随筆62 「たらいうどんと三木武夫さん」

 鴨島町から土成町を抜け、香川県白鳥町に至る国道318号は県境に鵜田尾トンネルが開通してずいぶん便利になった。私もよく利用させていただいているが、奥宮川内の渓谷は四季おりおりに豊かな表情を見せてくれる。春は桜並木がダムの湖畔に万朶のにぎわい。秋は満山紅葉に染まる。
 この渓谷沿いにたらいうどんの店が建ち並んでいる。大きなタライを囲んで、渓谷の景色を楽しみながら、アツアツのうどんに舌つづみを打つのは、まことに野趣に富んでいる。
 農繁期は、昼ごはんに家に帰る時間がない。野良でうどんをつくって、みんなで食べた。それがたらいうどんの起源だという。だから、大勢で食べるほどおいしい。昔は、宮川内谷川にたくさんいたジンゾクという小魚からダシを取ったが、今はカツオ節からとる。
 平成10年7月、三木武夫さんの長女・高橋紀世子さんが参議院選挙に出馬したとき、土成町の方々が選挙事務所でよくたらいうどんを作ってくださった。大きなカマドを作り、大きなナベで、びっくりするほどのうどんをゆで、たらいうどんにしてくれた。私も大勢の皆さんと一緒にいただいたが素朴な味は毎日食べてもあきなかった。
 この選挙で、私は選挙事務長をつとめたのだが、高橋紀世子さんは初出馬ながら164,544票を獲得し、見事当選した。土成町の皆さんの喜びはことのほか大きかった。町長さんはその日のうちに三木武夫さんの立像に報告に行ったという。
 土成公園に立つこの立像には私も思い出がある。除幕式は平成5年4月4日行われ私も出席した。三木武夫さんと私は昭和55年、昭和58年、昭和62年、と三回の選挙を互いに候補者として戦ったが、いつも厳しさの中に暖かさを秘めておられて、遊説車や立会演説会でお会いすると「頑張りなさいよ」と声をかけて下さった。立像をみると私の目にはそんな三木武夫さんの姿が二重写しになる。
 新進党の時代は、党首が海部俊樹さんだったこともあり、よく徳島に来ていただいた。そのたびにこの立像の前で街頭演説会をしたり、すぐ近くにある三木武夫さんのお墓参りをした。いつも住職が丁重に案内して下さったことを思い出す。
 高橋紀世子さんとのご縁で、南平台や土成の御自宅に伺い、三木武夫さんの書や絵、夫人の睦子さんが作った焼き物などを鑑賞しながら政治のこと人生のことなどいろいろ懇談させていただいたこともあった。それにしても、念願の当選を果たしながら、クモ膜下出血に倒れた紀世子さん。今はリハビリに専念されていると聞くが、一日も早く回復され、政治活動に復帰できるよう心から祈っている。