虎河豚の内臓抜かれ朝市に
河豚捌く免許も見せて河豚を売る
己が獲りし猪の肉とて写真見せ
己が獲りし猪の肉売る翁かな
猟自慢して猪の肉を売る
猪の肉売り出す猟師八十路なる
腕自慢して猪の肉売る猟師
猟に出る支度して売る猪の肉
大根売るトラック一台見るうちに
産直の旗はためかせ大根売る
冬ざるる市に戦時の国債も
冬の市昭和の暮らし遠くなる
土佐で味覚えしうるめ買ひにけり
うるめ買ふ店主が品を定めくれ
見えて来し南アルプス雪かぶり
白雪の富士に気品のありにけり
櫨紅葉ありて離宮の華やげる
雪吊や松にそれぞれ個性あり
雪吊の松それぞれの形かな
銀杏散る光の帯となりながら
しっとりとしてゐる銀杏落葉かな
日当りの銀杏黄葉の明るさよ
銀杏散る驚くほどの音立てて
銀杏散る神宮外苑黄に染めて
空までも紅葉の赤に染まる杜
まづ柱立てて雪吊始まりぬ
雪吊や庭師五人でかかる松
たっぷりと水気含んで銀杏散る
枯れゆくを待たずに銀杏散りにけり
青きまま散りゆく銀杏ありにけり
銀杏散る残る未練もなきごとく
銀杏散る学徒出陣ありし杜
銀杏散る学徒征きたる外苑に
仲見世は正月用意早々と
仲見世は早正月の気分かな
冬の夜のスカイツリーの青さかな
東京は銀杏並木の似会ふ街
紅白の山茶花競ひ咲ける苑
山茶花のあたりに日差集りぬ
寒椿清楚な赤の御苑かな
遠目にも紅ほのかなる冬桜
冬桜これで満開かも知れず
小さくとも艶ある花弁冬桜
散る姿見せず散りゆく冬桜
デモの声囲む国会銀杏散る
大袈裟に見ゆる蘇鉄の雪囲
日の差して銀杏黄葉の煌ける
青空に煌く黄色銀杏散る
開きたる手帳の上に銀杏散る
枯れてゐるものなき銀杏落葉かな
絶え間なく銀杏の散りて人の逝く
ともに見し人今は亡く銀杏散る
大銀杏黄葉ゴッホはどう描く
ゴーギャンもゴッホも見ませ銀杏散る
丸の内ここのビルにも大聖樹
丸の内ビルの谷間に聖樹かな
美術館裏の庭にも聖樹かな
子らの夢ふくらむ聖樹なりしかな
改装の馴染みし駅舎銀杏散る
銀杏散る東京駅の駅頭に
日の差してまぶしかりけり冬紅葉
電飾のサンタのあふれ街師走
冬の夜の東京タワー赤々と
正月の品々ホテルの売場にも
三階に届く背丈の大聖樹
吹き抜けの空港ロビー大聖樹
メルヘンの世界とともに大聖樹
冬の夜のおとぎの世界電飾で
手編みして手袋くれる人のゐて
いただきし手編み手袋手に馴染む
手編みせしてふ手袋の暖かく
指長き手袋手編みしてくるる
初雪の比叡に家族揃ひ来て
朝の間に初雪消へてしまひけり
年の瀬のイルミネーション華やかに
日光の東照宮の寒さかな
雪の日の東照宮のまぶしさよ
雪深き那須塩原の露天の湯
山茶花の花より白き雪乗せて
湖も滝も凍てつく寒さかな
白雪の世界に滝も湖も
白雪に縁取りされていろは坂
吹雪止みロープウエイの動き出す
日の差して寒鯉の群れよく動く
目の前のホテルの池に鴨の来て
熱燗の加減徳利の底で知る
熱燗や父と語りし日の遠く
あつあつの熱燗が好き父に似て
一合の熱燗に酔ふ齢となり
熱燗や俗世のことは日々疎く
何もせず過ごしてみたし年の暮
用の増え気ばかり焦る年の暮
コスモスのさ揺らぐ風のありにけり
コスモスの揺らぎて風のあるを知る
コスモスを渡り来る風透き通る
白菊や暮潮先生今は亡く
白菊に囲まれてゐる師の遺影
白菊や虚子との写真若々し
野送りに藍の花持ち来られたる
天上に咲き満ちゐしや藍の花
天上に咲き満つ藍を愛でられよ
藍商の裔の亡き師へ藍の花
ばあちゃんが張り切ってゐる七五三
ばあちゃんがおめかしをして七五三
あれほどの大綿消えてそれっきり
大綿の消えたる空の青さかな
大綿となりて厭離に来られしか
天高し石燈籠のいや高く
冬晴や日本一なる石燈籠
金比羅の燈籠高く天高し
鴨を見に来て鷹柱見ようとは
鴨の陣解けて崩れてまたできる
下よりの流れに鴨の陣動く
見るうちに鷹柱でき鷹と知る
鷹柱消えたる雲間鷹渡る
川の鴨動き洲の鴨動かざる
小魚の跳ねて音する鴨の川
緑濃き土佐の奥山にも紅葉
土佐なれや緑の中の冬紅葉
トンネルの合間合間に紅葉見え
トンネルの続く土佐路の紅葉濃し
トンネルや土佐は山国紅葉濃し
土佐に来て阿波の野菊に出会へたる
此れやこの菊のご紋の菊に会へ
紙を漉く簀桁にリズム生まれけり
紙を漉く簀桁引き寄す間合かな
地面より水面の高き鴨の川
千年の歴史を今に紙を漉く
小春かなアイスの売れる高知城
城小春アイスクリンのよく売れて
天守まで人の溢るる小春かな
日当りはポンセチアに土佐の市
骨董の市にやさしき冬日かな
高知かな椰子の葉陰でざぼん売る
高貴とは牧野植物園の菊
名園の菊花展なる雅かな
同じもの一つとてなき菊花展
それぞれの個性を咲かせ菊花展
それぞれに違ふ色と香菊花展
どれも皆盛りの色や菊花展
菊人形一体ごとに和歌添へて
不意に出て不意に消えけり大綿は
大綿の羽音聞かんと耳澄ます
大綿に重さといふはなかりけり
大綿の宇宙遊泳見て飽きず
つくづくと鏡は嫌ひ木の葉髪
櫛使ふ度に気になる木の葉髪
一本の白髪もいとし木の葉髪
ふんはりとハングライダー飛ぶ小春
日を受けて背ナ温かき小春かな
群れてゐてそれぞれ勝手綿虫は
綿虫の涌き出て御室静かなる
綿虫の羽の動きに見とれをり
綿虫の涌き出る処ありにけり
つくづくと綿虫日和なる日和
初時雨冷気残してゆきにけり
時雨来て昼なほ暗き御影堂
宿の傘借りて忘るる時雨かな
時雨るるや三千院まであと一里
時雨来ていよいよ嵯峨野らしくなる
茶の花の日比谷公園にもありし
茶の花のつつましく咲く日和かな
石蕗の花明りの道の曲がりゆく
裏門へ続く回廊石蕗の花
枯るるものばかりの庭の石蕗の花
門前の澄みし流れに鯰かな
崖に出て蟷螂つひに跳びにけり
一思案して蟷螂の跳び立てる
秋てふは別れの季節法師蝉
逝きし人追慕するかに法師蝉
秋の日に五輪の墓の苔光る
秋の蚊の羽音も立てず近寄り来
秋の蚊の気配も見せず纏ひ付く
秋空に木豇豆の実の翻る
羽も付け五倍子風を待つばかり
石榴熟れ採る人もなき里静か
錆鮎の一尾で足りる昼の膳
廃校は虫の世界となってゐし
五線紙に虫のコーラスどう描く
昼間より虫の世界に浸りゐる
がちゃがちゃのコントラバスもよき間合ひ
金管はこれぞまさしく鉦叩
メロディも和音も虫のコンサート
コーラスの合間合間の鉦叩
廃校に銀杏実る鈴生りに
松手入朝四時起きといふ庭師
庭師はや天辺にをり松手入
大小と脚立を換へて松手入
時折は下より眺め松手入
来年のことを考え松手入
残す枝まづ考えて松手入
年毎に犇く松葉松手入
年毎に時間のかかる松手入
庭師には庭師の形松手入
松手入あとの掃除もして庭師
松手入済みたる空の高さかな
子を追うて走るカメラや運動会
万国旗はためく秋の空高く
園児らの運動会や公園で
親が子の手を取り走る運動会
秋晴や小屋掛公演十年目
秋晴や小屋掛幟高々と
秋晴や知事も小屋掛見に来られ
秋晴や浄瑠璃を小屋掛で見る
小江戸なる粋のぶつかる祭かな
町毎に自慢の山車の迫り出せる
町毎の祭囃子の音色かな
町毎の祭囃子にある流派
宵山の山車は町毎陣を取り
文化財指定の山車の次々に
男衆皆気風よき祭かな
山車を引く一番前に女かな
稚児の列先導にして山車来る
女衆皆小粋なる祭かな
一望の諏訪湖の湖畔柳散る
全景の諏訪湖を前に初紅葉
国宝の松本城に芒かな
漆黒の城にまばゆき冬の薔薇
初鴨のお城の濠に落ち着きぬ
秋高し天守は五重六階と
初雪の日本アルプス見える城
朝顔や明治の学舎白亜なる
その奥の紅葉の山の出湯かな
白骨の五彩絢爛たる紅葉
白骨は黄葉紅葉の出湯かな
秘境かな紅葉の色の燃え盛る
紅葉の山の端にあり昼の月
雨晴れて際立つ紅葉秘境の湯
水澄めり大正池の底までも
焼岳の紅葉の景の水面にも
爽やかや穂高連峰くっきりと
河童橋見えて紅葉の迫り来る
河童橋紅葉の中に架かりをり
水澄みて藻の緑色極まれる
紅葉狩とは木道をただ歩く
秋惜しむ一日短し上高地
紅葉のど真ん中なる河童橋
去ぬ燕集ひ会ひたり燕の湯
紅葉の崖を落ち行く瀑布かな
紅葉を二つに割りて滝落つる
店先に葡萄実らせ葡萄売る
ななかまど真っ赤や人の来ぬ丘に
色彩の限りを尽くす紅葉かな
妙高の紅葉真っ赤や燕の湯
露天湯の標高千の紅葉かな
下界まで続く野山の錦かな
紅葉の中に秘湯あり露天なる
丈揃へ彩りも見て菊展示
菊展示三本立ちを組み合はせ
前後見て左右より見て菊展示
三日後の開幕に向け菊展示
食ひ違ふ菊人形の視線かな
仕込みには蕾の固さ菊人形
NHKドラマ今年も菊人形
菅平より唐黍の今年また
高原の玉蜀黍と贈りくれ
高原の玉蜀黍の甘さかな
茹でたての玉蜀黍の甘さかな
茹で上げて玉蜀黍を子に送る
大雨の止みたる後の昼の虫
秋晴るる明日焼く陶の干されあり
秋日濃き日となりにけり陶を干す
堂裏は昼鳴く虫の世界かな
法師蝉法師法師と鳴くばかり
聞き納めかも単調の法師蝉
秋晴れて東京五輪決まりたる
秋晴や東京五輪動き出す
爽やかや血管年齢三十八
血糖値正常となり爽やかに
コスモスや大網元の庭広し
ダリア咲く鰊御殿は大番屋
瓦斯灯の点る運河の風涼し
暮れてゆく運河に映る灯の涼し
邯鄲や石狩の風澄み渡る
邯鄲や石狩の風透き通る
地に撒ける浜茄子の実の真っ赤かな
地に瑪瑙撒きたる如し実浜茄子
実浜茄子真っ赤や地に撒ける如く
灯台は芒の丘の上に立ち
木道を逸れて芒の丘に立つ
鮒を釣る川は静かや未草
小鮒釣る川に睡蓮群れ咲ける
蝦夷の地の背高泡立草可憐
蝦夷の地の赤のまんまの赤殊に
ミシュランのシェフはイケメン鮨握る
ミシュランの鮨屋の鮨の気品かな
なかんづく鮨は大間の黒鮪
日本海味の宝庫と鮨握る
とろけさうなる大トロの黒鮪
紫蘇の実をまぶし手作りイクラ丼
秋雨に色増しにけり丘の花
ななかまど満艦飾の赤であり
水澄みて青の極まる青い池
いぢらしやその名知りたし草の花
たはむれに来て出合ひたる草の花
足元に咲きしものあり草の花
名あるもの草の花とは何とまあ
十五夜の月の明るき夜長かな
十五夜の月の始終を見る夜長
虫の音をしんしんと聞く夜長かな
細身なる和装の婦人秋日傘
秋日傘少し傾け遠会釈
師の句碑に佇んでゐる秋日傘
昼間より虫すだれゐる山の寺
法師蝉まだ鳴いてゐる山の寺
法師蝉名残の声の枯るるかに
山寺の真昼の闇の虫時雨
草刈を終えし山寺昼の虫
青空に螺旋を描き鷹渡る
見るうちに見えぬ高さへ鷹渡る
鷹渡る下を札所へ人歩く
鷹渡る次の札所は山越えて
鷹渡る遍路の道は難所へと
お遍路の見上げる空を鷹渡る
その中に白曼珠沙華楚楚として
新聞にけふ通夜の報曼珠沙華
曼珠沙華越司先生逝かれしと
はやばやと逝かれし人よ曼珠沙華
酷暑乗り切られしあとの訃報かな
訃報聞きまた訃報聞く星の夜
星月夜ともに眺めし人の亡く
星涼し星の一つになられしか
星の夜の星の一つになられしか
決戦の原はこの辺曼珠沙華
戦場の跡に散らばり曼珠沙華
露天湯に手足伸ばせば昼の虫
蟷螂の落ちて騒めく池の鯉
鷹渡る渥美半島長々と
鷹渡る渥美の空の青さかな
やはらかな光を返し竹の春
秋晴や国旗を掲げ異人館
秋風や坂の上なる異人館
梅雨雲を抜けたる空の青さかな
まづビール飲みてドイツの旅始む
夏の夜をドイツの人の輪の中に
渡る風涼しきライン下りかな
日盛りのライン下りでありにけり
夏帽子ひしめくライン下りかな
両岸に葡萄園見る川下り
両岸に葡萄の畑や雲の峰
斜面皆葡萄の畑でありにけり
山越へて葡萄の畑や雲の峰
中世の橋架かる町むくげ咲く
石畳濡らすほどなる夕立かな
城壁の中に町あり立葵
朝顔や中世の古都目覚めゆく
朝顔や古都はゆっくり目覚めゆく
古窓の日除けの葡萄実を垂れて
どの家も窓辺に花や夏の古都
城門をくぐり涼風渡り来る
城門を出れば滴る緑かな
汗流し坂のローデンブルク行く
石畳汗の坂道古都の道
ロマンチック街道どこも麦の秋
麦秋の中の一本道を行く
麦秋に光発電装置かな
明易の一番乗りと思ひしに
明易の城に早くも人出あり
谷よりの涼風を背に城を見る
城を見る涼しき谷の橋に立ち
渓谷の滴りにゐて城を見る
澄み渡る朝の大気や夏の城
涼しかり朝一番に城に来て
名城を巡り終えれば玉の汗
ノインシュヴァンシュタイン城の涼しさよ
はやばやと薪積み上げて冬構
太陽を楽しんでゐる水着の子
泳ぐより日光浴の水着かな
岩盤をこじあけ滝のほとばしる
雪解水音とどろかせ落ちにけり
雪解水作りし湖の青さかな
雪解水乳白色でありにけり
スイスかな川といふ川雪解水
雪解水川幅満たし滔滔と
青白き雪解の水でありにけり
夜の街雪解の水の水明かり
避暑に来て三十八度なるスイス
チーズフォンデュ熱しと思ふ暑さかな
立葵色鮮やかにスイスかな
岩を噛み川底削り雪解水
音立てて逆巻く怒涛雪解水
残雪の峰目指し行く登山かな
山国の宿は山荘薔薇の花
登山鉄道氷河見下ろし行くスイス
残雪のユングフラウの峰そこに
靴の紐しめて下山のハイキング
高山の短き夏を競ひ咲く
高山に咲く竜胆の青さかな
一転し雷雨となりぬ山の宿
屋根裏にベッドルームや避暑の宿
山頂の様子テレビで見て登山
氷雨降る展望台より見る氷河
下山するマッターホーン見ぬままに
残雪のマッターホーン見た人も
ツェルマット登山の町は花の町
雪解水怒涛の如きスイスかな
向日葵の夕日捕らへてをりにけり
里山は静かなりけり麦の秋
永き日をなほ食べ続け牧の牛
永き日の夕日静かに落ちにけり
丘を越え野を越え続く麦の秋
麦の秋視界三百六十度
地平線丸くありけり麦の秋
なるほどに地球は丸し麦の秋
浜茄子の丘よりモンサンミッシェル見え
石段の上に石段風涼し
教会の中に庭園薔薇の花
紫陽花や参道に人犇きて
万緑の中に宮殿ありにけり
宮殿の庭にコスモス群れ咲きて
アカシアの花咲くパリの街路かな
サングラス花の都のカフェテラス
塔見ゆる風の涼しき丘に立ち
ビーナスの笑顔涼しくありにけり
モナリザを見る人垣の暑さかな
エスカルゴこのでで虫のおいしさよ
ユーロスター涼しき夜のロンドンに
すずかけの大緑陰にくつろげる
緑陰のうれしきハイドパークかな
プラタナス大緑陰を作る街
ビックベン見上げ初秋の空見上げ
澄みにけりタワーブリッジ架かる川
ミイラ皆涼しき部屋に展示され
念願のロゼッタストーン見て涼し
宮殿は昼も涼しき灯を点し
宮殿の奥に庭園秋の薔薇
爽やかや宮殿に塵一つなき
宮殿に住む人のあり百合の花
流れ星眺めてをれば流れ星
鮮やかやプラネタリウムの流れ星
斜交ひにまた斜交ひに流れ星
満天の星に消へゆき流れ星
朝顔や古都の夜明けは静かなる
朝顔や古都の音無く覚めてくる
朝顔に日本を偲ぶ旅の空
川中にとどまり鮎の投網打つ
鮎を釣る流れに竿をしならせて
大景の一点となり鮎を釣る
秋の蚊の羽音も立てず忍び来し
沈下橋渡る健脚秋遍路
雨の来て蝉の骸を洗ひ出す
鮎漁を岩の鼻なる景勝に
口中に果汁広がる葡萄かな
此やこの岡山産のマスカット
完熟の葡萄の房の重さかな
大粒やオーロラブラックなる葡萄
はちきれんばかりに葡萄瑞々し
好きと聞き持ち来てくれし芋茎かな
母の味偲び芋茎の酢味噌和え
ほどほどの喜雨なりしことありがたく
旱の地洪水の町喜雨の阿波
涼しさを残して雨の止みにけり
鰯焼く煙懐かしモラエス忌
鰯焼くリスボンの路地モラエス忌
鰯焼く煙に孤愁モラエス忌
七輪で鰯焼きたしモラエス忌
鰯焼く香り路地までモラエス忌
モラエス忌阿波にぞめきの季節来る
路地までも迫り出す緑モラエス忌
阿波に来て満百年のモラエス忌
清らかに潮満てる川モラエス忌
いよいよの眉山の緑モラエス忌
玉葱の小屋取り残し田を植える
列島に田の字田の字の植田かな
なかんづく長雨の日のジキタリス
しゃぶしゃぶにしても美味なる伊佐木かな
五十年続き幕引く花火の夜
夏霧に色を抜かれし花火かな
音のしてそれっきりなる遠花火
漆黒の闇に色めく花火かな
二十万その一人とし花火見る
舟の出て弁天島の花火かな
揚げ花火この世の憂さを払ひけり
一瞬に咲き一瞬に散る花火かな
美しきほどに儚き花火かな
揚げ花火光の糸となりて散る
一瞬にかけたる花火師の思ひ
花火揚ぐ順にリズムの生まれけり
揚げ花火仕掛け花火の競ひ咲き
ぱっと咲きぱっと散りたる花火かな
終へてなほ目裏に残る花火かな
花火果て臨時電車の五分毎
炎天や狂ひ咲きゐる藤の花
バーゲンもしてゐる町のプールかな
先生についてプールをただ歩く
ひたすらに歩き続けるプールかな
ただ歩く高齢社会のプールかな
ウォーキングコース混み合ふプールかな
泳ぐのはごく少数派なるプール
松籟は子守唄かなハンモック
南国に来てゐる気分ハンモック
海岸に残る松原ハンモック
マニラ湾椰子の木陰のハンモック
阿波踊浴衣も粋を競いをり
京染めの浴衣で踊る阿波踊
扇子より団扇の似会ふ浴衣かな
サングラスにも老眼の度を入れて
トンネルの中でも見えるサングラス
偏光のレンズを入れてサングラス
サングラス越しのふるさと美しく
別世界広がる気分サングラス
老眼鏡レンズ替へればサングラス
板の橋ありしは昔草いきれ
草いきれコンニャク橋の今はなく
土手行けば昔のままや草いきれ
蝶蜻蛉追ひし日遠し草いきれ
展示されマッカーサーのサングラス
元帥の部屋今もありサングラス
十薬の花咲き満てる庭となり
梅雨晴れてまぶしかりけり蘭の花
展示せる蘭を見に行く梅雨晴れ間
花も葉も瑞々しかり梅雨の蘭
蘭の園には木下闇なかりけり
巡り来てやはり紫花菖蒲
菖蒲田の河骨無骨なりしかな
花菖蒲こんなにも茎細きかな
菖蒲田を巡りてをればほととぎす
見上ぐより見下ろせる白山法師
二階より泰山木の花数ふ
許可局とばかり聞えてほととぎす
手の届く位置に泰山木の花
香を放つ泰山木の花に遇ふ
万緑の奥に泰山木の花
直播きの植田や古代米らしく
水底に唐草模様蜷の道
泰然と日を浴び泰山木の花
万緑の中に竪穴住居かな
平らなる眉山山頂ほととぎす
山頂のベンチに座せばほととぎす
山頂に野鳥の森やほととぎす
ほととぎす堪能しての昼餉かな
子燕の飛び立てずゐる枝の先
山頂を縦横無尽つばくらめ
そこらぢゅう水木の花の眉山かな
水木咲く湧水多き眉山かな
翡翠を見んと足音忍ばせて
翡翠のダイブの刹那待つカメラ
翡翠のダイブの刹那撮れたると
翡翠の色を残して飛び立ちし
翡翠が好きで野鳥の会に入る
古池にゐても翡翠凛として
帰り来るはずと翡翠待つカメラ
瑠璃放つ翡翠のゐて瑠璃光寺
梅雨篭りしてシャンソンを聴いてゐる
アテネより進物届く梅雨晴れ間
御湿りのほどなる梅雨のありがたく
梅雨に咲くアガパンサスの紫色かな
デパートの屋上に森山法師
御屋敷の続く町並み凌霄花
大手門前に緑陰なかりけり
城を背に大道芸や梅雨晴れて
炎天に大道芸の若さかな
大道芸終へし若者玉の汗
摩耶山の寺に巣箱のありにけり
寺に来る小鳥のための巣箱かな
檀家より寄進の巣箱掛かる寺
名刹の森にも巣箱掛けられて
見上ぐほど高き枝にも巣箱かな
風船の逃げゆく空の広さかな
風船を子にくれ背高ピエロかな
紙風船遊びを知らぬ世代かな
風船の行方を誰も知らざりし
風船の行方を誰も追はざりし
子ら作る小鳥の巣箱大きかり
真っ赤なるオープンカーも遍路かな
遍路来るヴィトンのバッグ肩にして
手に手取り新婚らしき遍路かな
芳名碑いろは順なり若楓
御手洗に水あふれをり若楓
マウンテンバイクの人も遍路なる
子とともに子の子のために武具飾る
子に買ひし武者人形の子の子へと
三十年ぶりに封開け武具飾る
初めての男の孫や武具飾る
三十年経てもまぶしき武具飾る
筍の香りも散らし散らし鮨
玉葱は淡路鰹は土佐がよし
生まれ年産のワインの届く初夏
古希祝ひ古希のワインの届く初夏
古希祝ふ古希のワインや五月来る
古希の初夏古希のワインを贈らるる
小雨来て背筋伸ばせり薔薇の花
白薔薇の紅ほんのりと差しにけり
恩師より駿府の新茶届きたる
懐かしき駿府の新茶贈りくれ
静岡のこと懐かしき新茶かな
渦見んと観潮船の傾きぬ
渦巻けば歓声上る観潮船
大歩危の水の青さよ五月鯉
大歩危の空真青なり五月鯉
大歩危は風の渓谷五月鯉
空の青水の青さよ五月鯉
万緑の狭間に祖谷のかずら橋
鶯を聞きつつかずら橋渡る
谷よりの風涼しかりかずら橋
そのかみの平家を伝え枇杷の滝
枇杷ひきて都偲びし枇杷の滝
落人の平家伝説枇杷の滝
幾百年流れ落つ水枇杷の滝
幾百年涸るることなく枇杷の滝
身の丈を越ゆるほどなる蛇の衣
からからの蛇の脱け殻とは言へど
寺の庫裏開け放ちありほととぎす
山寺に法事の客やほととぎす
席巻の野太き声やほととぎす
山一つ席巻せしかほととぎす
鳴きながら飛ぶほととぎす時鳥
家苞にせよと新茶を摘みくれし
麦刈りの痒き思ひ出麦の秋
トンネルを出れば明るき麦の秋
伊予に出て右も左も麦を刈る
まろやかな伊予の山々麦の秋
敷き詰めた絨毯のやう麦の秋
染み一つなき卯の花の白さかな
卯の花や阿波はけふより梅雨に入る
余るほど湧き出る水や雪の下
名水の周りを埋め雪の下
隙間なく重なり合ひて雪の下
十薬を干したる庭に十薬咲く
いつよりか十薬の庭白い花
十薬の花咲く庭となりにけり
川幅を覆ひ尽くして桜咲く
競ひ咲く桜堤の雪柳
聞え来る経も長閑でありにけり
お接待お遍路ならぬ私にも
遍路来るペットの犬もついて来る
一品を並べるだけの草餅屋
この時季のこの店の草餅が好き
草餅に千の思ひ出ありにけり
寺領みな覆ひ尽くして桜咲く
天守閣押し上ぐるかに桜咲く
七人の孫を持つ身のうららなり
上りよし下り又よし山桜
山桜振り返り又振り返り
返り見る箱根全山桜かな
山桜又山桜箱根越
遠目には煙りてをりぬ山桜
日ノ本の桜といへば山桜
天然は良きかな桜又桜
絵のやうな雨の箱根の山桜
落ち合うて友と箱根の桜観る
落ち合へる友皆元気葱坊主
波打てる玻璃戸の庭の落椿
花吹雪なほ舞ひ上がり城址かな
ハイキングコースの城址桜咲く
花弁の日を返しつつ落ちにけり
舞ひながら光ながらの落花かな
野に遊ぶ家族に落花しきりなり
滝山の城址なる丘桜狩
ピクニックご婦人衆のかしましく
石楠花や大正ロマン残る庭
石楠花の球なりに咲き溢る庭
蒲公英や多摩川の土手やはらかし
奥多摩に咲いて四月の犬ふぐり
犬ふぐり日溜りに瑠璃こぼしたり
かたかごの日陰の色でありにけり
かたかごの紫ほのと咲きにけり
家々に枝垂れ桜を咲かす里
濃く淡き三つ葉躑躅でありにけり
奥多摩の山といふ山笑ひをり
奥多摩の里山どこも笑ひゐて
断崖の岩山に咲き山桜
野に山に或は里に桜満ち
花といふ花咲き満ちて里鎮か
御焼屋の代替りをり花の里
山峡の風の高さに燕舞ふ
御焼屋の亭主花好き話好き
御焼屋に花見台あり花見ごろ
花見台作りし人に案内され
御焼食べながら亭主とする花見
飛び来しは残る鴨らし番なる
なかんづく赤白黄色チューリップ
チューリップ水面の影も並びをり
連翹と山吹競ひ咲きし道
家族連れ多き公園チューリップ
整列のチューリップ又マスゲーム
公園の段々畑チューリップ
モザイク画描く原色チューリップ
公園に整列のよしチューリップ
チューリップ里は中央アジアとか
畝々の高さに咲きてチューリップ
原色で描く紋様チューリップ
虚子の忌へ半月板の傷癒えて
青嵐洗い出したる空の青
大好きな好きな椿の花御堂
虚子立子実朝政子墓地うらら
鎌倉は武家の都ぞ花菖蒲
釈迦生まれ虚子死す日なり花御堂
寺巡る度に甘茶を振舞はれ
復興の春の市立つ建長寺
境内に産直の市春キャベツ
復興の福島独活も寺の市
創業は天明三年柏餅
川越の老舗の商家若楓
足下より鶯を聞く峠かな
鶯や大島見える露天の湯
夏めける伊豆の漁港の明るさよ
葉桜の河津桜でありにけり
山笑ふ天城峠を越えてゆく
淨蓮の滝の隣は山葵の田
湯ヶ島の出湯若葉に包まれて
花冷えの風忍び込む露天の湯
鶯に目覚め下田の山の宿
鶯に目覚め強ひられ下田かな
乱鶯の谺返しに目覚めけり
石廊崎鶯迎へ送りくれ
石廊崎太平洋の卯浪来る
卯浪寄す伊豆の南端石廊崎
鶯や歩せるが嬉し石廊崎
休航の遊覧船や卯浪荒れ
修善寺に桂川あり若楓
修善寺の門を潜れば若楓
修善寺の湯宿川沿ひ余花残花
こぞり出づ竹の小径の筍よ
竹林の小径筍其処此処に
桜鯛より金目鯛この地では
土産には桜鯛より金目鯛
春の渦巻かぬ時刻に来合せて
八重潮の鳴門は静か春の雲
八重潮の観潮船はすぐ帰る
鶯や鳴門孫崎下に見て
孫崎は四国の起点風光る
大型のタンカー乗せて春の潮
観潮に来て潮見表あるを知る
夏燕坊つちやん湯から離れざる
湯上りの浴衣かぐはし坊つちやん湯
開け放ち夏めく二階坊つちやん湯
坊つちやんとなりて湯上り浴衣かな
坊つちやんもマドンナもゐる春の宵
湯籠持つ浴衣と浴衣会釈して
道後なる老舗の菓子屋柏餅
軒にあり道後湯の街燕の巣
門柳ありしは昔つばくらめ
湯上りの道後ビールでありにけり
湯籠持つ浴衣の柄の皆違ふ
宿浴衣色柄を愛であひにけり
灯の点り浴衣の似会ふ街となり
雨の糸濡らし色増す牡丹かな
二百年咲き継ぐ藤のうねる幹
横たはる伊予の山々夏霞
咲き溢れ萬翠荘の躑躅かな
山藤の上へ上へと咲きにけり
梅の香や幸便熊野古道より
梅の香や嬉しき句集熊野より
わが投句句集となりて届く春
梅の香や笑顔の人の今は亡く
突然に人は逝くもの涅槃西風
逝かれたる顔やすらかや椿落つ
カルストの大地耕し梅咲かす
大岩の転がる大地臥龍梅
岩を抱き大地をつかみ臥龍梅
カルストの阿波の花なり臥龍梅
鹿垣の果てにせせらぎ花山葵
小流れの山葵の株の増えてゐし
切り花を売り梅林の枝切るな
啓蟄や六人目にてをのこ生る
啓蟄に初めて男児授かりぬ
啓蟄に家継ぐをのこ生まれたる
男児生る啓蟄の日でありにけり
啓蟄や小走りに鳥啄める
眠りより覚めたる里や春の水
カルストの大地より出て春の水
春水に卍巴に濠の鰡
春塵の消え東京の空に富士
まづ咲きて河津桜でありにけり
穴開きて開きて寄り来る春の鯉
蜂須賀の世より咲き継ぐ桜かな
緋色にて蜂須賀桜幹黒し
人形のえびす舞見て花も見て
日当りのよき部屋よりの花見かな
麗かや緋毛氈敷き茶もたてて
真青なる空より落花きりもなく
落花とはひねもす休むことのなく
風もなき日溜りにゐて花吹雪
蜂須賀の時代を今に花見かな
黄砂降り部屋中に干す濯ぎもの
洗車機で落ちぬ春塵には手動
黄砂降り四国三郎呑まれけり
種袋挿し苗札と致しけり
苗札の片仮名ばかりなる花壇
苗札も立てて羅漢寺守る僧
日曜の市を待ちゐて茎立ちぬ
茎立てるものも混じりて野辺の市
爆発のやうに茎立ちブロッコリー
茎立ちし芥子菜の歯応へが好き
去年会ひし人はもうゐず椿落つ
予告なく人は逝くもの椿落つ
音のして大きく弾み落つ椿
四温の日旭川より友来る
北国の友を迎へる四温の日
街歩きしてみたくなる四温晴
北国の友のオーバー丈長し
北国の友を囲みて温め酒
物干して白のまぶしき四温晴
仏間にも日差まぶしき春立つ日
梅探る大阪城の庭広し
梅探る熊本城に新御殿
梅探る徳島城に天守なく
梅探る小径けもの道も歩し
谷に沿ひ行きつ戻りつ梅探る
遠目にも紅仄かなり梅らしき
カルストの台地は脆し梅探る
仄かにも朝の日はじく薄氷
八角はやさしき御堂梅の花
堂前に遍路としばし日向ぼこ
一目見て好漢揃ひ冬遍路
蝋梅の色を極める空の青
蝋梅の花の盛りに迎へられ
里山の天満宮の梅盛り
朝の日に満作の花まぶしかり
磴上り来れば日溜り梅の花
紅梅の一部咲きまた三分咲き
山茶花の散り満ちてなほ咲き満てる
蝋梅の花も蕾も臈けて
蝋梅の咲きゐて艶の混み合へる
蝋梅の開きし花の犇ける
雪積る蓑の重さを寒牡丹
積りたる雪より白き寒牡丹
雪の日の寒の牡丹でありにけり
雪の日の寒牡丹色鮮やかに
積る雪払ひて寒の牡丹守る
傾ぎ咲く寒牡丹にて雪牡丹
東京に大雪予報寒牡丹
寒厳し大雪の日の牡丹園
雪の日の牡丹を凝視カメラの目
寒牡丹上野東照宮に見る
綿帽子脱ぎ三椏の花開く
これやこの赤い満作ありにけり
紅梅に煌く雨滴紅仄と
咲き出でて土より花のクロッカス
土割りていきなりの花クロッカス
蔵のある屋敷は静かクロッカス
クロッカス庭に賑はひ生まれけり
クロッカス咲き中世の城の庭
クロッカス石の砲弾残る庭
海苔の篊見えて着陸態勢に
海苔の篊東京湾に陣を張る
江戸前の海に陣取る海苔の篊
八角のお堂の屋根や雀の巣
へんろ道これより在所仏の座
剪定に遠慮会釈のなかりけり
咲かんとす蕾もろとも剪定す
徒遍路何れも無言なるままに
大方は独りが多し徒遍路
垂れ咲き群がりて咲き迎春花
せせらぎの聞こゆ山門猫柳
孔雀園ありしは昔犬ふぐり
天女なる椿の新種天に咲く
潮風に傷みし椿ばかりかな
笹鳴も聞きつつ椿園巡る
笹鳴の次第次第に近くなる
苗木より侘助の花咲き出しぬ
北側の斜面の椿なほ蕾
店頭の椿に風の傷みなく
とりどりの鉢の苗木も梅見茶屋
庭園の良い位置占めて梅見茶屋
太閤の天守閣背に梅見茶屋
由緒ある古盆栽あり梅見茶屋
渡り来る風とんがってゐる梅見
音立てて火柱立てて野火走る
消防車陣取ってゐる野焼かな
河川敷うねる多摩川野火うねる
梅も見て「滝のやきもち」茶屋で食べ
黄花亜麻群れ咲く梅見茶屋ありし
白梅や初代藩主の墓を守り
金柑や蜂須賀家祖の墓小さき
春の鯉跳ねてしぶきの掛かりけり
寒鯔の見えて藩主の墓の池
大方はすまし顔なり雛飾る
その中におどけ顔あり雛飾る
饂飩屋も年越し蕎麦に追はれけり
子や孫と甘味年越し蕎麦を食ぶ
子や孫と年越し蕎麦の膳囲む
子も孫も揃ひて墓参する晦日
スーパーの中に開かれ年の市
鮭ならぬ鰤の届きて年の暮
数の子と田作手始めに用意
琉球の蜜柑を載せて鏡餅
子も孫も勢揃ひしてお正月
嬉しさは家族増えゆくお正月
今年また増える家族やお正月
家族皆うち揃ひたるお正月
新品の札の香りもお年玉
凛として二千円札お年玉
いつも見る顔と一緒に初詣
世に離れゐてもこれほど賀状かな
世に離れゐても嬉しき賀状かな
正月の四国三郎のびやかに
買初の鳴門若布を土産とす
町川に来てゐる鴨の陣なさず
吉野川幅一杯に鴨の陣
竜の玉さがす子供になりきりて
竜の玉この瑠璃色に出合ひたく
正月の首塚樒みずみずし
長屋門入れば山茶花散り敷きて
ちらほらと咲きて満開冬桜
露座仏に供へし餅のひび割れて
子ら帰る風邪を残して皆帰る
日の当り来て葉牡丹の華やげる
吹き抜けのロビーに奴凧飾り
お似合ひと赤いセーター勧められ
手作りの手袋左右違ふ色
菊戴撮らんとカメラ設へて
寒禽は寒禽として只居たる
廃校の記念樹冬芽たくましく
どの道も落葉重なる野鳥園
鶲待つ望遠カメラ設へて
テレビ見る暇もなくて三が日
幼子を中心として三が日
玄関に靴の混み合ふ三が日
三が日済みて新聞読みに読む
寒鯉の尾鰭と言へど動かざる
寒鯉を食べに佐久まで来られよと
寒鯉は佐久に限ると信濃より
寒鯉の洗ひいただく酢味噌かな
寒鯉の生血のよしと勧めらる
鏡餅まるごと浸し水餅に
寒の水五臓六腑に染み通る
飛沫まで透き通りをり寒の水
ラガーらの前へ前へとつんのめり
ラグビーのボール高々弧を描き
猪突にも似て駆け抜けるラガーかな
駆け抜けるラガーの脚の太さかな
駆け抜けるラガーや胴のごとき脚
駅前の横丁のけふ戎市
横丁の見知りの路地の戎市
福笹を提げてバーゲン見て回る
福笹を提げて富籤売場へと
風花の舞ひゐて残る空の青
風花やみちのくのこと気にかかる
風花の海に吸はるる如く消ゆ
一輪の梅に眼の集れる
梅探り来て一輪に出合へたる
葉に固く抱かれてをり蕗の薹
山茶花の咲き継ぐ赤と散りし赤
蕗の薹犇ける葉に抱かれて
白梅の蕾膨らむ日和かな
まだ蕾なれど紅梅紅仄と