛行かな

高圧線垂るるが如くひよ飛べり

固まりて散らばりて咲き野水仙

どう見ても紐に見えねどかとの紐

黒胡麻のゼリーのやうなかとの紐

千万の生命の鼓動かとの紐

蝋梅の透けゆく空の青さかな

日当りへ傾ぎて咲けり蝋梅は

蝋梅の膨るる今朝の日差かな

遠のきてなほ蝋梅の香でありぬ

冬牡丹一輪二輪牡丹寺

厄落し頭巾のやうな菰被り

冬牡丹小振りなれども色も香も

鎌倉は八幡宮の寒牡丹

鎌倉は武家の都ぞ寒牡丹