今月の俳句

2012年12月

柚搾る夫の仕事と任されて

洗ひたる洗ひたる手に柚搾る

取れ立てと持ち来てくれし柚搾る

一個づつ切り半分に柚搾る

香を放ち滴る果汁柚搾る

柚搾り終えたるあとの柚湯かな

搾りかす袋に詰めし柚湯かな

たっぷりと柚あそばせし湯に浸かる

温もりと残る香りの柚湯かな

目覚めゐて柚の香りの残る朝

病む足に熱き柚湯のありがたく

妊婦ゐし立ち入り禁止風邪の神

風邪の子を預かり一日暮れにけり

よく動く風邪の子の熱引きたるよ

真青なる空に銀杏の照葉かな

雲一つなき空青し銀杏散る

日の差せる銀杏照葉の眩しさよ

銀杏散る十重に二十重に敷き詰めて

まだ緑残れるものも落葉して

とりどりの落葉の色でありにけり

老銀杏総身黄葉尽くしけり

今生の幾星霜を銀杏散る

北欧で買ひしセーター子の子へと

手編みなるこのセーターの子の子へと

子に買ひし手編みセーター子の子へと

北欧でセーター買ひし日の遠く

セーターに着替えホテルの客となる

看護師はセーターまでもユニフォーム

湯田の湯の旅館虎河豚まづ見せて

虎河豚と河豚を並べて見せてくれ

虎河豚と普通の河豚を並べ見せ

虎河豚は大きかりけり河豚小さし

しかと見しあの虎河豚の料らるる

虎河豚の一尾で四人河豚尽くし

飛ぶやうに去りし一年年忘

期日前投票済ませ年忘

転勤の人送り出す年忘

オペラ観て遅参いたせり年忘

日ごろ見ぬ人にも会へて年忘

年忘卒寿の歌ふ流行歌

つるし柿揉めば甘さの増すと聞き

つるし柿揉む役割を任されて

つるし柿揉む手の平を温めつ

つるし柿仕上げの風を待ってをり

つるし柿揉めば揉むほど艶の出て

艶もよく仕上がりにけりつるし柿

かく甘き干し柿作り先づ自慢

潮吹きて後退りする海鼠かな

ビールにも清酒にも合ふ海鼠かな

歯応へといふ嬉しさの海鼠かな

酢橘酢のいと良かりしよ海鼠食ぶ

柚二つなれども柚湯なりしかな

風に向き身じろぎもせず鴨の陣

疾く泳ぐ鴨の首のつんのめり

風吹かば吹けとばかりに鴨の陣

飛び立てる鴨の阿吽の呼吸かな

陣の鴨飛び立ち一羽残りたる

風の来ぬ日溜り選びゐる鴨も

川縁に上がりしも鴨風に向き

風呂吹の味噌に柚なる隠し味

風呂吹の角の丸めてありにけり

風呂吹の味の母親譲りなる

舌焦がす風呂吹にふと母のこと

何もなき冬田ばかりの続く村

二毛作など遠き日の冬田かな

眠りゐる冬田に日差明るかり

2012年11月

虎造の森の石松聴く小春

図書館で世界遺産を読む小春

冬薔薇に射して朝日や硝子窓

咲き初めていづれも小振り冬薔薇

どの名札見ても片仮名冬薔薇

農村の環境展示蕎麦の花

客引きの上野公園蕎麦の花

復元の東京駅を見る小春

冬晴や大正ロマン香る駅

赤煉瓦まぶしき駅舎冬日差す

老舗なる豆腐料理屋芒活け

冬灯まばゆき銀座四丁目

奥多摩に列なして買ふ新酒かな

辛口もほんのり甘き新酒かな

辛口の友と甘口新酒酌む

銀杏のところ狭しと散らばれる

日向より日陰色よし秋桜

コスモスの丘越えて又丘越えて

コスモスの十重に二十重に続く丘

コスモスやそれと分かりて基地の跡

コスモスの四百万本まなかひに

懐古園巡れば黄葉紅葉かな

即売の鉢植えもあり菊花展

懐古園紅葉まつりに菊花展

上田城紅葉明りに櫓立つ

高原の朝の光や冬紅葉

浅間山野山の錦果てもなく

浅間山錦の色を野へと引く

剥き出しの鬼押出も紅葉して

湯に仰ぐ草津の紅葉ことに濃く

紅葉を四囲に草津の露天の湯

灯りゐて草津山の湯暮早し

湯畑に影濃く迫り冬に入る

蔦紅葉華厳の滝の崖深し

音のして紅葉の中を落つる滝

境内は風の遊び場神の留守

奥宮に行く人もなき神の留守

神留守の鬼押出に人出なく

きっぱりと暦違えず冬に入る

冬に入る暦の通り冬に入る

暦日のよろよろとして冬に入る

車椅子頼る身となり冬籠り

凩に心もとなき松葉杖

歩くことできぬ身となり暮早し

坪庭の草紅葉見て一日暮れ

歩くことできる身となり根深汁

歩けるといふありがたさ根深汁

松葉杖卒業の日の根深汁

変らざる日々でありたし根深汁

恙なきことこそよけれ根深汁

切干をひろぐ日当る風の道

切干を干す母の手の白さかな

2012年10月

咲き咲きて白のまぶしき玉簾

人一人をらぬ渚の水澄みて

彼岸花咲く遠き畦近き畦

田の隅はいづこも卍稲を刈る

堤防にパラソル立てて鯊を釣る

犬山の城は国宝菊日和

秋の灯や城下に老舗多かりし

竹の春とはこんなにも明るくて

国宝の茶室への道初黄葉

蚊遣香焚きて客待つ茶室かな

栗の毬落つ庭先の静かなる

輝ける一叢のあり竹の春

日当りの棚田棚田の稲架襖

木洩れ日に銀の罠糸蜘蛛の糸

蜘蛛の囲に図面と言ふはなかりけり

秋の蚊に幽かな音も聞けずなり

知らぬ間に刺されてをりぬ秋の蚊に

日陰ほど露草色を濃くしたり

国宝の茶室これより萩の道

町中の畑の畑に蕎麦の花

さわやかや箒目残る庭巡る

さわやかや朝一番に巡る庭

さわやかや朝一番の露天の湯

嵐去り雲も去り行きけふの月

望の月嵐の後の静けさに

秋晴や光ケーブル我が家にも

はいはいをして赤ちゃんの運動会

泣く子ありあやす母あり運動会

駆けっこに集る視線運動会

父の手を引いて走る子運動会

運動会には青空と万国旗

朝の間に終はる園児の運動会

運動会終はり待ちかね昼寝の子

鷹を待つ鳴門の空の高さかな

渡る鷹待ちつ眺めて昼の月

鷹渡る鳴門の空の広さかな

渡るはず渡るはずとて鷹を待つ

これほどの日本晴れを鷹の来づ

鷹日和信じてをりぬ鷹を待つ

鷹渡る空の高さを鳶舞ふ

上げ潮の鳴門海峡鵯渡る

休日の一羽見えず渡る鷹

玄関に山雀の来るホテルかな

蘭草に浅黄斑の来る古刹

藤袴浅黄斑の平伏す

沼日和犇く菱の実をつけて

水平ら池一面の菱紅葉

初鴨の菱の実の池欲しいまま

これほどの菱の実の採り尽くさるる

蟷螂の目の色ライトブルーかな

辻毎にして木犀の香りかな

国分寺巡る水路の水澄みて

植木屋の朝は早かり松手入

全体を眺めてよりの松手入

天辺に始まってゐる松手入

年毎に広げし枝の松手入

年毎に枝の混みあふ松手入

年毎に整ふ形松手入

五年かけ描きし形に松手入

半日が一日となりて松手入

一本に一日掛かりの松手入

松手入済みたる空の広さかな

松手入済みて始まる松談義

その茎に紫及び藤袴

藤袴白磁に活けてよかりけり

デパートの地下に地産の松茸も

地産なる高嶺の花の松茸は

外つ国の松茸の肌白きこと

空飛んで来し松茸の香の淡し

猪垣と言ふといえどもかく低き

鹿垣を屋敷畑に回らせて

屋敷ごと囲ひてありぬ鹿の垣

猪垣のところどころの繕はれ

御苑にも雑木林や木の実落つ

武蔵野を模したる御苑木の実落つ

近道はこごしき小径木の実降る

木の実落つ道より木の実降る径へ

秋に出る土佐の筍持ちくれし

糠は否秋の筍茹で上がる

淡々し秋筍の風味かな

2012年9月

雨多き年や九月に梅を干す

梅干して変はらぬ里の暮しかな

帰り咲く藤の紫透き通る

その声の尽き果つるまで秋の蝉

その声のピアニッシモに秋の蝉

息継ぐ間次第に長き秋の蝉

秋雲に夏雲なほもせめぎ合ひ

戴きし高原そだち唐黍を

高原の唐黍噛めば甘さかな

香りして玉蜀黍の茹で上がる

採れたての玉蜀黍をさっと茹で

舌焦がす玉蜀黍を丸かじり

高原の唐黍たちまちに茹でる

大空に雲湧く如く去ぬ燕

先達のゐるとは見えず去ぬ燕

見送りぬ帰る燕のこれほどを

先陣のはや雲となり去ぬ燕

秋の灯や世界遺産の旅行本

秋の灯や薄くなりたるホトトギス

秋灯下奥の細道音読す

公園の彫刻展に赤とんぼ

遅れ咲く色淡々と百日紅

透き通る白は白花百日白

重陽のけふも咲き継ぎ百日紅

鷹渡る淡路の空を後にして

ギャラリーの見守るなかで鱚の釣れ

鱚を釣る釣るといふより釣れてをり

鰯雲変り変らぬ砂丘かな

再会の砂丘に立ちて鰯雲

鰯雲砂丘の空に広がりぬ

砂丘越え又又砂丘鰯雲

何処までも遠州灘や鰯雲

青空やコスモスの原ひろびろと

青空にそよ風に媚び秋桜

大の字になって寝てゐる帰省の子

大の字に居間に寝ね居て帰省の子

舟で行く広き花野でありにけり

舟で行く花野にありし一航路

その奥は「モネの池」なる花野かな

原色の異国の花の咲く花野

西窓に色褪せしまま秋簾

西窓に傾きしまま秋簾

色褪せて風の意のまま秋簾

凛とあり大観峰の女郎花

大阿蘇の風の強さよ女郎花

草どれも丈低き阿蘇女郎花

丈いづれ低くて阿蘇の女郎花

女郎花丘を越えれば男郎花

夜汽車より見る秋灯の町や街

闇の夜の秋灯の赤胸さわぎ

雪国の闇の深さよ秋灯

蔓引けば絡みからみて烏瓜

烏瓜真っ赤や里の空青く

咲き初めてなるほどタデ科藍の花

丁寧に一葉残さず破芭蕉

阿波にしてハウスにバナナ実をつけて

花バナナ室に咲かせて藍寝かす

花バナナ室に咲かせて此処は阿波

一揆ありし里はこの辺曼珠沙華

田の隅に先祖の墓や曼珠沙華

2012年8月

我先に浜へ駆け出す裸の子

甲羅干し日焼け恐れぬ都会の子

カラフルや珊瑚の浜の砂日傘

琉球の海は真青や雲の峰

琉球の歴史の島や波涼し

琉球のおばばのお洒落サングラス

涼しさの水族館でありにけり

夏休み甚兵衛鮫に見飽きぬ子

産直の市にパインもマンゴーも

底知れぬ鍾乳洞の滝青し

荒波の蝕みし岩雲の峰

夕凪の瀬戸内海を眼下にす

その底を心に計り蝉の穴

蝉時雨にも序破急のありにけり

梢までつらなり続く蝉の殻

空蝉の登りきったる力かな

空蝉の爪立ててゐる力かな

虫籠の空蝉見せてくれたる子

空蝉の風にさらはれゆきにけり

睡蓮の花の色気に屈みゐる

相ともに浴衣で夜の美術館

椰子茂るここは南国阿波踊り

眠る子を抱へて母の阿波踊り

外つ国の人も繰り出し阿波踊り

潮の香を運び来る風阿波踊り

踊り子に団扇を貰ふ阿波踊り

雨上がり熱気も上り阿波踊り

二日目はTシャツを着て阿波踊り

踊り果て朝の光のやはらかし

蝉時雨尽きたる夜の虫時雨

半世紀続く絆やお中元

土地の幸贈り贈られお中元

みちのくの被災地からもお中元

添へ書きの心に染みてお中元

これやこのレシピ添へありお中元

その土地の旬の香りやお中元

気遣ひのチルド便なるお中元

裾分けの子供に持たすお中元

熱中症警報つづく残暑なほ

なほ残暑厳しき中を喪服着て

ふじごろも纏はり付ける残暑かな

ランニングシャツ一枚で通す夏

その声の途切れ途切れや秋の蝉

独唱の声なほ熱し秋の蝉

秋の蝉黙を尽くしてぢっとゐる

一見の満身創痍秋の蝉

枝移る余力のありて秋の蝉

新涼の天地果てまでありにけり

深呼吸して新涼の中にゐる

2012年7月

梅雨晴間眼下に鳴門見て旅へ

梅雨晴間四国三郎見下ろして

梅雨晴間今半日で着くマニラ

フィリピンに広き湖あり雲の峰

世界一なる小火山雲の峰

フィリピンの空は真青や雲の峰

フィリピンの真っ赤な花と雲の峰

雲の峰ココナツ林どこまでも

ブーゲンビレアモンテンルパの墓を守り

パイナップルバナナマンゴー路辺に売り

スコールの街を洗ってゆきにけり

百日紅ホセ・リサールの像若し

リサールの処刑への道カンナ咲く

睡蓮やサンチャゴ砦のむかし今

要塞の堀の深さう未草

幽閉の城跡のカンナ真っ赤なる

椰子茂るビーチホテルのプールかな

椰子茂るビーチは夕焼なるマニラ

裸灯を点し魚売る夜店かな

膳のもの夜店に買ひし魚ばかり

店頭の魚即料理して夜店

雲の峰珊瑚の海の青くして

果てまでも地球は青し雲の峰

雲の峰海青くして島浮ぶ

南海に多き島々雲の峰

梅雨霧の中にすっぽり秋津島

潮風の弁天島の花火かな

椰子茂る弁天島の花火かな

舟出して弁天島の花火見る

舟に見る弁天島の花火かな

揚げ花火揚ぐる呼吸のありにけり

席譲り譲り合ひして花火見る

夜の更けて花火の色のいよいよに

こんなにも星ある夜とは花火果つ

筧より落つる水音未草

山寺の池透き通り未草

睡蓮の葉陰より鯉浮き上がる

切り株の杉の年輪寺涼し

向日葵や懐かしき人皆元気

懐かしき笑顔に出会ふ梅雨晴間

初盆の真菰草履の並ぶ店

早々と草の市立つ村過ぐる

店頭にあり真菰牛真菰馬

長鳴きも一口鳴きもほととぎす

白南風を刻みて回る風車かな

草仕事牛に任せて放牧す

崩れ咲く紫陽花谷を埋め尽くし

牛の艶よし高原の涼しさに

白南風の風車大きく回りけり

白南風に回る風車の大きさよ

四つ相撲制し横綱汗滂沱

ノーヒットノーランするも汗の技

乳飲み子の汗を拭える母も汗

水飲めば飲むほど汗の止まらず

血糖値など知らぬこと麦茶飲む

冷蔵庫開ければ麦茶定位置に

飲みに飲みまことに麦茶ありがたく

くせのなく殊に麦茶のありがたく

一声のやがて千声蝉時雨

輪唱のやうに始まり蝉時雨

ピアニッシモフォルテッシモも蝉時雨

蝉時雨あっけらかんと止みにけり

水遊びすっぽんぽんの男児にて

尺取の次の一歩の思案かな

枝になりきってしまひて尺取に

吾のビール妻の梅酒で祝杯す

古梅酒の梅を取り出しデザートに

年々に琥珀増しゆく梅酒かな

食前の酒は梅酒といつも聞く

潜水橋飛び込み台にして泳ぐ

かなづちも遠泳防衛大なりし

防大は男子女子とも遠泳す

2012年6月

噴水の天辺の水攻めぎ合ひ

咲き初むはこの株が先づ花菖蒲

ちらほらと咲くもまたよし花菖蒲

菖蒲園開くを待ちゐる客数多

花菖蒲咲き初め杜鵑花盛りなる

終の皮音して落ちて今年竹

枯れているやうな一幹竹の秋

二番花咲くを待ちゐて花菖蒲

莕菜の水狭め咲く明るさよ

十薬の白仄かなる昼の闇

いたいけな花と見てをり雪の下

外つ国の人は日焼けを楽しみて

東京の顔のお披露目近き夏

復元す明治の駅舎雲の峰

噴水や皇居外苑ひろびろと

東京の都心に緑あふれゐて

噴水の千変万化見て飽きず

迫り出せる若葉明りの街にあり

香をたどり行けば確かに花蜜柑

雨の日の香の消え消えに花蜜柑

闇夜にて蜜柑の花の香り濃し

舟底の形に甘藷苗並べ

甘藷植う一家総出でありにけり

畑毎に玉葱小屋や淡路島

玉葱の満艦飾や小屋どこも

いただきし玉葱軒に吊し干す

平等院阿の字の池の羊草

正面に鳳凰堂や青楓

あめんぼう平等院の池静か

新茶の香平等院の参道に

宇治なれや店毎新茶振舞はれ

日向より日陰の殊に濃紫陽花

紫陽花の一万株てふ寺苑かな

山麓に三室戸寺あり濃紫陽花

対岸の紫陽花ことに色めきて

全山の紫陽花見ゆる茶店かな

蝸牛角出してゐる雨の午後

殻閉じて金輪際に蝸牛

蝸牛スローライフの羨し

蝸牛日程表に関はらず

蝸牛日々急くことのなかりけり

西日本梅雨入り今日の蝸牛

又鳴きて又又鳴きてほととぎす

鳴くときは続けざまなりほととぎす

平らなる眉山山頂ほととぎす

雨雲の覆ひし下界ほととぎす

梅雨霧の底なる下界ほととぎす

野を分かつ大河一筋ほととぎす

紫陽花の色を極めて雨上る

何もなくただ黙々と梅雨籠り

梅雨の日は回覧板も長居して

荒れ梅雨を集ひし衆に囲まれて

梅雨の日の明るき花を贈られて

贈られし花に朝より梅雨晴れて

灯取虫バックミラーにこびりつき

梅雨晴れて水田の光乱反射

田を渡る風のやさしき梅雨晴れ間

これほどの暴れ梅雨とは知らざりき

リスボンは大陸の果てモラエス忌

大陸の果てより果てへモラエス忌

その像の視線は西へモラエス忌

学校に移りし像やモラエス忌

閑静な路地に像ありモラエス忌

時折は泡の吹き出づ草清水

時折は息を継ぐらし草清水

閉ざされし園森閑と濃紫陽花

清水湧く隣り泉の湧く木陰

ちょろちょろと又ちょろちょろと草清水

老鶯の鳴き止みしかばほととぎす

こはれたるやうに泰山木の散り

鈴生りの楊梅見捨てられてをり

父の日を子の嫁たちが祝ひくれ

父の日を父となりたる子と祝ふ

父の日も父は寡黙でありにけり

父の日に父の似顔絵贈られし

明易のテレビニュースを二度三度

明易や朝刊三紙読みてなほ

二度三度寝返りをして明易し

2012年5月

御手洗に鮒の子泳ぎ夏に入る

新緑は新緑として竹の秋

竹の秋電車に乗ってあっけなし

孫のためためにと竹の葉を落とす

落葉して差し込む光今年竹

石楠花の紅一点といふ老樹

登り窯けふもお休み蟻地獄

息つく間なきうぐひすの谷渡り

淡竹の子ところかまはず出でにけり

淡竹にて筍鮨の終はりけり

父も子も夢に乗りをり子供の日

芍薬の色の浮き立つ日差かな

日の差せば芍薬ことに輝きて

遅かりし梅のこんなに実をつけて

昼暗き遍路径抜け柿若葉

野も山も新樹明りの明るさよ

遠目にも新樹明かりの野の札所

やさしくてまぶしき新樹明りかな

東京の花のお江戸となる祭

気風良きをのこをみなの夏祭

気風良き江戸の言葉や夏祭

品川に始まる江戸の夏祭

舟渡御の海埋められてしまひけり

日食の金環を見て夏帽子

船遊びスカイツリーを横に見て

長谷寺を巡りてをればほととぎす

名ばかりの池を離れぬ蜻蛉かな

いつまでも水を離れぬ蜻蛉かな

落ちて知る嵩でありけりえごの花

極めたる白でありけり海芋咲く

洋館の文学館の薔薇まつり

鎌倉は文人の町薔薇の花

皇居見ゆ大緑陰のベンチより

皇居前大緑陰を広げけり

皇居前噴水に臣茂の名

あめんぼう水輪残して跳びにけり

雪の下ところ狭しと咲く水場

家苞にせよとくれたる淡竹の子

崖を下り採ってくれたる淡竹の子

藻の花や谷戸の水場の静かなる

花咲くを待ちて十薬陰干しす

河鹿待つ耳にうぐひす鳴き止まず

2012年4月

鴨のゐて鳰と見ゆほど湖大き

これほどの残る鴨とは浮御堂

春の日にきらめく湖面浮御堂

低き雲淡海にあり初つばめ

春潮に洗はれてをり湖中句碑

花遅し奥院の花なればなほ

花馬酔木五重塔の日溜りに

その奥に御影堂あり落椿

門跡寺広き境内冴返る

この寺の桜いづれも花遅し

トンネルを予定し桜の植ゑられ

裏山の陵よりの初音かな

うぐひすや広き寺苑に我一人

一人ゐる我にうぐひす鳴き続け

一偶に朱の社あり春日差す

咲き初める三つ葉躑躅の朝の色

校門の桜満開入学式

手を挙げて入学式の子の返事

入学の子に連れられて父母ら

式場へ眉をきりりと入学児

入学の子の挨拶の歯切れよき

入学の子の教科書の進みやう

朝早き入学の子の長欠伸

華やぎを集めて桜咲き満てる

日本を覆ひ尽くして桜咲く

どっと咲きどっと散りゆく桜かな

山桜とはあちらにもこちらにも

雨に濡れ紅の色増す桜かな

外国の衆ら花見に城を見に

太平の世を謳歌して城の春

天守閣見上げ桜も見上げゐる

そのかみのことなど思う桜かな

お花見は西の丸よりせられよと

広すぎるほどなる城の花見かな

城山の鷺の巣今年また増えて

天辺の鷺の巣番つがひかな

針金も見事に使ひ鴉の巣

電柱の天辺の巣にこふのとり

ひとところ水鳥の巣のある中洲

春日傘傾げあいさつお互ひに

紫外線恐るる齢春日傘

紫外線強し恐しと春日傘

花吹雪芝居の幟並ぶ坂

花屑の道をたどりて金丸座

江戸の春讃岐に模して金丸座

配られし団扇小振りや金丸座

小振りなる団扇を使ひ芝居見る

金比羅の舞台の桜外の桜

花の下大立ち回り吉右衛門

啖呵切る役者の額玉の汗

襲名披露して金比羅の春に舞ふ

芝居見て帰る讃岐路鯉幟

さ緑の葉も見え牡丹桜かな

重なりて重なりて八重桜かな

天を突く樟の大樹の若葉時

富貴には無縁なれども牡丹好き

日向より日陰に生気牡丹かな

日陰日向日陰がよかり牡丹かな

味噌入れるだけの男の浅蜊汁

忽ちに出来て浅蜊のお味噌汁

この島の旬の浅蜊のよかりけり

大潮の島の干潮浅蜊狩

酒蒸しの浅蜊たちまち出来レンジ

苗代は作らず苗を買ふと云ふ

家毎に苗代ありし日の遠く

田の隅に小さき苗代作りあり

ぼうたんの風雨いとはぬ気品かな

七曜の風雨に咲きて散る牡丹

風雨にも崩れぬ気品牡丹咲く

しなやかに且つしたたかに牡丹咲く

したたかな牡丹宰相眠る寺

揺るるとはしたたかなこと牡丹咲く

雨の日の牡丹いよいよ艶やかに

楽日の金比羅芝居春は行く

行く春やこんぴらさんの芝居果つ

行く春やがらんどうなる金丸座

金比羅に落ち合ひ春を惜しみけり

吉右衛門見て金比羅に春惜しむ

金比羅の坂下りきて春惜しむ

金比羅の町を逍遥春惜しむ

金比羅の町漫ろ歩し春惜しむ

春惜しむ一日暮れてしまひけり

2012年3月

真っ先に来て落し角見つけしと
立派なる落し角なりかく重し
手にしたる落とし角なりかく重し
猪の髑髏もありて罠予感
道の辺に猟られし猪の髑髏
山中に猟られし猪の髑髏
捌かれし猪の跡ありはっきりと
蝌蚪生まる猪のぬた場でありにけり
うぐひすや山葵の花は未だなれど
梅林を登り詰めれば初音かな
落とし角一対にてはあらざりき
のれそれや土佐は南国春早し
のれそれといふのど越しをいただきぬ
教へられ頷いてゐる蜊蚪の紐
腸捻転とはかくあらん蜊蚪の紐
捻れゐてまた捻れゐる蜊蚪の紐
一筆のかくも長かり蜊蚪の紐
水底に泥まみれなり蜊蚪の紐
鳥の嘴忙しかりし地虫出づ
琉球の寒緋桜を江戸に見し
八重といふ寒緋桜の緋色かな
春の雪雪達磨には関はらず
青空も見えて降りけり春の雪
梅に来る目白神楽の鈴のごと
お水取り明けたる朝の尚寒し
吹く風に縺れては解けしだれ梅
省略の正調となる初音かな
引く鴨の帰り支度ぞそれぞれに
咲き満てる梅にやさしき日和かな
梅の香の寄せ来る間合ありにけり
白魚を待ち四手網並ぶ川
いとけなき川に白魚上り来し
この小さき川に白魚上り来し
透き通る水に白魚透き通る
なかんづく不漁の白魚祭り川
白魚の祭りの幕の垂るる川
白魚の祭りメニューを眺めゐる
潮時に白魚食べに来られよと
白魚を食べんとすれば朝来よと
紅紫濃くして黒椿とは如何に
外つ国の椿苗木も椿園
雄蕊なき侘助の花小振りなる
見るうちにつぼみ膨らむ花日和
咲き満ちて蜂須賀桜ちふは此れ
謡聞き蜂須賀桜眺めゐる
藩侯に賜るといふ桜咲く
予約済てふ骨付きの猪の肉
落し角対で販(ひさぎ)て野の市に
その写真付け諸々の苗木売る
小女子のちりめんじゃこの初物ぞ
お彼岸の野の市樒よく売れて
獲りたての猪の肉売る朝の市
猪獲りし場所は秘密と肉を売る
朝の市泥鰌に目高蝲蛄も
部屋中に届く明るさ春障子
春障子部屋に明るさとどこほり
暖かきことが何より野点かな
暖かや鯉の尾鰭のよく動く
開け放ちみたくなるもの春障子
春障子開ければ残る寒さあり
春障子越しに鳥声聞え来る
春障子その明るさの嬉しくて

2012年2月

水仙の逸り咲くこと一ヶ月
水仙の盛り寒さに早まると
水仙の仕舞の仕舞まで凜と
水仙の海へなだるる淡路かな
水仙のなだれ落ちゆく海の紺
水仙の風にしだるる海青し
聞き知りて遅き今年の梅探る
早咲きの梅に集まるカメラの目
蝋梅に遅速梅にも遅速あり
蝋梅の彼方に天守見ゆる園
梅遅き園に早咲き苗木売る
後ずさりまた近寄りて梅を見る
一巡しはじめの梅に佇める
秀頼の自刃せし跡花八手
内堀の鴨度外れに太き尻
まだ風のとんがってゐる梅二月
早梅の香の仄かとも幽かとも
梅園の真ん中梅の苗木売る
梅園の梅それぞれの花つぼみ
寒明けてよりの寒さのことさらに
寒明けは暦の上でありしのみ
日本橋より江戸前の海苔届く
チョコ貰ふバレンタインの日の句会
チョコ売場其処此処バレンタインの日
レジに列バレンタインのチョコ売場
遠目にてあればけぶりて梅の紅
まだ蕾なれども梅の香の仄か
野も山も眠たげにして春の雨
放蕩の息子の帰還恋の猫
放蕩の恋猫いづこより帰還
恋猫をレンブラントはどう描く
雨に濡れ泥にまみれて恋の猫
白猫を追って黒猫恋のころ
尾を垂らし垂らしてゐるも恋の猫
七曜を朝帰りせしうかれ猫
誰彼の死をふと思ふ春の風邪
流感を怖れてゐしが春の風邪
束の間に消えてしまひし春の雪
申し訳なさうに梅咲きゐたる
城山は原生の森花山葵
解け残る雪で作りし達磨かな
雪達磨作らむと稚児走り出す
子と母のいやあどけなき雪達磨
城山の空縦横に初燕
春の雪消えたるあとに佇めり
二の丸は雑木林や百千鳥
二の丸にあり武蔵野は百千鳥
道灌の植ゑたると云ふ梅遅し
道灌の梅道灌の城に咲き
橘のどの実にもあり嘴の跡
橘の実の大方は鳥突く
金よりも黄金色なり福寿草
木漏れ日にまぶしかりけり福寿草
福寿草萌え出づ土のやはらかし
歯医者への道にいつものいぬふぐり
紐と云ふものは見えねど蝌蚪の紐
ふんわりと水に漂ふ蝌蚪の紐
あんパンのやうな形の蝌蚪の紐
マシュマロかゼリーの菓子か蝌蚪の紐
芥子粒のやうな一つが蝌蚪となり
生まれ出づ蝌蚪の早くも尾を振りて
生まれ出しばかりの蝌蚪の寄り添ひて
閑散とせし野に出れば初音かな
鳴くたびに音色整ふ初音かな
聴くほどにほどに滑らかなる初音
咲かんとす枝もろともに剪定す
浜に釜設へ若布刈舟を待つ
若布刈舟傾ぎしままに帰りけり
湯通しのたちまち緑なる若布
焚きてをり若布の色を終始見て
若布焚く色眼裏にとどめゐて
新若布和布蕪を添へて持ちくれし
つくづくと昔は豪華雛人形
名人の作りし雛の見て飽きず
名人のをりしは昔雛人形
自然体なるが品格雛人形
飾られて笑み忘れざる雛人形
仕舞ふより飾られてこそ雛人形

2012年1月

家族引き元の二人となる四日
山の湯に妻と来てゐる四日かな
山の湯に伸ばす四日の四肢五体
玄関を開けて賀状の束届く
年賀状読みゐるうちに一ト日暮れ
いずれ無事そんな賀状の多き年
年賀状など見て電話したくなり
賀状来るアルゼンチンの田舎より
お互いに無事を喜びゐる賀状
電話せり賀状来ぬ人来し人も
来年は失礼と書く賀状来る
日本は礼節の国年賀状
禿木の天辺にをり初鴉
群つくり中洲占領初鴉
初鴉境内狭め基地作り
芹薺バイキング式朝餉にも
常宿は今年も用意薺粥
薺打つ唐土の鳥の母の唄
福笹に群るるバーゲン売場かな
宵えびすよりデパートへ直行す
買初のうまいもの市巡りかな
完熟の檸檬にカプリ島をふと
踏みて知る落葉の嵩でありにけり
日の差して落葉の径の明るさよ
艶やかな落葉の径でありにけり
この苗木植うも廃校記念なり
廃校の農大牛は日向ぼこ
つい踏みてみたきは今朝の霜柱
首塚の閼伽に薄氷漂ひて
あるはずと探せばありし竜の玉
竜の玉探す幼き日に帰り
蝋梅の古木と残る長屋門
蝋梅の老樹天より香を降らす
妖艶のその香にをりて古蝋梅
黄水仙水仙競ひ咲ける庭
北風の石塀の道吹き抜けし
小さくとも眼光厳し鵟かな
冬の鷭太き尻より着水す
遠目にも長元坊のホバリング
鵟ゐて動かぬ園の静寂かな
まづ鵟見せてくれたる遠眼鏡
採りし海苔その日のうちに洗ひ干す
海の水ポンプで流し海苔洗ふ
見頃なる頃に会へたり寒牡丹
寒牡丹見頃の園の切符買ふ
晴れ着着し少女の如し寒牡丹
寒牡丹とは清清しかくもまあ
寒牡丹咲き継ぐ上野東照宮
深々と蓑を被りて寒牡丹
上品や丈低くして寒牡丹
寒牡丹小輪なれど凛とあり
寒牡丹百に百ある佇まひ
寒牡丹株毎に句の添へられて
同じものなき百株の寒牡丹
美しき小顔とも見て寒牡丹
雪国の少女の如し寒牡丹
寒牡丹園の出口の甘酒屋
寒牡丹見て来てホットミルク飲む
万作や上野東照宮に咲く
三椏の恥じらひながら咲きにけり
蝋梅の蝋の透け行く今朝の雨
冬枯れの園にクロガネモチの赤
初旅の錦帯橋を渡りけり
風花の錦帯橋となりにけり
寒風の錦帯橋に容赦なし
露天湯に冬のオリオン仰ぎゐる
瑠璃光寺境内広し梅探る
国宝の五重塔や雪晴れて
萩へ行く旧道雪に閉ざされて
仰ぎゐる鷹棲む塔の高さかな
門司港は吹きっ曝しよ寒灯
寒の宮裸電球一つかな
レトロなる街に寒灯暖かく
レトロなる街の寒灯黄ばみゐて
天然の虎河豚入荷確かめて
まづ見せて虎河豚捌く料理人
一抱へする虎河豚の大きさよ
虎河豚の大きさ河豚と比較して
虎河豚の一尾四人に余るほど
本物の虎河豚食べにはるばると
河豚づくし完食したる三時間
石蓴浮く海に朱塗りの鳥居かな
宮島の旧家の庭の実南天
お屋敷の庭の広さや実南天