今月の俳句

2009年12月

湾の鴨距離を保ちて漂へり
浜名湖に半島幾つ冬紅葉
遠き日の友と鰭酒酌み交はす
河豚尽くし平らげてなほ続く宴
喜寿米寿いづれ健啖河豚尽くし
荷揚げ場の跡ある運河柳散る
酒蔵の海鼠壁にも蔦紅葉
掘割に柳と萩の黄葉かな
天領の陣屋跡なり石蕗の花
煉瓦塀覆ひ尽くして蔦紅葉
落葉掻く倉敷美観地区の朝
落葉掻く音のみ聞こえ朝の街
コスモスの畑に五重塔浮かぶ
五重塔置いてコスモス畑かな
木守り柿見上げ五重塔見上げ
こぼれたる山茶花円を描く庭
山茶花の塵箒目を立てし庭
時ならぬ菜の花咲いて里小春
国分寺跡に立ちゐて冬日差
水攻めの城の跡なり蓮枯るる
水鳥のどっと来てゐる今朝の川
水鳥の思ひ思ひの居場所かな
水鳥に陣あるやうでなきやうで
鰤船に振舞酒を持ちて乗る
跳ねてゐる鰤をその場で捌きくれ
これやこれ鰤の刺身の固さかな
目の前で捕れし寒鰤食べて今
寒鰤に大敷網の氷見をふと
大勢で食ぶる寄鍋旨きかな
寄鍋と云へば集る家族かな
デパートの特設売場飾売
スーパーの店頭ここも飾売
産直の市場の出口飾売
三姉妹揃ひの和服納句座

2009年11月

冠雪の富士くっきりと秋晴るる
御前崎より伊良湖まで秋晴れて
房総も三浦も伊豆も指呼の秋
千両の赤を極めて雨上る
雨止みて燃え立つばかり実千両
俯ける実の一つなき実千両
武士の世を伝へし古刹実千両
庫裏の裏奥の奥まで実千両
綿虫の一つ飛び又一つ飛び
綿虫や阿波の名刹寺宝展
遊び田をコスモス咲いて埋め尽くす
セーターに着替へて飛機の客となる
ロンドンの五時は夜の部飾売
ロンドンの闇に電飾クリスマス
生花にも秋行く気配旅の宿
紅顔の兵守る古城銀杏散る
テムズ川にも白鳥の渡り来し
白鳥の群れて散り行く静寂かな
白鳥の川を横切り濠に入る
富士山の見ゆる空港冬日和
冬晴れの真面に富士エアポート
羽田より白雪の富士見えて飛機
小さき鯊一尾一品料理かな
未踏なる阿波に句碑あり芭蕉の忌
四国には足跡のなき芭蕉の忌
ロンドンへ旅支度して芭蕉の忌
黒き点鷹となり来し一会かな
真っ直ぐに鳴門の空を鷹渡る
落葉道行く衛兵の凛々しかり
夕映えの銀杏落葉を眩しめり
幸せは二人一緒の大根炊く
風通る場所を選びて大根干す
鎌倉は裏路地多し姫椿
鎌倉は辻多き町帰り花
鎌倉の老舗の蕎麦屋冬紅葉
短日の街電飾の街となり
極月のミナトヨコハマ煌きて
二〇〇九年十月
山の湯に入りて出を待つ今日の月
湯の山の稜線高し月未だ
お月見の宴果ててより現るる月
天近き番外札所秋桜
断崖にあり奥の院秋桜
灌頂の滝てふ滝の水澄めり
帰途のバス右に左に今日の月
老農の手塩にかけし今年米
五俵買ひ三俵預け今年米
新米を何はともあれ子に送る
新米や二人で一合炊く齢
産直の市の目玉の今年米
新米のおこげ又よし握り飯
銀舎利と呼びしあの頃今年米
生きていた落鮎ですと持ち呉るる
いただきて針の傷ある秋の鮎
落鮎の美しき身に針の傷
粒揃ひいずれ大振り秋の鮎
彼岸花次の札所へ続く道
朝霧の底に湯の町眠りをり
長老の話は長し秋扇
辻曲がるたびに木犀匂ふ町
その顔は麻生太郎かこのシイラ
小屋掛で浄瑠璃を見る阿波の秋
秋晴や一夜に建ちし芝居小屋
浄瑠璃の小屋掛幟城の秋
秋空へ野外芝居の幟立つ
長老の鯔背な法被秋祭
地車に乗る稚児担がれる稚児も
手拭ひは揃ひの黄色秋祭
地車のあとに背広の頭屋かな
家毎に菊咲かせ上三之町
家毎に飛騨の高山菊薫る
合掌の里の正装案山子かな
奥飛騨も案山子へのへのもへじかな
新米の鯵とぼうぜの姿鮨
先づ林檎並べ朝市始まりぬ
白山を指呼の高原秋の風
啄木鳥の叩きつ幹を回りつつ
啄木鳥の幹打つ一心不乱なる
啄木鳥の脇目も振らず叩きをり
啄木鳥こだまかくもリズムの乗って来し
啄木鳥こだま昔野鍛冶の音をふと
林檎箱並べ朝市林檎売る
朝市の林檎売らるる一つづつ
鹿垣の年毎里に下りてくる
猪垣と云ふは斯様に低きもの
痛みたる葉の一つなき菊花展
うら若き空海にして菊人形
ジーパンに法被のをとめ里祭
奥宮は注連一つのみ里祭
茎一つより懸崖の菊となる
お隣の寺の鐘聞き祭待つ
世話役の一人は句友里祭
一茎の菊に始まり万の菊
幹隠し大懸崖となりし菊

2009年10月

山の湯に入りて出を待つ今日の月
湯の山の稜線高し月未だ
お月見の宴果ててより現るる月
天近き番外札所秋桜
断崖にあり奥の院秋桜
灌頂の滝てふ滝の水澄めり
帰途のバス右に左に今日の月
老農の手塩にかけし今年米
五俵買ひ三俵預け今年米
新米を何はともあれ子に送る
新米や二人で一合炊く齢
産直の市の目玉の今年米
新米のおこげ又よし握り飯
銀舎利と呼びしあの頃今年米
生きていた落鮎ですと持ち呉るる
いただきて針の傷ある秋の鮎
落鮎の美しき身に針の傷
粒揃ひいずれ大振り秋の鮎
彼岸花次の札所へ続く道
朝霧の底に湯の町眠りをり
長老の話は長し秋扇
辻曲がるたびに木犀匂ふ町
その顔は麻生太郎かこのシイラ
小屋掛で浄瑠璃を見る阿波の秋
秋晴や一夜に建ちし芝居小屋
浄瑠璃の小屋掛幟城の秋
秋空へ野外芝居の幟立つ
長老の鯔背な法被秋祭
地車に乗る稚児担がれる稚児も
手拭ひは揃ひの黄色秋祭
地車のあとに背広の頭屋かな
家毎に菊咲かせ上三之町
家毎に飛騨の高山菊薫る
合掌の里の正装案山子かな
奥飛騨も案山子へのへのもへじかな
新米の鯵とぼうぜの姿鮨
先づ林檎並べ朝市始まりぬ
白山を指呼の高原秋の風
啄木鳥の叩きつ幹を回りつつ
啄木鳥の幹打つ一心不乱なる
啄木鳥の脇目も振らず叩きをり
啄木鳥こだまかくもリズムの乗って来し
啄木鳥こだま昔野鍛冶の音をふと
林檎箱並べ朝市林檎売る
朝市の林檎売らるる一つづつ
鹿垣の年毎里に下りてくる
猪垣と云ふは斯様に低きもの
痛みたる葉の一つなき菊花展
うら若き空海にして菊人形
ジーパンに法被のをとめ里祭
奥宮は注連一つのみ里祭
茎一つより懸崖の菊となる
お隣の寺の鐘聞き祭待つ
世話役の一人は句友里祭
一茎の菊に始まり万の菊
幹隠し大懸崖となりし菊

2009年9月

新聞を取りに出て知る今朝の秋
爽やかやネクタイ凛と締めて出る
邸宅の古びてをれど酔芙蓉
令夫人ゐさうな屋敷酔芙蓉
秋灯や街に静けさ戻りたる
秋の夜の澄み渡りつつ更けゆけり
艶やかなこの草にして破れ傘
風通る道の真ん中破れ傘
行く末のことは語らず破れ傘
渋滞の高速道路秋暑し
行きずりのバイクの修理秋暑し
稲刈りて空広々とありにけり
坪庭に大樹一本むく群るる
芝離宮松の樹下なる彼岸花
法要の知らせが二つ彼岸花
老松の根元に燃えて彼岸花
散らばりてまた群がりて彼岸花
小さきは風を逃れて彼岸花
そのあたり日差射しぬ彼岸花
五位鷺の池に影して彼岸花
爽やかや富士をはるかに望みゐて
柔らかに日差し返して竹の春
朝の日に鶏頭並び立つ藁屋
鶏頭の武骨に咲いてゐる農家
日の翳り鶏頭艶を増しにけり
松手入庭師の鋏頭上より
松手入庭師の鋏迷ひなし
時折は離れて眺め松手入
松手入終りし松に翳りなし
松手入途中煙草を吸ふ庭師
昼までに終えてしまひし松手入
渋滞の高速道路虫時雨
萩咲くや堀に影して海鼠壁
掘割の水に白萩触るるほど
蓑虫の風に吹かれてゐるばかり
蓑虫の蓑のこんなに丈夫とは
蓑虫の蓑より貌を出す日和
敬老の日にとれとれの鮎届く
台風の禍の一つなき稲田刈る
耐震の診断結果聞く厄日
鰯雲抜けて青空飛機の旅
鰯雲千切れて懸かる昼の月
竿を背に帰る堤防鰯雲
その果ては日本海なり大花野
ハワイより遍路来てゐる秋の寺
心経をローマ字で読む秋遍路
青い目も混じり団参秋の寺
枯蟷螂風に揺らぎてゐるばかり
枯蟷螂いきなり飛んで行きにけり
お遍路の足来る逃げろ枯蟷螂
本堂を出れば銀杏落つる音

2009年8月

夏祭喧嘩の始終古文書に
転びても転びても起き羽化の蝉
穴を出て闇にまぎれつ羽化の蝉
脚止まり蝉の殻脱ぐ枝決まる
やうやくに動きの止まり蝉生まる
熊蝉の専横に泣き油蝉
熊蝉の出しゃっばってゐる蝉時雨
日本は水の国なり青田風
少年の麦藁帽子畔を行く
鏡凪せる浜名湖の雲の峰
東海道青田青田とつづきけり
古里の昔を今に青田風
一本の競り出づること今年竹
竹林の膨らみてをり今年竹
蘇るヒロシマの街終戦日
平らなる明石海峡夏の朝
夕映えて夏の一と日の終はりけり
川舟に乗りて今宵の阿波踊
川風に乗りて笛の音阿波踊
町川を金色に染め阿波踊
合ひの手の入る桟敷の阿波踊
阿波踊して徳島は川の街
橋といふ橋の上まで阿波踊
椰子茂るここは南国阿波踊
うち揃ひをるもをらぬも阿波踊
屋形船よりもよしこの阿波踊
踊唄残してゆきぬ屋形船
スーパーに陣取ってゐる草の市
子ら帰り元の二人や盆の月
みちのくの闇の深さよ遠花火
二〇〇九年七月
二タ月も雨降らぬ国百日紅
一雨なき空の青さよ百日紅
サンフランシスコの夜涼見て歩く
坂の街ケーブルカーの灯の涼し
気の侭に椰子の葉陰の昼寝かな
合歓の花ワイン試飲の酔眼に
フルーツの売場売場の西瓜より
大学生瞳ブルーの芝青し
ゴールデンゲートブリッジ夏の霧
朝顔や飛騨高山の陣屋跡
朝顔の紺より明けて飛騨の町
睡蓮の浮葉浮葉の真っ平ら
衣脱ぎし蛇のそこらにをりさうな
とんぼうの度々止まる草の先
とんぼの尾叩く水面の静寂かな
幽かなる風に戻され糸蜻蛉
翳るほど色増しにけり未草
出で立ちは山下清雲の峰
月見草太宰ゆかりの天下茶屋
月見草すらりと立ちて富士低し
富士を見て太宰偲ばる月見草
太宰治逗留の茶屋月見草
三郎は四国の大河月見草
原生の森の源流滝となる
瀬の幾つ大滝幾つ奥入瀬
クーラーに氷どっさりキス二匹
二匹目のあとはさっぱりキスを待つ
砂浜に寄り添ってをりひからかさ
遠き海眺める二人ひからかさ
海岸は遊泳禁止水着ゐて
火を熾すことに始まるキャンプかな
亭主達コック勤めるキャンプかな
水質の検査人とや草清水
手を浸けてをりし母と子草清水
手を入れて手の切れる水草泉
道標新調されてゐし泉
梅雨晴の空に大きな観覧車
あめんぼう蹴飛ばしゆくもあめんぼう
翡翠の色を残してとび去れり
吟行へいつもの家の麦茶持ち
健康に良いと甘酒勧めらる
木曽川の水の弥富の金魚かな
大袈裟に仰け反り撃たれ水鉄砲

2009年7月

二タ月も雨降らぬ国百日紅
一雨なき空の青さよ百日紅
サンフランシスコの夜涼見て歩く
坂の街ケーブルカーの灯の涼し
気の侭に椰子の葉陰の昼寝かな
合歓の花ワイン試飲の酔眼に
フルーツの売場売場の西瓜より
大学生瞳ブルーの芝青し
ゴールデンゲートブリッジ夏の霧
朝顔や飛騨高山の陣屋跡
朝顔の紺より明けて飛騨の町
睡蓮の浮葉浮葉の真っ平ら
衣脱ぎし蛇のそこらにをりさうな
とんぼうの度々止まる草の先
とんぼの尾叩く水面の静寂かな
幽かなる風に戻され糸蜻蛉
翳るほど色増しにけり未草
出で立ちは山下清雲の峰
月見草太宰ゆかりの天下茶屋
月見草すらりと立ちて富士低し
富士を見て太宰偲ばる月見草
太宰治逗留の茶屋月見草
三郎は四国の大河月見草
原生の森の源流滝となる
瀬の幾つ大滝幾つ奥入瀬
クーラーに氷どっさりキス二匹
二匹目のあとはさっぱりキスを待つ
砂浜に寄り添ってをりひからかさ
遠き海眺める二人ひからかさ
海岸は遊泳禁止水着ゐて
火を熾すことに始まるキャンプかな
亭主達コック勤めるキャンプかな
水質の検査人とや草清水
手を浸けてをりし母と子草清水
手を入れて手の切れる水草泉
道標新調されてゐし泉
梅雨晴の空に大きな観覧車
あめんぼう蹴飛ばしゆくもあめんぼう
翡翠の色を残してとび去れり
吟行へいつもの家の麦茶持ち
健康に良いと甘酒勧めらる
木曽川の水の弥富の金魚かな
大袈裟に仰け反り撃たれ水鉄砲

2009年6月

子らよりも親の歓声蛍飛ぶ
餓鬼大将をりしは昔蛍狩
谷の奥その又奥へ蛍狩
我が手より風のごと立ちゆく蛍
蛍の指の股よりこぼれけり
蛍火の瞼の裏に残りけり
蛍去り闇と静寂のあるばかり
ハプスブルグ家てふ庭の濃紫陽花
雨宿しきらめける瑠璃額の花
日向より日陰にありて額の花
遺跡なる高床潜りゆく燕
縄文の竪穴住居風薫る
合掌の棟木を這ひて大毛虫
その奥の奥に四阿ほととぎす
雨催ひ花栗の香のいよいよに
この山も古墳でありぬほととぎす
縄文も弥生も今日へほととぎす
舞ふ音は泰山木の落花かな
白い花咲く滑走路梅雨に入る
梅雨入りのダムの干上がる四国かな
紫陽花の蘇りたる今朝の雨
呼び水の雨とも思ひ梅雨に入る
デッサンの場も設けあり菖蒲園
菖蒲田をあふれ流るる水清し
あやめかきつばた見て又花菖蒲
佇みのいづれあやめかかきつばた
谷に沿ひ菖蒲の棚田曲がりをり
奥ほどに広くなりゆく菖蒲の田
我が家にも出入り自在の蚊食鳥
益鳥と人は言へども蚊食鳥
蝙蝠や黄金バット思ひ居て
草矢飛ぶ青空に弧を描きては
ほとばしる筧のほとり雪の下
目の前の枝に老鶯来て止まる
目の前の老鶯鳴けり尾を振りて
いたいけな鳥を老鶯とはいかに
老鶯の谷渡るまで見届けぬ
尾を振りて嘴反らしたる老鶯は
目の前の老鶯鳴けり鳴き継げり
この小鳥老鶯と呼ぶホ句の人
梅雨茸の極彩色でありにけり
枝という枝撓らせて水木咲く
かく咲きてかく散り深山えごの花
純白のままに散りけりえごの花
町内の恒例行事溝浚へ
新参の人も仲間に溝浚へ
一軒に一人の出役溝浚へ
生きたまま串刺にして鮎を焼く
青桐の青極めたる午後の雨
青桐の青を極めて雨上がる
まづ背越あるを確かめ席に着く
水嵩や今年の鮎のこの小振り
吾子もまた鮎雑炊が好きと云ふ
この時季のこの店が好き鮎料理

2009年5月

庫裏の裏その裏までも牡丹かな
日の差して色増しにけり白牡丹
庭広げ新種も植ゑて牡丹寺
日当りに集ってゐる苗代寒
奉納の柄杓新らし風薫る
草笛の小振りとなってゐし札所
煙草苗よく育ちゐる野に札所
中天の忽然として雲雀落つ
新樹晴華燭の典の始まりぬ
新緑の新郎新婦まぶしかり
城山に若葉萌ゆる日結婚す
巣作りに番燕の矢のごとし
今年また母の日となるこの句会
泥運び又泥運びつばくらめ
讃岐まで阿波の早乙女来しことも
此れはさてマロニエの花真っ赤なる
讃岐路のマロニエ赤き花つけて
マロニエの真っ赤な花の似会ふ街
官庁街日曜日なき親燕
泥運ぶ入れ替え絶えずつばくらめ
田を植ゑる瑞穂の国の田を植ゑる
万緑の中に白富士どかとあり
富士映す四角四角の植田かな
河骨の一花咲き終へ一花咲き
大伽藍跡の大樟若葉かな
家康を祀る奥宮若葉風
花楝ほどよき雨となりにけり
花空木乗馬クラブの女の子
雨の日の茶山に人の影もなし
栗毛馬旗手は少女や花楝
街の灯を映して植田暮れゆけり
句碑除幕みかんの花の香る中
葉桜の旅となりけりみちのくに
みちのくの山深く来て余花に会ふ
子ら育ち武者人形の残りけり
知らぬ土地知らぬ径来て踊子草
朴の花峰の札所へ九十九折

2009年4月

固まりて明日帰るらし鴨の群
岸近く固まり合ふて帰る鴨
帰りゆく鴨梯団の如くあり
輝きて四国三郎鴨帰る
南に向きて迫り出す老椿
坪庭の椿律儀に花をつけ
七曜を色香も褪せず落つ椿
今朝採りし土筆の袴取り酢物
さ緑の天麩羅に透け蕗の薹
山札所天辺よりの百千鳥
その奥の大師堂より囀れる
花の下をみな四人の姦しき
子を連れて女遍路の大きな荷
草刈の刈り残しあり犬ふぐり
遍路来る他県ナンバーばかり来る
二の門を出れば万だの花の中
山門を押し上げてゐる花菜畑
裏山の風止みにけり糸桜
糸桜咲き揃はざる時を訪ふ
色種々に葉を増やしをり春の山
紅淡く緑も淡く春の山
鶯のよく鳴く日なり里静か
寺跡に都忘れの花群れて
犬ふぐりにも蜜蜂の来てをりぬ
糸桜動かぬ静寂ありにけり
曇天へ続いてをりぬ花霞
紅白の椿供華して虚子祀る
うぐひすの長鳴きをして仕る
「椿さん」線香くるる虚子忌かな
虚子孫に線香貰ひ今日虚子忌
虚子祀る星野椿と虚子の忌に
桜桜我も我もと競ひ咲き
花の下野の草々も群れ咲きて
花筏鯉の背鰭にさざめけり
花筏鯉の尾鰭に渦となる
散らす風なけれど落花しきりなる
白点の遍路となりて来る札所
花の晴ほんに讃岐の山丸く
鬼が島なる女木島も花の山
富士に似し島も見えけり瀬戸朧
花吹雪農村芝居搦め捕る
葺替へて農村舞台その日待つ
省略のなきうぐひすの名調子
段桟敷たちまち敷きて落花かな
寒霞渓奇岩怪石山桜
山頂に聞きてをりたる蟇蛙の声
断崖の懐深し山桜
断崖を吹き上げて来し若葉風
干上がりて繋がる島や浅蜊掻く
杖つきて来しをばさんも浅蜊掻く
世界一狭い海峡浅蜊掻く
春の海まったく凪ぎて真っ平
うぐひすに朝の明けゆく島の宿
国宝の釈迦堂厳と桜かな
奥の院出れば眩しき朝桜
これほどのかとの紐とは何とまあ
御仏のいます本堂桜咲く
箒目の残る結界蟻地獄
春昼の梵鐘一打加へけり
海の風登り来るとう若楓
斜交ひに斜交ひに鮎上りけり
激流に跳ね飛ばされてゐる稚鮎
川岸に沿うて固まり上る鮎
弧を描き一気に上る稚鮎かな
上げ潮を待ちて群れゐる鮎黒し
上げ潮に乗りて一気に鮎上る
藍芽吹く犇くといふことをして
犇きてゐて重ならず藍芽吹く
床の中緑競り合ひ藍育つ
大輪に傘差し掛けて牡丹園
ぼうたんに靡きて落花しきりなり
炭火して男二人の鮎番屋
ホ句の旅忙し朝寝してをれず
一匹の蜂来ててんやわんやかな
この島は山家のごとに葱坊主
うぐひすをBGMとする朝寝
朝寝して孟浩然となってゐる
小振りなる団扇いただき木戸くぐる
若葉風入れて第三幕上がる
芝居はね現に戻る若葉坂
大舞台はね花吹雪紙吹雪
白虎隊自刃の地なり桜散る
初燕大内宿の大藁屋
鶴ヶ城前の茶室の糸桜
街道の昼の宿なる黄水仙

2009年3月

かつと行きこそつと帰る恋の猫
何処の世も男は気立て恋の猫
実らざる寅さんの恋猫の恋
旧家守る娘三代雛飾る
三代の雛それぞれにある思ひ
その先に阿波国分寺豆の花
辻毎に遍路標や豆の花
遍路よく来る日となりぬ葱坊主
日溜りにあり燦々と犬ふぐり
本堂は崖の上なり春の雲
去ぬ鴨か固まり合ひて法の池
団参の遍路大方をみなかな
琴の音や蜂須賀桜散り初めぬ
お花見を武家屋敷より致しけり
御当主と蜂須賀桜ともに見る
芍薬の天突いて芽の犇ける
雨の後車に残る春の塵
露天湯の湯煙上がる春の山
啓蟄を待つ嘴のありにけり
先に咲き先に散りゆく花惜しむ
昨夜よりの東京春の雪がすり
地に落つるより先に消え春の雪
春の雪眉山いよいよ撫で肩に
泥濘に混じりてをりぬ春の雪
小さきは水に戻して蜆掻く
宍道湖の蜆侍らせ地の蜆
ゴム長に背まで埋めて蜆掻く
第十の堰まで汽水蜆舟
五臓にも沁み入る今朝の蜆汁
つちふるや北京に青き空のなく
黄沙来る万里の波濤堰ききれず
苗床の覆ひ払う日目覚める日
薄塩で旨き目刺をあはれとも
この魚に何の罪ある目刺とは
マウンドに立つ子の靴に春の泥

2009年2月

蝋梅の香に招かれて書道展
猫柳活けてターシャ・テューダ展
山の湯を出でし一歩に笹鳴ける
山の湯の土産となりぬ蕗の薹
ほろ苦を越して苦さの蕗の薹
湯通しの滴る香り蕗の薹
叩きつつ四方を見渡しゐて小啄木鳥
数多の目見つめて居りぬ小啄木鳥打つ
こんこんと乾く音して小啄木鳥打つ
幹周り叩き叩きて小啄木鳥発つ
息潜め耳を澄ませば小啄木鳥打つ
小啄木鳥打つ音にリズムの生まれけり
ぢつと見る上崎暮潮小啄木鳥打つ
紅梅の咲いて白梅まだ蕾
蝋梅の香の潜みたるとう上る
色も香もよき蝋梅に佇める
満作や母を背負ひて丘に立つ
ランチにも節分の豆添へられて
立春に浮き立つ心ありにけり
立春の昨日と違ふ空の色
野の川に光あふれて春立てり
老梅の枝枝にある遅速かな
枝といふ枝天へ向き梅三分
犬ふぐりにも蜜蜂の来てをりぬ
剪定の梅の小枝を失敬す
峡日和巣箱の蜂の動き出す
家継ぐ子なき里なれど梅盛り
祖の墓の天明の文字臥竜梅
蜜蜂の巣箱の口を塞ぎゐて
花蕾付けたる梅を剪定す
大壺に剪定の梅貰ひ活け
土竜掘る土の匂ひや仏の座
男子とて運針せし日針供養
階毎にバレンタインの日の売り場
手作りのチョコ来てバレンタインの日
片栗の花に始まる野草園
片栗の花は照れ屋と思ひけり
山家みな日当たりにあり犬ふぐり
そこらぢゅう瑠璃をこぼして犬ふぐり
春の風邪インフルエンザにはあらず
引き始め判りし時も春の風邪
東方に青空のぞき春時雨
春時雨洗濯物は軒下に
襟立てて走り抜けたる春時雨
花便りまづは蜂須賀桜より
春風の人春風とともに逝き
突然に人は逝くもの椿落つ
涅槃会を選びて逝きし人送る
山笑ひ水温みても逝かれけり
白木蓮の花に日陰のなかりけり
かく長き一筆書やかとの紐
難産のあとかもかとの紐くねり
日当たりを選びてをりしかとの紐
親の血を今もひきゐてかとの紐
羊水の沼に浮かびてかとの紐
これほどのかとの紐とは何とまあ
涅槃図に遅参の猫の描かれず
遊覧船蜂須賀桜咲くを見に
飛び火して又飛び火して野火走る
消防車侍らせてゐる野焼かな
天に星地に犬ふぐり仏の座
紅梅に隣る白梅墓を守る
三階の蔵ある屋敷濃紅梅
咲くほどに散るほどに梅香りをり
探梅のあとの鍋焼饂飩かな
沢登り詰めれば古刹初音聞く
本堂に聞いて即ち初音かな

2009年1月

十人の家族揃ひて雑煮かな
子に貰ふお年玉とて旅行券
年玉をあげて貰ひて老いしなり
常宿に吹き窪めゐて薺粥
さ緑を吹き窪めては薺粥
からからと空晴れ渡り寒に入る
さらさらと風吹き抜けて寒に入る
天気図の乱れしままに寒に入る
背中より忍び来るもの寒の入
追羽子も稲穂も松も飾りなる
子牛ゐて母牛の来て日向ぼこ
子牛ゐて母牛のゐて冬温し
天辺に紛れずに寒椿かな
一つ咲きもう一つ咲き寒椿
葉牡丹の芯に煌く雨滴かな
葉牡丹の列に連なり日向ぼこ
葉牡丹の渦に日の渦連なれり
日溜りに固まり香り野水仙
山茶花の咲き継ぐ赤と散りし紅
寒すでに蒲公英へばりつきて咲き
胸張りて寒九の風の丘に立つ
一輪の蝋梅なれど香を放ち
嫁姑二人の会話初笑
獅子舞の頭も口も四角かな
獅子舞の獅子に犬歯のめでたけれ
獅子舞の獅子よりをみな出で来たる
予定なきこともあれども初暦
一年の計夢とあり初暦
東京の海も穏やかなる年初
凍蝶の翅閉ぢしまま散りにけり
凍蝶のほろほろほろと発ちゆけり
凍蝶の落人のごと発ちゆけり
凍蝶の翅の大方破れゐて
卵黄の弾け出でたり寒卵
探椿と云ふは聞かねど寒椿
野水仙群れ咲く果ての空の青
鳶の背を見て水仙の崖のあり
野水仙なだれ咲きゆく海青し
野水仙五百万本なる斜面
海に向き太陽を浴び水仙花
大斜面海から空へ野水仙
大斜面海へ雪崩るる野水仙
濃く淡く水仙の香の地に這ひて
水仙の匂ふ海風ありにけり
大寒の海真っ平らなる淡路
大寒の空の真っ青なる淡路
日輪に岩場の氷柱瑞々し
蝋梅の花ことごとく日に透けて
寒鯉の鰭の俄かに動きけり
突っ張って引っ張って薄氷かな
巡り来て元の日溜り犬ふぐり
ふとすでに足元の瑠璃犬ふぐり
波打てる硝子と見れば寒氷