今月の俳句

2022年12月

落葉踏み紅葉錦の城巡る

仰ぎ見るメタセコイアの黄葉を

城山はあそこもそこも石蕗の花

日の陰にありて鮮やか石蕗の花

遠目にも満開なりし石蕗の花

搦手に近づくほどに石蕗の花

搦手の径はここより石蕗の花

ほどほどでいいのに城の石蕗の花

ほどほどの御殿の石蕗の花美しき

戦災に残り銀杏鈴生りに

極限の美となり銀杏散り始む

時雨来て歩こう会の駆け足に

冬薔薇阿波は南国勢あり

競ふごと咲いて冬薔薇なりしかな

ほどほどといふ美しさ石蕗の花

ほどほどを越へてお城の石蕗の花

黄落の明るさ浴びて子ら遊ぶ

黄落の只中にあり藩主像

黄葉を見上げ落葉を踏み締めて

戦災に耐へし銀杏の照黄葉

品の良く御殿の庭の石蕗の花

岩抱けるやうにも咲いて石蕗の花

流水に沿ふが如くに石蕗の花

石蕗の花ありてこそなり岩の山

平らかや小春日和の瀬戸の海

注連飾る海へ伸びゆく参道に

うどん屋に皇帝ダリア高々と

ひろびろと穭田続く伊予に入る

穭田も黄金の色や予の国は

煙突の煙真っ直ぐ秋空へ

鈴生りの柿をどなたも見てをらず

鈴生りや自家菜園の蜜柑にも

稀に赤混じる四国の照黄葉

冬耕と云ふほどでなく畑に出て

家ほどの山茶花咲ける町屋かな

新幹線生みの親なる里の秋

枇杷の花この駅もまた無人駅

泡立ち草皇帝ダリア並び立つ

ターナー島指呼に皇帝ダリア立つ

家毎に蜜柑の実る伊予の秋

家々に蜜柑たわわや予の国は

街路にも蜜柑の実る街に来て

小春日を俳句ポストのある街で

銀杏散る十重に二十重に敷き詰めて

天辺に緑を残し銀杏散る

翡翠は水に小鳥は山に来る

坊っちゃん電車来れば小鳥の散らばれる

坊っちゃん電車行けば小鳥の戻り来る

枯萩に残る緑の鮮やかさ

枯れて行く萩に明るさありにけり

裂けるほど口開け石榴たわわなる

鈴生りの石榴いづれも口開けて

美しく枯れて音なく柳散る

その下に彩り広げ柳散る

その葉まで朱色に染めて実南天

その上の屋敷の庭の実南天

公園の奥に真っ赤な紅葉かな

日当たっていよいよ真っ赤なる紅葉

喬木を駆け上がりゐる蔦紅葉

やや暗き所にありし蔦紅葉

公園を巡り紅葉に足止める

紅葉と云ふ天然の美しさ

曲がる度桜紅葉の登城坂

冬晴れの城石鎚の峰も見え

マドンナのロープウエイにも冬温し

ロープウエイにもマドンナの街冬温し

石垣に桜紅葉の美しき城

天守閣前まで桜紅葉かな

見惚れゐる桜紅葉の赤であり

大会は時雨るる城を前にして

早々と獅子舞も出て里祭

早々と獅子舞の出る小春かな

冬晴や拍子木太鼓音冴えて

冬晴の空を飛行機縦横に

獅子舞の稚児に冬日の暖かく

掘り出せし史跡の土に冬日差す

笹鳴きと云ふは正しく笹に鳴く

登城阪一息つけば笹鳴ける

笹鳴ける姿見えねど動きけり

笹鳴きの私だけに聞こえぬ日

具沢山過ぎる雑炊持て余す

雑炊の地芋とろけて甘かりし

熱熱の雑炊なれば少しづつ

雑炊に四方山話はづむ夜

猪鍋をジビエ料理と云ふさうな

猪鍋を牡丹鍋とは上品な

子も嫁も孫も好きてふ牡丹鍋

旨かりし鮎料理屋の牡丹鍋

猪出ると云う町に来て牡丹鍋

奥能登の闇の中より虎落笛

波荒き能登の外浦虎落笛

餅搗きし昭和も遠くなりにけり

三味線に合はせて餅を搗ける町

餅を搗くにも序破急のありにけり

餅搗きの餅を反せる手際かな

搗き立てが一番旨し黄粉餅

搗き立ての餅は大根卸でも

柚湯しか思ひ浮かばぬ冬至かな

山の端に冬至の細き月かかる

市巡る買ひし大根ぶら提げて

とれとれの冬菜のどれも百円と

着ぶくれのぶつかり合へる朝の市

冬日差し土佐の刃物の光る市

競り売りやポインセチアも葉牡丹も

寒風に干せよと云ひて鱓売る

寒風に鱓を干せと云はれても

三尺を超ゆる鱓の太さかな

捌くから鱓を買えと云はれても

柿並ぶ大和愛宕と来て次郎

冬の星汀子の星のまたたきぬ

オリオンを見てより冬の星を見る

どれも皆凍てつけるかに冬の星

こんなにもたくさん見えて冬の星

体調を整えおくも年用意

ほどほどにして年用意せしとせん

くたびれぬことが肝心年用意

愛宕柿一箱買ひて吊るしけり

愛宕柿剥ひて吊るせば一と日終ゆ

雪の日の竪穴住居暖かし

臘梅の匂はぬほどの寒さかな

日差受け臘梅らしき香を放つ

日差受け臘梅らしき艶となる

日差受け臘梅少し膨らみぬ

葦葺きの屋根に残りし雪も消え

ぢつと待ちをればやうやく笹子鳴く

葦葺きの史跡の里に雪が降る

雪止みて風の冷たき晴天に

葦葺きの屋根より雪の降り積る

竪穴住居並ぶ史跡に雪が降る

冬晴の阿波の史跡の里に立つ

静かなる史跡に小鳥賑やかに

紅葉山どれも古墳ぞなだらかや

雪止みてきつぱりと晴れ渡る空

阿波の国始まる里に笹子鳴く

2022年11月

菊どんと活けて新装せし老舗

和菓子には旬のありけり栗鹿の子

都心にも芒の戦ぐ庭のあり

ひろびろと芒の咲けるホテルかな

天高しホテルの滝を見上げれば

滝の辺に咲き残りしは萩の花

アメ横の今日の目玉は松茸と

歳末の街にも一度来られよと

秋日濃し本丸御殿石庭に

秋日差す庭の箒目際立てて

内庭に石蕗の花咲く博物館

内庭に水琴窟と石蕗の花

蔵の街巡りてをれば暮れ早し

秋空に男前かな時の鐘

秋一と日汽車の形の乗り物で

銀杏の鈴生りなりし園巡る

庭園の紅葉水面まで染めて

紅葉の日本庭園茶屋で見る

雪吊りの終りし松の高さかな

逃げたかたと見ればまた来て赤蜻蛉

ほととぎすとはこんなにも犇ける

ほととぎす草の煌めき咲ける庭

小さかり盆栽苑の鶏頭は

蔓のごと盆栽苑の竜胆は

庭園の茶室の庭に野菊咲く

近づいて見れば野菊の繊細な

噴水を背にコスモスの鉢並ぶ

噴水もコスモスもまた美しく

天守閣前は今年も菊花展

敗荷の水に鴨来て翡翠も

小田原の宿場の跡や柳散る

酸つぱくて甘き石榴のジュースかな

蒲鉾の老舗秋明菊咲ける

遠目にも秋明菊の白さかな

空港に柿栗林檎並ぶ市

産直の柿よ栗よと空港に

機窓より積雪の富士眺めもし

暮れ早し富士の姿もおぼろげに

捨墓に寄り添ふやうに実千両

ほったらかしされし庭にも実千両

結界の垣根を越えて実千両

木豇豆も枯れ尽くす寺冬に入る

鐘楼の屋根の雑草にも冬日

継ぎ接ぎのされし古刹の白障子

青空の高く明るく冬に入る

青空に白鷺の舞ひ冬に入る

禅林に小鳥来る来るまたも来る

本堂も茶室も閉ぢて冬に入る

庫裏しんとして名刹の冬に入る

観世音笑み湛えつつ冬に入る

ご奉仕の衆に任せて冬に入る

老僧は姿も見せず冬に入る

張り替へぬ障子のままに冬に入る

重文の古刹鎮もり冬に入る

立冬の観音堂に人気無く

蓮根掘るホースの水を鋤として

蓮根掘る外つ国よりの研修生

蓮根掘る高徳線に沿ふ畑で

泥の顔互ひに笑ひ蓮根掘る

生垣の茶のちらほらと花つけて

茶の花の小さきながらも金の蕊

茶の花の小さきが一つ二つ三つ

冬耕の翁について行ける鷺

冬耕の皆に声掛け早仕舞

冬耕は昼間のうちと同級生

世に遠く住むことに慣れ花八手

木洩れ日に少しまぶしき花八手

手入せぬ庭に今年も花八手

御苑にも裏口のあり花八手

薔薇と菊香る花束贈られて

花束を抱き菊の香に包まるる

皆が見る皆既月食なる月を

日本中月と星とのショーに沸く

皆既月食部分月食ともに見て

何事も無かりし如く満月は

我が庭の彼は誰れ時の石蕗の花

一株がこんなにも増え石蕗の花

新米のぼうぜの鮨は阿波の味

柚子の酢のぼうぜの鮨は母の味

お歳暮と三ヶ日蜜柑早も来る

三ケ日の蜜柑昔の上司より

朝の日に紅葉の赤のまぶしかり

真つ赤なる紅葉に残る緑かな

大和柿待ちて今年も吊るしけり

皮剥いて塩湯に通し柿吊るす

特大の大和柿剥き吊るしけり

特大の柿剥く林檎剥くやうに

柿吊るし終へれば寒さ一段と

大仕事したる気分や柿吊るし

2022年10月

大鷲の凧でありけり鳥威

里人のやうな人形鳥威

ビニールの烏を吊るし鳥威

見れば買ふ旬の短き無花果は

木に登り無花果採りし日の遠く

無花果の乳のやうなる汁を垂れ

無花果はごはごはとした葉の先に

搦手は暗き密林小鳥来る

城山は天然の森小鳥来る

小鳥来る野鳥の絵ある公園に

小鳥来る眉山に野鳥観察園

徳島の高尾山でと烏瓜

この径に採りし記憶や烏瓜

蔓引けば二つ三つ四つ烏瓜

烏瓜真つ赤や夕べの光にも

敗荷田一点の白こふのとり

視野果つるまで一望の敗荷田

残したし敗荷田行く鳴門線

敗荷の残れる水に動くもの

ガス設備点検もして冬支度

住所録整理するのも年用意

一番は健康管理冬支度

予定皆書き出すことも年用意

新札を用意するのも年支度

がむしやらに走る子が好き運動会

誰も彼も我が子に夢中運動会

初鴨の中学校のプールにも

初鴨の来てこの川の景となる

初鴨の陣らしきもの早も組み

初物の柿二つだけ選び買ふ

外つ国の市でも柿はかきと言ふ

大和柿待ちて今年も吊るさうか

柿畑いくつも抜けて遍路来る

雲一つ無き秋空に鳶一羽

走る子に追いつけぬ父母秋高し

日曜の秋の公園子ら走る

公園の日影に座せば昼の虫

秋日濃し新品遊具よく光る

公園の日向に座せば秋茜

渓に出て耳をすませば鉦叩

十月の日時計補正八分と

はるかより金木犀の香りかな

日を浴びて金木犀の輝ける

沖縄のシークワーサの届く秋

秋日濃しシークワーサの緑にも

健康で会える嬉しさ夢道の忌

夢道より長生きできて夢道の忌

夢道より長寿が集ひ夢道の忌

餡蜜と動けば寒い夢道の忌

勲章はこれこのみやげゐのこづち

ゐのこづち野良の仕事の勲章と

ウクライナにもこの青き秋天を

ウクライナふとこの青き秋空に

真青なる秋空にふとウクライナ

明るくて少し淋しき十三夜

星一つ寄り添つてゐる後の月

小振りなる焼鮎ならば頭より

塩焼きの鮎の姿の美しく

奥座敷には竜胆の活けられて

松手入朝一番に庭師来る

四方から眺め始まる松手入

天辺の方から始め松手入

手で毟りたまに鋏や松手入

玄関の松の手入れは一と日かけ

松手入終り庭師の饒舌に

鳰をらず鵜を眺めゐる秋の川

藤棚の下は秋風さはやかに

満開のやうな桜の帰り花

青空に輝いてゐる帰り花

鴨はいつ来るかと鷺に尋ねても

さまざまな小鳥の声の中にゐる

何もせず秋の大気の中にゐる

十月の季題の何と多彩なる

秋天の雲の上行く飛行機よ

秋空に白の際立つ飛行機よ

秋晴れのマルシェはどこも家族連れ

秋晴れの一と日をマルシェ巡りして

秋高し武家の衣装で弓を引く

的射れば当りの声の爽やかに

2022年9月

咲き継げるカンナの赤の明るさよ

咲き継げるカンナの赤の新しく

咲き継げるカンナの赤の瑞々し

こぼれてもこぼれても咲き百日紅

風無きにこぼれこぼるる百日紅

青空へ伸びて行きけり百日紅

青空にいよいよ赤し百日紅

雨に濡れ色美しき百日紅

花弁の雨粒光る百日紅

万両のまだ色の無き実をつけて

滴るる水の音にも秋は来ぬ

吾亦紅活けて我らを迎へくれ

お刺身の具に芋茎の添へられて

焼き立ての地鮎が皿にてんこ盛り

鮎飯に水茄子漬も添へられて

裏年と云ふ銀杏の淋しさよ

秋日濃し石庭めける箒目に

門前の左右に萩を咲かす寺

法師蝉だんだん間合長くなる

法師蝉までも静かに鳴ける寺

宝前に音もたてずに来る揚羽

線香も静かに燃えぬ寺の秋

枝撓るほどに青柿鈴生りに

青柿の落ちぬやうにと仰ぎ見る

徳島に夜間中学校できる

白髪の夜間中学生もゐて

晩学は喜びですと夜学生

不登校今はしないと夜学生  

山霧の水滴一つづつ光る

山霧の水滴光る中にゐる

霧生まれ積む晴天の山の朝

萩の花咲ける道来て山の湯へ

山の湯の宿は庭中萩の花

山の湯の散歩道にも萩の花

城址公園紅白の萩の花

青空へ鶏冠突つ立て鶏頭は

鶏頭は今日も群がり咲いてをり

庭先の鶏頭を見て店に入る

日本で見て来し月をリスボンで

リスボンの月はジャカランダの空に

月に行く計画を聞き月を見る

幾つもの訃報の届き月を見る

子規庵の糸瓜咲いたか獺祭忌

鶏頭を立ち止まり見る獺祭忌

のぼさんと呼ぶ町に来て子規祀る

スーパーに大根葉が並ぶ徳島は

間引菜と云へば大根葉よ徳島は

浅漬の大根葉の根こそ旨かりし

間引菜を採るためだけの畑てふ

菜を間引く季節先取りする気分

うろつかず消えるがよろし秋の蛇

穴まどひするほどの穴もう無いよ

これはまあ仙人掌までも帰り咲き

帰り咲く仙人掌の花瑞々し

賓客のやうに台風来るを待ち

特別に特に危険な台風と

過去に例無きほどの台風と

吉野川荒れて台風来る気配

全雨戸締めて台風来るを待つ

雨戸締めれば台風の音静か

台風の夜の雨戸のよく軋む

台風のことばかり見て一と日過ぐ

敬老の日は台風で暮れにけり

台風の映像ばかり見て三日

百日紅全て散らして台風は

台風のすべて散らせし百日紅

台風の過ぎたる朝の清々し

台風の綺麗に洗車してくれし

台風の洗ひ出したる空の青

台風に落ちてしまひし青栗よ

蔵元の酒屋真白き萩の花

萩の花愛でて老舗の酒屋へと

式部の実垂れてお洒落なレストラン

雨滴置き撓る紫式部かな

淡路では青田苅田と入り混じり

淡路ではここにも古墳竹の春

淡路行くあそこもそこも竹の春

すっぽりと霧の中なる関ケ原

霧流れ意外に狭き関ケ原

木曽三川過ぎて名古屋も霧の中

浜名湖も鰻の池も霧の中

爽やかな駅のピアノに迎へられ

霧晴れて三年ぶりの浜松に

連休の度に台風来る日本

豪雨過ぎ雲一つ無き秋空に

豪雨禍の噓のやうなる秋晴れに

秋晴れて百周年の式典に

爽やかな吹奏楽で始まりし

声出さぬ万歳なれど爽やかに

食の秋ならん鰻の名店へ

浜松の鰻重旨し秋惜しむ

六十年前の上司と秋惜しむ

八十路なる上司夫妻と秋の宴

初茸に新米新酒新蕎麦も

品書に秋の季題が五つ六つ

会席の締めは松茸ご飯かな

デザートは栗のムースと藷アイス

浜松に二泊三日の秋の旅

浜松の秋は駅でも音楽祭

伊吹山まで一面の豊の秋

秋空に飛行機雲の次々と

肩の凝りテープで癒す秋の旅

2022年8月

青空と入道雲と向日葵と

太陽にたじろぎもせず向日葵は

平らかなウクライナふと向日葵に

向日葵の仰ぐほどなる高さかな

向日葵の顔は真ん丸どの花も

向日葵の大中小の顔並ぶ

向日葵の人死すほどの暑さにも

向日葵の林の中の熱りかな

静かなるウクライナにと向日葵に

平和なるウクライナにと向日葵に

核威嚇する国今も原爆忌

核兵器無き世を願ひ原爆忌

戦争は今もと云ふ子原爆忌

戦争は愚かと云ふ子原爆忌

戦争しない人が強いと原爆忌

核兵器愚かと断じ原爆忌

先制使用せぬを約せと原爆忌

厳粛な式に扇子を使ふ馬鹿

開け放ち大気を部屋に今朝の秋

深々と大気を胸に今朝の秋

吸ひ込める大気の旨し今朝の秋

賑やかにあれど静かや秋の蝉

立秋の風と思へば心地よく

青空に底紅の紅くつきりと

枯蟷螂と見れば全身揺さ振らせ

落ちて来し毬栗青く柔らかし

落蝉も落栗もとて蟻忙し

青空と真白き雲と底紅と

立秋と思へば蝉の音も涼し

立秋の一と日大事に句に遊ぶ

長崎を最後にしてと長崎忌

核兵器無き世界へと長崎忌

長崎忌その語り部の凛として

緑濃き街となり来て長崎忌

あの日から七十七年原爆忌

恒久の平和を願ひ原爆忌

コーラスに平和を祈り長崎忌

静かなる街に鐘の音長崎忌

墓参して蛇口ひねれば日向水

冷水の出るまで待ちて墓洗ふ

墓冷えるほどに水掛け洗ひけり

孫たちが水運びくれ墓洗ふ

弟よ父よ母よと墓洗ふ

清らかな冷たき水に盆の供花

選び来し線香供へ墓参終ゆ

咲かぬかと待てば咲きをり百日紅

殿の役か我が家の百日紅

秋風を待ちて我が家の百日紅

枝と云ふ枝に花つけ百日紅

紅の色淡き我が家の百日紅

指先の動きに気品阿波踊

指先に視線を集め阿波踊

少女らも品よく女踊りかな

雨上がり今日阿波踊最終日

祈り込め終戦記念日の踊り

鎮魂の祈りを込めて阿波踊

阿波踊終りし朝の鉦叩

雨に濡れ色増しにけり百日紅

生き生きと鮮やか雨後の百日紅

ただいまと声を揃へて帰省する

子も嫁も孫も帰省が大好きと

来て嬉し戻りて嬉し子の帰省

稲妻に母へと走る弟よ

ゆっくりと静かに回れ走馬灯

新しきものに取り替へ秋簾

鳴り物を先頭もあり阿波踊

連ごとに違ひを競ひ阿波踊

連ごとに違ふ踊りや阿波踊

枝先と云ふ枝先に百日紅

ちちろ鳴きなほも咲き継ぐ百日紅

かなかなの鳴きぬ宿題しておかな

かなかなを聞きたく高尾山登る

かなかなの声のだんだん遠くなる

かなかなの声に淋しさありにけり

咲き継ぎてなほもカンナの真つ赤つ赤

一列になりてカンナの咲ける道

無人駅ここにもカンナ赤々と

2022年7月

こふのとり巣立つ徳島モラエス忌

モラエス忌来れば徳島熱帯夜

此れやこの滝の焼餅モラエス忌

ポルトガルワインは甘しモラエス忌

モラエス館できぬ徳島モラエス忌

孤愁とは遠ければなほモラエス忌

リスボンは大陸の果てモラエス忌

ヒマラヤを越えてリスボンモラエス忌

おそなへはたんとかすてらモラエス忌

太っちょの鰯丸焼きモラエス忌

モネの絵のやうに睡蓮咲かす池

睡蓮やモネは日本が好きだつた

ひろびろと睡蓮の咲き満てる池

睡蓮の一斉に花開く朝

敷き詰めたやうに睡蓮広がりて

この時季のこの店でこそ鮎背越

ガラス器の氷に乗せて鮎背越

蘭届く暑さ見舞の文添えて

一鉢で明るき部屋に胡蝶蘭

瀟洒なる家に白さるすべり咲く

曇天に夾竹桃の白さかな

もがくほどずり落つ蟻や蟻地獄

修羅場なる静かなる場所蟻地獄

磴上り終へればそこに蟻地獄

平和なる宮に戦場蟻地獄

夏の雨阿波の青石青くして

咲き残りたる夏萩に雨やさし

涼しさや観葉植物店先に

水打って観葉植物並ぶ店

赤よりも赤きブーゲンビリアかな

琉球の旅のブーゲンビリアふと

真っ先に海月を捨つる地引網

水族館海月の館は薄暗く

海月より中華料理のフルコース

桟橋で船の出るまで海月見る

花の付く胡瓜産直市で買ふ

糠漬に胡瓜一山買って来る

揉んで好し叩きて好しの胡瓜かな

一と月も避暑の旅する国に来て

避暑の旅にとサマーバケーション

キャンピングカーで渋滞避暑の道

入院は個室すっかり避暑気分

避暑に来しスイスの旅のこの暑さ

食べ頃はいつとメロンに書いてあり

ずっしりと重きメロンをいただきぬ

日向水そのまま子らのプールにと

行水の無き世なれども日向水

遠き日となりし昭和や日向水

懐かしき昭和の暮し日向水

帰り来て大の字なりし子の昼寝

長過ぎる話は昼寝したくなる

昼寝してきっといい夢見てゐさう

本会議場にあちこち昼寝して

古代蓮満開ですと案内され

古代蓮咲ける鳴門の島田島

二千年眠りてをりし蓮の咲く

二千年前の世伝へ蓮の花

二千年前の世今に蓮の花

上品な薄紅古代蓮の花

古代なるロマンを今に蓮の花

大振りで純白古代蓮の花

生き生きと大きく古代蓮の花

たくましくさわやか古代蓮の花

大賀蓮咲かせ鳴門に来られよと

高原に三万株の濃紫陽花

紫陽花の海抜千の高原に

高原の雨は冷たし濃紫陽花

紫陽花の色増しにはか雨止みぬ

吉野川平野眼下に額の花

遥かなる眼下に眉山額の花

高原は見渡す限り額の花

高原の風はもう秋額の花

鮮やかな色でありけり額の花

いつまでも瑞々しきは額の花

明けてよりぶり返す梅雨藍を刈る

雑草の混じりし藍を刈り上げる

天候の不順相手に藍を干す

藍を干す久しぶりなる晴天に

古びたる大箕大事に藍を干す

作る人絶えし大箕で藍散らす

藍を干すハウス一歩で噎せ返る

干藍の反せば熱りをりにけり

一番の藍干し上げて寝床へと

二番藍そろそろ刈ろか雲の峰

焼き立ての土用の丑の日の鰻

鹿児島の鰻その場で焼いてくれ

焼け過ぎはおまけと鰻くだされし

焼き立ての鰻五匹で子も孫も

店頭で土用の丑の鰻焼く

スーパーの店頭土用の鰻焼く

鰻焼く片つ端から売り切れて

土用かな山のやうなる鰻売れ

仙人掌の蕾こんなに大きくて

咲きさうな仙人掌を見て店に入る

2022年6月

捨て置きし鉢の仙人掌どっと咲き

仙人掌の花の犇き咲ける鉢

仙人掌の一と日限りの花美しき

仙人掌の花睡蓮の花に似て

仙人掌の花は太陽正面に

どくだみのかはたれどきの白さかな

庭中にどくだみの花咲き満ちて

隅々にまでどくだみの咲ける庭

咲きました今年も母のアマリリス

アマリリスほんとに母は好きでした

裏山に実梅鈴生りなる古刹

継ぐ人の絶えし梅にも青き実が

捨て置かれたる梅の実の小さきこと

青梅を採る二の腕の白さかな

孑孑の伸びて縮んでまた伸びて

孑孑に重力てふは無かりけり

目高飼う甕に孑孑湧いて来し

小雨来て勢増しけり立葵

天辺と天辺競ひ立葵

田水引き終えて仰ぎし立葵

鮮やかに咲きて嫋やか立葵

咲き初めし色美しき立葵

若々しき色でありけり立葵

天辺の二つから咲き濃紫陽花

始まりの色は仄かや濃紫陽花

小粒なることが自慢の辣韮と

鳴門かな辣韮の畑は海の砂

辣韮掘る畑の砂の熱さかな

漬け方のレシピ大きく辣韮売る

スーパーの辣韮地物に高値付き

古漬のあれど今年も辣韮浸け

辣韮を漬け大仕事せし気分

闇の夜の三千院の雨蛙

静かなる夜の輪唱雨蛙

雨の降る気配は無けど雨蛙

初物の枇杷種までも瑞々し

特選の枇杷なり種も立派なり

立派なる枇杷の種また立派なる

ノイシュバンシュタイン城ふと糸蜻蛉

とうすみの飛びては止まりまた止まる

とうすみの止まり涼しさ生まれけり

しなやかなものにとうすみしなやかに

翅たたみ笹の葉裏の糸蜻蛉

蜻蛉の句碑ある江津の糸蜻蛉

田水張る早苗の丈を越ゆるほど

早苗田に波紋を残し風渡る

近寄れば強き香のあり花葵

花も好し葉の紋も好し花葵

すかすかで味も無かりし蛇苺

毒々しきほどの赤なり蛇苺

蛇苺葷酒許さぬ名刹に

蛇苺真っ赤や暗き堂裏に

蜘蛛の囲の取ってもとってもできる場所

天空に蜘蛛の囲張りし手際かな

蜘蛛の囲の輝いてゐる高さかな

蜘蛛の子のてんでんばらばら散りぢりに

次々に観潮船の来る鳴門

鳴門かな大渦小渦観潮船

目の前に生まれる渦や観潮船

観潮船渦の始終を目の当たり

仁王門よりの参道濃紫陽花

紫陽花を見てより花の寺に入る

中門に垂れてをりぬ青楓

本堂へ楓若葉の門くぐり

緩やかな坂の参道濃紫陽花

雨の日の紫陽花なればこその色

山際にまで紫陽花の咲ける寺

その中に凛々しかりけり額の花

百合咲ける一輪なれど凛として

金色の蕊美しき白百合よ

七夕の笹に平和の祈り込め

短冊や七夕の笹撓るほど

雨の日の色美しき濃紫陽花

鮮やかな色雨の日の紫陽花は

いろいろな色の紫陽花送りくれ

日向より日蔭の色や濃紫陽花

五月雨の止みし夕べの明るさよ

静けさの戻る道後の夏夕べ

子規の像囲む道後の夏柳

子規像に蔭を作りし夏柳

紫陽花の勢増しけり昨夜の雨

山の手のホテル紫陽花見て入る

雨上がり色増しにけりベゴニアは

一雨のありてベゴニア瑞々し

未央柳雨に洗はれ鮮やかに

未央柳残りの花のまぶしかり

ひろびろと睡蓮の咲き満てる池

睡蓮の一斉に花開く朝

県境の峠に待てばほととぎす

鳴くはずと待てば確かにほととぎす

梅雨の日を人形浄瑠璃見て過ごす

十郎兵衛屋敷を出れば五月晴

好天に心も軽く遊船に

満ち潮の川ゆったりと遊船は

水門を出れば卯波の吉野川

慣れてきて立ち上がりし子遊船に

船遊いつも眉山の見える川

遊船の潮の香のするあたりまで

出来立ての河口橋も見船遊

町並の裏側も見て船遊

橋くぐりまた橋くぐり船遊

橋来れば首すくめもし遊船は

橋潜るスリル満ち潮遊船は

徳島は水の都と船遊

県庁にヨットハーバー船遊

遊船に眉山大きく見えて来し

川四つ巡り遊船終りけり

太陽に今日も元気と向日葵は

2022年5月

二百歳てふ藤の幹節くれて

二百歳てふ藤の幹武骨なる

一木の藤が万朶の房垂らし

幹太く二百歳てふ藤の花

一木で長き藤棚埋め尽くし

豆の花連ねたるごと藤の花

咲き初むはいつも紫藤の花

紫の白へと藤の花替はり

盆栽の藤も並べて藤まつり

盆栽の藤も並べて藤の寺

盆栽の藤に気品のありにけり

何もかも春らしき日の来ぬうちに

筍のあそこにそこに足元に

筍の掘り切れぬほど豊作と

雨の日の筍掘りの泥まみれ

雨の日の筍山はよく滑る

見るほどに掘り頃なりし筍よ

掘り出せし筍を抱く親子かな

筍を掘り出し皮も剥いでくれ

筍の皮剥くこつも教へくれ

遠目にも躑躅明るき公園に

町内に公園四つ躑躅咲く

刈り込まれ犇めき咲ける躑躅かな

蕾まで犇めき咲ける躑躅かな

次々に咲いて鮮やかなる躑躅

躑躅咲く雨に洗はれ美しく

春潮の満ち寄せて来る速さかな

春潮の浜は素足で歩きたし

新緑の断崖の谷埋め尽くし

谷川を覆ひ尽して若楓

ロープウエイ降りればそこに藤の花

隠れ咲きゐる藤の花ありにけり

オリーブの園に風車や異国めく

オリーブの園に五月の風が吹く

オリーブの畑へ躑躅の垣根越え

紅白の躑躅咲き満つ垣根かな

春潮に長き航跡フェリー発つ

春潮に少しも揺れずフェリー着く

庭先に可憐なりけり花菖蒲

菖蒲咲く小振りなれども凛として

日盛りの紫蘭の花に勢あり

紫の模様の美しき著莪の花

鯉幟平和な日本のありがたく

やうやくに風来て泳ぐ鯉幟

その音を聞いてみたかり鳴子百合

日の陰にありて涼やか鳴子百合

薫風に五体預けて海を見る

薫風に椰子高々とありにけり

店先に五月の花の咲き満ちて

薫風の花を活けたる座敷まで

暖簾掛け笹の若葉を挿しもして

千年の楠を見てゐるみどりの日

一木で若葉の森を作る楠

大楠の若葉に勇気もらひけり

見渡せば視野の果てまで楠若葉

大楠の葉蔭涼しき風通る

千年を生きて若葉の瑞々し

大方は着ることのなく更衣

衣更ふるクリーニングの割引日

海渡る大橋渡り今日立夏

眉山好し吉野川好し今日立夏

五種類の花で葺きたる花御堂

江戸の世を伝へ端正花御堂

御僧の独りで葺きし花御堂

花御堂母の育てし花を葺き

手間掛しところを見てと花御堂

旧暦の花無き時季の花御堂

柏餅甘茶と灌仏会の句会

仏前に西瓜旧暦花まつり

夏蜜柑供へ旧暦花まつり

端正なこの実何の実花梨の実

歪など一つも無くて青花梨

裏山は青梅実る寺領なる

黒鯛泳ぐ濠見てをれば松蝉が

松蝉はいづこと城の松巡る

松蝉を聞きしと聞きて道戻る

造花かと触ってみたる鉄線花

蔓伸ばし二階にまでも鉄線花

鉄線は鉄線クレマチスなどと

鉄線のやうにと襟を正しけり

鉄線のやうに筋目を通したし

穏やかな瀬戸内海の卯波かな

卯波立つ小豆島へとフェリー発つ

フェリー着く卯波の中を定刻に

見るほどによくぞ名付けし踊子草

伊予に来て踊子草に出合ひけり

出合ひたる踊子草の見て飽かず

踊子草その名はあとで知りました

雨の日の泰山木の花まぶし

仰ぎ見る泰山木の花凛々し

見下ろせば泰山木の花歪

大奥の跡に泰山木の花

海亀の来る浜泳ぐべからずと

海亀の浜と綺麗に掃除され

海亀の来るを静かに待てる町

散りてなほ真白でありしえごの花

庭先にえごの花咲くレストラン

内海を見下ろす峠車輪梅

潮風に犇き咲きて車輪梅

海沿ひの道は海桐の花の路

鳴門には海桐の花の多かりし

モネの絵のやうに睡連咲かす池

睡蓮やモネは日本が好きだった

2022年4月

遠目にも花咲く山と見てとれて

登るほど咲き満ちてをり花の山

地に届きさうなるほどや糸桜

ぶつからぬしだれ桜のしだれやう

眼裏の色美しきしゃぼん玉

目の前で消えてしまひししゃぼん玉

しゃぼん玉消えて真青な空残る

咲き満てる花のどれもが輝きて

咲き満ちてどっと人来し花の山

糸桜越しに阿讃の山並も

青空に咲き満つ花のまぶしさよ

日差出てまぶしさつのる桜かな

滝のごとしだれ咲き満つ桜かな

記念写真撮るのはいつもこの桜

桜咲き満ちて人来る小鳥来る

ふっくらと垂れてしだれ桜かな

エカテリーナのスカートのごと糸桜

山頂は桜と人と青空と

青空の下で花見の子らはしゃぐ

葉牡丹の色鮮やかに茎立てる

葉牡丹の渦巻き上げて茎立ちぬ

鶯の迎へてくれし花の宿

鶯を聞きつつ染井吉野へと

咲き満ちし花に目白の飛び交ひて

雨の日の染井吉野の白さかな

幹黒き染井吉野の白さかな

弓なりに垂れしだれて雪柳

純白と緑の美しき雪柳

啄木鳥の叩きそろそろ飛花落花

落つこちさうなる崖道花巡る

花と云ふ花を咲かせて若々し

何もかも咲き満つ花の生家なる

花育てゐるが青春てふ米寿

チューリップ桜の影の花小さき

整列と云ふ美しさチューリップ

美しき色の整列チューリップ

赤の中一つ白ありチューリップ

崖下にこぼれ咲きをり諸葛菜

可憐なる薄紫や諸葛菜

遠目にも山吹の黄の鮮やかに

ゴッホなら山吹の黄をどう描く

糸桜越しに花見のできる家

糸桜越しに見る花美しく

山葵田に行き止まりたる山の道

清冽な水が誇りの山葵田と

花筏とはなれずゐる花の屑

花屑の跡形もなく流れけり

花巡り花巡り来し花の宿

野も山も里も桜の花の宿

遠足の列の殿乳母車

遠足の列の伸びたり縮んだり

遠足の塵当番は餓鬼大将

寄り道のしたくなるもの遠足は

隠れ家のやうな離れに沈丁花

香り来し方を辿れば沈丁花

暗闇にあれども確か沈丁花

渦の巻く方へ方へと渦見船

巻き込まれさうにも見せて渦見船

潮見表添へて渦見に来られよと

傾ける観潮船にどよめける

逃げる雌追ひ掛ける雄鳥交る

誰も彼も見てゐる広場鳥交る

誘ひ鳴き踊り追ひ掛け鳥交る

突き出しの標許りの鹿尾菜かな

丼に鹿尾菜の煮物母をふと

御馳走は鹿尾菜尽くしと云はれても

紙風船と云へば富山の薬売

置き薬今もあるてふ紙風船

越中の薬士のくれし紙風船

はるばると来てくだされし紙風船

反魂丹なる名懐かし紙風船

窄めるにこつのありにけり紙風船

御土産にもらひうれしき紙風船

風船を膨らます口膨らませ

春灯の温泉の街行く下駄鳴らし

春灯の街に賑はひありにけり

春灯の街は寄り道したくなる

春灯の街はゆったり歩くべし

この辺も昔は寺領豆の花

田の中の墓への道の豆の花

木札立つ課外授業の豆の花

白てふは高貴な色よ白牡丹

しなやかにまぶしさ返し白牡丹

引き締まる色緋牡丹の緋の色は

大振りの緋牡丹庫裏に群れ咲かせ

花蘇芳そんなに犇き咲かずとも

青空へ赤き紫花蘇芳

緋牡丹の金の花蕊むき出しに

住職は裏から帰り牡丹寺

散りてなほ列を崩さずチューリップ

散り始めゐても整然チューリップ

2022年3月

鹿児島の友より河津桜かな

真つ赤なる河津桜と青空と

はやばやと河津桜や伊豆をふと

懐かしき河津桜の伊豆の旅

今年また花見の宴はできねども

宴できぬままに三年桜咲く

おいコロナ花見の宴はいつできる

桜咲く宴はできねど爛漫と

この桜植樹せし日は皆若く

この桜植ゑられし人二人逝く

城山を巡り蜂須賀桜へと

横綱と蜂須賀桜植ゑし日も

横綱と植ゑしあの日のこの桜

新婚の横綱植ゑしこの桜

結婚指輪見せて桜を植ゑし日よ

私らの植ゑし桜と仰ぎ見る

あの苗のこんな桜の並木にと

あの苗の今や桜の名所にと

若かりしあの日に植ゑしこの桜

植ゑし日を昨日のやうに桜見る

ブロッコリーの芽の犇ける速さかな

太陽へ太陽へと芽ブロッコリー

朝刊に汀子の訃報春寒し

真白なる辛夷散る朝聞く訃報

純白の辛夷散るかに汀子逝く

ほんたうに汀子の逝かれ二月ゆく

ほんたうに汀子の逝かれ春寒し

何もかも春らしき日を待てず逝く

汀子逝く桜咲く日を待ちきれず

み吉野の桜も待てず逝かれしと

真つ赤なる椿落つ朝聞く訃報

真つ赤なる椿落つかに逝かれたる

ほんたうに逝ってしまはれ春寒し

歳時記に汀子忌見ねばならぬとは

蜂須賀の殿の愛せし桜咲く

ちらと咲き蜂須賀桜らしき赤

咲き初めし桜の幹の黒さかな

江戸の世より生きし桜の幹太し

一隅に咲いて水仙勢あり

群れ咲きて犇めき合ひて水仙は

仰け反れるほどなる高さ初燕

鷺鳶をはるか見下ろし初燕

初花よ初燕よと試歩できて

犇ける辛夷の空の青さかな

青空へ辛夷の蕾突っ立てる

駅前の春の光りの明るさよ

街中に春の日差のやはらかく

壮大な一筆書きや蜷の道

途絶えゐるものもありけり蜷の道

何思案せしかぷつんと蜷の道

遊山箱持ちて野遊びせし昔

野遊びと云へば懐かし遊山箱

庭先の野遊び今日はバーベキュー

鳴門では俘虜も野に出て遊びしと

大鳴門橋を見下ろし楤芽掻く

観光の島に客無く楤芽吹く

楤の芽の棘の滴の光る朝

楤の芽と云へば天麩羅しか知らず

江ノ島は名に負ふ漁村白子干す

堤防の先の先まで白子干す

めいめいに役割のあり白子干す

クローバーの四つ葉見つける子の速さ

ママにもと白詰草の花冠

苜蓿犇き合ひて丈長し

カチューシャもリングも白詰草の花

クローバーの花のティアラを孫に編む

見るほどに胴長なりしこの鰆

瀬戸内の鰆が大間まで来しと

野も山も畑も人も陽炎へる

阿讃嶺の燻ぶれるかに陽炎へる

茫茫と四国三郎陽炎へる

虎杖のあれば水筒など要らぬ

虎杖を折るぽつんてふ音聞きたくて

虎杖の味なき味が好きと云ふ

虎杖と云へば塩漬ここは土佐

茎立てる花捨て置きし白菜に

菜の花のやう白菜の茎立ちは

先駆けて蜂須賀桜咲き満てる

青空へ蜂須賀桜らしき赤

満開の蜂須賀桜見ておかな

年毎に蜂須賀桜らしき赤

こんなにも人来てくるる桜にと

この桜植ゑし日の友皆若く

桜並木行けば幸せありさうな

咲き満てる花にシャッター音やまず

原田家の蜂須賀桜見てからと

江戸の世のままに蜂須賀桜咲く

堂々と蜂須賀桜咲き満てる

青空へ蜂須賀桜高々と

若葉また蜂須賀桜らしき赤

花に添ひ出でし若葉もまた赤く

花の色極めてをりし幹の黒

黒き幹太き蜂須賀桜かな

山茱萸のまぶしき庭となってをり

山茱萸の花に逆光なるは無く

満作のそんなにちぢれ咲かずとも

満作は去年の葉捨てず咲きにけり

影と云ふもの見当たらず辛夷咲く

咲き初めし辛夷の花にある遅速

公園の小さき池にも鴨三羽

近づけどそ知らぬ顔の鴨三羽

植樹して十八年のこの桜

十八年経てば桜の名所へと

早咲きの花に人来る小鳥来る

赤々と蜂須賀桜咲き満てる

川赤く染めて蜂須賀桜咲く

お花見のできる日本のありがたく

五節句の故事より雛を語らるる

天冠にガラス鏤め古今雛

首傾げゐるも御洒落や古今雛

贔屓雛引目鉤鼻おちよぼ口

丸顔は次郎左衛門雛かな

狆を曳く官女雛の柳腰

小さきてふ贅もありけり芥子雛

雛段の天児に涙らしき跡

東光斎玉翁作の内裏雛

雛祭守住貫魚の四季図掛け

欠けしもの何一つ無き雛飾

その中に泣き上戸なる仕丁雛

2022年2月

早春の日差が街に満ち溢れ

阿讃嶺はもう春霞たなびきて

眠りから覚めし眉山のふつくらと

早春の青美しき吉野川

颯爽と早春の野を歩きたし

早春の風に乗りたる鳶かな

二月かな眉山山頂鳶柱

スイスかな雪解の水の猛り落つ

轟々と岩削り来し雪解水

岩削り白濁なりし雪解水

青くとも雪解の水は飲まないで

町川にあふれスイスの雪解水

日脚伸ぶ日々歳時記を読むたびに

歳時記をめくりてをれば日脚伸ぶ

早春の朝の空気を深呼吸

梅咲いた見に来られよと便りあり

早春の鳥のさへづり軽やかに

ヴィバルディを聴きつつ春を待ちにけり

窓開けて風を入れれば春近し

早春の風に生命の蘇る

頑張れと云ふかに窓辺四十雀

六キロも減量できて春迎ふ

早春の街青々と明けにけり

はるかには鴨かも川を群れ飛んで

ふつくらと我が家の庭の蕗の薹

我が庭の青美しき蕗の薹

蜂須賀の御世の庭にも蕗の薹

焼夷弾落ちたる庭に蕗の薹

谷川の岩の間に間に蕗の薹

ほどほどに摘みて帰らう蕗の薹

お浸し派子ら天麩羅派蕗の薹

花火して若草山の野焼かな

鎮魂の若草山の野焼とか

奥多摩の川面を染めて野火走る

もたつきしもの走るもの野焼の火

スーパーで二月礼者の鉢合せ

買物の序での二月礼者かな

子ら連れて二月礼者として来られ

病院食今日は巻寿司節分と

節分の豆も病院食に付き

退院の決まり嬉しき春立つ日

立春の光あまねく街に満ち

新しき光まぶしき春立つ日

新しき力ふつふつ春立つ日

透き通る鱵その場でお刺身に

十匹の鱵の刺身これつぽち

小鳴門で鱵を汲むと人の云ふ

美しき朝の光に犬ふぐり

そこそこと言はれ足元犬ふぐり

散歩道いつもこの場所犬ふぐり

犬ふぐりゴッホの墓へ歩きし日

鎌倉の虚子の菩提寺実朝忌

墓あるは虚子の菩提寺実朝忌

虚子祀り実朝祀り実朝忌

下萌や日本は水の豊かなる

お隣に売地の木札草萌ゆる

石擡げゐるものもあり下萌ゆる

瑞々しき色でありけり草萌ゆる

退院の窓に次々囀れる

囀を右に左に退院す

春立ちて瑞々しかり何もかも

梅花節表御殿の庭園へ

梅咲きて表御殿の賑はひぬ

仄かなる香に誘はれて梅に立つ

青空へ伸びてまぶしき梅の花

紅白の梅競ひ咲く御殿庭

青空へ白梅の白際立ちぬ

純白の凛と御殿の梅の花

白壁をいや増す梅の白さかな

石庭の箒目確と冬日濃し

冬日差す御殿石庭箒目に

番かも御殿の池に二羽の鴨

番らし後を追ひ合ひ二羽の鴨

梅咲けるぽつりぽつりと賑やかに

梅を見てより城内を散策す

早春の日差まぶしくパンジーに

パンジー花よ小便小僧よと

紫も輝ける色パンジーは

パンジーの咲けば蝶来る子らも来る

せせらぎの岸辺水仙群がりて

水仙は葉にも花にも勢あり

ひつそりとありて鮮やか水仙は

水仙の剣のごとくに咲きゐたり

薔薇の芽の秘かに棘を持ちゐたり

公園の薔薇の芽の色朱も青も

咲き残る山茶花なほも瑞々し

咲き継いでなほも咲き継ぎ山茶花は

菜の花と小手鞠生けて春祝ふ

菜の花と小手鞠生けてある老舗

和菓子屋の草餅これでお仕舞と

和菓子屋の草餅早も売り切れて

和菓子屋の草餅添へて抹茶かな

抹茶淹れ小さき草餅いただきぬ

早春のおきざり草のまぶしさよ

春の日のおきざり草にやはらかく

列島に寒波南国阿波に雪

みちのくに豪雪続き阿波に雪

十一年ぶりの大雪徳島に

六センチ降れば大雪徳島は

二メートル近い雪ですみちのくは

初雪の阿波雪降ろし死ぬ越後

深々と雪降る夜の静けさよ

子供らの声に目覚めし雪の朝

登校の子らの歓声雪の朝

朝起きてみれば一面銀世界

赤白の車に雪のまぶしかり

真白かな赤い車の初雪は

白銀の野よりの風の冷たさよ

白銀の世界と云ふはひろびろと

雪かぶり黄金色なる金柑よ

雪かぶる金柑めざし小鳥来る

昼までに消えてしまひし阿波の雪

庭隅に残つてをりし初雪よ

2022年1月

初夢の記憶はあれど皆忘れ

目覚めれば初夢消えて仕舞けり

初夢をすつからかんに忘れをり

寒木瓜の花はいづれも日に向かひ

日当たりに寒木瓜並ぶ朝の市

寒木瓜の花目印に市巡る

寒木瓜を挿せば生花引き締まる

山の湯へ氷柱の垂るるバスに乗る

朝の宿氷柱大きく太りをり

昼痩せて夜太りゆく氷柱かな

寒椿まぶしき遍路宿の跡

小正月残してありしシャンパンも

静かなることも贅沢小正月

家族皆去にて二人の小正月

鰤大根煮凝となるを待ち

煮凝れる鰤大根の旨さかな

大皿に残りたるまま煮凝れる

我が庭に寒雀来る嬉しさよ

寒雀遊べば心軽くなる

日陰よりやつぱり日向寒雀

弾みゐるやうな足取り寒雀

此処もまた避寒のための宮殿と

日当たりのよき部屋ですと避寒宿

病院の個室に独り避寒して

凍滝になつていますと案内され

凍滝となつても水のちょろちょろと

凍滝の風に五体の縮こまる

京女郎自水の滝の凍て果てて

冬晴の空ゆく雲のゆっくりと

冬晴の空の明るさありがたく

冬晴の空に勇気をもらひけり

病床に冬空見上げショパン聴く

四温かなショパンの調べゆつたりと

ショパン作雨だれを聴く四温の日

大寒の救急の音跳ね返る

大寒を昼もパジャマや病室は

大寒の日差まぶしき病床に

冬晴や阿讃嶺淡路紀伊までも

冬晴や我が家を指呼の病床に

日脚伸ぶ日を数へつつ病床に

大寒の一と日検査の結果待つ

検査結果今一つなり春を待つ

部屋中に冬日差入れ深呼吸

目の前に来し寒鴉美しく

艶もよく健康美なり寒鴉

歳時記に想膨らませ春を待つ

真つ新になれると信じ春を待つ

春来ればきっと良いことありさうな

体調のよく初場所を見て過ごす

初場所の若手力士の初々し

吉野川橋の寒灯一際に

寒灯の街にサイレンこだまして

寒灯の街真つ直ぐに救急車

午前四時寒灯の街動き出す

寒の雨日曜の街鎮もれる

点滴を仰ぎ寒雨の音を聞く

薄紙を剥ぐごと蘇生日脚伸ぶ

初場所に勝つて関脇大関へ

冬晴や検査の結果良好と

冬晴や今日で点滴お仕舞と

阿讃嶺の全貌視野に冬晴るる

冬晴は好き心まで晴れ渡る

冬晴の街真つ白に輝ける