今月の俳句

2021年12月

匂ひ立つほどや躑躅の帰り花

純白の凛と躑躅の帰り花

見つけたる度に声上げ帰り花

枝先にぽつんと一つ帰り花

帰り花宝探しのごと探す

青空に金を鏤め金鈴子

青空のどの実も光り金鈴子

逆光に綿虫ふはり漂へる

逆光に見ればはっきり綿虫と

日の差して色鮮やかに冬紅葉

冬紅葉人の気配の無き宮に

膝掛を座布団にもしさあ句会

木枯や政治語りし句友逝く

冬空に昼の半月くっきりと

飴色の干芋どれも手作りと

搗き立ての小餅のどれもふっくらと

目の前で切って蜜見せ林檎売る

冬帽子積み上げどれも千円と

日向ぼこするかに花の苗並べ

新米の御負けはジャンボ宝籤

干されても潤目鰯の丸々と

室咲の花の苗買ふ底値待ち

山ほどの蕾散り初む山茶花に

散るほどに蕾の増えて山茶花は

柚子散らし母の風呂吹出来上がる

風呂吹のほどほどといふ柔らかさ

品の良い大根選び風呂吹に

ふと見れば咲いてをりけり枇杷の花

秀頼の自刃の場なり枇杷の花

城山の原生林に枇杷の花

蔵のある屋敷は閑か枇杷の花

風荒ぶ長城白金懐炉して

揮発油の匂ふ白金懐炉かな

小学校へも使ひ捨て懐炉持ち

コンビニで買ふ使ひ捨て懐炉かな

使ひ捨て懐炉配られてバスに乗る

ここにゐるここにゐますと笹鳴ける

耳澄まし待てど笹鳴もうしない

耳澄まし待てば笹鳴き立て続け

目の前の梅に笹子の来て留まる

聴いてくださいとばかりに初音して

踏みつぶさないでください霜柱

奥宮の苔むす庭の霜柱

霜柱綺麗きれいと群がる子

踏みつけてみたくなるもの霜柱

龍馬像はるかに見上げ懐手

懐手見上ぐ龍馬も懐手

側に来て糶を見てゐる懐手

着物着てしてみたかりし懐手

沖を見る鰊番屋の懐手

祝ひ酒抱経へて能登の鰤船に

鰤跳ねる大敷網の広さかな

網の中のたうつ鰤を引っこ抜く

客人の船にと鰤を投げくれて

目の前で獲れた寒鰤ぶつ切りに

祝ひ酒碗に寒鰤平らげる

高値つく能登の寒鰤から売れて

十二月八日ははるか遠き日に

十二月八日よパールハーバーよ

十二月八日は忘れられない日

十二月八日を知らぬ人ばかり

猫好きになれない私漱石忌

八日過ぎ今日は九日漱石忌

鈴懸の黄葉の色の紅葉へと

鈴懸の黄葉の色の多彩さよ

阿讃嶺をほのと朱色に冬紅葉

南国の阿波の紅葉よ冬紅葉

舟も出て兼六園の雪吊は

雪吊の心棒池の中よりも

雪吊し兼六園の景となる

雪吊の縄のほど良き加減かな

雪吊の縄に力みのなかりけり

年金の支給日ですと菫苗

菫苗いただく列に加わりぬ

歳末の閉店セール人気なく

歳末の閉店セール静かなる

枯萩の珠のやうなる実をつけて

咲き残る萩の一叢ありにけり

寒鯉の潜んでをりぬ水底に

水流れ寒鯉少し動き出す

来てみれば小春日和の句会場

九百号目指す誌友と年忘

九百号目指し健啖年忘

赤き実のつく柊に迎へられ

石庭に朱を点々と実万両

老松に寄り添ふごとく実万両

一隅にあって目を引き実万両

庭石の前にきりりと実万両

真っ赤かな枯山水の山茶花は

山茶花の咲き継ぐ庭の日溜りに

冬紅葉枯山水の庭先に

2021年11月

駅弁の鱒鮨旨き秋の旅

懐かしき鱒鮨旨し秋深し

スーパーに駅弁並ぶ食の秋

美しく菊揃ひ咲く助も無く

揃ひ咲き助一つ無く並ぶ菊

日の影を選びて舞台菊人形

白と黄は映える色かな菊人形

栄一も慶喜も若し菊人形

袖口に水管ちらと菊人形

菊人形袂に水を隠し持ち

龍馬なる小鉢の菊の頼りなく

立菊の花壇助無く十二鉢

揃ひ出し蕾見るのも菊花展

刈り込みて木犀の香のいよいよに

刈り込みて木犀の花剥き出しに

雨の日の木犀花も葉も光る

雨滴置き木犀の香の一入に

採集をして来し石蕗の庭に咲く

石蕗咲いて庭の明るくなりにけり

いただきし撫子植うる日当たりに

雨後の撫子の花凛として

その上の与力の屋敷実千両

石敷きの庭に真っ赤や実千両

海鼠壁美しき蔵実南天

蔵のある与力の屋敷実南天

仰ぎ見る紅葉の赤と空の青

青空に紅葉の赤の際立ちぬ

農協の市に室咲シクラメン

室咲にせよと鉢植シクラメン

見るたびに木犀の金輝きて

木犀の黄金の色のいよいよに

水澄みて鯉に交じりし雑魚も見え

名刹の裏は寒禽鳴くばかり

冬日差す丸太の椅子の温かく

本堂の庭ひろびろと枯葉舞ふ

ほどほどに留まってゐる破芭蕉

名刹の裏に神社や小鳥来る

立冬の古刹に人の気配無く

破芭蕉緑の芯の美しく

菩提子の枯れても枝を離れざる

晴れ渡る空に菩提子くっきりと

立冬の空に木豇豆仰ぐ寺

冬耕の鍬を支へに話さるる

昼餉持ち寄りて小春の畑仕事

冬耕の昼は手料理分け合ひて

手料理を持ちて小春の畑仕事

お互ひに声掛け合ひて冬耕す

一声を掛けて冬耕終へにけり

香をたどり来れば柊咲いてをり

葉隠れに咲いて柊なりしかな

柊の花のこぼるる朝の道

石蕗の花咲き満つ庭となりにけり

雨降れば黄を増しにけり石蕗の花

綿虫に光る角度のありにけり

綿虫に重さてふものなかりけり

綿虫の行方は誰も知らざりし

不意に来て不意に消え去り綿虫は

枝先にぽつんと淡く帰り花

帰り花そこにと見ればあそこにも

まぶしきを仰げばそこに帰り花

車輪梅たわわに実り庭小春

丸き実に冬日柔らか車輪梅

昼の月浮かぶ空より時雨来る

時雨るるや眉山は雨の近き山

川渡り来ればもう止み時雨かな

木のどれも刈り込まれたる庭時雨来る

時雨来て観光客のそそくさと

豊かなる孫の髪梳く木の葉髪

髪結ひに注文多き木の葉髪

デパートの消えて聖樹の小さき街

どの店の聖樹も小さき街となり

階段を上ればそこに聖樹かな

聖樹立ついつもこの場所この向きに

群れ成さぬ孤高の鷹の高さかな

天空を神渡るかに鷹渡る

鷹渡る後顧の憂ひ無き如く

ぎっしりと細かな文字で鷹日記

ひたすらに未来目指して鷹渡る

鉢植を南に移し冬支度

庭の木々刈り込み置くも冬支度

今年また婦唱夫随で柿吊るす

皮剥きて熱湯潜らせ柿吊るす

大和柿探し求めて吊るしけり

鼈甲の色に仕上がり吊るし柿

記念日に帰り咲き出し桜かな

門出の日十月桜咲き満ちて

翁忌と嵐雪忌過ぎ一茶の忌

城址かな紅葉の色の美しく

城山へ紅葉黄葉の道を行く

城内はどこもかしこも石蕗の花

城内に陣地広げて石蕗の花

伸び放題咲き放題や城の石蕗

石蕗咲いてどこも明るき城内に

山茶花の花壇にまでも石蕗の花

曲水の岩の間に間に石蕗の花

石庭の石に寄り添ひ石蕗の花

落羽松紅葉高々聳え立つ

落羽松紅葉の並び立てる園

どっとこい坂は搦手木の実踏み

城山の山頂にまで石蕗の花

斬首さる坊への供花か石蕗の花

戦災の石碑に冬日暖かく

木の実落つ音かも次の音を待つ

黄落や藩祖の像は五頭身

藍の花阿波の藩祖の立像に

大銀杏黄葉照葉の艶やかさ

2021年10月

糸瓜かと思えば茘枝垂れてをり

その花の茘枝に似たるゴーヤかな

天辺に行くほど芙蓉咲き残り

仰ぐほど高き芙蓉の残る花

名刹の池ひろびろと鳰一羽

露草の露にまみれて古墳行く

露草の小さき古墳に咲き満ちて

境内に入りたるそこに初紅葉

朝の日を返しまぶしき初紅葉

山寺に声もか細く法師蝉

御手洗の縁に群れ咲き杜鵑草

水清し杜鵑草また清々し

どう見てもてんでばらばら秋の蟻

まだ色の青々として実南天

安産地蔵尊の習字懐かし寺の秋

絵に描きて特選の寺実南天

まんまるは落ちない形芋の露

落ちさうで落ちぬまんまる芋の露

お元気なお顔の揃ひ夢道の忌

夢道忌の句会今年は晴々と

爽やかに集ひ夢道を皆で詠む

夢道忌の句会席題烏瓜

烏瓜真っ赤や夢道忌の句会

何処で採ると聞けば秘密と烏瓜

爽やかな秋の一ㇳ日をドライブし

行楽の秋饂飩屋の混み合ひて

産直の市の通草は採れ立てと

通草割れ美味さうな実の剥き出しに

こぼれてもこぼれても咲き残る萩

店先に鶏頭並ぶ町家かな

鶏頭の四五本背丈競ふごと

秋の花昔のままの町並に

卯建立ち並ぶ町並秋の花

藍商の家の庭先藍の花

干し藍を飾り藍染売る商家

藍屋敷草月流の秋の花

仰ぐほど高き蝦夷松新松子

蝦夷栗鼠の好みの木の実新松子

蝦夷栗鼠の巣穴にまでも新松子

この子栗鼠餌を玩具に新松子

蝦夷栗鼠の走る枝先新松子

栗鼠の頬大きく膨れ新松子

美しき栗鼠の歯形や新松子

カロリーの固まりのやう新松子

ひろびろと刈田裏作今は無く

乾きたる風吹くばかり敗荷田

乾きたる音鳴るばかり敗荷田

敗荷の中を突っ切り高徳線

敗荷の中を一両鳴門線

敗荷の残れる水にこふのとり

こふのとり居着く鳴門の敗荷田

孫崎は四国の起点鳥渡る

鳥渡り来て名水の景となる

郷からと一升瓶の柚子酢持ち

ふるさとの父の搾りし柚子の酢と

柚子の酢も柚子もと持って来てくれし

頂きし柚子半分は手で搾り

頂きし柚子半分はお裾分け

命綱して松手入して来しと

見習の命綱して松手入

松手入とは手で毟り手で毟り

調子出てくればお仕舞障子貼り

霧吹いて仕上がり楽し障子貼り

遠き日の母の手白し障子貼り

障子貼り替へて明るき本堂に

享年の齢に迎えし年尾の忌

阿波に来て詠まれし句読む年尾の忌

年尾忌を詠む年尾忌の日の句会

満開と言へど淋しき藍の花

種を採る三番藍の花は地味

藍刈りて掘り返したる土やはらかき

藍の色わづかに残し藍を干す

銀杏の落ちた途端に潰る音

地に満ちてなほ銀杏の鈴生りに

椋の実の大樹の樹齢七百年

美味さうな椋の実落ちしばかりかな

無花果の古代ローマの遺跡にも

無花果は境最古の果物と

取れ立ての無花果並ぶ直売所

無花果のとろけるやうな甘さかな

2021年9月

雨止んで虫の静かに鳴ける朝

長雨の止みてまぶしき今朝の秋

やはらかな日差のうれし今朝の秋

日曜の朝を静かに虫を聴く

開け放ち虫の音色の中にゐる

十日もの雨止み秋の空高し

雨十日続きし後の秋の空

雨晴れてにはかに増えし赤蜻蛉

長雨の止みて空中赤蜻蛉

秋の蚊に付き纏われてゐる私

秋の蚊に刺されし後のこの痒さ

秋の蚊の三日も残るこの痒さ

秋の蚊の老いの一刺しなりしかな

秋の蚊の暗がりになほ息ひそめ

秋の蚊に刺されし跡の一と月も

七曜にお日様マーク秋暑し

熱中症警報も出て秋暑し

感染症予防のマスク秋暑し

浜松は三十七度秋暑し

稲刈の間に新米届けくれ

新米の一俵だけを精米し

恙無く二百十日を迎へられ

転げ落ちさうで落ちない芋の露

まんまるで転げ落ちない芋の露

石垣は舳先の形秋出水

屋根裏に避難の小舟秋出水

仰ぐほど高き地蔵や秋出水

杉檜丸ごと流し秋出水

秋出水跡くっきりと高地蔵

夜なべして朝一番に起きし母

夜なべして羽織仕立ててくれし母

日照雨来て瑞々しかり百日紅

雨滴置く百日紅の花可憐

四方から集まり帰る燕かな

騒がしき帰燕の空でありにけり

発たんとす帰燕に出合ふ旅の朝

幾度か旋回もして燕去ぬ

先頭はもう雲に消え燕去ぬ

焼栗の屋台にも寄り古都の旅

焼栗の香り辿れば屋台へと

通販の天津甘栗煎り立てと

穴まどひ子らに追はれてただ逃げる

君もまた優柔不断穴まどひ

六尺のその身どうする穴まどひ

道辺にまだうろうろと穴まどひ

間引菜と云へば大根葉よ阿波なれば

間引菜の浅漬けあれば食進む

浅漬けの大根葉の根こそことに好き

法師蝉ばかりの山となってをり

法師蝉ばかりの山にみんみんも

鳴くほどに募る淋しさ法師蝉

ひっそりと熨斗蘭咲ける脇路に

残りゐてけふの一と日を咲く芙蓉

葉に穴のあれど芙蓉の咲き続く

真っ白な芙蓉の花にある気品

天辺の方に芙蓉の咲き残り

底紅の紅にも日差やはらかく

紅白の木槿の花を仰ぐ庭

一面に仙人草の犇きて

美しき仙人草の有毒と

御馳走は母の自慢の衣被

色白の母の作りし衣被

子芋好き親芋もっと好きになり

日本酒に添へて芋茎の酢味噌和え

葛の花はるか昔の尾根路に

四国路はここに始まる葛の花

葛咲ける阿波水軍の隠れ路

大方は葉蔭にありし葛の花

うしろ姿どこか淋しき秋遍路

落ち着きも戻りたる街九月かな

水澄んで鯰は鯰鯉は鯉

ランタナの咲きて玄関花やかに

花こぼしつつも咲き継ぎランタナは

今日厄日明日はテロより二十年

台風の行方気になる今日厄日

平凡に過ぎて嬉しき今日厄日

今日厄日明日は句会で特選を

松虫のおっぺけぺえと聞こえもし

女王と呼ばれ邯鄲実は雄

王様の鈴虫は鳴くりんりんと

がちゃがちゃと鳴きてうるさき轡虫

ころころとさみしき声やちちろ鳴く

虫すだく野分の前の静けさに

秋物の売場シックでエレガント

シックかなエレガントかな街九月

秋物の並ぶ売場の垢抜けて

秋物の売場のどこか垢抜けて

鷹の来ず鳶ののんびり舞ふばかり

羽根たたみ突進するは鵟かも

一羽にて帰る燕を見送りぬ

渡りしは三十六と鷹日誌

種類ごと細かな文字で鷹日誌

重装備して鷹を待つ漢達

あの鷹と聞けば図鑑を見せてくれ

時化後の真青な空を鷹渡る

時化後の鳴門の海に魬釣る

日盛りの松葉牡丹の明るさよ

雨あとの松葉牡丹の鮮やかさ

老人と呼ばれたくない敬老日

年寄りとなるは難し敬老日

敬老を祝ひ町より商品券

町からの商品券や敬老日

雲の間に出でて明るき今日の月

ちらと出てまんまるまぶし今日の月

吾亦紅薄と活けて今日の月

やはらかき月の光に実紫

南国や窓辺に蘇鉄月の宴

望の夜の秋明菊の白さかな

子の撮りしハワイの月を見てほしと

秋分のドライブ窓を開け放ち

トンネルを出れば点々曼珠沙華

本堂へ大師堂へと道をしへ

その背中どこか淋しき秋遍路

この小さき蜘蛛の囲作りしは誰ぞ

一寸に足らざる蜘蛛の囲ありにけり

懐かしき家は空き家に赤のまま

古刹守り生生流転道をしへ

生れ立てなれど斑猫らしき青

秋の日にジンジャエールの花まぶし

秋空へジンジャエールの白い花

朝夕はめっきり冷えて実紫

山寺の色美しき実紫

溝蕎麦の水に蜻蛉もあめんぼも

溝蕎麦の犇めき咲ける一と所

小さくともこの紫は油点草

油点草日陰にありて色淡し

2021年8月

短夜に五輪のニュース多過ぎる

日本は五輪五輪の短き夜

テレビまたテレビで五輪明易し

東京の夏は五輪の熱き夏

テレビでの五輪眠たし明易し

金メダルにはドラマ東京の夏

熱きドラマ次々東京の夏

東京の夏は五輪で沸騰す

高知産マスクメロンを中元に

小豆島醤油今年も中元に

中元のお返しですと胡蝶蘭

玄関に置く一対の胡蝶蘭

胡蝶蘭置けば玄関すっきりと

水遣るは週に一度と胡蝶蘭

初物の梨を抱へて来られたる

まんまるの走りの梨でありにけり

藤の実のさ揺れ涼しき風通る

藤棚の大緑陰に独りゐて

木豇豆の実の垂れ寺はもう初秋

空仰ぎ木豇豆の実を仰ぎ見る

新しき墓あり苔の茂る墓所

蝉時雨涼しき阿波の法隆寺

蝉さへも涼しき阿波の法隆寺

鮎の川子らの遊んでゐるばかり

菩提子のどの実にも付く斜めの葉

大屋根を越えて芭蕉の茂る寺

大芭蕉傷一つなくそよぐなり

名刹の茶室は大芭蕉を背に

新涼の茶室の障子少し開き

逆光の透る芭蕉の葉の青さ

静けさの戻りし街に盆の月

もう会へぬ人のまた増え盆の月

ふるさとの町川照らし盆の月

新豆腐ほのかに豆の香りして

横丁の豆腐屋で買ふ新豆腐

都心にも豆腐屋のあり新豆腐

御苑かな粒揃ひなる花芙蓉

蔵を持ち芙蓉を咲かせ里に住む

傷の無き芙蓉の揃ふ御苑かな

この道のいつもこの辺芙蓉咲く

蔵持てるどの農家にも花芙蓉

包丁を木槌で叩き南瓜切る

包丁にかぶりつきたる南瓜かな

年寄りの切るには南瓜硬過ぎる

一刀両断するに手強き南瓜かな

いただきし南瓜くりやに転がりて

稲妻に臍を隠せと言はれし日

稲妻のだんだん近くなってくる

競歩とは汗汗汗の競技かな

水かぶり全身汗の競歩かな

灼熱の東京五輪は「拷問」と

波立てぬ高飛び込みの涼しさよ

原爆投下されし地に咲く夾竹桃

お湿りのほどの雨降り秋に入る

蝉鳴けど時雨とならず秋に入る

夏の夜の夢かリレーのバトンミス

夏の夜のリレーまさかのバトンミス

夏の夜の夢かメダルの逃げてゆく

金メダル取るも逃がすも夏の夢

ドラマまたドラマの夏の五輪終ゆ

メダル取り感謝の言葉美しき夏

金メダルには汗と涙の物語

金銀銅メダルラッシュの短き夜

ソフト金野球も金で夏終はる

広島と長崎の忌や今朝の秋

メダルの夢潰へし人も夏終はる

諦めないから勝つ東京の夏

灼熱の東京五輪終はりけり

世に希望与へ五輪の夏終はる

世代交代進み五輪の夏終はる

防空壕残る城山敗戦忌

防空壕眉山に数多敗戦忌

防空壕今は閉ざされ敗戦忌

壕の吾は泣かなかったと敗戦忌

二歳児の吾にも記憶敗戦忌

火達磨の銀杏は元気敗戦忌

鉄橋に残る弾痕敗戦忌

琉球の青パパイアの三つも来

抱へたる青パパイアの大きさよ

渋抜けと青パパイアに添書も

肝腎に良いとパパイア送りくれ

切り割けば青パパイアの腹真白

渋抜ける青パパイアを御裾分け

琉球のマンゴー五度も送りくれ

送られしマンゴー知多へ東京へ

八人の孫にマンゴー送りもし

果物は朝がいいねとマンゴーも

朝食にいつもマンゴー添えられて

完熟のマンゴーなりし甘かりし

結果良しマンゴーもまた美味かりし

血糖値下がりマンゴー美味かりし

鈴生りのマンゴー仰ぎ見しマニラ

マンゴーを山と積み上げ露地に売る

2021年7月

ジャカランダ阿波にも咲いてモラエス忌

リスボンは崖多き街モラエス忌

ケーブルで行きたる生家モラエス忌

生家へは二度行きましたモラエス忌

リスボンは大きな田舎モラエス忌

モラエスさん今年何とか阿波踊

モラエス忌来れば徳島梅雨明ける

鯵焼いて鰯も焼いてモラエス忌

独居老人阿波にも増えてモラエス忌

軍人で文人なりしモラエス忌

モラエスは海軍士官雲の峰

わが祖父も海軍でしたモラエス忌

今も美味海軍カレーモラエス忌

領事団首席凛々しきモラエス忌

徳島の小泉八雲モラエス忌

湧き出づるところ見えねど草清水

百選の銘ある水のあめんぼう

竹藪の天辺抜けし今年竹

天辺に鴉が一羽今年竹

捩花のどれも左に巻き上がり

源泉を守るがごとく花蘇鉄

ラグビーのボールのやうな花蘇鉄

百選の清水の川辺濃紫陽花

濃紫陽花ここに清水の始まれる

川を守り川辺に百合を咲かせもし

川岸に百合を咲かせて七年と

犇けるほどにアメリカ芙蓉咲き

一日で萎むアメリカ芙蓉かな

真っ新な芙蓉の花のもう萎み

こはれたるやうに泰山木の散る

楊梅を踏みつけぬやう段上る

ほととぎす鳴かず老鶯鳴くばかり

楊梅の美味さうな実の落ち放題

人去ればあれほど鳴きし老鶯も

遠く見る泰山木の花美しき

近く見る泰山木の花いびつ

大方はいびつ泰山木の花

鈴生りの楊梅なれど捨て置かれ

鈴生りの楊梅甘き香を放ち

老鶯の身を震はせて鳴き通す

笹の中より鬼百合の咲き出でて

鬼百合の一花の凛と笹の中

泉州の水茄子届く箱に詰め

糠漬の紫美しき茄子かな

バーベキュー我が家の締めは焼茄子と

芥子漬するには小茄子一番と

田楽は茄子に始まり茄子に終る

紙魚あれど高値古文書オークション

血か紙魚か阿波の一揆の古文書に

朝顔市ほおづき市もできぬ夏

阿波踊だけは何とかできる夏

空揚げにせんと琵琶湖の稚鮎買ふ

片栗粉まぶして稚鮎空揚げに

撮み食ふ琵琶湖の稚鮎空揚げし

空揚げの琵琶湖の稚鮎お代りす

一時間クルーズをしてもう日焼

日焼して後の祭りの日焼け止め

日焼して丹念に塗る日焼け止め

ちと日焼せしが七日も皮の剥け

日曜の市に目当ての甘酒が

甘酒の重さを語り持ち帰る

妻もまたぐいと飲み干す甘酒は

玄関の松にも蝉の殻三つ

油蝉より熊蝉の多き世に

蝉時雨ひたと止みたる不気味さよ

手の平に取る空蝉の軽さかな

目覚めれば始まってゐる蝉時雨

鳴かぬ日は淋しとさへも蝉時雨

五、六匹なれど我が庭蝉時雨

軍手して夜釣りの鱧の鉤外す

先斗町でいただく阿波の鱧旨し

狼のやうなる鱧の面構へ

鱧買へば骨切りまでもしてくれて

徳島の鱧と京都で愛でられて

獰猛な鱧の切り身の淡白さ

鱧の皮焼けば絶品酒進む

山頂に野鳥の森や時鳥

時鳥鳴かぬと待てば麓より

遠くより来られし人に時鳥

梅雨晴れの山頂鳶の低く飛ぶ

山頂は平らな野原姫女苑

草として抜かれてしまひ姫女苑

山頂の句碑への径の姫女苑

蝉涼し小六正勝眠る墓所

五月晴淡路も紀伊もすぐそこに

五月晴四国三郎蕩蕩と

紫陽花よ若楓よと小糠雨

涼風の戦ぐ山頂濃紫陽花

きっぱりと梅雨明け空の広くなる

梅雨明けて昨日も今日も日本晴

梅雨明けて熱中症のニュース日々

梅雨明けて子らは朝から水遊び

地の中を這ひし鎧か蝉の殻

目の前の蝉は一服蝉時雨

目の前の蝉が尻上げ鳴き始む

命尽き地に落つ蝉も蝉時雨

蝉二十まだまだゐるよこの木には

生きてゐるやうに空蝉しがみつき

鈴生りに蝉ゐる木ありゐぬ木あり

一匹が鳴けば始まる蝉時雨

じっくりと鳴くを待ちゐる蝉もゐて

金メダルラッシュラッシュで明易し

目覚めれば五輪のテレビ明易し

2021年6月

農協の市に向日葵苗も出て

向日葵の大きく咲いてをりし苗

瑞々し雨後の日差の額の花

額の花雨に洗はれ生き生きと

立葵には洋館のよく似合ふ

風跡のあらはなりけり立葵

一雨に背を伸ばしをり立葵

よく肥えた畑の土の立葵

色の無き白で始まる七変化

紫陽花の毬の集まり大鞠に

鯉を見て紫陽花を見て客となる

鯉よりも紫陽花に人寄って来る

鮮やかな赤でありけりアマリリス

咲きました今年も母のアマリリス

紫陽花の一雨毎に色の濃く

紫陽花の紫色の少しづつ

紫は仕上げの色か濃紫陽花

ワクチンの接種の終り桐の花

あっけなく接種の終り風薫る

梅雨晴れてワクチン接種完了す

二回目の接種も終り青田風

白競ふかに十薬と百合の花

額の花十薬百合とどれも白

雨の日の半夏生草遠目にも

半夏生近くで見んと寄り道し

雨の日の紫陽花の色初々し

紫陽花は昔も今も雨に咲き

燕飛ぶ青田の水面すれすれに

豊葦原瑞穂の国の青田風

のどかかなミーアキャットも欠伸して

もぢずりの二つ三つ四つ七つ八つ

遊ぶ子に少し離れてねぢりばな

蝌蚪泳ぐ池の真ん中花菖蒲

白熊もライオン虎も皆昼寝

骨張って象にも夏痩せのあるか

団子虫さがす子夏の動物園

一休みして花菖蒲見るベンチ

睡蓮のあそこにそこに咲ける池

泥水に咲きて清らか睡蓮は

犇ける五月躑躅の明るさよ

影見えぬほどに咲き満つさつきかな

小鯵釣る入れ食ひといふ楽しさよ

小鯵釣る島の漁港の突堤で

一竿に十の鉤つけ小鯵釣る

十の鉤皆に掛かりし鯵重し

鯵買へばなめろうにしてくるる店

クーラーに羊羹鯵の御返しと

青蘆や近江八幡舟巡り

青葦に見え隠れする小舟かな

葭切の葭の河原に夕日落つ

葭原は映画のロケ地行々子

河口には大きな中洲行々子

水郷を行けば姦し行々子

日の光返して竹の落葉散る

ふんはりと竹の落葉の重なれる

からからと小さき音して竹落葉

みな火虫くはがたかぶとかなぶんも

こびりつくヘッドライトの火取虫

誘蛾灯なる名懐かし火取虫

百選の水に群れ咲き鴨足草

虫刺されには鴨足草搾り塗り

耳垂れに搾りし昔鴨足草

解熱には鴨足草なる遠き日よ

穂高よりこんこんと水花藻咲く

藻の花の水澄みに澄む上高地

百選の水に藻の花咲き満ちて

藻の花の水面を出れば突っ立ちて

藻の花のひねもす揺らぎをりにけり

太陽に向かひ藻の花咲いてゐる

藻の花のいつも流れに身を任せ

田の隅のいつもこの場所余り苗

犇きて黄ばみ始めし余り苗

吹き抜けのロビー七夕飾りされ

七夕の竹に短冊鈴生りに

疫病の退散祈り星祭

オリンピックできるやうにと星祭る

仙人掌の今年二度目の開花かな

一と月もおきて仙人掌また咲ける

浮いて来い東京五輪できますと

浮いて来い日本は世界待ってると

川端の夾竹桃の清々し

秋晴れのやうな青空梅雨晴れて

赤ちゃんも手を振ってくれ遊船は

架橋工事眺めて戻る船遊

鱚釣りの船を左右に船遊

潮風の吉野川ゆく船遊び

吉野川河口ひろびろ鱚を釣る

父の日の父のんびりと鱚を釣る

眉山より離れて戻る船遊

街並みを裏から眺め船遊

知らぬ地に来てゐる気分船遊

眉山見え気分落ち着く船遊

遊船の帰路は眉山を正面に

幾つもの大橋潜り船遊

夕べにもアガパンサスの明るさよ

アガパンサス咲いて明るき公園に

2021年5月

筍を掘る斜交ひに山登り

筍を掘る足滑らさぬやうに

筍掘る竹につかまりつつ登り

竹散るやひらひらひらとさらさらと

乾きたる音して竹の落葉舞ふ

見上げれば竹の落葉の日を返し

筍の日差し明るき竹林に

筍の土ふかふかとしてをりぬ

皮を剥ぐ掘しばかりの筍の

茹で上げる堀しばかりの筍を

白壁の家の庭先紫蘭

母の日の母へと胡蝶蘭届く

母の日の母から母へ胡蝶蘭

葉桜のもう深緑となってをり

樹下にゐて鶯の声近くなる

若楓越しの日差のやはらかく

ベランダの楓若葉の明るさよ

錦宝樹真っ赤に咲いて夏来る

夏空にブラシの花の真っ赤かな

雨意孕む茅花流しでありにけり

烟りゐる茅花流しの吉野川

暮れて来し茅花流しの土手帰る

豆飯の豆沢山は母の味

豆飯の豆の犇き炊き上がる

豆飯の水の加減は母譲り

しっとりと硬きがよろし豆ごはん

蚕豆はぽんぽんと莢折って剥く

蚕豆に遠き昭和の味がする

蚕豆を毎日食べし日の遠く

遠州の昔の上司より新茶

初摘みの遠州森の新茶汲む

初摘みの新茶とろりとして甘し

母の日の母にと新茶嫁御より

苗植うる茄子に無駄花なかりしと

高畝に一尺毎に茄子植うる

日の暮るるまでにと茄子を植ゑてゐる

山の子の草笛の音の豊かなる

町の子の草笛ピィッと鳴るばかり

私の草笛鳴らず仕舞かな

草笛の音色のどこか淋しくて

薫風に黒種草の花揺れて

夏来る黒種草の咲き満ちて

一面に咲いて昼咲月見草

夏日にも凛と昼咲月見草

田の隅に苗代作る今年また

苗代は今も手作り貫きて

美しき花打ち捨ておきし仙人掌に

いきなりに仙人掌咲ける朝かな

仙人掌の真珠のやうな花の色

仙人掌の花は太陽正面に

仙人掌の今日一日を咲き誇る

仙人掌の一日限りの花美しき

雨続き二十日も早く梅雨に入る

梅雨に入る庭の緑の美しく

雨滴置く葉の凛々しかり額の花

紫陽花の青き毬にも雨雫

蛸茹でてあるから取りに来られよと

茹で立ての小振りの蛸の旨さかな

渦潮の鳴門の蛸のまるまると

激流の鳴門の蛸のしこしこと

十薬の葉の光りゐる雨の朝

十薬の花の白さよ今日も雨

十薬の花を可憐と思ふ朝

十薬の黄昏時の白十字

2021年4月

桜咲く陽気となれど残る鴨

花咲けど帰る気配の見えぬ鴨

故国には桜は無いと仰ぎゐる

五年ゐて今年最後のお花見と

美しき日本と思ふ桜かな

コンビニの弁当持ちてお花見に

先づ花のトンネル抜けて来られよと

鶯を背ナに桜を眺めもし

花の山より花の山眺めもし

花の下たんぽぽすみれせりも咲き

見渡せば眉山丸ごと花の山

こんなにも眉山に桜ありしかと

此れやこのゆうかの里の糸桜

手植ゑせししだれ桜の咲ける里

十年で三百五十の桜植ゑ

十年で酢橘の山が花の山

酢橘やめ花の名所になりし山

嫋やかなしだれ桜のしだれやう

こんなにもしだれてしだれ桜かな

日本一しだれ桜を咲かさうと

花屑の屑とは何ぞ桜散る

新しき落花の上にまた落花

曙桜なる名の花の大きさよ

曙桜見んと毎年来る人も

眉山より残花の峰を眺めもし

見下ろせば街ぼんやりと花霞

遠目にもマーガレットの白さかな

犇けるマーガレットの美しさ

若葉出てゐても咲き継ぐ桜かな

若葉出て桜の艶のいよいよに

闌けゆけばいよいよ多彩花の山

若葉萌ゆ山に残りてゐる桜

花は嘘つかぬと育て八十路過ぐ

耕してゐるが長寿の秘訣とか

世に名残あるかのやうに桜散る

二十年かかりて花の家となる

チューリップ咲かせ生涯青春と

山住みは楽しいですと花咲かせ

山吹の垣根明るき山家かな

雨に濡れ山吹の色一段と

留まりて渦となりゐる花筏

河鹿聞きたくて今年も吊橋に

河鹿聞く一声なれど嬉しくて

著莪の花斜面の崖を埋め尽くし

著莪咲いて径の明るくなりにけり

珍しき山菜も出て花の宿

山宿は花と若葉に囲まれて

庭先の牡丹見てより来られよと

大輪の牡丹見てより客となる

原色と云ふ明るさのチューリップ

太陽に笑顔の並ぶチューリップ

太陽も子らも大好きチューリップ

並ぶとは美しきことチューリップ

ログハウス風車も並びチューリップ

六十種五万本てふチューリップ

チューリップと云へば赤と白と黄と

チューリップ園に新種も御目見得し

日を浴びて新芽まぶしき百日紅

瀬戸内の初夏の明るき日差かな

初夏の日を返すプールのまぶしさよ

肥として鋤き込まれゆく菜の花よ

休耕の田には菜の花咲かす里

司馬遼太郎邸へ菜の花咲く道を

菜の花の淡路は空も海も青

海にまで菜の花続く淡路かな

菜の花の場所取り合戦吉野川

フレームの中に苗床種を蒔く

小雨来る予報確かめ種を蒔く

店先に筍わらび山蕗も

渦潮に骨折の跡桜鯛

店頭で味見もさせて桜鯛

産直の市にずらりと桜鯛

寿福寺の椿椿の花御堂

そんなにも甘茶なみなみ注がずとも

虚子の忌に参じたる日の花御堂

鎌倉の虚子忌懐かし花御堂

手を引かれ来たる子もあり花祭

庭先に咲きしもの葺き花御堂

再度見る都忘れと教へられ

若葉出ていよいよ白き雪柳

隙間なく犇き咲いて雪柳

この鮨屋いつも満席雪柳

玄関に客間にと生け雪柳

白き点歩き遍路となって来る

遍路標たどり遠道来る人も

七半の遍路新婚夫婦とか

一滴の雨なき穀雨なりしかな

日本中晴天なりし今日穀雨

2021年3月

二分咲いて赤き蜂須賀桜かな

二分咲きの桜に目白椋鳥も

早春の山の古刹に鹿の糞

塵一つなき境内に梅の散る

散り敷きてなほも咲き継ぎ梅の花

蔵のある屋敷大きな臥竜梅

広き野を行けば初音の向かうより

初音聞きたくて野道を行き戻り

畑一枚埋め尽くして仏の座

耕せば雀鶺鴒付いて来る

太陽光パネルの光る里の春

大楠に続いて見上ぐ藪椿

芽を出せばいきなりの花クロッカス

この道のいつもこの場所クロッカス

梅林の梅の野梅となる速さ

梅林の土やはらかく草萌ゆる

彼方此方に犇めき咲ける黄水仙

雑草と云ふ草はなし草芽吹く

江戸の世を今に蜂須賀桜咲く

塵の無き庭に蜂須賀桜咲く

一本で庭埋め尽くしゐる桜

散り初めていよよ咲き満つ桜かな

山茱萸の花咲いてゐる武家屋敷

裏庭に山茱萸の花咲き満ちて

川面にも蜂須賀桜赤く咲き

ダウン着て蜂須賀桜見に来しと

花の下親子の無料撮影会

能面の享保雛は何思ふ

首傾げポーズ取りしは古今雛

芥子雛の少し目尻を釣り上げて

贅沢をするなてふ世の雛小さき

巣作りの小枝くはへて鷺帰る

地虫出づ御殿の庭に鳩雀

人群るる花見の宴はできねども

吉野川堰まで汽水蜆掘る

蜆掘るにも入漁料支払って

潮待てば中洲ひろびろ蜆掘る

蜆掘る漁師は水に胸までも

接木して世に無き新種作らんと

薔薇園に挿木の並ぶサンルーム

挿木して枯らしてしまひまた挿木

虎杖を折ればすぽんと音のして

虎杖の瑞々しさよ酸っぱさよ

塩ありていよいよ旨き虎杖に

懸命に螺旋描きて揚雲雀

引力に任せゐしごと落雲雀

地に降りし途端に雲雀ゐなくなる

雲雀野を来て雲雀野に出る札所

手作りの蓬餅にて迎へられ

餡もまた手作りといふ蓬餅

一輪の添へて出されし蓬餅

蓬餅一品だけの小商ひ

畝立てていつもこの場所芋植うる

里芋の子芋が好きで芋植うる

自家用の芋は屋敷の内に植う

野蒜摘み酒は清酒か白ワイン

野蒜摘む心弾んでをりにけり

野蒜とはあそこにそこに足元に

紀の海へいかなご舟の淡路より

ゆったりといかなご舟の浮かぶ海

釘煮好しちりめんも好し小女子は

小女子のちりめんですと送りくれ

料理屋の生垣真白雪柳

咲き満ちてこその青春雪柳

船着き場ありしは昔馬酔木咲く

馬酔木咲く卯建の町の港跡

端に柳の大樹芽吹く町

ほんのりと黄ばみ始めし柳の芽

葉牡丹の渦盛り上がり茎立てる

店先の鉢植春を彩りて

鉢植に春の日差の暖かく

控え目でゐる美しさ霞草

花嫁のベールのやうな霞草

春風に家中の窓開け放ち

箒目の残る寺苑に落椿

地に落ちし椿のなほも瑞々し

春雨に鯱鉾烟る国分寺

春雨に庭の青石美しき寺

巨岩組み合はせし庭に牡丹の芽

去ぬ気配なき鴨のよく太りをり

花の雨滑らぬやうに磴下りる

2021年2月

初場所の平幕優勝めでたけれ

初場所の平幕重いと賜杯抱き

初場所の賜杯を抱きて重かった

初場所の賜杯は突きの平幕に

鴨群るる中学校のプールにも

七羽もの鴨の来てをり学校に

こんもりと畑一面仏の座

仏の座茂る畑を冬耕す

鬼やらふ園児も声をはりあげて

節分の鬼の面つけにこにこと

立春の光まぶしき新居かな

立春の風のわづかに尖って

立春の風に残ってをりし棘

立春の光りは松の葉先にも

玄関の松に春立つ日の光

立春の星座明るくありにけり

春耕の後に雀も鴉も来

春耕の土掘り返す鴉かな

地虫出て雀に鴉白鷺も

二ン月の四国三郎きらめいて

噴水のしぶきまぶしき二月かな

水撥ねてまぶしき春の光りかな

満作のもじゃもじゃの黄のまぶしさよ

眉山嶺のパゴダまぶしき二月かな

マスクしてゐても梅の香ほんのりと

昨夜掘りし土竜の土か温かし

土竜打なるは知らねど土竜跡

草萌ゆる土竜の土のほかほかと

満作の枯葉纏ひて咲きにけり

満作の後生大事に枯葉つけ

去年の葉を大事に咲けり満作は

満作の咲き満つ空の青さかな

満作の黄に始まれる磴上る

畦を焼く寺領ひろびろ国分寺

野焼の火いきなりどっと走り出す

生き生きとワイングラスの椿咲く

水吸って見る間に伸びし蕗の薹

春の風邪なんぞ引いてはをられぬと

熱の無く一安心の春の風邪

春風邪と云へど巣籠りしてゐると

昼はただ寝てゐるばかり恋の猫

猫の恋三毛もペルシャも野良猫に

恋猫に「放蕩息子の帰還」ふと

ずぶ濡れて虚ろな眼恋の猫

春耕の畑に椋鳥鶺鴒も

なづなもうぺんぺん草となってをり

なづなからぺんぺん草になる速さ

ひろびろと雛を飾りあるロビー

階段を上ればそこに飾り雛

梅咲いて昔と同じ空の青

清き水流るる岸辺梅の花

咲き満てる梅林の土やはらかく

独りゐて梅の香りを存分に

そこここに咲き初む梅の白さかな

梅咲いて亡き人のこと語り初む

山に野に川辺にも梅咲ける里

梅林の土ほかほかと仏の座

盛り上がるほどに群れ咲き仏の座

石垣の上の方より枝垂れ梅

釣鐘のやうな形に枝垂れ梅

春一番吹いたと後で聞くばかり

春一の恐さは伝へ聞くばかり

春一の来るてふ予報聞かざりし

踊り食ふ白魚の目のいとほしく

椀泳ぐ白魚の目のいとほしさ

群れて来る白魚じっと待つ四手

朝潮に乗りて白魚来ると云ふ

寒戻る阿波に初雪牡丹雪

降り続きゐても積もらず牡丹雪

きっぱりと晴れ渡りたる雨水の日

青空のまぶしきほどや雨水の日

寒牡丹ならぬ葉牡丹藁苞に

藁苞の葉牡丹渦を巻きあげて

句碑の辺に紅白の梅咲き添ひて

句碑の辺に少し離れて蕗の薹

近づけば蜘蛛の子のごと目高散る

日の差せば水面に寄ってくる目高

この小さき初蝶の目と目の合ひぬ

くっきりと紋あり小さき初蝶に

うららかや句碑を囲みて句に遊ぶ

句碑の字の墨黒々と梅白し

2021年1月

スーパーに竹輪麩けふはおでん鍋

竹輪麩のおでん東京日々遠く

蟹の身を詰めたおでんよ金沢よ

正月の客に振る舞ふおでんかな

客迎ふ亭主自らおでん茹で

大鍋におでんを茹でて迎へくれ

冬紅葉越しなる空の青さかな

ちらほらと咲いて満開冬桜

つまものに冬の日差の暖かく

山葵田にやさしき冬の日差かな

冬枯れの山に山葵の田の緑

葉山葵の緑輝く冬日向

取る人もなくて残ってをりし柿

キャンピングカーも来てゐる冬の宿

青竹の正月飾り凛として

門松の材で正月飾りかな

門松の凛と創業百年目

門松の青竹高く正門に

門松や今年創業百年と

門松を見上げ出社の足軽く

初暦めくれば小川芋銭の絵

初暦一茶の句にて始まりぬ

初暦掲げば気持ちしゃんとして

年毎に小振り我が家の鏡餅

鏡餅飾らぬ家の多くなり

子の家は鏡餅なく餅もなく

子も嫁も鏡餅など飾らぬと

鏡餅飾る頑固と言はれても

鏡餅だけは断固として飾る

鏡餅飾れば気持ち引き締まる

鏡餅飾れば早もひび割れて

鏡餅だけは飾ると頑なに

鏡割して七草の粥の具に

欠餅にしていただきし鏡餅

欠餅にすれば絶品鏡餅

欠餅にすれば完食鏡餅

濡れ羽色いと美しき寒鴉

颯爽と来て颯爽と去る寒鴉

群れてゐて一つ一つや福寿草

禁苑のいつもこの場所福寿草

ふるさとはもう福寿草咲きしかと

ふくよかな母の顔ふと福寿草

庇より槍のやうなる氷柱垂れ

落ちさうな氷柱の槍の真下行く

背丈越す氷柱草津の宿の朝

いと赤し雪の越後の寒灯は

星かとも思ひし祖谷の寒灯は

昼もなほ寒灯灯しある末社

迷ひ来し径の寒灯ありがたく

寒灯の一つに一つある夕餉

見つけたりわが坪庭に竜の玉

その奥に潜んでをりし竜の玉

お散歩のブルドッグにもちゃんちゃんこ

首すぼめ身じろぎもせず番鴨

山茶花の垣根ばかりの輝きて

戻り来し鷺の冬日の暖かく

どの鷺も身を乗り出して冬日受け

冬日向鷺のコロニー復活す

石庭に一点の赤実万両

梅一輪一輪なれど凛として

その中に独りで来る子大試験

一抱へもの山茱萸の花活けて

山茱萸の花の明るきロビーかな

雨三日臘梅の香の消えてゐず

雨三日臘梅の艶いや増して

雨滴置き瑞々しかり落椿

散るほどにいよよ咲き満ち姫椿

石段の青石真青寒の雨

除かれし橙に雨どんど跡

受験子の絵馬新しく美しく

初場所の天晴平幕初優勝

初場所の平幕上位を総嘗めし

初場所を突き押し一本まっしぐら

初場所の上位力士の腑甲斐無さ

葉牡丹を眺め入って来られよと

雨の日の葉牡丹にある勢かな