小春日の野点の席に招かれて
比叡山紅葉明かりの山の宿
山荘の朝はきりりと冬紅葉
帰途に着く羊の群れに空っ風
一つ市にアジア欧州冬の月
冬紅葉イスタンブール坂多し
ボスフォラス早暁の海鳥渡る
海峡を行く船遅し冬の朝
欧州の隣はアジア冬霞
二大陸分かつ海峡冬霞
二大陸指呼の間にして冬霞
冬明り地下宮殿の水面にも
空港の吹き抜けロビー大聖樹
漆黒の海に浦の灯冬の月
鳴き砂の浜の千鳥の細き足
とある川河口の中洲群千鳥
磯千鳥四国三郎暮れんとす
年忘傘寿と喜寿のデュエットで
年忘裕次郎出てお開きに
クリスマスピアノ調律師を待って
二次会の声のかからぬ年忘
年忘日本酒党またビール党
一日で終らぬ仕事障子貼り
おでん鍋阿波に竹輪麩無かりけり
大鍋におでん煮てあり妻の留守
炊き足しのおでん大根よく滲みて
熱々の大風呂吹と格闘す
宗教を信じ戦い枯蓮田
枯蓮田抜け行く風の白さかな
単線の列車一両蓮田枯れ
蓮枯れて天地の広くなりにけり
一人より二人の仕事年用意
調子出たところで障子貼り終る
アイロンで障子貼りする時世かな
障子貼り終へ大の字となってゐる
鴨飛翔つんのめるほど首立てて
山中の池ホバリングする野鴨
ホバリングしてゐる沼の鴨の尻
左手でひょいひょいひょいと大根抜く
村中の家の総出に大根引く
枯れゐると思へど青し破れ傘
破れ傘冬青々とありにけり
餅搗を見てゐて餅を馳走さる
餅搗にあり落ち着きしリズムかな
掌に取れば崩れて初氷
美濃田なる淵の藍濃し赤のまま
色競ひ形を競ひ菊花展
一株の花の定型鉢の菊
低きより鉢高みへと菊並べ
勘介も美男におはす菊人形
菊人形台座の茣蓙の濡れどほし
菊人形背中より水貰ひけり
どこからか蝶の舞ひ来る菊花展
をみなよりをのこ装ひ菊人形
厭なこと忘れて巡る菊日和
日の透けて千両の実の朱増す庭
山寺の裏は断崖石蕗の花
菩提子の音とめどなく落つる庭
禅林の奥の奥まで実千両
文化の日阿波法隆寺写経展
小鳥来る阿波法隆寺裏は山
集って僧も出役や秋の寺
菩提子の追ひ羽根のごと舞ひて落つ
山門に葷酒を禁ず寺小春
大井川細く蛇行し鴨の列
木曽川の水は豊かに鴨の陣
関が原東も西も柿の秋
河烏大歩危の水澄み渡る
黄色より紅に歓声紅葉狩
水と空青き大歩危照紅葉
川下りとは仰ぎ見る紅葉谷
地質学聞く大歩危の紅葉狩
地質学語る船頭歩危の秋
土讃線紅葉の谷中を行く
蒲公英の帰り咲きたる遺跡かな
大鷲やアクロポリスの空高く
トルコなる西のアジアの綿の花
帰り花アクロポリスの崖険し
木の実降る古代遺跡の石畳
二千年前の遺跡の新松子
街路樹の蜜柑色づき絹の道
まだ熟れて無花果畑つづく道
絞り立て石榴ジュースに群るる人
夜なべして綿の花もぐおうなかな
綿花摘む出稼ぎ農夫暮早し
冬耕す何処を向ひても地平線
平原に老農一人冬耕す
パムッカレ湯気の彼方に雪の山
隊商の宿りし砦蔦紅葉
シルクロード紅葉山抜け雪山へ
カッパドキア奇岩の谷の冬紅葉
夕時雨奇岩の色を変へにけり
カッパドキア洞窟住居冬ぬくし
招かるる洞窟住居冬ぬくし
忘れたるカメラの届く町小春
新松子奇岩怪石指呼の間に
生くるものなき塩の湖冬ざれて
建国の父の廟守る大冬木
ボスフォラス海峡狭し浮寝鳥
一つ市に二つ大陸鳥渡る
火桶して古都の老舗のレストラン
暮早しイスタンブール坂の路地
仄と出てそれっきりなる月を待つ
二胡を聴き楊琴を聴き月を待つ
懐かしの蘇州夜曲を聴く無月
月白や鳴門海峡鎮まれる
無月なる鳴門の海の静寂かな
月白に水平線の浮かびくる
小望月展望台や灯を消して
お月見の茶菓子は団子づくしなり
鈴虫と少し距離置き鉦叩
夜学生群がってゐる拉麺屋
十五夜の雲脱ぎ捨ててくる早さ
振り返り見れば十五夜天心に
かぐやなる星も見てゐる今日の月
十六夜の大きな月の出でにけり
朝霧の底に湯布院まだ覚めず
湯布院に四人が四人月を見る
湯布院に久闊同士月を見る
来年もともに見んとて月を見る
十人で借り切る湯宿虫時雨
この宿の送り迎への虫時雨
火口湖の水真青なり阿蘇に秋
芒野を抜けて芒野ここも阿蘇
改修の天守を余所に菊花展
海の魚泳ぐお堀の水澄めり
女木男木も小豆も霧や瀬戸の海
大政を奉還の城ちちろ鳴く
千年の古都の古刹のすいと鳴く
銀杏のどっと実りてどっと落つ
二条城松の緑と赤とんぼ
藍畑の畝を隠して藍の花
紅の色離れては濃き藍の花
行き来する蝶の静けき藍の花
白を見てまた赤を見る藍の花
白よりもやはり赤好き藍の花
藍農家屋敷と云はづ藍の花
赤のまま蓼科と知りぬ藍の花
太りたるものから紫式部の実
農大の茄子太り過ぎゐる休暇
赤い羽根つけて背筋を伸ばしけり
湯布院に久闊同士月見酒
旧友と注しつ注されつ月見酒
ビールよりやはり日本酒月を見る
来年もこの月見んと酒を酌む
赤い羽根回覧板に載ってくる
開拓地知らぬ人来て栗拾ふ
人毎にお茶と茹栗出す山家
デパートの地下に求めて栗御強
十七時待ちて買ひたる栗御強
雛壇の御歴歴なり赤い羽根
餡蜜新酒供へ夢道の忌なりけり
久闊と積もる話の夜長かな
本丸は何もなき原秋の風
無縁仏数多札所の破れ芭蕉
先陣ははや雲となり燕去ぬ
誰か云ふロマンスグレイ葦の花
金銀となりて靡けり葦の花
掌に乗る山雀の温かさ
餌付けの手めがけ山雀来る速さ
鴫一羽残して暮るる吉野川
松茸の土瓶蒸出て宴弾む
松茸を焼く七輪の届く朝
年毎に鹿垣里へ下りてくる
牡蠣宿の朝は静かに明けにけり
的矢湾朝の光に牡蠣のひび
牡蠣づくし平らぐ古希の祝かな
天高し安乗崎灯台波の上
海桐実に安乗崎灯台断崖に
守武の暮らしたる町通草売る
碑は俳祖守武吾亦紅
風に乗り風より速くノスリ来る
鷹渡る青き海峡青き空
渡りゆくノスリハイタカ一羽づつ
風に乗ることの即ち鷹渡る
尖りたる翼そのままノスリ去る
仰ぎ見て羽紋くっきり鷹渡る
風に乗り風を乗り換へ鷹渡る
一番田より逸り咲き早稲の花
平らかに穂先揃へて稲の花
暴風雨反れたる朝の稲の花
熱帯夜ばかりのつづき稲の花
稲の花最高気温更新す
餓鬼大将をりしは昔地蔵盆
一張羅かつては張って地蔵盆
繰り延べて馬追の鳴く祝の膳
略装で向かふ秋暑の祝の席
倒伏の田の一つなき厄日かな
わが町を溢れる数の燕去ぬ
そそり立つ断崖とあり雲の峰
伊佐木釣り釣るといふより釣れてをり
ままかりの舟出る瀬戸の水澄めり
園眺めまづは一服して氷菓
香水の残り香忘れ扇かな
見えてゐて遠き烏城や秋暑し
そのかみの御舟入跡竹の春
松手入五人五様でありにけり
秋暑し烏城の色の褪せるほど
夢二館いでし一歩の秋日傘
お葉なる人は忘れて秋袷
円墳の裏側は崖葛の花
秋咲いて原色多し外来種
外来の花ばかりなり秋花壇
紫は控へ目な色茄子の花
秋茄子の花八方に咲きにけり
むらさきに咲きて無駄なき茄子の花
秋日濃し農大の茄子よく太り
天辺へ天辺へ秋茄子の花
水落ちて甲骨文字に田割るる
秋耕の前に後ろに鷺歩む
風と棲む祖谷の暮らしや蕎麦の花
祖谷の畑いづこも傾ぎ蕎麦の花
京言葉残る奥祖谷蕎麦の花
多摩奥に広がる河原蕎麦の花
すいっちょと確かに聞きて夜半目覚め
すいっちょとつくつくぼふし鳴く時刻
すいっちょの声継ぎ足して鳴きにけり
正調に鳴けづ名残の法師蝉
つくつくもほうしと鳴くも法師蝉
これよりは遍路ころがし栗の毬
山門に入るを待ちゐて道をしへ
曼珠沙華脚高に咲きゐたりけり
むらさきの濃くて紫式部の実
木洩れ日にこぼるるルビー金糸草
朝顔の垣根オーシャンブルーにて
昼も夜も朝顔もどき咲き続く
太刀魚の貌の半分以上口
太刀魚の大食漢の面構へ
軍手して大太刀魚を生け捕れる
銀色の太刀魚の焼け黄金色
梨てふは水の果実と云ふべかり
もぎ立ての梨を抱へて友来る
山頂の友へ朝もぎ梨送る
残しある大梨を食べ梨最後
燃え尽きることの幸せ蝉時雨
みんみんと熊蝉ともに時雨けり
捕虫網空蝉二匹採り帰る
空蝉を胸に飾りて童かな
郷土館裏の山すそ夏の萩
旧庁舎移築してゐるあきつ飛ぶ
噴水の天辺殊に踊りをり
浴衣着て心の軽くなりにけり
美術館浴衣の人はフリーパス
美術館浴衣着て訪ふ浴衣の日
モネの池浴衣で巡る夕べかな
浴衣着て年に一度のコンサート
浴衣着て青春の日の顔となる
日本人なるを確かむ藍浴衣
胃の検査無事に終はりて茗荷汁
胃カメラの結果良好茗荷汁
カメラ呑み戻りたる胃に茗荷汁
包丁の音はづむ朝茗荷の香
合唱のなかの独唱蝉時雨
琉球の塩添へ出さる大西瓜
西表島よりパイン届く朝
琉球の完熟マンゴー頂きぬ
澄み渡る空に高さや今朝の秋
田を渡る風斜交ひに今朝の秋
野に山に静けさ戻り今朝の秋
刳り貫きて味見させたる西瓜売
西瓜売る地べたに長き日も暮れぬ
日輪の落ち行く大地西瓜売
逃げ場なき湿原にゐて稲の殿
古里に居座ってゐる稲の殿
訪ね行く里に居座る稲の殿
渋滞の殿にゐて萩の花
白雲の浮かぶ青空百日紅
個性とは自分流なり阿波踊
万人に万人の阿波踊かな
網打ちの手つき足つき阿波踊
山寺のかはたれどきの法師蝉
水の辺の長き夕暮れ法師蝉
眼下にて四国三郎花煙草
一山に夕日かかりし花煙草
この道はいつか来た道花煙草
列島に最高気温なほ残暑
戸外での運動禁止され残暑
盛りとは終はりの始め法師蝉
牽牛も織女も見えず天の川
奥祖谷の闇は漆黒天の川
星の夜の月夜といへり飛機の旅
シベリアの遥かなる川星月夜
シベリアを駆け抜く大河星月夜
輝きて川流れたり星月夜
県境のトンネル長し星月夜
容赦なき日差なれども風は秋
蝉時雨虫の時雨と変はりけり
落し水堰に絞りて広がる田
散らばりて固まりて落つ鮎なるか
銅鐸の出土の丘のつくつくし
善入寺島なる中洲豊の秋
竿立てて落鮎待てる舟の牙
田仕舞ひの煙高くまで立てり
田仕舞ひの煙たなびく日和かな
銅鐸の出土の石碑蝉しぐれ
穴残し出でたる蝉の時雨かな
楊梅や取り放題と言はれても
楊梅の紅の口ぢゆう顔ぢゆうに
許許許許許特許許可局時鳥
ほととぎすよく鳴く日なり僧不在
行く蟻も来る蟻もあり蟻の道
また元の道につながり蟻の道
ほととぎす厭くほど聞ける一と日かな
赤ん坊水に散らしてあめんぼう
胡蝶蘭那覇の空港ロビーかな
琉球の花は原色雲の峰
緑陰といふ別天地ここは那覇
涼風や高き山なき海の邦
琉球の夏はいきなりど真ん中
午睡なる至福ありけり今は旅
琉球の美術館かなバナナ垂れ
紅型の工房仕切る羅の女
琉球のマンゴーの値に畏れ入る
鬼やんま来てちりぢりに糸とんぼ
あめんぼう跳び越えてゆくあめんぼう
散らばらず固まらず咲き羊草
藻の花のさ揺るる流れありにけり
静寂の一時に居る花藻かな
小さくとも蛇は蛇なり嫌ひなり
人気なき山荘に来て萩の花
入り過ぎし山道にゐて虫の声
蛙見てくちなはを見て蛙見る
睡蓮の池静寂に包まるる
沙羅の花蕾を残し咲き継げる
梅雨茸の揃ひ出でたる野の舞台
中入り後団扇の動く大相撲
真白なる家見え夏のエーゲ海
遠き日の記憶の海の雲の峰
クルーズの始まる港雲の峰
珊瑚礁ひしめく海と雲の峰
琉球は山のなき邦雲の峰
琉球の海は群青雲の峰
青柿の巨木の幹の瘤大き
青柿や四百歳になるてふ木
過疎といふ町の子燕親燕
卯建上ぐ商家の軒の燕の子
また落ちてまた落ち庭の柿青し
蟻の塔崩れて蟻の涌き出たる
遺したる庄屋の屋敷青酢橘
増水の川の中洲の通し鴨
風蘭の白の極まり空の青
俳額を語る和尚や堂涼し
ピアノから一挙にフォルテ蝉時雨
青桐のすくと立ちたる空青し
堂涼し山の和尚の話好き
青空にけふ一日の花槿
あさがほの古名もありて花槿
日韓は一衣帯水花槿
式台に白百合凛と活けてあり
甚平に着替へ国際線の客
身構へる方は人間毛虫取る
野の市の何れ劣らぬ大西瓜
美術館さつきあかりの奥にあり
舟宿のありしは昔合歓眠る
馬車馬のかつて水場の花楝
沖縄の旬の海雲の届きたる
もてなしは穫れたばかりの麦の飯
紫陽花のはじめの鞠の淡さかな
白焼きの鰻一箱届く夕
饂飩汁鮴でとりたる日の遠く
遠き日の加賀の金沢鮴料理
あめんぼう子あめんぼうと群るる池
目高の子あめんぼうの子小さき池
撫子や美濃田の淵の岩の陰
大楠の樹下ひろびろと夏燕
一本で若葉の杜をつくる樟
千年を古りたる樟の若葉かな
年毎の千年樟の若葉かな
ほととぎす鳴かず老鶯鳴くばかり
緑陰にロダンの像となりゐたり
せせらぎの閑けさにゐる川蜻蛉
筧よりこぼる水や雪の下
河鹿ゐず川蜻蛉のゐるばかり
目高の子生まれてをりぬ庫裏の池
蓑虫の糸のつつーと伸びにけり
青嵐千年樟の梢より
かぶと虫くはがた虫も火取虫
腕白も父となりけりかぶと虫
緑陰にゐてジョギングを見てゐたり
帽子の子即かず離れず追ふ日傘
隈取れる役者顔して牛蛙
古池の主面して牛蛙
山に山重ねたる阿波夏燕
モラエスの像は西向き夏燕
紀の国の見ゆる山頂夏燕
ほととぎす一声聞こえそれっきり
しかと聞く夏鶯の谷渡り
老鶯に始まり終はる一ト日かな
家康のごとく生まれずほととぎす
青春のままが最高雲の峰
古代米棚田に植ゑて遺跡かな
遺跡訪ふ奥に植田の古代米
古代米五種の立札ある植田
青田風竪穴住居越えて来る
風止めば香の襲ひ来る栗の花
葦葺きの葦の香吹いて青田風
にらめっこして目を逸らさざる河鹿
鳰乗りて浮巣の揺れの止まりけり
更けるほど香の下りてくる花蜜柑
一雨に色載り初めし額の花
一目見て雨待ち顔の額の花
雨粒を瑠璃にしてゐる額の花
日本中雨の日もよし額の花
河童なるものは知らねど額の花
色徐々に雨に重ねて額の花
雨の日の王女と言はむ額の花
雨の日の畦道遠し半夏生
暮れてなほ片白草の白仄か
まづ背越頼み浪花の客を待つ
口開けの鮎の背越の客であり
鮎鷹や海の寄せ来る吉野川
全長を水にあづけて蛇泳ぐ
淡路より阿波を眼下にほととぎす
苗床を作るや畦を塗り替へて
畦塗も早乙女も見ずなりにけり
海鼠板子の押さへゐる畦を塗る
今年又今年限りと畦を塗る
農継ぐと言ふ子言はぬ子苗運ぶ
蓮植うるその両隣稲植うる
田を植ゑて街の田舎となりにけり
瀬戸内の藍深まりて鯛の網
鯛網の鳴門北灘海光る
徳島も東京も雨けふ立夏
雨雲を抜けて立夏の空に飛機
鉄線花洋館古き屋敷町
大使館抱へる町の鉄線花
光るもの多き空港夏に入る
水底の影揺れてゐるあめんぼう
蜘蛛の子を水に散らしてあめんぼう
突進し駆け出すもありあめんぼう
水のなき川の一筋麦の秋
熟田津の水ゆるやかや夏燕
ここだけの閑けさにゐる糸蜻蛉
道一つ隔てたる池糸蜻蛉
一つづつ咲き睡蓮の池となる
睡蓮の揺れて真鯉の現るる
四国路の始まる岬立浪草
起点の碑鳴門孫崎立浪草
目の下に鳴門海峡立浪草
憲法の原本を見て若葉風
憲法の原本展示街薄暑
憲法の原本しかと見る五月
憲法の蔵書会場風薫る
五月来る憲法施行六十年
新緑の際立つ駅の赤煉瓦
新緑や首都の玄関一新す
一株の凛と咲き初む花菖蒲
長靴の庭師童顔菖蒲園
巡り来て元の紫花菖蒲
海亀の跡追ひし日の遠退きて
年毎に海亀の海失せゆきぬ
江戸前の前に失敬初鰹
叩きより刺身にしたき初鰹
遠き日のケンケン釣りの初鰹
松蝉の幽かなれどもしっかりと
松蝉や眉山山頂茂助原
縺るると見えて縺れぬ糸桜
麗かや邪馬台国は阿波と言ふ
卑弥呼なる人思ひ居て夕桜
一抱えほども菜の花いただきて
休耕の畑に菜の花輝きて
菜の花をどうぞと畑に掲げあり
菜の花や今は動かぬ水車小屋
玄関も客間も居間も花菜活け
阿波の地に卑弥呼伝説月朧
風止めどしばらくの間を花吹雪
洋画より日本画が好き糸桜
来し方をともに語りて花を見る
雪洞を灯し家居の花見かな
山隠し空まで隠し黄沙かな
選挙カー声ばかりなり春の塵
朧月ならぬ朧の日と云へり
春塵に御高祖頭巾の令夫人
廃車古車新車も被り春の塵
蓮の田の水引くを待ち残る鴨
一夜明け黄砂の去りし空真青
東京は四月の雪となりにけり
チューリップ赤もいろいろありにけり
チューリップ何といっても赤が好き
チューリップはじめの赤を通しけり
花御堂好きな椿で作りあり
花御堂虚子は椿が好きだった
無造作に椿を添へて花御堂
麗人の線香点す虚子忌かな
麗人の線香くるる虚子忌かな
麗らけし実朝政子虚子の墓
虚子立子実朝政子墓地うらら
鎌倉の玄関駅の花御堂
先づ甘茶飲みて思ひ出話かな
ピクニック姿の人も虚子の忌に
鎌倉で阿波の句友と会ふ虚子忌
鎌倉の裏道もまた花の道
みちのくの蕗味噌下げて虚子の忌に
廣太郎迎へてくれし虚子忌かな
一叢であれど際立つ芝桜
鮎遡上待ちゐて似鯉蠢けり
上げ潮に乗りて大堰越ゆ稚鮎
向き揃ふ一瞬の間の鮎遡上
勝兵の如くにありて遡上鮎
潮差して遡上の稚鮎湧く魚梯
全身をくねらせ稚鮎遡上せり
先陣は少し大振り鮎遡上
八重桜咲きて又ゆく花見かな
はるか見て寄りては見上げ八重桜
花の間にこぼるる空の青さかな
紅と白緑もありて八重桜
総理より観桜会に招かるる
総理又人気稼業や花の宴
旧友と旧友出会ひ花の宴
旧友と写真撮り合ふ花見かな
花見果つ屋台の幟垂るるまま
のどけしや浄瑠璃衆と饂飩屋に
芝居はね戻る浮世の花の冷え
路地麗ら太夫と讃岐饂飩かな
麗らかや太夫と路地の饂飩屋に
芝居果て花冷えの道坂の町
お芝居のお弁当にも桜餅
ぼうたんやさてこそ坂田藤十郎
残り鴨中学校のプールにも
のどけしや都心にこんな緑世界
立ち入りの出来て新宿芝うらら
雨晴れて若葉明りの径となる
観潮や鳴門秘帖を読みしころ
観潮の船淡路から鳴門から
観潮船ナウマン象の眠る海
太陽と月と地球と春の潮
フロントに潮見表あり春の潮
若楓さゆるる風のありにけり
御手水に水あふれゐて若楓
芳名録いろは順なり金鳳花
閉ぢられてゐしか宿坊たんぽぽ黄
オーロラも天衣といふも牡丹かな
ぼうたんの白妙金の蕊を抱く
ぼうたんやバルカン政治家眠る寺
議会の子ここに眠れり花牡丹
塩漬けにねんごろに葉を桜餅
桜餅作り一座に振舞わる
何はとも粒餡が好き桜餅
桜餅この塩味のありてこそ
手作りはおにぎりに似て桜餅
辛党も一ついただく桜餅
揺れ止まる時一瞬に藤の花
鎌倉は寺多き町迎春花
参道は長き石段迎春花
花山葵猪のぬた場の小流れに
小流れに三角洲あり花山葵
手のきれる清水湧き出て花山葵
カルストを縫ひて真清水花山葵
朝市の土つきしまま売る分葱
阿波南カルスト台地臥竜梅
せせらぎに芹も山葵も山蕗も
金魚売泥鰌も鮒もざりがにも
黒潮も高嶺錦も木瓜の花
この緋色長寿楽てふ木瓜の花
山茱萸の黄に誘はるる露店市
日曜の市のいかなごまだ小振り
菜の花をどさと置きたる野の花屋
大振りの鰆横たへ露店市
山茱萸のぽぽぽぽぽぽと咲きゐたり
土佐水木明り御苑の奥処かな
江戸城の本丸はここ辛夷咲く
芹茂るせせらぎの水きらめけり
小流れに芹の中洲の生まれをり
土佐水木面を上げよ胸を張れ
芹の根を洗ひて流る水すみて
嫁姑即かず離れず畑を打つ
武家屋敷床に一枝桃の花
武家屋敷庭に竹垣黄水仙
いかなごに鴎も猛き禽となる
いかなごの群れて紀淡の海狭し
紀の鼻へいかなご舟の数知れず
真っ平いかなご舟の浮かぶ海
いかなごの湧きて鴎も湧きにけり
大連も花アカシヤの坂の街
アカシヤの花の真下の乳母車
ユーカリの花の道来てコアラ館
海峡に春の光の戻る朝
石組みは阿波の青石椿咲く
天平の荒びし庭の花椿
青石の礎石残りて草青む
自転車で走破の遍路歯の白し
鶯や山の札所の庫裏静か
賑はへる札所の隅の雪柳
春昼や犬も転寝山札所
同じ場所同じ高さに揚雲雀
揚雲雀四国三郎野を縫ひて
起上り小法師なるか揚雲雀
芽柳やモスクワの川堤なく
芽柳や城は石垣あるばかり
芽柳のラインの岸辺乳母車
大の字となって雲雀を仰ぎゐる
天空の道は真っ直ぐ鳥帰る
ワイシャツの襟に袖にも春埃
鉄橋を一両列車鳥帰る
探梅や石垣の路地九十九折
輝きて四国三郎鳥帰る
鳥帰り元の家鴨の堀となる
春塵に日干し煉瓦の北京ふと
テーブルにウエットティッシュ春愁ひ
節分の太巻き寿司を食べてみる
節分の夜柊の針尖る
白梅の咲き始めしは薄緑
紅梅の隣白梅まだ蕾
目の下に野外劇場笹鳴ける
立春の丘にあふれる光かな
落葉を待たず満作咲きにけり
満作は枯葉離さず咲きにけり
紅梅の傍の白梅紅ほのか
白梅の空の一日真青なり
人去りて白梅の香の広がりぬ
白梅の背と背合わせて咲きゐたり
松手入まづ命綱確かめて
江戸っ子もヘルメットして松手入
松手入鋏の音を鳴らしくる
この黄色ゴッホの黄色福寿草
満作の花はお洒落でありにけり
会釈して知らぬ同士の梅見かな
梅見して梅鉢の紋見し覚え
遠目にも紅白混じり梅の里
青空に寒緋桜の緋色かな
天辺へ行くほど咲いて寒椿
この駅も満作活けて山手線
日溜りの丘にも風や野水仙
鼈の老舗のおじや黄金色
草草の名は知らねども下萌える
地球とは温かき星下萌える
大地より涌き出る命弥生なり
降りながら啄ばんでゐる寒雀
真っ先に来て梅の香の中に居る
先客を眼白が迎え梅の里
四方より天空よりの初音かな
石垣は阿波の青石迎春花
枝先に黄の溢れゐて迎春花
笹鳴を聞きたる耳に初音かな
この瑠璃を犬陰嚢とは何とまあ
老木の間に若木の梅の里
真っ直ぐの一枝なくして臥龍梅
実をつけぬ紅梅庭に梅の里
山家みな日当りにあり梅の里
白魚のこぼす水滴琥珀色
白魚の網上げて又網上げて
見物へ捕った白魚全部呉れ
をばさんが捕った白魚全部呉れ
捕ってきしばかりの白魚澄まし汁
初物の白魚汁でもてなさる
白魚の句会白魚見て食べて
動くもの何一つなき春の海
雲南は千里の彼方唐椿
紅梅に白梅目立つ梅の園
旧正にありし東京フルマラソン
旧正に江戸を駆けたる三万人
花嫁の桃の家より出できたる
挙式終ゆ新郎新婦桃の花
庭に来る梅の目白は番かも
早春の結婚式に招かるる
野を焼きて追はれて居りぬ跡始末
消防車傍に侍らせゐて野焼き
細き月尖りたる夜冴返る
紅白の梅の枝垂るる屋敷墓
大樟の傍に苗札並ぶ畑
鎮れる大樟の杜冴返る
手入れせぬ竹薮なれど鶯は
育てたる主は見えねど梅の花
野焼きかな煙たなびく里静か
梅の香の丘より眺む阿波広し
床屋にも蕎麦屋にもありポインセチア
赤が好きポインセチアの赤が好き
繁華街ポインセチアのそこここに
道路まであふれてポインセチア売る
駅伝について走る子息白し
おはようと声かけ行く子息白し
信任状捧呈の馬車息白し
クリスマススウェーデンより胡椒菓子
北欧の雪の町より胡椒菓子
北欧の古都の町の灯クリスマス
クリスマス燭の零れて石畳
初雪や屋根の大工はカナダ人
大年も働く大工カナダ人
シャンパンを抜きて年酒といたしけり
今年来ぬ人思はるる年賀状
旅の朝出してくれたる薺粥
薺粥炊き上げてうぶ緑かな
薺打つ母の歌声空耳に
遠き日の母の手白し薺粥
七種の揃はなけれど粥炊けり
遠き日は歳の数ほど雑煮餅
幸せは平凡にあり雑煮餅
年毎に速き一年雑煮餅
饂飩屋の二階拝借初句会
日向から席埋まりゆく初句会
低気圧居座って居る寒の入り
日本中波浪警報寒の入り
一夜明け真青なる空寒明くる
赤子にもお腹の子にもお年玉
インクの香残る新札お年玉
福袋曝けて見せて初売りす
探梅と言ふは梅の香探すこと
あり余る日差集めて室の花
日溜りの葉牡丹渦を殖やしつつ
初旅や雲中の富士あの辺り
初旅の雨に会いたる一日目
初旅の東京一と日晴れぬまま
湯の町の老舗の宿の大氷柱
大屋根に氷柱列なす老舗かな
露天湯に氷柱のしずく落ちにけり
饅頭の湯気立ってゐる氷柱かな
振り返り見ても淋しき冬桜
二分咲きに見えて満開冬桜
冷えのなか寒緋桜のほころびぬ
琉球は北より寒緋桜咲く
オオバンを従えてゐる鳰
鳰潜りオオバンも鵜も続きたる
軽鴨に小鴨は水面譲りけり
鳰の沼威張る川鵜の鵜の目かな
川風の荒ぶ葦原チュウヒ待つ
ジョウビタキそ知らぬ顔で飛びゆけり
寒風に杭の川鵜の身を曝し
探梅や石垣の路地九十九折
探梅やせせらぎに沿う樵の径
探梅や谷に突き出る梅の枝
探梅や崖の上なる遠き山
二年目の花小さきかな室の蘭
花市に並ぶ片仮名室の花
球を追う子らの歓声日脚伸ぶ
郵便夫行きし畔道いぬふぐり