初霜後キャベツ白菜甘くなる
初霜と言いし程なく消えにけり
凩や阿波の鳴門を吹き曝し
凩の西方よりぞ来たる阿波
柿簾ひたすら風を待ってゐる
ミレーモネダ・ヴィンチも見て冬うらら
搦手の跡の交番花八手
一歩二歩寄るほど淡し冬桜
山茶花のほかに花なき花の庭
ボンネットまで白菜の干されあり
寄鍋のあとの雑炊また美味し
結局は自己主張して鍋奉行
鯉の餌に陣組むごとく鴨のをり
寄鍋の五人が五人鍋奉行
寄鍋のあとの雑炊取り仕切る
大銀杏黄葉一葉も動かざる
樹上も樹下も銀杏黄葉かな
散り銀杏十重に二十重に形揃へ
生きるとはすさまじきこと大冬木
生きること銀杏黄葉の明るさよ
大銀杏散りて光の庭となる
落雷の跡もはっきり銀杏散る
ボーナスに縁なき歳となりにけり
年賀状書き終え届く訃報読む
「命」とや今年の一字火事多し
冬帽子隅に置かるる男物
外出に手放さず居り冬帽子
デパートの階ごと飾り聖樹かな
ぶつ切りの骨までしゃぶり鮟鱇鍋
雪吊の松それぞれにある形
雪吊を終えたる離宮鎮もりぬ
離宮にも野生の鴨の来てをりぬ
雪吊を終えたる松の気品かな
短日や隣の大工カナダ人
見覚えの他郷の藪の笹鳴ける
どこまでも続く野の道笹子鳴く
山頂の丸き空間笹子鳴く
笹子鳴き吟行衆の忍び足
奥院の裏の竹藪笹子鳴く
咳一つ宴の視線を集めたる
煙草やめ咳の一字を忘れをり
講釈師まづおもむろに咳払ひ
咳き込めど煙草離さず居て卒寿
葬送の列の後ろに咳き込める
冬濤に向き合ってゐる親不知
冬の海能登金剛の昼暗し
まがきまでしのつく飛沫冬の海
灯台のほかは漆黒冬の海
冬の海ただ海鳴のするばかり
芝枯れて古墳の丘の丸くなる
息白し眉山一周した日ふと
雑炊に一家言持つ子らとゐて
連泊の部屋の暖房してありぬ
システィーナのマドンナも見て菊も見て
泡立草一本見えず大花野
欧州の旅の終りの山眠る
黄葉道ドナウに沿ひて曲がりをり
霧薄れ浮かぶ中世カレル橋
十字軍征きたる道の冬菜かな
冬耕の畑や風車のほとりまで
鬼瓦寺苑に置かれ石蕗の花
昨年もこの木この枝帰り花
蓑と笠掛けある茶室石蕗の花
冬ぬくし千両万両実の数多
帰り花息止め見れば増えにけり
梵鐘のよく鳴る日なり寺小春
文化の日甘茶振る舞ひ秘宝展
冬麗阿波法隆寺秘宝展
満月でなきをめでらる後の月
余生てふ言葉かみしめ後の月
神迎へ東京の空晴れ渡る
立冬の羽田に富士のシルエット
ぬばたまの闇の降り来て冬に入る
幸せは温かき風呂冬に入る
潮風を受けし蜜柑の甘さてふ
冬晴や天草五橋よく見えて
櫨紅葉越しに天草五橋かな
雲仙も天草も指呼冬の晴
五輪之書書きし洞窟実千両
菊花展城の櫓も塀も黒
清正の城を拝借菊花展
袴著の子等でにぎはふお城かな
鯉の餌に嘴容れる鴨家鴨
行くほどに木の実の径となりにけり
マロニエの実の音もなく降りにけり
ポツダムの歴史の街にゐて愁思
この谷戸を捨てず男等稲架作る
稲架日和農は継がぬと言ひし子の
檜葉紅葉山の半分赤みどり
土佐よりも色濃き阿波の冬紅葉
ひつじ田の緑黄緑薄緑
昨夜よりの雨にいよいよ櫨紅葉
枯れてなほ色の残れる藤袴
残る柿一つ一つを雨洗ふ
枯蔦のがんじがらめに山家の戸
塔中を抜け出て銀杏黄葉かな
大銀杏黄葉一気に舞ひ落ちぬ
栗の毬踏みしだかれて遍路道
落鮎の川に釣人らし案山子
投句箱置かれし茶屋や冬紅葉
秀衡も往き来し古道冬ざるる
近道はこごしき坂の散紅葉
親と子と孫の句碑守る大冬木
句碑守は茶屋のご亭主冬日差
虚子立子汀子の句碑や冬桜
払暁の露天の温泉石蕗黄なり
地の果ての断崖絶壁石蕗の花
弧を描く水平線や鳥渡る
海桐の実大断崖の空にあり
地の果ては海の始まり根釣人
陸果つる断崖ひよいと小鳥来る
絶壁に点々として石蕗の花
冬ぬくし南紀白浜アロエ咲く
日より濃し雨の洗ひし石蕗の花
玄関にブーゲンビリア冬の宿
冬の日のせはしき古道巡りかな
フェリー着く港暮れをり冬の旅
新米の飯に御根葉の一夜漬け
新米や一家団欒手巻鮨
御御御付酢橘一滴阿波の朝
御御御付茸山盛りなる山家
朝市の無花果小さくなる日毎
はやばやと桜紅葉の始まりぬ
秋霖の一と日でありぬけふも又
信濃より届く葡萄の甘さかな
完熟の香のして葡萄送らるる
新米を待ちてぼうぜの姿鮨
曲がるたび木犀の香に出会ふ路地
残る虫標高千の国境
踏み入れば邯鄲の声そこかしこ
邯鄲のそこはかとなき音色かな
邯鄲や高原の空澄み渡る
邯鄲や四国四県は山の国
逆光の尾花の原の銀の波
高原の稜線円し花芒
仮名手本遠くなりけり夢道の忌
遠き日の餡思ひ出す夢道の忌
秋耕の終りし畑に鷺烏
暮れてなほ秋耕の手の休まざる
坪庭に朝の来客小鳥来る
春眠にあらぬ秋眠小鳥鳴く
稲の株天地返しに秋耕す
稲の株もろとも鋤きて秋耕す
爽籟や阿波伊予土佐の国境
菊花展白鷺城を借り申し
自由とは自在なること秋晴るる
ブランデンブルクの門の秋澄みて
壁の無き広場ひろびろ秋うらら
壁を見し遠き日はるか秋うらら
壁を見し遠き日の宿紅葉して
終戦を議せし宮殿蔦紅葉
終戦を語りし芝の木の実かな
ポツダムにエルベの支流赤カンナ
アウトバーン花野の道の一直線
ラフアエロのマリアも菊の花壇も見
ドレスデン蘇る町菊薫る
ドレスデン昔を今に渡る鳥
二人して橡の実の道来て宿へ
踏み入りて木の実の道と知りにけり
水鳥の降りて小雨のエルベ川
ななかまど古都マイセンの田舎道
ドレスデン屋根裏部屋の冬日差
秋耕の終はりたる畑真つ平
スメタナもカフカも重し冬に入る
石畳濡らすプラハの小夜時雨
カフカゐし黄金の小路路地時雨
夕霧に中世をふとカレル橋
マント着て袖の触れ合ふカレル橋
行く秋やモノトーンなるプラハの夜
プラハからウィーンへの道霧深し
ウィーンの路上楽士や夕紅葉
ハプスブルグ家の栄枯や木の葉舞ふ
降る木の実踏みて宮殿巡りけり
明け染めしドナウに鴨の小さき陣
鴨の棹朝のドナウを渡りけり
紅葉の道行く紳士淑女かな
古城訪ふウィーンの森の冬紅葉
逍遥のウィーンの森の錦かな
楽聖の像に且つ散る紅葉かな
かの第九生まれし里の冬日かな
シューベルト住みたる旧居紅葉して
十字軍行きし山道時雨けり
ウィーンよりブラチスラバの黄葉かな
古城より霧のドナウを眺めをり
秋晴れていよいよ青きドナウかな
古館這って温泉の蔦紅葉
これはまあブタペストにて尾花かな
乗船のドナウクルーズ冬北斗
大夜景ドナウクルーズ火の恋し
中欧の古都の小春のカフェテラス
短日や古都の店みな早仕舞
短日や古都行く人の影長し
仰向けにライオン寝たり秋高し
象と象水かけ合うて秋暑し
空の青雲の白さや海紅豆
象の前枯れ始めをりいぼむしり
水の辺の秋始まりぬフラミンゴ
琉球のあの日あの人デイゴの花
人工の砂浜に来て浜の鴫
稲実る田毎田毎にある遅速
稲を刈る田毎田毎の収穫機
海桐の実こぼるるばかり安宅関
千代の忌に藤袴持ち来たる人
千代尼塚花野の花の手桶かな
白萩や加賀の千代女といひし人
師と弟子の八角堂に萩の花
桐の実や蔭に小さき虚子の句碑
虚子の句碑すでに苔むしちちろ虫
仰向けに寝そべる座敷藤袴
朝明けて見れば一湾牡蠣のひび
行く秋やお手玉並ぶ朝の市
此れやこの秋の輪島の蒸鮑
浜茄子は実に千里浜の海荒れて
浜茄子の残れる花の淡さかな
鴫の居る千里浜走り抜けにけり
東尋坊そそり立つ句碑鉦叩
東尋坊波濤を沖につづれさせ
耕運機掘り出す虫を追ひ小鷺
収穫の終りたる野の蕎麦の花
二重巻きして秘め事を落し文
草叢に瑠璃のこぼるる蛍草
枯れてなほ蟷螂の食してゐたり
崖覆ひ尽せし葛の小さき花
うかうかと開けずにありて落し文
論じをり芋虫頭どちらなる
毒茸我が物顔にありにけり
熊蝉の亡骸凛と枝にあり
信濃より玉蜀黍の届きけり
玉蜀黍何はさておき茹で上げる
稲を刈る瑞穂の国の稲を刈る
秋高し千三百キロのホ句の旅
霜に書くへへののもへじすぐ消へる
それぞれの花梨にありし歪かな
秋彼岸妻に逝かれし恩師訪ふ
鳶百羽阿波の伊島の天高し
秋風に乗りたる鳶の高さかな
秋天へ白き灯台そそり立つ
鶺鴒のあとついてゆく島の径
釣るまいと思へど釣れる鰯かな
湯の如く湧き出る鰯又鰯
同窓会少年となり鰯釣る
灯台とこの宿だけや夜なべの灯
雑魚寝して四方山話する夜長
阿波公方栄枯の跡地曼珠沙華
妹負ひし小さき姉や秋暮るる
朝まだき命尽くして蝉時雨
蝉時雨大手門より始まりぬ
東京に着きていきなり法師蝉
老夫婦肩寄せ合ひて藤袴
書を読みて考える人法師蝉
寒蝉の鳴きてやさしき日差かな
すでにして夕風夜風法師蝉
息継ぎてあと一気なる法師蝉
丸の内街路樹殊に法師蝉
武蔵野の如くに御苑法師蝉
行きよりも帰りの道の法師蝉
阿波踊クルージングの船飛鳥
踊り込む豪華客船横付けて
港まで客を出迎え阿波踊
母からの鷺草ですと嫁来る
鷺草にしばし雑事を忘れけり
玄関に鷺草の鉢置きにけり
笛と三味調子合はせて宵踊
桟敷まで身振り手振りの阿波踊
阿波踊手真似足真似俄か連
よしこのの名手は白寿阿波踊
よしこののときは静かに阿波踊
蝉時雨押しのけ野外ライブかな
かなかなや野外のライブ今終る
初孫を父母に披露の墓参かな
子も孫もひ孫も揃ひ墓参かな
大原女生みし里なり心太
三千院茶屋に一服心太
心太寂光院に小半時
番小屋の如き茶屋あり心太
常滑に窯巡りして天高し
土管坂越えていただく心太
芥子酢のほどよき加減心太
帰省子ら帰り我が家の広くなる
子ら帰り元の暮らしに星月夜
釣瓶井戸ありし昔の西瓜ふと
二人して抱へる黒部西瓜かな
カルパチアはるかなる道大西瓜
包丁に触るなり割れて大西瓜
刳り貫きて味見させたる西瓜売
子駱駝の瘤と西瓜を見比べて
大西瓜冷やし待ちゐし母のこと
水路てふ水路に西瓜郡上かな
まづ子から母はあとから西瓜食ぶ
一株に一つの西瓜西瓜園
矍鑠の日々でありたし凌霄花
星月夜冥王星は何処なる
はやばやと一風呂浴びて夜の秋
酒を子と酌み交はしゐる夜の秋
新涼に薪能なる宴かな
火を入れて能の世界となる夜長
虫時雨野外の能の宴のあと
道をしへ本堂遠くなるばかり
聞くほどに蝉ことごとく法師蝉
黒揚羽奈落の闇へ消えにけり
省略も正調もあり法師蝉
仰ぎ見る生姜の花の高さかな
よく見れば水引の花あちこちに
迫り出して滴る眉山モラエス忌
モラエス忌煉瓦の路地の白日傘
モラエスの旧居この辺濃紫陽花
望郷のモラエスの像夏燕
リスボンは遠し遠しとモラエス忌
ポルトガルワイン今年もモラエス忌
地球儀を回し回してモラエス忌
木洩れ日に色増しにけり額の花
色濃くて真昼の池にあさざの黄
捩花の蜜吸ふ蜂の反身かな
文字摺の花の右巻き左巻き
改めて見れば捩花こんなにも
揺れ戻ること速かりき捩花
文字摺の次々揺れて皆揺るる
葉先なほ染め残しゐて半夏生
戻り来て確めにけり花桔梗
峡の奥静かな小池羊草
上臈の入水伝説滝しぶき
上臈の身投げの滝の小さき淵
雨傘の日傘となりぬ帰り道
子らと来し公園けふは沙羅の花
遠き日の白い背広に白い靴
エナメルの白靴すべて尖りをり
白靴を履きて背筋の伸びにけり
白靴の二人スキツプして乙女
鮒鮨や食はづ嫌ひにあらねども
鮒鮨を食はむと滋賀へまかりけり
駅弁の鱒鮨旅の手土産に
向日葵やゴツホの墓の畑広し
向日葵の向きそれぞれでありにけり
向日葵の空ひろびろと白き月
実のなる木多き旧家の夏屋敷
風鈴や二層に卯建上がる町
卯建から卯建へと四手夏祭
開け放つ庄屋の屋敷青田風
端居して花梨の数を数えをり
白壁の卯建の町をひからかさ
式台を要に広し夏館
まづ背越頼む大人となりしかな
鮎雑炊今年は家族一人増え
目の前の浮巣にひよいと鳰帰る
抱卵といふは辛抱鳰浮巣
鳰乗りて浮巣の水の引き締まる
抱卵の鳰も浮巣も動かざる
抱卵の浮巣に鳰の瞬かず
抱卵の鳰の泰然自若かな
鳰巣立ち浮巣の水面弛みをり
風吹いていよよ虚ろに浮巣かな
高原に美術館あり雲の峰
蓼科の山より対し雲の峰
蓼科のビーナスライン雲の峰
三方はアルプスなりし雲の峰
七月や二本伸びたる飛行雲
伊勢志摩の海に遊びて雲の峰
日焼して日焼止めとはいまさらな
エーゲ海クルーズの人みな日焼
城山は原生の森蝉時雨
城山を乗つ取りたるか蝉時雨
忠魂碑大緑陰の真ん中に
源五郎螺旋描きて潜りけり
札所への長き山道合歓の花
結界に奈落ありけり蟻地獄
降臨の杉高かりし赤とんぼ
青きまま落ちし菩提子たなごころ
額の花瑠璃をこぼして散りにけり
全円に堂宇の真下蟻地獄
浜茄子の花逸り咲く御苑かな
犇めける皐月の花の小ささよ
一番花皆が眺め菖蒲園
繍綿菊にペルシャの花の刺繍ふと
紫陽花のはじめの鞠は薄緑
十薬や木陰にこぼる白々と
胡瓜もみ男の料理出来上がる
片陰を選びて歩く男かな
香水を噴き背筋を伸ばしゐる
夏帽子数少なくて男物
山法師重なる白の白さかな
山法師白の重みに耐えてゐる
こぼれゐて今またこぼる花樗
さらさららほろほろほろり樗散る
眼の下に野外劇場ほととぎす
噴水の天辺の時ゆるやかに
一巡し元の紫紺へ菖蒲園
日を浴びていよいよと朱の皐月かな
紫の中のむらさき花菖蒲
雨滴みな弾ける花の菖蒲園
水落とし本番となる菖蒲の田
晴天となりて艶増す菖蒲かな
一つ揺れ次々揺れて花菖蒲
紫は古の色菖蒲咲く
紫は晴れを呼ぶ色菖蒲垂る
皐月咲く御苑広場を乳母車
十薬の丈高けれど小さき花
卯の花の名残の白を見てをりぬ
入梅に土砂降りと言ふ日もありぬ
明易や新聞数紙完読す
明易やカーテン越しの日の光
明易やテレビニュースを二度三度
手水鉢終の棲家の目高かな
この甕の世界にこもりゐる目高
茅花長け竪穴住居奥静か
人麿の詠みたる奥社ほととぎす
木下闇抜けて石磴終はりけり
卑弥呼なる人は知らねど夏帽子
老鶯を古代の邑で聞きにけり
楊梅の空を仰ぎて磴登る
楊梅の太き根に磴たじたじと
この辺り古墳二百余ほととぎす
縄文も弥生もけふもほととぎす
古代阿波生まれし地なりほととぎす
道迷ひ蜜柑の花の香の中に
養蜂の家を訪ねて花蜜柑
どの道を来ても蜜柑の花の道
葦原の葦を頼りの浮巣かな
番ひ鳰浮巣の出来を確かめむ
番去りあとに浮巣のあるばかり
鵯の雛天辺にあり口大き
野鳥園青鷺一羽見張り番
頬白や一筆啓上仕り
梅雨晴間鵜も羽根干してをりにけり
この時期のこの川が好き鮎雑炊
まだ小振り詫びて始まる鮎料理
家族皆今年も又来て鮎料理
青竹に背越膾の鮎を盛る
解禁日訪ねて鮎のフルコース
古の高床住居芝青し
青芝の丘に竪穴住居かな
文字摺りの置きし雨滴も捩れをり
古の来し方思ふ草清水
滲み出すことに始まる草清水
ちよろちよろでいいよ涸れずば草清水
あめんぼう一直線に遁走す
見下ろして泰山木の花数ふ
脈々と生々流転草清水
雨降りてけふはお休み雨蛙
東欧の古都の朝市さくらんぼ
さくらんぼ佐藤錦を少し買ふ
余り苗田毎田毎の堰にあり
へなへなとして居てこれが早苗かな
田の水に溺れてをりぬ早苗かな
朝掘りの筍三つ提げて来る
猪のこと聞ゐて筍いただきぬ
筍を煮るに大鍋まかり出し
家中に筍飯の香りかな
城山の城址殊に落椿
石垣は阿波の青石花水木
ベルギーの花の市ふと群躑躅
湯上りの赤子の肌や柿若葉
走るてふ若さありけり若葉風
緋毛氈その幅に敷き花御堂
鎌倉は寺多き町花まつり
寿福寺に虚子をしのべる花御堂
子ら帰り元の静けさ藤の花
美術館夜間延長けふ立夏
雨止みて新緑いよよときめけり
凛として立てる紫あやめ草
池に影映し紫かきつばた
昇竜となり老幹に藤の花
どう見ても梅とは見えず車輪梅
天辺の殊更白し花水木
銀鱗に鮎の遡上を確かめぬ
稚鮎食ぶ外魚一網打尽せる
川の縁川の縁擦り上る鮎
魚梯へと銀鱗光らせて稚鮎
流されて流されつつも上る鮎
稚鮎食ぶ大魚野晒しされてゐし
遡上せる鮎は見えねど鵜と鷺は
目に残るマーガレットの白さかな
赤煉瓦新樹明かりによく映えて
はやばやと青田ひろびろ土佐に入る
甘藷苗山積みにして土佐の市
筍も蒟蒻寿司も土佐の市
野の市に大山蓮華土佐らしく
塩漬けのすかんぽ並ぶ土佐の市
民権を生みし土地なり土佐水木
追手門くぐり樗の花の道
在りし日の自由は死せず土佐水木
退助の像の脇まで五月晴
樟若葉して千代の像浮かび出づ
雨模様水田掠めつばくらめ
柏餅売れて粽の残りをり
遠き日の遠き思ひ出粽剥く
マロニエのパリの街ふと橡の花
橡の花ローテンブルク今昔
家中を引っ繰り返し更衣
捨つること今年も出来ず更衣
更衣いきなり白で決めてみる
干し物の満艦飾や更衣
デパートのどの階もみな更衣
更衣帽子も靴も靴下も
床屋まで混み合ふてゐる更衣
せせらぎの岩の河鹿の動かざる
目くじらを立ててゐるよな河鹿の目
目の前の河鹿の鳴くを待つてゐる
せせらぎの音より澄みて河鹿笛
河鹿鳴き止みて瀬音の高くなる
仰ぎ見て満開と知るえごの花
筧より垂るる雫や花卯木
天日をいよいよ浴びて柿若葉
白壁の出雲街道つばくらめ
美作の酒屋の土蔵つばめの巣
寅さんの最後のロケ地つばくらめ
隣組一八活ける郷土館
蒜山のいつか来た道橡の花
蒜山の朝すでにして揚雲雀
牧場に群れ咲くマーガレットかな
高原の今盛りなるななかまど
高原の朝の光に山法師
ひこばえや親子遍路を詠みし句碑
句碑守の泰山木の花待てる
封をしてどんな秘め事落し文
松蝉のひとしきり鳴き巨草句碑
紀の海の見ゆる山頂つばくらめ
山頂の句碑守なるかほととぎす
ほほとぎす又又鳴きて又鳴きて
赤よりも黄色が好きで薔薇の花
飛び越えて行く時もありあめんぼう
遍路道大きく離れ徒歩遍路
句友より和綴じの句集春麗
咲くほどに枝垂れて枝垂桜かな
順番に咲くとふありて桜咲く
きのふよりけふの紅好き桜咲く
木蓮のカタカナのごと散りにけり
春眠の耳に小鳥の調かな
剪定の終わりし枝の花つぼみ
白に白連ねて真白梨の花
大空を独り占めして揚雲雀
春雷に筆止まりたる句会かな
大方は長けてをりたる土筆摘む
つくづくし男の作る酢味噌和え
春嵐止みてあふるる日の光
今年またあの日と同じ花の下
約束すこの日と同じ花の下
一つ咲き牡丹祭の始まりぬ
何事もなきが如くに桜散る
桜散る遅速といふがありにけり
参道を僧登り来る桜散る
登り来て茶屋で一服花の雲
鎌倉の花の山又花の山
こぼれ来し花びら一つ虚子の墓
虚子の墓立子の墓と春の蝶
曇天となりて紅差す桜かな
洋花の混じつてをりぬ花御堂
釈迦仏も杓も小振りや花御堂
釈迦生まれ虚子逝く日なり花御堂
なみなみと注がれし甘茶もてあます
梅桜揃ひ咲きてふ虚子忌かな
寿福寺に栗鼠の来てゐる虚子忌かな
広太郎と栗鼠を見てゐる虚子忌かな
虚子の墓参り礼さる虚子忌かな
麗人に会釈されたる虚子忌かな
真打の舞台となりぬ八重桜
花蘇枋濡らす小雨でありにけり
雨の日の雨色含み花海棠
雪柳眺め疲れを忘れをり
山吹の圧倒さるる黄色かな
鎌倉の蕎麦の老舗の蕨餅
あつさりのあとこつてりと蕨餅
餅らしき粘りほどよき蕨餅
手作りの甘さを控え桜餅
手作りの少し大きめ桜餅
桜餅いただくけふの句会かな
一巡し元の牡丹に佇めり
五分咲ひて見頃といふも牡丹かな
牡丹寺即売場も混み合ひて
年寄りてなほ童顔のチューリップ
直立の色の多彩にチューリップ
原色の行進のごとチューリップ
花屑の溜まり場にして金丸座
花屑の道の果てなる金丸座
鼠木戸頭を下げて入る花の冷
勘平もおかるもいとし八重桜
芝居はね帰るさぬき路風光る
残る鴨独り占めしてゐるプール
水張ればはや来てをりぬ通し鴨
巣作りの燕うれしや過疎の村
菜の花のなほ盛りなる山家かな
つばくらめ枝垂れ柳を斜交ひに
つばくらめ温泉の町に逗留す
満天星の花煌めける空の青
美濃田なる淵の藍濃し岩躑躅
虚子立子墓参の道の春日傘
春日傘和服の人に会釈され
籾の灰まぶし苗代出来上がる
大振りの蓬餅出て野の札所
無縁墓天保の文字金鳳花
いろは順寄進の碑銘金鳳花
草刈つて土手たんぽぽの原となる
かがみ見る十二単のすみれ色
揚雲雀落雲雀又揚雲雀
雲雀野の真ん中の森札所かな
春立つ日川面に踊る光かな
きらきららきらりきらきら春立ぬ
ゲルマンの古都の花屋の猫柳
触れてみて又触れてみる猫柳
北風へ向ふ一歩の前のめり
白球を追ふ子らまぶし日脚伸ぶ
校庭にはずむ歓声日脚伸ぶ
小流れに沿ひて点々蕗の薹
せせらぎの真ん中の岩蕗の薹
梅林を一回りして初音聞く
段畑の石垣高し野水仙
せせらぎは琴の調を花山葵
梅林の果てし流れや花山葵
山茱萸を活けて寺苑の句会かな
句会場山茱萸活けてありにけり
まだ蕾なれど紅梅紅ほのか
君子蘭咲き初む朝の金メダル
君子蘭咲いて明るき居間となる
山の湯の帰途の道々残る雪
残る雪半分はもう氷かな
大方は泥にまみれて残る雪
影といふ地名のありて残る雪
薔薇の芽のなべて紅差すあしたかな
紅梅の花の蕾のまろさかな
梅の香を独り占めしてゐる至福
梅の香を運びし風のありにけり
紅白の梅にておしべ黄金色
会釈して知らぬ同士の梅見かな
しだれ梅しだれて春の雪しまく
山茱萸の花の明かりの狭庭かな
築山のふもとの水辺黄水仙
沈丁花咲いて水際静かなり
散らばりて又固まりていぬふぐり
しだれ梅身じろぎもせず側に人
消防のヘリも出動枯野焼く
野次馬に火の粉降り来る野焼かな
天花粉まはせるごとく春の雪
風吹かば風に消されて春の雪
山々に濃淡のあり春の雪
つかのまの雪明りして春の雪
天辺はもう解けてゐる春の雪
渋滞の列の尾にゐて春の雪
超多忙交通巡査春の雪
始発便空席目立つ春の雪
白酒や竹の徳利に竹の杯
白酒をつい過ごしたる嬉しき日
茎立ちの花を束ねて朝の市
茎立ちて野菜の畑の花畑
耕せし土ほのぼのと山笑ふ
奥谷戸に日差し届きて山笑ふ
蜂須賀の花のほどよき色加減
蜂須賀の昔を今の花見かな
蜂須賀の殿の形見の桜咲く
茶を立てて桜一本皆で観る
灯の入りていよよ艶ます桜かな
オリオンの三ツ星下の花の宴
夜桜の真上にありしオリオン座
早咲きといふ嬉しさの花見かな
バチカンに植えし蜂須賀桜ふと
鴨帰り川面波紋のあるばかり
広き川我が物顔に残る鴨
我が植えし蜂須賀桜咲ける朝
うつ伏せの又仰向けの落椿
石段は阿波の青石落椿
木蓮は先の先までまだ蕾
雨の日の木蓮の白ほんのりと
一雨に薔薇の芽すくと伸びにけり
茎も葉も朱勝ちと云へり春の薔薇
城山に登る裏道花山葵
初旅に上野のパンダ見て居たる
バイエルに戻りピアノの寒稽古
寒灯の煉瓦の街の靴の音
白といふ色のはかなさ冬桜
塁跡の内は風なき野水仙
境内の日溜りにゐて水仙花
鴨飛来二陣三陣続きたる
笹鳴に戻りてみれどそれつきり
鴨飛べり一直線に伸びし首
天空に鳶を貼り付け北下し
木守柿雪置きて紅差せること
色と香をまづいただきてあをさ汁
灯籠に灯を入れ茶屋の雪見かな
舌焦がす甘酒もあり雪見酒
ピラカンサの赤の極まる今朝の雪
一輪といえど蝋梅匂ひ来し
冬北斗折れ曲がりをり通夜終はる
遺骨抱き雪の道又雪の道
葬送の武蔵野の道雪の富士
やはらかき光遊ばせ春の川
蝋梅の花よ蕾よ空の青
八角の堂の裏なる寒の梅
梅二三輪の彩り遍路道
葉を抜けて紅競ひたる実南天
一歩づつ蝋梅の香に近づきぬ
大方は未だ蕾の梅見かな
探梅や同じところを二度三度
送別の言葉の途切れ梅の花
送別の宴終はりけり梅の花
送る人送らるる人梅の花
ニン月に転勤といふ宮仕え
日当たりて蝋梅いよよ膨らめる
蝋梅の花花花と咲きにけり
探梅の後の味噌汁うまかりし
立春の四国三郎煌めけり
淡路見ゆ丘に満作ほころびて
蝋梅の花の香りのまろさかな
蝋梅の花見といふをいたしをり
吟行にマスクが二三春の風邪
門閉じてがらんどうなり春の風邪
マスクしてマスクに会釈春の風邪
けふはだだ泣きゐるばかり恋の猫
春節は日本に帰り寝正月
教えられ旧正月と知りにけり
東京に青き海あり海苔のひび
舟の道一筋残し海苔のひび
満作の黄の散らばれる空真青
日溜りを教えてをりぬ梅の花
三椏の花の先なる一滴
真紅なるこの実何の実梅もどき
梅祭幟一杯花一輪
老木を貫く生命梅の花
鉢植えは樹齢百年梅祭
本堂に鉢植えずらり梅祭
着膨れに占領されしバスの席
菱形にひしやげてゆきし霜柱
霜柱踏んで子供になつてをり
ガリバーの如きわが影日脚伸ぶ
ぢつと待つことも知らねば梅蕾
天めざす蕾ばかりや梅の花
日当りてぱつと咲きたる梅の花
老ひし木の間に若木梅の園
日当りてにはかに増えし梅の花
老梅にみなぎる生命開花の日
チヨコ三つ机上にバレンタインの日
ベルギーの旅ふとバレンタインの日
日当りの席より埋まる二月かな
雑炊や終はりよければ全てよく
雑炊のために蟹鍋作りけり
行儀よく雑炊待てる男かな
雑炊を作る手際に見とれをり
値上れる苺のニュースけふ聖夜
特設のケーキ売り場やけふ聖夜
音澄める北極圏のクリスマス
夜長き北の都のクリスマス
病院の各階にある聖樹かな
昼間から灯のつくツリーけふ聖夜
門松の位置に聖樹を置く蕎麦屋
青首のぶるぶるぶると飛び立てり
番かもつかず離れず飛びし鴨
鴨立てりぶつかりそうでぶつからず
鴨飛べる空大きかり大きかり
鴨浮寝我も転寝土手小春
潜りたる位置よりはるかかいつぶり
餅つきの息の合ひたる速さかな
ポインセチア赤の溢るるロビーかな
どうしても足早となる年の暮
ぶつかつて着膨れ同士南京路
上海は赤の光の好きな街
初詣右も左も家族連れ
姪来り結婚の報初日かな
一族の来訪続き二日早や
客帰りいよよ内輪の新年会
ワインありビール屠蘇あり三が日
熱燗を差して差されてゐる親子
遠きより帰りたる子とまづ雑煮
全快の様子こまごま年賀状
年賀状眺め一日暮れにけり
真白なる紀伊の山越へ初旅に
初旅の山河ひときは澄みにけり
仰け反つて勢ひつけてかいつぶり
塔守にまかり出でたる初鴉
鷺鴎追ひ出してゐる鴨の陣
鳰潜り銀色となる羽毛かな
鳰潜る水蹴る足の忙しく
不忍の池乗つ取りて鴨の陣
振り返り見れば大綿消えてをり
綿虫の舞へる水辺の屋台かな
寒灯の煉瓦の歩道行きし人
寒灯の馬車道二人肩寄せて
寒灯のひときは赤き夜半かな
吹き抜けのロビーに咲きし餅の花
寒稽古せんとゴルフに誘わるる
煮凝りの敬遠される寒さかな
煮凝りを作らんとせず煮凝れる
初場所の新大関の大一番
買初めの日本橋までまかりけり
饂飩屋の二階は静か初句会
健康といふありがたさ初句会
初句会少し早めに終わりけり
新年会顔ぶれ少し変わりをり
大方はスピーチ聞かず新年会
新年会人気は鮨と祖谷の蕎麦
三度目の賀詞棒読みし新年会