豌豆の芽へねんごろに霜囲ひ
幼な児の手に手を取りて蜜柑狩
蜜柑山鵯目白人も入れ
数へ日の八百屋埋めたる密柑かな
金柑の香りにひかれ朝の道
金柑の満艦飾に実りけり
雁の竿さすを見てクラス会
葬場は音無きところ銀杏散る
葬送の母と幼子霜強し
闇深き里の冬の灯いと赤し
冬の月夜学の子らの背にありぬ
数へ日の市場青果に埋もれり
古暦ありし柱の新暦
姫街道行きし人見つ蜜柑もぐ
浮き沈み五段の滝を桐一葉
一筋の川を埋めたる花野かな
踏み入れば花おのおのに花野かな
朱みどろの女郎紅葉や奥秩父
白き富士太宰も見たる天下茶屋
二季咲きの桜に秋の時雨かな
石段に山茶花こぼる竹生島
周航の歌を歌ひて夜半の月
古き友鴨来る浜につどい耒ぬ
旅に来て近江鮒ずし食べて冬
椋鳥の飛びたるあとの木の実かな
猫とゐて日なたぼこりの場所探す
北国の便りの届くかぶらずし
見上げれば今朝まだありぬ木守柿
大根を干して隣りのつるし柿
田の隅に菜つぱいろいろ冬構え
遠きより遠き日しのぶちちろかな
見渡せば此岸うめたる彼岸花
曼珠沙華お七の簪挿したるか
ひろびろとまたひろびろとそばの花
祖谷の里昔のままに鳳仙花
むくげ見つむくげの国のこと思ふ
家毎に木犀にほふ夕べかな
城ヶ島サボテンの花揺れて咲く
朱競ふ鶏頭ありぬ見てをりぬ
海を縫ふ鵜に鯔はねて浜離宮
のびのびとカンナ総立ち無人駅
じゃこ天をかぶりつき行く宇和の秋
落し水落し終へたる田螺かな
家々に朝顔残る飛弾の秋
アルプスと合掌づくりそばの花
高々と石積むダムや秋澄めり
高山や唐子の反りて高き空
紅葉に一色八幡平かな
無花果の葉陰にをりて糸蜻蛉
ななかまど朱に染まる日の露天の湯
はやばやとふとんに入りぬ山の宿
長き夜やねやに待ちゐる明けの鐘
戸隠を映す水面も花野かな
照葉に戸隠の峰まぶしけれ
戸隠の紅葉も見ておろしそば
柿好きの母へ熟柿を三回忌
朝餉にて新米ご飯と朴葉味噌
命とは燃え尽くすもの蝉時雨
厚き雲抜けたる飛機の空高し
青いろの揚羽を追ひし遠き日や
かずら橋渡る人見つ蜻蛉かな
祖谷の里昔のままに鳳仙花
眼前に大鹿現れて剣山
つり橋の袂に喫茶と赤とんぼ
湿原は音を消したり女郎花
朝顔もハイビスカスも終わりけり
海を縫ふ鵜に鯔はねて浜離宮
コスモスやいたいけな人強き人
萩の風通り抜けたる茶室かな
落し水落し終へたる田螺かな
初栗や食う子剥く母大童
蓮枯るる畦に露草そそと咲く
田螺死に蝗は這へる田一枚
野分立つ蒲生田岬鳶鳴きて
新米を待ちて妻炊くボウゼ飯
無花果の葉陰にをりて糸蜻蛉
少年に少女になりぬ花火かな
花火終ゆ広き虚空や月一人
百日紅咲きて人見ぬ山の駅
夕立に逢ひし報告ながながと
天に燃ゆ百日紅や原爆忌
青楓かそけき風の生まれけり
山雀や青葉の先のその先へ
山雀の飛びて蝉声戻りけり
天へ咲く夾竹桃や旅の帽
常滑や汗が汗呼ぶ窯巡り
窯の街浜風吹きて生き返る
姉がゐて弟がゐて蜻蛉かな
地球儀の海眺めゐて夏終わる
背なの子も踊る阿呆の阿波踊
古株の蔭に若葉の見ゆるかな
枕辺にかなかなの鳴く昼寝かな
朝顔や花の終わりの空眺む
稲を刈る一筋ごとに日の暮るる
海越ゆる列車の母子夏終わる
夏の日の日毎宿題しかと持ち
長崎や夜景のなかの秋の月
鬼岳やつくつくぼうし鳴きやまず
厚々に冬瓜を煮てこの夕餉
わが妻の冬瓜料理子ら拍手
はやばやと子らのバス発つ白夜かな
ひろびろと川の流るる白夜かな
ひたすらに釣糸たるる白夜かな
鶺鴒のあと追う朝の散歩かな
梅雨寒のストーブにをり北の宿
もののふの栄華のあとや蝉時雨
鰻屋の老舗蒸籠かつと開け
夕の虹土佐の豪雨をしめくくる
向日葵や少年の日の兄弟
鬼灯や今日のはじめの水を打つ
朝顔の花便り聞く昨日今日
母の手を息子が引いて鬼灯市
蝙蝠や群雲照らす細き月
嵐過ぎ星降る夜に明易し
虹の橋飛機見下し北の旅
旧道の水路や涼し緋鯉ゐて
白百合やわが家の庭の花の王
伸びるだけ向日葵伸びて梅雨明ける
水道で髪洗いける日もありき
夏の月葬送の人照らしけり
夏北斗中天にあり友逝きて
雪残る連山下に飛行雲
うぐいすや雪蹊残る山の駅
山菜や金山寺添え野良の宴
馬鈴薯の花をば上下して蝶々
どくだみや満月の夜の白十字
笛太鼓まだ不揃ひの祭前
通るたび古き屋敷の枇杷太る
女吹く笛に色ある祭りかな
人波に梔子匂ふ祭りの夜
御隠居も背広姿に渡御を待つ
黒南風も涼しかりけり初勝利
玉ねぎの青敷き詰めし淡路道
鳶一羽舞ひ上りたり竹の秋
青蛙宿の玄関守りをり
遠蛙三千院に闇深し
鮎焼ひて子らも負けじと鮎談義
母の日の紅を贈りし兄弟
母の日や子らにもらひし紅つける
うぐいすや朝一番の鳴きくらべ
うぐいすの声聞く朝の散歩かな
ひんがしの飛行機雲や初夏の海
銀輪を連ねる彼方海光る
榛の木の幹より芽吹く溶岩(らば)の島
溶岩のあわいに咲いて濃紫陽花
木苺の花や無人の島に咲く
街道の老舗大きな西瓜売る
新じゃがを提げ合い母子の家路かな
残雪の御岳見上げ旅にあり
山笑う一駅ごとに木曽の景
アルプスに雪残る日の田植えかな
鯉幟白き山背に泳ぎけり
藤垂れてかそけき風もやみにけり
菖蒲湯に手足伸ばせば宵の鐘
星座よく見ゆる夜なり雨蛙
満天下君とかかわり雨蛙
道一筋若葉の海をひた走る
巣作りの燕を見たり旅の駅
憂き事の無き日祈りつ武者幟
行く春を惜しむ浪花の通り抜け
楊貴妃と呼ばれし桜仰ぎ見る
朝まだき楊貴妃桜仰ぎをり
千年の古都に遊べる若葉時
そのかみの御所の庭にも八重桜
鯉のぼり若葉の海を泳ぎをり
柏餅並びて茶屋や旅路の湯
新芽吹く柳に降りて絹の雨
春の宵相合傘の二三組
春耕の畦に蒲公英咲きこぼる
葉桜の映る川面に鴎飛ぶ
緑濃き住めば都の筑波かな
学園の街に凛たる花水木
紅白のさつきの燃えて雨上がる
これがまあ根津の躑躅か江戸の春
そこかしこ躑躅見る人描く人
昨日今日満山染めて躑躅咲く
盛り上がる躑躅の上にまた躑躅
鉢植屋骨董売りも春祭
天竜に墨流したり春の暮
子規の里行きつ戻りつ踏青す
鍬振う老人一人山笑う
熟れ麦の波の彼方に瀬戸の海
海渡る車窓に瀬戸の霞かな
紫雲英田に髪飾りせし妻想う
浜名湖に浅蜊を採りし日のいづこ