柊の白の極まる小さき花
山茶花の赤を包める白さかな
柔らかき光集めてお茶の花
咲きいでて庭に今年も花八手
二三粒雨滴を置きて花八手
いとけなき八手の花の雨雫
細き月冬田の水を照らしをり
自転車に乗りて来る子の息白し
短日や少年サッカー引き上げし
短日や葉書一枚出しに行く
寒風へ向きて散歩の大股に
扶桑国クリスマスツリーばかりかな
国中にジングルベルの鳴りてをり
街中が聖歌聖樹で賑へり
恩師から歌集届きて冬うらら
思ひ出を捲るにも似て年賀状
過ぎし日々あれこれ書いて年賀状
一年のたちまちに過ぎ年賀状
梢より降りくるものに鵙の声
車椅子押す夫の背の冬日かな
紅葉に混じりて松の緑かな
芝離宮水面へ桜紅葉散る
一葉ごと桜紅葉の散りゆけり
松の木の冬支度見てひと日暮る
松の木の三人がかり冬支度
真青なる東京の空ななかまど
葉一枚一枚ごとの照葉かな
芝離宮池の中なる鴨の棹
一葉落ち次の一葉を待つ静寂
日向ぼこ若者二人肩並べ
黄葉して湖畔の柳ここ無錫
水路にも冬の日こぼる蘇州かな
杭州の篠懸黄葉いま盛り
冬霞まこと墨画の西湖かな
ほの暗き堂宇に紅葉明かりかな
訪ね来し魯迅の生家片時雨
王義之の歌会の庭夕時雨
紹興酒眠れる土蔵小夜時雨
紹興の酒蔵巡りて日短
昼時雨龍の甍を濡らしをり
上海の夜の灯うるみ冬の雨
持ち込みて厚きてつさを注文す
河豚鍋の終りて尽きぬ話かな
鍋奉行打ち揃ひたり河豚と聞き
河豚食べば誰も彼もが鍋奉行
講釈をひとくさり聞き河豚料理
闇汁といふもてなしのありにけり
松の雪吊のほどよき遊びかな
真ん中に雪吊の松芝離宮
煌けるみなとみらいや街師走
コーラスや東京駅の慈善鍋
青色の満艦飾や年の暮れ
韓国は知らねど今日も沈菜鍋
北欧で買ひしセーター着ぬままに
子らの着し小さきセーター触れてみる
手荷物にセーター一つ入れておく
枯芝といえどふんわりしておりぬ
枯芝と思へどしとど濡れにけり
何事も遅れがちなリ村祭
遅れても何事もなし村祭
世話役は式服に替え祭渡御
台風の爪跡無残過疎の里
濁流の引きし河原の夕薄
被災地は如何にと思ふこの夜寒
大皿に姿鮨あり秋祭
姿鮨旨きころなり秋祭
秋祭り宵から弾む太鼓かな
赤い羽根回覧板に添へてあり
花散りし庭木に小鳥来てをりぬ
秋の鮎大振りといふほどもなく
天へ地へ林檎畑の続きをり
たはむれに噛みし林檎の硬さかな
北国は如何にと思ふ十三夜
麦飯のあつしあつしととろろ汁
松手入演歌のラジオ枝に掛け
この町も黄の悉く泡立草
柿垂れ垂れるままの大藁屋
赤いべべ着たる男児や里祭
ててんつくてんてんつくと村祭
秋入日残れる空の青さかな
みちのくは紅葉の中と便り来る
石蕗の花皇居の庭にわが庭に
山茶花の散つてをるなり紅白が
葉も幹も朱色でありし沙羅紅葉
静かさの戻れる庭に石蕗明り
吾跡川の柳堤を秋日傘
冬の蝶二羽のあと追ふ視線かな
蜜柑褒め一個いただき遠江
紅葉は木ごと枝ごと沙羅双樹
溝蕎麦の隣の花は赤のまま
椎の実を数多いただく句会かな
露けさの近江は今も湖国なり
露けしや大津は湖へ乗り出して
ちりめんに大根おろしは合えりけり
前菜に零余子ありけりけふの席
鴨饅頭大根おろしの添えてあり
丸大根のメーンディシュでありにけり
利休和え柿と蒟蒻合えりけり
緋蕪の香の物あり食進む
デザートの枸杞の実殊に赤かりし
朝飯のデザート愛媛蜜柑なり
山荘の庭にこぼるる冬日差し
紅葉してもう散つてゐる桜かな
城山の色褪せてをり石蕗の花
青空の下の浄瑠璃文化の日
野舞台に弁慶舞へり文化の日
野舞台の襖からくり秋麗
浄瑠璃を野舞台で見て文化の日
蜜柑山抜けて農村舞台かな
松茸をついつい探し土瓶蒸し
けふもまた松茸の前素通りす
時化あとの大根いずれも小振りかな
野に売れる大根少々曲がりをり
信楽の里去る古道木守柿
夕映えの瀬田の岸辺の紅葉かな
朝霧の晴れし琵琶湖や鴨の群れ
一羽来て次の一羽を待ちし鷹
全容を見せたる鷹の目と合へり
鷹渡る翼の羽紋しかと見せ
突然にさやけき天となつてをり
黒点のやがて翼に鷹渡る
雲白く凛たる翼鷹渡る
鷹渡る目と目の合ひしほどの距離
雲のごと竜のごとくに鵯渡る
鷹を待つ肩に山雀乗りにけり
雨台風海へ暴れて泥の川
街の灯の俄かにともり秋の暮
敗荷に映画アラモのシーンふと
野に咲きし秋を集めて華道展
実となりて知る朝顔の多さかな
満月や農夫の去りし畠の上
蓮の実の飛びたるあとも茎高し
暮れてなほ冬菜植えゐる老夫かな
枝にある林檎さほどに赤からず
東京の空の青さや秋深し
秋日和東京の空鳶舞へり
秋夕焼街行く人も茜色
秋夕焼東京丸の内閑か
秋の灯や東京駅の赤煉瓦
秋灯や遠き日のことおぼろげに
赤い羽根付けて背筋を伸ばしけり
軽トラに御神輿乗せて里祭
画展見て帰る小道や柿の秋
どの路地も木犀の香であふれけり
富士見ゆる品川の宿秋晴るる
秋夕焼富士の影絵を切り出せリ
空港に富士の浮かびて秋夕焼
山雀のわが手に乗りし軽さかな
総身の小さく見えて鷹渡る
琉球は近きにあらず花鬱金
五七五の道はるかなり夕薄
刈り取りしあとの田広し空広し
一睡のあともけふなり夜長し
歳時記を捲り捲りて夜長し
百日紅散りそびれたる一花かな
追ひ越して行くにも行けず秋日傘
長き夜や大著の序文読み始む
地球儀の上の船旅夜長し
露草の露草色や今朝の雨
畦道といふ畦道の曼珠沙華
朱点々里の果てまで曼珠沙華
秋遍路雨具の裾の解れをり
河口まで薄の波の寄せてをり
石狩砂丘浜茄子の実の散乱す
一瞬は天翳るほど赤とんぼ
高き天クラーク像の上にあり
鳥渡るクラーク像の差す空を
コスモスやクラーク博士縁の地
コスモスや羊のどかに草食めり
支笏湖を渡りし風や今朝の秋
ななかまどダリアに影を作り咲く
支笏より花野の道の遠かりし
燕去り空深かりし広かりし
縺れ合ひ又縺れ合ひ蜻蛉飛ぶ
椋鳥の縄張りにあり大銀杏
灯を消して虫の世界に居りにけり
一歩出て実りの秋のあふれをり
ホバリング上手塩辛蜻蛉かな
蝉時雨いつの間にやら虫時雨
暮れてなほ木槿の花の白さかな
倒れゐし稲刈るに泥まみれては
子の帰り待ちての夕餉秋高し
虫の音の澄み渡りたる夜の更けて
抜きん出て土手に一本曼珠沙華
曼珠沙華いづれの茎も天突けり
川掃除済ませて美しき曼珠沙華
地を染めしはまなすの実の真つ赤かな
見返れば光の中の花芒
芒原燈台守の歌碑一つ
クラークの像の上なる天高し
恋の町見下ろせる丘秋桜
糸蜻蛉飛びて羽音の残りけり
菱の花咲きて水面を平らにす
棹垂るる少年一人菱の花
残暑てふ言葉を忘れ北の旅
直行便残暑の中へ帰りけり
今昔こぼれんばかり天の川
このごろは干上がりて見ゆ天の川
ソーダ水花の都のカフェテラス
ソーダ水泡を見てゐる二人かな
流灯や消えてゐぬもの消えしもの
風鈴も幟も揺れて団子茶屋
朝顔や水琴窟の庭に咲く
蚊遣りせしベランダに見ゆ遠花火
遠花火音より色のかすかなり
登り窯登り終えての木槿かな
吊忍つり客待ちの古物商
庭の鉢終の棲家の金魚かな
花博のもつとも胡蝶蘭が好き
落ち着きを戻したる空花芙蓉
やはらかき風にまかせて花芙蓉
昼下がり白粉花の白さかな
語り部の代替わりして原爆忌
強きものこそやさしよ蓮白し
かなかなは寂しかりけり夕べ来る
かなかなや暑さも峠越えにけり
天花粉思い出したり稲の花
穂先まで今を盛りや稲の花
大風の吹き去りし朝稲の花
墓洗ふ子の背の丈の伸びにけり
朝採りし完熟の梨黄金色
手も足もいつの間にやら阿波踊り
阿波踊り人それぞれでありにけり
人は人我は我なり阿波踊り
高張りの提灯持ちも踊りをり
はんなりと天指す指や阿波踊り
三味と笛鉦と太鼓も阿波踊り
このあたり夾竹桃の花ばかり
片陰を辿り辿りて遠回り
ふるさとは心の中ぞモラエス忌
よしこのを運び来る風モラエス忌
モラエスの往きし通りの日傘かな
白といふ色の淡さや半夏生
雷のあとの閑かさ夕の虹
路地裏の猫眠りをりモラエス忌
リスボンははるかなりけりモラエス忌
香水は残り香にあり背中の人
コバルトの海はるかなりサングラス
ひかえめであれど艶やか牽牛花
花博の花の街にゐ蘭に蘭
花博にモネの池あり未草
日焼け顔海の男といはれけり
日焼けとは火傷のことと知りにけり
日焼けして後の祭りの日焼け止め
一風雨過ぎ去りし空赤とんぼ
ちかごろは香水売り場にも男
香水を慣れぬ手つきでつけし父
香水を選べど迷ふばかりなり
香水の文字も響きも好かりけり
落とし水落とせる水の響きなり
エーゲにゐ白の背広にサングラス
サングラスカリフォルニアの空をふと
気動車の唸り遠のき蝉暑し
梅雨晴れてハイビスカスの真つ赤かな
蜘蛛の網張りつぱなしに主見えず
省略といふを知らざり蜘蛛の網
けふもまた後の祭りの蚊遣りかな
浜木綿の咲きし港に友集ふ
サッカーの少年一人カンナ燃ゆ
虫銜えさつと消えたる蜥蜴かな
浜木綿を戸毎に咲かせここ伊島
鯵を釣る還暦の友幼な顔
海の日や子らと遊びし島の磯
夕焼けの雲浮かびたり青き空
しだれては海に消えたる花火かな
にぎはひの後の暗闇花火終ゆ
夕映えの後の大空夏北斗
日陰ほど色を増したり七変化
水張ればいつのまにやら水馬
田を植えて土砂降りの夜となりにけり
暮れてなほ花栗の香の漂へり
黴の香や雨戸閉めたる山の宿
南天の花に煌く雨滴かな
水馬ありて泉の深さ知る
台風の洗い出したる空真青
父の日の嫁の便りは「娘から」
父の日に届く似顔絵若かりし
父の日の便りに添えてさくらんぼ
水源は静かなりけり糸蜻蛉
緑陰に画架並べゐし二人はも
おのずから緑陰に道求めをり
緑陰に散歩の歩幅緩みたり
鱚釣りや遠投の背の凛々しかり
登校の子らの後ろに立葵
天守閣さつき明かりの空にあり
天守見ゆベンチ覆ひて花樗
太閤の城大きかり夏の蝶
難波津の青葉の岸辺行きし舟
日向より日陰にてよし黒揚羽
山行きを取り止めし夜の遠蛙
黒南風や月の隣に一つ星
入梅の日の雨予報外れけり
降りそうで降らぬも梅雨の一日かな
群雲を映して水田平らなり
遠蛙幕間幕間に蟇蛙
蟇蛙楽士であればベース弾き
沙羅咲きて渋民村のことをふと
料理屋の鮎まだ小振り解禁日
真白なる旧家の土塀立葵
手入れせぬ庭に今年もダリア咲く
わが庭の白百合生けて悦に入る
黴臭しとはいはねども牛歩とは
黴の香のなかの玉座や故宮院
そこかしこ香をふり撒きて栗の花
日暮れ道ふと見返れば半夏生
今朝の雨花南天の頭垂る
大雨の後の青田のそよぎなり
矢の如く燕飛びさり時化の空
田の中の墓の供華なり立葵
人参の花向日葵に劣るなり
雲一つ無き空広し梅雨休み
夏台風いつのまにやらいなくなり
葉桜を吹き抜けし風緑色
鵜の潜りひねもす眺めゐし城下
北側の常盤木落葉散りしまま
花樗雨呼ぶ色でありにけり
紅も黄も色増しにけり雨の薔薇
泰山木上に行くほど花白く
舞台はね静寂の里の遠蛙
朝の日や卯の花の白まぶしけれ
煌けり手繰れる糸の先の鱚
雨ありて紫陽花の葉の総立てり
釣りし鱚海の真珠といふ人も
はすかひに飛びし燕の腹真白
山帰来母の作りし柏餅
一階より二階へ越して更衣
着ることの無かりしものに更衣
蝦夷に見し身の丈を越す野蕗かな
山小屋の膳に蕨の添えてあり
雲取に見し春雪の大き富士
赤白黄畝縦横にチューリップ
花蕾畝を別にしチューリップ
山々を少し濡らして穀雨かな
藤咲いて老舗の客の列につく
藤の花カメラの列の上向けり
新緑の上の青空飛機一機
オカリナの楽こだませりみどりの日
木を植うる子らのスコップみどりの日
みどりの日合唱団の胸の羽根
朝採りの篭に蕗独活みどりの日
衣替え探したるとき無きものも
更衣とは捨てることなりちかごろは
天空に咲き競いたり薔薇の花
魚跳ねししぶきに濡れて花菖蒲
花菖蒲咲きし家鴨の舎のほとり
大雨の小雨となりて遠蛙
あぢさゐの鉢二つ持ち里帰り
帰郷子ら去りて二人や子供の日
母の日の母に香水初任給
たはむれに庭掃除してけふ立夏
洗濯機休む暇なし衣替え
実をつけて花をつけたり夏みかん
手に受けし常盤木落葉なほ青し
睡蓮や鯉ゆるゆると泳ぎをり
天麩羅の老舗お勧め品は鱚
仲見世の中を行きたる祭かな
夏祭り女の脛の白さかな
外つ国の子も鉢巻や夏祭り
行く春や金丸座より触れ太鼓
鼠木戸出てこんぴらの春惜しむ
蝙蝠は夕の燕といふべかり
囀りや岩場のあとの緩き坂
春の空雲取山に我立てリ
上りより下りの道のミモザかな
帰り道若葉ひときは増えてゐし
チューリップほほえみ娘てふ名札
根津に来て躑躅の山に迷ひけり
平地より崖の花かな躑躅咲く
亀戸の亀昼寝して藤の花
藤揺れてシャッターの音止まりけり
春眠を蹴飛ばして発つ登山かな
山小屋の朝は春眠とてもなく
春眠に夢も現もなかりけり
つくしんぼ二つ三つ四つ百二百
鰆売りさごしの一尾残りをリ
目一杯春椎茸の太りたる
雛飾る女系三代ここにあり
葱坊主大中小と揃ひたり
春塵の底に沈みし都かな
来てみれば杉菜ばかりとなつてゐし
城跡の馬場の広さや梅の花
溶岩の台地の上の初音かな
遠き日の花冠やうまごやし
行くほどになほ沈丁の香りかな
モスクワの教会をふと葱坊主
三ッ星の中天に在り黄砂の日
六本木ヒルズ黄砂に埋もれり
啓蟄や雀椋鳥せはしかり
剪定の鋏止まりて又鳴れり
剪定のすでに萌え出る新芽あり
自己流の剪定終はり悦に入る
花の山よりふるさとの寂とあり
爺婆の踊りも見たる花見かな
梢八分下枝三部の桜かな
少年と少女に戻り花の宴
天空に囀りのあり花に蜂
入社式新調の靴みな大き
新社員ネクタイ少し曲がりをり
沙羅の芽の一つ一つの雨滴かな
昨日今日木の芽にはかに膨らめり
はすかひにすれ違いたる燕かな
つばくらめ縦横無尽斜交いに
生命とは燃やすものなり桜花
葉ののぞく桜もありて宴終ひ
空豆の花そろひ咲き絹の雨
雨止みし夕日に映えて糸桜
しだれ咲く今宵名残の桜かな
真白なる花筵かな梨の棚
桃咲きて視野一杯に溢れをり
桃園に誓ひし人のことをふと
桃の花煙るが如く咲きにけり
芝居はね春灯の街ざわめけり
金毘羅の芝居のはねて花吹雪
鼠木戸出て夜桜の九十九折
漁火のぽつりぽつりと春の闇
いただきし筍に糠の添へてあり
朝掘りし筍飯の香りかな
八重椿花の盛りに落ちにけり
藪椿先に行くほど数多咲き
落ち椿太極拳の声に落つ
苔むせる青き石段八重椿
見つめても知らぬそぶりの恋の猫
耕せし畑つかの間に草萌ゆる
蝋梅や古き屋敷の窓明かり
歳時記の世界に遊び春炬燵
見つけたり囀りの主天に在り
鳥帰る小川の岸辺ざわめけり
卒業の子らの列あり昼の街
梅明かり黒き天守の聳えをり
薄氷の光れるを見て阿蘇下山
家中に春子焼きゐる香りかな
閉校の日となりにけり梅も散り
嘘まこと梅に鶯蓬餅
天空へ螺旋描きて揚げ雲雀
土手沿ひに花菜明かりのつづきけり
この家もまたこの家もさくらかな
はくれんやこの青き空ありてこそ
うかうかと大根の花の伸びにけり
菜の花やゴッホの好きな黄をこぼす
春の雨葬送の人濡らしをり
姫沙羅の芽の総立ちに真淵の碑
苗市の花の数より人の数
彼岸会の善男善女となりにけり
侘び助や一人となりし人の末
天女なる名の椿かな天に咲き
北風と太陽背中合わせかな
一句成す思案してをり日向ぼこ
嫁御よりバレンタインの日の祝ひ
仕放題気儘放題春嵐
春の虹道行く人の映えにけり
北側の玄関の花梅の花
梅咲きし空真青なり大藁屋
棟上の木槌の軽ろし日脚伸ぶ
町中の雛が雛呼び雛の壇
春の雷人それぞれの門出かな
若布刈り一族郎党浜に在り
浜茹での若布芯まで真青なり
浜で食うめかぶとろろの青さかな
枝の先その先々にも寒雀
柚子味噌を作り終えての柚子湯かな
寒見舞いかの人からは無かりけり
ボルシチの蕪の真つ赤や寒波来る
真二つの白菜干せる車上にも
空豆と豌豆の芽や空つ風
節分や鬼は内へと哀れめば
ヤンバルのたんかん熟れて届きたり
春近してふに訃報の続きけり
沖縄の冬を旬なり島らつきょ
風花に何時かかはりて昼の雨
立春や小川に鮠の群れてをり
春隣り川蜷少し動きけり
蕗のとう二つ三つ四つ五つ六つ
如月の新郎新婦凛として
梅一枝添へて宴の始まれリ
手造りの華燭典かな梅匂ふ
凍て返るお堀に街の明かりかな
冬晴れのなかどこまでも歩きみん
鴨遊ぶ四国三郎昼の月
七種のぺんぺん草となりにけり
冬桜頭を垂れて咲きをリぬ
大根の大根の葉に抱かれをり
うどん屋のうどんののぼり冬茜
うどん屋となりし藁家で日向ぼこ
昨日来て今日も来てをり寒雀
京へ出す室の壬生菜を選別す
生け捕りの大根の大葉切り落とす
垣間見る室の苺の殊に赤
雪の野に豌豆の芽の青さかな
初風呂やありがたきかな無事息災
一番星頭上におきて初湯かな
初風呂に手足伸ばせば宵の月
芹薺ふるさとの川やさしかり
初詣思ひて居りし人に会ふ
凧揚ぐる鳴門の空の青さかな
辛夷咲く武蔵野の空真青なり
日に燦と干し柿すだれ大藁屋
雪の原白鶺鴒の白異に
雪の夜の犬の遠吠え甲高し
徳島の雪は霙となりにけり
いとけなき芽枝に雪の重さかな
数の子と田作りありて事足りぬ
うかとして黴に取られし鏡餅
橙が柚子へ転がり女正月
都より河豚食べに子の帰郷
河豚食ひて友の孤舟を聞きをりぬ
寒き身を温め上手白子酒
鰭酒に酔ひける夜の星の下
九絵鍋をつつきしあとの寒昴
ひめゆりの乙女らの碑や寒の雨
早咲きの蒲公英見たり平和の碑
大寒に残波岬の海荒るる
大寒の八重岳に興ありとせん
旅はるか緋寒桜の紅淡し
登るほど咲き競ひたる桜かな
餅餅餅旧正月の街の市