今月の俳句

2014年12月

徳島の雪のニュースが全国に

南国の阿波で凍死のニュースとは

大根の白のまぶしき日差かな

日向ぼこして野の市の中にゐる

野の市に冬の日差のありがたく

新米のおまけはジャンボ宝籤

持て余しゐる大根と蕪買ひ

冬の日に財布の紐もゆるみけり

寒ゆるみ財布もゆるむ朝の市

日の差してゆるむ財布や冬の市

大雪で孤立のニュース阿波で聞く

大雪の限界集落直撃す

大雪の予報風花舞ふばかり

低気圧三つ居座り冬荒るる

風邪の子を預かり一と日過ぎにけり

抱いて知る風邪の子かくも熱きかな

眠りたる風邪の子の頬真っ赤なる

眠りても風邪の子の息荒々し

わが胸に抱きついてくる風邪の子よ

ストーブを一日つけて家居かな

ストーブや灯油の値下げありがたく

ストーブの部屋で吹雪のニュース聞く

赤々と燃えるストーブ余生また

寒風の仕上げてゆきし干菜かな

遠き日の祖母思い出す干菜かな

干からびて食べ物らしくなき干菜

干からびて紐のやうなる干菜かな

豪雪のニュース小春の阿波にゐて

起きて知る床暖房のありがたさ

クリスマスどのフロアにもゐるサンタ

メルヘンの世界をここにクリスマス

北欧の夜の長さよクリスマス

トナカイに注意の国のクリスマス

クリスマスサンタはショートケーキにも

灯を消してローソク灯しクリスマス

ほの暗き中世の町クリスマス

新年へ家も体もリフォームし

冬晴や術後の痛み和らぎて

2014年11月

信濃路は林檎畑の天までも

天に地に林檎畑や信濃路は

街路にも林檎の実る信濃かな

甘かりし信濃スイーツなる林檎

道の駅ここも林檎を山と盛り

渦の上に螺旋を描き鷹柱

傾けばたちまち崩れ鷹柱

予報にはなき雨寒し神の旅

大山に雪の予報や神の旅

穏やかな立冬の日となりにけり

知事賞の菊に勢のありにけり

立ち菊の大輪なれば葉も厚く

小さきほど強き香りや菊の花

嵯峨菊の心細げに咲きゐたる

日の差せば菊に彩り蘇る

盆の菊大樹の如く林立す

時雨来て急ぎ一巡陶器市

時雨来て市の陶器の濡れ放題

客疎ら時雨の中の陶器市

短日や陶器の市も早仕舞

そこにゐし鴨のあんなに遠くまで

冬の蝶とはこんなにも小さきかな

川幅を満たし冬日の煌めける

遠山は冬霞かな濃く淡く

藻屑蟹すっぽんも捕れ冬の川

鴨去れば空より鴨や鴨の川

鴨の陣ありしあたりに鳰の陣

小春日の障子明かりの家居かな

爺婆に高き石段七五三

三代の家族揃ひて七五三

幼には短きがよし千歳飴

千歳飴抱へて帰る幼かな

走り来て抱かれて帰る七五三

冬めくといふはいきなり知らぬ間に

冬めくと背ナに感じる齢かな

誰からも阿波の小春を愛でられて

客迎へうれしき阿波の小春かな

川までもやさしき阿波の小春かな

大会に阿波の小春を賜りぬ

江戸前の新海苔の香でありにけり

なかんづく江戸前の新海苔が好き

江戸前の新海苔ですと送りくれ

吉野川乗っ取りたるか海苔の篊

河口まで十重に二十重に海苔の篊

東京湾狭しとばかり海苔の篊

大綿に羽根あるを知る角度かな

大綿のいきなり浮かびさっと消ゆ

連凧をまづ揚げ風の向きを知る

大凧を揚げきる風のなき日和

小凧にはよき風なれど大凧は

我こそと凧揚げ自慢集ひ来て

凧揚の好きな漢がこんなにも

カメラマン遠退けてより凧揚げる

大凧の尾の荒縄でありにけり

凧揚げる航空力学語りつつ

お土産に手作りの凧用意して

これ見よと印半纏凧揚げる

大凧の泰然として昇りゆく

風を読み呼吸を合はせ凧揚げる

指揮を執る一人に合はせ凧揚げる

小春日の鳴門は静か潮青く

茶の花の千代田区日比谷公園に

2014年10月

絶海の島の校門カンナ燃ゆ

休日の毎に台風来る日和

夢道忌や鮒を釣りたる日の遠く

夢道忌や鮒よく釣れし日の遠く

夢道忌や釣り損ねたる鮒のこと

夢道忌や逃がしたる鮒大きくて

一木で棚埋め尽くしたる葡萄

店頭の棚の葡萄の良く茂り

天に地に葡萄の棚の伸びる町

ワイナリー巡り葡萄の棚も見て

新酒汲む葡萄の香り愛でながら

立宗を宣言せし地初紅葉

水澄めり群れ出る鯛のくっきりと

秋晴や灯台高し野島崎

房総の南端巡り秋惜しむ

門くぐり入れば静かや女郎花

庭隅に秋明菊の花明かり

身構えてゐし台風のあっけなく

台風のあっけらかんと行きし朝

何事もなく台風の行きにけり

台風の過ぎたる朝の肌寒く

台風の掃き清めたる空の青

韋駄天のごと台風の走り抜け

青空へ凛と立ちたり秋の薔薇

城山の裏は日陰や石蕗の花

秋空へリンカーンてふ薔薇の赤

マロニエの葉に透く秋日やはらかく

マロニエの葉音清かに秋澄めり

はやばやと弁当広げ運動会

やはらかき秋日なれども些と暑く

見上げれば右に左に鴨の竿

崩れてもすぐ立て直し鴨の竿

大歩危の淵は藍色水の秋

行く秋や大歩危峡に舟下り

秘境かな紅葉早しかずら橋

かずら橋渡り紅葉の谷渡る

落人の憩ひし滝の水澄みて

瀬戸の海波一つなき小春かな

山の上のホテルに冬日暖かく

菊着せる菊師は遠く豊後より

菊人形凛々しき下絵ありにけり

手にしたる下絵見ながら菊着せる

まづ背ナに水口作り菊着せる

菊人形固き蕾を選び着せ

青石の磴掃き清め里祭

里祭鯛を祀りて始まりぬ

雲一つなき空の下里祭

レバノン杉なるは松なり新松子

カッパドキアレバノン杉に新松子

夕焼けやレバノン杉に新松子

大きかりレバノン杉の新松子

日の入りの早き奥祖谷肌寒し

人住まぬ空家の増えて肌寒し

午前五時届く朝刊肌寒し

天辺に始まってゐる松手入

手入せし松にはなくて新松子

松手入とはむしり取りむしり取り

鋏より手でする松の手入かな

松手入済みて青空近くなる

白壁に映える緑や松手入

松手入済みて緑の瑞々し

塵一つ残さず終はり松手入

松手入庭師は軽き方がよい

遠き日の弁天島の浅蜊狩

目に浮かぶ弁天島の花火かな

2014年9月

茹で立ての玉蜀黍の甘さかな

取れ立ての玉蜀黍を送りくれ

取れたての玉蜀黍を即茹でる

菅平高原よりのもろこしと

梨もぎの帰りに梨を届けくれ

梨の皮剥けば滴る滴かな

茹で上げしばかりの栗の柔らかく

包丁で栗の皮剥く手際よく

剥かれたる栗をいただく一口で

ドライブインにも山盛りの栗並ぶ

虫食いの栗一つなく丸々と

落鮎を待ちゐる釣師動かざる

落鮎を釣るとは待ちに待てること

青楓抜け来る風の涼しさよ

禅林に蚊遣香持ち来られたる

ありがたき蚊遣香かな四阿に

菩提子を実らせ阿波の法隆寺

木豇豆の大樹の実る寺の秋

禅林の裏山よりの鵙高音

蝉の声退けるかに鵙鳴けり

鳴く間合次第に長く秋の蝉

リフォームの終はれば秋となってをり

目の下に小さき江の島秋高し

雲の間に黒々とあり秋の富士

セントレアその真上行く秋の旅

行く秋を惜しみ旅からまた旅へ

山合に実る稲田の明るさよ

鶏頭や木曽は山国妻籠宿

格子まで朝顔咲かせ妻籠宿

コスモスを手桶に活けて妻籠宿

街道の路地に明るき葉鶏頭

朝顔に乗りたる露のまぶしさよ

店頭に活けてまぶしき秋桜

石庭の砂にやさしき秋の雨

百日紅咲き継ぐ山の湯宿かな

秋晴や花も輝く記念館

木犀の香の降りてくる坂の道

夜食とは即席麺の日の遠く

記念館花野の先の丘の上

2014年8月

台風の連れてきし雨降り止まず

晴天の台風一過とはならず

蒸し暑さ残し台風行きにけり

台風の後に台風雨連れて

台風の予兆の雨の降り止まず

濯ぎもの乾く暇なく台風来

台風の見舞地球の裏からも

台風の四国目指して次々に

台風の晴間に長崎原爆忌

雲間より明るき日差し原爆忌

こちら冬とありし暑中見舞来る

真冬なる国より暑中見舞かな

台風の目の中にゐる静寂かな

台風の去るを待ちかね蝉時雨

台風の後の青空赤蜻蛉

二拍子で静から動へ阿波踊

動もよし静もまたよし阿波踊

気風よき男と女阿波踊

静かなることも女の阿波踊

川よりの夜風涼しき阿波踊

心地よき風吹き抜けて阿波踊

町中に俄か舞台や阿波踊

殿さまも先駆け踊る阿波踊

亡き人を呼び寄せ津田の盆踊

精霊を呼び寄せ津田の盆踊

残されし子を背に津田の盆踊

精霊を呼び寄す声や盆踊

よしこのの声透き通る盆踊

宴はね虫の宴の始まりし

窓開けて風呂に入れば虫時雨

吹かれ来し蝉の骸の軽さかな

流星や神話の島の午前二時

流星を共に見し人今は亡く

斜交ひに斜交ひに星流る夜

南風や漁師は船を引き返し

南風の吹く日は窓を閉めておく

南風や南半球今真冬

南風やじめつく肌のべとべとに

地を這ひて咲く朝顔の小振りなる

行く日々を取り戻すかに蝉時雨

殿は法師蝉なる蝉時雨

蝉時雨帰りの道の法師蝉

束の間の休みもなしに蝉時雨

臨終へ命の限り蝉時雨

急かされて急き立てられて蝉時雨

土左衛門祀りし昔地蔵盆

地蔵会や子らの姿はなけれども

地蔵盆酒もビールも祀られて

をぢさんとをばさんでする地蔵盆

渡し場の跡なる碑文地蔵盆

花野来てクラーク像の丘に立つ

海へ落つ北の大地の花野かな

丘越えて花野の道のまっしぐら

大花野詠みたる人の今は亡く

陸果つる東尋坊の鉦叩

断崖に昼の闇あり鉦叩

静けさをいよいよ深め鉦叩

2014年7月

若葉萌ゆ浜松城は出世城

若き日の家康の城新樹晴

城内は森の公園若楓

木の橋の架かる庭園風涼し

城の森意外に深し木下闇

天守門新調の城風涼し

日盛りの新しき門まぶしかり

ヴェネチアのガラスの皿の夏料理

品の良き小鉢と小皿夏料理

真っ白な大皿に盛り夏料理

泣くほどに汗の吹き出す赤子かな

汗かきし日は昼間より風呂に入る

汗をかくたびにシャワーを那覇の宿

汗拭ふタオルを絞りまた絞り

地引網穴子を蛇と逃げ出す子

地引網海月を捨てて終はりけり

涼しさやがらんどうなる海の家

海の家茘枝の棚の日除かな

潮浴びてゐるのは子供ばかりかな

心地よき昼寝でありぬ海の家

水着着て海に入らぬ乙女かな

飛び跳ねて汀に急ぐ水着の子

滴りを蕗の葉に受けいただきぬ

滴りの滝の名所となる眉山

滴りの名水となる一と所

橅の森水筒要らず滴るる

濯ぎもの乾きし頃の夕立かな

夕立去るノルマンディの虹高く

束の間の虹を残して夕立ゆく

これといふ催事もなくて海開

山の子の海開待ちかねてゐる

海開プール開の後となる

海開きしてより海の色の濃く

地平まで続く麦畑虹架かる

遥かなる虹地平線丸くあり

天に虹カマンベールは小さき村

追ひ立てて追ひ立てられて蝉時雨

噴霧せる噴水の虹淡きかな

小雨来てそれっきりなる蝉時雨

泉下なるわが師よ句碑の泉枯る

雨宿りしてゐる蝉の動かざる

蝉時雨そんなに根を詰めずとも

燃え尽くしたくなき命蝉時雨

夏柳髪ふさふさとありし日も

2014年6月

瀬を渡る風の涼しき鵜飼かな

篝火に照らし出されし鵜の猛る

篝火の照らし出したる鵜の猛り

漆黒に鵜の影しかと鵜舟行く

総がらみして鮎を追い込む鵜舟

鵜の縄を緩めて鵜飼終はりけり

川よりの風の涼しき鵜宿かな

飢えて目の血走ってゐる鵜飼の鵜

岐阜城は緑滴る山の城

岐阜城の天守に立てば風涼し

天守より濃尾平野を一望に

信長の城より雲の峰を見る

万緑にロープウエイの呑み込まれ

犬山の城は国宝心太

天守閣杜鵑花明かりの上にあり

御城主はをみななる城著莪の花

天守への急な階段玉の汗

天守まで登り詰めれば風薫る

残雪の穂高を指呼に露天の湯

残雪や飛騨高山は山の古都

葉柳の下に陣取り朝の市

葉柳や川岸通り朝の市

玄関に鉄線咲かせ古都に住む

水盤の水に冷やして菓子を売る

甚平に着替え落ち着く古都の宿

古都の宿をのこをみなも甚平に

甚平のお子様用も用意され

甘酒や酒蔵並ぶ古都の路地

植田はや合掌造り映しをり

あやめ咲く合掌の里水の里

百年の昔のままにあやめ咲く

虹鱒の泳ぐ小流れ雪解水

十薬ややきものの道坂多く

曲がり角毎に十薬咲ける坂

炎天の坂は急坂土管坂

頂上の四阿で待つほととぎす

ほととぎす片端聞きて山降りる

子燕の早くも燕返しして

水木咲く眉山に雨を呼ぶやうに

そこらぢゅう水木の花の咲く眉山

水木咲く眉山は雨の多き山

親のあと追ふ子燕の宙返り

2014年5月

葉煙草の里芝桜咲く里に

煙草畑ありしは昔芝桜

太陽を浴びてまぶしき芝桜

南面の畑をくまなく芝桜

太陽に向きを揃へて芝桜

芝桜咲かせて人の来る里に

芝桜見んと県外ナンバーも

鯉幟ここに里あり人家あり

吹く風に命をもらひ鯉幟

五月鯉には青空のよく似合ふ

五月鯉泳がす風の心地よく

薔薇の園盛りの薔薇の次々に

大振りのものより萎へて薔薇の園

今朝咲きし薔薇太陽を正面に

日を浴びて輝く薔薇の黄金色

カルメンといふは知らねど赤い薔薇

傷一つなき純白の薔薇に逢ふ

カクテルといふ名の薔薇の鮮やかさ

薔薇園に浜茄子の花咲き競ひ

壁伝ひ魚道へ躍り込む稚鮎

水温の一度上がりて鮎上る

鮎上る小さきものほど残されて

末子ほど多き苦労や鮎上る

上る鮎太りたるものなかりけり

雌のあと雄の飛び立ち雉と知る

雪加啼く四国三郎ゆったりと

大川の静寂を破り行々子

閑谷は青葉若葉に鎮もれる

楷若葉樹齢白寿の輝きよ

鶯や閑谷学校森深く

島もまた新緑に萌え瀬戸の海

海よりの風の涼しさ露天の湯

雨晴れて島のくっきり夏の海

葉柳や倉敷の町川に沿ひ

舟で行く倉敷の町涼しかり

柳好き川も大好きつばくらめ

倉敷の舟着き場跡花樗

葉柳をさ揺らす風のありにけり

本堂に腰を下ろせばほととぎす

鳴くたびに声の近づくほととぎす

本堂に寝転びて聞くほととぎす

ほととぎす聞きゐる耳に河鹿鳴く

谷渡るうぐひすの声ながながと

大の字に寝て薫風の中にゐる

迎へくれ送りてもくれほととぎす

遠くより河鹿の声の澄み渡る

せせらぎの音に紛れず河鹿鳴く

河鹿鳴く姿形は見えねども

河鹿鳴くメロディよりもハーモニー

聞きに来て存分に聞くほととぎす

ほととぎす聞きて河鹿も聞く一と日

辞す吾を呼び止めるかにほととぎす

2014年4月

お遍路の白衣まぶしき日和かな

新緑といふ輝きのありにけり

新緑の光まぶしき野の札所

お遍路の鈴の音色の軽やかに

茎立ちの支度かキャベツ膨らめる

咲き満ちて花の名所となる札所

お花見をしてゐる親子遍路かな

春キャベツはち切れんほど膨らみて

俯きに咲きて垂るる桜かな

雨止みて背伸びせしごと犬ふぐり

雨雫乗せて鮮やか黄水仙

縺れてもすぐに解けて糸桜

この里の垂れ桜の見て飽かず

来年の苗木も育て桜守る

連翹と垂れ桜の咲ける里

これほどの桜街道この里に

里人の桜街道作る里

咲き満てる桜の幹の太さかな

太き根の大地をつかむ老桜

太き幹いよいよ黒き老桜

熱々のおでんに人気花見茶屋

公園は花見の宴の昼間より

花冷えのお花見であり今年また

本丸は桜の老樹競ひ咲き

桜散りチューリップ咲く日和かな

原色の並ぶ明るさチューリップ

オランダの風景をふとチューリップ

なかんづく赤白黄色チューリップ

畝毎に色を違へてチューリップ

畝毎の遅速もありてチューリップ

チューリップ咲いて明るき公園に

群れ咲きて重なる桜濃く淡く

雲厚き空より落花きりもなく

日の差して色蘇る花の山

法花なる由来を尋ね桜狩

仰ぎ見る桜の花のこちら向く

春時雨過ぎたるあとの明るさよ

山椒の芽摘みたる指に残る香よ

芝桜には翳といふもののなく

外つ国の花も混じりて花御堂

太陽に真正面向き芝桜

花御堂椿に虚子のことをふと

鎌倉の寿福寺をふと花御堂

群れ咲きて一つ一つや芝桜

その色に濃淡のあり芝桜

群れ咲きて重なりをらず芝桜

芝桜一つ一つを揺らす風

鎌倉のこと虚子のこと花御堂

虚子の忌に行きし日のこと花御堂

麗らかや虚子の忌の鎌倉もまた

花御堂今年は虚子の忌に行かず

畑のものどれも茎立つ日和かな

初夏を咲くその名ヒマラヤユキノシタ

花開く朝の牡丹を見に来よと

花びらの薄き牡丹の日に弱く

ぼうたんや秋田美人は日を避けて

牡丹寺鉢の牡丹の即売も

多品種の牡丹を育て牡丹寺

まだ固き蕾も数多牡丹咲く

開きたる牡丹開く日待つ牡丹

ふくよかに大振り牡丹咲き満てる

株ごとに犇めき咲ける牡丹かな

太陽に微笑んでゐるチューリップ

ハネムーンてふ真っ白なチューリップ

畝毎に名札をつけてチューリップ

チューリップ数へて数を教はりぬ

チューリップフェアに家族連れ多く

燦々と太陽を浴び梨の花

どれもみな太陽を向き梨の花

どの花も太陽を向き梨の棚

梨棚に咲き満てる花真っ平

古木より咲きて真白や梨の花

老木に純白の梨花咲き満ちて

隣まで宅地の園の梨の花

この町に残りし園の梨の花

鉢植えの牡丹より咲き牡丹寺

鉢植えの牡丹品よく並べられ

日向より日蔭の牡丹艶やかに

大振りの牡丹のかくも妖艶な

妖艶な赤い牡丹の咲き満ちて

小振りなる牡丹のかくも凛として

鉢植えの咲きて始まる藤祭

藤棚の藤まだ咲かず藤祭

縺れるといふことのなく藤垂れて

風のなきときにも揺れて藤の花

懸り藤見る人のなき寺静か

テント張ることに始まる藤祭

新しき雪洞吊りて藤祭

町中に犇めく幟藤祭

梅雨の引く頃の牡丹が見頃とか

楊貴妃の好きてふ牡丹吾も好き

富貴には遠き身なれど牡丹好き

近づけば紫しかと諸葛菜

灰まぶし若布干す浜諸葛菜

諸葛菜根元に黒き若布屑

はからずも雪持草に逢へる春 

2014年3月

残雪や有馬山の湯坂の町

凍解の風の冷たき有馬の湯

雪乗せていよいよ赤き実南天

蕗の薹佃煮となり店頭に

蕗の薹季節限定佃煮に

佃煮屋多き有馬や蕗の薹

この辻も雪積み上げて有馬の湯

太閤もねねの像にも余寒かな

囀りや山の有馬の露天湯に

雛飾眺めてよりの宴かな

雛飾る御殿飾をまづ飾り

春塵の明石海峡橋消えて

海峡に鮊舟の二艘づつ

鮊の網引く二艘一組で

薔薇の芽のいづれも赤に始まりぬ

薔薇の芽の赤に違ひのなかりけり

新御堂古き礎石の暖かく

千年の礎石に御堂建ちし春

町内に国分寺あり豆の花

池の鴨引く気配なり散り散りに

鶯の一声ありてそれっきり

しだれ梅雲一つなき空青く

鐘つきて祈る遍路のうら若く

お遍路の笑顔残して行きにけり

振り返りお辞儀して去る遍路かな

山門を入り山門出る遍路

裏口を入る遍路のなかりけり

路地を行くお遍路さんの次々に

行楽の出で立ちで来るお遍路も

先立ちて蜂須賀桜満開に

咲き満ちてこぼれ始めし桜かな

こんなにも目白来てゐる桜かな

一本の桜に人も目白も来

花の色幹黒ければさらに濃く

雲一つなき空を背に桜咲く

蜂須賀の殿に拝受の桜咲く

焼夷弾落ちたる庭の桜咲く

七十年続く平和や桜咲く

咲きにけり蜂須賀桜紅仄と

紅しかと蜂須賀桜咲く日和

蜂須賀の世に咲く桜今も咲く

蜂須賀の時代を今に咲く桜

緋毛氈敷くお茶席で見る桜

お元気な亭主は卒寿桜守る

桜守る亭主と共に見る桜

蜂須賀の世より伝へて紅桜

山茱萸の黄を極めゐる空の青

町中の目白を集め桜咲く

2014年2月

水仙の咲き満つ丘を登りゆく

水仙の香に包まれて丘登る

水仙の香の突然に降りてくる

水仙の香りの中に立ってゐる

なだれ咲く水仙どれも下を向き

満作の花のほどける日和かな

登るごと臘梅の香の近づきぬ

臘梅の通り過ぎての香りかな

梅咲きて平和な日本青い空

節分の日差明るくありにけり

紅梅の一花一花に虻の来て

梅日和公園どこも家族連れ

立春の光あまねくありにけり

立春の光の中へ飛機の旅

雪吊の松に音なく氷雨降る

氷雨降る昼も明るきレストラン

洋風の明治の館氷雨降る

それぞれに句の木札立て冬牡丹

冬牡丹一つに一つ句を添へて

冬牡丹苑に集まる日差かな

肌を刺す風の中来て冬牡丹

冬牡丹園に火鉢も用意され

雪残る土黒々と冬牡丹

降る雪にいよいよ凛と冬牡丹

寒きほど色艶やかに冬牡丹

霜柱踏みて東照宮に入る

春光に東照宮の金まぶし

つくづくと都会は雪に弱かりし

日本中雪また雪の一日かな

大雪のニュース炬燵で見る隠居

霜柱踏みしめ社殿仰ぎ見る

新若布朝一番に鳴門より

さつと湯に通せば真青新若布

歯応えの鳴門若布でありにけり

知らぬ間に長けてをりけり蕗の薹

わが庭の蕗の薹はや長けてをり

わが庭の蕗の薹にも雪の朝

わが庭の金柑雪に色増せる

松葉杖頼りに過ごし根深汁

何もせず自宅静養根深汁

少しづつ歩けて嬉し根深汁

新若布茎もいただき佃煮に

春物の並ぶ売場の明るさよ

冬物の売場は隅に寄せられて

冬物はバーゲンばかり並べられ

重ね着を脱ぎて春物見て廻る

青空へ突っ立てる枝梅の花

独りゐて梅の香りに包まるる

まだ風の尖ってゐる梅日和

梅の香の不意に届きてすぐ消ゆる

千年の大楠青く初音聞く

日に向かひ陰のなかりし梅の花

吾が靴の巨人の靴に犬ふぐり

下萌の土ほかほかと柔らかく

下萌や地球は命宿る星

お隣は今年も空地下萌ゆる

町内に公園四つ下萌ゆる

雑草を駆除の条例下萌ゆる

抜けさうで抜けぬしつこさ春の風邪

何事をするも物憂し春の風邪

2014年1月

初夢の途切れ途切れでありにけり

初夢にストーリーなるもののなく

あっけなく覚めて初夢らしきもの

温めたる水に寒鯉よく泳ぎ

まづ玄関のストーブに迎へられ

門前に臘梅活けて客を待つ

石蕗残る庭に師の句を諳んじる

料亭の広間借り切り初句会

いささかの緊張もあり初句会

ごまめに手つけて始まる宴かな

琴の音の料亭静か初句会

曲水の庭ある屋敷初句会

料亭の昼は静かや初句会

初句会いつもの顔のかしこまり

熱燗の杯に始まる初句会

熱燗も御馳走も出て初句会

初戎禰宜の炬燵を離れざる

本堂にでんとストーブ初戎

うまいもの市へ福笹提げて行く

戎市裏の通りは苗木売り

街中に横丁のあり初戎

返納の去年の福笹山を成し

深紅とは黒き赤なり冬薔薇

凛と立ち咲き始めたる冬薔薇

奥宮へ寒禽の森抜けて行く

ドイツ俘虜造りし橋や冬日差す

神田の耕されあり春隣

奥宮は標高五百冬残る

奥宮へ里の参道琵琶の花

奥宮へ行くといふ人着膨れて

千年の樟にやさしき冬日かな

雪乗せて凛々しかりけり寒牡丹

上野なる東照宮の寒牡丹

小顔なる乙女のやうな寒牡丹

霜除けの蓑の大きく寒牡丹

蓑もよし傘もまたよし寒牡丹

雪の日のいよいよ赤き寒牡丹

寒牡丹見て来て熱き御茶嬉し

凍蝶の飛び立ちにけりよろよろと

冬の薔薇チャールストンの花小さく

山茶花の咲き継ぐ赤と散りし赤

紅梅の含める蕾紅確か

石庭の砂の箒目冬日差す

冬枯れの園に黐の実真っ赤かな

寒風のなき日溜りの見当らず

落椿瑞々しきもありにけり

まづ日差ある処より探梅す

蜂須賀の御殿庭園探梅す

探梅といふはとにかく歩くこと

風痛みしても凛々しく冬の薔薇

天守なき城址広し梅探す

皇居前瓦斯灯模せる寒灯

奥宮は裸電球寒灯

臘梅や史跡公園山裾に

臘梅を見んと次々来られたる

臘梅の臘を透かせる空の青

臘梅や散歩コースの案内板

臘梅の香りの届く間合いかな

臘梅を丹念に見る日和かな

満開に咲く臘梅に出会へたる

臘梅や古墳の里の日溜りに

臘梅や丸い古墳の其処此処に

臘梅や散歩コースの地図呉るる

臘梅やこれより散歩コースなる

寒禽の森へと入る遍路道

空海の道は寒禽鳴くばかり

寒椿これより遍路ころがしへ

空海の道は辿らず冬遍路

徒歩で行く人なきけふの冬遍路

新婚のやうな二人も冬遍路

新築の庫裏の玄関実南天

新築の槌音高く日脚伸ぶ

棟上げて大工忙し日脚伸ぶ

棟上げて工事本番日脚伸ぶ

大工さん休む間もなし日脚伸ぶ

竜の玉探す幼き日に帰り

竜の玉探せば誰も童なる

この瑠璃を竜の玉とは大層な

棟上げのあとの嬉しき四温かな

組み上がる梁に冬日のやはらかく