随筆49 「のどかなウチノ海のアジ釣り

 急流逆巻く鳴門海峡のすぐ隣に、鏡のように静かな内海がある。ウチノ海である。本四道路からも眺められるが、私は、かつての有料道路の頂上付近からの眺望が好きだ。ことに夕陽のころは絶景である。
 金波、銀波のたなびく穏やかな海に、行く船もイカダ船にいる釣り人の姿もほとんど動かない。絵のような風景が眼下に広がっている。  県外からのお客様がくると、私はよく、ここに案内する。「素晴らしいところですね。こんなところでのんびり釣りのできる徳島の人はうらやましい」と口をそろえたようにいわれる。
 私自身も1回だけ、家族でイカダからの釣りを楽しんだことがある。子供達がまだ小さいころだったが、知り合いの船頭さんに頼んで連れていってもらった。「2時間しかないんです。必ず釣れるところにお願いします」無理な注文かと思ったが、思い切って言うと潮焼けしたほおをほころばせながら「わかった。わかった。任せなさい」
 イカダに乗って、サオを入れると、いきなり、ピリピリと魚信がする。引き上げると、小さなアジが5、6匹かかっている。そんな調子で、まさに入れ食いである。子供達はもちろん、妻までもきゃあきゃあいいながら、無我夢中で釣りに熱中した。
 石田幸四郎さんが、公明党委員長だったころ、徳島で記念講演会や時局講演会を行い、二泊三日滞在してもらったことがある。全ての行事が終わり、飛行機を待つ時間を利用して、イカダ釣りに案内したことがある。 「よし、行こう」大きな身体だが、決断は速い。後援会の方が用意して下さった船に身も軽々と乗り込まれた。
 このときもアジがまさに入れ食いだった。東京から来たSPさんからも、秘書の人達からも徳島はいい所でしたとあとで御礼をいわれた。釣ったアジは大きなクーラーに詰めて持って帰ってもらったのだが、委員長の奥様が全てを料理され、皆さんにふるまわれたとあとで聞いた。
 徳島に返却されたクーラーには、委員長からの御礼状とともに「虎屋の羊かん」が一杯つまっていた。