今月の俳句

2005年12月

石庭の紅葉いよいよ色極め
ドイツ兵架けたる橋に冬日かな
大麻へ登る山道紅葉道
一山を染め尽したる紅葉かな
綿虫の群れゐる時の白がすり
赤ん坊抱き上ぐるごと蓮根掘る
思案石なる石の上紅葉散る
天へ咲く山茶花の白ほの青し
草虱ありし野にありゐのこづち
二度咲きの花二三寸藤袴
踏みし音木の実と知りぬ歩きけり
一人来て木の実の道を歩きけり
視野溢る四国三郎冬麗
冬霞阿波の山々やさしかり
丘に立ち眼の下見れば街師走
山茶花の白の際立つ日陰かな
議事堂に桜紅葉の二三片
閉会の議事堂眠り銀杏散る
振り返り見てもさびしき冬桜
ガス灯を真似し街灯枯柳
波一つなき海原の冬日かな
粕汁を食ひて越へたる親不知
鴨の陣四国三郎占領す
鴨の陣匍匐前進する如く
風吹けどひるむことなき鴨の胸
船着きて関東焚に迎へらる
大鍋におでんひしめき客待てり
うどん屋にまづはおでんといふ讃岐
おでんなら竹輪麩といふ東京つ子
遠き日の加賀の金沢蟹おでん
踊る水跳ねる水にも冬日かな
日の翳り数を増したる浮寝鳥
外苑の堀の水面の冬紅葉
黄葉照葉天辺までも黄葉照葉
石垣を取り囲みたる冬紅葉
儀典馬車朝の演習息真白
どの道も山茶花の道今朝の道
大雪の東京の空真青なる
東京の夜景を下に忘年会
吟行は手袋忘ることなかれ
失える手袋片手吊しあり
一年のはや終はりけり年賀状
一年の過ぎにし速さ年賀状
年毎に過ぎ行く速さ年賀状
川風に流されてゐる鴨の陣
振り返り見れば初雪音もなく
初雪に閉ぢ込められてゐる淡路
初雪に閉ぢ込められてしまひけり
列島に寒気団阿波に初雪
雪ちらり散歩やめよかどうしよう
大雪の金沢からの蕪鮨
年忘米寿のをみな恋の歌
街の灯の残りてをりぬ冬の朝
遠き日の鱈の粕汁親不知
電飾の並木の増へて街師走
焚火して待ちゐてくれし里の人
裸木に垂るる滴や冬の雨
冬の雨もう風花となつてゐる
目を凝らし探せど見へぬ笹子かな
笹鳴ける一叢確かこのあたり
大麻へ続く野の道笹子鳴く
みちのくの林檎の何と冷たかり
オペラ観て我も雪降る街帰る
阿波の雪紅葉とともに散りにけり
雪置ける千両の赤ことのほか
退職の日の決まりたる年の暮
このところ逝く人ばかり年の暮
かいつぶり潜りし水面平らなり
鳰潜る後から尻の付いてゆく
熱燗のほどよき蕎麦の老舗かな

2005年11月

風の後まだ揺れてゐる萩の花
紅葉の里静けさの中にあり
安穏といふ幸せや柿実る
半分はいまだ蕾や菊人形
揃ひ咲くこと難しき菊人形
裏表にて明と暗菊人形
時計なき世界なるかな村祭
ゆるやかな時の流れや村祭
石段を避けて御出座秋の渡御
日溜りに里人あふれ秋祭
新規なるものは無けれど秋祭
段取りのゆるゆるとして秋祭
指図せずとも進みたる秋祭
秋祭裏方の白割烹着
秋祭男と子供ばかりかな
青竹の幟先立て村祭
秋祭山車手作りでありにけり
少子化で秋の御輿に車輪つき
朝市に味噌焼く香り秋晴るる
咲き始む泡立ち草の萌黄色
先付は甘露煮にせる子持ち鮎
松茸の吸物酢橘浮かべあり
秋鮭に栗と零余子と酢橘かな
蕪を煮て蟹の餡かけなどをして
白芋茎もつてのほかも添へてあり
柿ゼリー出て会席の終はりけり
沿線はどこも泡立ち草の花
鴨の陣たちまち出来て桂川
城跡のひろびろとして菊花展
鉢植の揃ひて咲ける小菊かな
懸崖の菊は孔雀の羽の如
白鷺の城の白壁薄紅葉
見上げゐる五層の天守秋高し
江戸初期のままの姿の城の秋
秋うらら世界遺産の城にゐる
千両の道をたどりて茶席かな
庭園の奥の奥まで実千両
千両は真つ赤万両まだ緑
千両の揺れ誘ひたる昼の鐘
縁側の日溜りにゐて帰り花
山茶花の一輪咲ける裏の庭
灯篭の隣の石蕗の花明かり
暮れ始む雨の御苑の石蕗の花
銀杏を拾ひ過ぎたり何としよう
銀杏を拾ひ土産のできあがる
大銀杏諸肌脱ぎて冬に入る
大銀杏大円描く落葉かな
立冬といへど上着を脱ぐ日和
紅葉に誘はれ皇居一周す
美術館出て紅葉の道帰る
一葉ごと違ふ色なる照葉かな
一葉ごと光の遊ぶ照葉かな
冬夕焼羽田に富士を浮かばせて
北斎展見た日の富士の冬夕焼
特賞の他の賞なき菊花展
子よりも親のいそいそ七五三
畝傍山桜紅葉に昼の月
鴨群れて食パン一斤瞬く間
振り返る人はなけれど残る萩
干柿の先付てふも明日香かな
吸物は鯛と蕪に柚子添へて
明日香路は野菜尽しの鍋料理
目の前に大和三山柿の秋
最古てふ飛鳥寺に来て破れ傘
一袋二百円也柿の里
百円で枝付三個柿の里
木の実落つ小径登りて畝傍山
まほろばの古都に旅して小夜時雨
古の歴史の舞台初時雨
蘇我入鹿思ふ一夜の初時雨
明日香路を巡りし夜の初時雨
案山子まだ残る棚田の初時雨
一年の終はりし棚田柿実る
小春日の飛鳥の石の遺跡かな
法隆寺日溜りの庭帰り花
夢殿へ続く桜の紅葉かな
法隆寺円き柱に冬日かな
八角の御堂のやさし冬日影
短日や明日香のガイド早仕舞
室の花遠き国より売られ来し
日曜日家族揃ひておでんかな
城の堀水清くして柳枯る
鴨の陣たちまち出来て名田の関
一叢の緑ありけり破れ傘
柿日和落柿舎に来て柿見上ぐ
この柿を芭蕉去来も見たるかな
尋ね来し嵯峨の落柿舎柿の秋
振り返りまた振り返り紅葉狩
水面まで紅葉の世界広がりぬ
秀頼の自刃の場てふ石蕗の花
搦手の石垣の下花八手
大手門くぐりて菊の香の中に
太閤に見せたき紅葉錦かな
城内の茶屋で一服冬うらら

2005年10月

新蕎麦の蕎麦湯お代り致しけり
川風のよくよく吹いて蕎麦の花
蕎麦の花咲く多摩川の河川敷
紅白の水引咲くや山の宿
女郎花玄関に咲く山の宿
白式部紫式部相並び
紫に古思ふ式部の実
紫に濃淡のあり式部の実
コスモスや田楽販ぐ蒟蒻屋
豆腐買ひ歩いて帰る女郎花
紅一点峡も奥なる曼珠沙華
頬白の庭に来てゐる朝まだき
韓国の松茸山と積まれをり
千葉産の落花生買ひ茹で上げる
パリで見し真つ赤に爆ぜて石榴の実
はやばやとニュースキャスター赤い羽根
駅頭に女子高生の赤い羽根
西瓜売る場所に冬瓜南瓜かな
滝を見て秋海棠の道帰る
雨止みし庭の一隅玉簾
光陰の過ぎ行く速さ金木犀
東京に村ありて水引の花
宵闇に秋明菊の花明かり
暗闇に金木犀の香りかな
名園のよき茶所の藤袴
抜け駆けて始まつてゐる櫨紅葉
拾ひたる橡の実二つ手の平に
木犀の香のなかにあり虚子の墓
木犀の大樹の香り虚子の墓
鎌倉の茶屋に一輪時鳥草
園児より親の賑やか運動会
秋桜倒れて起きて咲きにけり
渡る鷹けふは見られず帰り花
今年また鳴門こんなに帰り花
海峡の水面すれすれ鵯渡る
鵯の群れ見下す高さ秋の蝶
山雀の餌を選び取る速さかな
秋晴れの庭に散髪終はりたる
雲一つなき空広し秋晴るる
大仏に供へ林檎の小さくなる
風止めど萩の揺れゐる静寂かな
朱色なる堂宇に桜薄紅葉
切られたる角押し付けて老いし鹿
大仏のまします伽藍残る萩
鹿笛をよく聞く日なり古都にあり
落とされし角あと瘤の如きかな
常夜灯積もりし苔に秋時雨
小鹿のこのこ大鹿のそり煎餅屋
鹿のまりすぐに片付け煎餅屋
猿沢の衣掛柳紅ほのか
桜紅葉始まつてゐる浮御堂
古都の路地アメリカ産の水木に実
苔むせし芭蕉の句碑や角切場
芭蕉句碑守る若木も薄紅葉
鹿苑は鹿の溜り場角切る日
玉砂利を踏み締めて行く角切場
青信号鹿も一緒に渡りたる
大和路は柿の里また柿の里
家毎に菊を咲かせて飛騨の国
高山の古き町並み菊明かり
外つ国の朝顔花を咲かす路地
高山の上三之町菊香る
紅葉の前線間近飛騨の里
大藁屋すつぽり桜紅葉かな
次の鐘待つ静寂あり藤袴
刺し子する人動かざり柿熟るる
朝市に並ぶ赤蕪すぐ売れる
飛騨之国高山陣屋秋珊瑚
木の実落つ道の果てなる樵の家
一刀彫見て帰る道時鳥草
動かざる時は束の間花薄
朝市の赤い大根と赤い蕪
朴葉味噌焼きて奥飛騨夜の秋
合掌の大屋根の上秋晴れて

2005年9月

無花果の旬が嫁より届きたる
無花果の味のひかえめなりしかな
デザートはいつも無花果このところ
梨送り無花果届き嫁姑
わつと来てわつと去りたる稲雀
電線といふ電線に稲雀
稲実る黄金の田の十重二十重
列なして急ぐ鴉や秋暮るる
鷺雀燕椋鳥野辺の秋
正座して鮎雑炊の客となる
箸休め芋茎の酢味噌和の出て
落ち鮎の鼻の少々曲がりをり
川痩せてゐるかも鮎の小振なり
台風の前の静けさ花芙蓉
新しきこと始めたし竹の春
法師蝉一声鳴きてそれつきり
山萩の大きく垂れて雨滴かな
曲線のいびつなるかな花梨の実
吾亦紅ドライフラワーかと思ふ
皇居にて盗人萩に出会ひけり
紫を絞りたるごとほたる草
雨滴にも紫ほたるぶくろかな
白てふも凛たる白や白式部
女郎花男郎花また女郎花
禁足となりて夜食の届きけり
寝台車まずはともあれ夜食かな
夜食とは即席麺の日の遠く
飛行機の夜食おにぎり二つ出て
夜食にも和洋中ある都市ホテル
太刀魚の一尾も釣れず夜明かな
とろ箱に太刀魚の銀残りをり
太刀魚の歯よりこぼれし小魚かな
上弦の月ののぼりぬ破れ蓮
敗荷の田ひろびろと宵の月
蓮根掘る一つ抜き出しまた一つ
出産の予定日も過ぎ秋暑し
はやばやと減量カルテ届く秋
昼食のカロリー表に見入る秋
女の子生まれしの声爽やかに
母子ともに健やかと聞き秋うらら
初孫の写真の届く良夜かな
孫できてワインの進む夜長かな
湿原に静けさ戻りおみなへし
細き身で母となる嫁おみなへし
長き夜や世界遺産の旅の本
長き夜や歳時記めくり辞書めくり
長き夜やけふこそ読まんホトトギス
新藁の香り振り撒きコンバイン
脱穀機まだ動きをり宵の月
円錐の少し崩れて籾の山
爽やかや本日気温二十五度
爽やかや紺の背広に着替へたる
女郎花同じ野の道男郎花
鈴虫の音のしみわたる夜更けかな
十五夜を父となりたる子と眺む
赤ん坊寝入りて眺む今日の月
万博の庭園ごとの虫時雨
万博の四季の庭園女郎花
十六夜や万博終わる週となる
知多に来て名も知らぬ駅葛の花
鈴虫の野に馬追のひとしきり
知らぬ間に登りてをりし十七夜
馬追や学校の門開きしまま
家族皆揃ふてをりぬ居待月
スーパーの花売り場にも吾亦紅
残業の子の帰り待ち寝待月
すくと立ちぱつと咲きたる曼珠沙華
だしぬけに畦といふ畦曼珠沙華
畦道を通せん坊し曼珠沙華
自然流小学校の糸瓜棚
子らよりも丈の伸びたる糸瓜かな
校庭に糸瓜の花と糸瓜かな

2005年8月

田仕事のあと追ふ小鷺ありにけり
蓮の花背丈を凌ぎ咲ける位置
台風に出鼻くじかれピアノかな
雨止めばたちまちもとの蝉時雨
日盛りのバンド演奏けたたまし
下校子に会釈をされて青田風
咲き初めてこんなところに鳳仙花
お中元送り送られして電話
東欧の朝市をふと西瓜売り
朝顔や蔓の先ほど淡き花
無人駅真つ赤なカンナ今年また
炎昼に闇の世界を万華鏡
パリ今年冷夏とメール届きけり
パリの人夏のバカンス一ヵ月
鰻来て献立すべて変わりけり
お隣も土用の丑の鰻かな
向日葵やモネもゴッホもゴーギャンも
夜咲くといふ睡蓮のありにけり
仄紅き蕾を恋ひて赤とんぼ
川面まで下りてきそうな花火の尾
散りてなほ目の裏にある花火かな
花火見に堤防にわか桟敷かな
花火玉しゅるるるるると爆ぜて散る
音すれど音するばかり遠花火
花火果て川面に街の明りかな
唐黍の刈る時の来て群雀
南瓜から天麩羅を揚げ始めけり
煮南瓜のメーン季節のランチかな
東京のホテルの朝餉にも南瓜
この里にこんなにもゐて秋燕
先頭ははや消え消えに帰燕かな
咲き初めし芙蓉の花の淡さかな
一群に花まちまちの芙蓉かな
片陰を行く人ばかり人通り
懸樋より垂るる雫やほたる草
苔の庭焦土とまごう炎暑かな
蜻蛉の水面離れぬ残暑かな
平凡な山に一景花常山木
秋の蝉息つぎ足して鳴きにけり
流星とまごう飛機あり宵の空
山一つ越へ行くほどに星月夜
トンネルを抜けし山里星月夜
星降る夜峠を三つ越へにけり
稜線を描き出したる星月夜
北極を越へ行く機窓星月夜
天花粉まぶしたるごと稲の花
四国中少雨の今年稲の花
当分は雨なき予報稲の花
ダムの水干上るニュース稲の花
風吹かぬこと祈りゐて稲の花
流れ星また流れ星流れ星
飛騨の山合掌造り蕎麦の花
合掌の大屋根の下蓼の花
溝蕎麦の水路たどれば大藁屋
合掌の家それぞれの鳳仙花
水引の花のはじめの緑色
藪茗荷花咲く庭の静寂かな
米寿てふ友の作りし今年米
新米のご飯に茄子のお漬物
新米で作るぼうぜの姿鮨
蝉時雨夜は一転虫時雨
みちのくの友のことふとちちろの夜
中国の母語る娘やちちろ鳴く
やはらかき朝の光にゑのこ草
地に満てる朝顔の花小振りなる
売家に朝顔どつと押し寄せて
田仕舞ひの煙のほかは動かざる
吉野川北岸千里豊の秋
大竿のときおり撓み下り鮎

2005年7月

一頻り唯我独尊不如帰
喬木にはや毛づくろひ小雀の子
太陽へ伸びゆきにけり凌霄花
ハイウエー夾竹桃の花ばかり
夾竹桃燃え戦後も早や六十年
夏椿いづれ白花ばかりかな
紫陽花の葉ごと花ごと雨の粒
裏山の崖を覆ひて額の花
雨の日も梔子の香のはるかより
このあたりふつとすがしき半夏生
噴水の穂の天辺の踊りをり
ねこじゃらし思ふ虎の尾なりにけり
雨の日の権萃の紅殊のほか
垂るる実に白雲木の高さ知る
間道は令法の花に埋もれをり
花空木谷を埋めたる白さかな
渇水のあとの卯の花腐しかな
眉山より老鶯しきりモラエス忌
モラエスの昔は知らず凌霄花
モラエスの旧居の石碑濡らす喜雨
モラエスも見しかこの路地花樗
ポルトガルワイン涼しきモラエス忌
たまさかの雨間の光に蓮の花
雨止みて蓮の葉ぴんと立ちにけり
雨上がり青田いよいよ競ひをり
呼び込まれ朝顔市の客となる
市の帰路朝顔二、三しぼみをり
東京は花のお江戸か朝顔市
江戸つ子となりし法被や朝顔市
外つ国の売り子も法被朝顔市
花槿ロダンの像に咲きにけり
葛桜出て会席は終はりけり
阿波に喜雨鳴門金時生き返る
路地裏に始まつてゐる阿波踊り
宵の街そぞろ歩けば祭笛
田を渡る風運び来る祭笛
鳴門路の一望千里蓮の花
小屋といふ小屋に玉葱淡路島
豊葦原瑞穂の国の青田かな
どの顔も若き日の顔宿浴衣
愛・地球博炎天の花真つ赤
万博の一番人気かき氷
地球博炎天の徒歩旅行かな
炎天の長蛇の列のしんがりに
スーパーの鮮魚売り場に金魚かな
金魚鉢床の間に置き眺めゐる
藻を入れて金魚の世界できあがる
我が庭の天辺からも蝉時雨
刈りし庭はや青々と夏の草
添ひ寝してなほ動きゐる団扇かな
美術館浴衣の方は無料なる
鎧着ておつとり刀かぶと虫
入場を待つ列に着き団扇かな
街中が静止して見へけふ大暑
空蝉の葉を掴みゐる強さかな
アーケード金魚の幟下がりをり
脱け殻の蝉も時雨の中なるか
空蝉の葉を掴みゐる強さかな
曲流れはたと止みたる蝉時雨
花すべて天へ向きをり百日紅
風通る大樹の陰の浮巣かな

2005年6月

母の日に届きし花の白さかな
日曜の朝の静寂や花水木
宿に覚め朝の光に花水木
散歩する何時もこの道さくらんぼ
振り返り見ればこんなにさくらんぼ
スニオンの岬で見たし大西日
はるかへと夕日映せる植田かな
新市議に当選の報風薫る
十薬の彼誰時の白さかな
ニュータウン十薬干してありにけり
蔵のある屋敷の側に立葵
日曜日一家総出の田植かな
田植機の父の姿を見て居りぬ
両隣すまして競ひ田水張る
老夫婦二人となりし田植かな
走り梅雨面を濡らすほどであり
走り梅雨はや晴天となりにけり
雨少し馬鈴薯の花生き返る
ダム底をついてあがりぬ走り梅雨
鯵鮨の合せ酢我の出番かな
立葵去年と同じ角に立つ
ゆすらうめ口に含みし日の遠く
琉球のマンゴー届き御裾分け
雨蛙鳴き去りて来る蟇蛙
蚯蚓鳴くことの嘘とも真とも
手水鉢終の目高の棲家かな
ともしびを映し水田眠りけり
花菖蒲さつきと色を競いをり
一巡のあと一巡の菖蒲園
巡り来て紫が好き花菖蒲
白とふは粋な色なり花菖蒲
花菖蒲夕日ひときは目立ちをり
上向きに咲ける菖蒲の「五月晴」
この蝶の縄張りらしき菖蒲園
風止みて凛と立ちたる菖蒲かな
菖蒲園いづれも俄カメラマン
更衣今年流行とクールビズ
七変化はじめは白でありにけり
しもつけの寄り添う如く咲きにけり
花卯木重なり合ひて散りにけり
山風に泰山木の花散れり
梅雨晴間眉山眼前句碑除幕
寺町に虚子恋ふる句碑濃紫陽花
句碑ひとつ入梅の日に生まれけり
どこまでも真実一路藍茂る
雑草は一本もなし藍茂る
雨のなき阿波の北方藍茂る
藍の葉を登り来しもの天道虫
藍茂る畑の土の見えぬほど
刈り入れは明日かも知れず藍茂る
藍の葉の揺れて涼風届きけり
藍若葉始まる苦労知りもせず
太き幹朽ちてあれども樟青葉
大樟は幹朽ちてなほ青葉かな
梢ほど泰山木の花真白
十薬も丈伸ばしゐし御苑かな
十薬や真昼の闇の白十字
うかうかと黴に取られしメロンパン
でで虫と聞けどお代はりエスカルゴ

2005年5月

満天星の花に置きたる雨雫
血糖値正常となり若葉かな
鉄棒の子らの歓声五月鯉
残こされて田の一隅に母子草
隣より筍飯の香りかな
筍飯家族総出で作りけり
山荘に猿の親子や春の宵
会席は粽餅から始まれり
独活若布葱もぶち込み潮汁
冷蕎麦に山葵大根卸しかな
山桃を添えて塩焼き天魚かな
薇に木の芽いろいろ信田巻
烏賊胡瓜茗荷木耳胡麻酢和え
山菜の加薬御飯を御代りす
外輪船出入りの港花水木
ゆつくりと入りし温泉菖蒲の湯
菖蒲十束浮かびてをりし露天の湯
子と二人山の露天の菖蒲湯に
飛行雲描くを見つつ菖蒲の湯
菖蒲湯に入りて体重減りにけり
駿河台マロニエの花咲き始む
藤の花揺らし山雀去りにけり
藤の花揺れて二拍子三拍子
藤の花幹は仁王の足のごと
紫の淡きこの色花あやめ
鵜の一羽鳴門海峡渡りけり
透き通る潮目に渦の生まれけり
大渦といへど束の間春の潮
観潮や渦に始終のありにけり
春の潮大河となりて大海へ
観潮船二つ並びて帰りけり
灯台へ続く尾根道立浪草
新任の土地より便り五月晴
母の日の翌日は我誕生日
黒鯛の泳ぐお堀でありにけり
海城の堀の黒鯛周遊す
黒鯛や讃岐高松海の城
車輪梅香る城址の茶会かな
豆剥きは私の仕事豆御飯
我が剥きし豆たちまちに豆御飯
焦げ飯の御代わりをして豆御飯
豆剥きてけふといふ日の終わりけり
苗代田出番待ちつつ暮れにけり
たはむれに入りし温泉や菖蒲浮き
菖蒲湯に手足伸ばして子と二人
菖蒲湯の菖蒲の香り家路まで
何事かあらん雲雀の急降下
水平の次は斜交ひ夏燕
連続技一呼吸して夏燕
糠雨にいよいよおぼろ花樗
紫といふ淡き色花樗

2005年4月

義経の屋島への道花馬酔木
白に白重ねて真白花辛夷
あと追ひてあと追はれゐて恋雀
軒先に今朝も尾を立て恋雀
大根の花を染めたる入日かな
朝市の目玉手作り花菜漬
遠き日の母の笑顔や花菜漬
虚子の忌の鎌倉の花盛りなり
釈迦像に甘茶をかけてけふ虚子忌
鶯に導かれゐし墓参かな
虚子の墓訪ねし道の著我の花
歩み来し道はるかなり夕桜
歩み来し一筋の道花の道
虚子の初志四代つづき山桜
一筋に花鳥諷詠けふ虚子忌
ホトトギス百八齢の虚子忌かな
風なくて花こぼれをりこぼれゐし
花一片斜交ひに舞ひゆきにけり
余すなく咲き満ちてこの桜かな
水に映え花花花と咲きにけり
夜桜の宴に浮かびて遠桜
句作りも忘れ桜に見とれをり
番かも同じ高さや揚雲雀
蓮の田に水張れば来て燕
梨の花蕾のころは仄赤し
花と葉の犇きあひて梨の棚
大根もキャベツも花を競ひをり
いざ行かん金毘羅歌舞伎山笑ふ
金丸座残花の道の幟かな
鼠木戸くぐれば闇に江戸の春
吉右衛門見て金毘羅の春に酔ふ
舞台はね春灯の道帰りけり
菜の花に隣も余所もなかりけり
蝌蚪逃げてあと追ひかけし目高かな
そこにある阿波の山々春霞
見返れば山といふ山笑ひをり
台風の爪痕無残竹の秋
五月鯉泳ぐ里山萌黄色
阿波の山重なり合ひて草朧
道後への一泊吟行山笑ふ
木漏れ日に透き通りをり藪躑躅
箒の目入りたる庭に落ちし花
三重の塔を越へかし樟若葉
燕来る道後の奥の旅の宿
石手川菜の花の中流れけり
キューイの芽蔓の先ほど開きをり
囀や雑事忘るる子規の里
里人と朝の挨拶豆の花
鯉群れし淵の青さや花筏
踊子草陰に控へてをりにけり
真白なる家に赤と黄チューリップ
樟落葉ありてこの樟若葉かな
予の国の城の跡なる雪柳
千羽鶴残して行きし遍路かな
竹の子も芽吹きし今朝の遍路茶屋
ケイタイで怒鳴りつつ行く遍路かな
湯掻きたる蓬の青さ蓬餅
釜茹での蓬の香り蓬餅
一年の蓬茹でおく餅屋かな
茹で上げし一年分の蓬かな
蒲公英の野に鈴鳴らし徒遍路
道標隣の花は大手鞠
朽ち果てて寄り添ひし墓金鳳華
遍路茶屋一番人気蓬餅
名物の草餅五つ四百円
タラの芽の天ぷらうどん五百円
お札所の十二単の紫色かな
花水木躑躅と白を競ひたり

2005年3月

梅日和華燭の宴始まれリ
梅日和新郎新婦相似合ふ
ゆつたりと四国三郎鴨帰る
けさはもう茎立ちてゐし蕗の薹
遅速あり遅速ありたるふきのとう
蜂須賀の墓所の老梅まだ蕾
蜂須賀の墓所の広さや春日向
剪定の梅の小枝をもらひけり
繁縷の花にこぼるる光かな
手造りの小川なれども柳鮠
蜷の道九十九折でもありにけり
雛飾外つ国人に連れだちて
青い目の人形をふと雛祭
野に風の吹きすさぶ日のつくしんぼ
伸びるほど数を増やして豆の花
桃の枝箸置にしておままごと
遠目にも山茱萸の花明かりかな
どの花も天を指したる辛夷かな
天地をつなぐもの皆凍て返る
着膨れの押し競饅頭山手線
凍て返る朝のホームに我一人
皇居前広場の松に忘れ雪
湯豆腐や卒寿傘寿の父母囲み
三椏の花は照れ屋でありにけり
振り向けば満作の花浮かびをり
木瓜の花隠し持ちたる棘数多
桜草こぼれこぼれて増えにけり
ツンドラの凍てし地に村見えて来し
春の雲浮かびテムズの流れかな
アーモンド咲きたる下の乳母車
風強き丘に古城と紫木蓮
黄水仙群れしタブローコートかな
流氷のきしめる港鴨群るる
玄関にローソク灯し雪の夜
猫柳古都の花屋の一隅に
芽柳のそびえ流るるマイン川
フランクの像への古道花の道
春の日に合せて人の移りけり
ブローニュの森なるしだれ桜かな
ブローニュの森のせせらぎクロッカス
黄水仙咲きし水辺で憩ひをり
訪ね得しゴッホの墓や犬ふぐり
お彼岸のゴッホの墓へ参りけり
黄連翹咲ける路地来てふとゴッホ
晩年のゴッホの寓居桜咲く
マロニエの芽の総立ちに空の青
馬刀食べてバルセロナの夜更けにけり
ガウディの街春雨に煙りをり
木瓜咲いてキューガーデンの虚子の句碑
ロンドンに虚子の句碑あり木瓜の花
ロンドンで出会ひし染井吉野かな
辛夷咲くキューガーデンの空広し
ウィンザー町の奥なる花ミモザ
ウィンザー芝の緑と黄水仙
いかなごの釘煮大方曲がりをり
茹で上げしいかなご並ぶころとなり
菊の枝菊の葉も挿し苗作り
もう一度深呼吸して大試験
大試験送り出す子に励まされ
草餅が追ひ掛けて来る草津の湯
瀬戸内に鰆来る日か海荒るる

2005年2月

大寒の日本列島縮こまる
年賀状当たりましたと返書かな
ちゃんちゃんこ子犬も同じちゃんちゃんこ
ここもまた道の普請の日脚伸ぶ
窓といふ窓開け放ち冬うらら
フレームを仕上げし農婦日脚伸ぶ
紅白の梅競ひたる空青し
野良に出る人の増えけり春隣
冬うらら遠き友より句集かな
ふきのとう男が作る酢味噌和え
日本中雪の達磨の予報絵図
大寒波日本列島包み込む
冬北斗悲しきまでに冴え渡る
金柑に積もりし雪のまぶしかり
北陸に大雪阿波にささめ雪
降る雪や何処にも行かず誰も来ず
牡丹雪眺めて一日暮れにけり
わが庭に氷を残し寒波去る
薄氷を踏みて歩きし日のはるか
薄氷のはかなきまでに薄きかな
薄氷のまことに薄くありにけり
薄氷の放ちし朝の光かな
北風に向かへる一歩前のめり
隅どりて田毎田毎に残る雪
外堀の客はキンクロハジロかな
立春の空ひろびろとありにけり
湯気立てて出湯の湯気の猫柳
中国の母思ふ娘や梅蕾
中国の娘らの歓声梅日和
野の市の独活の隣の独活もどき
菜の花忌嘉兵衛を読みし日の遠く
水張ればもう鴨の来し蓮田かな
古屋敷ぽつりぽつりと咲きし梅
両の手に余りし香り蕗の薹
花咲けば見る人のなしふきのとう
ほろ苦き遠き日のあり蕗の薹
船泊埋め尽したる若布かな
軽トラの物売りも来て若布刈り
若布褒め和布蕪一山頂戴す
海水で洗ひし和布蕪丸かじり
わが茹でし鳴門若布でありにけり
磯の香の丸ごと和布蕪とろろかな
きらきらと光返して犬ふぐり
日溜りに犬ふぐり又犬ふぐり
句作りに四苦八苦して犬ふぐり
カタカナの氾濫ここも椿苗
ふつくらとミセス・デービスてふ椿
天女なる椿の花の淡さかな
花椿巡る目白の慌し
水軍の隠れ古道の落椿

2005年1月

そのかみの虎丘斜塔や枇杷の花
上海の豫園商場小夜時雨
冬の灯や租界でありしあたりかな
懐かしき子らのセーター出できたり
オペラ見てこの一年の年の暮れ
年の暮れ募金の声に挟まれリ
大書店一巡りして日記買ふ
年の瀬の光のプロムナードかな
どの花もいづれ向き向き野水仙
訃報あり昨日賀状を出せし友
極月の光の宴やルミナリエ
鎮魂の聖夜なるかなルミナリエ
異国の香添へクリスマスカード来る
下仁田の葱大年に届きたり
去年今年牛の歩みに似たれども
元旦やいつもの街の新しき
阿波の山ほんのり白き年初かな
御降の風花となる景色かな
数の子と田作あればよかりけり
子も嫁も皆揃ひたる雑煮かな
互例会終えて内輪の年始酒
街角に賑わい戻る四日早や
帰省子に持たせる土産杵の餅
つかの間の光りて冬の夕日落つ
白星は新成人の力士かな
募金箱新成人の胸にあり
墨磨つて初硯にて古端渓
子らの顔墨だらけなる書始め
丑紅と云えり濃い目にひきにけり
王義之の蘭亭をふと筆始
書初めの大書なるかな何と読む
慎重は最初の一字筆始
書初めの手本はあれど我は我
書初めに人それぞれの思ひかな
黒紋付引き締めてをり寒の紅
寒紅に白粉の白際立てり
丑紅のメーカーどこと聞く売り子
塁跡は風鳴くところ石蕗の綿
名も知らぬ野草にも花冬日向
風吹かば吹けとばかりに冬桜
ちらほらと否そこかしこ冬桜
鴨のゐる水面ばかりが光りをり
一羽来てあつと言う間に鴨の陣
ここにまた伸び放題の野水仙
前倒しして竹馬の一歩かな
竹馬に乗りて天狗の顔となる
帰省子に初電話よく掛かりをり
時勢かな初電話より初メール

2004年3月

八重椿花の盛りに落ちにけり
藪椿先に行くほど数多咲き
落ち椿太極拳の声に落つ
苔むせる青き石段八重椿
見つめても知らぬそぶりの恋の猫
耕せし畑つかの間に草萌ゆる
蝋梅や古き屋敷の窓明かり
歳時記の世界に遊び春炬燵
見つけたり囀りの主天に在り
鳥帰る小川の岸辺ざわめけり
卒業の子らの列あり昼の街
梅明かり黒き天守の聳えをり
薄氷の光れるを見て阿蘇下山
家中に春子焼きゐる香りかな
閉校の日となりにけり梅も散り
嘘まこと梅に鶯蓬餅
天空へ螺旋描きて揚げ雲雀
土手沿ひに花菜明かりのつづきけり
この家もまたこの家もさくらかな
はくれんやこの青き空ありてこそ
うかうかと大根の花の伸びにけり
菜の花やゴッホの好きな黄をこぼす
春の雨葬送の人濡らしをり
姫沙羅の芽の総立ちに真淵の碑
苗市の花の数より人の数
彼岸会の善男善女となりにけり
侘び助や一人となりし人の末
天女なる名の椿かな天に咲き
北風と太陽背中合わせかな
一句成す思案してをり日向ぼこ
嫁御よりバレンタインの日の祝ひ
仕放題気儘放題春嵐
春の虹道行く人の映えにけり
北側の玄関の花梅の花
梅咲きし空真青なり大藁屋
棟上の木槌の軽ろし日脚伸ぶ
町中の雛が雛呼び雛の壇
春の雷人それぞれの門出かな
若布刈り一族郎党浜に在り
浜茹での若布芯まで真青なり
浜で食うめかぶとろろの青さかな

2004年2月

枝の先その先々にも寒雀
柚子味噌を作り終えての柚子湯かな
寒見舞いかの人からは無かりけり
ボルシチの蕪の真つ赤や寒波来る
真二つの白菜干せる車上にも
空豆と豌豆の芽や空つ風
節分や鬼は内へと哀れめば
ヤンバルのたんかん熟れて届きたり
春近してふに訃報の続きけり
沖縄の冬を旬なり島らつきょ
風花に何時かかはりて昼の雨
立春や小川に鮠の群れてをり
春隣り川蜷少し動きけり
蕗のとう二つ三つ四つ五つ六つ
如月の新郎新婦凛として
梅一枝添へて宴の始まれリ
手造りの華燭典かな梅匂ふ
凍て返るお堀に街の明かりかな
冬晴れのなかどこまでも歩きみん
鴨遊ぶ四国三郎昼の月
七種のぺんぺん草となりにけり
冬桜頭を垂れて咲きをリぬ
大根の大根の葉に抱かれをり
うどん屋のうどんののぼり冬茜
うどん屋となりし藁家で日向ぼこ
昨日来て今日も来てをり寒雀
京へ出す室の壬生菜を選別す
生け捕りの大根の大葉切り落とす
垣間見る室の苺の殊に赤
雪の野に豌豆の芽の青さかな
初風呂やありがたきかな無事息災
一番星頭上におきて初湯かな
初風呂に手足伸ばせば宵の月

2004年1月

芹薺ふるさとの川やさしかり
初詣思ひて居りし人に会ふ
凧揚ぐる鳴門の空の青さかな
辛夷咲く武蔵野の空真青なり
日に燦と干し柿すだれ大藁屋
雪の原白鶺鴒の白異に
雪の夜の犬の遠吠え甲高し
徳島の雪は霙となりにけり
いとけなき芽枝に雪の重さかな
数の子と田作りありて事足りぬ
うかとして黴に取られし鏡餅
橙が柚子へ転がり女正月
都より河豚食べに子の帰郷
河豚食ひて友の孤舟を聞きをりぬ
寒き身を温め上手白子酒
鰭酒に酔ひける夜の星の下
九絵鍋をつつきしあとの寒昴
ひめゆりの乙女らの碑や寒の雨
早咲きの蒲公英見たり平和の碑
大寒に残波岬の海荒るる
大寒の八重岳に興ありとせん
旅はるか緋寒桜の紅淡し
登るほど咲き競ひたる桜かな
餅餅餅旧正月の街の市