今月の俳句

2019年10月

草刈られそそり立ちゐる曼珠沙華

道の辺に石掻き分けて曼珠沙華

ひょろひょろと四五本ありし曼珠沙華

読経の鈴澄む秋の遍路かな

秋の日に色美しき道をしへ

小さくともこの色確か藤袴

山寺はあそこにここに曼珠沙華

赤蜻蛉来て鬼やんま来る小流れに

吾亦紅山ほど咲けど寂しかり

吾亦紅ばかりといふは哀れなる

犇めきて咲けど寂しき吾亦紅

吾亦紅見上げ榛名の山仰ぐ

山ほどの吾亦紅活け山の宿

生花の中の桔梗の凛として

よく見れば黄色なれども曼珠沙華

咲き続くハイビスカスに朝の露

秋の日のハイビスカスの花の色

桃咲く藁家出でて幾年夢道の忌

一つづつ齢重ね合ひ夢道の忌

健やかなお顔の揃ひ夢道の忌

お月見をして来し月のリスボンに

爽やかな風来る高架鉄道に

古都の川染めゆく秋の夕焼かな

月の夜のポルトの街の明るさよ

ワイナリー巡ればそぞろ寒くなる

澄む水にワイン運びし舟浮かぶ

焼栗の香に誘はるる屋台かな

水青く秋空青き古都なりし

古都の空キャンパスにして鰯雲

丸焼きの鰯旨かり鰯雲

爽やかな青いタイルの駅なりし

秋の旅タイルの描く歴史も見

大学の街は白亜や秋高し

金平糖生まれし街に秋惜しむ

伝統のダンスも見たる秋の旅

秋空に子らの歓声届きさう

姉妹都市日本にありと菊植ゑて

レイリアに古城ありけり秋高し

娘に母と名乗れぬ辛さ身にぞ入む

身に入みる話に国境なかりしと

ジャカランタ帰り咲きをり遠目にも

刑務所に帰り咲きゐるジャカランタ

リスボンは坂多き街秋深し

坂上がり秋の風吹く高台へ

モラエスの旧居も訪ね秋深し

モラエスの旧居に冬日暖かく

招かるる大使公邸秋麗

圧巻は大西洋の黒鮪

リスボンの空の青さよ鰯雲

秋の日に赤い煉瓦の美しく

行く秋や観光客の絶え間なく

教会のばったの像に冬日濃し

霧晴れてここは地の果てロカ岬

ユーラシア大陸果てて冬の波

航海王子エンリケの像秋高し

秋晴や大航海の勇者像

街灯の暗きリスボン冬近し

夜の更けてコートの客の多くなる

飛機の窓よりヒマラヤの雪も見て

ヒマラヤの氷河も飛機の窓に見て

二十五種の野菊や牧野植物園

虚子歩しし小諸の径の野菊かな

あれもこれも一絡げして野菊てふ

野菊摘み花束にしてくれし子よ

踏まれしか節くれ曲がり咲く野菊

百一歳野菊の如く嫋やかに

野菊にもそれぞれ名前あるものを

長浜を舟で巡れば葦の花

蘆原でなく葭原と云ふさうな

時代劇映画のロケ地蘆の花

滔々と四国三郎蘆の花

見え隠れして来る遍路蘆の花

肉を食ぶことも私の冬用意

床暖房試してみるも冬用意

2019年9月

鮎落ちて仕舞ひたるかと川巡る

竿出さず鮎の川去る釣師かな

秋風の四国三郎渡り来る

法師蝉鳴きぬ学校始まるぞ

城址はや昼の虫鳴くたたづまひ

蝉の穴ばかり残りてゐる城址

秋風の中洲の砂の白さかな

青竹を根ごと流せし秋出水

橋脚に根ごとの竹や秋出水

晴天の二百十日でありにけり

ミストある野外劇場蜻蛉も来

馬追の陣取ってゐる御宝前

裏山もつくつくぼふしばかりなる

雲高き空よ九月の青空よ

九月かな展覧会を梯子して

異国船阿波へ来してふ鰯雲

噴水の上がり園内鎮もれる

噴水の穂先に高し鱗雲

秋潮の鳴門の渦の青さかな

小鳴門の渡船揺さ振る秋の潮

音立てて秋潮流れ落つ鳴門

瀬戸内に藍色の帯秋の潮

立札は小学校の藷畑

市庁舎の屋上子らの藷畑

藷を掘るこの子の顔も泥まみれ

おねばなる間引菜漬は阿波の味

つまみ食ひ旨かりしごと間引菜も

間引菜のための手作り菜園と

間引せぬものなき間引菜の畑

捨てをきし金魚の水の澄んでをり

神田にたまりし水の澄みし宮

掘割の水澄み鯉の髭動く

野に火矢の刺さりし如く曼珠沙華

赤壁の火矢のやうなる曼珠沙華

天皇もこの曼珠沙華見に来しと

群れ咲きて娑婆即浄土曼珠沙華

穴まどひせずにこの穴入られよ

穴まどひゐしてふあたり抜き足で

穴多き宮の石垣穴まどひ

虫聞きて停電の夜を過ごせしと

聞かせたし停電の夜の虫の音と

停電の夜の虫の音を聞かれしと

停電の夜の七曜を虫の音と

虫すだく停電の夜は一入に

九月来て咲き始めたる百日紅

百日紅ようやく咲きし我が狭庭

名月の照らす鳴門の海静か

正面に芒と団子月を待つ

お下がりの月見団子の柔らかく

上り初めたる名月の大きさよ

金色に海峡初めて上る月

金色の鳴門海峡今日の月

山峡にさ緑まぶし竹の春

街中に秋の風吹く大伽藍

大伽藍巡ればそよと風は秋

新涼の日本最古の寺静か

秋空を仰ぎ五重塔仰ぐ

虫すだくアベノハルカス屋上に

屋上に庭園のあり虫すだく

屋上の庭に紫式部かな

十六夜の今宵上方舞の宴

山村流宗家の舞や月の宴

月を観て翁の月の句碑を見る

一隅に小さき句碑あり虫すだく

寺巡り腰を下ろせば風は秋

石庭の砂真白なり赤蜻蛉

ちちろ鳴く表御殿の庭園に

藩祖像前に銀杏散らばれる

銀杏を拾ひゆかれと火ばさみも

台風の来さうな空に郁子垂るる

郁子の実を一つ見つけば十四五も

先付に無花果天といふ鮨屋

万国旗なき順延の運動会

運動会一番人気阿波踊

阿波なれや運動会も阿波踊

2019年8月

梅雨明けの空青々と清々し

青空を待ちかねしごと蝉時雨

蝉時雨とはこんなにもけたたまし

朝よりの大音響や蝉時雨

玄関の松を揺るがせ鳴ける蝉

薔薇の根を切るはこれなる空蝉か

玄関の松に空蝉しがみつき

帰省子の庭で採れたと酢橘持ち

旨さうな土用の丑の日の鰻

焼きたての土用の丑の日の鰻

さうな散らし丑の日の鰻

蛇ゐしといふあたりまでこはごはと

噴水の上がりはじめの涼しさよ

蚊遣火の香の四阿に残りをり

蝉時雨止みせせらぎの園となる

蝉までも鳴くを止めゐる酷暑かな

青空に陣取り合ひて雲の峰

雲の上の雲光りをり雲の峰

先端は今生れしごと雲の峰

雷に泣く子逃げる子戸惑ふ子

雷鳴に青空消えてしまひけり

平凡に生きる幸せ冷奴

半丁で二人の暮らし冷奴

家毎に芙蓉の咲ける里に住む

玉葱の小屋は空っぽ青田風

一番のAは冷房よく効いて

夏の旅帽子もシャツの靴も白

豊葦原瑞穂の国へ稲の花

丹念にまぶしたるごと稲の花

稲の花咲ける美田の続く国

一粒におしべめしべや稲の花

帰省子の先づ一番に墓参へと

父母のこと知らぬ孫らも墓洗ふ

鎌倉の路地に朝顔さかりかな

虚子立子実朝政子へと墓参

夕顔に入日まぶしくありにけり

夕顔の地味でありたる気品かな

夕顔の花は落暉の後も咲き

夕顔や揃ひて元気孫八人

踊り果て静かなる街盆の月

父母も弟も逝き盆の月

嵐来る前の静けさ盆の月

太陽に勢増す赤百日紅

青空に際立つ赤や百日紅

灼熱の街に色あり百日紅

ピアノあるホテルのロビー胡蝶蘭

片蔭に楽器の街のモニュメント

地下街に噴水のある涼しさよ

駅頭に木槿高々花つけて

入る西日待ちて始まるフェスティバル

夏の夜の夢のやうなるフェスティバル

台風が来る前の日の空の青

テントより野外のライブ楽しまん

野良に出ることが楽しみ大根蒔く

職退きて早十五年大根蒔く

産直の市に出すとて大根蒔く

金時の砂地の畑に大根蒔く

辣韭の畑の隣に大根蒔く

法師蝉そんなに急ぎ鳴かずとも

午後からはつくつくぼふしばかり鳴く

吾子の手の小さき花束赤のまま

藍畑の畔埋め尽くし赤のまま

国境は野の中にあり赤のまま

中世の城の庭にも赤のまま

たっぷりの大豆が自慢新豆腐

ほのかなる大豆の香り新豆腐

絹ごしも木綿も旨し新豆腐

暴風雨去りて揚羽の我が庭に

夏雲を脇に秋雲広がれる

白鷺は暑くないのか日を真面

人間は木蔭に鷺は炎天に

生まれ出し穴のまはりに死せる蝉

木の蔭に寄り添ふごとく死せる蝉

落蝉のも一度幹を上らんと

暴風雨去りたる空に郁子垂るる

蔓伝ひ見れば郁子の実五つ六つ

城址はやつくつくぼふしばかり鳴く

法師蝉ばかりとなりて聞こえ来る

城山の北は搦手つくつくし

琉球は午睡の時刻花梯梧

海紅豆阿波は南国城址にも

のうぜんの昨日も今日も花盛り

のうぜんの下向きに咲く花の色

夏物に八割引の赤い札

夏物を八割引と愛想よく

鮎を釣る釣るといふより引っ掛ける

崖の上に立ちて五体を秋風に

幾度も眺めて帰る鮎の川

尻振っていよよ熊蝉らしく鳴く

後退りしつつも蝉の鳴き続け

一匹で大樹揺るがす蝉の声

みはるかすほどなる中洲豊の秋

名前なき異人の墓に秋の風

露の世の韓のをみなの墓小さき

2019年7月

葉柳の雨情の歌碑を覆ふほど

百選の水の公園濃紫陽花

百選の水を韋駄天水馬

百選の清水乗っ取り水馬

名水を我が物顔に水馬

水弾き水を蹴飛ばし水馬

藻の花のさ揺るる流れありにけり

清水来るゆらりゆらゆら青みどろ

待ちかねし梅雨に早苗の生き生きと

入梅の日に生まれたる目高の子

子蛙となり入梅の日を迎ふ

梅雨に入り令和初なる台風も

台風も連れて徳島梅雨に入る

史上初六月末の梅雨入りぞ

青空となれどねっとり梅雨の風

七曜の傘のマークに埋まる梅雨

リスボンの生家眼裏モラエス忌

坂の上の生家も訪ねモラエス忌

孤愁なるファドの余韻よモラエス忌

ファド聴けば募る孤愁よモラエス忌

七輪で鰯焼きたしモラエス忌

鰯焼く香の残る路地モラエス忌

赤ワイン羊羹如何モラエス忌

リスボンへ今年も行かんモラエス忌

七夕の笹に満艦飾の夢

子らの夢七夕の笹撓らせて

黒潮の島の渡船場浜万年青

浜木綿の花咲く島の小学校

会釈する互ひに日傘傾けて

雨傘の日傘となりぬ旅の空

先導のガイド日傘を高々と

門前に待ち構へをり道をしへ

振り返りまた振り返り道をしへ

道をしへぷいと道逸れそれっきり

先とがる白靴履きてどこへ行こ

ローマへの煉瓦の道を白靴で

真白なるクルーズ船に白靴で

白靴を履けば心の引き締まる

日盛の真白きシャツのまぶしさよ

日盛は午睡しましょよここは那覇

日盛に塩舐め塩を作りしと

刻止まりをりし蓮田や日の盛り

国宝の城の茶店の心太

三千院茶屋に床几や心太

一本の箸に掬ひて心太

涼しき灯点る貴船の川床に

黄昏の早き鞍馬の灯の涼し

祖谷も奥早々点る灯の涼し

おふくろよおやじよと呼ぶ帰省子よ

愛知より自家製酢橘持ち来し子

愛知より自家製酢橘持ち帰省

愛知より庭で採れたと酢橘来る

酢橘来る庭で採れたと愛知より

帰省子で我が家現在十六人

来て嬉し去にてほっとす帰省の子

雨を呼ぶアガパンサスの花の色

梅雨晴れてアガパンサスの花青く

街頭に始まってゐる阿波踊

待ちきれぬ踊る阿呆に見る阿呆

保険料のみNPОの船遊

土砂降りに遊船出してくれる人

雨傘を差せどびしょ濡れ船遊

びしょ濡れの遊船皆の見てをりぬ

川変り雨風荒ぶ船遊

土砂降りの止めば御仕舞船遊

船遊終り太陽顔を出す

土砂降りの止み鴨の子の出で来たる

御仕舞になりて雨止む船遊

2019年6月

仙人掌の一日限りの花の艶

仙人掌の予兆もなしに咲きし花

捨て置きし仙人掌に花美しく

純白の一日限りの沙羅の花

落花して咲きゐしを知る沙羅の花

葉に隠れ白つつましき沙羅の花

落ちてなほ白のまばゆき沙羅の花

庭の百合咲いて伊島へ百合を見に

伊島へと渡る日に鳴く雨蛙

百合の香の沖ゆく船に届きしと

船にまで伊島の百合の香の来しと

笹百合の白とピンクの並び咲き

日向なる伊島笹百合丈低し

絶海の孤島の百合の可憐さよ

崖に咲く笹百合の香の降りてくる

百合咲いて狭庭にはかに華やぎぬ

十薬の犇めく庭に百合の花

露霧の彼方に富士の浮かぶ海

鍛錬の御苑の馬車に風涼し

いよいよに艶やかなりし汗の馬

雨模様なる日生き生き菖蒲園

九分咲いて盛りなりけり花菖蒲

巡り来てやはり紫花菖蒲

濃き淡き紫並ぶ菖蒲園

傾ぐもの一つとてなき菖蒲園

揺るるもの一つとてなき菖蒲園

清らかな水や御苑の菖蒲園

御苑かな塵一つなき菖蒲園

九分咲きも二分咲きも好し花菖蒲

その中に際立てる白花菖蒲

色競ひいずれも清楚花菖蒲

清楚なる色や御苑の花菖蒲

外つ国の人と御苑の菖蒲園

外つ国の言葉飛び交ふ菖蒲園

御苑より涼しき風に送られて

国会の庭に涼風吹き抜けて

琉球のパイナップルの大きさよ

琉球の太陽の香のパインかな

一斗缶で送りくれたる海雲かな

琉球の海雲どうぞと一斗缶で

蟻上る鼠返しも何のその

高床式倉庫の下の涼しさよ

泰山木仕舞の花の大きかり

匂ひ来て仰げばそこに栗の花

古代米植ゑありし田の菖蒲田に

ほととぎす鳴かぬ鳴かぬと待てば鳴く

阿波ここに始まる史跡ほととぎす

立葵阿波の史跡の里に咲く

天辺へ天辺へ花立葵

雨来さうななる日の色よ濃紫陽花

一隅にありても主役濃紫陽花

郭公の阿波の史跡の森に鳴く

閑古鳥鳴ける里山人気なく

郭公よ時鳥よと聞き惚れて

母の日の半分父の日の売場

父の日の買ひたきもののなき売場

父の日の特設売場客一人

水換へし目高の鉢に花藻かな

ででむしの干乾びてゐる梅雨旱

菖蒲田の乾き切ったる梅雨旱

父の日の看板小さき花屋かな

かんかん帽かぶり私も笠智衆

梅雨入りのまだなる阿波に梅雨嵐

土砂降りの昼暗き街梅雨嵐

梅雨嵐来て梅雨入りはまだの阿波

鷺巣立つ仰け反り仰ぐ高木に

高き巣に鷺の子のゐて羽ばたける

名刹の参道青葉さざめける

万緑を一門二門三門と

ほととぎすけふ誕生日なる君に

五月晴観音様もお健やか

白鷺も青鷺も来て巣立つ寺

早も実をつけて真っ赤な花石榴

木豇豆の重たげに垂る梅雨の寺

北欧の明るき夏至の夜の祭

北欧は御伽の国か夏至祭

夏至祭のファイアストーム眼裏に

母と編むクロス売る娘の夏至祭

下闇の果てに秀頼自刃の地

木下闇抜け出て仰ぐ天守閣

木下闇とはひんやりと風の来る

空梅雨のスプリンクラー休みなし

師の句碑の見えざるほどの茂りかな

ふっくらと茂り眉山はけふも雨

ふっくらと茂り眉山は雨模様

原生林茂る城山徳島市

ホルトの樹茂る城山徳島市

灯を消して網戸の夜風存分に

部屋中を網戸に障子開け放ち

風のよく通る二階の網戸かな

お隣のカレーの匂ふ網戸の夜

網戸より朝の空気を腹一杯

水馬の脚よ表面張力よ

水馬水面韋駄天走りして

水馬水面凹ませ浮かびをり

読み切れぬ泰山木の花の数

高々と泰山木の花遥か

清水湧くところ見えねど流れ見え

涸れないで暮潮の句碑の草清水

2019年5月

真白とは気高き色よ薔薇の花

校門に白い薔薇咲く我が母校

関口と名付けし薔薇の咲く母校

牡丹の残花に残るの昨夜の雨

平成の御世を見届け牡丹散る

咲き続く矢来の中の牡丹かな

地の牡丹散り鉢植の咲き続く

牡丹散りあやめの色の際立ちぬ

あやめ咲く寺となりゐし牡丹寺

遍路来る苗代寒に身をすくめ

退位の日いつものやうに遍路来る

平成を草餅売りで通せしと

牡丹散り果て平成の世の終る

庫裏裏へ小手鞠の花咲ける道

木戸口を入れば小手鞠咲き満ちて

張る水に影を映してあやめ咲く

水田の畔に群れ咲くあやめかな

ゆったりと舟ゆったりと糸柳

両岸に川端柳続く町

雨上がり躑躅の色の際立ちぬ

貫禄の大球形の躑躅かな

中庭に小手鞠の咲く茶房かな

黒塀に小手鞠の白極まりぬ

海鼠壁並ぶ川端青柳

風止めど揺れの止まらぬ柳かな

大渦に行きつ戻りつ観潮船

春潮を蹴立て観潮船の行く

観潮の船のデッキに人あふれ

渦潮に流されもして観潮船

大渦の際の際まで観潮船

遠州の新茶早々届く朝

五十五年前なる上司より新茶

石松の遠州森の新茶とか

遠州の遠き日偲び新茶汲む

送り下されし新茶のこの甘さ

新茶汲む一滴たりとこぼさずに

茄子苗や茄子に無駄花なしと聞く

茄子苗を植ゑし遠き日暑かった

薔薇園のどっと寄せ来る香りかな

雨模様なる日の薔薇の瑞々し

赤が好き白はなほ好き薔薇の花

小振りなる薔薇は犇めくやうに咲き

大振りの薔薇は視線を集め咲く

可憐なる薔薇にも棘はありにけり

赤という色の多彩さ薔薇の花

黄色とは際立てる色薔薇の花

香の強き薔薇の周りに人の垣

薔薇園にバラ科の花の浜茄子も

花も葉も光り泰山木茂る

仰ぎ読む泰山木の花の数

読み切れぬ泰山木の花の数

江戸城の跡に泰山木の花

散り散りの泰山木の落花かな

雨上がり泰山木の花匂ふ

授粉して袋掛けして疲れ果て

袋掛待つ梨畑のひろびろと

犇めける白に始まる七変化

紫陽花の葉蔭に隠れ蝸牛

鶯に囃されるかに河鹿鳴く

河鹿鳴き止みて瀬音の高まりぬ

鶯の鳴き止むを待ち河鹿鳴く

河鹿鳴く正体見たり石の上に

朝乃山の如き勢ひ今年竹

群れ咲きて赤美しき蛇苺

ルビー玉撒きたるやうに蛇苺

いきなりの平幕優勝今年竹

子燕や巣より落ちゐし餌の蜻蛉

竹林に一番高き今年竹

2019年4月

パンジーの坂を登ればホテルかな

手入よきパンジーの色生き生きと

日の陰りても美しきシクラメン

深紅とは落ち着きし色シクラメン

展示会開催中と雛飾る

阿波おどり会館ロビーにも雛

泣きさうなお顔の雛も飾られて

プリムラと呼ばずに桜草と呼ぶ

桜草引き立ててゐる葉の緑

寄せられし三万体の雛飾る

雛の顔一つに一つ思い出が

一世紀前の古雛にある風雅

昭和初期なるは良き世と雛の顔

泣きそうなお顔の雛は熊手持ち

仕丁なる雛にお一人泣き上戸

戻り来て古巣リフォームする燕

燕の巣ばかり賑やかなる町に

燕の巣続く駅前アーケード

軒下の古巣の横に燕の巣

手の届きさうな軒にも燕の巣

店頭のテントの軒も燕の巣

列成して燕の巣ある道の駅

空家の増え燕の巣増えし里

燕の巣ばかり混み合ふアーケード

斜交ひに鋭く切りてする挿木

挿木して指折り数へ待つ根付き

日本一しだれ桜を咲かさんと

咲き満てるしだれ桜の艶やかさ

鶯もしだれ桜も飽きるほど

葉の出でて咲き初むしだれ桜かな

遅咲きのしだれ桜のピンク濃き

お花見の世間話の途切れなく

桜見て山の出湯に入りもして

桜咲く道来て桜咲く宿へ

万葉の桜の歌のこれっきり

春闌けて万葉の世の桜かな

平成の御代の最後の花見かな

遅れ来て歩きて登る花の山

急かされてゐるが如くに桜散る

鶯は背より燕は目の前を

仰向けに寝て春風の中にゐる

仏の座花壇一面埋め尽くし

花冷えに丸太の椅子の温かく

歩きゐてこそ文字摺に出合へたる

文字摺りの花にほのかな青さかな

戦争のなき世永遠にと桜見る

投票を終えて花見の輪の中に

桜散る校門くぐり投票へ

蒲公英と桜が色を競ひ合ふ

犇めきて咲きてゐてこそ芝桜

春の来て色美しき公園に

桜散る園に文字摺群れ咲きて

効能を書きある甘茶くだされし

洋花と和花取り混ぜ花御堂

ホワイトライオンなる水仙も花御堂

花御堂花材十五種書き連ね

糖尿によいと甘茶をいただきし

花御堂庭の椿も添へられて

花御堂甘茶仏には大御殿

花御堂仰げば香り降りてくる

青空へ桜吹雪の吸ひ込まれ

はるかにも残雪の富士くっきりと

真白なる富士の残雪輝きて

六百年しだれ咲き継ぐ大桜

貫禄の秩父のしだれ桜かな

晴男自負の総理と桜見る

晴天となりお花見の盛り上がる

観桜会終り始まるお花見も

チューリップ群れて咲き満つ園広し

原色といふ美しき色チューリップ

真白とは際立てる色チューリップ

庭園の果ての果てまでチューリップ

花屑の流るる岸辺チューリップ

咲き満てるこの迫力はチューリップ

チューリップ園誰も彼もがカメラ持ち

木の茂る丘を敷き詰めチューリップ

川面にも色を映してチューリップ

ムスカリと色競ふごとチューリップ

手入よき筍山に案内され

急斜面多き筍山登る

筍の山竹の葉のよく滑る

筍のあそこにここに頭出し

筍の断崖にまで頭出し

筍を掘る足元に筍が

筍の根元掘り出し鍬を打つ

一鍬ですくと筍掘り出され

とれとれの筍に蟻早も来て

筍の麻の袋に押し込まれ

とれとれの筍焼けば甘かりし

筍のバーベキューもし鶯も

お土産の筍糠も添へられて

声のして浦島草を見つけしと

腰蓑のやうな浦島草の葉よ

あっち向きこっち向く花浦島草

長過ぎる浦島草の釣糸ぞ

そこらぢゅう浦島草の花の森

可憐なる花よ地獄の釜の蓋

目高なら釣れさう浦島草の糸

葉を傘のやうに浦島草の花

ちょこちょこと頬白白をちらつかせ

鶯を飽きるほど聞く躑躅山

舌落ちし雪洞並ぶ躑躅山

潮引けば繋がる小島磯遊

磯遊して里人と迎へられ

春灯の道後をそぞろ歩きけり

春灯の道後はことに華やぎて

2019年3月

千年の大楠に添ふ藪椿

仰ぎ見る椿の花の高さかな

長塀の旧家の庭のヒヤシンス

小さくともはや小花つけヒヤシンス

三代の大中小の雛飾る

雛人形三万体の来し方を

御殿雛飾りし昭和遠くなる

麗らかや写楽の墓は阿波へ向き

阿波へ向く写楽の墓に初桜

蜂須賀桜写楽の墓に咲き初めし

ホワイトデーへもバレンタインのチョコ並べ

スプリングセールカラフルビューティフル

花冷の風連れ鼠木戸くぐる

花を見て芝翫の宗五郎も見て

啓蟄や旅行案内どっと来る

啓蟄や地球の外へ出てみたし

啓蟄を逃さぬ鷺のぎょろ目かな

ふっくらと膨らむ眉山笑ふかに

鍬振るふ人ふところに山笑ふ

はりつけにあらず穏やかなる寝釈迦

遊行なされし寝釈迦大きな御足

涅槃絵の獅子象猫も鳥も泣き

涅槃会の寝釈迦安らかなるお顔

千年の樟の大樹の新芽かな

芽吹くとは一山の木々悉く

芽吹く音聞こえて来さう朝の森

お彼岸にゴッホの墓に参りし日

子規の母言ふごと伊予は彼岸寒

伊予にあり阿波にもありし彼岸寒

鴨帰る帰れぬ鴨かよく太り

大川の鴨真っ先に帰りたる

旋回の次第に高く帰る鳥

大陣を張りゐし鴨の先づ帰る

外つ国の酢漿草咲ける春の庭

酢漿草の春の光に輝ける

苗代は作らず苗を買ふと言ふ

片仮名の苗札ばかり薔薇の花

薔薇園の苗札どれも写真付け

花付けし木には苗札付けずとも

春泥で遊ぶ子泥が大好きと

春泥を付けずに帰る日のなき子

春泥を水で落として洗濯す

蜂須賀の世より伝はる桜咲く

咲き満ちて蜂須賀桜紅殊に

一本の桜に人の押し寄せて

和装して武家屋敷へとお花見に

青空にピンクまぶしき初桜

菜の花の庭に大きな桜咲く

桜見て日本舞踊もお抹茶も

俯きて咲ける蜂須賀桜かな

花の紅幹黒ければいよいよに

焼夷弾落ちし跡にも桜散る

花吹雪武家の屋敷の茶席まで

上品なピンク蜂須賀桜らし

雨の日の蜂須賀桜真っ赤なる

雨の日は蜂須賀桜垂れ咲く

雨降ればいよいよ赤き紅桜

蜂須賀桜咲けば市長も知事も来て

川縁に桜並木の美しく

花冷えに熱き善哉ありがたく

青空に白木蓮のくっきりと

天へ向く白木蓮の一斉に

葉桜も赤き蜂須賀桜かな

みそさざい来てひよめじろ来る桜

ベトナムの子も大好きとこの桜

植樹せし桜がこんなトンネルを

連勝の横綱植ゑしこの桜

横綱の白鵬植ゑし桜咲く

城址へと蜂須賀桜並び咲く

葉も花も赤き蜂須賀桜かな

遠くから見ても確かにパンジーと

日当たりてさらにパンジーらしくなる

まばゆかり雨後の日差の金盞花

菜の花の畑の中に幼稚園

三番叟で始まる宴春の昼

式三番より春昼の宴となる

徳島で大使と宴春の昼

春昼の宴大使をお迎へし

お彼岸の道後をみなの春祭

湯の町のをみなばかりの春祭

芽柳や道後湯の町人力車

芽柳の広場に足湯ある道後

春祭をみなの太鼓小気味好く

踊り子の列長々と春の宵

宿浴衣踊浴衣について行く

春宵の路地練り歩く芸者衆

道後温泉本館指呼に燕の巣

桜咲く高速道のオアシスに

菜の花の土手来て桜咲く丘に

鶯を背にし桜を前にして

ふんはりと浮かぶ白雲春の空

しだれ咲く桜のこんなにも赤き

日の差して桜の色の引き締まる

地に垂れてなほもしだるる桜かな

風の出てしだれ桜の踊り出す

桜見てをれば頬白二羽も来て

頬白の白の際立つ桜かな

頬白の枝ちょこちょことせはしなく

青空を見上げ桜の赤仰ぎ

2019年2月

バーゲンの赤札ずらり春隣

春隣滞貨一掃できるかな

ダウン皆七割引や春隣

この店もバーゲンセール春隣

琉球のタンカン蜜柑届く朝

新聞に包み琉球より初荷

初荷とて大きなトマト鞘豆も

家籠りして仕舞ひたる寒波の日

テレビ見て過ごす一日寒波来る

マスクする湿った空気が吸ひたくて

梅咲いて寺苑明るくなりにけり

青空へ白梅の白際立ちて

梅を見て芭蕉其角の句碑も見て

ほつほつと梅咲く芭蕉句碑の上に

志士之碑に座して一服梅探る

節分の日の句座滝のやき餅屋

正面に黄花亜麻見る二月句座

黄花亜麻見上げ二月の滝仰ぐ

黄花亜麻咲き雛飾るやき餅屋

雛の間を横目に句会始まりぬ

滝茶屋の池の寒鯉よく動く

滝落つる池の寒鯉元気よく

やき餅を食べて始まる二月句座

柊に節分をふと鰯ふと

立春の日差まぶしき芭蕉句碑

春光の朽ちし其角の句碑にまで

立春大吉苗床作り始めねば

立春大吉藍蒔く準備急がねば

立春大吉朝搾りたる生原酒

針供養鯨尺ふと母をふと

端切れとて無駄にせぬ母針供養

師の句碑の二つある宮針供養

朱の鳥居高く立つ宮針供養

バレンタイン知らねどバレンタインチョコ

バレンタインチョコを自分へご褒美に

ばあちゃんとバレンタインのチョコ売場

孫からのバレンタインの白いチョコ

お遍路もチョコ持つバレンタインの日

義理チョコもなくなりバレンタインの日

チョコ並ぶバレンタインの日の句会

春寒し昨日は昨日今日は今日

最強の寒波来し報春寒し

還付なき確定申告春寒し

左から鶯鳴けば右からも

聴くうちに鶯の声本調子

鶯の破調の声の正調に

鶯の正調の声遠くまで

ガリバーのやうな足元下萌える

下萌えるとは一斉に隔てなく

坪庭の犇めき合ひて下萌える

白梅に始まる道を釈迦堂へ

奥院へ梅の参道続く寺

耳澄まし待てば初音の立て続け

奥宮の裏より初音続けざま

いきなりにホーホケキョと初音して

鶯が鳴いていますと皆を呼び

初音せるあそこあそこと木を仰ぐ

鷹の飛び鶯の鳴く寺苑かな

臘梅の盛りの花の艶やかさ

奥院に臘梅の花明かりかな

梅林を突っ切り独り遍路来る

遍路宿ありたる庭に初桜

ひろびろと犇めき満ちていぬふぐり

青空の大地にもありいぬふぐり

戦ぐにも一糸乱れずいぬふぐり

福寿草かと見る黄色クロッカス

土もたげいきなりの花クロッカス

門前に迎春花咲く野の札所

猪の糞鹿の糞踏み梅探る

猪罠の民家の隣にも置かれ

梅林の奥に竹林猪の罠

寄せ餌してありし竹林猪の罠

カルストの岩の転がる梅の里

落し角ありしこの道糞の道

お隣のこの梅林は風もなく

小鳥来るらし師の句碑に糞一つ

いぬふぐりなづなつくしと句碑囲み

ふきのたう植ゑられてをり句碑の辺に

師の句碑を囲みおのおの日向ぼこ

句碑守のやうな辛夷も芽を吹きて

冬日和の句碑を見てゐる冬日和

草青む園に馴染てをりし句碑

句碑を守り土筆を植ゑてくれし人

句碑守の春の七草植ゑもくれ

大甕に初桜活け門前に

盛り塩のされし門前初桜

旧正はいつかと暦見てをりぬ

春節の日本旅行が人気とか

大甕にどかっと活けし猫柳

大甕に一抱へもの猫柳

ぎんねずの花穂まぶしさ猫柳

猫柳ありたる岸はこの辺と

猫柳ほほける前の艶やかさ

猫柳きりりと立ちし華道展

本降りの雨となりたる雨水の日

雪国も雨てふ今日は雨水の日

俊寛と縁ある寺に聞く初音

平康頼建てしてふ寺初音して

山寺の鶯前後左右より

鶯を下の谷から聞く寺に

遠音にも鶯の声はっきりと

供華のごと朽ちたる墓に落椿

鶯のこの一声の長きこと

竹林に行けば鶯立て続け

せせらぎの奥より初音また初音

いぬふぐりキャベツ畑を埋め尽くし

千年の大楠茂り草萌ゆる

2019年1月

去年今年去年今年とて数へ喜寿

見ゆるもの何も変らず年変る

電子辞書新しくして年迎ふ

改元の年穏やかに明けにけり

変らねど変りて見ゆる初景色

太陽の光やさしき初景色

平成を惜しみ新年参賀へと

平成の御代の最後の年賀へと

七回も新年参賀に応へられ

老友の今年限りと云ふ賀状

大家族なりし正月母の味

手作りの料理の並ぶお正月

箱で買ふ林檎と蜜柑お正月

待ちに待ちをりし正月早や四日

子ら去にて元の二人となる四日

正月に閉店セールする店も

お歳暮の解体セールレジに列

日食に寒梅の紅蔭るかに

臘梅の臘を透かせて雨上る

咲き初めし臘梅の香のほんのりと

注連飾きりりと宮のさざれ石

初句会蜜柑と菓子を賜りて

改元の年の正月晴れ続く

一月の川一月の水の街

一月の山一月の川と海

遠き日の井戸に汲みたる寒の水

寒の水供へし母のやさしき手

寒の水沁み落ちてゆく胃の腑まで

御下がりの餅を寒九の水に浸け

動くものなき山里の初景色

音一つなき古里の初景色

坪庭に雀来てゐる初景色

門松の迎へてくれし岬の宿

初旅は淡路の宿に鳴門見る

初旅の福良の海は波もなく

初旅に鳴門観潮する人も

水仙の五百万本咲ける崖

日蔭ほど水仙の色鮮やかに

水仙を見上げ見下ろし崖登る

見下ろせば水仙崖の底にまで

水仙の崖の果てまで咲き満てる

見上ぐれば水仙の香の降りて来る

水仙の崖の果てまで咲き満てる

水仙の傾れ咲き落つ海の青

塩害に水仙疎らなる崖も

佇めば水仙の香に包まるる

闊歩する成人の式の日の着物

町中に着物成人の式のあと

成人の式へ初めて着物着て

大方は借り成人の日の着物

内股のぎこちなき成人の日よ

成人の日の着物はや着崩れて

星仰ぐかに奥祖谷の寒灯は

家中の寒灯灯し客を待つ

遠くより寒灯目指しつつ帰る

北国の里の寒灯いと赤く

群れ咲きて孤高でありし寒の薔薇

満身に創痍のありし寒の薔薇

はやばやと満開なりし白梅は

蜂須賀の松の庭園八重の梅

無患子の転がってゐる磴登る

無患子の二つ三つ四つ七つ八つ

本丸の跡へ無患子拾ひつつ

鳴らしては無患子ですと手渡しぬ

ポケットの無患子はやも粘着きて

無患子を振れば乾ける音のして

追羽根と石鹸と云ひ無患子を

無患子は後生大事に玉抱へ

本丸は何もなき原梅一輪

白梅の咲き紅梅の咲き初める

城山の原生林に枇杷の花

本丸の跡は寒禽鳴くばかり

遠き日に帰りて竜の玉探す

竜の玉探せし昭和遠くなり

竜の玉昭和いよいよ遠くなり

まさぐれば二つもありし竜の玉

寒の雨眉山城山鎮もれる

城山も濠も鎮もり寒の雨

日当たりに移せぬままに室の蘭

大きくて重さう室の胡蝶蘭

水遣りはせぬがよろしと室の蘭

室咲きの梅の大鉢土佐の宿

室咲の梅の香りの部屋中に

春近し四国三郎煌めきて

春隣遠き北方領土かな

障子越ゆ日差明るき春隣