今月の俳句

2011年12月

踏み入るをためらふほどに紅葉散る
散りて知る紅葉の嵩でありにけり
いよいよに色濃き冬の紅葉かな
残りたる緑の中の冬紅葉
行くほどに紅葉の寺となって来し
ふるさとの阿波は南国冬紅葉
南国の阿波の紅葉は冬も冬
縞模様たしかに見たる小啄木鳥かな
縞模様たしかに小啄木鳥なりしかな
縞模様は小啄木鳥ぞ幹に紛れしが
静かなるナポリの海の暮早し
寄鍋を囲み話の尽きぬ夜
寄鍋の奉行と云ひて女将かな
寄鍋に作法ありしといふ老舗
寄鍋に具を入るる順ありにけり
水鳥の来てゐる川に居合はせて
水鳥の浮かびて景のできあがる
水鳥の予期したる瀬にをりにけり
アマルフィハイビスカスの冬に咲き
枯蓮の田のひろびろとありにけり
枯蓮田東西南北限りなく
枯蓮の中を一両列車行く
枯れきっていよよ明るき蓮田かな
巻き狩の蝦夷鹿肉とシェフの云ふ
巻き狩の蝦夷鹿阿波でステーキに
出役せし狩の分け前平等に
狩犬に血の匂ひせし肉与へ
それぞれに飾り手作り聖樹かな
腰振りて歌ふサンタの玩具かな
寄鍋の「太郎」と云ひて金沢の
寄鍋の「太郎」金沢主計町
年忘飲むなてふことつい忘れ
年忘食事療養忘れをり
年忘忘れられないことばかり
春着買ふ五人の孫は女の子
干柿の色を仕上げてゆきし風
極月の市民オペラに招かれて
極月の阿波のオペラでありにけり
阿波にゐてオペラ楽しむ師走かな
オペラ見てカルメンに泣き年暮るる
極月の阿波のオペラのカルメンよ
カルメンのオペラの跳ねて冬ぬくし
チキン食ぶ社員食堂にて聖夜
クリスマス社員食堂にもサンタ
靴下を吊りし遠き日クリスマス
クリスマスカード着いたとメールかな
クリスマスカード漢字のチャイナより
鴨を見て過すもメリークリスマス
聖書には関はらねどもクリスマス
復活を信じなけれどクリスマス
柚を身で割って入りたる柚湯かな
背を伸ばし四肢を伸ばして柚湯かな
大仕事済ませて入る柚の風呂
柚共と久方振りの長湯かな
小啄木鳥打つ姿よく見ゆ枯木かな
月光の削ぎてをりたる大枯木
枯木山より甲高き鳥の声
柚浮かぶ一番風呂でありにけり
不揃ひの混み合ふてゐる柚湯かな
幸せは柚の移り香柚湯して
天辺の鴉動かぬ大枯木
来し鴨にまぎれず太き居つき鴨
前のめり前のめりして鴨泳ぐ
鴨飛翔愕くほどに首伸ばし
鴨の川太りゐるのは居つき鴨
餌をくはへ追撃かはし逃ぐる鴨
鴨泳ぐ前のめりして水を蹴り
鴨を見て来て熱き味噌汁嬉し
かいつぶり大反動に潜りけり
かいつぶり浮かび来る間の物語
陣を張る鴨と離れてかいつぶり
見て飽きぬ道化振りなりかいつぶり
スーパーにぎっしりと客年の市
年の市嫁三人に妻一人
年の市家族総出でありにけり

2011年11月

兼題の烏瓜持ち来てくれし

烏瓜廻し句会の始まりぬ

手に乗せて艶を極めし烏瓜

縦縞の粋にして青烏瓜

蔓引けば一網打尽烏瓜

大方は落ちしが香り榠樝の実

天辺のまだ鈴生りに榠樝の実

その奥に山杜鵑草群れ咲きて

花芒金波銀波と風の中

日にこぼれ風にこぼれて梅擬

咲き継ぎて道野辺の花野紺菊

咲きにけり地へへばりつき達磨菊

振り返り見ても淋しき冬桜

こむらさき少納言ふと式部ふと

散るほどに咲き継ぐ花よ山茶花は

日向より日陰の色の実千両

垂るるまま裂けてをりたる石榴の実

群れ咲ける秋明菊の花明り

松の廊下跡と聞きゐて石蕗匂ふ

大奥の井戸残りをり石蕗の花

子持ち鮎出て会席の始まれる

山葵より生姜で戻り鰹かな

釜炊きの茸ご飯の香りそむ

芒原富士の裾野の遥かまで

水澄めり忍野八海なればなほ

秋澄みて忍野八海よりの富士

餺飥を食べて小春の甲斐路かな

菊の香や境内深き浅草寺

みちのくの新米並べ商へる

新米のご飯もひさぎ老舗かな

秋空へスカイツリーの凛と立ち

境内に茶席設へ文化の日

菩提子に羽を与へし造化かな

なほ眺めゐても淋しき帰り花

実千両なりし明りのありにけり

お手前の庭の花石蕗明りかな

千両の色を仕上げてゆきし雨

どの株も黙をつくして実千両

動ぜずにいづれの株も実千両

飛び石の先に古井戸石蕗の花

浅漬けにせよと御根葉を持ちくれし

冬日和甲斐路の富士の優しかり

裏富士にやさしき冬の日差かな

朝食のメニュー変はらず冬に入る

立冬の富士黒々とありにけり

羊雲日本列島被ひけり

中世の城の外堀蔦紅葉

中世の城の堅牢栃黄葉

ゴンドラの舟歌澄みて水澄みて

舟歌につのる愁思のありにけり

バリトンの舟歌にある愁思かな

金輪際舟歌に聞く人の秋

室の花咲かせ広場のカフェテラス

ナポリにて熟柿に出会ふ嬉しさよ

よく売るる小粒蜜柑もナポリかな

ボンベイの遺跡に石榴たわわなる

アマルフィブーゲンビレア冬も咲き

洞穴の海の青さよ水の秋

カプリ島段々畑に蜜柑かな

蔦紅葉家皆白きカプリ島

水澄めり「青の洞窟」なればなほ

洞窟の海煌ける水の秋

暮れ早きピサの斜塔に佇めり

冬晴れていよいよ高きコロッセオ

暮れ早きローマの遺跡巡りゐて

街路樹の蜜柑鈴生りなるローマ

着膨れることも御洒落とローマかな

色といふ色なき冬のローマかな

水澄みに澄みてトレビの泉かな

草紅葉美しき日本に帰りたる

紅葉散る川に親鹿小鹿かな

大股に鴉の歩く小春かな

燦然として散乱と木の実落つ

笹鳴と云ふ足元に聞こゆもの

笹鳴を右に左に聞く小径

飛び立ちて目に縞残す小げらかな

小春かな大河一筋ゆるやかに

冬晴や視野果つるまで吉野川

 

2011年10月

鮒釣りし遠き日をふと夢道の忌

鮒釣りしあの日この川夢道の忌

鮒釣りしふるさとの川夢道の忌

鮒釣を久しく見ずに夢道の忌

鮒釣の句碑見て修す夢道の忌

餡蜜も食べて夢道の忌を修す

雨の日の木犀の香の静もれる

木犀の香の辻ごとに家ごとに

刈り込みて木犀の香のちりぢりに

砂つきしままの甘藷を持ちくれし

此れやこの「鳴門金時」なる甘藷

阿波鳴門甘藷と云へば「里むすめ」

栗よりも勝る甘藷に出合ひけり

一風雨明けたる空に烏瓜

烏瓜青空にぶら下がりをり

烏瓜風に吹かれてゐるばかり

世に出さぬ新酒と云ふを注ぎくれし

かく呑みて造り酒屋の新酒かな

今年またボージョレヌーボーなる季節

露の世よマリアテレジアならずとも

鷹三羽巴を崩し舞ひ立てり

向かひ来る風をとらへて鷹渡る

渡る鷹なほ戻さるる時もあり

風に乗り風に向かひて鷹渡る

羽ばたきて羽ばたきもせず鷹渡る

四国路の起点孫崎鷹渡る

塩田の跡なる池に鴨の来て

塩田屋敷守る末子の冬構

時化の来て畳上げあり塩田屋敷

昼の虫日翳り日照り関はらず

会席のデザートに出る通草かな

フルーツの「千疋屋」にもなき通草

里山に通草の採りし日の遠く

一合で足りる幸せ温め酒

世に遠くゐることに慣れ温め酒

独り飲む酒は静かに温め酒

熱燗を甘露甘露と飲みし父

懐かしき人の訃報にゐる夜長

栗を剥く婦唱夫随でありにけり

吾が剥ける栗の栗飯炊き上る

栗ご飯まづは香りをいただきて

てっぺんに無花果熟れてをりにけり

無花果の朝餉の膳にまた載りて

御苑にも背高泡立草咲ける

日本を占拠背高泡立草

佇めば菊人形の香を放ち

菊人形水吹きいのち与へけり

どれも濡れ菊人形の足元は

咲き満つる菊をまとひて菊人形

浄めたるばかりの磴に銀杏の実

衣脱ぎし蛇のそこらにをりさうな

銀杏を掃けば銀杏落つる音

 

2011年9月

天守閣まで放水し震災忌
国宝の城に放水震災忌
犬山の城は国宝心太
天守より届く一葉落し文
国宝の城の一隅凌霄花
ご城主は今も健在赤のまま
ご城主は女性とのこと蓼の花
酔芙蓉明治を今に残す村
明治村ここに始まる萩の花
かく広き花野もありて明治村
台風に対すや右往左往して
台風の来り暴漢来しごとし
雨戸閉め台風の夜の早仕舞ひ
人去りて鳰の水輪の残る池
藻刈舟去りたるあとの水曇り
炎立つ清水のほとり曼殊沙華
法師蝉湖の静かに暮れゆけり
とんぼうの汀女の句碑のある水辺
とんぼうのゐてとんぼうの汀女句碑
浮沈して鳰の浮巣のありにけり
酔芙蓉一日の色を尽くしけり
蓑虫の糸のやうやく見えてきし
湧水に羽黒蜻蛉の映りずめ
江津湖なる水の回廊芹の花
この国にジャングルのごと芭蕉林
芭蕉林巡る水廊鮎透けて
阿蘇の水こんこんと沸き芭蕉林
清らかな水の今昔芭蕉林
芭蕉林その真ん中に虚子の句碑
城壁はオーバーハング秋高し
武者返し此処城壁の天高し
武者返しのけぞり眺め秋高し
馬追や馬放牧の草千里
馬追や乾きし馬糞続く丘
芒野を越えて芒野阿蘇広し
高原のげんのしょうこの花の色
寝釈迦見る松虫草の丘に来て
阿蘇に来て松虫草に会えるとは
群生の松虫草に出会ふ旅
寝釈迦見ゆ松虫草の峠かな
大花野大観峰の麓より
吾亦紅そこにあそこにここにかな
邯鄲や外輪山のよく見えて
花野とは人散りぢりになるところ
花野とは人の固まるところなり
地を這って色濃き阿蘇の花野かな
茎寸の阿蘇の花野でありにけり
阿蘇広し花野も広し空広し
大阿蘇の牛馬散らばりゐる花野
大阿蘇の花野は空に続きをり
阿蘇谷へ一瀉千里の花野かな
遠き日の母の味ふと衣被
衣被味噌でいただく母恋し
衣被供へる母の手の白し
爽やかや句帳土産の祝の座
孤を描きて国際空路鰯雲
鰯雲高く飛べ飛べ竹とんぼ
竹とんぼ飛び飛び飛んで鰯雲
鰯雲水平線の彼方まで
鰯雲地球の裏の国にまで
見舞ひたる師に励まさる子規忌かな
闘病の師に励まさる子規忌かな
糸瓜の絵朝顔の絵に子規忌来る
朝顔の直筆を見る子規忌かな
息を吹き返す結核獺祭忌
まづ酢橘あるを確かめ秋刀魚焼く
みちのくの秋刀魚目黒に贈らるる
横顔の写真忘れず子規忌かな
身を反らし飛び立ちにけり鬼やんま
法師蝉止めば虫なく山札所
行楽の出立ちもあり秋遍路
秋晴れて白のまぶしき遍路かな
秋遍路をみなばかりのかしましく
朝顔の仕舞の花の地に咲ける
刈られたる野に水引の赤い花
邯鄲や四国四県を見下ろして

2011年8月

阿波踊浴衣も粋でありにけり
阿波なれや踊り浴衣もさまざまに
京染めの踊り浴衣も並ぶ阿波
百日紅水辺にありぬ来てをりぬ
遊覧船「乗り場ここです」百日紅
河口より眺める眉山船遊
川巡り町を巡りて船遊
川と川つながる町の船遊
この国の川の回廊船遊
熊蝉の我が家の門の松に鳴く
閑静な住居地にして蝉時雨
七曜の早朝よりの蝉時雨
寄せる波引く波のごと蝉時雨
新真なる浴衣で花火見に行かん
淀川に浴衣繰り出す花火の夜
淀川を狭しと思ふ花火かな
花火にも起承転結ありにけり
打上げと仕掛花火の間合かな
一瞬に咲き一瞬に散る花火
済みてなほ目の中にある花火かな
半時に二万発てふ花火かな
痩身の藍師ひたすら藍返す
一日に四度も返して藍を干す
返すたび軽くなりゆく藍を干す
返すたび色変りゆく藍を干す
掃き返しまた掃き返し藍を干す
藍を干す藍師の箒さばきかな
藍干して藍の小作のことをふと
葉といふ葉照りを返して二番藍
吹き渡る風のやさしき二番藍
脇の芽を育てて二番藍となる
この里に昔一揆の藍を干す
藍玉は玉の汗より作られし
ねぶたはね流燈となりゆきにけり
神々の世もかくあらん星月夜
星月夜神話の島の夜の深けて
星月夜神話の島の尾根黒し
こんなにも青き夜空や星月夜
北海道産の大豆の新豆腐
先頭に三味の流しも阿波踊
三味流し踊り込みたる阿波踊
阿波踊り三味の流れて踊り込み
をみな衆三味を流して阿波踊
よしこのよ三味の流しよ阿波踊
小粋なる三味の流しも阿波踊
麗人の男踊りも阿波踊
をみな皆はんなりとして阿波踊
町川の夜風涼しき阿波踊
つくづくと水の都の阿波踊
町川に宴の灯映えて阿波踊
川縁に市を連ねて阿波踊
潮の香を運び来る風阿波踊
川舟の舳より見る阿波踊
阿波踊浮きステージもありにけり
阿波踊終はりは空に月上げて
流灯の川に宴後の静寂あり
流灯の川に踊りの余韻かな
流灯や宴の余韻の残る川
阿波踊り果てたる川に流灯す
踊り終ゆ川の静寂に流灯す
流灯の行方の闇の深さかな
花火見るボートレースの座席より
ボートレース場が会場揚げ花火
常滑のやきものまつり花火揚げ
揚げ花火一呼吸して開きけり
打ち上げのまた打ち上げの花火かな
闇の濃きほどに色濃き花火かな
打ち止めはは大球形の大花火
フィナーレの花火のあとの闇深し
西瓜割りしたる西瓜を届けくれ
花火の夜見物席へ西瓜かな

2011年7月

湘南の海へ撓みて濃紫陽花
鎌倉の海へ傾ぎて濃紫陽花
海へ落つ磴に紫陽花傾ぎ咲く
江の島に広き庭園花ディゴ
リスボンは今なほ遠しモラエス忌
その生家訪ねしは去年モラエス忌
リスボンのジャカランタふとモラエス忌
リスボンは坂多き街モラエス忌
道尋ねたずね生家へモラエス忌
ファド歌ひくれたる人よモラエス忌
日本にもジャカランタ咲きモラエス忌
孤愁とはファドの余韻よモラエス忌
その孤愁語ることなくモラエス忌
睡蓮の池ひろびろと花鳥園
睡蓮の花に汚れの見ゆるなき
睡蓮の泥土世界を抜け清楚
小さくとも鎌首もたげ蛇は蛇
立ち泳ぎして息を継ぐ井守かな
立ち泳ぎ井守見せくれ赤き腹
四阿に雨を凌げばほととぎす
折からの雨に瞬き合歓の花
糠雨に紅煙りをり合歓の花
句会場けふは山荘ほととぎす
このごろや瓢茘枝と日除けにし
琉球の茘枝育てて日除けにす
朝顔に瓢に茘枝みな日除け
滴りに足取り軽くなりにけり
蕗の葉のコップに泉いただきぬ
清水飲む蕗の残り香ありにけり
滴りを蕗の葉で汲む里の人
阿讃嶺の稜線長き夕焼かな
稜線は阿讃山脈大夕焼
すててこや子供の妻の贈り物
サンフランシスコのこれやサングラス
エーゲ海クルーズに買ふサングラス
富士山の伏流水と聞く清水
生け捕りの山女を囲ひ岩清水
打水をして外つ国の客迎へ
雲の峰阿讃山脈眼下にす
大バナナ垂れて琉球記念館
二タ月も前に予約をして背越
家族皆誰もが背越好きと云ふ
懐石の天然鮎に相揃ひ
鮎の鮨食べて土産に鮎の鮨
この時期のこの店のこの鮎が好き
今年またこの店に来て鮎の鮨

2011年6月

叩き否けふは刺身に初鰹
いただきぬ生姜醤油で初鰹
初鰹土佐に過ごせし日の遠く
昨日今日明日も鰹かつおかな
昨日土佐今日は駿河の初鰹
薔薇園の名札片仮名ばかりかな
薔薇園にバラ科浜茄子咲き満ちて
咲く薔薇と蕾の薔薇と散る薔薇と
巡り来てやはりこの薔薇好きな薔薇
会ひたかりしカルメンといふ赤い薔薇
茹で上げし篠の子水に晒しおき
犇きてなほ犇きてさつき咲く
刈り込みしほどにさつきの咲くといふ
雨に映えさつき明りのいよいよに
近代化とは削られし菖蒲園
菖蒲園水路工事に削られて
紫は深き色なり花菖蒲
つくづくと紫がよき花菖蒲
眉山より流れ来る水花菖蒲
白といふ色のまぶしさ山法師
山蔭に明るき真白山法師
篠の子を水子地蔵に供へあり
梅雨霧の底の鳴門の海静か
発酵も腐敗も黴によるらしき
青黴を閉じ込めゐるはチーズかな
白黴に覆われてゐるチーズかな
いと好きな味の青黴チーズかな
クーラーにまで青黴の侵入し
みなもとをこの青黴にしてペニシリン
糠床を守り神とし黴の膜
久々に会ひし守宮や黴の宿
風呂場にて守宮に出会ふ山の宿
青黴のブルーチーズで飲むワイン
朝凪の紀伊水道で鯵を釣る
鯵を釣る沼島の沖へ船を出し
三尾釣れそれっきりなる鯵を待つ
魚探には魚影あれども釣れぬ鯵
船頭の釣りたる鯵の大きかり
手土産は船頭さんの釣りし鯵
船頭は鯵の釣果に皺増やす
水底の影よく揺れてあめんぼう
すすむより跳ぶ時しきりあめんぼう
韋駄天の走りも見せてあめんぼう
伊賀者か甲賀者かもあめんぼう
目を見張る表面張力あめんぼう
蠅叩上手な母でありにけり
蠅叩下手な私でありにけり
蠅叩棕櫚で作りし日の遠く
潜りては出でては潜り茅の輪かな
結界に入る思ひの茅の輪かな
草矢飛ぶ放物線を描きつづけ
大方は風に戻されくる草矢
弟の放つ草矢のよく飛びて
そのかみの大名屋敷蛍狩り
都心にもありし暗闇蛍狩り
細川家ゆかりのホテル蛍狩り
蛍火の影に水音ありにけり
幽玄の世を現じては蛍かな
幽かにも湧く水の見ゆ草清水
水清き泉に透けし魚のゐて
川曲がり中洲ひろびろ時鳥
雨傘を日傘に梅雨の中休み
水の辺のあぢさゐ殊に瑞々し
鯉に餌をやれば髭見せ鯰出づ
噴水の水の千変万化かな
見下ろせば泰山木の花数多
あめんぼう乗せたる水の盛り上がり

2011年5月

昼までに梨の授粉の終りをり
満遍に陽を受け棚の梨の花
青空へ白を一枚梨の花
新緑の銀杏の並木御堂筋
緑萌ゆ銀杏並木の続く街
御堂筋街路遠まで銀杏萌ゆ
萌へ出づる銀杏の緑御堂筋
山笑ひまた山笑ふ淡路かな
おのころの島中の山笑ひをり
宗俊の啖呵春愁吹っ飛ばし
芝居はねこんぴらさんの春終わる
幸四郎見てこんぴらに春惜しむ
風薫る讃岐金比羅けふ楽日
金比羅の春に落ち合ひ金丸座
幸四郎染五郎見て花も見て
楽日終ゆこんぴらの町夏めけり
桝席の「はの二」より観る江戸の春
金比羅の酒の老舗の樟若葉
緋毛氈敷かれし席の樟若葉
神木の樟の大樹の若葉かな
老樟に天狗伝説あり若葉
休み田にありチューリップ列を成し
整列や縦横斜めチューリップ
畝替へて赤白黄色チューリップ
畝替へて赤白黄色チューリップ
蜂須賀の世より伝へて藤の寺
二百年咲き継ぐ藤の太き幹
山門を潜れば藤の香りして
門前に藤の苗木の市のでき
鉢植えの藤見て棚の藤を見て
藤垂れて古刹に静寂戻りけり
黄沙来て眉山隠れてしまひけり
この小さき魚を目刺とは非情
黄沙来て日輪見えず夕まぐれ
早々と河津桜にさくらんぼ
立つ鳥の跡を濁して鳥帰る
手作りのSL走る子供の日
手作りの蒸気機関車風薫る
夏鶯美声に老と言ふは異議
この艶の老鶯にして極まれり
猪害に泣く竹林の今年竹
虎杖を活けて窯元山に住む
蟻地獄オーバーハングなる傾斜
新緑の輝き池に映りても
松蝉や松の古木の残る寺
若楓渡り来る風やはらかし
石楠花の鮮烈なりし石の庭
石楠花や崖へと続く寺の庭
母の日の妻に梅酒が嫁より来
母の日を嫁三人で祝ひくれ
母の日の花玄関へ床へ挿し
太陽に凛と紫鉄線花
飛行機の窓から烏賊火よく見えて
峰寺の峰と賞でゐて朴の花
竹の子を持ちくれし人篠の子も
篠の子や熊野古道の土産にて
篠の子や熊野古道の道の辺に
道の辺の篠の子採りて家苞に
両の手に余る篠の子採りくれし
篠の子を引くときぽんと音のして
持ち帰る篠の子茹でて旅思ふ
茹で上げし篠の子に水惜しみなく
採りて来し篠の子ちらし寿司となる
中辺路のとがの木茶屋の青葉風
新緑の熊野古道に集ひ来て
はるばると来て紀の奥の万緑に
はるばると来て万緑の中にゐる
出し昆布しのばせて炊く豆御飯
豆飯の御焦げ大好き母の味
まづ御焦げより豆飯をいただきぬ
薄味の豆飯にしてお替りす
鉄線の咲ける窓よりピアノかな
鉄線の色艶仕上げ雨上る

2011年4月

余震なほ続くみちのく春寒し
津波来てなくなりし町春の雪
津波より生還の子の卒業す
殉職の父継ぐといい卒業す
入学の子へ救援のランドセル
震災の泥卒業の証書にも
泥つきし証書記念に卒業す
万を超す震災の死者春寒し
原発にのた打ち回る国の春
原発を閉じ込められぬ国の春
暴走の原発に泣く国の春
想定外てふ無責任春寒し
責任者をらぬ会見春寒し
節電の東京タワー春の闇
夜桜の城の石垣白々と
場所取りは新入社員花の宴
ぼんぼりを巡らせてあり花の茶屋
花見茶屋満艦飾の点灯よ
夜桜の宴とてコート手放せず
夜桜や茶屋のおでんに客の列
居酒屋の並ぶ路地抜け花の宮
客引きの居りし路地来て花の宮
大阪の北の新地の花の宮
曽根崎のお初天神落花はや
紅少し濃ゆしと思ふ遠桜
釈迦仏に甘茶なみなみ惜しまずに
釈迦祀り虚子を偲びて甘茶寺
深山には深山の色の桜かな
桜咲くダム湖の土手を埋め尽くし
曲がりゆく土手に明るき遠桜
遠山に日差を集めゐる桜
花の色幹黒ければなほ白く
桜には武骨な幹がよく似会ふ
跳び跳びてまた跳び堰を越ゆ稚鮎
斜交ひに跳びて堰越ゆ稚鮎かな
堰越ゆる稚鮎背面跳びもあり
十重二十重堰越ゆ瞬時待つ稚鮎
潮待ちの稚鮎の群るる魚梯口
堰を越ゆ稚鮎にリズム生まれけり
鮎遡上真一文字に堰跳びて
自生せるこの菜の花の咲きっぷり
滑走路脇のたんぽぽ小振りなる
富士を見て桜も見たる一日かな
真白なる富士見て紅の桜見て
そのかみの溶岩台地花万朶
紅の色仄かに桜咲き初める
我が余生しだれ桜でありたかり
もつるるを知らずしだるる桜かな
三椏の花の里より富士見えて
茅葺の「見晴らし屋」より春の富士
茅葺の「くつろぎ屋」にて桜餅
茅葺の縁側にゐて桜餅
花屑を十重に敷きゐて八重桜
花吹雪とはとめどなくきりもなく
真青なる空へ消えゆく落花かな
お向かひの桜見てゐる花筵
花見茶屋人気の団子売り切れて
八重桜散り際殊に華華し
見て立ちぬ大渦小渦春の潮
ずぶ濡れて観潮船のデッキに居
どよめきを乗せて観潮船帰る
そこあそこここと渦見の船の客
春潮の鳴門孫崎目張船
ほどけゆく渦の藍濃し春の潮
街路樹の梨の犇き合へる花
街路樹の梨の花咲く梨の里
富士見える茅葺の里草餅屋
被災地の入学の子へランドセル

2011年3月

春雨や傘を差す人差さぬ人
江戸前の海苔のひび張る安房の海
東京湾半ば占領海苔のひび
羽田沖昔も今も海苔のひび
滑走路伸びゆく海の海苔のひび
薄氷の吹き寄せられてゆくあたり
薄氷のありて忽ち失せにけり
薄氷といふ束の間でありにけり
薄氷といふはかなさでありにけり
薄氷の何事もなく消えてをり
厚氷踏みつ登校せし昔
薄氷に遊びし昔むかしかな
薄氷のこはれゆくとき音のして
薄氷に閉じ込められてをりしもの
野島崎灯台に見て雪の富士
梅林下れば祠ありにけり
墓守に紅白の梅揃ひ咲き
梅盛り目白も虻も多忙なる
梅も見て初音も聞ける日溜りに
佇めど梅にうぐひす来て鳴かず
目白群る伸びっ放しの梅林
剪定の枝の切り口だらけ梅
二分咲きて紅仄かなる初桜
蜂須賀の世より伝へて初桜
無事でゐることの幸せ初桜
つくづくと平和は嬉し初桜
仰ぎ見る蜂須賀桜昼の月
夕桜とはこんなにも妖艶な
二分咲きの桜忽とし八分咲き
お彼岸にゴッホの墓に詣でし日
お彼岸に子ら集ひ来て散りゆけり
大根の張りぼて吊るし種物屋
花屋にも並ぶ野菜の種袋
この小さき魚を目刺とは非情
目の空きし干魚目刺にして吊るす
浜風に殺生すすみゆき目刺
立つ鳥の跡を濁して鳥帰る
鳥帰る予告も予兆もなきままに
小女子の釜揚げ山に盛りて売る
小女子の釘煮の味の皆違ふ
小女子の釘煮なる名に納得す
潮の香の残る目刺でありにけり
はくれんは純白なるや幹までも
はくれんの一樹囲みて佇める
はくれんや江戸の世よりの山門に
はくれんの大球形に咲き満ちて
はくれんの花火のやうな咲きっぷり
はくれんの咲き満つ野辺の空の青
はくれんの花の隙間の空の青

2011年2月

裸木の空晴れ渡り昼の月
日溜のなき丸の内梅早し
蝋梅の香に誘はれて苑に入る
満作の黄のほぐれゆく日和かな
白梅の白際立てる空の青
早咲きの梅なりすでに満開に
早咲きの梅に集まる客の足
まだ風のとんがってゐる梅二月
日溜の梅に長居の梅見かな
神木の寒緋桜の満開に
遠目にも寒緋桜であるらしき
品川は社寺多き町梅の花
節分の豆撒く舞台仕上りぬ
ねんごろに幕張り年の豆を撒く
巡らせし幕真新し節分会
宝前を狭め豆撒く舞台でき
住む家の化粧直しし春立つ日
塗り替へし壁に春立つ光かな
家の壁塗り替へて今日春立つ日
立春や壁の塗り替へ終りたる
山茶花の咲き継ぐ紅を極めては
黄砂舞ふ玉葱の小屋農具小屋
散るほどに咲き継ぐ花よ山茶花は
万両や水琴窟の音微か
門前の迎春花咲き初めしかな
殻脱ぎてまぶしきひかり猫柳
遍路道ここより平地犬ふぐり
徒歩遍路落葉溜りの坂を来し
仏の座遍路しるべの足元に
蝋梅の花はおぼこでありにけり
富士見えてあとは朧の下界かな
飛機の下金黒羽白群れる海
此れやこの太郎冠者なる寒椿
微笑みて太郎冠者なる寒椿
寒椿はるか雲南より来しと
人去りて梅の香りの濃くなりぬ
団参の自由時間となる梅見
橘は大樹生りゐて小さき実
橘や小粒なる実のびっしりと
群れてゐて一つ一つや福寿草
朝の日に映えてまぶしき福寿草
色のなき野辺にまぶしき福寿草
黄金色なるはこの色福寿草
弁いづれ瑞々しさよ福寿草
満作は枯葉の暇に咲き始む
満作のまづ咲く花といふ律儀
満作の花に香りのありやなし
裸木となりし欅の微塵の枝
裸木となりし欅の天へ立つ
上海の旧正月の年賀来る
橙の生るだけ生らせ寺静か
壁塗りの足場の取れて雪の庭
壁塗りの足場取られて寒明くる
阿波に雪眉山城山覆はるる
搦め手の道は坂道蕗の薹
江戸城の氷室跡なる蕗の薹
会席の白魚形ばかりかな
さより汲むとは人伝に聞くばかり
有り余る日差のあれどこの余寒
ビル風に忍び込みゐる余寒かな
うかと来し六甲山のこの余寒
うかと出て余寒の中に身を置きぬ
犬ふぐりゴッホの墓は畑の中
運針を男子もせし日針供養
紀の山の襞々にして残る雪
雁帰る一陣二陣三陣と
大空に竿をへの字に雁帰る
白魚漁誘うてくれし人の亡く
春探すミーアキャットの見張り番
襟巻にしたき狸のこの毛並
春隣麒麟の耳のよく動く
春寒し伴侶なき象なればなほ
春を待つ老ライオンの生欠伸
春を待つ麒麟大きく背伸びして
春の日の日溜に群れフラミンゴ

2011年1月

年毎に増える家族やお年玉
初旅の日本橋にてオペラ観る
買初の三越に来て観るオペラ
買初の客にオペラのプレゼント
三越で聴くニューイヤーコンサート
買初の帰りちりめん持ち飛機に
初旅の飛機富士山も鷹も見て
常宿の心配りの薺粥
日当りに陣取ってゐる厚氷
朝の日のじぶじぶと照り薄氷
日当りに残る氷の桶にあり
薄氷に表面張力なるをふと
突っ張らず余生を生きむ薄氷
薄氷の張りゐる池の静寂かな
薄氷の突っ張り弛みゆく刹那
琉球に来て好きになり石蓴汁
波の間に波の間に掻く石蓴かな
浦の子の貝殻を持て石蓴掻く
余所者のアーサ汁好き石蓴好き
石蓴掻く能登外浦の波の間に
寒卵割って卵黄崩れざる
無農薬有精卵の寒卵
訪ふは我らのみなり寒の寺
日溜りに鉢植春を待つ御堂
本堂を後ろ盾とし日向ぼこ
真青なる空より舞ひて風花の
何処からか風花といふ舞ひ来たる
大綿のそれっきりなる行方かな
回廊の日溜りにゐて春を待つ
水道も仏の閼伽も凍りつく
縁側の日溜りにゐて春を待つ
冬晴れの富士の白さの極まれる
奥宮の寒灯ひとりでに点る
寒灯の空へ星へと続く祖谷
寒灯の星のやうなる祖谷の里
寒灯の一つに一つ物語
瓦斯灯のやうな寒灯丸の内
届きたる雲南産といふ椿
寒椿世話する人とせぬ人と
寒椿若木の花の瑞瑞し
宝前を我が物顔に寒鴉
宝前にしたり顔して寒鴉
皿に盛る牡丹のごとく猪の肉
猪鍋を牡丹鍋とはうなづけり
家族皆今年も元気猪の鍋
寄鍋に家族七人揃ひたる
新築の庫裏にやさしき冬日かな
山茶花の散り敷く庫裏の庭静か
南に傾ぎ蝋梅咲ける庭
蝋梅の花弁を透かしゆく日差し
寒鯉の鰭も尾鰭も静かなる
寒鯉の隠れ処に犇けり
牡丹の芽赤に違ひのありにけり