今月の俳句

2006年12月

初霜後キャベツ白菜甘くなる
初霜と言いし程なく消えにけり
凩や阿波の鳴門を吹き曝し
凩の西方よりぞ来たる阿波
柿簾ひたすら風を待ってゐる
ミレーモネダ・ヴィンチも見て冬うらら
搦手の跡の交番花八手
一歩二歩寄るほど淡し冬桜
山茶花のほかに花なき花の庭
ボンネットまで白菜の干されあり
寄鍋のあとの雑炊また美味し
結局は自己主張して鍋奉行
鯉の餌に陣組むごとく鴨のをり
寄鍋の五人が五人鍋奉行
寄鍋のあとの雑炊取り仕切る
大銀杏黄葉一葉も動かざる
樹上も樹下も銀杏黄葉かな
散り銀杏十重に二十重に形揃へ
生きるとはすさまじきこと大冬木
生きること銀杏黄葉の明るさよ
大銀杏散りて光の庭となる
落雷の跡もはっきり銀杏散る
ボーナスに縁なき歳となりにけり
年賀状書き終え届く訃報読む
「命」とや今年の一字火事多し
冬帽子隅に置かるる男物
外出に手放さず居り冬帽子
デパートの階ごと飾り聖樹かな
ぶつ切りの骨までしゃぶり鮟鱇鍋
雪吊の松それぞれにある形
雪吊を終えたる離宮鎮もりぬ
離宮にも野生の鴨の来てをりぬ
雪吊を終えたる松の気品かな
短日や隣の大工カナダ人
見覚えの他郷の藪の笹鳴ける
どこまでも続く野の道笹子鳴く
山頂の丸き空間笹子鳴く
笹子鳴き吟行衆の忍び足
奥院の裏の竹藪笹子鳴く
咳一つ宴の視線を集めたる
煙草やめ咳の一字を忘れをり
講釈師まづおもむろに咳払ひ
咳き込めど煙草離さず居て卒寿
葬送の列の後ろに咳き込める
冬濤に向き合ってゐる親不知
冬の海能登金剛の昼暗し
まがきまでしのつく飛沫冬の海
灯台のほかは漆黒冬の海
冬の海ただ海鳴のするばかり
芝枯れて古墳の丘の丸くなる
息白し眉山一周した日ふと
雑炊に一家言持つ子らとゐて
連泊の部屋の暖房してありぬ

2006年11月

システィーナのマドンナも見て菊も見て
泡立草一本見えず大花野
欧州の旅の終りの山眠る
黄葉道ドナウに沿ひて曲がりをり
霧薄れ浮かぶ中世カレル橋
十字軍征きたる道の冬菜かな
冬耕の畑や風車のほとりまで
鬼瓦寺苑に置かれ石蕗の花
昨年もこの木この枝帰り花
蓑と笠掛けある茶室石蕗の花
冬ぬくし千両万両実の数多
帰り花息止め見れば増えにけり
梵鐘のよく鳴る日なり寺小春
文化の日甘茶振る舞ひ秘宝展
冬麗阿波法隆寺秘宝展
満月でなきをめでらる後の月
余生てふ言葉かみしめ後の月
神迎へ東京の空晴れ渡る
立冬の羽田に富士のシルエット
ぬばたまの闇の降り来て冬に入る
幸せは温かき風呂冬に入る
潮風を受けし蜜柑の甘さてふ
冬晴や天草五橋よく見えて
櫨紅葉越しに天草五橋かな
雲仙も天草も指呼冬の晴
五輪之書書きし洞窟実千両
菊花展城の櫓も塀も黒
清正の城を拝借菊花展
袴著の子等でにぎはふお城かな
鯉の餌に嘴容れる鴨家鴨
行くほどに木の実の径となりにけり
マロニエの実の音もなく降りにけり
ポツダムの歴史の街にゐて愁思
この谷戸を捨てず男等稲架作る
稲架日和農は継がぬと言ひし子の
檜葉紅葉山の半分赤みどり
土佐よりも色濃き阿波の冬紅葉
ひつじ田の緑黄緑薄緑
昨夜よりの雨にいよいよ櫨紅葉
枯れてなほ色の残れる藤袴
残る柿一つ一つを雨洗ふ
枯蔦のがんじがらめに山家の戸
塔中を抜け出て銀杏黄葉かな
大銀杏黄葉一気に舞ひ落ちぬ
栗の毬踏みしだかれて遍路道
落鮎の川に釣人らし案山子
投句箱置かれし茶屋や冬紅葉
秀衡も往き来し古道冬ざるる
近道はこごしき坂の散紅葉
親と子と孫の句碑守る大冬木
句碑守は茶屋のご亭主冬日差
虚子立子汀子の句碑や冬桜
払暁の露天の温泉石蕗黄なり
地の果ての断崖絶壁石蕗の花
弧を描く水平線や鳥渡る
海桐の実大断崖の空にあり
地の果ては海の始まり根釣人
陸果つる断崖ひよいと小鳥来る
絶壁に点々として石蕗の花
冬ぬくし南紀白浜アロエ咲く
日より濃し雨の洗ひし石蕗の花
玄関にブーゲンビリア冬の宿
冬の日のせはしき古道巡りかな
フェリー着く港暮れをり冬の旅

2006年10月

新米の飯に御根葉の一夜漬け
新米や一家団欒手巻鮨
御御御付酢橘一滴阿波の朝
御御御付茸山盛りなる山家
朝市の無花果小さくなる日毎
はやばやと桜紅葉の始まりぬ
秋霖の一と日でありぬけふも又
信濃より届く葡萄の甘さかな
完熟の香のして葡萄送らるる
新米を待ちてぼうぜの姿鮨
曲がるたび木犀の香に出会ふ路地
残る虫標高千の国境
踏み入れば邯鄲の声そこかしこ
邯鄲のそこはかとなき音色かな
邯鄲や高原の空澄み渡る
邯鄲や四国四県は山の国
逆光の尾花の原の銀の波
高原の稜線円し花芒
仮名手本遠くなりけり夢道の忌
遠き日の餡思ひ出す夢道の忌
秋耕の終りし畑に鷺烏
暮れてなほ秋耕の手の休まざる
坪庭に朝の来客小鳥来る
春眠にあらぬ秋眠小鳥鳴く
稲の株天地返しに秋耕す
稲の株もろとも鋤きて秋耕す
爽籟や阿波伊予土佐の国境
菊花展白鷺城を借り申し
自由とは自在なること秋晴るる
ブランデンブルクの門の秋澄みて
壁の無き広場ひろびろ秋うらら
壁を見し遠き日はるか秋うらら
壁を見し遠き日の宿紅葉して
終戦を議せし宮殿蔦紅葉
終戦を語りし芝の木の実かな
ポツダムにエルベの支流赤カンナ
アウトバーン花野の道の一直線
ラフアエロのマリアも菊の花壇も見
ドレスデン蘇る町菊薫る
ドレスデン昔を今に渡る鳥
二人して橡の実の道来て宿へ
踏み入りて木の実の道と知りにけり
水鳥の降りて小雨のエルベ川
ななかまど古都マイセンの田舎道
ドレスデン屋根裏部屋の冬日差
秋耕の終はりたる畑真つ平
スメタナもカフカも重し冬に入る
石畳濡らすプラハの小夜時雨
カフカゐし黄金の小路路地時雨
夕霧に中世をふとカレル橋
マント着て袖の触れ合ふカレル橋
行く秋やモノトーンなるプラハの夜
プラハからウィーンへの道霧深し
ウィーンの路上楽士や夕紅葉
ハプスブルグ家の栄枯や木の葉舞ふ
降る木の実踏みて宮殿巡りけり
明け染めしドナウに鴨の小さき陣
鴨の棹朝のドナウを渡りけり
紅葉の道行く紳士淑女かな
古城訪ふウィーンの森の冬紅葉
逍遥のウィーンの森の錦かな
楽聖の像に且つ散る紅葉かな
かの第九生まれし里の冬日かな
シューベルト住みたる旧居紅葉して
十字軍行きし山道時雨けり
ウィーンよりブラチスラバの黄葉かな
古城より霧のドナウを眺めをり
秋晴れていよいよ青きドナウかな
古館這って温泉の蔦紅葉
これはまあブタペストにて尾花かな
乗船のドナウクルーズ冬北斗
大夜景ドナウクルーズ火の恋し
中欧の古都の小春のカフェテラス
短日や古都の店みな早仕舞
短日や古都行く人の影長し

2006年9月

仰向けにライオン寝たり秋高し
象と象水かけ合うて秋暑し
空の青雲の白さや海紅豆
象の前枯れ始めをりいぼむしり
水の辺の秋始まりぬフラミンゴ
琉球のあの日あの人デイゴの花
人工の砂浜に来て浜の鴫
稲実る田毎田毎にある遅速
稲を刈る田毎田毎の収穫機
海桐の実こぼるるばかり安宅関
千代の忌に藤袴持ち来たる人
千代尼塚花野の花の手桶かな
白萩や加賀の千代女といひし人
師と弟子の八角堂に萩の花
桐の実や蔭に小さき虚子の句碑
虚子の句碑すでに苔むしちちろ虫
仰向けに寝そべる座敷藤袴
朝明けて見れば一湾牡蠣のひび
行く秋やお手玉並ぶ朝の市
此れやこの秋の輪島の蒸鮑
浜茄子は実に千里浜の海荒れて
浜茄子の残れる花の淡さかな
鴫の居る千里浜走り抜けにけり
東尋坊そそり立つ句碑鉦叩
東尋坊波濤を沖につづれさせ
耕運機掘り出す虫を追ひ小鷺
収穫の終りたる野の蕎麦の花
二重巻きして秘め事を落し文
草叢に瑠璃のこぼるる蛍草
枯れてなほ蟷螂の食してゐたり
崖覆ひ尽せし葛の小さき花
うかうかと開けずにありて落し文
論じをり芋虫頭どちらなる
毒茸我が物顔にありにけり
熊蝉の亡骸凛と枝にあり
信濃より玉蜀黍の届きけり
玉蜀黍何はさておき茹で上げる
稲を刈る瑞穂の国の稲を刈る
秋高し千三百キロのホ句の旅
霜に書くへへののもへじすぐ消へる
それぞれの花梨にありし歪かな
秋彼岸妻に逝かれし恩師訪ふ
鳶百羽阿波の伊島の天高し
秋風に乗りたる鳶の高さかな
秋天へ白き灯台そそり立つ
鶺鴒のあとついてゆく島の径
釣るまいと思へど釣れる鰯かな
湯の如く湧き出る鰯又鰯
同窓会少年となり鰯釣る
灯台とこの宿だけや夜なべの灯
雑魚寝して四方山話する夜長
阿波公方栄枯の跡地曼珠沙華
妹負ひし小さき姉や秋暮るる

2006年8月

朝まだき命尽くして蝉時雨
蝉時雨大手門より始まりぬ
東京に着きていきなり法師蝉
老夫婦肩寄せ合ひて藤袴
書を読みて考える人法師蝉
寒蝉の鳴きてやさしき日差かな
すでにして夕風夜風法師蝉
息継ぎてあと一気なる法師蝉
丸の内街路樹殊に法師蝉
武蔵野の如くに御苑法師蝉
行きよりも帰りの道の法師蝉
阿波踊クルージングの船飛鳥
踊り込む豪華客船横付けて
港まで客を出迎え阿波踊
母からの鷺草ですと嫁来る
鷺草にしばし雑事を忘れけり
玄関に鷺草の鉢置きにけり
笛と三味調子合はせて宵踊
桟敷まで身振り手振りの阿波踊
阿波踊手真似足真似俄か連
よしこのの名手は白寿阿波踊
よしこののときは静かに阿波踊
蝉時雨押しのけ野外ライブかな
かなかなや野外のライブ今終る
初孫を父母に披露の墓参かな
子も孫もひ孫も揃ひ墓参かな
大原女生みし里なり心太
三千院茶屋に一服心太
心太寂光院に小半時
番小屋の如き茶屋あり心太
常滑に窯巡りして天高し
土管坂越えていただく心太
芥子酢のほどよき加減心太
帰省子ら帰り我が家の広くなる
子ら帰り元の暮らしに星月夜
釣瓶井戸ありし昔の西瓜ふと
二人して抱へる黒部西瓜かな
カルパチアはるかなる道大西瓜
包丁に触るなり割れて大西瓜
刳り貫きて味見させたる西瓜売
子駱駝の瘤と西瓜を見比べて
大西瓜冷やし待ちゐし母のこと
水路てふ水路に西瓜郡上かな
まづ子から母はあとから西瓜食ぶ
一株に一つの西瓜西瓜園
矍鑠の日々でありたし凌霄花
星月夜冥王星は何処なる
はやばやと一風呂浴びて夜の秋
酒を子と酌み交はしゐる夜の秋
新涼に薪能なる宴かな
火を入れて能の世界となる夜長
虫時雨野外の能の宴のあと
道をしへ本堂遠くなるばかり
聞くほどに蝉ことごとく法師蝉
黒揚羽奈落の闇へ消えにけり
省略も正調もあり法師蝉
仰ぎ見る生姜の花の高さかな
よく見れば水引の花あちこちに

2006年7月

迫り出して滴る眉山モラエス忌
モラエス忌煉瓦の路地の白日傘
モラエスの旧居この辺濃紫陽花
望郷のモラエスの像夏燕
リスボンは遠し遠しとモラエス忌
ポルトガルワイン今年もモラエス忌
地球儀を回し回してモラエス忌
木洩れ日に色増しにけり額の花
色濃くて真昼の池にあさざの黄
捩花の蜜吸ふ蜂の反身かな
文字摺の花の右巻き左巻き
改めて見れば捩花こんなにも
揺れ戻ること速かりき捩花
文字摺の次々揺れて皆揺るる
葉先なほ染め残しゐて半夏生
戻り来て確めにけり花桔梗
峡の奥静かな小池羊草
上臈の入水伝説滝しぶき
上臈の身投げの滝の小さき淵
雨傘の日傘となりぬ帰り道
子らと来し公園けふは沙羅の花
遠き日の白い背広に白い靴
エナメルの白靴すべて尖りをり
白靴を履きて背筋の伸びにけり
白靴の二人スキツプして乙女
鮒鮨や食はづ嫌ひにあらねども
鮒鮨を食はむと滋賀へまかりけり
駅弁の鱒鮨旅の手土産に
向日葵やゴツホの墓の畑広し
向日葵の向きそれぞれでありにけり
向日葵の空ひろびろと白き月
実のなる木多き旧家の夏屋敷
風鈴や二層に卯建上がる町
卯建から卯建へと四手夏祭
開け放つ庄屋の屋敷青田風
端居して花梨の数を数えをり
白壁の卯建の町をひからかさ
式台を要に広し夏館
まづ背越頼む大人となりしかな
鮎雑炊今年は家族一人増え
目の前の浮巣にひよいと鳰帰る
抱卵といふは辛抱鳰浮巣
鳰乗りて浮巣の水の引き締まる
抱卵の鳰も浮巣も動かざる
抱卵の浮巣に鳰の瞬かず
抱卵の鳰の泰然自若かな
鳰巣立ち浮巣の水面弛みをり
風吹いていよよ虚ろに浮巣かな
高原に美術館あり雲の峰
蓼科の山より対し雲の峰
蓼科のビーナスライン雲の峰
三方はアルプスなりし雲の峰
七月や二本伸びたる飛行雲
伊勢志摩の海に遊びて雲の峰
日焼して日焼止めとはいまさらな
エーゲ海クルーズの人みな日焼
城山は原生の森蝉時雨
城山を乗つ取りたるか蝉時雨
忠魂碑大緑陰の真ん中に
源五郎螺旋描きて潜りけり
札所への長き山道合歓の花
結界に奈落ありけり蟻地獄
降臨の杉高かりし赤とんぼ
青きまま落ちし菩提子たなごころ
額の花瑠璃をこぼして散りにけり
全円に堂宇の真下蟻地獄

2006年6月

浜茄子の花逸り咲く御苑かな
犇めける皐月の花の小ささよ
一番花皆が眺め菖蒲園
繍綿菊にペルシャの花の刺繍ふと
紫陽花のはじめの鞠は薄緑
十薬や木陰にこぼる白々と
胡瓜もみ男の料理出来上がる
片陰を選びて歩く男かな
香水を噴き背筋を伸ばしゐる
夏帽子数少なくて男物
山法師重なる白の白さかな
山法師白の重みに耐えてゐる
こぼれゐて今またこぼる花樗
さらさららほろほろほろり樗散る
眼の下に野外劇場ほととぎす
噴水の天辺の時ゆるやかに
一巡し元の紫紺へ菖蒲園
日を浴びていよいよと朱の皐月かな
紫の中のむらさき花菖蒲
雨滴みな弾ける花の菖蒲園
水落とし本番となる菖蒲の田
晴天となりて艶増す菖蒲かな
一つ揺れ次々揺れて花菖蒲
紫は古の色菖蒲咲く
紫は晴れを呼ぶ色菖蒲垂る
皐月咲く御苑広場を乳母車
十薬の丈高けれど小さき花
卯の花の名残の白を見てをりぬ
入梅に土砂降りと言ふ日もありぬ
明易や新聞数紙完読す
明易やカーテン越しの日の光
明易やテレビニュースを二度三度
手水鉢終の棲家の目高かな
この甕の世界にこもりゐる目高
茅花長け竪穴住居奥静か
人麿の詠みたる奥社ほととぎす
木下闇抜けて石磴終はりけり
卑弥呼なる人は知らねど夏帽子
老鶯を古代の邑で聞きにけり
楊梅の空を仰ぎて磴登る
楊梅の太き根に磴たじたじと
この辺り古墳二百余ほととぎす
縄文も弥生もけふもほととぎす
古代阿波生まれし地なりほととぎす
道迷ひ蜜柑の花の香の中に
養蜂の家を訪ねて花蜜柑
どの道を来ても蜜柑の花の道
葦原の葦を頼りの浮巣かな
番ひ鳰浮巣の出来を確かめむ
番去りあとに浮巣のあるばかり
鵯の雛天辺にあり口大き
野鳥園青鷺一羽見張り番
頬白や一筆啓上仕り
梅雨晴間鵜も羽根干してをりにけり
この時期のこの川が好き鮎雑炊
まだ小振り詫びて始まる鮎料理
家族皆今年も又来て鮎料理
青竹に背越膾の鮎を盛る
解禁日訪ねて鮎のフルコース
古の高床住居芝青し
青芝の丘に竪穴住居かな
文字摺りの置きし雨滴も捩れをり
古の来し方思ふ草清水
滲み出すことに始まる草清水
ちよろちよろでいいよ涸れずば草清水
あめんぼう一直線に遁走す
見下ろして泰山木の花数ふ
脈々と生々流転草清水
雨降りてけふはお休み雨蛙
東欧の古都の朝市さくらんぼ
さくらんぼ佐藤錦を少し買ふ

2006年5月

余り苗田毎田毎の堰にあり
へなへなとして居てこれが早苗かな
田の水に溺れてをりぬ早苗かな
朝掘りの筍三つ提げて来る
猪のこと聞ゐて筍いただきぬ
筍を煮るに大鍋まかり出し
家中に筍飯の香りかな
城山の城址殊に落椿
石垣は阿波の青石花水木
ベルギーの花の市ふと群躑躅
湯上りの赤子の肌や柿若葉
走るてふ若さありけり若葉風
緋毛氈その幅に敷き花御堂
鎌倉は寺多き町花まつり
寿福寺に虚子をしのべる花御堂
子ら帰り元の静けさ藤の花
美術館夜間延長けふ立夏
雨止みて新緑いよよときめけり
凛として立てる紫あやめ草
池に影映し紫かきつばた
昇竜となり老幹に藤の花
どう見ても梅とは見えず車輪梅
天辺の殊更白し花水木
銀鱗に鮎の遡上を確かめぬ
稚鮎食ぶ外魚一網打尽せる
川の縁川の縁擦り上る鮎
魚梯へと銀鱗光らせて稚鮎
流されて流されつつも上る鮎
稚鮎食ぶ大魚野晒しされてゐし
遡上せる鮎は見えねど鵜と鷺は
目に残るマーガレットの白さかな
赤煉瓦新樹明かりによく映えて
はやばやと青田ひろびろ土佐に入る
甘藷苗山積みにして土佐の市
筍も蒟蒻寿司も土佐の市
野の市に大山蓮華土佐らしく
塩漬けのすかんぽ並ぶ土佐の市
民権を生みし土地なり土佐水木
追手門くぐり樗の花の道
在りし日の自由は死せず土佐水木
退助の像の脇まで五月晴
樟若葉して千代の像浮かび出づ
雨模様水田掠めつばくらめ
柏餅売れて粽の残りをり
遠き日の遠き思ひ出粽剥く
マロニエのパリの街ふと橡の花
橡の花ローテンブルク今昔
家中を引っ繰り返し更衣
捨つること今年も出来ず更衣
更衣いきなり白で決めてみる
干し物の満艦飾や更衣
デパートのどの階もみな更衣
更衣帽子も靴も靴下も
床屋まで混み合ふてゐる更衣
せせらぎの岩の河鹿の動かざる
目くじらを立ててゐるよな河鹿の目
目の前の河鹿の鳴くを待つてゐる
せせらぎの音より澄みて河鹿笛
河鹿鳴き止みて瀬音の高くなる
仰ぎ見て満開と知るえごの花
筧より垂るる雫や花卯木
天日をいよいよ浴びて柿若葉
白壁の出雲街道つばくらめ
美作の酒屋の土蔵つばめの巣
寅さんの最後のロケ地つばくらめ
隣組一八活ける郷土館
蒜山のいつか来た道橡の花
蒜山の朝すでにして揚雲雀
牧場に群れ咲くマーガレットかな
高原の今盛りなるななかまど
高原の朝の光に山法師
ひこばえや親子遍路を詠みし句碑
句碑守の泰山木の花待てる
封をしてどんな秘め事落し文
松蝉のひとしきり鳴き巨草句碑
紀の海の見ゆる山頂つばくらめ
山頂の句碑守なるかほととぎす
ほほとぎす又又鳴きて又鳴きて
赤よりも黄色が好きで薔薇の花
飛び越えて行く時もありあめんぼう

2006年4月

遍路道大きく離れ徒歩遍路
句友より和綴じの句集春麗
咲くほどに枝垂れて枝垂桜かな
順番に咲くとふありて桜咲く
きのふよりけふの紅好き桜咲く
木蓮のカタカナのごと散りにけり
春眠の耳に小鳥の調かな
剪定の終わりし枝の花つぼみ
白に白連ねて真白梨の花
大空を独り占めして揚雲雀
春雷に筆止まりたる句会かな
大方は長けてをりたる土筆摘む
つくづくし男の作る酢味噌和え
春嵐止みてあふるる日の光
今年またあの日と同じ花の下
約束すこの日と同じ花の下
一つ咲き牡丹祭の始まりぬ
何事もなきが如くに桜散る
桜散る遅速といふがありにけり
参道を僧登り来る桜散る
登り来て茶屋で一服花の雲
鎌倉の花の山又花の山
こぼれ来し花びら一つ虚子の墓
虚子の墓立子の墓と春の蝶
曇天となりて紅差す桜かな
洋花の混じつてをりぬ花御堂
釈迦仏も杓も小振りや花御堂
釈迦生まれ虚子逝く日なり花御堂
なみなみと注がれし甘茶もてあます
梅桜揃ひ咲きてふ虚子忌かな
寿福寺に栗鼠の来てゐる虚子忌かな
広太郎と栗鼠を見てゐる虚子忌かな
虚子の墓参り礼さる虚子忌かな
麗人に会釈されたる虚子忌かな
真打の舞台となりぬ八重桜
花蘇枋濡らす小雨でありにけり
雨の日の雨色含み花海棠
雪柳眺め疲れを忘れをり
山吹の圧倒さるる黄色かな
鎌倉の蕎麦の老舗の蕨餅
あつさりのあとこつてりと蕨餅
餅らしき粘りほどよき蕨餅
手作りの甘さを控え桜餅
手作りの少し大きめ桜餅
桜餅いただくけふの句会かな
一巡し元の牡丹に佇めり
五分咲ひて見頃といふも牡丹かな
牡丹寺即売場も混み合ひて
年寄りてなほ童顔のチューリップ
直立の色の多彩にチューリップ
原色の行進のごとチューリップ
花屑の溜まり場にして金丸座
花屑の道の果てなる金丸座
鼠木戸頭を下げて入る花の冷
勘平もおかるもいとし八重桜
芝居はね帰るさぬき路風光る
残る鴨独り占めしてゐるプール
水張ればはや来てをりぬ通し鴨
巣作りの燕うれしや過疎の村
菜の花のなほ盛りなる山家かな
つばくらめ枝垂れ柳を斜交ひに
つばくらめ温泉の町に逗留す
満天星の花煌めける空の青
美濃田なる淵の藍濃し岩躑躅
虚子立子墓参の道の春日傘
春日傘和服の人に会釈され
籾の灰まぶし苗代出来上がる
大振りの蓬餅出て野の札所
無縁墓天保の文字金鳳花
いろは順寄進の碑銘金鳳花
草刈つて土手たんぽぽの原となる
かがみ見る十二単のすみれ色
揚雲雀落雲雀又揚雲雀
雲雀野の真ん中の森札所かな

2006年3月

春立つ日川面に踊る光かな
きらきららきらりきらきら春立ぬ
ゲルマンの古都の花屋の猫柳
触れてみて又触れてみる猫柳
北風へ向ふ一歩の前のめり
白球を追ふ子らまぶし日脚伸ぶ
校庭にはずむ歓声日脚伸ぶ
小流れに沿ひて点々蕗の薹
せせらぎの真ん中の岩蕗の薹
梅林を一回りして初音聞く
段畑の石垣高し野水仙
せせらぎは琴の調を花山葵
梅林の果てし流れや花山葵
山茱萸を活けて寺苑の句会かな
句会場山茱萸活けてありにけり
まだ蕾なれど紅梅紅ほのか
君子蘭咲き初む朝の金メダル
君子蘭咲いて明るき居間となる
山の湯の帰途の道々残る雪
残る雪半分はもう氷かな
大方は泥にまみれて残る雪
影といふ地名のありて残る雪
薔薇の芽のなべて紅差すあしたかな
紅梅の花の蕾のまろさかな
梅の香を独り占めしてゐる至福
梅の香を運びし風のありにけり
紅白の梅にておしべ黄金色
会釈して知らぬ同士の梅見かな
しだれ梅しだれて春の雪しまく
山茱萸の花の明かりの狭庭かな
築山のふもとの水辺黄水仙
沈丁花咲いて水際静かなり
散らばりて又固まりていぬふぐり
しだれ梅身じろぎもせず側に人
消防のヘリも出動枯野焼く
野次馬に火の粉降り来る野焼かな
天花粉まはせるごとく春の雪
風吹かば風に消されて春の雪
山々に濃淡のあり春の雪
つかのまの雪明りして春の雪
天辺はもう解けてゐる春の雪
渋滞の列の尾にゐて春の雪
超多忙交通巡査春の雪
始発便空席目立つ春の雪
白酒や竹の徳利に竹の杯
白酒をつい過ごしたる嬉しき日
茎立ちの花を束ねて朝の市
茎立ちて野菜の畑の花畑
耕せし土ほのぼのと山笑ふ
奥谷戸に日差し届きて山笑ふ
蜂須賀の花のほどよき色加減
蜂須賀の昔を今の花見かな
蜂須賀の殿の形見の桜咲く
茶を立てて桜一本皆で観る
灯の入りていよよ艶ます桜かな
オリオンの三ツ星下の花の宴
夜桜の真上にありしオリオン座
早咲きといふ嬉しさの花見かな
バチカンに植えし蜂須賀桜ふと
鴨帰り川面波紋のあるばかり
広き川我が物顔に残る鴨
我が植えし蜂須賀桜咲ける朝
うつ伏せの又仰向けの落椿
石段は阿波の青石落椿
木蓮は先の先までまだ蕾
雨の日の木蓮の白ほんのりと
一雨に薔薇の芽すくと伸びにけり
茎も葉も朱勝ちと云へり春の薔薇
城山に登る裏道花山葵

2006年2月

初旅に上野のパンダ見て居たる
バイエルに戻りピアノの寒稽古
寒灯の煉瓦の街の靴の音
白といふ色のはかなさ冬桜
塁跡の内は風なき野水仙
境内の日溜りにゐて水仙花
鴨飛来二陣三陣続きたる
笹鳴に戻りてみれどそれつきり
鴨飛べり一直線に伸びし首
天空に鳶を貼り付け北下し
木守柿雪置きて紅差せること
色と香をまづいただきてあをさ汁
灯籠に灯を入れ茶屋の雪見かな
舌焦がす甘酒もあり雪見酒
ピラカンサの赤の極まる今朝の雪
一輪といえど蝋梅匂ひ来し
冬北斗折れ曲がりをり通夜終はる
遺骨抱き雪の道又雪の道
葬送の武蔵野の道雪の富士
やはらかき光遊ばせ春の川
蝋梅の花よ蕾よ空の青
八角の堂の裏なる寒の梅
梅二三輪の彩り遍路道
葉を抜けて紅競ひたる実南天
一歩づつ蝋梅の香に近づきぬ
大方は未だ蕾の梅見かな
探梅や同じところを二度三度
送別の言葉の途切れ梅の花
送別の宴終はりけり梅の花
送る人送らるる人梅の花
ニン月に転勤といふ宮仕え
日当たりて蝋梅いよよ膨らめる
蝋梅の花花花と咲きにけり
探梅の後の味噌汁うまかりし
立春の四国三郎煌めけり
淡路見ゆ丘に満作ほころびて
蝋梅の花の香りのまろさかな
蝋梅の花見といふをいたしをり
吟行にマスクが二三春の風邪
門閉じてがらんどうなり春の風邪
マスクしてマスクに会釈春の風邪
けふはだだ泣きゐるばかり恋の猫
春節は日本に帰り寝正月
教えられ旧正月と知りにけり
東京に青き海あり海苔のひび
舟の道一筋残し海苔のひび
満作の黄の散らばれる空真青
日溜りを教えてをりぬ梅の花
三椏の花の先なる一滴
真紅なるこの実何の実梅もどき
梅祭幟一杯花一輪
老木を貫く生命梅の花
鉢植えは樹齢百年梅祭
本堂に鉢植えずらり梅祭
着膨れに占領されしバスの席
菱形にひしやげてゆきし霜柱
霜柱踏んで子供になつてをり
ガリバーの如きわが影日脚伸ぶ
ぢつと待つことも知らねば梅蕾
天めざす蕾ばかりや梅の花
日当りてぱつと咲きたる梅の花
老ひし木の間に若木梅の園
日当りてにはかに増えし梅の花
老梅にみなぎる生命開花の日
チヨコ三つ机上にバレンタインの日
ベルギーの旅ふとバレンタインの日
日当りの席より埋まる二月かな

2006年1月

雑炊や終はりよければ全てよく
雑炊のために蟹鍋作りけり
行儀よく雑炊待てる男かな
雑炊を作る手際に見とれをり
値上れる苺のニュースけふ聖夜
特設のケーキ売り場やけふ聖夜
音澄める北極圏のクリスマス
夜長き北の都のクリスマス
病院の各階にある聖樹かな
昼間から灯のつくツリーけふ聖夜
門松の位置に聖樹を置く蕎麦屋
青首のぶるぶるぶると飛び立てり
番かもつかず離れず飛びし鴨
鴨立てりぶつかりそうでぶつからず
鴨飛べる空大きかり大きかり
鴨浮寝我も転寝土手小春
潜りたる位置よりはるかかいつぶり
餅つきの息の合ひたる速さかな
ポインセチア赤の溢るるロビーかな
どうしても足早となる年の暮
ぶつかつて着膨れ同士南京路
上海は赤の光の好きな街
初詣右も左も家族連れ
姪来り結婚の報初日かな
一族の来訪続き二日早や
客帰りいよよ内輪の新年会
ワインありビール屠蘇あり三が日
熱燗を差して差されてゐる親子
遠きより帰りたる子とまづ雑煮
全快の様子こまごま年賀状
年賀状眺め一日暮れにけり
真白なる紀伊の山越へ初旅に
初旅の山河ひときは澄みにけり
仰け反つて勢ひつけてかいつぶり
塔守にまかり出でたる初鴉
鷺鴎追ひ出してゐる鴨の陣
鳰潜り銀色となる羽毛かな
鳰潜る水蹴る足の忙しく
不忍の池乗つ取りて鴨の陣
振り返り見れば大綿消えてをり
綿虫の舞へる水辺の屋台かな
寒灯の煉瓦の歩道行きし人
寒灯の馬車道二人肩寄せて
寒灯のひときは赤き夜半かな
吹き抜けのロビーに咲きし餅の花
寒稽古せんとゴルフに誘わるる
煮凝りの敬遠される寒さかな
煮凝りを作らんとせず煮凝れる
初場所の新大関の大一番
買初めの日本橋までまかりけり
饂飩屋の二階は静か初句会
健康といふありがたさ初句会
初句会少し早めに終わりけり
新年会顔ぶれ少し変わりをり
大方はスピーチ聞かず新年会
新年会人気は鮨と祖谷の蕎麦
三度目の賀詞棒読みし新年会