今月の俳句

2003年12月

冬銀河おほひかぶさる祖谷の谷
親と子の夫婦そろひて冬銀河
妻と嫁足投げ出して囲炉裏端
無精髭剃つて勤労感謝の日
蜜蜂の羽音どこかに花八手
城の門堀も清掃年の暮れ
打ち揃ひ新郎新婦冬うらら
豆腐屋の老舗の紅葉映えにけり
湯豆腐の湯気の向こうの夕紅葉
裏道も紅葉の美しき奥嵯峨野
清水の舞台紅葉に染まりをり
金閣を映し紅葉を映す池
嵐山街騒よそに眠りをり
散り紅葉その上にまた散り紅葉
トロッコの電車より見て冬桜
遠き日の母の手白し障子貼り
貼り替えし障子に朝の光かな
菜園の大根すだれ干しにかな
大根抜き四股踏んでゐる少女かな
湖青く空また青し鰈釣り
寒風に乗りゆく鳶の高さかな
吟行句褒められし日の富士白し

2003年11月

懐かしき家に戻りて蕎麦の花
寂しさは山の端にある細き月
秋の日の入りたるあとのしじまかな
我一人照葉しばらく眺めをり
葉一枚一枚ごとの照葉かな
一匹の葉翳にしずみ冬の蝶
贅肉のついて居直る冬の人
朝の露置きし冬菜を収穫す
日を浴びて小さくて黄色冬の蝶
毎日が日曜となり冬に入る
朝寝して畳に小春日和かな
冬空の火星も見えて露天の湯
背広脱ぎ炬燵の主となりにけり
冬北斗探せば星の流れけり
墓地の道鶏頭の赤まぶしけれ
久々に布団干したり家に居り
縁側に観葉植物冬日浴び
冬耕や名もなき草の花残り
味噌汁の大根甘まし今朝の膳

2003年10月

みちのくの友より旬の秋刀魚かな
籾殻を焼きて老夫の秋暮るる
去りてまた近づく如く虫時雨
湯の町の朝の日差しに女郎花
古の栄華の跡の萩の花
藤袴傍らに花つけにけり
倒れてもなほ立ち上がり紫苑咲く
曼珠沙華畦といふ畦朱みどろに
午後からの花壇の花の映えにけり
いとけなき柿にも秋の実りかな
手を振れる母と子いまだ大稲田
粉雪の舞ふが如くに秋の蝶
田の蝗大飛翔して天にあり
鳥渡る子らの自転車ながながと
眼前にモンブランかな秋澄めり
秋日和マッターホルンも姿見せ
どんぐりを踏みて湖畔の散歩かな
静かさや光をあびて濡れ落ち葉
ジュネーブの国連にいま花芙蓉
二十年昨日の如し虫時雨

2003年9月

夕凪に音を消したる波止場かな
夏惜しむ子らの歓声宵の駅
光太夫来たりし宮殿空澄めり
琥珀の間見て来しあとの枯れ尾花
まつすぐに白の世界へななかまど
ダーチャなる菜園閉じて夏終わる
着膨れし人々の列暗き朝
餌運ぶ栗鼠に逢ひたり森静か
噴水に虹の生まれて夏離宮
鶺鴒は水の離宮の花の禽
一筋の鉄路見送る野菊かな
草枯るる地平の果ての空広し
クレムリン赤き城塞ななかまど
昼暗き越後湯沢のすすきかな
越後路や視野の果てまで稲の秋
秋の宵信号の灯のいと赤し
静かさや冬を待ちゐる親不知
籾を焼くけむり倶利伽羅峠かな
萩の花一枝挿したる山の宿
朝顔や夢二ゆかりの湯涌の湯
古都日和路地裏の花芙蓉かな
行きてなほ萩とすすきの加賀路かな
金沢の残暑猛暑と云ふべかり
残暑とは夏より暑き秋なるか
白木槿紅を差したる乙女はも
畦道の鶏頭少し残りをり
秋桜の倒れては起き楚々と咲く
秋桜や蝶も蜻蛉も子らもゐて

2003年8月

黒揚羽白き灯台守りをり
鯵釣りの棹並べるもクラス会
カンナ咲く島の校庭子らの声
突提に寝転びて見る花火かな
朝顔は今朝を限りの花ばかり
来し方もはるかとなれり蝉涼し
外つ国の朝顔花に見とれをり
赤き屋根向日葵の黄に空の青
にわとりに七面鳥に夏日かな
スイカ売りスイカの山を側らに
高き巣のコウノトリかな旅の地の
カルパチア越ゆる峠の焼きコーン
こまくさや馬の親子に逢ひにけり
夕涼み牛もあひるもともにゐて
トマト売り客を待つ間の昼寝かな
りんご売る少女の笑顔遙かへ道
花園の花おのおのの日差しかな
四方みな地平線なり夏日落つ
夏北斗アクロポリスにかかりをり
パルテノン遺跡に蝉の時雨かな
蝶のごと降りて遺跡に夏帽子
ビスタチオ実れるを見てエーゲ海
白き家ブーゲンビレアの咲き継ぎて
訃報聞く渡りの鳥の高さかな
古代史を描き出したる西日かな

2003年7月

さくらんぼお店に並ぶ頃となり
立葵家路の友を送り居て
蓮咲きてけふといふ日の始まれり
花蓮に逢ひたる今朝の散歩かな
四方山のこと忘れけり蓮の花
啄木の像にひとひら沙羅落花
山開き待ちゐる道の日差しかな
夏の草絶えて久しき家被ふ
賢治の碑在りし峠の青楓
北上は万緑のなか流れけり
鵜の棹の東京の空渡りゆく
かなぶんの急襲もあり無人駅
雨の日の片白草の白さかな
いとけなき羽に雨ふるおにやんま
紫陽花の終わりだらりと鞠垂るる
濃紫陽花いよいよ鞠を垂れにけり
鯉池の見張り面して五位の鷺
七夕の水辺の花はおおみくり
七夕や遠き日語る友とゐて
七夕の友と青春語りをり
鬼灯市水を撒く手の白さかな
朝顔の花便り待つ昨日今日

2003年6月

松の芯摘みたるあとの空青し
大西日金波残して落ちにけり
広重の菖蒲を探し菖蒲園
花菖蒲一雨ごとに輝けり
鴨の子のクロールも見て菖蒲園
花びらに雨滴を乗せて菖蒲かな
話しではいずれあやめかかきつばた
巡り来て紫が好き花あやめ
睡蓮や人まちまちに眺めをり
手長えび釣りゐる竿に西日かな
草団子外つ国人と柴又で
紫陽花の雨の矢切の渡しかな
病床の友は帰らず梅雨に入る
晴れの日も清しと思ふ額の花
鴎外の往時のままに沙羅咲けり
雨宿り泰山木の花の下

2003年5月

柿若葉若葉若葉に相染まり
帰省子を待ちて作れる鯵の寿司
蝶々は薊の棘も気にならず
鯉幟子らの遊べる大藁屋
鰻捕る老人川へ忍び足
蜆取り鷺に漁場を譲りけり
トマト茄子朝顔もあり植木市
天空へもつれもつれて揚雲雀
行きて止み行きては止みてあめんぼう
玄関に小手毬の花明かりかな
藤の花風と睦める古刹かな
白藤の花を巡りて虻と蜂
抜き捨ての人参伸びて花咲けり
水の玉小さき蓮の浮き葉にも
濃淡の殊に朱色の躑躅燃ゆ
鯉幟思ひ思ひにひるがえり
白藤や朽ちしブランコ覆ひをり
大歩危の淵の藍濃し五月鯉
有明のまた眠りけるおぼろ月
見るからにほろ酔ひ機嫌月おぼろ
還暦となりて眺むる若葉かな
遠き日の駿河しのばる新茶かな
便りより先に新茶の届きけり
旅にゐて雨傘日傘となりにけり

2003年4月

雛飾り母の形見も添へてあり
野の花を生けて客待つ雛の家
雛の間となりてかぐはし畳かな
永き日のあれやこれやと過ごしけり
春の宵女ばかりの祭りかな
ガス灯に柳の映えて出湯の街
待ちかねて彼岸桜の花の下
からくりの時計待ちゐて糸桜
人力車影を曳きゆく夜寒かな
陣取りを終へて息つく夕桜
呼び呼ばれ花見の客となりにけり
鴨帰る河畔の将棋見て立てば
子が母の手を取りてゆく土筆かな
蒲公英の穂綿を追ふて母子かな
はやばやと田を植ゑてゐるここは土佐
外つ国の友と燗酒花冷ゆる
日に散りて風に舞ひける土佐水木
菜種梅雨一息つきて幕間かな
金丸座紙燭に江戸の春見たり
芝居はね現の花の冷えて居り
野菜出荷終へたる畑の花はこべ
燕来て水田にはかに輝けり
春野菜色とりどりの朝餉かな
鯉幟風失つて日に映えて
ねぎ坊主数へる間にも増えにけり
山雀のその枝に触れ花吹雪
空港に草萌ゆる日の雲雀かな
いつか来た道たどり来て桃の花
菜の花や三日続きの晴れ間なし
梨畑平らに花の白さかな
たんぽぽや銀河の堰にゐる思ひ
縦隊の赤白黄色チューリップ
日の暮れてよりあわただし戻り鴫
大銀杏枝の先まで新芽かな
樽酒も団子も尽きて花の宴
花吹雪つむじとなりて舞いゐたり

2003年3月

絹の雨降りていよいよしだれ梅
豌豆とそら豆伸びてともに花
男坂女坂今梅見坂
湯島来て梅の見ごろの女坂
汚れなき梅見つけたり女坂
逢ひにきし梅に逢ひゐる湯島かな
青空に白より白き辛夷咲く
朝の径落ちし椿の真新し
雪割の桜の果てぞ土佐の空
茎立ちの花とりどりに朝の市
春の野の花も束ねて朝の市
凍返る街や無言の人に月
春遍路けふはどこまで行くのやら
冴え返る虚空仰ぎぬ星と月
新若布磯の香りのほとばしり

2003年2月

灯を消して老舗の宿の氷柱かな
新雪を踏みて入りたる露天の湯
冬の朝饅頭の湯気温泉(でゆ)の湯気
雪の原脱兎の跡の新しき
熱き湯に入りて眺むる雪景色
踏み出しの子らおぼつかな初スキー
雪うさぎ二つ並びて山の宿
かまくらも灯ともしてあり宵の月
暮れなずむ原爆ドーム雁の空
梅紅白安芸の宮島朱づくし
紅梅や朱塗りの塔と朱比べ
牡蠣がらの山脈築き牡蠣祭
日だまりにまんさく咲かせ藁の家
水仙も身ぶるひしたる餘寒かな
咲き競ふ梅の彼方に大藁屋
鵜も鴨も浮かべる大河水ぬるむ
料峭の煌いてゐる星座かな
薄氷踏みし手にせし遠き日や

2003年1月

霜除の蘇鉄に負傷兵をふと
家にある物も買ひたり年の暮
冬鴎皇居の堀にけふ着きぬ
はるばると天より白き年賀かな
木枯らしにマイクの音も甲高し
子ら帰り夫婦二人に五日かな
鴨放ち手に残りたる鼓動かな
生け捕れる鴨を放ちて広き空
雪だるまおきし処を探しけり
雪だるま作りたる子の雪まみれ
七日またもとの二人に戻りけり
真白なる白より白きけさの富士
満つれども暗らしと思ふ冬の月
行き帰り路面電車で初湯かな
朝市の大根白し城下町
雪被り石鎚の峰眼前に
道連れの人と眺むる初霞
冬晴れやスキップでゆく子ら二人
しんしんと背後を突ける寒波かな
白き花一つつけたり室の蘭