今月の俳句

2017年12月

冬ざるる園に一輪帰り花

綿虫のさらりすらりと身をかはし

ぢっと待ちゐれば綿虫湧き出でし

綿虫のペリコプターのやうな羽根

椋の実のジャムのやうなる甘さかな

椋の実の完熟なるを採りくれし

椋の実の懐かしかりし甘さかな

冬蜂の神前に来て事切れし

吊るし柿にとTの字の小枝付け

四尺を越す干鱓や冬の市

冬市の干鱓早も売り切れし

亀の手に磯の香りや冬の市

植木屋の手作り檸檬並ぶ市

小春日に日蔭を選び魚売る

朝の市曲がりくねりし自然薯も

亀の手を食べて見ろてふ冬の市

真鶴の三つ石そこに石蕗の花

真鶴の岬に水仙群れて咲く

紅葉の盛りの宿に来合せて

紅葉の紅の極まる箱根かな

野も山も紅葉の中の墓参かな

日溜りの紅葉照葉の明るさよ

虹鱒や忍野八海水澄みて

滾々と涌き出る水の澄みに澄み

富士山の裾野を巡り秋惜しむ

新蕎麦を香りもろともいただきぬ

春節の龍の飾りのはやばやと

大年の関帝廟の賑はいよ

山深き土佐の紅葉の濃かりけり

朝の日にまぶしき雨後の紅葉かな

待ち合わせ場所となりたる聖樹かな

日向ぼこプラチナ婚も過ごされて

全身に黄落を浴び日差浴び

敷き詰めし銀杏落葉の明るさよ

那須与一ゆかりの宮の銀杏散る

冬枯れの宮に大楠青々と

逃げ所なく寒風に身を曝す

降り積もる銀杏落葉の多彩さよ

真青なる空より北の来る日和

寒風に曝され通しなる社

大方は背後より来る隙間風

懐かしき母の雑炊おみいさん

雑炊を食べんがためのてっちりと

刻み海苔乗せて雑炊出来上がる

雑炊の出て祝宴のお開きに

吉野川中洲広々群千鳥

小走りの脚か細かり千鳥かも

千鳥足とはこんなにも軽やかな

年寄は肉食ふべしと薬喰

薬喰には多過ぎるバーベキュー

年寄は量より質と薬喰

増え過ぎて困る蝦夷鹿薬喰

マスクしてあなたは誰と尋ねられ

マスクとマスクの目と目の会話かな

マスクして予防接種もして街へ

マスクして待てとマスクを置く医院

初めての御顔も見られ年忘れ

初見なる紳士も来られ納め句座

待ち合わせ場所となりゐし聖樹かな

正装の白寿も御越し納め句座

来年は百の数へ日かくしゃくと

もう一句あと一句とて納め句座

大年の閉店セールこの店も

売り尽くしセールばかりや年の暮

クリスマスサンタになりし日の遠く

北欧の菓子甘かりしクリスマス

靴下を吊して寝し子クリスマス

クリスマスカードアルゼンチンからも

ロッキングチェアもろとも日向ぼこ

風邪の来ぬことを確かめ日向ぼこ

未来より昔の話日向ぼこ

正月の飾りはやばや立つロビー

正月へ心はすでに飛んでゐる

雌巡り雄は喧嘩す鴨の世も

居付き鴨なるはおっとり鴨の川

群る鴨へ潜水艦のやうな鯉

こんなにも鴨ゐる川となってをり

鴨のゐぬ川より鴨のゐる川へ

大鷭を片隅に寄せ鴨群るる

餌の欲しき鴨かもどれも忙しなく

2017年11月

雨止まぬ戸外に出れば肌寒し

太陽を見ぬ日の続き肌寒し

こんなにも雨の日続き肌寒し

ひさびさの晴となれども肌寒し

肌寒や弟逝きて八か月

冬近し寒がりだった弟よ

冬近し犬の鳴き声甲高く

濡れて行く雨の冷たき冬隣

嬰児のことより始め冬支度

剣山で初氷とか肌寒し

野も山もモノトーンへと冬近し

城崎の外湯巡ればそぞろ寒

湯上りにそぞろ歩けばそぞろ寒

城崎の街灯暗しそぞろ寒

湯上りの小走りとなるそぞろ寒

秋惜しむ旅の案内今日もまた

秋惜しむ大歩危峡の舟下り

秋惜しむ列車の旅に誘はれて

秋惜しむ臨時列車の客となる

地酒酌み交はし車窓の秋惜しむ

ショッピングモール早々聖樹立つ

なんとなく気忙しくなる聖樹かな

聖樹立ち足取りまでも気忙しく

むしり取りまたむしり取り松手入

残すもの残さざるもの松手入

残す芽の他はばっさり松手入

枯草を刈りたる土手の延々と

直虎の菊の衣の匂ひ立つ

菊人形展示の床に傾ぎあり

どう見ても視線の合はず菊人形

何を見てゐるの菊人形の目は

顔までもドラマのままや菊人形

満開の菊に勢のありにけり

ほのかなる花壇の菊の香りかな

一つ根の菊の同時に咲きし花

咲き揃ふ菊に迷ひのなかりけり

犇めきて重ならず懸崖の菊

懸崖の菊滑らかに垂れ下がり

雲一つなき青空の菊花展

満開の日に来合せし菊花展

菊を見る人の寡黙となりにけり

紫の幔幕張りて菊花展

葦簀よりやさしき光菊花展

子らの声はずむ庭園木の実降る

団栗を拾ひミニエスエルに乗る

文化の日ミニエスエルにはずむ夢

くっきりと阿波の土柱に冬日濃く

冬晴れの土柱の空の青さかな

わら家なるうどんの老舗冬紅葉

粉を挽く水車の水も澄みにけり

石臼の飛石に降る落葉かな

釜揚げのたらいうどんの冬となる

日当りて鮮やかなりし冬紅葉

日当れば枯葉に色の蘇る

初冬の木立きりりとありにけり

晴の日の初冬の風の冷たさよ

干鰈初冬の風に曝されて

初冬かな飛行機雲の三本も

神の旅貧乏神も行っちまえ

神送る出雲街道津山宿

縁側の日差うれしき初冬かな

外つ国の人で賑はふ菊花展

古典菊並ぶ御苑の菊花展

伝統の重み御苑の菊花展

凛と咲き競ふ御苑の菊花展

五百もの菊を同時に咲かす技

一本の根から五百の菊咲かせ

大作り花壇の菊の見て飽きず

白眉なる札立つ菊にある威厳

鉢植を見ざる御苑の菊花展

江戸菊の啖呵切るごと凛と咲く

江戸菊の変化の妙の小粋さよ

肥後菊の火花散らせしやうに咲く

肥後菊を育ててきしは武士と聞く

菊花展前横斜めからも見て

整列の美しさも見菊花展

一万歩歩きし御苑の菊花展

日本に暮らす幸せ菊花展

大銀杏黄葉音立て散り急ぐ

黄落の絨毯なりし御苑かな

日向より日陰の黄色石蕗の花

石蕗の黄に呼び寄せられて仕舞けり

吹き抜けのロビー高々聖樹立つ

どこもかも煌めいてゐる聖樹かな

雪山となりゐし四国山地も見

山下りし伊予は明るき片時雨

明るかり久万高原の冬紅葉

秋の旅久万高原も立ち寄りて

天空の郷なる霧の道の駅

これほどの深山に鮎の魚道かな

のしかかる岩の渓谷水澄める

おづおづと見下ろす谷の冬紅葉

千尋の谷の底まで冬紅葉

見下ろせる谷の深さよ冬紅葉

窓際は怖しと谷の紅葉見る

すっぽりと四国カルスト霧の中

霧深きカルストの道迷路めく

行くほどにカルストの霧深くなる

カルストに来て初雪に出会ひたる

雨晴れて野山の錦いや増せる

昨夜の雨紅葉の色を極めけり

雪の山下りて小春の御城下へ

竜馬像仰ぎ見てゐる懐手

懐手して土佐の朝市を行く

小春日に四国カルスト来たかりし

街小春竜馬の生地尋ねもし

山下りて来て小春日の御城下へ

朝市に立ち寄ってみる小春かな

朝市を二巡三巡する小春

たはむれに朝市巡る小春かな

朝市の土佐弁はづむ小春かな

2017年10月

柔らかに綺羅を返して秋の湖

秋の湖渡り来る風心地よく

爽やかや浅間も見えて句碑巡る

爽やかな日和賜り句碑巡る

爽やかや塵一つなき虚子旧居

虚子旧居へと爽やかに案内され

爽やかやどれも清潔虚子の句碑

横綱を引っ繰り返し爽やかに

横綱の大逆転も爽やかに

小鳴門に音立てて入る秋の潮

秋潮に乗りたる船の速さかな

秋潮のどっと寄せ来る鳴門かな

曼殊沙華林の中を土讃線

畝といふ畝埋め尽くし曼殊沙華

そこらぢゅう飛び火せしごと曼殊沙華

無人駅また無人駅葛の花

谷底の秘境の駅の初紅葉

乗降客ゼロなる駅の草の花

庭先に鶏頭咲かせ谷戸に住む

仰ぎ見る金木犀のある駅舎

大歩危の崖を降りれば曼殊沙華

大歩危の水の青さや曼殊沙華

列なして韮の花咲く山の駅

トンネルを出ればたわわに柿実る

新米のぼうぜの鮨は母の味

新米にぼうぜの鮨の母偲ぶ

新米と云へばぼうぜの母の鮨

新米と云へばぼうぜの鮨の阿波

新米の旨さ引き出すぼうぜ鮨

新米の旨さと香りぼうぜ鮨

新米で作るぼうぜの祭鮨

飛び切りの出来と新米持ちくれし

草刈られ水引凛と立つ小径

もたげ上げ見ればたしかに杜鵑草

この径にこんなにも咲き杜鵑草

へばりつくやうに咲きしも杜鵑草

水涸れし池に水引生ひ茂る

水引の池のっとりし咲きっぷり

藤の実の垂れ放題なる古刹

蟷螂は哲学者かな首傾げ

茶の花に甘き香りのありにけり

茶の花の黄色い蕊の美しき朝

先端はまだ緑なる式部の実

仕上がりし色の光沢式部の実

コスモスの白のまぶしき在所かな

コスモスの色褪せぬまま咲き続く

名月を観てより宴の始まれる

酔眼に観ても真ん丸今日の月

雲一つなき名月の明るさよ

街の灯を下に名月凛として

山頂のホテルで今日の月を観る

中天に名月上がり宴終る

観月の芒と団子手土産に

藍の花供へ夢道の忌を修す

寒露の日動けば寒い夢道の忌

けふ寒露動けば寒い夢道の忌

ほったらかしなる蜜柑の鈴生りに

ぐるぐると蜜柑を木ごと烏瓜

青蜜柑山に真っ赤な烏瓜

露草の日陰の露地に群れ咲ける

蟋蟀を追い駆け行けば跳び立てる

網の蜘蛛の五匹目の餌も取り逃がす

網の蜘蛛の餌に飛び掛かる速さかな

公園の裏道行けば蜜柑山

片隅に種取る花や藍畑

ちちろ鳴く畑に三番藍の花

日陰りて色を増しけり藍の花

音もなく来し秋の蚊に刺されけり

世に遠く藍の花咲く里にゐる

鍬を打つ農婦が一人秋晴るる

虫時雨止まざる畑藍刈られ

藍刈りし畑に止まざる虫時雨

大振りの芙蓉なほ咲く里の秋

仰ぎ見る芙蓉の空の青さかな

仰ぎ見るレバノン杉の新松子

大きかりレバノン杉の新松子

レバノン杉なるは松なり新松子

落鮎の大皿になほ余る丈

落鮎となりて背越のメニューなく

落鮎の抜かれし骨の硬さかな

笹に刺したる落鮎をくだされし

八人目の孫を賜る翁の忌

真っ先に来て咲き初めし石蕗を見る

雨強くなれど止まざる虫時雨

ででむしに秋雨のさぞ冷めたかろ

秋雨にででむしの目の縮こまる

大木に添うて咲く石蕗丈高し

鵯の声山頂広場貫ける

鈴生りのままに残ってをりし柿

始まりは蕾ばかりや菊花展

一輪の咲きて始まる菊花展

降り続く一雨ごとに秋の声

静かさの戻りたる街秋の声

しとしとと雨降る古刹秋の声

啄木鳥の文化の森にまで来たる

吾のゐるを無視せし如く小げら打つ

2017年9月

善入寺島なる中洲稲を刈る

釣師らの静止画となり鮎を釣る

鰯雲仰ぐ巨岩の鼻先に

釣れましたと言うて鮎川上がり来る

地蔵盆なけれど棗鈴生りに

見るうちに空一面の鰯雲

地蔵盆なき里となり赤のまま

名刹の中に古墳やばった飛ぶ

聞くほどにか細くなりし法師蝉

この寺の秋描き金賞取りし日も

礼装の清しかりけり寺の秋

赤蜻蛉即かず離れず赤蜻蛉

この寺の秋の絵描きし日の遠く

踏み入ればばった飛び立つ古墳かな

黒き富士抱く秋雲の白さかな

どこもかも岩ばかりなる宮の秋

大岩の隙間抜け来し風は秋

のしかかる岩背の本社肌寒し

たっぷりと出湯に浸かりて来し花野

松虫草より榛名山始まれる

吾亦紅松虫草と火山灰の道

群れ咲ける松虫草に淋しさも

群れ咲いてゐても淋しき吾亦紅

松虫草だらけと云ふも淋しくて

日陰りて夕菅らしき色となる

邯鄲の榛名山より聞こえ来る

三代の句碑にやさしき秋日かな

榛名湖は水底までも水澄みて

邯鄲も松虫草もたっぷりと

石段を上り抜け来し風は秋

石段に休んでをりし秋日傘

鈴虫に迎えられたる山の宿

静かなる文学の宿虫すだく

さながらに虫の宿なる山の宿

ベランダに火鉢小諸の山の宿

薪くべて下さいとある暖炉かな

小諸なる虚子の旧居の紫苑咲く

虚子の文字ゆったりとして爽やかに

紫苑咲く紫苑の句碑でありにけり

新涼の小諸に虚子の句碑巡る

笠石の句碑は木槿の散る辻に

虚子の道浅間も見えて蕎麦の花

海鼠壁続く街道女郎花

萩茂る海野宿なる街道に

格子戸になほ朝顔の咲き続く

用水の水清らかに赤のまま

桔梗咲く島崎藤村記念館

懐古園なるは城跡芙蓉咲く

子規と云ふ巨人をしのぶ糸瓜かな

雨の日の糸瓜の花の盛りかな

降る雨に糸瓜の花の立ち上がる

絶筆の糸瓜三句の糸瓜見る

子規庵の糸瓜の花の天へ咲き

糸瓜咲き満つ子規庵に来合はせて

子規庵に子規せしやうに糸瓜見る

秋夕焼真っ赤に富士を染め上げて

鳴き交はし帰る燕の集まり来

大空に螺旋を描き燕去ぬ

見るうちに帰燕の空の黒くなる

この町にこんなにゐしか燕去ぬ

あわただしく燕去にたるあとの空

先頭も殿もなく燕去ぬ

仰ぎ見る帰る燕の高さかな

曼殊沙華Ⅴ字の土手を埋め尽くし

曼殊沙華一気に咲ける彼岸かな

降る雨にたぢろぎもせず曼殊沙華

曼殊沙華浄土となってゐし跡地

曼殊沙華林に凛とほたる草

咲きっぷり噴火せしごと曼殊沙華

その中に白のぽつぽつ曼殊沙華

花芒ダイヤのやうな雨滴置き

雨滴置くたびにさ揺れて花芒

蜘蛛の巣の飛蝗乾涸び雨の降る

ラジオ体操で始まる運動会

対抗のリレーで終わる運動会

2017年8月

開け放ちがらんどうなる夏屋敷

掛軸を替へ夏屋敷仕上がりぬ

一坪の茶室のけふの夏屋敷

庭に出る下駄揃へあり夏屋敷

雷の予報を聞きて下山する

空梅雨の明けし証か日雷

はたたがみ怒鳴り散らして行きにけり

段ボール箱でマンゴー届く朝

琉球のマンゴーですとお裾分け

琉球の太陽の香のマンゴーよ

完熟といふマンゴーの甘さかな

お裾分けされしマンゴーお裾分け

乗り継ぎて白夜の街に降り立ちぬ

教会の空高々と夏燕

海よりの風の涼しきタリンかな

バルト海指呼の城跡鷗来る

真青なる空より夕立来るタリン

クルーズ船より降りてくるパナマ帽

しっかりと雨降る街の大夏木

夏が好き太陽が好き日向好き

国境といふもののなき花野かな

人工のもの何一つなき花野かな

人を見ぬ花野にこふのとり四羽

こふのとり農家の庭の高き巣に

白樺の森を彼方に花野かな

何処までも続く花野の月見草

月見草少しまぶしき白夜かな

バス停も丸太づくりや蕎麦の花

万緑の森の丸太の小さき家

北国の秋は駆け足ななかまど

バイソンの駆けゐしといふ花野かな

ラトビアに入りても変わりなき花野

煙突の農家はやばや年来積む

「百万本の薔薇」生まれし国の夏短か

こふのとり家族のやうなキャンプかな

城守るやうに燕の旋回す

鷗飛ぶリガはバルトの港町

天辺に猫の像あり夏の雲

三国を流れ来し川涼やかに

ビールには何といってもソーセージ

擬宝珠のリガの運河の岸辺にも

北国の夏は百花の競ひ咲く

炎昼に弾む乙女の会話かな

旅人の我に笑顔を爽やかに

街に出て短き夏を楽しまん

夜の更けることを楽しむ白夜かな

ラトビアは視野の果てまで麦実る

宮殿のこふのとりの巣大きかり

宮殿を我が物顔の夏燕

宮殿の広場彼方此方蟻地獄

宮殿の花壇ひろびろ夏の雲

噴水の上がりて夏の宮殿と

麦実る黄金の海でありにけり

夏草の野に十字架の十万本

炎昼に追悼の列途切れなく

ななかまど真っ赤やリトアニアに入る

北国の短き夏の花壇かな

リトアニアなるはひろびろ豊の秋

「人間の鎖」を偲ぶ酷暑かな

「人間の鎖」ここより夕立来る

街さっと洗ひ夕立の去りにけり

城跡は涼しき風の吹くばかり

城址へと登りしあとのビールかな

記念碑は青葉まぶしき公園に

植樹せし桜青葉の茂りかな

湖に浮かぶ古城へ船遊び

船遊乗り放題と言はれても

緑陰に鴨も寄り合ひ来る日和

開け放つ命のビザの夏館

六千人救ひし部屋の涼しさよ

日傘して行くは日本の婦人のみ

この街は日焼け楽しむ人ばかり

カウナスの古都の老舗のジェラードよ

市庁舎は博物館に緑濃く

茂り立つ夏木の下の涼しさよ

水涸れし古城の濠の夏の草

緑陰に明るき子らの話声

日除けして六時間てふバスの旅

隣国へ万緑の森抜けて行く

国境といふも夏草茂る野辺

炎昼もヘッドライトを点けて行く

街道は夏の木立の真ん中を

もろこしの畑を突っ切りひたすらに

ポーランドなる麦秋の国を行く

ワルシャワは人多き街蒸し暑し

薔薇園の柳の下のショパン像

ショパン像ありし公園四葩咲く

ワルシャワの溽暑に白の清々し

大学の真白き門の爽やかに

廃墟より蘇生せし街夏燕

瓦礫より復元の街燕飛ぶ

この街のかくも大きなしゃぼん玉

この街はこんなに平和しゃぼん玉

爽やかやショパンの曲の大通り

緑なすワルシャワの街ななかまど

ノーベル賞五つの家系爽やかに

旧市街にもアイス売る店並ぶ

擬宝珠の花咲くショパン記念館

擬宝珠やショパン生まれし庭園に

紫陽花の花のショパンの生家かな

球形やショパンの好きな夏柳

皮剥けば香のほとばしる蜜柑かな

小さくて硬き蜜柑のかく甘く

小さくとも昔の味の林檎かな

スーパーの店頭年木積み上げて

クーラーの列車嬉しき揺れもなく

冷房の効きたる列車揺れもなく

ポーランドなる大平原に牛昼寝

夏の旅その地で買ひしTシャツで

土産屋のTシャツで行く夏の旅

山てふも丘なる国の麦の秋

夏柳また夏柳なる無人駅

ななかまど駅のホームの人無言

赤茶けた川に水着の肌白く

林間に太陽を待つ水着かな

噴水の上がれば子らの歓声も

中世の城の花壇の百合の花

一服し花壇の百合の花を見る

秋明菊群れ咲く城の庭園に

秋明菊見てより日本しのばるる

コスモスよクラクフはなほ秋暑し

真青なる空にコスモスよく映えて

噴水の水に雀も身を沈め

平原の黄に染まりゐる豊の秋

アウシュビッツ訪れし日の酷暑かな

地獄絵の日々偲びゐる溽暑かな

監獄は花野の中にありにけり

炎昼をイスラエルから来し子らも

過去学ぶ子らの瞳の涼しさよ

鉄条網めぐらす獄舎地虫なく

ホロコーストありしはこの地ななかまど

監獄の中にも花野ありにけり

監獄の中にありけり蟻地獄

そのかみの地獄の跡地蟻地獄

ななかまど真っ赤やホロコーストの庭

アンネゐし監獄の跡をみなへし

岩塩を掘りし地底の涼しさよ

地の底にかくも涼しき宮殿を

岩塩のシャンデリアなる涼しさよ

教会の中庭静かカンナ咲く

教会は丘の中腹ななかまど

ななかまど赤く民家の屋根赤く

木造の教会囲む夏木立

木造の教会の中涼しかり

手作りの年木はやばや積み上げて

風通し良き場所選び年木積む

中世の馬車に乗り込むサングラス

緑陰でバカンス過ごす家族かな

「シンドラーリスト」の街の酷暑かな

街中にサングラスまたサングラス

太陽を全身で浴びサングラス

夏帽も日傘も嫌ひサングラス

噴水の止みたる夜の街静か

ビール酌み交し日本を偲ぶ夜

ビール飲み交し長旅終りけり

こんもりと笊に盛り上げ新豆腐

ほのかなる大豆の香り新豆腐

奥祖谷の縄でくくりし新豆腐

流れ星またまたまたも流れ星

流れ星ともに見し人今何処

見んとして待てども見えず流れ星

奥祖谷の露天湯で見し流れ星

盆の月踊り果てたる街照らす

静けさの戻りたる街盆の月

阿寒湖のカムイコタンの盆の月

帰省子の去にて一気に秋めける

やはらかくなりたる日差秋めける

平常の暮らしに戻り秋めける

飛行機の残せる雲も秋めける

秋めける日差に棘のなかりけり

2017年7月

夏至祭のフィンランドの田舎ふと

乙女らの衣裳手作り夏至祭

北欧の御伽の国の夏至祭

夏至祭のファイアストーム高々と

夏至祭を踊り明かせし遠き日よ

夏至祭のサウナのフィンランドかな

天辺にゐるは雀か今年竹

抜け駆けの群雄割拠今年竹

抜きん出て伸びる直線今年竹

弾丸の如き蘇鉄の雄花かな

名選の水湧く水辺花蘇鉄

長堤の前後左右に梅雨の蝶

つつましく健気なる様梅雨の蝶

ふと見ればズボンを登り来る毛虫

モラエスも蛸食べたるか半夏生

リスボンは平和でしたよモラエス忌

梅雨晴れの阿波は熱帯モラエス忌

阿波けふも緑一色モラエス忌

モラエスは聞けず眉山のほととぎす

七夕の飾りに子らの夢はずむ

七夕の短冊笹の撓むほど

たっぷりと降りたる朝の蓮の花

清浄といふはこの白蓮の花

水無月の九州記録的豪雨

水無月の田に泥水と流木と

水無月の雨に鉄橋流される

水無月の山を丸ごと崩す雨

絶海の阿波の伊島の花海桐

弁慶の安宅関の花海桐

海桐咲くアドリア海の青さかな

海月見て観潮船の客となる

海月見る観潮船の船着き場

町川に海月来てゐる徳島市

海月浮き潮入川と知りにけり

八十路なる上司健啖鱧尽くし

鱧一尾買へば骨切りしてくれし

軍手して鱧を外せる釣師かな

開きたる口ばかりなる鱧の貌

豆腐そのものの旨さや冷奴

雨の日は運動不足冷奴

透明のガラスの皿の冷奴

高徳線右も左も蓮の花

吹き抜けのホール七夕飾りされ

青田行く四国の鉄路よく揺れる

夏霧の瀬戸内海に島一つ

ビール飲む飲み放題と言はれても

西瓜出て同窓会はお開きに

蟻登る鼠返しも何のその

高床式倉庫の下の涼しさよ

竪穴式住居を出ればこの溽暑

蹴飛ばせば梅雨茸こっぱみじんかな

蟻を見て来て全身の痒ゆくなる

古墳群背にする深山ほととぎす

音のなき奥宮蟻の世界なる

聞きたしと思ひし途端ほととぎす

ほととぎす一声鳴きてそれっきり

向日葵やゴッホの墓は野の中に

向日葵の顔を揃へて咲き揃ふ

梅雨晴れのアガパンサスの青さかな

アガパンサスまぶしきほどの五月晴

店頭に北京ダックの夜店かな

葉柳の南京町の広場かな

睡蓮の池広々と満たし咲く

睡蓮の水際立てる青さかな

梅雨明けの空の青さでありにけり

中天へ伸びる勢ひ雲の峰

梅雨明けの週間予報全部晴

清らかな水の公園蟻地獄

蝉時雨そんなに熱り立たずとも

葉柳の大樹の幹の武骨さよ

夏柳水面の影も黒々と

見渡せば東西南北雲の峰

涼風はやって来るもの待ちませう

大空の陣取合戦雲の峰

梅雨明けの空の広さでありにけり

2017年6月

ほったらかしなる仙人掌に美しき花

瑞々しきは仙人掌の花の色

庭中に十薬の花咲き満てる

雨の日の十薬の花白眩し

十薬の夜目にも確と白十字

咲き初めし御苑の菖蒲凛として

どれも皆名ある御苑の菖蒲咲く

株毎に名札御苑の菖蒲園

巡り終へやはり紫花菖蒲

咲き満てる杜鵑花の垣の明るさよ

刈り込まれ犇めき咲ける杜鵑花かな

遠目にも際立つ白や山法師

十薬の白より真白山法師

紫蘭咲く御苑の池の一隅に

河骨の御苑の池に咲き満てる

万緑の中に勇者の像立てり

武蔵野の青葉の中の記念館

蛍を川辺に待てば河鹿鳴く

独唱の斉唱となり河鹿鳴く

川面にも光を映し蛍飛ぶ

蛍の闇の底より湧き出でし

仰ぎ見る泰山木の花まぶし

見下ろして泰山木の花数ふ

風に揺れ泰山木の花いびつ

咲き初めし紫陽花どれも色淡し

日向より日蔭の色や七変化

かなぶんの羽音を立てて居座れる

花も葉も光り泰山木の立つ

この辺で蝮蛇見しとの立札が

明易の街に渋滞なかりけり

明易の朝一番に式場へ

明易や日に八組の挙式とか

明易や午前の挙式二組と

明易の朝一番の挙式かな

ウエディングドレスまぶしき夏の朝

鎌倉に紫陽花の寺いくつ目ぞ

ここもまた紫陽花寺となってゐし

紫陽花の間を江ノ電のこのこと

子供らに贈られし旅五月晴

梅雨晴の伊予灘青く真っ平

梅雨晴の日差まぶしき伊予の海

五月晴車窓に確と大洲城

梅雨晴の道後の宿の野外能

梅雨晴を湯籠ぶら提げ坊っちゃん湯

コインランドリーがらんどうなる五月晴

梅雨晴のきりりと辛きカレーかな

富士も見え待ちゐし甲斐の五月晴

百合咲いて狭庭にはかに華やげる

こふのとり巣立ち白百合咲き揃ふ

梅雨晴れて街路の椰子の光る阿波

宅地化に残る野良道半夏生

この時季のいつもこの場所半夏生

見渡せば水田ひろびろ半夏生

半夏生までに田植えを終へねばと

紫陽花の農家の北の裏口に

日の影にありて紫陽花色となる

一株に百越す鞠や濃紫陽花

本堂へ紫陽花咲ける道登る

山寺の紫陽花山を埋め尽くし

雨を待ちゐる紫陽花の淡き色

さ緑の鞠に始まる七変化

日向より日蔭の白よ額の花

日の陰り白くっきりと額の花

焼け残る寺の青葉のまぶしさよ

焼け残る寺の軒よりつばくらめ

再建へ寄進の瓦雲の峰

葉桜の作り出したる大緑陰

葉桜の大パラソルに風通る

登り窯けふもお休み蟻地獄

山蟻に小さ過ぎぬか蟻地獄

大日傘となりてしだるる桜かな

こふのとり巣立ちササユリ咲く阿波路

ほととぎす鳴かぬと草矢放ち待つ

四、五人の大人で草矢飛ばしっこ

谷越へてゆきし草矢に見とれゐる

仕草まね放つ草矢のへなへなと

師の句碑を辞さんとすればほととぎす

ほととぎす鳴けばうぐひす鳴き返す

平なる山頂広場ねじり花

師の句碑の裏より白き梅雨の蝶

梅雨明けて街路の椰子の光る街

梅雨明けて椰子のまぶしき徳島市

子燕の身より大きな口開けて

口となり親の餌を待つ燕の子

街中のシャッター通り燕の子

アーケード街乗っ取りし燕の子

黒南風や週間予報雨ばかり

黒南風に雨来る気配ありにけり

黒南風の雨の気配の湿りかな

梅雨晴れの鳴門の海の青さかな

梅雨晴れの鳴門の空の明るさよ

梅雨晴れて紫陽花ことに輝ける

紫陽花の色を極めて雨上がる

鈴生りの楊梅なるに捨て置く世

楊梅に真っ赤っ赤なる手も口も

楊梅の熟れて落ちたるままの道

塩水で洗ふ楊梅母の味

雨蛙三千院の闇深し

雨蛙こんなに小さき身にあれど

透き通るほどのソプラノ雨蛙

2017年5月

石庭に白き一叢馬酔木咲く

満天星の真白き鈴の犇めける

渓谷のみどりの風に五月鯉

大歩危を舟で下れば岩躑躅

新緑のまばゆき秘境かずら橋

かずら橋揺らすほどなる若葉風

逆巻ける渦に怯まず観潮船

大潮を選び鳴門の観潮に

街中に小流れのあり杜若

小石敷く清き流れに紫蘭かな

外堀の土塁は躑躅また躑躅

城跡へ躑躅明かりの道を行く

混み合ひてゐて重ならず躑躅咲く

近寄りて眺めてみたき躑躅かな

暗きにも浮き立つ白や著莪の花

ひっそりと咲きて気品や著莪の花

亀鳴くをのんびりと待つ日和かな

長閑かな亀寄り添ひて甲羅干す

中世を模せし庭園青柳

内堀の岸辺一面花菖蒲

鶯の声の美濃田の淵渡る

若葉風淵の水面をさ揺らせて

もう一度見頃の薔薇を見に来よと

見頃待ち来たる薔薇園香り濃し

薔薇園に今が見頃と案内され

マーガレットメリルなる薔薇白眩し

薔薇が好きマリアカラスの赤が好き

赤が好き真っ赤な薔薇の赤が好き

イングリッドバーグマンなる薔薇も赤

インカなる黄色い薔薇の秘密めく

クイーンエリザベスなるは一際高き薔薇

ヨハンシュトラウスなる薔薇さ揺れをり

クイーンスウェーデンなる薔薇小振りかな

アメジストなるはピンクの美しき薔薇

深紅なる薔薇は一目でカルメンと

ブルームーンなる薔薇昼も青かりき

ミケランジェロなるは黄色き八重の薔薇

キューガーデンなる懐かしき名の白い薔薇

リンカーンレーガンなるも赤い薔薇

シャルルドゴールなるは青薔薇凛として

甘き香にむせぶほどなる薔薇祭

一巡りして薔薇園の高台に立つ

もんどりを打って堰跳ぶ稚鮎かな

鳥威し吊るせし魚梯鮎上る

跳び損ね跳び損ね堰上る鮎

小太りな稚鮎の堰を跳び損ね

軽々と堰跳ぶ鮎のスリムさよ

似鯉来て稚鮎の群れの散り散りに

音立てて稚鮎吸い込みたる似鯉

群れてゐる稚鮎に忍び寄る似鯉

稚鮎には鮫のやうなる似鯉来し

雨の日の浜豌豆の濃紫

大堰の岸辺ひろびろ花茨

鳴き声の喧嘩腰なる行々子

子ら遊ぶ栄華の跡地芝青む

実休を偲ぶお茶席燕来る

そのかみの栄華を偲び新茶汲む

茶の好きな殿さま偲び新茶汲む

城館の跡青々と芝茂る

初夏の風とはこんなにも心地よく

母の日の母へケーキのサプライズ

庫裏の庭ひっそりとして擬宝珠咲く

鎌倉は路地多き町擬宝珠咲く

鎌倉の裏路地行けば花擬宝珠

雨の日の擬宝珠の花の色淡く

一夜さにこれなる仕業根切り虫

正体を見せることなき根切り虫

怪獣か忍者か夜の根切り虫

芍薬の白のまばゆき日向かな

芍薬の花は清楚でありにけり

後ろ見てよりの遠投鱚を釣る

空港の浜辺遠浅鱚を釣る

砂丘越へ遠州灘に鱚を釣る

芋蔓をたぐるが如く鱚を釣る

晴れの日の続き一気に夏めける

デパートの売場一夜に夏めける

服脱ぎて下校する子ら夏めける

2017年4月

藩主墓仰ぐ足下犬ふぐり

蜂須賀の墓所に蜂須賀桜見る

はくれんの散り敷く墓所の広さかな

日向ぼこしてゐるやうな家祖の墓

蜂須賀の墓所の蒲公英丈低し

初蝶の藩主墓より現れし

春水を鰡一列になりてゆく

木瓜咲ける藩祖の墓の小さかり

はくれんのこはれるやうに散りし墓所

花も葉も赤き蜂須賀桜かな

墓白く雪柳なほ白き墓所

雪柳見上ぐる空の青さかな

犇めける白のまぶしき雪柳

お江戸より花見の便り届けども

花遅き阿波にお江戸は満開と

まだ咲かぬ阿波に江戸より花便り

咲くを待つ阿波に上野の花便り

鎌倉の残花も見たる虚子忌かな

寿福寺へ人波続く虚子忌かな

廣太郎出迎えくれし虚子忌かな

顔見知り探し探さる虚子忌かな

虚子の忌の鎌倉山は丸くなる

実朝と政子の墓も見て虚子忌

椿さんと墓参済ませて虚子の忌へ

麗人と墓参も済ませ虚子の忌へ

窓開けて走る自動車風光る

裾野ゆく真っ赤なポルシェ風光る

ひろびろと耕せる畑揚げ雲雀

黒点となりゆく速さ揚げ雲雀

広き野に雲雀の声の降ってくる

戯れに草笛吹いてみたくなる

草笛の一節鳴りてそれっきり

菜の花に引き寄せられて畦に入る

菜の花や平和な日本ありがたく

菜の花に散歩の足の止まれる

菜の花の花粉まみれの家路かな

チューリップ真っ赤やこれぞチューリップ

マーガレット犇めき咲ける白さかな

鳴門かな漁港直売桜鯛

とれとれを浜値でいかが桜鯛

べっぴんや渦の鳴門の桜鯛

大漁旗立てて即売桜鯛

山二つ越へ来し里も竹の秋

地面まで明るき光竹の秋

茶室へと竹の秋なる小径ゆく

のどけしやどこか寄り道したくなる

長閑かな折り込みチラシまでも読み

ロッキングチェアで転寝のどけしや

のどけしや予定も入れずのんびりと

ドア開けて待てるタクシー長閑かな

ありがとうのお声の耳朶に昭和の日

皇居へと招かれし日や昭和の日

裕次郎ひばりも昔昭和の日

はるかより見えて真っ赤や木瓜の花

平らかに犇めき咲ける棚の梨

城山の裾に真白き著莪畳

木洩れ日を返して白し著莪の花

しなやかにまたたおやかに糸桜

やうやくに咲きし桜を仰ぎ見る

咲き満てる染井吉野の白さかな

咲き満てる花に虚子の句諳んじる

朝刊に見頃とありし桜散る

あっけなきほどなる早さ桜散る

オフィーリアのごと清流に花筏

小流れの澄みたる水に花筏

花屑となりゆく桜さくらかな

雨傘に花屑乗せて来られたる

待ちかねし花の散りゆく早さかな

見るうちに花屑積もりゆくベンチ

花屑を払ひて入るけふの句座

雨の日の桜の幹の黒さかな

海峡も指呼の鳴門の花見かな

はんなりとしだれてしだれ桜かな

しだれ桜しだれ桜とつづく道

輝いて並ぶ原色チューリップ

太陽を真面に受けてチューリップ

太陽へ背伸びしてゐるチューリップ

ほかほかの土にたんぽぽ咲き満てる

咲き満てるたんぽぽの土ほかほかや

闌けてゆく春を眺めてゐるベンチ

うっとりと闌けゆく春の中にゐる

鶯を途切れなる間なく聞きもして

大の字に寝て春風に身をさらす

見下ろせば桜吹雪の帯となる

たんぽぽの野に散り満ちてゆく花弁

あふれゐる春の季題の野山ゆく

石積みの里に明るき芝桜

段畑の土をとどめて芝桜

石積みの段畑毎の芝桜

門前に鉢植を売り藤まつり

大鉢の藤の先駆け満開に

曇天となりて牡丹の色めける

白牡丹には午後の日の強過ぎる

ぼうたんの白に見惚れてしまひけり

巡り終へもう一度見る白牡丹

ぼうたんの白のひときわまぶしかり

うっすらとうっすらと紅白牡丹

虚子の句のとおりと思ふ白牡丹

鐘の鳴るたびにさ揺れて白牡丹

一株に五十を数ふ白牡丹

見て飽きぬ富貴と気品白牡丹

金色に輝ける蕊白牡丹

ぼうたんの白を極める空の青

若葉風寄進の名前いろは順

若楓御手洗の水こんこんと

弟の逝きたる春の早やも行く

年毎に春の過ぎ行く速さかな

散るを待ちをりたる如く春の行く

行く春や静けさ戻る金丸座

桜餅葉まで食べる派食べない派

和菓子屋の道後の老舗桜餅

坊っちゃんの団子より好き桜餅

2017年3月

青空に蜂須賀桜より赤く

早咲きの桜にどっと目白来て

鈴生りのやうな目白や初桜

一本の桜尋ねて人絶えず

地図になき桜尋ねて人の来る

緋毛氈敷きし茶席や初桜

初桜仰ぎいただく抹茶かな

久闊の友とも会へし初桜

武家屋敷より桜見る平和かな

花冷えに熱き善哉ありがたく

薔薇の芽の色に変はりのなかりけり

ブラックティーなる薔薇の芽も赤かりし

黒白の施肥せし土に薔薇芽吹く

海越えて蜂須賀桜見に来しと

城山を仰ぎ蜂須賀桜見る

蜂須賀の世より咲き継ぐ桜見る

二百五十年咲き継ぐ桜幹黒く

幹黒き蜂須賀桜花赤く

全国へ蜂須賀桜この木より

母樹なりし蜂須賀桜仰ぎ見る

蜂須賀の殿の愛せし桜見る

維新も見空襲も見し桜見る

平和なる阿波に蜂須賀桜見る

もてなしはボランティアなる花の

啓蟄よ嘴ゐるぞしばし待て

啓蟄の畑をつつき返す鷺

啓蟄か旅行案内読んでみる

啓蟄か重い上着にさやうなら

啓蟄の空広々と青々と

白酒と云へど酒なり酒はだめ

白酒に酔って仕舞ひしおばあちゃん

紅の濃き蜂須賀桜川面にも

育ちたる蜂須賀桜見て宴

植えし日のこと思ひつつ桜見る

善哉をおもてなしされ桜見る

植えし人育てし人と見る桜

音のして椿丸ごと落ちにけり

干上がらんばかりの池に残る鴨

呼び合へるやうな鳴き声残る鴨

牡丹の芽ダイヤのやうな雨滴抱き

引鴨とならざる鴨のよく太り

どすんてふほどの音して椿落つ

去りゆく日間近き鴨の鳴き交す

石庭にいよいよ白き花馬酔木

天平の古刹の庭に馬酔木垂る

春泥を長靴で行く鴨猟へ

宮内庁の鴨猟春泥を行く

鴨猟へ春泥の道乱れなく

皇族は春泥の道上品に

白梅に紅梅の枝接木され

苗木屋の畑挿木の整然と

美しき写真の添へてある挿木

芽の数多付きたる枝も挿木され

新横綱我が世の春の勝ちっぷり

春場所を我が世の春と勝ち進む

黒椿見てより広き園巡る

風痛みなき椿はと園巡る

極まれる真紅なるかな黒椿

挿木せし椿に真白なる蕾

接木さる椿大きな花付けて

取木さる椿に注がるる眼

採り木さる椿に代理母をふと

熱帯の樹木のやうな大椿

確と見る椿の花の大きさよ

風痛みなき大椿あるロビー

椿詠む虚子の椿の軸を掛け

白魚に暴れ逃げらる躍り食ひ

白魚の暴れて逃げる舌の上

こんなにも背丈のありし犬ふぐり

孔雀園跡一面の犬ふぐり

蛇穴を出でし途端に謗らるる

穴出でしばかりの蛇と出合ひたる

霾や阿波の松島遠のきぬ

霾や洗車料金値上げさる

洗車待ちをりたる如く霾れる

泣く如く軋むワイパー霾れる

霾れば賑はふコインランドリー

春歌ふいけばな展の明るさよ

華やかに春来しを告ぐ華道展

蕾なる垂れ桜の紅殊に

咲くを待ちきれず花見にダウン着て

仰ぎ見る羽の大きさ初燕

その羽で海越え来しか初燕

山下りて来たる町にも初燕

初燕高さ競へるやうに舞ふ

をばさんのお花見まづはお弁当

強東風に蜂須賀桜散り急ぐ

尖ってをらねど寒さ残る東風

東風吹かば鰆来るぞと舟を出す

トンネルを抜け来し山も笑ひをり

ふくよかに膨るる眉山笑ふかに

見渡せば山それぞれに笑ひをり

山寺の和尚饒舌山笑ふ

2017年2月

はみ出せるバレンタインのチョコ売場

義理チョコのバレンタインの日も遠く

子の好きな節分の鬼すぐ逃げる

節分のどれもやさしき鬼の面

おもちゃ屋になき節分の鬼の面

節分に笑顔の鬼の面作る

子の描く節分の鬼愛らしく

紙丸め豆まきの豆作りし子

巻き寿司を節分に食ふ恵方向き

節分に巻き寿司食ふも時勢かな

春立つ日寒緋桜も満開と

春立つ日シークワーサーも完熟と

琉球の桶柑届く春立つ日

雨の日の紅梅どこか艶めかし

紅梅の幹黒ければ紅ことに

笹鳴きを聞かんと笹の見ゆ崖に

裏山を独り登れば笹鳴ける

うつむきて咲く臘梅に雨やさし

雨滴置く臘梅ことに透け通る

孕猫らしきはでんと歩き行く

恋猫の足取り重くずぶ濡れに

孕猫らしくゆったりゆっくりと

恋猫のぬっと出て来てさっと去る

麗かや今日もランチに誘はれて

麗かやランチの話長くなる

麗かや猫の欠伸のながながと

大阿蘇の野焼千里の果てまでも

茫々の阿蘇舐め尽くし野火走る

向かうところ敵なき如く野火走る

逆巻ける風を起こして野火猛る

国分寺ここも寺領や畑を焼く

薄氷の吹き寄せられて突っ張れる

融け始めたる薄氷にひび走る

薄氷の昼まで持たぬ命かな

一際の明るさなりし雛飾

一目見んとて手作りの吊るし雛

雛飾りせし一隅の明るさよ

来る春を見ずに逝きたる弟よ

春を逝く六十六は若過ぎる

余生なく逝きし弟春寒し

春めける日和となりぬ見送る日

春寒の遺骨の壺の白さかな

ものの芽の吹けど弟もうゐない

天上の桜を見んと逝かれしか

天上の父母と花見に参られよ

あれほどの鱵の刺身これっぽっち

透き通るほどの鱵の黒き腹

小鳴門を突っ切ってゆく鱵かな

帯となり小鳴門抜けてゆく鱵

お屋敷に野梅の如く茂る梅

干上がらんばかりの水に蝌蚪の紐

大福のやうにふっくら蝌蚪の紐

黒トリュフかけしゼリーか蝌蚪の紐

けきょけきょとただそれだけも初音かな

聞くうちにほけきょも言へて初音かな

ほうほけきょ言へし初音も存分に

山一つ越え来し里も初音して

蜜蜂の羽音の唸る梅仰ぐ

次々に四十雀来る古刹かな

山寺の日差し昼まで春寒し

日溜りにゐても背ナより春寒し

眠るごと逝きし弟春寒し

弟の逝きて十日や春寒し

雛飾るロビー明るく華やかに

自信なささうなお顔も雛人形

2017年1月

定番の炬燵に蜜柑懐かしく

炬燵の手触れてときめく日の遠く

綿々と内緒の話炬燵の間

虎落笛能登の籬の高さかな

出稼ぎの父待つホーム虎落笛

虎落笛能登の外浦海荒れて

虎落笛止むことのなき岬の村

寄り合ひて牛鍋つつく年の暮

御節にと身欠き鰊を持ち来し子

黒門の市の河豚持ち来たる子も

いただきし猪肉持ちて来たる子も

搗き立ての餅のお隣より届く

年の瀬の市の大鰤贈りくれ

生牡蠣と鰻も添へて鰤届く

年越しの蕎麦より河豚のてっちりと

子の作る鰭酒に酔ひ年を越す

十五人分の雑煮の餅を焼く

十五人家族総出の初詣

三台の車を連ね初詣

頑なに新札揃へお年玉

仏前に揃ひし孫にお年玉

子の親となりたる子にもお年玉

お年玉なる散財の嬉しさよ

生きてゐること確かめる年賀状

出せど来ぬ人の気になる年賀状

初夢に出てくる人の皆若く

初夢は白黒映画なる世界

初夢の覚めてしまへばそりっきり

孫とする百人一首お正月

爺の読む歌留多を孫ら競ひ取る

歌留多取り取れずに泣く子励ます子

独楽廻す手本見せてとせがまれて

子も孫も独楽の廻せぬ世代とは

元日の夜は今年も牛鍋と

正月の妻の助っ人なるや嫁

数の子の薄皮剥ぐを教えもし

正月を嫁三人の分業で

初めての猪肉鍋の二日かな

薬喰せし猪肉の淡白さ

薬喰せし猪肉に舌鼓

初めての猪肉嫁も完食す

三ケ日三食付きの帰省かな

ワイワイとガヤガヤガヤで三ケ日

三日過ぎがらんどうなる冷蔵庫

帰省子の去りたる家のがらんどう

初旅の天の橋立股のぞき

臘梅の丘より天の橋立を

初湯浴び越前蟹に舌鼓

越前蟹一人三杯平らげて

門松の凛と立ちたる外湯かな

城崎のどの湯宿にも松飾

城崎の老舗の湯宿注連飾

どの湯宿にも門松の立ちし町

店頭に餅花飾り客を待つ

寒鯉や出湯の城崎川の町

着流しで外湯巡りの初湯かな

足湯にも初湯の客の絶え間なく

新蕎麦の小皿に盛られ出る出石

買初の人かき分けて買初に

福笹を揚げ買初の列に着く

病院の中はマスクの人ばかり

好きな色聞きて手袋編みくれし

編みくれし手袋の指すらり伸び

編みくれし手袋かくも温かく

編みくれし手袋を持ち丹後へと

手編みなる世に二つなき手袋よ

自転車に乗れて竹馬乗れない子

竹馬の最初の一歩出せない子

竹馬に乗れれば偉くなる気分

悴める身のおのずから日溜りに

探梅の日溜りを抜け出せずゐる

冬晴れの翡翠ことに輝きて

吹き寄せられたる薄氷ひび走る

寒風に小便小僧の裸像立つ

庭園の丸太の椅子の温かく

門松の中に小さな獅子頭

梅咲いて椿も咲ける小正月

薔薇園にぽつりぽつりと冬薔薇

色のなき園に真っ赤な冬薔薇

門前に咲き継ぐ二輪冬薔薇

冬薔薇小さけれども色の濃く

刈り込みを終へし薔薇園冬薔薇

闇深き里の冬の灯いと赤し

寒灯の星のやうなる祖谷の夜

寒林に曝け出されし蔦蔓

遍路墓傾く径に時雨来る

遍路転がしを来て笹鳴を聞く

挨拶の礼儀正しき寒稽古

除かれし橙の山どんど跡

弛みゐる産土神の注連飾

松過の寺全域が掃除され