今月の俳句

2013年12月

虎河豚の内臓抜かれ朝市に

河豚捌く免許も見せて河豚を売る

己が獲りし猪の肉とて写真見せ

己が獲りし猪の肉売る翁かな

猟自慢して猪の肉を売る

猪の肉売り出す猟師八十路なる

腕自慢して猪の肉売る猟師

猟に出る支度して売る猪の肉

大根売るトラック一台見るうちに

産直の旗はためかせ大根売る

冬ざるる市に戦時の国債も

冬の市昭和の暮らし遠くなる

土佐で味覚えしうるめ買ひにけり

うるめ買ふ店主が品を定めくれ

見えて来し南アルプス雪かぶり

白雪の富士に気品のありにけり

櫨紅葉ありて離宮の華やげる

雪吊や松にそれぞれ個性あり

雪吊の松それぞれの形かな

銀杏散る光の帯となりながら

しっとりとしてゐる銀杏落葉かな

日当りの銀杏黄葉の明るさよ

銀杏散る驚くほどの音立てて

銀杏散る神宮外苑黄に染めて

空までも紅葉の赤に染まる杜

まづ柱立てて雪吊始まりぬ

雪吊や庭師五人でかかる松

たっぷりと水気含んで銀杏散る

枯れゆくを待たずに銀杏散りにけり

青きまま散りゆく銀杏ありにけり

銀杏散る残る未練もなきごとく

銀杏散る学徒出陣ありし杜

銀杏散る学徒征きたる外苑に

仲見世は正月用意早々と

仲見世は早正月の気分かな

冬の夜のスカイツリーの青さかな

東京は銀杏並木の似会ふ街

紅白の山茶花競ひ咲ける苑

山茶花のあたりに日差集りぬ

寒椿清楚な赤の御苑かな

遠目にも紅ほのかなる冬桜

冬桜これで満開かも知れず

小さくとも艶ある花弁冬桜

散る姿見せず散りゆく冬桜

デモの声囲む国会銀杏散る

大袈裟に見ゆる蘇鉄の雪囲

日の差して銀杏黄葉の煌ける

青空に煌く黄色銀杏散る

開きたる手帳の上に銀杏散る

枯れてゐるものなき銀杏落葉かな

絶え間なく銀杏の散りて人の逝く

ともに見し人今は亡く銀杏散る

大銀杏黄葉ゴッホはどう描く

ゴーギャンもゴッホも見ませ銀杏散る

丸の内ここのビルにも大聖樹

丸の内ビルの谷間に聖樹かな

美術館裏の庭にも聖樹かな

子らの夢ふくらむ聖樹なりしかな

改装の馴染みし駅舎銀杏散る

銀杏散る東京駅の駅頭に

日の差してまぶしかりけり冬紅葉

電飾のサンタのあふれ街師走

冬の夜の東京タワー赤々と

正月の品々ホテルの売場にも

三階に届く背丈の大聖樹

吹き抜けの空港ロビー大聖樹

メルヘンの世界とともに大聖樹

冬の夜のおとぎの世界電飾で

手編みして手袋くれる人のゐて

いただきし手編み手袋手に馴染む

手編みせしてふ手袋の暖かく

指長き手袋手編みしてくるる

初雪の比叡に家族揃ひ来て

朝の間に初雪消へてしまひけり

年の瀬のイルミネーション華やかに

日光の東照宮の寒さかな

雪の日の東照宮のまぶしさよ

雪深き那須塩原の露天の湯

山茶花の花より白き雪乗せて

湖も滝も凍てつく寒さかな

白雪の世界に滝も湖も

白雪に縁取りされていろは坂

吹雪止みロープウエイの動き出す

日の差して寒鯉の群れよく動く

目の前のホテルの池に鴨の来て

熱燗の加減徳利の底で知る

熱燗や父と語りし日の遠く

あつあつの熱燗が好き父に似て

一合の熱燗に酔ふ齢となり

熱燗や俗世のことは日々疎く

何もせず過ごしてみたし年の暮

用の増え気ばかり焦る年の暮

2013年11月

コスモスのさ揺らぐ風のありにけり

コスモスの揺らぎて風のあるを知る

コスモスを渡り来る風透き通る

白菊や暮潮先生今は亡く

白菊に囲まれてゐる師の遺影

白菊や虚子との写真若々し

野送りに藍の花持ち来られたる

天上に咲き満ちゐしや藍の花

天上に咲き満つ藍を愛でられよ

藍商の裔の亡き師へ藍の花

ばあちゃんが張り切ってゐる七五三

ばあちゃんがおめかしをして七五三

あれほどの大綿消えてそれっきり

大綿の消えたる空の青さかな

大綿となりて厭離に来られしか

天高し石燈籠のいや高く

冬晴や日本一なる石燈籠

金比羅の燈籠高く天高し

鴨を見に来て鷹柱見ようとは

鴨の陣解けて崩れてまたできる

下よりの流れに鴨の陣動く

見るうちに鷹柱でき鷹と知る

鷹柱消えたる雲間鷹渡る

川の鴨動き洲の鴨動かざる

小魚の跳ねて音する鴨の川

緑濃き土佐の奥山にも紅葉

土佐なれや緑の中の冬紅葉

トンネルの合間合間に紅葉見え

トンネルの続く土佐路の紅葉濃し

トンネルや土佐は山国紅葉濃し

土佐に来て阿波の野菊に出会へたる

此れやこの菊のご紋の菊に会へ

紙を漉く簀桁にリズム生まれけり

紙を漉く簀桁引き寄す間合かな

地面より水面の高き鴨の川

千年の歴史を今に紙を漉く

小春かなアイスの売れる高知城

城小春アイスクリンのよく売れて

天守まで人の溢るる小春かな

日当りはポンセチアに土佐の市

骨董の市にやさしき冬日かな

高知かな椰子の葉陰でざぼん売る

高貴とは牧野植物園の菊

名園の菊花展なる雅かな

同じもの一つとてなき菊花展

それぞれの個性を咲かせ菊花展

それぞれに違ふ色と香菊花展

どれも皆盛りの色や菊花展

菊人形一体ごとに和歌添へて

不意に出て不意に消えけり大綿は

大綿の羽音聞かんと耳澄ます

大綿に重さといふはなかりけり

大綿の宇宙遊泳見て飽きず

つくづくと鏡は嫌ひ木の葉髪

櫛使ふ度に気になる木の葉髪

一本の白髪もいとし木の葉髪

ふんはりとハングライダー飛ぶ小春

日を受けて背ナ温かき小春かな

群れてゐてそれぞれ勝手綿虫は

綿虫の涌き出て御室静かなる

綿虫の羽の動きに見とれをり

綿虫の涌き出る処ありにけり

つくづくと綿虫日和なる日和

初時雨冷気残してゆきにけり

時雨来て昼なほ暗き御影堂

宿の傘借りて忘るる時雨かな

時雨るるや三千院まであと一里

時雨来ていよいよ嵯峨野らしくなる

茶の花の日比谷公園にもありし

茶の花のつつましく咲く日和かな

石蕗の花明りの道の曲がりゆく

裏門へ続く回廊石蕗の花

枯るるものばかりの庭の石蕗の花

2013年10月

門前の澄みし流れに鯰かな

崖に出て蟷螂つひに跳びにけり

一思案して蟷螂の跳び立てる

秋てふは別れの季節法師蝉

逝きし人追慕するかに法師蝉

秋の日に五輪の墓の苔光る

秋の蚊の羽音も立てず近寄り来

秋の蚊の気配も見せず纏ひ付く

秋空に木豇豆の実の翻る

羽も付け五倍子風を待つばかり

石榴熟れ採る人もなき里静か

錆鮎の一尾で足りる昼の膳

廃校は虫の世界となってゐし

五線紙に虫のコーラスどう描く

昼間より虫の世界に浸りゐる

がちゃがちゃのコントラバスもよき間合ひ

金管はこれぞまさしく鉦叩

メロディも和音も虫のコンサート

コーラスの合間合間の鉦叩

廃校に銀杏実る鈴生りに

松手入朝四時起きといふ庭師

庭師はや天辺にをり松手入

大小と脚立を換へて松手入

時折は下より眺め松手入

来年のことを考え松手入

残す枝まづ考えて松手入

年毎に犇く松葉松手入

年毎に時間のかかる松手入

庭師には庭師の形松手入

松手入あとの掃除もして庭師

松手入済みたる空の高さかな

子を追うて走るカメラや運動会

万国旗はためく秋の空高く

園児らの運動会や公園で

親が子の手を取り走る運動会

秋晴や小屋掛公演十年目

秋晴や小屋掛幟高々と

秋晴や知事も小屋掛見に来られ

秋晴や浄瑠璃を小屋掛で見る

小江戸なる粋のぶつかる祭かな

町毎に自慢の山車の迫り出せる

町毎の祭囃子の音色かな

町毎の祭囃子にある流派

宵山の山車は町毎陣を取り

文化財指定の山車の次々に

男衆皆気風よき祭かな

山車を引く一番前に女かな

稚児の列先導にして山車来る

女衆皆小粋なる祭かな

一望の諏訪湖の湖畔柳散る

全景の諏訪湖を前に初紅葉

国宝の松本城に芒かな

漆黒の城にまばゆき冬の薔薇

初鴨のお城の濠に落ち着きぬ

秋高し天守は五重六階と

初雪の日本アルプス見える城

朝顔や明治の学舎白亜なる

その奥の紅葉の山の出湯かな

白骨の五彩絢爛たる紅葉

白骨は黄葉紅葉の出湯かな

秘境かな紅葉の色の燃え盛る

紅葉の山の端にあり昼の月

雨晴れて際立つ紅葉秘境の湯

水澄めり大正池の底までも

焼岳の紅葉の景の水面にも

爽やかや穂高連峰くっきりと

河童橋見えて紅葉の迫り来る

河童橋紅葉の中に架かりをり

水澄みて藻の緑色極まれる

紅葉狩とは木道をただ歩く

秋惜しむ一日短し上高地

紅葉のど真ん中なる河童橋

去ぬ燕集ひ会ひたり燕の湯

紅葉の崖を落ち行く瀑布かな

紅葉を二つに割りて滝落つる

店先に葡萄実らせ葡萄売る

ななかまど真っ赤や人の来ぬ丘に

色彩の限りを尽くす紅葉かな

妙高の紅葉真っ赤や燕の湯

露天湯の標高千の紅葉かな

下界まで続く野山の錦かな

紅葉の中に秘湯あり露天なる

丈揃へ彩りも見て菊展示

菊展示三本立ちを組み合はせ

前後見て左右より見て菊展示

三日後の開幕に向け菊展示

食ひ違ふ菊人形の視線かな

仕込みには蕾の固さ菊人形

NHKドラマ今年も菊人形

2013年9月

菅平より唐黍の今年また

高原の玉蜀黍と贈りくれ

高原の玉蜀黍の甘さかな

茹でたての玉蜀黍の甘さかな

茹で上げて玉蜀黍を子に送る

大雨の止みたる後の昼の虫

秋晴るる明日焼く陶の干されあり

秋日濃き日となりにけり陶を干す

堂裏は昼鳴く虫の世界かな

法師蝉法師法師と鳴くばかり

聞き納めかも単調の法師蝉

秋晴れて東京五輪決まりたる

秋晴や東京五輪動き出す

爽やかや血管年齢三十八

血糖値正常となり爽やかに

コスモスや大網元の庭広し

ダリア咲く鰊御殿は大番屋

瓦斯灯の点る運河の風涼し

暮れてゆく運河に映る灯の涼し

邯鄲や石狩の風澄み渡る

邯鄲や石狩の風透き通る

地に撒ける浜茄子の実の真っ赤かな

地に瑪瑙撒きたる如し実浜茄子

実浜茄子真っ赤や地に撒ける如く

灯台は芒の丘の上に立ち

木道を逸れて芒の丘に立つ

鮒を釣る川は静かや未草

小鮒釣る川に睡蓮群れ咲ける

蝦夷の地の背高泡立草可憐

蝦夷の地の赤のまんまの赤殊に

ミシュランのシェフはイケメン鮨握る

ミシュランの鮨屋の鮨の気品かな

なかんづく鮨は大間の黒鮪

日本海味の宝庫と鮨握る

とろけさうなる大トロの黒鮪

紫蘇の実をまぶし手作りイクラ丼

秋雨に色増しにけり丘の花

ななかまど満艦飾の赤であり

水澄みて青の極まる青い池

いぢらしやその名知りたし草の花

たはむれに来て出合ひたる草の花

足元に咲きしものあり草の花

名あるもの草の花とは何とまあ

十五夜の月の明るき夜長かな

十五夜の月の始終を見る夜長

虫の音をしんしんと聞く夜長かな

細身なる和装の婦人秋日傘

秋日傘少し傾け遠会釈

師の句碑に佇んでゐる秋日傘

昼間より虫すだれゐる山の寺

法師蝉まだ鳴いてゐる山の寺

法師蝉名残の声の枯るるかに

山寺の真昼の闇の虫時雨

草刈を終えし山寺昼の虫

青空に螺旋を描き鷹渡る

見るうちに見えぬ高さへ鷹渡る

鷹渡る下を札所へ人歩く

鷹渡る次の札所は山越えて

鷹渡る遍路の道は難所へと

お遍路の見上げる空を鷹渡る

その中に白曼珠沙華楚楚として

新聞にけふ通夜の報曼珠沙華

曼珠沙華越司先生逝かれしと

はやばやと逝かれし人よ曼珠沙華

酷暑乗り切られしあとの訃報かな

訃報聞きまた訃報聞く星の夜

星月夜ともに眺めし人の亡く

星涼し星の一つになられしか

星の夜の星の一つになられしか

決戦の原はこの辺曼珠沙華

戦場の跡に散らばり曼珠沙華

露天湯に手足伸ばせば昼の虫

蟷螂の落ちて騒めく池の鯉

鷹渡る渥美半島長々と

鷹渡る渥美の空の青さかな

やはらかな光を返し竹の春

秋晴や国旗を掲げ異人館

秋風や坂の上なる異人館

2013年8月

梅雨雲を抜けたる空の青さかな

まづビール飲みてドイツの旅始む

夏の夜をドイツの人の輪の中に

渡る風涼しきライン下りかな

日盛りのライン下りでありにけり

夏帽子ひしめくライン下りかな

両岸に葡萄園見る川下り

両岸に葡萄の畑や雲の峰

斜面皆葡萄の畑でありにけり

山越へて葡萄の畑や雲の峰

中世の橋架かる町むくげ咲く

石畳濡らすほどなる夕立かな

城壁の中に町あり立葵

朝顔や中世の古都目覚めゆく

朝顔や古都はゆっくり目覚めゆく

古窓の日除けの葡萄実を垂れて

どの家も窓辺に花や夏の古都

城門をくぐり涼風渡り来る

城門を出れば滴る緑かな

汗流し坂のローデンブルク行く

石畳汗の坂道古都の道

ロマンチック街道どこも麦の秋

麦秋の中の一本道を行く

麦秋に光発電装置かな

明易の一番乗りと思ひしに

明易の城に早くも人出あり

谷よりの涼風を背に城を見る

城を見る涼しき谷の橋に立ち

渓谷の滴りにゐて城を見る

澄み渡る朝の大気や夏の城

涼しかり朝一番に城に来て

名城を巡り終えれば玉の汗

ノインシュヴァンシュタイン城の涼しさよ

はやばやと薪積み上げて冬構

太陽を楽しんでゐる水着の子

泳ぐより日光浴の水着かな

岩盤をこじあけ滝のほとばしる

雪解水音とどろかせ落ちにけり

雪解水作りし湖の青さかな

雪解水乳白色でありにけり

スイスかな川といふ川雪解水

雪解水川幅満たし滔滔と

青白き雪解の水でありにけり

夜の街雪解の水の水明かり

避暑に来て三十八度なるスイス

チーズフォンデュ熱しと思ふ暑さかな

立葵色鮮やかにスイスかな

岩を噛み川底削り雪解水

音立てて逆巻く怒涛雪解水

残雪の峰目指し行く登山かな

山国の宿は山荘薔薇の花

登山鉄道氷河見下ろし行くスイス

残雪のユングフラウの峰そこに

靴の紐しめて下山のハイキング

高山の短き夏を競ひ咲く

高山に咲く竜胆の青さかな

一転し雷雨となりぬ山の宿

屋根裏にベッドルームや避暑の宿

山頂の様子テレビで見て登山

氷雨降る展望台より見る氷河

下山するマッターホーン見ぬままに

残雪のマッターホーン見た人も

ツェルマット登山の町は花の町

雪解水怒涛の如きスイスかな

向日葵の夕日捕らへてをりにけり

里山は静かなりけり麦の秋

永き日をなほ食べ続け牧の牛

永き日の夕日静かに落ちにけり

丘を越え野を越え続く麦の秋

麦の秋視界三百六十度

地平線丸くありけり麦の秋

なるほどに地球は丸し麦の秋

浜茄子の丘よりモンサンミッシェル見え

石段の上に石段風涼し

教会の中に庭園薔薇の花

紫陽花や参道に人犇きて

万緑の中に宮殿ありにけり

宮殿の庭にコスモス群れ咲きて

アカシアの花咲くパリの街路かな

サングラス花の都のカフェテラス

塔見ゆる風の涼しき丘に立ち

ビーナスの笑顔涼しくありにけり

モナリザを見る人垣の暑さかな

エスカルゴこのでで虫のおいしさよ

ユーロスター涼しき夜のロンドンに

すずかけの大緑陰にくつろげる

緑陰のうれしきハイドパークかな

プラタナス大緑陰を作る街

ビックベン見上げ初秋の空見上げ

澄みにけりタワーブリッジ架かる川

ミイラ皆涼しき部屋に展示され

念願のロゼッタストーン見て涼し

宮殿は昼も涼しき灯を点し

宮殿の奥に庭園秋の薔薇

爽やかや宮殿に塵一つなき

宮殿に住む人のあり百合の花

流れ星眺めてをれば流れ星

鮮やかやプラネタリウムの流れ星

斜交ひにまた斜交ひに流れ星

満天の星に消へゆき流れ星

朝顔や古都の夜明けは静かなる

朝顔や古都の音無く覚めてくる

朝顔に日本を偲ぶ旅の空

川中にとどまり鮎の投網打つ

鮎を釣る流れに竿をしならせて

大景の一点となり鮎を釣る

秋の蚊の羽音も立てず忍び来し

沈下橋渡る健脚秋遍路

雨の来て蝉の骸を洗ひ出す

鮎漁を岩の鼻なる景勝に

口中に果汁広がる葡萄かな

此やこの岡山産のマスカット

完熟の葡萄の房の重さかな

大粒やオーロラブラックなる葡萄

はちきれんばかりに葡萄瑞々し

好きと聞き持ち来てくれし芋茎かな

母の味偲び芋茎の酢味噌和え

ほどほどの喜雨なりしことありがたく

旱の地洪水の町喜雨の阿波

涼しさを残して雨の止みにけり 

2013年7月

鰯焼く煙懐かしモラエス忌

鰯焼くリスボンの路地モラエス忌

鰯焼く煙に孤愁モラエス忌

七輪で鰯焼きたしモラエス忌

鰯焼く香り路地までモラエス忌

モラエス忌阿波にぞめきの季節来る

路地までも迫り出す緑モラエス忌

阿波に来て満百年のモラエス忌

清らかに潮満てる川モラエス忌

いよいよの眉山の緑モラエス忌

玉葱の小屋取り残し田を植える

列島に田の字田の字の植田かな

なかんづく長雨の日のジキタリス

しゃぶしゃぶにしても美味なる伊佐木かな

五十年続き幕引く花火の夜

夏霧に色を抜かれし花火かな

音のしてそれっきりなる遠花火

漆黒の闇に色めく花火かな

二十万その一人とし花火見る

舟の出て弁天島の花火かな

揚げ花火この世の憂さを払ひけり

一瞬に咲き一瞬に散る花火かな

美しきほどに儚き花火かな

揚げ花火光の糸となりて散る

一瞬にかけたる花火師の思ひ

花火揚ぐ順にリズムの生まれけり

揚げ花火仕掛け花火の競ひ咲き

ぱっと咲きぱっと散りたる花火かな

終へてなほ目裏に残る花火かな

花火果て臨時電車の五分毎

炎天や狂ひ咲きゐる藤の花

バーゲンもしてゐる町のプールかな

先生についてプールをただ歩く

ひたすらに歩き続けるプールかな

ただ歩く高齢社会のプールかな

ウォーキングコース混み合ふプールかな

泳ぐのはごく少数派なるプール

松籟は子守唄かなハンモック

南国に来てゐる気分ハンモック

海岸に残る松原ハンモック

マニラ湾椰子の木陰のハンモック

阿波踊浴衣も粋を競いをり

京染めの浴衣で踊る阿波踊

扇子より団扇の似会ふ浴衣かな

サングラスにも老眼の度を入れて

トンネルの中でも見えるサングラス

偏光のレンズを入れてサングラス

サングラス越しのふるさと美しく

別世界広がる気分サングラス

老眼鏡レンズ替へればサングラス

板の橋ありしは昔草いきれ

草いきれコンニャク橋の今はなく

土手行けば昔のままや草いきれ

蝶蜻蛉追ひし日遠し草いきれ

展示されマッカーサーのサングラス

元帥の部屋今もありサングラス

2013年6月

十薬の花咲き満てる庭となり

梅雨晴れてまぶしかりけり蘭の花

展示せる蘭を見に行く梅雨晴れ間

花も葉も瑞々しかり梅雨の蘭

蘭の園には木下闇なかりけり

巡り来てやはり紫花菖蒲

菖蒲田の河骨無骨なりしかな

花菖蒲こんなにも茎細きかな

菖蒲田を巡りてをればほととぎす

見上ぐより見下ろせる白山法師

二階より泰山木の花数ふ

許可局とばかり聞えてほととぎす

手の届く位置に泰山木の花

香を放つ泰山木の花に遇ふ

万緑の奥に泰山木の花

直播きの植田や古代米らしく

水底に唐草模様蜷の道

泰然と日を浴び泰山木の花

万緑の中に竪穴住居かな

平らなる眉山山頂ほととぎす

山頂のベンチに座せばほととぎす

山頂に野鳥の森やほととぎす

ほととぎす堪能しての昼餉かな

子燕の飛び立てずゐる枝の先

山頂を縦横無尽つばくらめ

そこらぢゅう水木の花の眉山かな

水木咲く湧水多き眉山かな

翡翠を見んと足音忍ばせて

翡翠のダイブの刹那待つカメラ

翡翠のダイブの刹那撮れたると

翡翠の色を残して飛び立ちし

翡翠が好きで野鳥の会に入る

古池にゐても翡翠凛として

帰り来るはずと翡翠待つカメラ

瑠璃放つ翡翠のゐて瑠璃光寺

梅雨篭りしてシャンソンを聴いてゐる

アテネより進物届く梅雨晴れ間

御湿りのほどなる梅雨のありがたく

梅雨に咲くアガパンサスの紫色かな

デパートの屋上に森山法師

御屋敷の続く町並み凌霄花

大手門前に緑陰なかりけり

城を背に大道芸や梅雨晴れて

炎天に大道芸の若さかな

大道芸終へし若者玉の汗

2013年5月

摩耶山の寺に巣箱のありにけり

寺に来る小鳥のための巣箱かな

檀家より寄進の巣箱掛かる寺

名刹の森にも巣箱掛けられて

見上ぐほど高き枝にも巣箱かな

風船の逃げゆく空の広さかな

風船を子にくれ背高ピエロかな

紙風船遊びを知らぬ世代かな

風船の行方を誰も知らざりし

風船の行方を誰も追はざりし

子ら作る小鳥の巣箱大きかり

真っ赤なるオープンカーも遍路かな

遍路来るヴィトンのバッグ肩にして

手に手取り新婚らしき遍路かな

芳名碑いろは順なり若楓

御手洗に水あふれをり若楓

マウンテンバイクの人も遍路なる

子とともに子の子のために武具飾る

子に買ひし武者人形の子の子へと

三十年ぶりに封開け武具飾る

初めての男の孫や武具飾る

三十年経てもまぶしき武具飾る

筍の香りも散らし散らし鮨

玉葱は淡路鰹は土佐がよし

生まれ年産のワインの届く初夏

古希祝ひ古希のワインの届く初夏

古希祝ふ古希のワインや五月来る

古希の初夏古希のワインを贈らるる

小雨来て背筋伸ばせり薔薇の花

白薔薇の紅ほんのりと差しにけり

恩師より駿府の新茶届きたる

懐かしき駿府の新茶贈りくれ

静岡のこと懐かしき新茶かな

渦見んと観潮船の傾きぬ

渦巻けば歓声上る観潮船

大歩危の水の青さよ五月鯉

大歩危の空真青なり五月鯉

大歩危は風の渓谷五月鯉

空の青水の青さよ五月鯉

万緑の狭間に祖谷のかずら橋

鶯を聞きつつかずら橋渡る

谷よりの風涼しかりかずら橋

そのかみの平家を伝え枇杷の滝

枇杷ひきて都偲びし枇杷の滝

落人の平家伝説枇杷の滝

幾百年流れ落つ水枇杷の滝

幾百年涸るることなく枇杷の滝

身の丈を越ゆるほどなる蛇の衣

からからの蛇の脱け殻とは言へど

寺の庫裏開け放ちありほととぎす

山寺に法事の客やほととぎす

席巻の野太き声やほととぎす

山一つ席巻せしかほととぎす

鳴きながら飛ぶほととぎす時鳥

家苞にせよと新茶を摘みくれし

麦刈りの痒き思ひ出麦の秋

トンネルを出れば明るき麦の秋

伊予に出て右も左も麦を刈る

まろやかな伊予の山々麦の秋

敷き詰めた絨毯のやう麦の秋

染み一つなき卯の花の白さかな

卯の花や阿波はけふより梅雨に入る

余るほど湧き出る水や雪の下

名水の周りを埋め雪の下

隙間なく重なり合ひて雪の下

十薬を干したる庭に十薬咲く

いつよりか十薬の庭白い花

十薬の花咲く庭となりにけり

2013年4月

川幅を覆ひ尽くして桜咲く

競ひ咲く桜堤の雪柳

聞え来る経も長閑でありにけり

お接待お遍路ならぬ私にも

遍路来るペットの犬もついて来る

一品を並べるだけの草餅屋

この時季のこの店の草餅が好き

草餅に千の思ひ出ありにけり

寺領みな覆ひ尽くして桜咲く

天守閣押し上ぐるかに桜咲く

七人の孫を持つ身のうららなり

上りよし下り又よし山桜

山桜振り返り又振り返り

返り見る箱根全山桜かな

山桜又山桜箱根越

遠目には煙りてをりぬ山桜

日ノ本の桜といへば山桜

天然は良きかな桜又桜

絵のやうな雨の箱根の山桜

落ち合うて友と箱根の桜観る

落ち合へる友皆元気葱坊主

波打てる玻璃戸の庭の落椿

花吹雪なほ舞ひ上がり城址かな

ハイキングコースの城址桜咲く

花弁の日を返しつつ落ちにけり

舞ひながら光ながらの落花かな

野に遊ぶ家族に落花しきりなり

滝山の城址なる丘桜狩

ピクニックご婦人衆のかしましく

石楠花や大正ロマン残る庭

石楠花の球なりに咲き溢る庭

蒲公英や多摩川の土手やはらかし

奥多摩に咲いて四月の犬ふぐり

犬ふぐり日溜りに瑠璃こぼしたり

かたかごの日陰の色でありにけり

かたかごの紫ほのと咲きにけり

家々に枝垂れ桜を咲かす里

濃く淡き三つ葉躑躅でありにけり

奥多摩の山といふ山笑ひをり

奥多摩の里山どこも笑ひゐて

断崖の岩山に咲き山桜

野に山に或は里に桜満ち

花といふ花咲き満ちて里鎮か

御焼屋の代替りをり花の里

山峡の風の高さに燕舞ふ

御焼屋の亭主花好き話好き

御焼屋に花見台あり花見ごろ

花見台作りし人に案内され

御焼食べながら亭主とする花見

飛び来しは残る鴨らし番なる

なかんづく赤白黄色チューリップ

チューリップ水面の影も並びをり

連翹と山吹競ひ咲きし道

家族連れ多き公園チューリップ

整列のチューリップ又マスゲーム

公園の段々畑チューリップ

モザイク画描く原色チューリップ

公園に整列のよしチューリップ

チューリップ里は中央アジアとか

畝々の高さに咲きてチューリップ

原色で描く紋様チューリップ

虚子の忌へ半月板の傷癒えて

青嵐洗い出したる空の青

大好きな好きな椿の花御堂

虚子立子実朝政子墓地うらら

鎌倉は武家の都ぞ花菖蒲

釈迦生まれ虚子死す日なり花御堂

寺巡る度に甘茶を振舞はれ

復興の春の市立つ建長寺

境内に産直の市春キャベツ

復興の福島独活も寺の市

創業は天明三年柏餅

川越の老舗の商家若楓

足下より鶯を聞く峠かな

鶯や大島見える露天の湯

夏めける伊豆の漁港の明るさよ

葉桜の河津桜でありにけり

山笑ふ天城峠を越えてゆく

淨蓮の滝の隣は山葵の田

湯ヶ島の出湯若葉に包まれて

花冷えの風忍び込む露天の湯

鶯に目覚め下田の山の宿

鶯に目覚め強ひられ下田かな

乱鶯の谺返しに目覚めけり

石廊崎鶯迎へ送りくれ

石廊崎太平洋の卯浪来る

卯浪寄す伊豆の南端石廊崎

鶯や歩せるが嬉し石廊崎

休航の遊覧船や卯浪荒れ

修善寺に桂川あり若楓

修善寺の門を潜れば若楓

修善寺の湯宿川沿ひ余花残花

こぞり出づ竹の小径の筍よ

竹林の小径筍其処此処に

桜鯛より金目鯛この地では

土産には桜鯛より金目鯛

春の渦巻かぬ時刻に来合せて

八重潮の鳴門は静か春の雲

八重潮の観潮船はすぐ帰る

鶯や鳴門孫崎下に見て

孫崎は四国の起点風光る

大型のタンカー乗せて春の潮

観潮に来て潮見表あるを知る

夏燕坊つちやん湯から離れざる

湯上りの浴衣かぐはし坊つちやん湯

開け放ち夏めく二階坊つちやん湯

坊つちやんとなりて湯上り浴衣かな

坊つちやんもマドンナもゐる春の宵

湯籠持つ浴衣と浴衣会釈して

道後なる老舗の菓子屋柏餅

軒にあり道後湯の街燕の巣

門柳ありしは昔つばくらめ

湯上りの道後ビールでありにけり

湯籠持つ浴衣の柄の皆違ふ

宿浴衣色柄を愛であひにけり

灯の点り浴衣の似会ふ街となり

雨の糸濡らし色増す牡丹かな

二百年咲き継ぐ藤のうねる幹

横たはる伊予の山々夏霞

咲き溢れ萬翠荘の躑躅かな

山藤の上へ上へと咲きにけり

2013年3月

梅の香や幸便熊野古道より

梅の香や嬉しき句集熊野より

わが投句句集となりて届く春

梅の香や笑顔の人の今は亡く

突然に人は逝くもの涅槃西風

逝かれたる顔やすらかや椿落つ

カルストの大地耕し梅咲かす

大岩の転がる大地臥龍梅

岩を抱き大地をつかみ臥龍梅

カルストの阿波の花なり臥龍梅

鹿垣の果てにせせらぎ花山葵

小流れの山葵の株の増えてゐし

切り花を売り梅林の枝切るな

啓蟄や六人目にてをのこ生る

啓蟄に初めて男児授かりぬ

啓蟄に家継ぐをのこ生まれたる

男児生る啓蟄の日でありにけり

啓蟄や小走りに鳥啄める

眠りより覚めたる里や春の水

カルストの大地より出て春の水

春水に卍巴に濠の鰡

春塵の消え東京の空に富士

まづ咲きて河津桜でありにけり

穴開きて開きて寄り来る春の鯉

蜂須賀の世より咲き継ぐ桜かな

緋色にて蜂須賀桜幹黒し

人形のえびす舞見て花も見て

日当りのよき部屋よりの花見かな

麗かや緋毛氈敷き茶もたてて

真青なる空より落花きりもなく

落花とはひねもす休むことのなく

風もなき日溜りにゐて花吹雪

蜂須賀の時代を今に花見かな

黄砂降り部屋中に干す濯ぎもの

洗車機で落ちぬ春塵には手動

黄砂降り四国三郎呑まれけり

種袋挿し苗札と致しけり

苗札の片仮名ばかりなる花壇

苗札も立てて羅漢寺守る僧

日曜の市を待ちゐて茎立ちぬ

茎立てるものも混じりて野辺の市

爆発のやうに茎立ちブロッコリー

茎立ちし芥子菜の歯応へが好き

去年会ひし人はもうゐず椿落つ

予告なく人は逝くもの椿落つ

音のして大きく弾み落つ椿

2013年2月

四温の日旭川より友来る

北国の友を迎へる四温の日

街歩きしてみたくなる四温晴

北国の友のオーバー丈長し

北国の友を囲みて温め酒

物干して白のまぶしき四温晴

仏間にも日差まぶしき春立つ日

梅探る大阪城の庭広し

梅探る熊本城に新御殿

梅探る徳島城に天守なく

梅探る小径けもの道も歩し

谷に沿ひ行きつ戻りつ梅探る

遠目にも紅仄かなり梅らしき

カルストの台地は脆し梅探る

仄かにも朝の日はじく薄氷

八角はやさしき御堂梅の花

堂前に遍路としばし日向ぼこ

一目見て好漢揃ひ冬遍路

蝋梅の色を極める空の青

蝋梅の花の盛りに迎へられ

里山の天満宮の梅盛り

朝の日に満作の花まぶしかり

磴上り来れば日溜り梅の花

紅梅の一部咲きまた三分咲き

山茶花の散り満ちてなほ咲き満てる

蝋梅の花も蕾も臈けて

蝋梅の咲きゐて艶の混み合へる

蝋梅の開きし花の犇ける

雪積る蓑の重さを寒牡丹

積りたる雪より白き寒牡丹

雪の日の寒の牡丹でありにけり

雪の日の寒牡丹色鮮やかに

積る雪払ひて寒の牡丹守る

傾ぎ咲く寒牡丹にて雪牡丹

東京に大雪予報寒牡丹

寒厳し大雪の日の牡丹園

雪の日の牡丹を凝視カメラの目

寒牡丹上野東照宮に見る

綿帽子脱ぎ三椏の花開く

これやこの赤い満作ありにけり

紅梅に煌く雨滴紅仄と

咲き出でて土より花のクロッカス

土割りていきなりの花クロッカス

蔵のある屋敷は静かクロッカス

クロッカス庭に賑はひ生まれけり

クロッカス咲き中世の城の庭

クロッカス石の砲弾残る庭

海苔の篊見えて着陸態勢に

海苔の篊東京湾に陣を張る

江戸前の海に陣取る海苔の篊

八角のお堂の屋根や雀の巣

へんろ道これより在所仏の座

剪定に遠慮会釈のなかりけり

咲かんとす蕾もろとも剪定す

徒遍路何れも無言なるままに

大方は独りが多し徒遍路

垂れ咲き群がりて咲き迎春花

せせらぎの聞こゆ山門猫柳

孔雀園ありしは昔犬ふぐり

天女なる椿の新種天に咲く

潮風に傷みし椿ばかりかな

笹鳴も聞きつつ椿園巡る

笹鳴の次第次第に近くなる

苗木より侘助の花咲き出しぬ

北側の斜面の椿なほ蕾

店頭の椿に風の傷みなく

とりどりの鉢の苗木も梅見茶屋

庭園の良い位置占めて梅見茶屋

太閤の天守閣背に梅見茶屋

由緒ある古盆栽あり梅見茶屋

渡り来る風とんがってゐる梅見

音立てて火柱立てて野火走る

消防車陣取ってゐる野焼かな

河川敷うねる多摩川野火うねる

梅も見て「滝のやきもち」茶屋で食べ

黄花亜麻群れ咲く梅見茶屋ありし

白梅や初代藩主の墓を守り

金柑や蜂須賀家祖の墓小さき

春の鯉跳ねてしぶきの掛かりけり

寒鯔の見えて藩主の墓の池

大方はすまし顔なり雛飾る

その中におどけ顔あり雛飾る

2013年1月

饂飩屋も年越し蕎麦に追はれけり

子や孫と甘味年越し蕎麦を食ぶ

子や孫と年越し蕎麦の膳囲む

子も孫も揃ひて墓参する晦日

スーパーの中に開かれ年の市

鮭ならぬ鰤の届きて年の暮

数の子と田作手始めに用意

琉球の蜜柑を載せて鏡餅

子も孫も勢揃ひしてお正月

嬉しさは家族増えゆくお正月

今年また増える家族やお正月

家族皆うち揃ひたるお正月

新品の札の香りもお年玉

凛として二千円札お年玉

いつも見る顔と一緒に初詣

世に離れゐてもこれほど賀状かな

世に離れゐても嬉しき賀状かな

正月の四国三郎のびやかに

買初の鳴門若布を土産とす

町川に来てゐる鴨の陣なさず

吉野川幅一杯に鴨の陣

竜の玉さがす子供になりきりて

竜の玉この瑠璃色に出合ひたく

正月の首塚樒みずみずし

長屋門入れば山茶花散り敷きて

ちらほらと咲きて満開冬桜

露座仏に供へし餅のひび割れて

子ら帰る風邪を残して皆帰る

日の当り来て葉牡丹の華やげる

吹き抜けのロビーに奴凧飾り

お似合ひと赤いセーター勧められ

手作りの手袋左右違ふ色

菊戴撮らんとカメラ設へて

寒禽は寒禽として只居たる

廃校の記念樹冬芽たくましく

どの道も落葉重なる野鳥園

鶲待つ望遠カメラ設へて

テレビ見る暇もなくて三が日

幼子を中心として三が日

玄関に靴の混み合ふ三が日

三が日済みて新聞読みに読む

寒鯉の尾鰭と言へど動かざる

寒鯉を食べに佐久まで来られよと

寒鯉は佐久に限ると信濃より

寒鯉の洗ひいただく酢味噌かな

寒鯉の生血のよしと勧めらる

鏡餅まるごと浸し水餅に

寒の水五臓六腑に染み通る

飛沫まで透き通りをり寒の水

ラガーらの前へ前へとつんのめり

ラグビーのボール高々弧を描き

猪突にも似て駆け抜けるラガーかな

駆け抜けるラガーの脚の太さかな

駆け抜けるラガーや胴のごとき脚

駅前の横丁のけふ戎市

横丁の見知りの路地の戎市

福笹を提げてバーゲン見て回る

福笹を提げて富籤売場へと

風花の舞ひゐて残る空の青

風花やみちのくのこと気にかかる

風花の海に吸はるる如く消ゆ

一輪の梅に眼の集れる

梅探り来て一輪に出合へたる

葉に固く抱かれてをり蕗の薹

山茶花の咲き継ぐ赤と散りし赤

蕗の薹犇ける葉に抱かれて

白梅の蕾膨らむ日和かな

まだ蕾なれど紅梅紅仄と