柚搾る夫の仕事と任されて
洗ひたる洗ひたる手に柚搾る
取れ立てと持ち来てくれし柚搾る
一個づつ切り半分に柚搾る
香を放ち滴る果汁柚搾る
柚搾り終えたるあとの柚湯かな
搾りかす袋に詰めし柚湯かな
たっぷりと柚あそばせし湯に浸かる
温もりと残る香りの柚湯かな
目覚めゐて柚の香りの残る朝
病む足に熱き柚湯のありがたく
妊婦ゐし立ち入り禁止風邪の神
風邪の子を預かり一日暮れにけり
よく動く風邪の子の熱引きたるよ
真青なる空に銀杏の照葉かな
雲一つなき空青し銀杏散る
日の差せる銀杏照葉の眩しさよ
銀杏散る十重に二十重に敷き詰めて
まだ緑残れるものも落葉して
とりどりの落葉の色でありにけり
老銀杏総身黄葉尽くしけり
今生の幾星霜を銀杏散る
北欧で買ひしセーター子の子へと
手編みなるこのセーターの子の子へと
子に買ひし手編みセーター子の子へと
北欧でセーター買ひし日の遠く
セーターに着替えホテルの客となる
看護師はセーターまでもユニフォーム
湯田の湯の旅館虎河豚まづ見せて
虎河豚と河豚を並べて見せてくれ
虎河豚と普通の河豚を並べ見せ
虎河豚は大きかりけり河豚小さし
しかと見しあの虎河豚の料らるる
虎河豚の一尾で四人河豚尽くし
飛ぶやうに去りし一年年忘
期日前投票済ませ年忘
転勤の人送り出す年忘
オペラ観て遅参いたせり年忘
日ごろ見ぬ人にも会へて年忘
年忘卒寿の歌ふ流行歌
つるし柿揉めば甘さの増すと聞き
つるし柿揉む役割を任されて
つるし柿揉む手の平を温めつ
つるし柿仕上げの風を待ってをり
つるし柿揉めば揉むほど艶の出て
艶もよく仕上がりにけりつるし柿
かく甘き干し柿作り先づ自慢
潮吹きて後退りする海鼠かな
ビールにも清酒にも合ふ海鼠かな
歯応へといふ嬉しさの海鼠かな
酢橘酢のいと良かりしよ海鼠食ぶ
柚二つなれども柚湯なりしかな
風に向き身じろぎもせず鴨の陣
疾く泳ぐ鴨の首のつんのめり
風吹かば吹けとばかりに鴨の陣
飛び立てる鴨の阿吽の呼吸かな
陣の鴨飛び立ち一羽残りたる
風の来ぬ日溜り選びゐる鴨も
川縁に上がりしも鴨風に向き
風呂吹の味噌に柚なる隠し味
風呂吹の角の丸めてありにけり
風呂吹の味の母親譲りなる
舌焦がす風呂吹にふと母のこと
何もなき冬田ばかりの続く村
二毛作など遠き日の冬田かな
眠りゐる冬田に日差明るかり
虎造の森の石松聴く小春
図書館で世界遺産を読む小春
冬薔薇に射して朝日や硝子窓
咲き初めていづれも小振り冬薔薇
どの名札見ても片仮名冬薔薇
農村の環境展示蕎麦の花
客引きの上野公園蕎麦の花
復元の東京駅を見る小春
冬晴や大正ロマン香る駅
赤煉瓦まぶしき駅舎冬日差す
老舗なる豆腐料理屋芒活け
冬灯まばゆき銀座四丁目
奥多摩に列なして買ふ新酒かな
辛口もほんのり甘き新酒かな
辛口の友と甘口新酒酌む
銀杏のところ狭しと散らばれる
日向より日陰色よし秋桜
コスモスの丘越えて又丘越えて
コスモスの十重に二十重に続く丘
コスモスやそれと分かりて基地の跡
コスモスの四百万本まなかひに
懐古園巡れば黄葉紅葉かな
即売の鉢植えもあり菊花展
懐古園紅葉まつりに菊花展
上田城紅葉明りに櫓立つ
高原の朝の光や冬紅葉
浅間山野山の錦果てもなく
浅間山錦の色を野へと引く
剥き出しの鬼押出も紅葉して
湯に仰ぐ草津の紅葉ことに濃く
紅葉を四囲に草津の露天の湯
灯りゐて草津山の湯暮早し
湯畑に影濃く迫り冬に入る
蔦紅葉華厳の滝の崖深し
音のして紅葉の中を落つる滝
境内は風の遊び場神の留守
奥宮に行く人もなき神の留守
神留守の鬼押出に人出なく
きっぱりと暦違えず冬に入る
冬に入る暦の通り冬に入る
暦日のよろよろとして冬に入る
車椅子頼る身となり冬籠り
凩に心もとなき松葉杖
歩くことできぬ身となり暮早し
坪庭の草紅葉見て一日暮れ
歩くことできる身となり根深汁
歩けるといふありがたさ根深汁
松葉杖卒業の日の根深汁
変らざる日々でありたし根深汁
恙なきことこそよけれ根深汁
切干をひろぐ日当る風の道
切干を干す母の手の白さかな
咲き咲きて白のまぶしき玉簾
人一人をらぬ渚の水澄みて
彼岸花咲く遠き畦近き畦
田の隅はいづこも卍稲を刈る
堤防にパラソル立てて鯊を釣る
犬山の城は国宝菊日和
秋の灯や城下に老舗多かりし
竹の春とはこんなにも明るくて
国宝の茶室への道初黄葉
蚊遣香焚きて客待つ茶室かな
栗の毬落つ庭先の静かなる
輝ける一叢のあり竹の春
日当りの棚田棚田の稲架襖
木洩れ日に銀の罠糸蜘蛛の糸
蜘蛛の囲に図面と言ふはなかりけり
秋の蚊に幽かな音も聞けずなり
知らぬ間に刺されてをりぬ秋の蚊に
日陰ほど露草色を濃くしたり
国宝の茶室これより萩の道
町中の畑の畑に蕎麦の花
さわやかや箒目残る庭巡る
さわやかや朝一番に巡る庭
さわやかや朝一番の露天の湯
嵐去り雲も去り行きけふの月
望の月嵐の後の静けさに
秋晴や光ケーブル我が家にも
はいはいをして赤ちゃんの運動会
泣く子ありあやす母あり運動会
駆けっこに集る視線運動会
父の手を引いて走る子運動会
運動会には青空と万国旗
朝の間に終はる園児の運動会
運動会終はり待ちかね昼寝の子
鷹を待つ鳴門の空の高さかな
渡る鷹待ちつ眺めて昼の月
鷹渡る鳴門の空の広さかな
渡るはず渡るはずとて鷹を待つ
これほどの日本晴れを鷹の来づ
鷹日和信じてをりぬ鷹を待つ
鷹渡る空の高さを鳶舞ふ
上げ潮の鳴門海峡鵯渡る
休日の一羽見えず渡る鷹
玄関に山雀の来るホテルかな
蘭草に浅黄斑の来る古刹
藤袴浅黄斑の平伏す
沼日和犇く菱の実をつけて
水平ら池一面の菱紅葉
初鴨の菱の実の池欲しいまま
これほどの菱の実の採り尽くさるる
蟷螂の目の色ライトブルーかな
辻毎にして木犀の香りかな
国分寺巡る水路の水澄みて
植木屋の朝は早かり松手入
全体を眺めてよりの松手入
天辺に始まってゐる松手入
年毎に広げし枝の松手入
年毎に枝の混みあふ松手入
年毎に整ふ形松手入
五年かけ描きし形に松手入
半日が一日となりて松手入
一本に一日掛かりの松手入
松手入済みたる空の広さかな
松手入済みて始まる松談義
その茎に紫及び藤袴
藤袴白磁に活けてよかりけり
デパートの地下に地産の松茸も
地産なる高嶺の花の松茸は
外つ国の松茸の肌白きこと
空飛んで来し松茸の香の淡し
猪垣と言ふといえどもかく低き
鹿垣を屋敷畑に回らせて
屋敷ごと囲ひてありぬ鹿の垣
猪垣のところどころの繕はれ
御苑にも雑木林や木の実落つ
武蔵野を模したる御苑木の実落つ
近道はこごしき小径木の実降る
木の実落つ道より木の実降る径へ
秋に出る土佐の筍持ちくれし
糠は否秋の筍茹で上がる
淡々し秋筍の風味かな
雨多き年や九月に梅を干す
梅干して変はらぬ里の暮しかな
帰り咲く藤の紫透き通る
その声の尽き果つるまで秋の蝉
その声のピアニッシモに秋の蝉
息継ぐ間次第に長き秋の蝉
秋雲に夏雲なほもせめぎ合ひ
戴きし高原そだち唐黍を
高原の唐黍噛めば甘さかな
香りして玉蜀黍の茹で上がる
採れたての玉蜀黍をさっと茹で
舌焦がす玉蜀黍を丸かじり
高原の唐黍たちまちに茹でる
大空に雲湧く如く去ぬ燕
先達のゐるとは見えず去ぬ燕
見送りぬ帰る燕のこれほどを
先陣のはや雲となり去ぬ燕
秋の灯や世界遺産の旅行本
秋の灯や薄くなりたるホトトギス
秋灯下奥の細道音読す
公園の彫刻展に赤とんぼ
遅れ咲く色淡々と百日紅
透き通る白は白花百日白
重陽のけふも咲き継ぎ百日紅
鷹渡る淡路の空を後にして
ギャラリーの見守るなかで鱚の釣れ
鱚を釣る釣るといふより釣れてをり
鰯雲変り変らぬ砂丘かな
再会の砂丘に立ちて鰯雲
鰯雲砂丘の空に広がりぬ
砂丘越え又又砂丘鰯雲
何処までも遠州灘や鰯雲
青空やコスモスの原ひろびろと
青空にそよ風に媚び秋桜
大の字になって寝てゐる帰省の子
大の字に居間に寝ね居て帰省の子
舟で行く広き花野でありにけり
舟で行く花野にありし一航路
その奥は「モネの池」なる花野かな
原色の異国の花の咲く花野
西窓に色褪せしまま秋簾
西窓に傾きしまま秋簾
色褪せて風の意のまま秋簾
凛とあり大観峰の女郎花
大阿蘇の風の強さよ女郎花
草どれも丈低き阿蘇女郎花
丈いづれ低くて阿蘇の女郎花
女郎花丘を越えれば男郎花
夜汽車より見る秋灯の町や街
闇の夜の秋灯の赤胸さわぎ
雪国の闇の深さよ秋灯
蔓引けば絡みからみて烏瓜
烏瓜真っ赤や里の空青く
咲き初めてなるほどタデ科藍の花
丁寧に一葉残さず破芭蕉
阿波にしてハウスにバナナ実をつけて
花バナナ室に咲かせて藍寝かす
花バナナ室に咲かせて此処は阿波
一揆ありし里はこの辺曼珠沙華
田の隅に先祖の墓や曼珠沙華
我先に浜へ駆け出す裸の子
甲羅干し日焼け恐れぬ都会の子
カラフルや珊瑚の浜の砂日傘
琉球の海は真青や雲の峰
琉球の歴史の島や波涼し
琉球のおばばのお洒落サングラス
涼しさの水族館でありにけり
夏休み甚兵衛鮫に見飽きぬ子
産直の市にパインもマンゴーも
底知れぬ鍾乳洞の滝青し
荒波の蝕みし岩雲の峰
夕凪の瀬戸内海を眼下にす
その底を心に計り蝉の穴
蝉時雨にも序破急のありにけり
梢までつらなり続く蝉の殻
空蝉の登りきったる力かな
空蝉の爪立ててゐる力かな
虫籠の空蝉見せてくれたる子
空蝉の風にさらはれゆきにけり
睡蓮の花の色気に屈みゐる
相ともに浴衣で夜の美術館
椰子茂るここは南国阿波踊り
眠る子を抱へて母の阿波踊り
外つ国の人も繰り出し阿波踊り
潮の香を運び来る風阿波踊り
踊り子に団扇を貰ふ阿波踊り
雨上がり熱気も上り阿波踊り
二日目はTシャツを着て阿波踊り
踊り果て朝の光のやはらかし
蝉時雨尽きたる夜の虫時雨
半世紀続く絆やお中元
土地の幸贈り贈られお中元
みちのくの被災地からもお中元
添へ書きの心に染みてお中元
これやこのレシピ添へありお中元
その土地の旬の香りやお中元
気遣ひのチルド便なるお中元
裾分けの子供に持たすお中元
熱中症警報つづく残暑なほ
なほ残暑厳しき中を喪服着て
ふじごろも纏はり付ける残暑かな
ランニングシャツ一枚で通す夏
その声の途切れ途切れや秋の蝉
独唱の声なほ熱し秋の蝉
秋の蝉黙を尽くしてぢっとゐる
一見の満身創痍秋の蝉
枝移る余力のありて秋の蝉
新涼の天地果てまでありにけり
深呼吸して新涼の中にゐる
梅雨晴間眼下に鳴門見て旅へ
梅雨晴間四国三郎見下ろして
梅雨晴間今半日で着くマニラ
フィリピンに広き湖あり雲の峰
世界一なる小火山雲の峰
フィリピンの空は真青や雲の峰
フィリピンの真っ赤な花と雲の峰
雲の峰ココナツ林どこまでも
ブーゲンビレアモンテンルパの墓を守り
パイナップルバナナマンゴー路辺に売り
スコールの街を洗ってゆきにけり
百日紅ホセ・リサールの像若し
リサールの処刑への道カンナ咲く
睡蓮やサンチャゴ砦のむかし今
要塞の堀の深さう未草
幽閉の城跡のカンナ真っ赤なる
椰子茂るビーチホテルのプールかな
椰子茂るビーチは夕焼なるマニラ
裸灯を点し魚売る夜店かな
膳のもの夜店に買ひし魚ばかり
店頭の魚即料理して夜店
雲の峰珊瑚の海の青くして
果てまでも地球は青し雲の峰
雲の峰海青くして島浮ぶ
南海に多き島々雲の峰
梅雨霧の中にすっぽり秋津島
潮風の弁天島の花火かな
椰子茂る弁天島の花火かな
舟出して弁天島の花火見る
舟に見る弁天島の花火かな
揚げ花火揚ぐる呼吸のありにけり
席譲り譲り合ひして花火見る
夜の更けて花火の色のいよいよに
こんなにも星ある夜とは花火果つ
筧より落つる水音未草
山寺の池透き通り未草
睡蓮の葉陰より鯉浮き上がる
切り株の杉の年輪寺涼し
向日葵や懐かしき人皆元気
懐かしき笑顔に出会ふ梅雨晴間
初盆の真菰草履の並ぶ店
早々と草の市立つ村過ぐる
店頭にあり真菰牛真菰馬
長鳴きも一口鳴きもほととぎす
白南風を刻みて回る風車かな
草仕事牛に任せて放牧す
崩れ咲く紫陽花谷を埋め尽くし
牛の艶よし高原の涼しさに
白南風の風車大きく回りけり
白南風に回る風車の大きさよ
四つ相撲制し横綱汗滂沱
ノーヒットノーランするも汗の技
乳飲み子の汗を拭える母も汗
水飲めば飲むほど汗の止まらず
血糖値など知らぬこと麦茶飲む
冷蔵庫開ければ麦茶定位置に
飲みに飲みまことに麦茶ありがたく
くせのなく殊に麦茶のありがたく
一声のやがて千声蝉時雨
輪唱のやうに始まり蝉時雨
ピアニッシモフォルテッシモも蝉時雨
蝉時雨あっけらかんと止みにけり
水遊びすっぽんぽんの男児にて
尺取の次の一歩の思案かな
枝になりきってしまひて尺取に
吾のビール妻の梅酒で祝杯す
古梅酒の梅を取り出しデザートに
年々に琥珀増しゆく梅酒かな
食前の酒は梅酒といつも聞く
潜水橋飛び込み台にして泳ぐ
かなづちも遠泳防衛大なりし
防大は男子女子とも遠泳す
噴水の天辺の水攻めぎ合ひ
咲き初むはこの株が先づ花菖蒲
ちらほらと咲くもまたよし花菖蒲
菖蒲園開くを待ちゐる客数多
花菖蒲咲き初め杜鵑花盛りなる
終の皮音して落ちて今年竹
枯れているやうな一幹竹の秋
二番花咲くを待ちゐて花菖蒲
莕菜の水狭め咲く明るさよ
十薬の白仄かなる昼の闇
いたいけな花と見てをり雪の下
外つ国の人は日焼けを楽しみて
東京の顔のお披露目近き夏
復元す明治の駅舎雲の峰
噴水や皇居外苑ひろびろと
東京の都心に緑あふれゐて
噴水の千変万化見て飽きず
迫り出せる若葉明りの街にあり
香をたどり行けば確かに花蜜柑
雨の日の香の消え消えに花蜜柑
闇夜にて蜜柑の花の香り濃し
舟底の形に甘藷苗並べ
甘藷植う一家総出でありにけり
畑毎に玉葱小屋や淡路島
玉葱の満艦飾や小屋どこも
いただきし玉葱軒に吊し干す
平等院阿の字の池の羊草
正面に鳳凰堂や青楓
あめんぼう平等院の池静か
新茶の香平等院の参道に
宇治なれや店毎新茶振舞はれ
日向より日陰の殊に濃紫陽花
紫陽花の一万株てふ寺苑かな
山麓に三室戸寺あり濃紫陽花
対岸の紫陽花ことに色めきて
全山の紫陽花見ゆる茶店かな
蝸牛角出してゐる雨の午後
殻閉じて金輪際に蝸牛
蝸牛スローライフの羨し
蝸牛日程表に関はらず
蝸牛日々急くことのなかりけり
西日本梅雨入り今日の蝸牛
又鳴きて又又鳴きてほととぎす
鳴くときは続けざまなりほととぎす
平らなる眉山山頂ほととぎす
雨雲の覆ひし下界ほととぎす
梅雨霧の底なる下界ほととぎす
野を分かつ大河一筋ほととぎす
紫陽花の色を極めて雨上る
何もなくただ黙々と梅雨籠り
梅雨の日は回覧板も長居して
荒れ梅雨を集ひし衆に囲まれて
梅雨の日の明るき花を贈られて
贈られし花に朝より梅雨晴れて
灯取虫バックミラーにこびりつき
梅雨晴れて水田の光乱反射
田を渡る風のやさしき梅雨晴れ間
これほどの暴れ梅雨とは知らざりき
リスボンは大陸の果てモラエス忌
大陸の果てより果てへモラエス忌
その像の視線は西へモラエス忌
学校に移りし像やモラエス忌
閑静な路地に像ありモラエス忌
時折は泡の吹き出づ草清水
時折は息を継ぐらし草清水
閉ざされし園森閑と濃紫陽花
清水湧く隣り泉の湧く木陰
ちょろちょろと又ちょろちょろと草清水
老鶯の鳴き止みしかばほととぎす
こはれたるやうに泰山木の散り
鈴生りの楊梅見捨てられてをり
父の日を子の嫁たちが祝ひくれ
父の日を父となりたる子と祝ふ
父の日も父は寡黙でありにけり
父の日に父の似顔絵贈られし
明易のテレビニュースを二度三度
明易や朝刊三紙読みてなほ
二度三度寝返りをして明易し
御手洗に鮒の子泳ぎ夏に入る
新緑は新緑として竹の秋
竹の秋電車に乗ってあっけなし
孫のためためにと竹の葉を落とす
落葉して差し込む光今年竹
石楠花の紅一点といふ老樹
登り窯けふもお休み蟻地獄
息つく間なきうぐひすの谷渡り
淡竹の子ところかまはず出でにけり
淡竹にて筍鮨の終はりけり
父も子も夢に乗りをり子供の日
芍薬の色の浮き立つ日差かな
日の差せば芍薬ことに輝きて
遅かりし梅のこんなに実をつけて
昼暗き遍路径抜け柿若葉
野も山も新樹明りの明るさよ
遠目にも新樹明かりの野の札所
やさしくてまぶしき新樹明りかな
東京の花のお江戸となる祭
気風良きをのこをみなの夏祭
気風良き江戸の言葉や夏祭
品川に始まる江戸の夏祭
舟渡御の海埋められてしまひけり
日食の金環を見て夏帽子
船遊びスカイツリーを横に見て
長谷寺を巡りてをればほととぎす
名ばかりの池を離れぬ蜻蛉かな
いつまでも水を離れぬ蜻蛉かな
落ちて知る嵩でありけりえごの花
極めたる白でありけり海芋咲く
洋館の文学館の薔薇まつり
鎌倉は文人の町薔薇の花
皇居見ゆ大緑陰のベンチより
皇居前大緑陰を広げけり
皇居前噴水に臣茂の名
あめんぼう水輪残して跳びにけり
雪の下ところ狭しと咲く水場
家苞にせよとくれたる淡竹の子
崖を下り採ってくれたる淡竹の子
藻の花や谷戸の水場の静かなる
花咲くを待ちて十薬陰干しす
河鹿待つ耳にうぐひす鳴き止まず
鴨のゐて鳰と見ゆほど湖大き
これほどの残る鴨とは浮御堂
春の日にきらめく湖面浮御堂
低き雲淡海にあり初つばめ
春潮に洗はれてをり湖中句碑
花遅し奥院の花なればなほ
花馬酔木五重塔の日溜りに
その奥に御影堂あり落椿
門跡寺広き境内冴返る
この寺の桜いづれも花遅し
トンネルを予定し桜の植ゑられ
裏山の陵よりの初音かな
うぐひすや広き寺苑に我一人
一人ゐる我にうぐひす鳴き続け
一偶に朱の社あり春日差す
咲き初める三つ葉躑躅の朝の色
校門の桜満開入学式
手を挙げて入学式の子の返事
入学の子に連れられて父母ら
式場へ眉をきりりと入学児
入学の子の挨拶の歯切れよき
入学の子の教科書の進みやう
朝早き入学の子の長欠伸
華やぎを集めて桜咲き満てる
日本を覆ひ尽くして桜咲く
どっと咲きどっと散りゆく桜かな
山桜とはあちらにもこちらにも
雨に濡れ紅の色増す桜かな
外国の衆ら花見に城を見に
太平の世を謳歌して城の春
天守閣見上げ桜も見上げゐる
そのかみのことなど思う桜かな
お花見は西の丸よりせられよと
広すぎるほどなる城の花見かな
城山の鷺の巣今年また増えて
天辺の鷺の巣番つがひかな
針金も見事に使ひ鴉の巣
電柱の天辺の巣にこふのとり
ひとところ水鳥の巣のある中洲
春日傘傾げあいさつお互ひに
紫外線恐るる齢春日傘
紫外線強し恐しと春日傘
花吹雪芝居の幟並ぶ坂
花屑の道をたどりて金丸座
江戸の春讃岐に模して金丸座
配られし団扇小振りや金丸座
小振りなる団扇を使ひ芝居見る
金比羅の舞台の桜外の桜
花の下大立ち回り吉右衛門
啖呵切る役者の額玉の汗
襲名披露して金比羅の春に舞ふ
芝居見て帰る讃岐路鯉幟
さ緑の葉も見え牡丹桜かな
重なりて重なりて八重桜かな
天を突く樟の大樹の若葉時
富貴には無縁なれども牡丹好き
日向より日陰に生気牡丹かな
日陰日向日陰がよかり牡丹かな
味噌入れるだけの男の浅蜊汁
忽ちに出来て浅蜊のお味噌汁
この島の旬の浅蜊のよかりけり
大潮の島の干潮浅蜊狩
酒蒸しの浅蜊たちまち出来レンジ
苗代は作らず苗を買ふと云ふ
家毎に苗代ありし日の遠く
田の隅に小さき苗代作りあり
ぼうたんの風雨いとはぬ気品かな
七曜の風雨に咲きて散る牡丹
風雨にも崩れぬ気品牡丹咲く
しなやかに且つしたたかに牡丹咲く
したたかな牡丹宰相眠る寺
揺るるとはしたたかなこと牡丹咲く
雨の日の牡丹いよいよ艶やかに
楽日の金比羅芝居春は行く
行く春やこんぴらさんの芝居果つ
行く春やがらんどうなる金丸座
金比羅に落ち合ひ春を惜しみけり
吉右衛門見て金比羅に春惜しむ
金比羅の坂下りきて春惜しむ
金比羅の町を逍遥春惜しむ
金比羅の町漫ろ歩し春惜しむ
春惜しむ一日暮れてしまひけり
真っ先に来て落し角見つけしと
立派なる落し角なりかく重し
手にしたる落とし角なりかく重し
猪の髑髏もありて罠予感
道の辺に猟られし猪の髑髏
山中に猟られし猪の髑髏
捌かれし猪の跡ありはっきりと
蝌蚪生まる猪のぬた場でありにけり
うぐひすや山葵の花は未だなれど
梅林を登り詰めれば初音かな
落とし角一対にてはあらざりき
のれそれや土佐は南国春早し
のれそれといふのど越しをいただきぬ
教へられ頷いてゐる蜊蚪の紐
腸捻転とはかくあらん蜊蚪の紐
捻れゐてまた捻れゐる蜊蚪の紐
一筆のかくも長かり蜊蚪の紐
水底に泥まみれなり蜊蚪の紐
鳥の嘴忙しかりし地虫出づ
琉球の寒緋桜を江戸に見し
八重といふ寒緋桜の緋色かな
春の雪雪達磨には関はらず
青空も見えて降りけり春の雪
梅に来る目白神楽の鈴のごと
お水取り明けたる朝の尚寒し
吹く風に縺れては解けしだれ梅
省略の正調となる初音かな
引く鴨の帰り支度ぞそれぞれに
咲き満てる梅にやさしき日和かな
梅の香の寄せ来る間合ありにけり
白魚を待ち四手網並ぶ川
いとけなき川に白魚上り来し
この小さき川に白魚上り来し
透き通る水に白魚透き通る
なかんづく不漁の白魚祭り川
白魚の祭りの幕の垂るる川
白魚の祭りメニューを眺めゐる
潮時に白魚食べに来られよと
白魚を食べんとすれば朝来よと
紅紫濃くして黒椿とは如何に
外つ国の椿苗木も椿園
雄蕊なき侘助の花小振りなる
見るうちにつぼみ膨らむ花日和
咲き満ちて蜂須賀桜ちふは此れ
謡聞き蜂須賀桜眺めゐる
藩侯に賜るといふ桜咲く
予約済てふ骨付きの猪の肉
落し角対で販(ひさぎ)て野の市に
その写真付け諸々の苗木売る
小女子のちりめんじゃこの初物ぞ
お彼岸の野の市樒よく売れて
獲りたての猪の肉売る朝の市
猪獲りし場所は秘密と肉を売る
朝の市泥鰌に目高蝲蛄も
部屋中に届く明るさ春障子
春障子部屋に明るさとどこほり
暖かきことが何より野点かな
暖かや鯉の尾鰭のよく動く
開け放ちみたくなるもの春障子
春障子開ければ残る寒さあり
春障子越しに鳥声聞え来る
春障子その明るさの嬉しくて
水仙の逸り咲くこと一ヶ月
水仙の盛り寒さに早まると
水仙の仕舞の仕舞まで凜と
水仙の海へなだるる淡路かな
水仙のなだれ落ちゆく海の紺
水仙の風にしだるる海青し
聞き知りて遅き今年の梅探る
早咲きの梅に集まるカメラの目
蝋梅に遅速梅にも遅速あり
蝋梅の彼方に天守見ゆる園
梅遅き園に早咲き苗木売る
後ずさりまた近寄りて梅を見る
一巡しはじめの梅に佇める
秀頼の自刃せし跡花八手
内堀の鴨度外れに太き尻
まだ風のとんがってゐる梅二月
早梅の香の仄かとも幽かとも
梅園の真ん中梅の苗木売る
梅園の梅それぞれの花つぼみ
寒明けてよりの寒さのことさらに
寒明けは暦の上でありしのみ
日本橋より江戸前の海苔届く
チョコ貰ふバレンタインの日の句会
チョコ売場其処此処バレンタインの日
レジに列バレンタインのチョコ売場
遠目にてあればけぶりて梅の紅
まだ蕾なれども梅の香の仄か
野も山も眠たげにして春の雨
放蕩の息子の帰還恋の猫
放蕩の恋猫いづこより帰還
恋猫をレンブラントはどう描く
雨に濡れ泥にまみれて恋の猫
白猫を追って黒猫恋のころ
尾を垂らし垂らしてゐるも恋の猫
七曜を朝帰りせしうかれ猫
誰彼の死をふと思ふ春の風邪
流感を怖れてゐしが春の風邪
束の間に消えてしまひし春の雪
申し訳なさうに梅咲きゐたる
城山は原生の森花山葵
解け残る雪で作りし達磨かな
雪達磨作らむと稚児走り出す
子と母のいやあどけなき雪達磨
城山の空縦横に初燕
春の雪消えたるあとに佇めり
二の丸は雑木林や百千鳥
二の丸にあり武蔵野は百千鳥
道灌の植ゑたると云ふ梅遅し
道灌の梅道灌の城に咲き
橘のどの実にもあり嘴の跡
橘の実の大方は鳥突く
金よりも黄金色なり福寿草
木漏れ日にまぶしかりけり福寿草
福寿草萌え出づ土のやはらかし
歯医者への道にいつものいぬふぐり
紐と云ふものは見えねど蝌蚪の紐
ふんわりと水に漂ふ蝌蚪の紐
あんパンのやうな形の蝌蚪の紐
マシュマロかゼリーの菓子か蝌蚪の紐
芥子粒のやうな一つが蝌蚪となり
生まれ出づ蝌蚪の早くも尾を振りて
生まれ出しばかりの蝌蚪の寄り添ひて
閑散とせし野に出れば初音かな
鳴くたびに音色整ふ初音かな
聴くほどにほどに滑らかなる初音
咲かんとす枝もろともに剪定す
浜に釜設へ若布刈舟を待つ
若布刈舟傾ぎしままに帰りけり
湯通しのたちまち緑なる若布
焚きてをり若布の色を終始見て
若布焚く色眼裏にとどめゐて
新若布和布蕪を添へて持ちくれし
つくづくと昔は豪華雛人形
名人の作りし雛の見て飽きず
名人のをりしは昔雛人形
自然体なるが品格雛人形
飾られて笑み忘れざる雛人形
仕舞ふより飾られてこそ雛人形
家族引き元の二人となる四日
山の湯に妻と来てゐる四日かな
山の湯に伸ばす四日の四肢五体
玄関を開けて賀状の束届く
年賀状読みゐるうちに一ト日暮れ
いずれ無事そんな賀状の多き年
年賀状など見て電話したくなり
賀状来るアルゼンチンの田舎より
お互いに無事を喜びゐる賀状
電話せり賀状来ぬ人来し人も
来年は失礼と書く賀状来る
日本は礼節の国年賀状
禿木の天辺にをり初鴉
群つくり中洲占領初鴉
初鴉境内狭め基地作り
芹薺バイキング式朝餉にも
常宿は今年も用意薺粥
薺打つ唐土の鳥の母の唄
福笹に群るるバーゲン売場かな
宵えびすよりデパートへ直行す
買初のうまいもの市巡りかな
完熟の檸檬にカプリ島をふと
踏みて知る落葉の嵩でありにけり
日の差して落葉の径の明るさよ
艶やかな落葉の径でありにけり
この苗木植うも廃校記念なり
廃校の農大牛は日向ぼこ
つい踏みてみたきは今朝の霜柱
首塚の閼伽に薄氷漂ひて
あるはずと探せばありし竜の玉
竜の玉探す幼き日に帰り
蝋梅の古木と残る長屋門
蝋梅の老樹天より香を降らす
妖艶のその香にをりて古蝋梅
黄水仙水仙競ひ咲ける庭
北風の石塀の道吹き抜けし
小さくとも眼光厳し鵟かな
冬の鷭太き尻より着水す
遠目にも長元坊のホバリング
鵟ゐて動かぬ園の静寂かな
まづ鵟見せてくれたる遠眼鏡
採りし海苔その日のうちに洗ひ干す
海の水ポンプで流し海苔洗ふ
見頃なる頃に会へたり寒牡丹
寒牡丹見頃の園の切符買ふ
晴れ着着し少女の如し寒牡丹
寒牡丹とは清清しかくもまあ
寒牡丹咲き継ぐ上野東照宮
深々と蓑を被りて寒牡丹
上品や丈低くして寒牡丹
寒牡丹小輪なれど凛とあり
寒牡丹百に百ある佇まひ
寒牡丹株毎に句の添へられて
同じものなき百株の寒牡丹
美しき小顔とも見て寒牡丹
雪国の少女の如し寒牡丹
寒牡丹園の出口の甘酒屋
寒牡丹見て来てホットミルク飲む
万作や上野東照宮に咲く
三椏の恥じらひながら咲きにけり
蝋梅の蝋の透け行く今朝の雨
冬枯れの園にクロガネモチの赤
初旅の錦帯橋を渡りけり
風花の錦帯橋となりにけり
寒風の錦帯橋に容赦なし
露天湯に冬のオリオン仰ぎゐる
瑠璃光寺境内広し梅探る
国宝の五重塔や雪晴れて
萩へ行く旧道雪に閉ざされて
仰ぎゐる鷹棲む塔の高さかな
門司港は吹きっ曝しよ寒灯
寒の宮裸電球一つかな
レトロなる街に寒灯暖かく
レトロなる街の寒灯黄ばみゐて
天然の虎河豚入荷確かめて
まづ見せて虎河豚捌く料理人
一抱へする虎河豚の大きさよ
虎河豚の大きさ河豚と比較して
虎河豚の一尾四人に余るほど
本物の虎河豚食べにはるばると
河豚づくし完食したる三時間
石蓴浮く海に朱塗りの鳥居かな
宮島の旧家の庭の実南天
お屋敷の庭の広さや実南天