遠藤和良が詠んだ今月の俳句です。

(徳島県 山城町)
「大歩危峡 谷の流れはひすい色」
撮影 三好和義 提供:阿波銀行

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二〇〇八年四月
黄沙来る北京の露天商をふと
黄沙降る日干し煉瓦の石畳
黄沙来る河北で植えた木は如何に
黄沙来る口の中まで黄沙来る

長城のけぶる果てより黄沙来る

蛇行する長城黄沙降り継げり

大砂漠痩せていくかも黄沙来る

紫禁城黄沙の底に鎮まれる

寝転んで富士見て居たし西行忌

辛夷咲く古いコートを脱ぎ捨てて

黄昏れて艶増す垂れ桜かな

仰ぎ見る垂れ桜の垂れやう

六義園垂れ桜に迎えられ
灯の入りて妖しきまでの糸桜
庭園に小峠ありぬ木五倍子咲く
そのかみの大名の庭木五倍子咲く
木五倍子咲く金の鎖を垂らしては
天辺は鳥の寝床や緑さす
はるかより辛夷の白のよく見えて
渕覆ひ尽くしてをりぬ桜かな
菜の花の河原に混じり花吹雪
菜の花の風に桜の舞い降りて
噴水のごとくにしだれ糸桜
咲き満てる花に目白の篭りづめ
鶯のよく鳴く日なり客なき日
縺れては解けて垂れて糸桜
江戸城址花見異国語交じりゐて
その奥に日差集めて著我咲けり
黄色ならゴッホゴーギャン濃山吹
麗らかや花鳥諷詠夢うつつ
大振りであれどたおやか石南花は
身構へることなく生きて雪柳
花馬酔木東京駅の街路にも
馬酔木咲く高田馬場はこのあたり
芽柳のやうにさらりと生きぬべし
芽柳のやうに自在に生きたかり
青柳さらりさらさらさらさらり
強風に傘を折られて虚子の忌へ
花御堂椿は虚子の好きな花
雨の日の桜こんなに紅きかな
芍薬の芽の明るさに立子ふと
桜蕊わたしも前期高齢者
春一番風車壊して駆け行けり
空港の午後はのどかや揚雲雀
滑走路まで蒲公英の競り出して
富士見えてふはりふはふは春の雲
小振りなる方もよく売れ桜鯛
この時期のこの店で買い桜鯛
内海の筏に釣れて桜鯛
スーパーの散らしの美しき桜鯛
桜鯛春告魚と売られをり
鼠木戸より花冷えの忍び入る
花冷えの風連れて入る鼠木戸

大江戸の春は知らねど金丸座

金比羅の春に落ち合ふ習ひかな

海老蔵の六方春愁吹き飛ばす

遅桜六甲山に入りにけり

天辺は雲に解け合ひ辛夷咲く

花冷に知る六甲の高さかな

摩耶山を下り遠足の子らに会ふ

遠足の子らハイキング追ひ越して

見下ろせば墨画の世界春の海

沖の船留まりて見え春の海

遠足の列伸び縮みしては行く

寄り添ひてをるもをらぬも二輪草

朝の日に金の簪木五倍子咲く

団塊のいづれも老のピクニック

団塊はけふも団塊ピクニック

団塊を追って団塊ピクニック

野遊びの衆の熟年ばかりかな

をのこよりをみなが元気野に遊ぶ

道標なき六甲の野に遊ぶ

尾瀬ならぬここは六甲水芭蕉

立金花ここに日差しの溢れをり

かたかごはいつも震へてをりにけり

日溜りに春竜胆の小さき紺

六甲を下り花水木咲く町へ

蕊らしきもの花らしき花水木

二〇〇八年三月
蜂須賀の墓所だだびろし梅の花
家祖の墓所東端にあり梅の園
豊臣家尊ぶ家祖の墓の梅
日を浴びて日曜市の木瓜の花

カタログの写真の美しき苗木買ふ

山独活の朝一番に売り切れて

産直の目立ちし旗に菊菜売る

緋も赤も白も達磨も目高かな

今日だけの特価の木札目高の子

目高の子錦鯉より高値なる

売り切れて急ぎて足しぬ桃の花

春塵や込み合うてゐる洗車場

春塵にワイパーの水枯れにけり
黄砂来て旧の木阿弥なる洗車
啓蟄や旅行案内どっと来て
穴出たる虫に嘴襲い来る
啓蟄や雲を抜けたる空の青
鴨引きて鵜の陣出来てをりにけり
三分咲き風に散りゆく花のあり
一本の桜に目白又目白
三分咲き蜂須賀桜とぞ申し
こんなにも蜂須賀桜紅きかな
鳥帰り煌く川のあるばかり
枝先へ先へとたわわ猫柳
猫柳鼠色とぞ申したり
白魚の天丼とあり注文す
梅林百齢の樹を真ん中に
幹太き開祖の梅の咲きっぷり
人散りて梅の香りも散りにけり
一山の目白を集め梅の里
梅日和茶屋の弁当よく売れて
梅の香の真ん中に居てお弁当
老梅と幼梅の相隣り合い
初蝶の大鐘楼をたもとおる
東京の遍路の真っ赤なる外車
啓蟄の蛙真白き肌をして
山の上の寺南向き百千鳥
大方は婦唱夫随と見ゆ遍路
葱坊主阿波国分寺里山に
格高き伽藍は昔梅の花
尻太く帰れぬ鴨となりしかも
残る鴨帰る鴨ゐて川流る
少し引きまた少し引き鴨帰る
鴨帰り四国三郎真っ平
徳島は島と洲の町春の水
地表より高き水位の春の里
ともかくも橋多き町水温む
岸の草均してをりぬ春の水
入漁料払うて入る蜆採
二〇〇八年二月
薄氷の絞り込みたる水面かな
目刺出てけふ節分と知る朝餉
節分の朝の目刺の藁を抜く
節分の阿波の山々雪化粧

満作や兄弟姉妹皆達者

淡雪に眉山をみなの如きかな

紅梅に宿りし雨滴紅仄か

雨に濡れ蝋梅の蝋透けにけり

目標は五キロ減量春立てり

フィットネスの足軽々と春立つ日

立春の光水面に行き渡り

立春の光遍く水面にも

春節も祝いめでたく日本にて
徳島で祝う春節領事来る
中国の友と春節にぎやかに
白梅の白の極まる空の青
ほこほこの田圃の土や梅探る
梅林は白一色の梅の里
遠目にも紅の濃き梅の里
行き交える人なき里の梅探る
この里も限界集落梅の花
手入れする人なくて野の梅の花
歩行者として隧道を梅探る
雨に濡れ石垣美しき迎春花
青石を積みし石垣迎春花
青石に影を散して迎春花
石垣の天辺よりの迎春花
雨の日の白梅紅の露こぼす
集会所前の老梅人集め
晴れに見て雨の日もよし梅の花
糠雨に寒紅梅の色増して
里人と一人も逢わず梅探る
野焼して高原丸くなりにけり
堤防に野次馬集め野火猛る
野兎走り人影走り野焼かな
風花の舞ひて祝の座中断す
風花の一片舞ひてそれっきり
絶品は絶品の顔雛人形
啓蟄や今年は何処へ行こうかな
恋猫の汚れやつれて帰りけり
猫の夫疲れ果てての歩きやう
恋猫の足取り重く重きかな
午後よりは半分閉じて犬ふぐり
犬ふぐりゴッホの墓へ続く径
ゴッホ見しこの地この景犬ふぐり
仰ぎ見る辛夷の空の青さかな
薔薇の芽に棘の出来てをりにけり
紅白の薔薇の芽の皆同じ赤
対岸の水仙ことに輝やきて
水仙の向き揃へたる日差かな
横綱の一日署長日脚伸ぶ
早春の阿波へ横綱一家かな
春一番横綱阿波へお国入り

近づきてまた遠ざかる春隣

噴水の水煌きて春来る

春菊の込み合うてゐる屋敷畑

胡麻和えに菊菜の香り残りけり

二〇〇八年一月
餅搗きの序破急となるリズムかな
一族のどっと来て去るお正月
家族皆打ち揃ひたる雑煮かな
平凡と云ふが幸せ今朝の春

東西の横綱からも年賀状

年賀状来ぬ人のこと気に掛かる

何もなきことが幸せお正月

健康を祈る賀状の多くなり

賀状見て電話をしたくなりにけり

鉢合せ又鉢合せして御慶

折ることの惜しき新札お年玉

大方は親に預けるお年玉

雑煮餅まづ食べる数聞きてより
雑煮餅お徴しのみに食ぶ時世
親と子と孫といただき雑煮餅
数の子を音立てて噛む嬉しさよ
元旦の夕餉のカレーライスかな
客帰り部屋改めて新年会
一椀のさ緑めでて薺粥
東京のホテルの卓の薺粥
乗初はいつもの飛機の違ふ席
乗初の飛行機機首を上げに上げ
馴染なる初タクシーの運転手
大山へ日帰りスキーするてふ子
背に肩に両手に荷物スキー客
スキー客一人タクシー揺れに揺れ
いつの間に隣空き地に野水仙
年毎に広がり群れて野水仙
水仙の一茎一花我が狭庭
吉野川橋に寒釣今朝も居て
いつ見ても寒鰡釣の釣れて居ず
寒釣の男無口でありにけり
寒釣の寒の修行と云いながら
用意せし春著今年も着ず仕舞
春著着て童をみなのごとくあり
凍蝶の翅まで凍てて閉ぢしまま
冬蝶の翅ささくれてをりにけり
凍蝶の森の土へと還る夜
玄関に羽子板飾り置きてあり
盛花に羽子と羽子板添へられて
羽子板と紅白の羽子玄関に
蝋梅の盛花の香の籠に溢れ
盛花の蝋梅の香の部屋満たす
外つ国の子も来る浦のどんとかな
寒稽古終へて血圧正常値
弟子よりも師匠の気合寒稽古
一本の声弾みたり寒稽古
道場に湯気立ち上り寒稽古
梅探す即ち春を探しをり
崖や谷上り下りして梅探る
泥濘の道を往き来し梅探る
八角はやさしき御堂梅の花
蝋梅の荷台に乗せてあり出荷

日当りて蝋梅の金極めたる

薄氷の皺みてをりし水面かな

枇杷咲いて安政の字の遍路墓

薄氷の水面絞りて張りにけり

日当りてこそ蝋梅の色も香も