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随筆56 「漆黒の山里に光の海」
冬の陽は短い。午後7時ともなれば、山里では漆黒に包まれる。
星が美しい。手が届くほど近くに見える。“あと一時間、今日も最後の一秒まで全力で頑張ろう”遊説隊のメンバーが、気を引き締めた瞬間、誰れかが叫んだ。「あれっ!見てっ!動いとる。光が。グルグル回っとる」。「あそこにも。向こうにも。スッゴイッ。光の海だわ」。
光の海が近づくにつれて、歓声は感動に変わった。光は、一軒一軒の農家の人達が、私達を歓迎するために懐中電灯をグルグル回してくれていたのだった。
寒風の吹きすさぶ戸外で、ずっと待ち続けて下さっていたのだろう。握手すると、どの手も氷のように冷たい。けれどもどの顔もはちきれんばかりの笑顔。どの家の中からも家族が飛び出してくる。どの家からも懐中電灯や大きなタオルをグルグル回して声援を送ってくれる。
「ありがとうございます。本当にありがとうございます」私も、遊説隊のメンバーもいつか、汗びっしょりになっていた。涙がとまらなかった。 「最高の遊説でした」「こんなに感動したことはありません」。午後8時、マイクを収めると、遊説隊のメンバーは抱き合って喜び合った。
池田町から山越えで井川町に向かう途中、池田町影野での思い出深い光景である。十数年を経た今も、鮮明に私の目に焼き付いている。
衆議院選挙が終わったあと、私は当選の御礼に伺った。半年が過ぎ、茶摘みの季節となっていた。影野の人達は総出で茶畑に出ていた。私の姿を見つけると、あの日と同じように大きなタオルをグルグル回して「ここだ。ここだ。ここにいるよ」と教えてくれた。私は走った。思いっきり、山道を駆け登った。全員の皆さんが「おめでとう」と駆け寄ってくれた。
「記念写真をとりましょう」そんな私の呼びかけに、皆さん本当に素晴らしい笑顔でカメラに収まってくれた。私は出来あがった写真を大きく引き伸ばして、一人一人に差し上げた。「いい記念にします。また来て下さい」そんな返事に添えて、新茶が届いた。影野の皆さんの真心を私は永遠に忘れまい。
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