冬銀河おほひかぶさる祖谷の谷
親と子の夫婦そろひて冬銀河
妻と嫁足投げ出して囲炉裏端
無精髭剃つて勤労感謝の日
蜜蜂の羽音どこかに花八手
城の門堀も清掃年の暮れ
打ち揃ひ新郎新婦冬うらら
豆腐屋の老舗の紅葉映えにけり
湯豆腐の湯気の向こうの夕紅葉
裏道も紅葉の美しき奥嵯峨野
清水の舞台紅葉に染まりをり
金閣を映し紅葉を映す池
嵐山街騒よそに眠りをり
散り紅葉その上にまた散り紅葉
トロッコの電車より見て冬桜
遠き日の母の手白し障子貼り
貼り替えし障子に朝の光かな
菜園の大根すだれ干しにかな
大根抜き四股踏んでゐる少女かな
湖青く空また青し鰈釣り
寒風に乗りゆく鳶の高さかな
吟行句褒められし日の富士白し
懐かしき家に戻りて蕎麦の花
寂しさは山の端にある細き月
秋の日の入りたるあとのしじまかな
我一人照葉しばらく眺めをり
葉一枚一枚ごとの照葉かな
一匹の葉翳にしずみ冬の蝶
贅肉のついて居直る冬の人
朝の露置きし冬菜を収穫す
日を浴びて小さくて黄色冬の蝶
毎日が日曜となり冬に入る
朝寝して畳に小春日和かな
冬空の火星も見えて露天の湯
背広脱ぎ炬燵の主となりにけり
冬北斗探せば星の流れけり
墓地の道鶏頭の赤まぶしけれ
久々に布団干したり家に居り
縁側に観葉植物冬日浴び
冬耕や名もなき草の花残り
味噌汁の大根甘まし今朝の膳
みちのくの友より旬の秋刀魚かな
籾殻を焼きて老夫の秋暮るる
去りてまた近づく如く虫時雨
湯の町の朝の日差しに女郎花
古の栄華の跡の萩の花
藤袴傍らに花つけにけり
倒れてもなほ立ち上がり紫苑咲く
曼珠沙華畦といふ畦朱みどろに
午後からの花壇の花の映えにけり
いとけなき柿にも秋の実りかな
手を振れる母と子いまだ大稲田
粉雪の舞ふが如くに秋の蝶
田の蝗大飛翔して天にあり
鳥渡る子らの自転車ながながと
眼前にモンブランかな秋澄めり
秋日和マッターホルンも姿見せ
どんぐりを踏みて湖畔の散歩かな
静かさや光をあびて濡れ落ち葉
ジュネーブの国連にいま花芙蓉
二十年昨日の如し虫時雨
夕凪に音を消したる波止場かな
夏惜しむ子らの歓声宵の駅
光太夫来たりし宮殿空澄めり
琥珀の間見て来しあとの枯れ尾花
まつすぐに白の世界へななかまど
ダーチャなる菜園閉じて夏終わる
着膨れし人々の列暗き朝
餌運ぶ栗鼠に逢ひたり森静か
噴水に虹の生まれて夏離宮
鶺鴒は水の離宮の花の禽
一筋の鉄路見送る野菊かな
草枯るる地平の果ての空広し
クレムリン赤き城塞ななかまど
昼暗き越後湯沢のすすきかな
越後路や視野の果てまで稲の秋
秋の宵信号の灯のいと赤し
静かさや冬を待ちゐる親不知
籾を焼くけむり倶利伽羅峠かな
萩の花一枝挿したる山の宿
朝顔や夢二ゆかりの湯涌の湯
古都日和路地裏の花芙蓉かな
行きてなほ萩とすすきの加賀路かな
金沢の残暑猛暑と云ふべかり
残暑とは夏より暑き秋なるか
白木槿紅を差したる乙女はも
畦道の鶏頭少し残りをり
秋桜の倒れては起き楚々と咲く
秋桜や蝶も蜻蛉も子らもゐて
黒揚羽白き灯台守りをり
鯵釣りの棹並べるもクラス会
カンナ咲く島の校庭子らの声
突提に寝転びて見る花火かな
朝顔は今朝を限りの花ばかり
来し方もはるかとなれり蝉涼し
外つ国の朝顔花に見とれをり
赤き屋根向日葵の黄に空の青
にわとりに七面鳥に夏日かな
スイカ売りスイカの山を側らに
高き巣のコウノトリかな旅の地の
カルパチア越ゆる峠の焼きコーン
こまくさや馬の親子に逢ひにけり
夕涼み牛もあひるもともにゐて
トマト売り客を待つ間の昼寝かな
りんご売る少女の笑顔遙かへ道
花園の花おのおのの日差しかな
四方みな地平線なり夏日落つ
夏北斗アクロポリスにかかりをり
パルテノン遺跡に蝉の時雨かな
蝶のごと降りて遺跡に夏帽子
ビスタチオ実れるを見てエーゲ海
白き家ブーゲンビレアの咲き継ぎて
訃報聞く渡りの鳥の高さかな
古代史を描き出したる西日かな
さくらんぼお店に並ぶ頃となり
立葵家路の友を送り居て
蓮咲きてけふといふ日の始まれり
花蓮に逢ひたる今朝の散歩かな
四方山のこと忘れけり蓮の花
啄木の像にひとひら沙羅落花
山開き待ちゐる道の日差しかな
夏の草絶えて久しき家被ふ
賢治の碑在りし峠の青楓
北上は万緑のなか流れけり
鵜の棹の東京の空渡りゆく
かなぶんの急襲もあり無人駅
雨の日の片白草の白さかな
いとけなき羽に雨ふるおにやんま
紫陽花の終わりだらりと鞠垂るる
濃紫陽花いよいよ鞠を垂れにけり
鯉池の見張り面して五位の鷺
七夕の水辺の花はおおみくり
七夕や遠き日語る友とゐて
七夕の友と青春語りをり
鬼灯市水を撒く手の白さかな
朝顔の花便り待つ昨日今日
松の芯摘みたるあとの空青し
大西日金波残して落ちにけり
広重の菖蒲を探し菖蒲園
花菖蒲一雨ごとに輝けり
鴨の子のクロールも見て菖蒲園
花びらに雨滴を乗せて菖蒲かな
話しではいずれあやめかかきつばた
巡り来て紫が好き花あやめ
睡蓮や人まちまちに眺めをり
手長えび釣りゐる竿に西日かな
草団子外つ国人と柴又で
紫陽花の雨の矢切の渡しかな
病床の友は帰らず梅雨に入る
晴れの日も清しと思ふ額の花
鴎外の往時のままに沙羅咲けり
雨宿り泰山木の花の下
柿若葉若葉若葉に相染まり
帰省子を待ちて作れる鯵の寿司
蝶々は薊の棘も気にならず
鯉幟子らの遊べる大藁屋
鰻捕る老人川へ忍び足
蜆取り鷺に漁場を譲りけり
トマト茄子朝顔もあり植木市
天空へもつれもつれて揚雲雀
行きて止み行きては止みてあめんぼう
玄関に小手毬の花明かりかな
藤の花風と睦める古刹かな
白藤の花を巡りて虻と蜂
抜き捨ての人参伸びて花咲けり
水の玉小さき蓮の浮き葉にも
濃淡の殊に朱色の躑躅燃ゆ
鯉幟思ひ思ひにひるがえり
白藤や朽ちしブランコ覆ひをり
大歩危の淵の藍濃し五月鯉
有明のまた眠りけるおぼろ月
見るからにほろ酔ひ機嫌月おぼろ
還暦となりて眺むる若葉かな
遠き日の駿河しのばる新茶かな
便りより先に新茶の届きけり
旅にゐて雨傘日傘となりにけり
雛飾り母の形見も添へてあり
野の花を生けて客待つ雛の家
雛の間となりてかぐはし畳かな
永き日のあれやこれやと過ごしけり
春の宵女ばかりの祭りかな
ガス灯に柳の映えて出湯の街
待ちかねて彼岸桜の花の下
からくりの時計待ちゐて糸桜
人力車影を曳きゆく夜寒かな
陣取りを終へて息つく夕桜
呼び呼ばれ花見の客となりにけり
鴨帰る河畔の将棋見て立てば
子が母の手を取りてゆく土筆かな
蒲公英の穂綿を追ふて母子かな
はやばやと田を植ゑてゐるここは土佐
外つ国の友と燗酒花冷ゆる
日に散りて風に舞ひける土佐水木
菜種梅雨一息つきて幕間かな
金丸座紙燭に江戸の春見たり
芝居はね現の花の冷えて居り
野菜出荷終へたる畑の花はこべ
燕来て水田にはかに輝けり
春野菜色とりどりの朝餉かな
鯉幟風失つて日に映えて
ねぎ坊主数へる間にも増えにけり
山雀のその枝に触れ花吹雪
空港に草萌ゆる日の雲雀かな
いつか来た道たどり来て桃の花
菜の花や三日続きの晴れ間なし
梨畑平らに花の白さかな
たんぽぽや銀河の堰にゐる思ひ
縦隊の赤白黄色チューリップ
日の暮れてよりあわただし戻り鴫
大銀杏枝の先まで新芽かな
樽酒も団子も尽きて花の宴
花吹雪つむじとなりて舞いゐたり
絹の雨降りていよいよしだれ梅
豌豆とそら豆伸びてともに花
男坂女坂今梅見坂
湯島来て梅の見ごろの女坂
汚れなき梅見つけたり女坂
逢ひにきし梅に逢ひゐる湯島かな
青空に白より白き辛夷咲く
朝の径落ちし椿の真新し
雪割の桜の果てぞ土佐の空
茎立ちの花とりどりに朝の市
春の野の花も束ねて朝の市
凍返る街や無言の人に月
春遍路けふはどこまで行くのやら
冴え返る虚空仰ぎぬ星と月
新若布磯の香りのほとばしり
灯を消して老舗の宿の氷柱かな
新雪を踏みて入りたる露天の湯
冬の朝饅頭の湯気温泉(でゆ)の湯気
雪の原脱兎の跡の新しき
熱き湯に入りて眺むる雪景色
踏み出しの子らおぼつかな初スキー
雪うさぎ二つ並びて山の宿
かまくらも灯ともしてあり宵の月
暮れなずむ原爆ドーム雁の空
梅紅白安芸の宮島朱づくし
紅梅や朱塗りの塔と朱比べ
牡蠣がらの山脈築き牡蠣祭
日だまりにまんさく咲かせ藁の家
水仙も身ぶるひしたる餘寒かな
咲き競ふ梅の彼方に大藁屋
鵜も鴨も浮かべる大河水ぬるむ
料峭の煌いてゐる星座かな
薄氷踏みし手にせし遠き日や
霜除の蘇鉄に負傷兵をふと
家にある物も買ひたり年の暮
冬鴎皇居の堀にけふ着きぬ
はるばると天より白き年賀かな
木枯らしにマイクの音も甲高し
子ら帰り夫婦二人に五日かな
鴨放ち手に残りたる鼓動かな
生け捕れる鴨を放ちて広き空
雪だるまおきし処を探しけり
雪だるま作りたる子の雪まみれ
七日またもとの二人に戻りけり
真白なる白より白きけさの富士
満つれども暗らしと思ふ冬の月
行き帰り路面電車で初湯かな
朝市の大根白し城下町
雪被り石鎚の峰眼前に
道連れの人と眺むる初霞
冬晴れやスキップでゆく子ら二人
しんしんと背後を突ける寒波かな
白き花一つつけたり室の蘭