今月の俳句

2004年12月

柊の白の極まる小さき花
山茶花の赤を包める白さかな
柔らかき光集めてお茶の花
咲きいでて庭に今年も花八手
二三粒雨滴を置きて花八手
いとけなき八手の花の雨雫
細き月冬田の水を照らしをり
自転車に乗りて来る子の息白し
短日や少年サッカー引き上げし
短日や葉書一枚出しに行く
寒風へ向きて散歩の大股に
扶桑国クリスマスツリーばかりかな
国中にジングルベルの鳴りてをり
街中が聖歌聖樹で賑へり
恩師から歌集届きて冬うらら
思ひ出を捲るにも似て年賀状
過ぎし日々あれこれ書いて年賀状
一年のたちまちに過ぎ年賀状
梢より降りくるものに鵙の声
車椅子押す夫の背の冬日かな
紅葉に混じりて松の緑かな
芝離宮水面へ桜紅葉散る
一葉ごと桜紅葉の散りゆけり
松の木の冬支度見てひと日暮る
松の木の三人がかり冬支度
真青なる東京の空ななかまど
葉一枚一枚ごとの照葉かな
芝離宮池の中なる鴨の棹
一葉落ち次の一葉を待つ静寂
日向ぼこ若者二人肩並べ
黄葉して湖畔の柳ここ無錫
水路にも冬の日こぼる蘇州かな
杭州の篠懸黄葉いま盛り
冬霞まこと墨画の西湖かな
ほの暗き堂宇に紅葉明かりかな
訪ね来し魯迅の生家片時雨
王義之の歌会の庭夕時雨
紹興酒眠れる土蔵小夜時雨
紹興の酒蔵巡りて日短
昼時雨龍の甍を濡らしをり
上海の夜の灯うるみ冬の雨
持ち込みて厚きてつさを注文す
河豚鍋の終りて尽きぬ話かな
鍋奉行打ち揃ひたり河豚と聞き
河豚食べば誰も彼もが鍋奉行
講釈をひとくさり聞き河豚料理
闇汁といふもてなしのありにけり
松の雪吊のほどよき遊びかな
真ん中に雪吊の松芝離宮
煌けるみなとみらいや街師走
コーラスや東京駅の慈善鍋
青色の満艦飾や年の暮れ
韓国は知らねど今日も沈菜鍋
北欧で買ひしセーター着ぬままに
子らの着し小さきセーター触れてみる
手荷物にセーター一つ入れておく
枯芝といえどふんわりしておりぬ
枯芝と思へどしとど濡れにけり

2004年11月

何事も遅れがちなリ村祭
遅れても何事もなし村祭
世話役は式服に替え祭渡御
台風の爪跡無残過疎の里
濁流の引きし河原の夕薄
被災地は如何にと思ふこの夜寒
大皿に姿鮨あり秋祭
姿鮨旨きころなり秋祭
秋祭り宵から弾む太鼓かな
赤い羽根回覧板に添へてあり
花散りし庭木に小鳥来てをりぬ
秋の鮎大振りといふほどもなく
天へ地へ林檎畑の続きをり
たはむれに噛みし林檎の硬さかな
北国は如何にと思ふ十三夜
麦飯のあつしあつしととろろ汁
松手入演歌のラジオ枝に掛け
この町も黄の悉く泡立草
柿垂れ垂れるままの大藁屋
赤いべべ着たる男児や里祭
ててんつくてんてんつくと村祭
秋入日残れる空の青さかな
みちのくは紅葉の中と便り来る
石蕗の花皇居の庭にわが庭に
山茶花の散つてをるなり紅白が
葉も幹も朱色でありし沙羅紅葉
静かさの戻れる庭に石蕗明り
吾跡川の柳堤を秋日傘
冬の蝶二羽のあと追ふ視線かな
蜜柑褒め一個いただき遠江
紅葉は木ごと枝ごと沙羅双樹
溝蕎麦の隣の花は赤のまま
椎の実を数多いただく句会かな
露けさの近江は今も湖国なり
露けしや大津は湖へ乗り出して
ちりめんに大根おろしは合えりけり
前菜に零余子ありけりけふの席
鴨饅頭大根おろしの添えてあり
丸大根のメーンディシュでありにけり
利休和え柿と蒟蒻合えりけり
緋蕪の香の物あり食進む
デザートの枸杞の実殊に赤かりし
朝飯のデザート愛媛蜜柑なり
山荘の庭にこぼるる冬日差し
紅葉してもう散つてゐる桜かな
城山の色褪せてをり石蕗の花
青空の下の浄瑠璃文化の日
野舞台に弁慶舞へり文化の日
野舞台の襖からくり秋麗
浄瑠璃を野舞台で見て文化の日
蜜柑山抜けて農村舞台かな
松茸をついつい探し土瓶蒸し
けふもまた松茸の前素通りす
時化あとの大根いずれも小振りかな
野に売れる大根少々曲がりをり
信楽の里去る古道木守柿
夕映えの瀬田の岸辺の紅葉かな
朝霧の晴れし琵琶湖や鴨の群れ
一羽来て次の一羽を待ちし鷹
全容を見せたる鷹の目と合へり
鷹渡る翼の羽紋しかと見せ

2004年10月

突然にさやけき天となつてをり
黒点のやがて翼に鷹渡る
雲白く凛たる翼鷹渡る
鷹渡る目と目の合ひしほどの距離
雲のごと竜のごとくに鵯渡る
鷹を待つ肩に山雀乗りにけり
雨台風海へ暴れて泥の川
街の灯の俄かにともり秋の暮
敗荷に映画アラモのシーンふと
野に咲きし秋を集めて華道展
実となりて知る朝顔の多さかな
満月や農夫の去りし畠の上
蓮の実の飛びたるあとも茎高し
暮れてなほ冬菜植えゐる老夫かな
枝にある林檎さほどに赤からず
東京の空の青さや秋深し
秋日和東京の空鳶舞へり
秋夕焼街行く人も茜色
秋夕焼東京丸の内閑か
秋の灯や東京駅の赤煉瓦
秋灯や遠き日のことおぼろげに
赤い羽根付けて背筋を伸ばしけり
軽トラに御神輿乗せて里祭
画展見て帰る小道や柿の秋
どの路地も木犀の香であふれけり
富士見ゆる品川の宿秋晴るる
秋夕焼富士の影絵を切り出せリ
空港に富士の浮かびて秋夕焼
山雀のわが手に乗りし軽さかな
総身の小さく見えて鷹渡る
琉球は近きにあらず花鬱金
五七五の道はるかなり夕薄
刈り取りしあとの田広し空広し
一睡のあともけふなり夜長し
歳時記を捲り捲りて夜長し
百日紅散りそびれたる一花かな
追ひ越して行くにも行けず秋日傘
長き夜や大著の序文読み始む
地球儀の上の船旅夜長し
露草の露草色や今朝の雨
畦道といふ畦道の曼珠沙華
朱点々里の果てまで曼珠沙華
秋遍路雨具の裾の解れをり

2004年9月

河口まで薄の波の寄せてをり
石狩砂丘浜茄子の実の散乱す
一瞬は天翳るほど赤とんぼ
高き天クラーク像の上にあり
鳥渡るクラーク像の差す空を
コスモスやクラーク博士縁の地
コスモスや羊のどかに草食めり
支笏湖を渡りし風や今朝の秋
ななかまどダリアに影を作り咲く
支笏より花野の道の遠かりし
燕去り空深かりし広かりし
縺れ合ひ又縺れ合ひ蜻蛉飛ぶ
椋鳥の縄張りにあり大銀杏
灯を消して虫の世界に居りにけり
一歩出て実りの秋のあふれをり
ホバリング上手塩辛蜻蛉かな
蝉時雨いつの間にやら虫時雨
暮れてなほ木槿の花の白さかな
倒れゐし稲刈るに泥まみれては
子の帰り待ちての夕餉秋高し
虫の音の澄み渡りたる夜の更けて
抜きん出て土手に一本曼珠沙華
曼珠沙華いづれの茎も天突けり
川掃除済ませて美しき曼珠沙華
地を染めしはまなすの実の真つ赤かな
見返れば光の中の花芒
芒原燈台守の歌碑一つ
クラークの像の上なる天高し
恋の町見下ろせる丘秋桜
糸蜻蛉飛びて羽音の残りけり
菱の花咲きて水面を平らにす
棹垂るる少年一人菱の花
残暑てふ言葉を忘れ北の旅
直行便残暑の中へ帰りけり
今昔こぼれんばかり天の川
このごろは干上がりて見ゆ天の川
ソーダ水花の都のカフェテラス
ソーダ水泡を見てゐる二人かな
流灯や消えてゐぬもの消えしもの

2004年8月

風鈴も幟も揺れて団子茶屋
朝顔や水琴窟の庭に咲く
蚊遣りせしベランダに見ゆ遠花火
遠花火音より色のかすかなり
登り窯登り終えての木槿かな
吊忍つり客待ちの古物商
庭の鉢終の棲家の金魚かな
花博のもつとも胡蝶蘭が好き
落ち着きを戻したる空花芙蓉
やはらかき風にまかせて花芙蓉
昼下がり白粉花の白さかな
語り部の代替わりして原爆忌
強きものこそやさしよ蓮白し
かなかなは寂しかりけり夕べ来る
かなかなや暑さも峠越えにけり
天花粉思い出したり稲の花
穂先まで今を盛りや稲の花
大風の吹き去りし朝稲の花
墓洗ふ子の背の丈の伸びにけり
朝採りし完熟の梨黄金色
手も足もいつの間にやら阿波踊り
阿波踊り人それぞれでありにけり
人は人我は我なり阿波踊り
高張りの提灯持ちも踊りをり
はんなりと天指す指や阿波踊り
三味と笛鉦と太鼓も阿波踊り
このあたり夾竹桃の花ばかり
片陰を辿り辿りて遠回り
ふるさとは心の中ぞモラエス忌
よしこのを運び来る風モラエス忌
モラエスの往きし通りの日傘かな
白といふ色の淡さや半夏生
雷のあとの閑かさ夕の虹
路地裏の猫眠りをりモラエス忌
リスボンははるかなりけりモラエス忌
香水は残り香にあり背中の人
コバルトの海はるかなりサングラス
ひかえめであれど艶やか牽牛花
花博の花の街にゐ蘭に蘭
花博にモネの池あり未草
日焼け顔海の男といはれけり
日焼けとは火傷のことと知りにけり
日焼けして後の祭りの日焼け止め

2004年7月

一風雨過ぎ去りし空赤とんぼ
ちかごろは香水売り場にも男
香水を慣れぬ手つきでつけし父
香水を選べど迷ふばかりなり
香水の文字も響きも好かりけり
落とし水落とせる水の響きなり
エーゲにゐ白の背広にサングラス
サングラスカリフォルニアの空をふと
気動車の唸り遠のき蝉暑し
梅雨晴れてハイビスカスの真つ赤かな
蜘蛛の網張りつぱなしに主見えず
省略といふを知らざり蜘蛛の網
けふもまた後の祭りの蚊遣りかな
浜木綿の咲きし港に友集ふ
サッカーの少年一人カンナ燃ゆ
虫銜えさつと消えたる蜥蜴かな
浜木綿を戸毎に咲かせここ伊島
鯵を釣る還暦の友幼な顔
海の日や子らと遊びし島の磯
夕焼けの雲浮かびたり青き空
しだれては海に消えたる花火かな
にぎはひの後の暗闇花火終ゆ
夕映えの後の大空夏北斗
日陰ほど色を増したり七変化
水張ればいつのまにやら水馬
田を植えて土砂降りの夜となりにけり
暮れてなほ花栗の香の漂へり
黴の香や雨戸閉めたる山の宿
南天の花に煌く雨滴かな
水馬ありて泉の深さ知る
台風の洗い出したる空真青
父の日の嫁の便りは「娘から」
父の日に届く似顔絵若かりし
父の日の便りに添えてさくらんぼ
水源は静かなりけり糸蜻蛉
緑陰に画架並べゐし二人はも
おのずから緑陰に道求めをり
緑陰に散歩の歩幅緩みたり

2004年6月

鱚釣りや遠投の背の凛々しかり
登校の子らの後ろに立葵
天守閣さつき明かりの空にあり
天守見ゆベンチ覆ひて花樗
太閤の城大きかり夏の蝶
難波津の青葉の岸辺行きし舟
日向より日陰にてよし黒揚羽
山行きを取り止めし夜の遠蛙
黒南風や月の隣に一つ星
入梅の日の雨予報外れけり
降りそうで降らぬも梅雨の一日かな
群雲を映して水田平らなり
遠蛙幕間幕間に蟇蛙
蟇蛙楽士であればベース弾き
沙羅咲きて渋民村のことをふと
料理屋の鮎まだ小振り解禁日
真白なる旧家の土塀立葵
手入れせぬ庭に今年もダリア咲く
わが庭の白百合生けて悦に入る
黴臭しとはいはねども牛歩とは
黴の香のなかの玉座や故宮院
そこかしこ香をふり撒きて栗の花
日暮れ道ふと見返れば半夏生
今朝の雨花南天の頭垂る 
大雨の後の青田のそよぎなり
矢の如く燕飛びさり時化の空
田の中の墓の供華なり立葵
人参の花向日葵に劣るなり
雲一つ無き空広し梅雨休み
夏台風いつのまにやらいなくなり
葉桜を吹き抜けし風緑色
鵜の潜りひねもす眺めゐし城下
北側の常盤木落葉散りしまま
花樗雨呼ぶ色でありにけり
紅も黄も色増しにけり雨の薔薇
泰山木上に行くほど花白く
舞台はね静寂の里の遠蛙
朝の日や卯の花の白まぶしけれ
煌けり手繰れる糸の先の鱚
雨ありて紫陽花の葉の総立てり
釣りし鱚海の真珠といふ人も
はすかひに飛びし燕の腹真白
山帰来母の作りし柏餅
一階より二階へ越して更衣
着ることの無かりしものに更衣

2004年5月

蝦夷に見し身の丈を越す野蕗かな
山小屋の膳に蕨の添えてあり
雲取に見し春雪の大き富士
赤白黄畝縦横にチューリップ
花蕾畝を別にしチューリップ
山々を少し濡らして穀雨かな
藤咲いて老舗の客の列につく
藤の花カメラの列の上向けり
新緑の上の青空飛機一機
オカリナの楽こだませりみどりの日
木を植うる子らのスコップみどりの日
みどりの日合唱団の胸の羽根
朝採りの篭に蕗独活みどりの日
衣替え探したるとき無きものも
更衣とは捨てることなりちかごろは
天空に咲き競いたり薔薇の花
魚跳ねししぶきに濡れて花菖蒲
花菖蒲咲きし家鴨の舎のほとり
大雨の小雨となりて遠蛙
あぢさゐの鉢二つ持ち里帰り
帰郷子ら去りて二人や子供の日
母の日の母に香水初任給
たはむれに庭掃除してけふ立夏
洗濯機休む暇なし衣替え
実をつけて花をつけたり夏みかん
手に受けし常盤木落葉なほ青し
睡蓮や鯉ゆるゆると泳ぎをり
天麩羅の老舗お勧め品は鱚
仲見世の中を行きたる祭かな
夏祭り女の脛の白さかな
外つ国の子も鉢巻や夏祭り
行く春や金丸座より触れ太鼓
鼠木戸出てこんぴらの春惜しむ
蝙蝠は夕の燕といふべかり
囀りや岩場のあとの緩き坂
春の空雲取山に我立てリ
上りより下りの道のミモザかな
帰り道若葉ひときは増えてゐし
チューリップほほえみ娘てふ名札
根津に来て躑躅の山に迷ひけり
平地より崖の花かな躑躅咲く
亀戸の亀昼寝して藤の花
藤揺れてシャッターの音止まりけり
春眠を蹴飛ばして発つ登山かな
山小屋の朝は春眠とてもなく
春眠に夢も現もなかりけり

2004年4月

つくしんぼ二つ三つ四つ百二百
鰆売りさごしの一尾残りをリ
目一杯春椎茸の太りたる
雛飾る女系三代ここにあり
葱坊主大中小と揃ひたり
春塵の底に沈みし都かな
来てみれば杉菜ばかりとなつてゐし
城跡の馬場の広さや梅の花
溶岩の台地の上の初音かな
遠き日の花冠やうまごやし
行くほどになほ沈丁の香りかな
モスクワの教会をふと葱坊主
三ッ星の中天に在り黄砂の日
六本木ヒルズ黄砂に埋もれり
啓蟄や雀椋鳥せはしかり
剪定の鋏止まりて又鳴れり
剪定のすでに萌え出る新芽あり
自己流の剪定終はり悦に入る
花の山よりふるさとの寂とあり
爺婆の踊りも見たる花見かな
梢八分下枝三部の桜かな
少年と少女に戻り花の宴
天空に囀りのあり花に蜂
入社式新調の靴みな大き
新社員ネクタイ少し曲がりをり
沙羅の芽の一つ一つの雨滴かな
昨日今日木の芽にはかに膨らめり
はすかひにすれ違いたる燕かな
つばくらめ縦横無尽斜交いに
生命とは燃やすものなり桜花
葉ののぞく桜もありて宴終ひ
空豆の花そろひ咲き絹の雨
雨止みし夕日に映えて糸桜
しだれ咲く今宵名残の桜かな
真白なる花筵かな梨の棚
桃咲きて視野一杯に溢れをり
桃園に誓ひし人のことをふと
桃の花煙るが如く咲きにけり
芝居はね春灯の街ざわめけり
金毘羅の芝居のはねて花吹雪
鼠木戸出て夜桜の九十九折
漁火のぽつりぽつりと春の闇
いただきし筍に糠の添へてあり
朝掘りし筍飯の香りかな

2004年3月

八重椿花の盛りに落ちにけり
藪椿先に行くほど数多咲き
落ち椿太極拳の声に落つ
苔むせる青き石段八重椿
見つめても知らぬそぶりの恋の猫
耕せし畑つかの間に草萌ゆる
蝋梅や古き屋敷の窓明かり
歳時記の世界に遊び春炬燵
見つけたり囀りの主天に在り
鳥帰る小川の岸辺ざわめけり
卒業の子らの列あり昼の街
梅明かり黒き天守の聳えをり
薄氷の光れるを見て阿蘇下山
家中に春子焼きゐる香りかな
閉校の日となりにけり梅も散り
嘘まこと梅に鶯蓬餅
天空へ螺旋描きて揚げ雲雀
土手沿ひに花菜明かりのつづきけり
この家もまたこの家もさくらかな
はくれんやこの青き空ありてこそ
うかうかと大根の花の伸びにけり
菜の花やゴッホの好きな黄をこぼす
春の雨葬送の人濡らしをり
姫沙羅の芽の総立ちに真淵の碑
苗市の花の数より人の数
彼岸会の善男善女となりにけり
侘び助や一人となりし人の末
天女なる名の椿かな天に咲き
北風と太陽背中合わせかな
一句成す思案してをり日向ぼこ
嫁御よりバレンタインの日の祝ひ
仕放題気儘放題春嵐
春の虹道行く人の映えにけり
北側の玄関の花梅の花
梅咲きし空真青なり大藁屋
棟上の木槌の軽ろし日脚伸ぶ
町中の雛が雛呼び雛の壇
春の雷人それぞれの門出かな
若布刈り一族郎党浜に在り
浜茹での若布芯まで真青なり
浜で食うめかぶとろろの青さかな

2004年2月

枝の先その先々にも寒雀
柚子味噌を作り終えての柚子湯かな
寒見舞いかの人からは無かりけり
ボルシチの蕪の真つ赤や寒波来る
真二つの白菜干せる車上にも
空豆と豌豆の芽や空つ風
節分や鬼は内へと哀れめば
ヤンバルのたんかん熟れて届きたり
春近してふに訃報の続きけり
沖縄の冬を旬なり島らつきょ
風花に何時かかはりて昼の雨
立春や小川に鮠の群れてをり
春隣り川蜷少し動きけり
蕗のとう二つ三つ四つ五つ六つ
如月の新郎新婦凛として
梅一枝添へて宴の始まれリ
手造りの華燭典かな梅匂ふ
凍て返るお堀に街の明かりかな
冬晴れのなかどこまでも歩きみん
鴨遊ぶ四国三郎昼の月
七種のぺんぺん草となりにけり
冬桜頭を垂れて咲きをリぬ
大根の大根の葉に抱かれをり
うどん屋のうどんののぼり冬茜
うどん屋となりし藁家で日向ぼこ
昨日来て今日も来てをり寒雀
京へ出す室の壬生菜を選別す
生け捕りの大根の大葉切り落とす
垣間見る室の苺の殊に赤
雪の野に豌豆の芽の青さかな
初風呂やありがたきかな無事息災
一番星頭上におきて初湯かな
初風呂に手足伸ばせば宵の月

2002年1月

芹薺ふるさとの川やさしかり
初詣思ひて居りし人に会ふ
凧揚ぐる鳴門の空の青さかな
辛夷咲く武蔵野の空真青なり
日に燦と干し柿すだれ大藁屋
雪の原白鶺鴒の白異に
雪の夜の犬の遠吠え甲高し
徳島の雪は霙となりにけり
いとけなき芽枝に雪の重さかな
数の子と田作りありて事足りぬ
うかとして黴に取られし鏡餅
橙が柚子へ転がり女正月
都より河豚食べに子の帰郷
河豚食ひて友の孤舟を聞きをりぬ
寒き身を温め上手白子酒
鰭酒に酔ひける夜の星の下
九絵鍋をつつきしあとの寒昴
ひめゆりの乙女らの碑や寒の雨
早咲きの蒲公英見たり平和の碑
大寒に残波岬の海荒るる
大寒の八重岳に興ありとせん
旅はるか緋寒桜の紅淡し
登るほど咲き競ひたる桜かな
餅餅餅旧正月の街の市