今月の俳句

2020年12月

百個剥き今年も大和柿吊す

吊し柿には大和柿一番と

不揃ひもまた好しとして柿吊す

柿干してあとは寒風待つばかり

柿を干す物干し竿の撓るほど

知らぬ間に出てをり冬の満月は

白白と冬の満月大きかり

休耕の田にコスモスのなほも咲き

コスモスの仕舞の花の美しく

柿干してそろそろ揉んで仕上げよか

日に一度揉めば干柿甘くなる

牡蠣を剥く軍手に穴あけ指出して

牡蠣剥けば殻の山なす厨房に

牡蠣蒸せば簡単に殻外れると

牡蠣蒸して一気に牡蠣を食べ尽くす

山ほどの牡蠣を家族で平らげて

濃厚な牡蠣のミルクでありにけり

取れ立てのクール便にて届く牡蠣

ちゃんちゃんこベストと言ひて着る私

寒牡丹にも小振りなるちゃんちゃんこ

波高き能登の外浦虎落笛

波音の合間に遠く虎落笛

リフォームし炬燵の部屋の無くなりし

床暖房あれど炬燵のあればとも

炬燵には蜜柑の昭和懐かしく

足元に炬燵を置きて市に立つ

ご隠居は炬燵抱えて檄飛ばす

堤防の草のロールも年用意

山ほどの年木積み上げ山の宿

干草のロール牛舎の年用意

新札を揃へ置くのも年用意

古暦ありしところに新暦

面白きことなく過ぎて古暦

ぺらぺらの一枚となり古暦

御仕舞は師の句の色紙古暦

古暦師の句の色紙にて終る

煤払にも仕来りや東大寺

煤払ふにも装束のあり東大寺

煤払ふ奈良は仏の多き古都

自衛隊今年も城の煤払ふ

リフォームをして七年目煤払ふ

霜焼の子ばかりなりし日の遠く

霜焼のいつも小指にできました

霜焼も皸の子ももうゐない

霜焼の母は働き者でした

雨の日のなくて上出来吊し柿

寒風の仕上げてくれし吊し柿

吊し柿この飴色の嬉しさよ

日々揉んで仕上がって来し吊し柿

小振りなる令和二年の聖樹かな

ショッピングモールの聖樹小さき年

日の差して鴛鴦の羽輝きぬ

鴛鴦の日に輝き鴨は黒きまま

咲き満ちてをれど侘しき冬桜

吊橋を渡れば両手悴んで

山の湯の産直市に鹿の角

寒施行なるか聖樹に吊る蜜柑

その上に一人に一つ牡丹鍋

2020年11月

ひろびろと今年の菊の展示会

菊花展菊人形の無き今年

市役所の庭一面の菊花展

市役所の裏にも菊の展示され

高校も初展示して菊花展

菊師より課外授業の菊花展

高校の課外授業の菊花展

菊師より苦労談聞き菊巡る

菊作りメモ取り学ぶ高校生

饂飩屋の亭主も菊を作る町

鈴生りのままに残ってをりし柿

手の届きさうなところに残る柿

無農薬畑広がり赤のまま

丈高き野菜畑の赤のまま

校庭に黄色い秋の花咲かせ

桃色の小さき秋の花も咲き

乾きたる風の吹き抜け枯蓮田

弁慶の立往生ふと破れ蓮

入れない庭一面の実千両

茶の花のもう実を落としゐる寺苑

木豇豆の実の垂れ寺の秋深し

菩提子の舞ひながら落つ寺静か

童子の墓供花新しく冬に入る

水澄めり鯰の髭のはっきりと

水澄めり鯰は鯰鯉は鯉

雨に濡れ千両の赤一段と

観音堂裏もまた墓所お茶の花

木豇豆の実の鈴生りや秋の寺

菩提子のふはりと落ちし音もなく

紅葉よく実千両よき古刹かな

武家の墓並ぶ名刹破れ芭蕉

時雨来て又時雨来て破れ芭蕉

藤袴大きく咲かせ蝶を待つ

派手でなく地味でなき色藤袴

山頂は石蕗と紅葉と青空と

山頂の句碑への小径野菊咲く

句碑の辺の綺麗に刈られ石蕗の花

そこらぢゆう眉山山頂石蕗の花

事故ありしカーブに菊の白い花

放牧のイベリコ豚ふと猪の跡

冬日向とはこんなにも明るくて

石蕗の花ここにも咲いて暮潮の忌

冬日濃し山の人にも下界にも

敷き詰めたやうに咲き満ち石蕗の花

旅できぬままの一年芭蕉の忌

訪ねたし奥の細道芭蕉の忌

棘の葉に柊の花やさしかり

柊の花の真白でありにけり

香りあり柊の花咲いてをり

こぼれてもなほ柊の花真白

柊の花の香りの通学路

密避けて令和二年の神の旅

神留守の古宮昼も灯の点り

神留守の宮の綺麗に掃除され

神留守の古宮猫のじゃれあって

ノズルより水を吹き出し蓮根掘る

宝物掘り出すやうに蓮根掘る

蓮根掘るとは泥とする格闘技

自家用の一列残し大根引く

大根引く鳴門は砂地ひょいひょいと

浜風の弱き日選び大根引く

ちらほらと咲きてまぶしき帰り花

帰り花あるかと見れば二つ三つ

孫崎は四国の起点帰り花

背丈ほどなる桜にも帰り花

信濃へと阿波の野沢菜茎漬けに

茎漬けの野沢菜あれば菜いらず

茎漬けを音立てて噛む嬉しさよ

負傷者のやうに蘇鉄の冬構

無理しないことが私の冬支度

流感の予防接種も冬支度

風引かぬことが私の冬支度

冬晴れの空に皇帝ダリアかな

高々と皇帝ダリア冬日濃し

聳え立つ銀杏黄葉を仰ぎ見る

黄葉の銀杏の幹の太さかな

大銀杏傷一つなく黄に染まり

大銀杏よりの銀杏小粒かな

水澄めり水琴窟の音も澄み

冬晴や水琴窟の音も冴え

奥院は黄葉と紅葉綾なして

黄葉好し紅葉また好き寺苑かな

山茶花の日当たりにもう咲き初めて

山茶花は太陽が好き南面に

人気無き奥院銀杏散り敷ける

日を返す銀杏落葉の明るさよ

山茶花の弾けるやうに咲いてをり

この花はと聞けばこれも山茶花と

帰り咲く躑躅日差の届かねど

耄けてもなほ凛と立ち藤袴

色失せし山に躑躅の帰り花

笹鳴ける今登り来し山径に

穭田のパッチワークのやうな里

田仕舞の煙ゆっくり上る里

綿虫の宇宙遊泳見て飽きず

仰ぎ見る視野の端まで金鈴子

2020年10月

二人掛かりして冬瓜をいただきぬ

一刀両断して冬瓜の御裾分け

南瓜より冬瓜を斬る方が楽

冬瓜を八つに斬りてお裾分け

冬瓜を斬れば真白き腹の中

南瓜より太き冬瓜すっぽりと

日向より阿波へオープンカーの秋

杉切って明るくなりし寺の秋

藷と栗売り切れ遍路茶屋終ふ

水引の残らぬほどに草刈られ

溝蕎麦の赤に真っ赤な糸蜻蛉

寄り添ひて咲く曼珠沙華ありにけり

実むらさき遍路の宿は畳まれて

紫の玉に艶あり式部の実

浜茄子の一輪なれど香を放ち

曼珠沙華一本なれど凛として

熊笹の中の露草丈高し

竹林に入れば小鳥のシンフォニー

裏山は昼から虫のコンチェルト

添へ木さる小さき桜に帰り花

木の実降る音軽やかでありにけり

残り咲く木槿の花の鮮やかさ

蟷螂は枯れていません緑の眼

蜘蛛の囲の奥に真っ赤や烏瓜

こぼれてもこぼれてもなほ咲ける萩

七分咲いて見頃なりけり萩の花

紅白の芙蓉の花の咲ける庭

咲き満てる芙蓉の株の大きさよ

残り咲く木槿の花の鮮やかさ

いきなりの鵙の高音でありにけり

喬木の天辺よりの鵙高音

禅林は静かなりけり鵙高音

鵙猛る藩主の墓所の高木に

口開けて紅美しき石榴かな

枝撓るほどたわわなる石榴かな

たわわなる石榴もぎ取る人のなく

レバノン杉なるは松なり新松子

品のよき御殿の松の新松子

売家の茂りゐる松新松子

手入れせし松の小さき新松子

大方は早も穭田なる刈田

穭田と刈田のパッチワークかな

裏作をしない刈田の続く里

新酒祭りへと満席の特急で

新酒会各自杯持参して

蔵巡る度の新酒にほろ酔いぬ

香りかぐことより始め新酒会

おつまみは各自持参の新酒会

香り芳し女性の好きな新酒てふ

路地までも新酒の香る町となる

近頃の新酒いづれもフルーティ

年毎に女性の増えて新酒会

植木屋の早やも来てをり松手入

天辺に始まる松の手入れかな

青空に鋏の音や松手入

松手入見上げる空に昼の月

構想を頭に描き松手入

また毟りまたまた毟り松手入

手で毟る松の大樹の松手入

松手入済みて青空近くなる

塵一つ残さず終り松手入

敷き詰めたやうに銀杏落ちし庭

大粒の銀杏なれど捨ておかれ

銀杏を踏みつけぬよう磴上る

街路樹の銀杏拾ふ人の無く

参道の銀杏朝の日に光る

銀杏のぽたぽた落ちて瑞々し

名も知らぬ小さき川に鴨来る

鴨の来てもう一年の過ぎしかと

朝の日に金木犀の輝ける

朝からの金木犀の香りかな

木犀の満艦飾の金こぼし

夕べには金木犀の香にあふれ

蔵のある農家の在所藍の花

観光のトロッコ列車藍の花

椋の実に誰も幼になってゐる

椋の実の七百年の大木に

その種を銘茶にといふ藍の花

種を取る三番藍の花可憐

藍の花咲かせ続けて六代目

そっと手を置けば温か藍寝床

葉の欠片まで無駄にせず藍こなす

古代米実り稲架まで用意され

遠目にも穂先の赤き古代米

田の中の墓に寄り添ひ秋桜

倒れてもコスモスの花美しく

生垣に美男蔓の真っ赤かな

2020年9月

産直の市に桔梗の苗並ぶ

新米と桔梗の苗の並ぶ市

料理屋の離れ木槿の花香る

鉢植の木槿の花にある気品

建物の影濃き街や秋暑し

遊船も出ざるほどなる残暑かな

山頂を仰げば秋の空高し

城山は子らの遊び場赤蜻蛉

正面のロビー生き生き胡蝶蘭

花びらの瑞々しかり胡蝶蘭

あっという間に終りけり秋夕焼

内海のほんのり赤き秋夕焼

日没のあとの青空秋めける

日の入りを待ちゐしごとく虫すだく

内海を見下ろして聞く虫時雨

少しづつ七草植ゑてある御苑

一つづつ七草数へ歩く径

気品かな小鉢に生けし七草の

監獄は秋の七草咲ける野に

七草やここは網走番外地

輪になって夜食取りたる日の遠く

コンビニに集まってゐる夜食の子

夜食とはラーメンライスだった頃

蓑虫の糸の輝く角度あり

蓑虫の父呼ぶ声を風の消す

古宮は蓑虫吹かれゐるばかり

多摩川の中洲ひろびろ蕎麦の花

蕎麦の花日当たる斜面埋め尽くし

祖谷の畑ここも斜面や蕎麦の花

米できぬ斜面の大地蕎麦の花

藍染のマスク町より敬老日

祝なき令和二年の敬老日

世界中女は元気敬老日

老人と呼ばれたくない敬老日

敬老日町より喜寿の祝金

横に来て子らも手を出す枝豆に

枝豆を平らげ話佳境へと

枝豆の一皿子らの平らげて

岡山の友より葡萄二箱も

新種てふ皮も美味なる葡萄来る

いただきし葡萄その日にお裾分け

ライン川行けば葡萄の畑つづく

レマン湖を見下ろし葡萄の畑見上げ

捨て置きし目高の鉢の水も澄み

水澄みて生簀の河豚の鰭動く

待ち時間長き病院虫すだく

あす手術けふは一日虫聞いて

手術すみのんびり秋の雲を見る

手術すみ隻眼で見る秋の雲

眼帯を外して見たし秋の雲

青空に吸い込まれさう秋の雲

鰯かも鯖かも秋の雲高し

夏の雲追ひ出してゐる秋の雲

眼帯の取れてくっきり秋の雲

澄み渡る空に高々秋の雲

青空に流るるごとく秋の雲

挿木せしランタナの花咲ける秋

台風にめげず咲きゐる小さき花

台風の風にも落ちず蝉の殻

空蝉の暴風雨にも耐えて

草刈れば花茎の出でて玉簾

知らぬ間にいつもこの場所玉簾

道の辺に白美しき蓼の花

蓼の花見れば藍刈る頃かとも

表から裏から郁子の実を数へ

場所替えて見れば郁子の実どっと増え

幹折れてゐても銀杏鈴生りに

鈴生りの銀杏なるに誰も見ず

手に来たる秋の蚊打てばやはらかし

あの小さき秋の蚊なるにこの痒み

白萩の走りの花の薄緑

風なくもさ揺れてをりぬ萩の花

秋日濃し御殿の庭の白砂に

石庭の箒目しかと秋日差す 

2020年8月

この畑の向日葵どれも東向き

近づいて見る向日葵の高さかな

一面の向日葵畑の明るさよ

ゴッホならこの向日葵田どう描く

一つづつ咲いて向日葵一面に

展望の台も作られ向日葵田

清水湧く辺りの砂の白かりし

次々に水輪の生まれ清水湧く

白き砂巻き上げてゐる草清水

草清水涸れてをらぬをしかと見る

黄菖蒲の花咲く清水湧く水辺

あめんぼの影見ゆ角度ありにけり

梅雨明けの水の公園水豊か

梅雨明けとラジオは言へど雲厚き

長梅雨の明けてピアノの音軽し

長梅雨の明けたる空の青さかな

噴水の止み涼風の背中より

緑濃き水の公園百日紅

梅雨明けの空にまぶしき百日紅

スーパーに並ぶ苧殻の白きこと

箸作り迎火せんと苧殻買ふ

背丈超す苧殻の束のかく軽し

苧殻焚く親父御袋弟に

スーパーに迎火セット並ぶ朝

木槿散る韓のをみなの墓の上に

仰ぎ見る御苑の庭の花木槿

熱中症警報の出る秋立つ日

コロナ禍の今年ないのよ阿波踊

阿波踊なき徳島の静けさよ

心地よき風の朝の虫時雨

踊なき徳島静か盆の月

街川の水面にもあり盆の月

コロナ禍に鎮もれる街盆の月

中天に上り切ったる盆の月

山の端に残ってをりし盆の月

盆の月見しと帰省のできざる子

星のなき夜空は広し盆の月

死ぬほどの炎天に咲き稲の花

豊葦原瑞穂の国の稲の花

日盛りに真白な雌蕊稲の花

都心にも豆腐の老舗新豆腐

東京タワー仰ぎいただく新豆腐

名物の土産は笊の新豆腐

新豆腐結婚式のメニューにも

日本一広い中洲の稲を刈る

開拓の碑のある中洲豊の秋

村落の跡ある中洲豊の秋

秋の蝉一声鳴きてそれっきり

仰ぎ見るその上の上葛の花

山のごと茂る葉の蔭葛の花

近寄れば強き香のあり葛の花

2020年7月

散りてなほのうぜんの花瑞々し

散れば咲くのうぜんけふも花盛り

のうぜんの緑の垣根のっとりて

通りまでのうぜんの花こぼれ散り

のうぜんの艶に夢二の美人ふと

阿讃嶺を低しと思ふ青田かな

水涸れし田にでで虫の干上がりて

田の水の涸れて田螺もでで虫も

出番なく黄に染まりゆく余り苗

出番来ぬままに枯れゆく余り苗

名古屋かな弥富の金魚空港に

空港のロビー弥富の金魚群れ

人急ぐロビーにゆったりと金魚

町中に弥富の金魚なる幟

アフリカの友に扇子をお土産に

扇子開けませんとアフリカの友

開き方教へて扇子アフリカへ

扇子あげ象牙の首輪いただきぬ

リスボンは遠くて近しモラエス忌

焼き鰯食べてきましたモラエス忌

美味でした豚の丸焼きモラエス忌

リスボンの旧居見ましたモラエス忌

モラエスさん今年ないのよ阿波踊

青い目の西洋乞食モラエス忌

文豪の文豪と呼ぶモラエス忌

文豪に語り継がれてモラエス忌

愛されていますよ今もモラエス忌

夏来るモラエスの忌を修すれば

山宿の風呂の天井百足虫這ふ

黴臭き山宿なりし百足虫出る

怪獣か蛇腹の鎧大百足虫

山宿の女将上手に百足虫打つ

人の死ぬ梅雨の線状降水帯

橋二つ見る間に流す梅雨出水

流さるる車は凶器梅雨出水

半夏生雨に洗はれ生き返る

雨の日の片白草の勢かな

路地裏にアガパンサスの花可憐

雨を呼ぶアガパンサスの花の色

色なくもこれも紫陽花雨に咲く

単色といふも紫陽花らしく咲く

よく手入れされたる棚に梨実る

このごろは袋掛けせず梨実る

休耕の田に雀群れ草茂る

休耕の田に生ひ茂る夏の草

あす手術けふは眉山の緑見る

たっぷりの雨の眉山の緑濃し

隙間なく緑犇く眉山かな

梅雨出水余所にベッドで手術待つ

白内障手術の前に見る緑

一日を眉山の緑見て過ごす

何もせずひたすら緑見て一日

何もせず眉山の緑見て一日

梅雨霧の眉山丸ごと包む朝

梅雨霧や眉山は水の多き山

梅雨霧の眉山高くて大きくて

梅雨霧の晴れたる眉山瑞々し

梅雨晴れの眉山の緑清々し

白内障手術始まる梅雨晴れて

梅雨晴れの眉山の緑美しく

白内障手術を終へて見る緑

眼帯を取れば眉山の滴るる

眼帯を取れば万緑なる眉山

手術して仰ぐ緑の明るさよ

何とまあ博物館に源五郎

黒鯛の泳ぐ町川船遊

梅雨出水余所に我らは船遊

手を振ってみたくなるもの遊船は

橋ごとに変はる町の名船遊

もう一巡してみたかりし船遊

河口にはさざなみもなし船遊

踊笛聞かぬ徳島船遊

船遊眉のやうなる眉山も見

県庁も見物の一つ船遊

梅雨晴の船出日和となりにけり

石門に抜け殻残しゆきし蝉

玄関の自慢の松に蝉時雨

朝刊の来れば始まる蝉時雨

グリーンタウンなる新築の蝉時雨

蝉時雨詠んで逝かれし百一歳

そんなにも根詰めないで蝉時雨

息抜いて生きていこうよ蝉時雨

スーパーの店頭土用の鰻焼く

持ち帰りばかり今年の鰻屋は

焼き立ての土用の丑の鰻買ふ

釣り宿の一つある島浜万年青

孤島にも白砂青松浜万年青

浜木綿の島への渡船日に二便

冷やしある大皿に盛る夏料理

此れやこの貴船の川床の夏料理

少しづつガラスの皿に夏料理

河鹿鳴く山の湯宿の夏料理

水抜かれたる田に残りゐる田螺

2020年6月

洋館の前に群れ咲き立葵

今日もまた一つ花咲き立葵

朝の日に背筋伸ばせし立葵

彩の際立つ朝の立葵

立葵群れ咲く道を学校へ

大空へ蕾突っ立て立葵

立葵見上げる空の青さかな

見るたびに花を増やせし立葵

仰ぎ見るほどの高さや立葵

立葵育てた人と立ち話

立葵褒めれば切って下されし

十薬の黄昏時の白十字

十薬の白十字犇ける庭

坪庭の新樹眺めて過ごす日々

窓よりの新樹明りを見て過ごす

窓開けて五月の風を存分に

深々と五月の朝の大気吸ふ

大の字になりて五月の空仰ぐ

喜寿迎ふ五月の空の青さかな

坪庭の昼間の闇の百合の花

ゆっくりと蕾を開き百合の花

ランタナの花美しき新築に

ランタナの犇けるごと咲きし庭

ランタナを褒めれば挿木せよとくれ

ランタナを斜めに削り土に挿す

畦道のいつもこの場所半夏生

ひろびろと田を植ゑてあり半夏生

篤農の大きな屋敷濃紫陽花

球形の紫陽花並ぶお屋敷に

日向より日蔭の色の濃紫陽花

紫陽花の一雨毎の彩りよ

花も葉も光り泰山木の立つ

左右より鶯競ふかの如く

よき風の紫陽花の谷上り来る

晴続く紫陽花の葉のぐったりと

仰ぎ読む泰山木の花の数

雲一つなき梅雨晴となりにけり

久々の吟行に見る山法師

山法師見て句友にも出会へ

薫風の中久々の吟行に

日向より日蔭の花よ紫陽花は

年毎に十薬犇ける庭に

十薬の刈っても刈っても茂る庭

日赤の庭十薬の白十字

深々と十薬茂る江戸城址

御苑かな十薬の丈かく高く

大方は葉裏に隠れかたつぶり

どこにでもゐしでで虫を探す世に

藻の花や穂高の水は滾滾と

藻の花の水清らかでありにけり

藻の花の伸びて縮んでまた伸びて

縺れさうなれど縺れず藻の花は

ここにゐるここにゐるぞと行々子

上る鮎見て葭切の鳴くも聞き

吉野川静かなりけり行々子

スーパーに青梅どっと並べられ

青梅のはち切れんばかりに太り

継ぐ人のなけれどたわわなる実梅

落柿舎へ竹の落葉の道を行く

ふかふかと厚き嵯峨野の竹落葉

ひらひらとさらさらと散る竹の葉の

竹林の竹の落葉のよく滑る

雨の日の片白草の白さかな

雨あとの緑清しき半夏生

まぶしかり梅雨の晴れ間の半夏生

野仕事は今日もお休み半夏生

垣根よりこぼるる光額の花

美容院ここにもできて額の花

一隅の小蔭に咲いて額の花

たっぷりと降りたる朝の濃紫陽花

雨あとの紫が好き濃紫陽花

紫は盛りの色か七変化

哨兵のやうに青鷺突っ立ちて

身じろぎもせず青鷺の立つ江津湖

禅林は青鷺高く棲むところ

青鷺の原生林の城山に

枇杷たわわ手の届かざる高枝に

実を隠す枇杷の大きな葉っぱかな

枇杷剥けば果汁のどっと溢れ出て

枇杷の実の大きかりけり種もまた

枇杷の種植ゑんと思ふほど立派

取れ立ての枇杷はいかがと嫁御より

モラエスさん今年は踊ありません

ウイルスの収束祈りモラエス忌

リスボンの家見てきたよモラエス忌

孤愁とは女人追憶モラエス忌

独り死す独居老人モラエス忌

2020年5月

授粉せしばかりの梨の花に風

曇りゐる空に真白や梨の花

世の中はコロナ一色五月鯉

学校は休校のまま五月鯉

今日もまた外出自粛五月鯉

感染症なき世を祈り五月鯉

筍を掘る竹林の明るさよ

筍の竹林斜面ばかりかな

見つければ掘ってみたかり筍よ

掘り出してみたくなるもの筍は

筍のあそこにそこに足元に

筍を見つけたる子の声弾む

筍の土ほこほことして硬し

筍を掘る足すべらさぬやうに

筍を掘る芽の向きを確かめて

一鍬で筍を掘る手際かな

掘り上げし筍こんなにも重し

筍を掘ったとはしゃぐ子の笑顔

家族して筍を掘る賑やかに

掘り立ての筍に糠添へてくれ

掘り立ての筍剥きて下されし

筍に糠まで添へて下されし

掘り立ての筍茹でて一日終ふ

様々なこと思ひ出す昭和の日

平成の記憶のわづか昭和の日

思ひ出は昭和ばかりや昭和の日

苦しくも夢のある日々昭和の日

思ひ出す脱脂粉乳昭和の日

巻紙に答辞書きしも昭和の日

休みなく働きし日も昭和の日

七万軒訪問せしも昭和の日

証書持ち初登庁も昭和の日

初質問一面トップ昭和の日

皇居へと初タキシード昭和の日

ありがとうのお声の耳朶に昭和の日

ひっそりと卯の花の咲く旧家かな

卯の花の白に散歩の足止まる

鈴蘭のやうなる鳴子百合咲いて

お屋敷は静かなりけり鳴子百合

鈴蘭の鈴の音色のしんとして

可憐なるこの鈴蘭の有毒と

昨日来た道に見知らぬ春の草

雑草といふはよさうよ春の草

背後から吾を袈裟懸けにせし燕

水田の水すれすれに飛ぶ燕

一匹の蚊に安眠を奪はれて

耳元にありし蚊に足刺されけり

あれほどの鱵の刺身これっぽち

お刺身の鱵の何と淡白な

玄関にロベリア咲かせゐる屋敷

ロベリアの垣根のやうに咲き満ちて

夕べにももう一筋と茄子植ゑて

植ゑられし茄子にまばゆき夕日かな

公園の花壇の紫蘭よく咲いて

日の陰の紫蘭の色の際立ちぬ

マーガレット咲きて明るき公園に

カナリア諸島とはどこにあるマーガレット

店先に葵の花の真っ赤かな

緑の葉葵の花の赤極め

朝起きて見れば仙人掌咲き初めて

朝の日に仙人掌の花輝いて

仙人掌の犇めき合ひて咲き競ふ

紅ほのかなる仙人掌の花の色

仙人掌の一日限りの花なりし

美人薄命仙人掌の花もまた

苗代を作り百姓一筋に

農協の苗を買ふ世に苗代田

苗代の水清らかでありにけり

苗代の犇く緑整然と

田植機の運転をみななりしかな

田植機は五列一度やリズムよく

田を植ゑて田舎の景となりにけり

日々散歩するたび早苗伸びてをり

道沿ひに市立つ土佐の初鰹

初鰹土佐は幟を高々と

目の前で叩きとなりし初鰹

縦縞の色美しき初鰹

初物が好きで大好き初鰹

脂もう一つなれども初鰹

黒潮に初鰹釣る研修生

2020年4月

記念碑の周りの草の芳しく

その中に仏の座あり春の草

遠き日の瞼に浮かぶ桜かな

今年またいつものやうに桜咲く

寿福寺の椿尽くしの花御堂

山盛りの椿虚子忌の花御堂

花御堂誕生仏は五頭身

外つ国の花は原色花御堂

大方は外つ国の花花御堂

ご近所の花持ち寄りて花御堂

持て余すほどの甘茶を下されて

咲き継ぎてなほも鮮やか迎春花

降り続く雨に色濃き迎春花

潮引けば繋がる島へ磯遊

子は走り親は貝掘る磯遊

来合せて素手で貝掘る磯遊

整列のままのカーブやチューリップ

整列といふ美しさチューリップ

生まれたるトルコは遠しチューリップ

チューリップ一つで家が買へたとも

町あげて桜街道作らんと

有志より始まる桜街道と

日本一しだれ桜を咲かさうと

年毎のしだれ桜のしだれやう

しだれ咲く桜の間の空の青

青空にしだれ桜の白さかな

どれ見ても散りしばかりの花筏

水弾き浮かんでをりぬ花筏

郁子咲いてむべなるかなの故事をふと

香のありし方をたどれば郁子の花

蔓たどりゆけば三つ四つ郁子の花

色変はる角度ありけりしゃぼん玉

無患子の遠き昔よしゃぼん玉

しゃぼん玉音なく割れて青い空

青空に吸ひ込まれゆきしゃぼん玉

ワルシャワの街に道化師しゃぼん玉

骨折の跡や鳴門の桜鯛

跳ねてゐる漁協直売桜鯛

大漁旗立てて即売桜鯛

遠目にも山吹ならん黄金色

鎌倉の寺へ登れば濃山吹

渓谷の崖一面に濃山吹

山吹が好き山吹の色が好き

片仮名の名札ばかりやチューリップ

原色といふ美しさチューリップ

白といふまぶし色やチューリップ

並ぶとは美しきことチューリップ

新種かな薔薇のやうなるチューリップ

太陽の明るさが好きチューリップ

色競ひ合ふかのやうにチューリップ

どれも皆色美しきチューリップ

本堂へ門をくぐれば飛花落花

参道に桜吹雪の途切れなく

山吹に元気もらったてふ遍路

山吹を眺めて遍路札所立つ

青空を仰げば落花途切れなく

鶯の次々に鳴き迎へくれ

巻き上がる落花を浴びて谷下る

見下ろせる谷底深し河鹿鳴く

吊橋の真ん中にゐて河鹿聞く

谷川の水清らかに河鹿鳴く

聞きをれば近づいて来る河鹿かな

河鹿鳴くまるで合唱するやうに

河鹿聞き鶯を聞き花も見て

山葵田の覆ひ覗けば小鳥の巣

山葵田の細き木道くねくねと

草餅も土筆の菜も句座に出て

鯱を置く藁葺きの寺牡丹咲く

一番に咲いてまぶしき白牡丹

咲き初めしぼうたんの香の満てる寺

ぼうたんの朝の香りの清々し

葦簀張る小屋の牡丹も咲き初めて

牡丹咲く寺苑の奥の奥にまで

花蘇枋咲きてここより裏庭へ

青空に色美しき花蘇枋

ゆっくりと独りで巡る牡丹寺

佇めば香の近寄りて来る牡丹

丈低き牡丹の花の大きさよ

御手洗の辺り明るき若楓

さ揺れゐるところなかりし若楓

鉢植に始まる順路牡丹寺

寺巡る葦簀の小屋の牡丹より

ぼうたんの色褪せぬまま咲き残る

咲き残る牡丹の少し小振りかな

2020年3月

我が狭庭二羽も目白が金柑に

ウイルスにマスク売り場のがらんどう

ウイルスに平らげられしマスクかな

ウイルスは居座るマスク召し上げて

どこもかもマスク売り切れ春遠し

江戸の世を今に蜂須賀桜咲く

母樹と言ふ蜂須賀桜咲き満てる

鈴生りのやうに目白の来る桜

目白来て甘き香りのする桜

遠目にも赤き蜂須賀桜かな

雨多き年の桜は色濃きと

啓蟄や田にこんなにもこふのとり

啓蟄の土新しき土竜塚

鷹化して鳩となるてふよき日和

剪定をせざる梅林荒れ果てて

据ゑ置きし梅の剪定硬かりし

剪定のされて梅林らしくなる

朝市に研ぐ剪定の鋏かな

剪定を待つ梨畑のひろびろと

遥かへと続く梨畑剪定す

ふるさとに蜂須賀桜咲く山を

卒寿なほ元気に桜育てられ

谷越えて山越えて行く梅まつり

氷雨降り風の冷たき梅まつり

橙青の句日記を読む海保の日

橙青の鷹の句碑の上鷹渡る

橙青の句碑の岬へ海保の日

掃海をせし日は遠し鰤起し

掃海は歴史の彼方松葉蟹

斬首さる大根の列続く畑

斬首さる大根太く畑にあり

菜の花の明るき新興住宅地

菜の花のこの黄どう描くゴッホなら

ウイルスに下がる持株春遠し

ウイルスの春雷世界激震す

暴落の株価ウイルス猛る春

爆発す如く茎立ちブロッコリー

葉牡丹の渦巻き上げて茎立てる

茎立ちの芥子菜並ぶ朝の市

茎立ちを待ちて芥子菜漬け込みぬ

茎立ちてこそ芥子菜の旨くなる

燕来る遠路はるばる来られたる

生まれたる巣に帰り来し燕かも

ともどもに来てちりぢりになる燕

水底の途切れ途切れも蜷の道

くねくねとくの字への字や蜷の道

人工の蛍の川の蜷の道

一筆で描き切ったる蜷の道

ドイツ兵俘虜の野遊セピア色

遊山箱提げて野遊びせしことも

遊山箱詰め替へもらひ野に遊ぶ

美しき写真の並ぶ苗木市

値札より話始まる苗木市

花つきしものは前列苗木市

実のつきしものには支へ苗木市

逸物は値札を付けず苗木市

卒業式できなかったと写真撮る

卒業証書大きくかざし写真撮る

卒業式できねど写真晴れ着着て

ウイルスに人間籠り地虫出づ

葉桜も赤き蜂須賀桜かな

ウイルスにお花見会のできず散る

早咲きの蜂須賀桜早も散る

蜂須賀桜植ゑし横綱勝ち進む

お花見のできざるままに花は葉に

風ありて少し間のある落花かな

桜散るそんなに急ぎ散らずとも

何事もなかりし如く桜散る

パンデミックなる世を遠く日向ぼこ

青空に白木蓮の清々し

遠目にも白木蓮の輝いて

ウイルスに五輪も延期雲雀鳴く

パンデミックなる世を余所に雲雀鳴く

田水まだ引かれをらねど初燕

斜交ひにはすかひに飛び初燕

剪定の終り梨畑ひろびろと

剪定の終り明るき梨畑に

休校のプールに鴨の来てをりぬ

休校のプールに鴨の飛んできて

伸び伸びと庭師の庭の新松子

我が庭はぽつりぽつりと新松子

幹黒き柿の大樹の若葉かな

2020年2月

南の更地となりて冬うらら

煮凝の鯛の目玉をいただきぬ

町中にあふれる光り春近し

青空に浮かぶ白雲春近し

冬日差すおきざり草のまぶしさよ

春近しおきざり草の犇めける

早春の光やさしく更地にも

早春の光名のなき墓石にも

早春の森に鳥声途切れなく

ほっこりと土盛り上がり下萌ゆる

下萌ゆる野に吹く風の冷たさよ

下萌や母なる大地なる言葉

先陣を争ふごとく下萌ゆる

よき日かな梅に鶯目の前に

犇めきて立つ生花の水仙は

黄水仙ガラスの鉢に活けられて

目の前の梅に笹子の来て止る

せせらぎの音に紛れて笹鳴ける

帰らんとすれば笹鳴き続けざま

マスク越しにも梅の香のほんのりと

鶯の梅から梅へせはしなく

期せずして梅に鶯なる景を

目の前に梅に鶯見る日和

花札の梅に鶯目の前に

古き葉を纏ひしままに満作は

臘梅の磴は下りの楽しみに

緩やかな磴より上るマスクかな

をばさんもバレンタインのチョコ売場

バレンタイン知らねどバレンタインの日

バレンタイン限定チョコとチョコの店

何故チョコを贈るのバレンタインの日

チョコに合ふ清酒もバレンタインの日

バレンタインデーとは遠き日のことに

君となら濡れて行こうか春時雨

大手門出れば明るき春時雨

湯巡りの下駄に素足に春時雨

春時雨相合傘で行く道後

漁師云ふ春一番は怖いよと

春一は怖いと古老舟返す

満作の古着剝ぎ取り春一番

春一番吹いて眠りの覚めし山

春一番吹いたと今朝の新聞に

春一番吹いたと遠く聞くばかり

春一番来てより寒波次々に

春一番吹いて大雪注意報

海苔篊の場所は毎年籤引きと

江戸前の海苔の黒さでありにけり

東京の海の青さよ海苔の篊

梅林の朝一番の香の中へ

独りゐて梅の香りを存分に

濃く甘き梅の香りでありにけり

カルストの岩ごつごつと梅の里

紅梅は庭白梅は畑に植ゑ

三日月の鋭く尖り冴返る

また一つ空き家の増えて冴返る

大寒気団の居座り冴返る

どこもかもマスク売切れ冴返る

室咲の蘭の明るき展示会

室咲の蘭の種類のこんなにも

室に咲くカトレア蘭の明るさよ

室に咲きこれも蘭かと思ふ蘭

室に咲く蘭の香りの濃く淡く

室に咲くデンファレ蘭の可憐さよ

紅梅の八重咲きといふ明るさよ

紅梅の犇めけるほど咲き満ちて

二月の市に土佐より文旦が

早々と文旦食べて春を待つ

文旦のほっこり丸く着膨れて

二月の文旦なれどかく甘き

文旦の甘く酸っぱく春立ちぬ

文旦を億里平癒を祈る春

麗かや文旦美味と褒めくれて

室の蘭いただき飾る玄関に

梅見よかと来て蜂須賀桜見る

二分咲いて赤き蜂須賀桜かな

桜の根伸びゆく土手に草萌ゆる

海蝕痕ある城の崖椿咲く

搦手は急な崖道落椿

施肥終へし薔薇園早も草青む

葉牡丹の渦盛り上がり茎立ちぬ

蜂須賀の世より咲き継ぎ臥竜梅

梅の白際立ててゐる幹の黒

蜂須賀の御殿の梅に笹子来る

折れ曲がる枝の節くれ臥竜梅

上品な御殿飾りの雛の顔

贅尽くし檜の御殿雛飾る

手の細く袖の突っ張る享保雛

御殿庭眺めるロビー雛飾る

ホワイトデーへとバレンタインの売場

春を呼ぶ生花展の明るさよ

生花展巡れば春の香りして

名刹の裏は竹藪鳥交る

春日差す百二で逝かれし位牌にも

百二まで生きて眠れる墓麗ら

梅の香におぼれて虻も私も

白梅の香る古刹の静かさよ

梅林の日向日向のいぬふぐり

見通しのよき野に出れば初音して

聞くほどに鶯の声らしくなる

大鷭の鴨に紛れて餌を漁る

一切れのパンに崩るる鴨の陣

2020年1月

山眠る店仕舞せしホテル背に

門松立つ閉店決まるデパートに

門松の高々と咲く梅の花

門松の松竹梅のどっしりと

年改まりこの五月には喜寿となる

新年を孫八人に囲まれて

十六人家族揃ひてお正月

寒鰤を一尾平らげ去年今年

寒鰤もぼうぜの鮨も平らげて

新暦にとホ句の日めくりくだされし

虚子の句のホ句の日めくりお元日

正月のホ句の日めくり破り難し

元気なること確かめる年賀状

百四歳からも元気な年賀状

賀状来るアルゼンチンは暑いよと

台湾は花火上げたと年賀来る

旅行する子らを見送る二日かな

ピアノ曲弾き初めたりもして二日

初売に草月流の花生けて

買初はアメリカ製の無水鍋

寒鯛の刺身大好き子も孫も

寒鯛の刺身の後の鯛茶漬

鯛茶漬食べて宴を終ゆ三日

四日はや子ら自宅へとそれぞれに

子ら去にて家中広くなる四日

ゆっくりと新聞を読む四日かな

門松の迎へてくれし交歓会

葉牡丹の白のまぶしき飾かな

初売のバーゲンとなる六日

七割引なる初売の赤い札

七割引なる初売の札並ぶ

雨降りて風の冷たき寒の入

売り尽くしセール始まる寒の入

冬物の一掃セール寒に入る

葉のついた大根買って来る七日

大根の葉っぱ刻みて七日粥

保育園にも七種の並べられ

それぞれの効用書かれ七種並ぶ

指差して七種そらんじる園児

雑炊のやうな七種粥もまた

行平に緑の美しき薺粥

定宿のホテルの朝餉薺粥

雲晴れて朝から冬日明るき日

十六人家族揃ひて初写真

訃報また訃報のあけて初戎

福笹の閉店決まるデパートに

上野なる東照宮の寒牡丹

雪乗せて際立てる赤寒牡丹

巡り見ていづれも小振り寒牡丹

フードよく似合ふ少女や寒牡丹

みちのくの乙女のやうな寒牡丹

何処より来しか風花はらはらと

人気なき里は風花舞ふばかり

尋ね来し古刹風花舞ふばかり

丸丸と黄身盛り上がり寒卵

卵かけご飯最高寒卵

寒卵生とは生でいただいてこそ

放し飼ひせしものですと寒卵

ラガーらのパスした後も突進す

ラガーらの倒れてもなほ前のめり

ラガーらのその太股の太さかな

ラグビーのルール知らねど面白し

華道展会場飾る室の蘭

ひときわの明るさ室の胡蝶蘭

新築のロビー明るき室の蘭

幾重にも飾られ室の胡蝶蘭

生花の中に葉牡丹飾られて

この渦を見てと葉牡丹飾られて

鉢植の葉牡丹並ぶレストラン

鉢植の鉢に葉牡丹犇めける

電線におしくらまんぢゅう寒雀

着膨れてゐるかのやうな寒雀

昨夜鍋に残れるものの煮凝りて

煮凝の鰤大根でありにけり

恐る恐る煮凝食べてみる私

煮凝のゼリーのやうな旨みかな

耕せる土をついばみ寒雀

外食の饂飩で済ます正月

その姿原始なれども金海鼠

金海鼠私も好きと嫁も子も

真っ先に売れて仕舞ひし金海鼠

初場所の両横綱の不甲斐無く

初場所の小兵力士の勝ちっぷり

初場所の平幕陣の勢かな

初旅の募集案内どっと来る

大寒に黄花亜麻咲き満てる茶屋

大寒の日に国会の始まりぬ

八角のやさしき堂に冬日差す

雨滴置く椿の花と青空と

日の差してまぶしきほどの寒椿

今朝落ちし椿か傷の一つなく

木にありし時のままなる落椿

尾鰭のみさ揺れ寒鯉動かざる

臘梅の香の消えてゐる今朝の雨

臘梅の蝋透き通る雨滴

古宮の奥は竹林笹子鳴く

寒牡丹庭に咲いたと持ちくれし

初場所の幕尻優勝めでたけれ

初場所の初優勝の晴れやかに

初場所の天晴幕尻初優勝