今月の俳句

2015年12月

デパートの店毎にある聖樹かな

駅前の広場煌めく大聖樹

目の下にふるさとの街冬日濃し

快晴に極まる銀杏照葉かな

青空よ樟の緑よ黄落よ

この銀杏照葉をゴッホどう描く

落雷の幹の太さよ銀杏散る

一葉づつ順ある如く銀杏散る

青空を背ナに散り来る銀杏かな

はらはらとくるくるくると銀杏散る

圧巻の銀杏照葉に見惚れけり

猫好きの増えたるニュース漱石忌

猫好きになれない私漱石忌

漱石忌「その後の坊っちゃん」読み返す

仏壇に「坊っちゃん団子」漱石忌

江戸っ子の啖呵の耳朶に漱石忌

江戸っ子の親友の逝き漱石忌

マスクして職務尋問受ける身に

マスクして俗世に遠くゐる気分

銀杏散る野口英世の像の背に

紅葉見て大兵馬俑展も見て

始皇帝逝きしは五十紅葉散る

没後すぐ滅びし都紅葉散る

都心にも静寂のあり鴨浮寝

紅葉の水面に鴨の水尾かな

羽白とは魚食ふ鴨と教へくれ

暖冬に渡り来る鴨少なきと

浮寝鴨旅の疲れを癒されよ

シベリアの寒風越えて来し鴨よ

雪吊の松それぞれの形かな

霜除の菰巻きてより松手入

松手入とは根気よく根気よく

遠目にも紅ほんのりと冬桜

咲き満ちて疎らなりけり冬桜

咲き満ちてゐても侘しき冬桜

公園の死角にありし花八手

其処此処に群れて水仙花開く

風吹けど丘の水仙たぢろがず

洋間にも障子明かりのありがたく

リフォームの洋間に残す障子かな

一枚の障子なれども暖かく

障子より漏れ来る光やはらかく

腕白の障子破りし遠き日よ

父となる障子を破りゐし子らも

青物の市に山なす冬菜かな

昨夜会ひし友の訃報を聞く師走

あんなにも元気な友の逝く師走

訃報来て師走の一と日抉じ開ける

語り部の逝きし明日香路冬ざるる

天上の春の明日香に遊ばれよ

街師走大渋滞に巻き込まれ

信号の遅さ気になる師走かな

仏壇も神棚もありクリスマス

クリスマス街にサンタのあふれ出て

クリスマス七面鳥の照り焼きも

追い立てて来るクリスマスソングかな

換気扇掃除は息子年用意

子と嫁と妻が主役や年用意

年用意私は孫のお守役

狩りをせし場所は教へず市に売る

吾の狩りし猪の肉とて饒舌に

狩りをせし犬に猟師の目を細め

銃下手な猟師猟犬褒めに褒め

あの人もこの人も逝き年暮るる

数へ日や明日は第九を生で聴く

この町にこんな渋滞年の暮

2015年11月

久々に茶室も開き寺の秋

堂裏の崖の上まで実千両

帰り花取って付けたるやうに咲き

実千両ぢっと見てゐし先師ふと

冬の蝶とはこんなにも小さきかな

禅林は木立の中よ小鳥来る

観音の留守の堂宇の冬ざるる

落葉なく掃き清められ寺宝展

鯉鯰堀割の水澄みにけり

柿を干す富士の裾野の山家かな

白糸の滝のまぶしき小春かな

小春日の滝の冷気の心地よく

滝落つる紅葉の谷に虹を差し

滝壺の水青々と澄みにけり

滝を見て茶屋のおでんのありがたく

冬夕焼富士の山容紅仄か

夕焼の富士を映せる湖静か

日の出前静寂を破り鴨の鳴く

日の出前五彩の空に冬の富士

黒々と稜線長き冬の富士

朝日出て富士も紅葉も色生まれ

朝日出て湖面の鴨の動き出す

稜線の裾より出し冬日かな

富士を見る雲一つなき冬日和

北面に初冠雪の残る富士

真っ赤なる紅葉も眺め富士も見て

本栖湖の水青々と澄みに澄み

山粧ふ空青ければいよいよに

裾野まで野山の錦続く富士

冬の富士野山の錦下にして

雲一つなき富士を見る冬の旅

富士よりの伏流水の澄みに澄み

澄む水に鴨の水輪のくっきりと

一隅に明るき菊の展示会

咲き揃ふことのめでたき菊花展

母も子も揃ひの和服七五三

七五三まづは記念の写真撮り

手を引く子手に引かれる子七五三

紅葉且散る大胆に細心に

御苑かな紅葉且散る大銀杏

森々と紅葉且散る御苑かな

大胆にしてしなやかに銀杏散る

満開といえどちらほら冬桜

やはらかき日差を集め冬桜

寒禽の森抜けて来て菊花展

はるかより明るきあたり石蕗の花

日蔭ほど明るき石蕗の花明かり

日蔭ほど鮮やかなりし石蕗の花

懸崖の揃ひ咲きたる野菊かな

懸崖の野菊いづれも上向きに

伊勢菊の素麺の如咲きにけり

伊勢菊のもそもそもそと咲きにをり

向日葵のやうなる形丁子菊

丁子なる花はしらねど丁子菊

嵯峨菊の閃光発する如く咲き

一株に六百輪の菊の花

一株の菊六百の花をつけ

大菊の六百の花揃ひ咲く

江戸菊のほつれるやうに咲きにけり

一文字菊は単弁しとやかに

肥後菊の花火のやうな咲きっぷり

大菊の花壇鉢なく綱植え

大菊の手綱植えてふ土黒く

土植えの大菊の背の揃ひ咲く

大菊のどれの満開なる花壇

微笑める藩祖の像に銀杏散る

公園の銀杏踏まれ朽ちるまま

道のなき対岸の崖石蕗の花

晒されてなほ美しき冬の薔薇

落葉踏み小屋掛け工事始まりぬ

新蕎麦を音立てて食ぶ嬉しさよ

小鳥来る小屋掛建ちし公園に

小屋掛けの芝居に阿波の秋惜しむ

落葉踏み大夫行くなり小屋掛けへ

落葉舞ふお弓お鶴の小屋掛けに

小屋掛けの幟きらめく小春かな

死せし娘を抱く十郎兵衛木の実降る

熱演の木偶に冬日の暖かく

小屋掛けへ落葉の道を真っすぐに

田仕舞ひの煙たなびく里静か

甲高き犬の遠吠え冬に入る

残る柿真っ赤に熟れてなほ残る

虫食ひのやうに穭田残る街

古宮の落葉の中に眠りをり

綿虫とパラグライダー飛ぶ日和

空覆ひ尽くさんばかり金鈴子

綿虫の羽に縁取りありにけり

笹鳴のあたりの笹の刈り込まれ

坪庭に冬菜を育て街に住む

枯蓮に戦乱の世の兵士ふと

濠の水底まで澄みて鯛泳ぐ

精一杯生きてきました冬薔薇

瀬戸の島見える公園冬薔薇

初冬かな明かの暗き街となる

渋滞のなき街静か初冬かな

落ち着きの戻りたる街初冬かな

信号のゆっくり変はり初冬かな

花八手ダイヤのやうな露を置き

公園の裏口はここ花八手

一枝となりし八手の花高く

花咲いて八手のありしことを知る

木の葉髪なれど定額とる床屋

木の葉髪ほど面倒と言ふ床屋

風呂掃除すればこんなに木の葉髪

白髪と言へどいとほし木の葉髪

日曜の家族総出の大根引

大根引土の良ければあっけなく

引き抜きて知る大根の重さかな

農継ぐと言はぬ子ばかり大根引く

この身にも四季あるを知る木の葉髪

別れとは切なきものよ木の葉髪

2015年10月

名月のスーパームーンなる今宵

名月の空ひろびろと冴え渡る

名月の夜道明るくありにけり

雲晴れて明るき淡路竹の春

そのあたり明るかりけり竹の春

やはらかな明るさであり竹の春

明るさはかぐや姫かも竹の春

十二橋巡りの水路萩の花

舟で行く潮来の水の澄みにけり

カナダ産なれど松茸づくしかな

カナダ産松茸の香の芳しく

カナダ産松茸の肌真白かな

松茸の炊き込みご飯お焦げよし

部屋中に焼き松茸の香りして

コスモスや潮来の畑のひろびろと

コスモスのまだ咲いてゐるひとところ

芙蓉咲く水の佐原は蔵の町

柿実る水の佐原の舟着場

凛と立つホテルの庭の尾花かな

野仏に秋の日差のやはらかく

呼び込まる大臣候補赤い羽根

呼び込みの官房長官赤い羽根

組閣後せし総理の胸の赤い羽根

会見のこの大臣も赤い羽根

赤い羽根回覧板に乗ってくる

このごろはテープで付ける赤い羽根

赤い羽根付けてごろごろする余生

赤い羽根付けて駆け出し評論家

CⅮを吊るし光らせ鳥威

一年生大臣胸に赤い羽根

赤い羽根付けて見習乗務員

壇上のどの来賓も赤い羽根

菊花展蕾ばかりの初日かな

一つ咲き始まる菊の展示会

大柄で咲きっぷりよき秋の薔薇

薄暗き城の一隅石蕗の花

石蕗咲いて明るき庭となりにけり

夢道忌やぼうぜの鮨の旨くなり

木犀の香りこんなに遠くまで

木犀の奥の奥まで花付けて

木犀の金まぶしたる如く咲き

刈り込みて木犀の香のひときはに

揃ひ咲き出でたる菊の明るさよ

菊の香に誘はれて入る展示会

日本の秋は青空菊花展

昼暗き国より帰り菊を見る

菊飾る葦簀囲ひも爽やかに

紫の暖簾巡らせ菊花展

卒寿なる母の手引く子菊花展

紅葉濃し氷河作りし湖に

鴨の水尾波なき湖に長々と

大木の樹下の落葉の森々と

中世の道化真っ赤な冬衣裳

柿と栗並べ中世よりの市

入るほどに身に入む寒さ鍾乳洞

鍾乳洞流るる水の澄みにけり

地の底を流るる水の澄みにけり

錦なす紅葉の崖を滝落つる

澄みに澄むプリトヴィッツェの湖群かな

木道を行けばいよいよ紅葉濃し

犇めける屋根のまぶしき小春かな

屋根光るドブロヴニクの小春かな

小春日のアドリア海の青さかな

白壁に冬の日差のやはらかく

城の濠水青々と澄みにけり

城壁の中に街あり暮早し

復興の街に冬日の暖かく

冬温しこの町どこかトルコ風

この門を入れば中世冬日差す

アカペラの声暖かく冬温し

日向ぼこアドリア海を前にして

椰子茂る海岸カンナ咲き続く

秋晴や海岸の街遥かまで

大砲を照らす冬日の暖かく

行く秋やアドリア海の荒れて来し

無事祈る乙女の像に冬日差す

庭園は名画の舞台冬紅葉

暮れ早き街にやさしき灯の点る

時雨来てモノトーンへとなりし街

市庁舎の時計の音も冬めける

2015年9月

淡路にも地の葡萄売る露店かな

止みさうで一日続く秋の雨

梅田には地下に都市あり地虫鳴く

デパートを巡れば秋のあふれをり

海峡の海にやさしき夕焼かな

茹で立ての玉蜀黍の甘さかな

朝採りの玉蜀黍をさっと茹で

高原の友のもろこし甘かりし

菅平高原よりのもろこしぞ

炭で焼く秋刀魚に酢橘たっぷりと

新米の舎利光りをりぼうぜ鮨

秋祭始まらねどもぼうぜ鮨

阿波の秋昨日も今日もぼうぜ鮨

スーパーのぼうぜの旬は九月まで

大皿にぼうぜの鮨や九月来る

堂裏は虫の世界でありにけり

露草の苔むす墓に散華して

三番の藍は刈ろうか種採ろか

三番の藍は葉虫の餌食かな

窓辺より法師蝉聞く今日の句座

虫すだくこの露地兵の墓ばかり

雑草の中に凛たり韮の花

居座れる秋雨前線干せぬ藍

トンネルを出れば初雪降りさうな

冬近き湯の町を行く駒子かも

梁太き牧之の生家雪近し

読み返す北越雪譜冬の雲

山頂は平なりけり蕎麦の花

高原の空を占領赤蜻蛉

すいっちょを一番に聞く山の駅

爽やかや橅の木陰の座談会

渓谷の空は三角鰯雲

激流の逆巻く岸辺秋桜

逆巻ける怒涛の岸辺女郎花

魚沼は見渡す限り豊の秋

どこまでも続く明るさ豊の秋

米どころなる魚沼に蕎麦の花

蕎麦も咲く日本一の米の里

名刹の庭広々と萩の花

客殿へ回廊の庭紫苑咲く

露しとど石の参道まっすぐに

雑魚寝して虚子語り継ぐ夜長かな

あれほどの帰燕瞬く間に消えて

束の間の帰燕の舞でありにけり

その下に舟を浮かべて松手入

松手入時には舟に乗りもして

名園の名入りの法被松手入

一本に五人がかりの松手入

大方は手仕事なりし松手入

池にまで伸びたる枝の松手入

松手入松それぞれにある形

みんみんに続くつくつくぼうしかな

金沢の由来の泉滾々と

残り咲く河骨の黄の鮮やかに

赤い萩咲けば白い萩もまた

仰ぎ見る栃の大樹の大きな実

紫の褪せてしまひし藤袴

縁日のやうな札所や秋彼岸

この寺にこんなに檀家秋彼岸

寺の堂どれも開かれ秋彼岸

秋彼岸先祖供養の列続く

交代で読経の僧や秋彼岸

線香の香の天までも秋彼岸

秋彼岸交通整理する札所

爽やかや海峡越えて来る風も

秋晴や波なき湖に遊覧船

地虫鳴く野の真ん中に遊園地

ちちろ鳴く夜も明るき遊園地

遊園地花火揚がりて御開きに

ペンギンと秋の一日を過ごしけり

水澄めりショーの海豚の艶もよく

海豹と海豚のプール水澄めり

直弼の城は国宝秋高し

直弼の居城ここにも曼珠沙華

曼珠沙華井伊直弼の城に咲く

お彼岸の来しこと知らせ曼珠沙華

日没のあとの真っ赤な夕焼かな

日没のあとの青空夕焼来る

比良比叡描き出したる夕焼かな

曼珠沙華三千院へあと半里

ほの赤き霧の琵琶湖の日の出かな

朝露の芝生歩けば音のして

登り来て三千院の心太

石垣の続く坂道葉鶏頭

淑やかに三千院の萩の花

秋簾越しに参道見下ろして

鞍馬寺の門前の茶屋秋簾

参道の上に鞍馬寺秋高し

貴船への道は山道そぞろ寒

とんぼうのとんとんとんと水を打ち

高原の空高々と蜻蛉跳ぶ

見るうちに蜻蛉の空となりにけり

コスモスの道来て峡の入口に

コスモスを咲かせ大原三千院

鞍馬山にもコスモスの咲ける道

家毎にコスモス咲かせゐる山家

湯の町の宿の灯にある愁思かな

暮れてゆく町の灯にある愁思かな

2015年8月

波一つなきサロマ湖の夕焼かな

広々と北の大地の蕎麦の花

じゃがいもの花の大地の果てまでも

万緑の中の監獄記念館

開拓の歴史の大地麦の秋

浜茄子や原生花園なる砂丘

老鶯を知床五湖の木道に

木道の彼方に雪の残る峰

夏霧や観光船は欠航に

ほとばしりオシンコシンの滝となる

流れ落ち逆巻く怒涛雪解水

夏霧の底に摩周湖閑もれる

夏の夜のアイヌコタンのとして

夏の月アイヌコタンを照らし行く

山越えてさびたの花の続く道

立葵富良野は蝦夷のど真ん中

紫陽花や北の富良野に梅雨はなく

向日葵の畑民家の庭先に

収穫は今も手仕事ラベンダー

派手な色並べ真夏の花畑

原色といふ夏の色なり花畑

ゴッホにも見せたし夏の花畑

紫陽花のまだ残り咲く登別

炎天に硫黄の臭ふ地獄谷

夏だけの直行便の初便に

千歳より阿波へ幾峰雲の峰

揚花火闇漆黒であればなほ

花火見ゆ部屋は割増なるホテル

天空に長き弧残し花火果つ

どこからか音のみ届く遠花火

舟出して港の町の花火見る

西瓜割西瓜の底を上にして

正眼の構への少女西瓜割

丸ごとの西瓜を冷やす井戸のなく

釣瓶井戸ありしは昔大西瓜

秋立てど昼の日差の容赦なく

秋立てど熱中症に死ぬる人

蜩や夕暮れ早くなってをり

子ら去にし蜩の声ひときはに

かなかなの声に淋しさありにけり

父母の墓父母の曽孫と参りけり

父母の墓父母の曽孫の洗ひくれ

父母のこと孫子に語る墓参かな

帰省子を待ちて一家でする墓参

サングラスして当て逃げと疑はれ

落鮎の掛かりし竿のよく撓る

落鮎を探し舟より箱眼鏡

瀬を変へて流れを変へて鮎を釣る

大竿をしゃくりあげれば鮎光る

箱眼鏡見つつ落鮎引っ掛ける

子の好きな駄菓子も供へ地蔵盆

持ち寄りし野菜も供へ地蔵盆

星月夜眺めし友も星となり

流星の好きな子と見る星月夜

山奥で見し遠き日の星月夜

星の名を教えくれし子星月夜

ほうとうの味の南瓜のありてこそ

あつあつのほうとう南瓜たっぷりと

スーパーの南瓜南米産ばかり

パンプキンスープ南瓜を食べぬ子も

2015年7月

梅雨晴れて子に贈られし伊予の旅

梅雨晴れの伊予灘青く空青く

湯籠提げ湯籠に出会ふ宿浴衣

梅雨晴や道後は句碑の多き町

水馬韋駄天走りすることも

窮すれば跳ぶこともあり水馬

水馬乗せたる水の硬さかな

突然に人は逝くものモラエス忌

リスボンは孤愁の彼方モラエス忌

恋多き人ほど孤独モラエス忌

栄華など昔の遺物モラエス忌

桟敷券発売の阿波モラエス忌

人てふは不意に逝くものモラエス忌

死といふは不意に来るものモラエス忌

いや増せる眉山の緑モラエス忌

遅れ来て独りの吾にほととぎす

紫陽花の萎れる毬を濡らす雨

紫陽花の蘇生の雨でありにけり

初夏を咲くアガパンサスの花の青

花咲いて合歓の大樹のあるを知る

ぼんやりの空にぼんやり合歓の花

糠雨に煙るが如く合歓の花

涼風の窓辺に轆轤設へて

睡蓮や滴る水の途切れなく

睡蓮の白のまぶしき法の池

作りたるばかりか温し落し文

落し文恋の文かも封固く

空蝉の悲しいまでの軽さかな

涼やかやアトリエに曲流されて

台風に追ひ立てられて旅に出る

万緑や天浜線は森の中

万緑の中を天浜線走る

銅像の家康若し青楓

若き日の家康の城露涼し

雲の峰浜松城は出世城

梅雨晴の掛川城の白さかな

梅雨晴のステンドグラスまぶしかり

蒸し暑さかきたててゐる蝉時雨

緑陰のさやけき風に吹かれゐる

蒲焼の香に召し捕られ鰻屋へ

待たされて食べる土用の鰻かな

雨傘の日傘となりぬ旅の空

昼暗き城の一隅百合の花

風通る明治の庭の青楓

涼風の通り抜け行く館かな

開け放ち風鈴の音の途切れなく

道をしへ飛び去って行きそれっきり

山門に入れば今年も道をしへ

大空へ飛び立つことも道をしへ

御気に召す浴衣どうぞと出湯の宿

阿波踊浴衣大方京染と

炎天の街の川風心地よく

真清水の十五度とかや足浸す

梅雨明けの水の公園水清く

浸す足しびれるほどの冷清水

青空に浮かぶ白雲蝉時雨

沈黙の時もありけり蝉時雨

とんぼうの水打つ水の硬さかな

川風といふ涼しさに身を晒す

名勝の池の中島破れ傘

奈良にある最古なる寺破れ傘

開け放ちがらんどうなる夏座敷

天井の高き明治の夏座敷

鱧入りの母の自慢の胡瓜もみ

三歳の子も胡瓜もみ大好きと

胡瓜もみだけは私も作れます

軒先に風鈴一つ夏座敷

庭よりの風心地よき夏座敷

2015年6月

蚕豆のさやぽんと折りぽいと捨て

蚕豆のさやのたちまち山盛りに

蚕豆の偏平足の形かな

山法師際立つ森の深さかな

武蔵野を移せし御苑山法師

江戸城の跡なる御苑山法師

この道はいつか来た道山法師

隙間なく十薬茂る庭となり

十薬の白の極まる昼の闇

坪庭のいつもこの場所百合の花

百合咲いて庭の明るくなりにけり

風薫る道幅広き蔵の町

小江戸には横丁多し濃紫陽花

酒蔵のひんやりとして涼しかり

奥多摩の清水を汲みて酒造る

酒造所にビアガーデンのありにけり

忍野なる富士の清水の湧く処

底見えぬ泉の畔雪の下

滾々と富士の清水の湧く忍野

雪の下濡れ咲く忍野八海に

薄暗き水辺にマーガレットかな

畔にはマーガレットの群れ咲きて

暁の皐月富士見る旅の宿

頂にまだ雪残る皐月富士

欧州にゐる気分かな薔薇咲いて

湖よりの風の涼しき薔薇の庭

瀟洒なる洋館の庭ジキタリス

さまざまなオルゴール聴き薔薇も見て

人去りて薔薇の香どっと近くなる

蛍火の点滅にあるリズムかな

蛍の奈落の底の光かな

掴まんとすればするりと蛍逃げ

都心にも蛍の闇のありにけり

蛍に諸行無常を見て飽きず

蛍火の怪しきまでの造化かな

蛍見て帰る都バスの混み合える

東京はホテルの庭で蛍見る

水音の奈落の底の蛍かな

蛍の飛ぶといふより湧き出でて

菖蒲園人それぞれに散らばりて

株毎に名札のありて菖蒲園

見比べてやはり紫菖蒲園

外つ国の人も御苑の菖蒲好き

紫もいろいろとあり菖蒲園

そのかみの氷室にほたるぶくろかな

朝の間のほたるぶくろの凛として

紫陽花に真昼の日差強過ぎる

明日あたり雨の予報や濃紫陽花

遠目にも泰山木の白さかな

大振りの泰山木のよく香り

壊れたるやうに泰山木落花

梅雨入りと聞けど菖蒲田水涸れて

露ほどの香りもなかり花菖蒲

山法師さ揺らし風の渡り来る

頂上は子らの遊び場風薫る

干上がれる水の公園濃紫陽花

蠟梅の梅の実もどきなる実かな

そこらぢゅう香を撒き散らし栗の花

紫陽花よあしたは雨の予報だよ

紫陽花よ蛙も雨を呼んでゐる

巣作りのコウノトリ来る鳴門かな

巣作りのコウノトリ見る嬉しさよ

巣作りのコウノトリかな雌雄して

コウノトリの巣電柱の天辺に

暁の富士見る旅の短き夜

明易や赤富士の見ゆ午前四時

河鹿鳴く小さき喉を震はせて

遠くより澄み渡り来る河鹿の音

耳凝らしゐれば遠くに河鹿鳴く

修善寺は谷沿ひの町河鹿鳴く

修善寺は水清き里河鹿鳴く

ステンレスパイプに黴の付く風呂場

青黴のチーズのかくも高価なる

青黴のゴルゴンゾーラ食べてより

青黴のチーズの味にはまりけり

黴は黴でも青黴のチーズ好き

青黴のチーズあるかとまづ探し

流れなきところに浮巣ありにけり

こんなにも紫陽花咲けりわが庭に

紫陽花の色の日増しに濃くなりて

向日葵の駅に観光列車かな

伊予灘の駅の向日葵よく育ち

向日葵や伊予灘青く空青く

大洲城見て肱川の鵜飼見て

伊予灘を八幡浜まで夏の旅

薪能夜風涼しくなりにけり

道後かな薪能なるサプライズ

薪能見てより夜の宴かな

青簾香し朝の坊っちゃん湯

青簾巡らす二階坊っちゃん湯

道後かな人力車にも青簾

2015年5月

紫に古をふとあやめ咲く

紫は高貴なる色あやめ咲く

影までも凛としてゐるあやめかな

張り終えし水田の畔にあやめ咲く

藤咲いて空のいよいよ近くなる

紫は小粋な色よ藤の花

噴水を遠巻きにしてボート漕ぐ

遊園地池を巡りてポピー咲く

休日の子らの楽園五月鯉

大口を開けて風待つ鯉幟

子供の日ミニSLにはずむ夢

甲高き子らの歓声子供の日

子の遊び親の疲れる子供の日

保育所のやうな我が家子供の日

春潮の巻くと思へばすぐ解け

観潮船ありて鳴門の景となる

ご覧あれ春の鳴門の大潮を

大潮の観潮船に相集ふ

春潮の鳴門の山の緑かな

片仮名の名札ばかりや園の薔薇

夜見たしブルームーンと名づく薔薇

新しき薔薇も加わり薔薇祭

赤飯も草餅も売り薔薇祭

即売の苗木よく売れ薔薇祭

薔薇祭子の押す母の車椅子

曇天にくぐもる薔薇の香りかな

薔薇の門潜りて入る薔薇祭

鎌倉の文学館ふと薔薇祭

人の手で作り出したる青い薔薇

英国のキューガーデンの薔薇凛と

日向より日蔭の薔薇の艶やかさ

薔薇園の薔薇の大振りより萎れ

散るもあり咲き初むもあり薔薇の園

長慶の栄華を偲ぶ夏祭

幟立て長慶らしき甲武者

草茂る城館跡地広々と

発掘の堀割白く夏に入る

この祭来ればこの町夏に入る

かき氷売り切れとなる日差かな

コントラバス担いで行く子玉の汗

演奏のコントラバスを緑陰に

豆飯の豆噴き上がり炊き上がる

豆飯の母の味なる塩加減

豆飯に一切れ入れる昆布かな

一遍も腕を通さず更衣

待ってゐし晴れの日の続き更衣

更衣五日がかりは長すぎる

更衣やうやくにして終はりけり

山頂に立てば下よりほととぎす

許可局と鳴くばかりなりほととぎす

山腹に野鳥園ありほととぎす

はっきりとてっぺんかけたかほととぎす

宙吊りの毛虫の糸の見えぬ昼

白はまだ赤のまづ咲き花空木

この声の紛ふことなしほととぎす

ロマンチック街道行けば麦の秋

隕石の跡ある古都の麦の秋

太陽へまっすぐの道麦の秋

黄金なるビールの国の麦の秋

地平まで続くドイツの麦の秋

初鰹トロ箱一杯賜りて

叩きよし刺身またよし初鰹

江戸に行く前に失敬初鰹

堂縁に寝転びをればほととぎす

猪罠を貫いてゐる今年竹

ほとばしる谷の清水や雪の下

そこらぢゅう雪の下咲く水汲み場

三つ巴よりカップルとなりし蝶

絡み合ひ睦み合ふごと蝶の飛ぶ

丘一つ越え来し谷もほととぎす

2015年4月

甲高き鳴き声交はし鳥帰る

帰る鳥代る代るに鳴き交はし

競ひ合うふやうに羽ばたき帰る鳥

鳥帰る何も残らず残さずに

鳥帰る川幅広くなりにけり

陽炎の消えゆく距離のありにけり

陽炎や四国三郎滔々と

石垣を見上げ桜も見上げ見る

天守閣仰ぎ桜も仰ぎ見て

天守閣仰ぐ広場のお花見に

春休み祖父母と孫の花見かな

豊かなる十五万石伊予の春

見るほどに咲き満ちてくる桜かな

五分咲きの花の咲き満つ早さかな

湯篭提げ坊っちゃん湯へと宿浴衣

春灯のなまめかしけり道後の湯

芽柳や道後は坂の多き町

芽柳をさ揺らす風の心地よく

船に乗る春の大潮見んとして

渦の底見んと傾く観潮船

傾斜する観潮船にすくむ足

春潮の渦の四重五重六重にも

春の潮怒涛の如く流れゆく

春潮の怒涛逆巻く鳴門かな

巻く渦の解ける速さ春の潮

一瞬に巻きて解ける春の潮

満足を乗せて観潮船帰る

地に着ける垂れ桜の見てみたく

地に着ける垂れ桜にまみえざる

桜植え花見山とぞ名付けたる

山一つ垂れ桜の埋め尽くす

何処見ても垂れ桜の花見山

彼方にも此方にもベンチ花見山

霧雨に煙るがごとし糸桜

糸桜越しに鳴門の海見えて

咲き満てる若木の花の明るさよ

桜見て鶯の鳴く声も聞き

オランダの水車小屋ふとチューリップ

行儀よき整列縦隊チューリップ

輪を描き並ぶ原色チューリップ

チューリップには原色がよく似合ふ

雨の日の牡丹いよいよ艶やかに

雨滴置き牡丹の色の蘇る

生きの良き朝の牡丹を見に来よと

早咲きも遅咲きもあり牡丹寺

即売の鉢植えもあり牡丹寺

一巡し初めの牡丹もう一度

寒戻る四月八日の阿波の雨

持ちくれし花々で葺く花御堂

花御堂近所の花で作りしと

花の名を問ひて答へて花御堂

梵妻の手作りなりし花御堂

鎌倉の虚子忌如何にと仏生会

鎌倉の虚子忌に行きし日の遠く

花祭赤い幟の立てる寺

近在の子らもこぞり来花祭

鶯の遠音も届く花祭

芽吹くとは申し合せてゐし如く

遅れゐし芽吹きの今朝は一斉に

眠りより覚めたる如く木の芽吹く

朝掘りと言ひて筍持ちくれし

大釜で筍茹でる手際よく

朝掘りの筍夕べには寿司に

筍の寿司の御替り嫁も子も

出来たての筍寿司の香りかな

探梅のいつもの小径落し角

落し角もう片方も見つけたく

落し角落ちしばかりか艶々と

人家まですぐそこの径落し角

里山の畑への径に落し角

角落とし鹿の小顔となりにけり

子猫ゐて母猫のゐて父猫は

牡丹には昼の日差の強すぎる

鉢植ゑの牡丹の鉢の小さきかな

鑓水を乗せし牡丹の鮮やかさ

葺き替へし寺の大屋根風光る

若楓さ揺らぐ寺の明るさよ

若楓さ揺らす風の通る寺

手作りが売りや新参草餅屋

新入りの草餅屋かなアイス売る

保育所の遠足そこの広場まで

遠足にアンパンマンのお弁当

遠足の列の次第に長くなる

夏近し春着楽しむ暇もなく

夏近し窓といふ窓開け放ち

夏近し白いジャケット出してみる

夏近しもっと体重落とさねば

2015年3月

独りゐて梅も初音も存分に

くぐもりてゐる梅の香のどっと寄せ

石垣の作り上げたる梅の里

老梅の咲き満つ土のやはらかく

梅林の土やはらかく蕗の生ふ

聞くほどに正調らしくなる初音

初音聞くすぐその先の畑からも

天平の庭荒涼と冴返る

崖の上の寺へ卒寿の遍路かな

卒寿なる遍路とともに崖下りる

風花の暴風雪となる日和

新築の大師堂でき春の雪

団参の白衣小走り春の雪

春の雪跡をとどめず止みにけり

春の雪止みたるあとの空の青

あいうえお順の苗札椿園

片仮名の苗札並ぶ薔薇の庭

苗札に開花の写真添へられて

苗札の辺り立ち入り禁止とか

人生に卒業といふことのなく

一人づつ夢を語りて卒園す

桜見てさくらさくらの琴も聞き

先駆けて蜂須賀桜咲き満てる

蜂須賀の時代を今に咲く桜

この街にこんなに目白桜咲く

一本の桜に人の切れ目なく

桜見る平和なる世のありがたく

身の丈をはるかに越ゆる苗木売る

梅切れど木瓜は切るなと苗木売る

両の手に余る苗木を買ふ人も

だんだんと値を下げ苗木売る花屋

乾物とて丸みの残るうるめかな

水ぬるむ市にどぢやうもざりがにも

こんなにも蜂須賀桜赤きかな

緋毛氈敷きて花見の準備終ゆ

防風を牛蒡のやうに抜きにけり

防風や鳴門の浜の砂白く

防風や鳴門海峡潮青く

防風を掘りたる人の今は亡く

防風の浜に吹く風やはらかく

春塵や洗車しやうかやめやうか

新しき掃除機軽し春埃

春塵の下に眉山も城山も

霾れり眉山城山ぼんやりと

霾れる北京の山に樹木なく

黄塵や北京の日干し煉瓦ふと

黄塵や北京に植樹せしことも

黄砂降るワイパーの水涸るるほど

剪定のことも教へて苗木売る

咲き初めし枝も惜しまず剪定す

剪定の済みたる園の空青く

青銅器文明の地に黄砂降る

2015年2月

吹き上がる水のまぶしき春隣

去年の葉を後生大事に満作は

春立つや日時計の時差最大に

臘梅を見上げ見下ろし磴登る

臘梅の香のどっと来てさっと去る

臘梅の香の一瞬に吹き消され

臘梅や盛り過ぎれば香の淡く

約束をせしごと梅の咲いてをり

青空や紅梅の紅いや増して

八重咲きの梅のふくよかなる蕾

梅咲けど風の冷たき日和かな

見下ろせる街の明るき二月かな

初売りの蘭に賑はふ展示会

即売の蘭に人出や春近し

師の句碑に紅白の梅植ゑ継がれ

お遍路の白衣の下の防寒着

寒風や去年の案山子の衣破れ

縮こまりゐても日を向き犬ふぐり

お遍路へお接待なる焚火かな

焼藷をお遍路ならぬ私にも

門前にお接待とて焚火して

道隔てゐても梅の香ほんのりと

梅咲きて目白来てをりこんなにも

啓蟄や天道虫もまかり出て

蜜蜂の足の花粉の団子かな

日に向きて反り返るかに犬ふぐり

存分に梅見て初音まだ聞けず

蜜蜂の息急くやうに唸りたて

雛飾る昭和も遠くなりにけり

高台に梯子をかけて雛飾る

飾られて雛に命の蘇る

それぞれの雛にそれぞれ歴史あり

明治には明治の気骨雛の顔

雛の顔美男美女にも歴史あり

それぞれの時代を顔に雛人形

御より生チョコバレンタインの日

黄水仙咲いて今年も空き地かな

その里は欧州とかや黄水仙

お隣の空き地にぽっと黄水仙

ぽっと出て咲きゐし花は黄水仙

植ゑたこと記憶になけど黄水仙

お刺身となりし鱵のこれっぽち

干されたる鱵の骨の硬さかな

春時雨庭の緑のまぶしかり

春時雨野山明るくして上がる

春時雨木々の緑を洗い出し

春時雨眺めて一日過ぎにけり

春時雨ピアニッシモでありしかな

だらだらとやむ気配なき春時雨

やはらかき土にやさしき春時雨

2015年1月

門松の松青々とありにけり

門前の臘梅の香に迎へられ

注連縄の門より入り初句会

盛塩のありし門より初句会

餅花の垂るるほどに咲き満ちて

和やかや白梅の早やほころびて

金まぶし黒豆の黒いよいよに

お印のお屠蘇に酔ってしまひけり

初句会さらりと和服着こなされ

初句会皆健啖でありにけり

初句会九十六歳お元気に

健啖の健吟嬉し初句会

一滴の水も欲せず室の蘭

真白かな冬のソナタと名づく蘭

縁側の日溜りに置き室の蘭

古墳山寒禽の鳴くばかりなり

廃校の庭の山茶花散るばかり

廃校となり野水仙らしく咲く

野水仙群れ咲く土手の一処

うどん食べ部屋を移して初句会

うどん屋の二階は洋間初句会

健康を寿ぎてより初句会

椿園巡れば古墳山巡る

廃校の裏山此処も猪の跡

廃校の生り放題の蜜柑園

いろいろな蜜柑の実る実習地

廃校となりし農大檸檬生る

忘れゐる間に煮凝となってゐし

煮凝も寒天も好き寒が好き

煮凝のままで食べよかチンしよか

女房も嫁も煮凝大好きと

煮凝といふ天然の料理かな

寒晴の空に風音甲高く

寒晴のまばゆきほどの障子の間

足元を飛び立つ鴨の大きさよ

遥かなる黒点もまた鴨であり

目の前を飛び去る鴨の色と艶

浮寝鳥平和な日本いつまでも

見渡せばあそこもここも鴨の陣

この広い川面に一羽ゐる鴨よ

広々としたる川面に鴨一羽

背に受く冬日のかくも熱きかな

風痛みしてゐる椿林かな

この小さき苗に夢の名椿園

迷路めく道登り来て椿園

海霧に飲み込まれたる椿山

手の平に余る葉あるも椿かな

しっとりと瑞々しきも落椿

珍しき椿の花の咲くロビー

北側は風荒ぶ崖椿山

寒椿真っ赤や雨に曝されて

吹き上げる風に曝され寒椿

寒椿花びら厚くしっとりと

寒椿阿波の松島見下ろして

行く先の見えぬ雪山雪女郎

行くほどに迷ふ雪雪山雪女郎

落人の家紋は揚羽雪女郎

落人の霊であるかも雪女郎

横死せし京女郎かも雪女郎

八角の堂にやさしき冬日かな

物の芽に注ぐ日差のやさしさよ

行くほどに落葉の嵩の深くなる

冬遍路白衣凛々しくありにけり

梅咲ける初天神に人気なく

初天神なれどこの宮しんとして

白梅や初天神に咲き満ちて

黄身の黄の濃く盛り上がり寒卵

殻割れば躍り出し黄身寒卵

寒卵何といってもかけご飯

寒卵生みたてなりし温かさ

お土産に寒卵なる日の遠く

月冴えて星の凍てつく夜空かな

冴え渡る空に鳥声甲高く

冴ゆるとは掛け声のソプラノとなる