今月の俳句

2023年5月

遠目にも卯の花らしき白さかな

雨後の卯の花の白際立ちて

鳴子百合その名の通り鳴子つけ

この道のいつもこの時季鳴子百合

人影の無き公園に躑躅咲く

大小の蕾の並び躑躅咲く

竹の葉に滑らぬやうに筍掘る

掘り頃の筍そこにあそこにも

筍の山猪垣のめぐらされ

取り損ねたる筍の背丈超す

花水木咲ける文学書道館

遠目にも白のまぶしく花水木

水木咲き明るき今日のカフェテラス

水木咲き葉のさ緑の瑞々し

煉瓦塀覆ひ尽して蔦若葉

青柳そよぐ川辺に二人して

両岸に若葉の柳並木かな

若楓美しき倉敷美観地区

風薫る倉敷の町舟で行く

洋館に真っ赤や躑躅群れ咲いて

犇きて咲ける躑躅の白であり

海渡る橋に五月の空青く

新緑の山より下界眺めもし

鶯を背に淡路までよく見えて

連休を家族で初夏の海岸で

松林キャンプの人もちらほらと

みどりの日白鷺城を木陰より

白鷺城五月の晴に真白かな

初夏の日に城の白さの極まりぬ

大手門前にビールと穴子めし

薫風に歌舞伎の幟立つお城

緑陰で登城されたる人を待つ

眠る子と大樹の陰にみどりの日

天守閣見ゆるお濠で舟遊び

遊船の客の笠なる夏帽子

海峡の大橋越えて燕来る

大橋の花壇に躑躅金盞花

これからといふとき何ぞ竹の秋

赤茶けてみすぼらしきは竹の秋

上司より遠州森の新茶来る

六十年昔の上司より新茶

沖縄の友より海雲一斗缶で

沖縄の海雲美味しと御裾分け

返されて返されて堰上る鮎

鮎来れば鷺来て鵜来て鶚来る

堰を跳ぶでんぐり返りゐる鮎も

待ち伏せし上り来る鮎食らふ鷺

午後からはもっと上ると鮎を待つ

鮎上る一二三と続く堰

鮎番の堰を遡上の数しかと

鮎番の大きものから上るてふ

大方は堰跳び損ねゐる稚鮎

弾かれて弾かれて堰落つる鮎

堰の水弾き飛ばして上る鮎

堰上る鮎に二の堰三の堰

堰の水背面跳びで越ゆる鮎

植ゑられし藍にやさしき雨の降る

ひろびろと藍植ゑてあり裏にまで

植ゑられし藍の葉雨に美しく

仙人掌に花や傘寿を祝ふかに

仙人掌のぱっと花咲き今日傘寿

仙人掌のこんなにも咲く朝となり

仙人掌の花のこんなに美しく

日盛りにあれど生き生き薔薇の花

朝刊に出し薔薇園に人の列

園長の今年の薔薇は上出来と

白薔薇の午後となりても凛として

白といふ美しき色薔薇の花

巡り見てやっぱり赤よ薔薇の花

三百種千株の薔薇咲き競ふ

やすらぎの常盤忍の若葉かな

若葉出て常盤忍となりにけり

ひろびろと青田青田や土佐広し

すぐそこに岩石蘭と聞くからは

群生の岩石蘭を仰ぎもし

あやめ咲く植物園の水盤に

植物園中の野草に初夏の花

名も知らぬ野草に美しき初夏の花

土佐に来て五月の雨の冷たさを

八金の五月の雨は冷たかろと

新緑の園にしとしと雨が降る

歩いても歩いても万緑の園

目の痛きほどの新緑高知城

民権の土佐の緑の瑞々し

退助の像に木蔭を花樗

晩柑の後味涼し風涼し

朝市の雪餅草の八百円

朝市に若葉の野草並ぶ土佐

草草に初夏の花咲く土佐の市

鈍行で阿波の若葉の町々を

各停で初夏の徳島本線を

ここもまた無人駅かな草茂る

鈍行で初夏の町見るゆっくりと

区画整理できぬ土地にも田植して

車窓から見上げるほどの花樗

この里はどこの家にも柿若葉

吉野川平野ひろびろ田を植ゑて

大方は歪泰山木の花

壊れたるやうに泰山木の散る

花つけし泰山木も土佐の市

目の前で焼いて叩きに初鰹

叩き好し刺身また好し初鰹

鉢巻をこじゃんと結び初鰹

横丁は朝からビール初鰹

八金のてきぱきと売る初鰹

鶯を聞きほととぎす鳴くを待つ

ほととぎす待てど鶯鳴くばかり

待ちかねしほととぎす聞く続けざま

ほととぎす鳴けば次々次々に

日の陰りいよいよ鳴けるほととぎす

ほととぎす聞くことができ山降りる

山頂の燕は高く高く飛ぶ

2023年4月

川沿ひの桜並木に店も出て

満開の桜が川の両岸に

咲き満てるさくら祭りの桜かな

出し物も揃へてさくら祭りかな

桜見てフラダンスも見る祭り

釣り堀もあるてふさくら祭かな

舟下りしながら桜眺めもし

舟からのお花見子供にも人気

順番を待って乗り込む花見舟

お花見の舟にも救命胴衣して

滝のごとしだれてしだれ桜かな

青空を透かししだるる桜かな

地に触るるほどにしだるる桜かな

やはらかにしだれしだるる桜かな

しなやかにしだれしだるる桜かな

満開のしだれ桜のあでやかさ

とりどりの色美しき糸桜

里山にしだれ桜の咲き競ふ

青空にしだれ桜のくつきりと

日本一しだれ桜を咲かさうと

花の下結婚式の前撮りも

お花見に丸太の椅子も用意され

並ぶとは美しきことチューリプ

オランダは自転車の国チューリップ

オランダの風車懐かしチューリップ

チューリップ何色が好き赤が好き

白もまた美しき色チューリップ

オランダは山を見ぬ国チューリップ

バブル生みたるはこの花チューリップ

チューリップ運河を訪ひし日の遠く

デ・レイケの堰見ゆ岸辺チューリップ

その先に風車も見えてチューリップ

デ・レイケの堰ある川辺桜散る

チューリップ畑の中に散る桜

六十種五万本てふチューリップ

ログハウス風車も出来てチューリップ

カタカナの名札ばかりやチューリップ

これがまあてふものもありチューリップ

年毎に増える新種やチューリップ

家族皆来て楽しめるチューリップ

チューリップ畑に子らは走り出す

年配の夫婦は椅子にチューリップ

私らが植ゑたと木札チューリップ

畝毎に競ひて咲けるチューリップ

原色といふ美しさチューリップ

一巡しも一度赤いチューリップ

今日よりの牡丹祭りの牡丹見る

我独り初日の牡丹見て回る

初日より咲き満ちてゐる牡丹かな

住職も今年の牡丹早咲きと

雨の日の牡丹は午後も生き生きと

大輪の牡丹の凛とあでやかに

百五十種四百五十株の牡丹かな

牡丹咲き塵一つ無き朝の寺

晴れの日の牡丹の金の蕊光る

日の差してまぶしかりけり白牡丹

遠目にも際立ちをりし白牡丹

赤い牡丹白い牡丹と見て回る

庫裏の庭までも牡丹の続く寺

犇きて咲ける牡丹に犇ける

戻り来て同じ牡丹に見入りをり

ちらと見し赤い牡丹をしかと見る

とりどりの牡丹それぞれ美しく

百種三百五十株なる牡丹

三姉妹皆で育てし芝桜

総理より表彰されし芝桜

煙草畑今一面の芝桜

何たって除草除草よ芝桜

仰ぎ見て眼下にも見て芝桜

青空の戸口にまでも芝桜

日当りて影の無かりし芝桜

芝桜まつりはこれでお仕舞と

傘寿なほ好きで育てる芝桜

芝桜育てることが生き甲斐と

一匹で一万円を超す鰆

一匹で一万円の桜鯛

鳴門では一網打尽桜鯛

苗代は作らず苗は農協で

棚田へと田水を引くは竹の樋

水張れば棚田に早も水馬

水を張る棚田歩けば蟇蛙

猫の額ほどの棚田に代搔機

名人の技や棚田の代掻機

竹の樋走る田水や千枚田

百選の棚田の代を掻き始む

百選の棚田に水を引き始む

河鹿聞きたくて鶯聞くことに

河鹿鳴く谷への道の著莪の花

初めての雪持草と出合へもし

初日より咲き満ちてをり藤まつり

藤まつり始まり香り満つ寺苑

ローアングルで撮れと立札藤の花

二百年生き来し藤の瑞々し

百尺の棚一木の藤の花

紫よ白よと咲ける藤の花

満開もこれからも好し藤の花

甘き香の噎せ返るほど藤の花

蜜蜂も熊蜂も来て藤の花

藤咲いて賑やかなりし山の寺

藤咲いて寺に人来る蜂も来る

旅やめて余生を池に残る鴨

広大な池に二匹の残る鴨

一団で残りをりたる川の鴨

どれ見ても太り過ぎかも残る鴨

2023年3月

下萌や大地は命の母である

高齢者ばかりとなりし梅の里

雛人形三万体のひな祭り

ビッグひな祭り今年三十五回目と

ひな祭り見んと三万人が来る

恐竜の町美女と野獣のひな祭り

人形の浄瑠璃も見て雛も見て

品の良き笑みたたえゐる古雛

選ばれし三万体の雛飾る

三万の雛を箱から出し飾る

丁寧に保ちて来たる雛飾る

子供らも混じり総出で雛飾る

とりどりの光彩浴びし雛の顔

ウクライナから来し人も雛を見に

お茶席も設へビッグひな祭り

お抹茶を頂きながら雛を見る

泣き上戸一人をりけり仕丁雛

お澄ましの雛より仕丁雛が好き

見るほどに味あるお顔仕丁雛

仕丁雛ばかりを眺め雛巡る

どの顔も面白かりし仕丁雛

仕丁雛喜怒哀楽のお顔かな

表情の豊かなりけり仕丁雛

遠山に雪の残れど水温む

町川に小魚群れて水温む

水温む川に何やら動くもの

ゆつたりと鯉の泳ぎて水温む

斜交ひに斬って次々挿木する

挿木してこの薔薇園を作りしと

挿木して蜂須賀桜増やせしと

世に遠くゐることに慣れ春炬燵

出かけねばとは思ひつつ春炬燵

春炬燵とは居候かも知れず

仕舞はねばとは思ひつつ春炬燵

山椒の芽一つ含みて味見する

芽山椒のこの美しき緑かな

山椒の芽噛み締めながら山下りる

蛍のために作りし蜷の川

蛍に会社で作る蜷の川

蜷の川社員総出で作り出す

谷の水引けば水路が蜷の川

作りたる川に立派な蜷の道

爆発のやうな茎立ちアスパラは

芥子菜は茎立ち気味が旨かりき

茎立てるものも混じりて朝の市

鮊子のちりめん探し探しても

紀の海へ鮊子船の一筋に

茹で立ての鮊子どつと並ぶ店

茹でられて折れて曲がりし鮊子よ

春泥を踏んで行かねば行けぬ家

春泥をわざわざ踏んで下校の子

春泥を付けて帰る子元気な子

いそいそと四年振りなるお花見に

川面まで赤く蜂須賀桜咲く

咲き満ちて赤き蜂須賀桜かな

お花見のできる平和のありがたく

花嫁も花婿も来るお花見に

朱に染めて蜂須賀桜咲き満てる

青空に赤き蜂須賀桜かな

船からも水の都のお花見は

早々と咲きて蜂須賀桜かな

早咲きの桜に小鳥鈴生りに

早咲きの桜に人も鳥も来て

母樹となる蜂須賀桜聳え立ち

蜂須賀の殿の愛せしこの桜

蜂須賀の世をさながらの桜かな

戦災も生き抜きて来し桜咲く

この桜見んと来る人絶え間なく

四方から仰ぎて眺むこの桜

この時季は昨日も今日もよもぎ餅

五割引なれどふくよかよもぎ餅

この香りこの香りとてよもぎ餅

粒餡の手作りが好きよもぎ餅

日の経てば炙りても好しよもぎ餅

よもぎ餅一品だけで商へる

幟立てよもぎ餅売る札所前

特選句取りし草餅今日も買ふ

花冷えの雨に立つ鷺身じろがず

降る雨に梅の新芽の勇み立つ

ずぶ濡れの恋の猫かなとぼとぼと

花咲けど人来ぬ雨の日曜日

城中の桜を一つづつ巡る

濠の上までも迫り出し咲く桜

濠にまでしだれ咲き満つ桜かな

満開の桜を雨に独り占め

城山の裾に群れ咲き著莪の花

著莪咲いて城山の道明るかり

落椿敷き詰め椿咲き続く

城山のあちらこちらに落椿

どれも皆落ちしばかりの椿かと

とりどりの桜の色でありにけり

美しき若葉をつけしこの桜

垂るるほど犇めき咲ける桜かな

雨の日のしだれ桜のしつとりと

ほんのりと紅差すしだれ桜かな

花冷えの城山巡り花巡る

咲き満ちてゐてもお花見できぬ雨

雨の日の桜を独り見て歩く

ゆつくりと花見る雨の日曜日

日本の野球に見惚れ桜見る

お花見の平和な日本いつまでも

2023年2月

大寒にパンジーの咲くレストラン

大寒にアフリカよりの飾り買ふ

新品の急須が春の襤褸市に

襤褸市に新品の出る初春かな

初春の市で常滑急須買ふ

鹿児島は雪美しき朝ですと

鹿児島の山に積雪ありと云ふ

水彩画展を目指すと初便り

薩摩より水彩画添へ初便り

水彩の絵の美しき初便り

我が庭に今年も嬉し蕗の薹

三つばかり蕗の薹摘み酢味噌和へ

蕗の薹摘めば香りの広がりぬ

蕗の薹摘めば滴る滴かな

蕗の薹この美しき緑かな

天麩羅は酢味噌和へはと蕗の薹

我が庭に春が来てをり蕗の薹

若返りますよと言はれ蕗の薹

苦さこそこの苦さこそ蕗の薹

畑に水張れば来てをり初鴨が

初鴨のゴルフ場の池にまで

ごうごうと雪解の水の走りをり

岩削る雪解の水の白さかな

越後かな雪解水とはほとばしる

旨さうであれど飲むなと雪解水

コンビニに売る節分の恵方巻

節分の恵方巻もう半額に

下萌の土ふっくらと盛り上がり

下萌の休耕田に隙間なく

節分の鬼は園長逃げ回る

節分の鬼に泣き出す子等もゐて

立春に搾り出されし新酒買ふ

蔵元で搾り立てなる新酒買ふ

立春の朝搾りたる酒甘し

その朝にできし酒飲む春立つ日

今朝できし新酒いただく春立つ日

立春の明るき峠越えて行く

立春の光まぶしき瀬戸の海

下萌の土掘り上げてゐる土竜

立春の四国三郎煌めける

出来立ての土竜の土に春日差す

臘梅の屑一つ無き朝の磴

磴下るほどに臘梅匂ひ来る

満作の下界に春を告げるかに

満作の花はもじゃもじゃなりしかな

梅咲いてゐるかと来れば咲いてをり

梅咲いて子の駆け回る日曜日

梅咲いて団欒の輪の広がりぬ

一輪の冬薔薇残る薔薇園に

噴水に春の日差の柔らかく

噴水に虹出る春の日差かな

ひろびろと寺領の畑を焼いてをり

焼畑の中なる備中国分寺

五重塔聳える寺の畑を焼く

猫柳見てより山の札所へと

撫でてみるものの一つに猫柳

猫柳探せば今日も水際に

無造作に生けて絵になる猫柳

鶯を丸太の椅子に待ちて聞く

鳴き競ふかに鶯の左右から

鶯の谷渡りなるアリアかな

鶯を飽きるほど聞き山下りる

目の前の梅に鶯来て鳴ける

目の前に梅に鶯なりしかな

箥薐草一と日採らねば伸び過ぎて

根の赤きところが旨し箥薐草

江戸前の海苔前金で買ふことに

江戸前の海苔の香りでありにけり

江戸前の海苔なる艶でありにけり

ひろびろと東京湾の海苔の篊

富士見える東京湾の海苔の篊

下萌えの土ほかほかとしてをりぬ

捨石をひっくり返し下萌える

梅咲いて今日弟の七回忌

日脚伸ぶ今日も旅行の案内が

飾られませんかと届く古雛

飾りしは一度切りてふ古雛

古雛なれどお顔の若々し

色白で見目麗しき古雛

爺婆となりて初めて雛飾る

雪洞を灯せば雛のかしこまる

雪洞を灯してこその雛飾

咲いたよと梅の名所の句友より

耳元に来られて梅を見に来よと

四分咲きの見頃の梅を見に来よと

見頃なる名所の梅を見て見たし

句碑の辺に芹も薺も蘿蔔も

句碑を守る紅白の梅揃ひ咲き

藁苞にかしこまりゐる寒牡丹

黄花亜麻咲かせ句碑守る人の春

句碑囲むやうに今年も福寿草

草萌る土踏み締めて句碑巡る

句碑の辺の土やはらかく繁縷萌ゆ

黄花亜麻咲く早春の日溜りに

藁苞の小さきに寒牡丹二つ

見廻せば蕾あまたや寒椿

明日は咲きそうな蕾も寒椿

2023年1月

齢毎に過ぎゆく早さクリスマス

一年の早過ぎにけりクリスマス

一年のかくも短しクリスマス

白夜なる北欧をふとクリスマス

クリスマスサンタになりし日の遠く

太っちょのサンタと吾子に言はれし日

美しき雪の帽子や花八手

雪被り赤の極まる実南天

百六年振りの大雪徳島市

徳島に雪雪雪の一と日かな

飛び出して雪玉作る姉弟

一日で消えて仕舞ひし阿波の雪

見るたびに艶の出て来し吊し柿

晒すほど曝されるほど吊し柿

大振りや産直市の門松は

手作りの門松立てて竹の里

店頭のミニ門松のよく売れて

小さくとも門松らしき勢あり

葉牡丹の渦に見惚れてをりにけり

葉牡丹の渦に勢のありにけり

閑話には空耳となるこつごもり

あと一日ある嬉しさのこつごもり

孫らも来おおつごもりのうどんすき

一番に起きて暦を新しく

一番に起きて若水供へもし

子と嫁と孫に囲まれお正月

子の洗ひくれたる車初乗す

初乗はビーチホテルへ家族らと

十六人家族揃ひて新年会

お正月家族全員健康で

初暦めくりて虚子の句を吟ず

初暦めくり句友の句を探す

初暦めくり我が句を確める

初暦めくり傘寿の日をめくる

真つ新な明日の並ぶ初暦

春著にもマスク外せぬ年なりし

幾度も鏡見てゐる春著の子

走るなと皆に言はれて春著の子

解説の元横綱も春著著て

凍蝶に老いの厳しさ見てをりぬ

凍蝶に動く力の残りをり

死んでゐるかの凍蝶の飛び立ちぬ

大方はレンタル春著なるさうな

福引の外れはティシュ山に積み

福引は子供の運に任すべし

福引で鍋をもらひし昭和かな

福引の一等賞を子が当てし

寒灯の藁家を訪へばカレーの香

寒灯を満艦飾に客を待つ

奥宮の寒灯昼も灯されて

健康に生きよと叱咤する賀状

綿綿と近況綴る賀状も来

今年までてふ賀状多くなり

メールより賀状が嬉し温かし

繰り返し読める楽しさ年賀状

今年こそ会おうと賀状アテネより

水仙の紀伊水道に傾れ落つ

傾れ咲く灘黒岩の水仙は

門松の立つ料亭で初句会

一番に来て門松の門くぐる

門松の脇に正月飾りかな

葉牡丹を芯に正月飾りして

屋敷まで正月飾り続く道

小さくとも正月飾り勢あり

老松に寄り添ふように実万両

日の差して赤の極まる実万両

庭園の岩抱けるかに実万両

遠目にも赤美しき実万両

庭園の箒目にある淑気かな

箒目の一際美しき小正月

山茶花のこぼれては咲き続く庭

山茶花を散らしてゆきし昨夜の雨

寒鯉の固まり合ひて動かざる

ぢつと見てをれば寒鯉動き出す

寒鯉の一つ動けば三つ四つと

寒鯉の水を蹴立てて走り出す

庭園を見てより新年句会へと

小正月ですと繭玉飾られて

繭玉に触れて大玄関に入る

雑煮も出女正月の日の句会

はじかみを添へて鰆の菜種焼き

数の子もごまめ雑煮も出る句会

小正月どなたも健啖なりしかな