今月の俳句

2002年12月

豌豆の芽へねんごろに霜囲ひ
幼な児の手に手を取りて蜜柑狩
蜜柑山鵯目白人も入れ
数へ日の八百屋埋めたる密柑かな
金柑の香りにひかれ朝の道
金柑の満艦飾に実りけり
雁の竿さすを見てクラス会
葬場は音無きところ銀杏散る
葬送の母と幼子霜強し
闇深き里の冬の灯いと赤し
冬の月夜学の子らの背にありぬ
数へ日の市場青果に埋もれり
古暦ありし柱の新暦
姫街道行きし人見つ蜜柑もぐ

2002年11月

浮き沈み五段の滝を桐一葉
一筋の川を埋めたる花野かな
踏み入れば花おのおのに花野かな
朱みどろの女郎紅葉や奥秩父
白き富士太宰も見たる天下茶屋
二季咲きの桜に秋の時雨かな
石段に山茶花こぼる竹生島
周航の歌を歌ひて夜半の月
古き友鴨来る浜につどい耒ぬ
旅に来て近江鮒ずし食べて冬
椋鳥の飛びたるあとの木の実かな
猫とゐて日なたぼこりの場所探す
北国の便りの届くかぶらずし
見上げれば今朝まだありぬ木守柿
大根を干して隣りのつるし柿
田の隅に菜つぱいろいろ冬構え

2002年10月

遠きより遠き日しのぶちちろかな
見渡せば此岸うめたる彼岸花
曼珠沙華お七の簪挿したるか
ひろびろとまたひろびろとそばの花
祖谷の里昔のままに鳳仙花
むくげ見つむくげの国のこと思ふ
家毎に木犀にほふ夕べかな
城ヶ島サボテンの花揺れて咲く
朱競ふ鶏頭ありぬ見てをりぬ
海を縫ふ鵜に鯔はねて浜離宮
のびのびとカンナ総立ち無人駅
じゃこ天をかぶりつき行く宇和の秋
落し水落し終へたる田螺かな
家々に朝顔残る飛弾の秋
アルプスと合掌づくりそばの花
高々と石積むダムや秋澄めり
高山や唐子の反りて高き空
紅葉に一色八幡平かな
無花果の葉陰にをりて糸蜻蛉
ななかまど朱に染まる日の露天の湯
はやばやとふとんに入りぬ山の宿
長き夜やねやに待ちゐる明けの鐘
戸隠を映す水面も花野かな
照葉に戸隠の峰まぶしけれ
戸隠の紅葉も見ておろしそば
柿好きの母へ熟柿を三回忌
朝餉にて新米ご飯と朴葉味噌

2002年9月

命とは燃え尽くすもの蝉時雨
厚き雲抜けたる飛機の空高し
青いろの揚羽を追ひし遠き日や
かずら橋渡る人見つ蜻蛉かな
祖谷の里昔のままに鳳仙花
眼前に大鹿現れて剣山
つり橋の袂に喫茶と赤とんぼ
湿原は音を消したり女郎花
朝顔もハイビスカスも終わりけり
海を縫ふ鵜に鯔はねて浜離宮
コスモスやいたいけな人強き人
萩の風通り抜けたる茶室かな
落し水落し終へたる田螺かな
初栗や食う子剥く母大童
蓮枯るる畦に露草そそと咲く
田螺死に蝗は這へる田一枚
野分立つ蒲生田岬鳶鳴きて
新米を待ちて妻炊くボウゼ飯
無花果の葉陰にをりて糸蜻蛉

2002年8月

少年に少女になりぬ花火かな
花火終ゆ広き虚空や月一人
百日紅咲きて人見ぬ山の駅
夕立に逢ひし報告ながながと
天に燃ゆ百日紅や原爆忌
青楓かそけき風の生まれけり
山雀や青葉の先のその先へ
山雀の飛びて蝉声戻りけり
天へ咲く夾竹桃や旅の帽
常滑や汗が汗呼ぶ窯巡り
窯の街浜風吹きて生き返る
姉がゐて弟がゐて蜻蛉かな
地球儀の海眺めゐて夏終わる
背なの子も踊る阿呆の阿波踊
古株の蔭に若葉の見ゆるかな
枕辺にかなかなの鳴く昼寝かな
朝顔や花の終わりの空眺む
稲を刈る一筋ごとに日の暮るる
海越ゆる列車の母子夏終わる
夏の日の日毎宿題しかと持ち
長崎や夜景のなかの秋の月
鬼岳やつくつくぼうし鳴きやまず
厚々に冬瓜を煮てこの夕餉
わが妻の冬瓜料理子ら拍手

2002年7月

はやばやと子らのバス発つ白夜かな
ひろびろと川の流るる白夜かな
ひたすらに釣糸たるる白夜かな
鶺鴒のあと追う朝の散歩かな
梅雨寒のストーブにをり北の宿
もののふの栄華のあとや蝉時雨
鰻屋の老舗蒸籠かつと開け
夕の虹土佐の豪雨をしめくくる
向日葵や少年の日の兄弟
鬼灯や今日のはじめの水を打つ
朝顔の花便り聞く昨日今日
母の手を息子が引いて鬼灯市
蝙蝠や群雲照らす細き月
嵐過ぎ星降る夜に明易し
虹の橋飛機見下し北の旅
旧道の水路や涼し緋鯉ゐて
白百合やわが家の庭の花の王
伸びるだけ向日葵伸びて梅雨明ける
水道で髪洗いける日もありき

2002年6月

夏の月葬送の人照らしけり
夏北斗中天にあり友逝きて
雪残る連山下に飛行雲
うぐいすや雪蹊残る山の駅
山菜や金山寺添え野良の宴
馬鈴薯の花をば上下して蝶々
どくだみや満月の夜の白十字
笛太鼓まだ不揃ひの祭前
通るたび古き屋敷の枇杷太る
女吹く笛に色ある祭りかな
人波に梔子匂ふ祭りの夜
御隠居も背広姿に渡御を待つ
黒南風も涼しかりけり初勝利

2002年5月

玉ねぎの青敷き詰めし淡路道
鳶一羽舞ひ上りたり竹の秋
青蛙宿の玄関守りをり
遠蛙三千院に闇深し
鮎焼ひて子らも負けじと鮎談義
母の日の紅を贈りし兄弟
母の日や子らにもらひし紅つける
うぐいすや朝一番の鳴きくらべ
うぐいすの声聞く朝の散歩かな
ひんがしの飛行機雲や初夏の海
銀輪を連ねる彼方海光る
榛の木の幹より芽吹く溶岩(らば)の島
溶岩のあわいに咲いて濃紫陽花
木苺の花や無人の島に咲く
街道の老舗大きな西瓜売る
新じゃがを提げ合い母子の家路かな
残雪の御岳見上げ旅にあり
山笑う一駅ごとに木曽の景
アルプスに雪残る日の田植えかな
鯉幟白き山背に泳ぎけり
藤垂れてかそけき風もやみにけり
菖蒲湯に手足伸ばせば宵の鐘
星座よく見ゆる夜なり雨蛙
満天下君とかかわり雨蛙

2002年4月

道一筋若葉の海をひた走る
巣作りの燕を見たり旅の駅
憂き事の無き日祈りつ武者幟
行く春を惜しむ浪花の通り抜け
楊貴妃と呼ばれし桜仰ぎ見る
朝まだき楊貴妃桜仰ぎをり
千年の古都に遊べる若葉時
そのかみの御所の庭にも八重桜
鯉のぼり若葉の海を泳ぎをり
柏餅並びて茶屋や旅路の湯
新芽吹く柳に降りて絹の雨
春の宵相合傘の二三組
春耕の畦に蒲公英咲きこぼる
葉桜の映る川面に鴎飛ぶ
緑濃き住めば都の筑波かな
学園の街に凛たる花水木
紅白のさつきの燃えて雨上がる
これがまあ根津の躑躅か江戸の春
そこかしこ躑躅見る人描く人
昨日今日満山染めて躑躅咲く
盛り上がる躑躅の上にまた躑躅
鉢植屋骨董売りも春祭
天竜に墨流したり春の暮
子規の里行きつ戻りつ踏青す
鍬振う老人一人山笑う
熟れ麦の波の彼方に瀬戸の海
海渡る車窓に瀬戸の霞かな
紫雲英田に髪飾りせし妻想う
浜名湖に浅蜊を採りし日のいづこ