今月の俳句

2016年12月

大鷭の群れより鴨の飛び立てる

大鷭よ鴨よと見れば鳰も来て

ゆったりと大鷭の行く平和かな

仰け反りて反動つけて鴨潜る

目の前に大鷭の群れ漂へる

鳴き声はあの大鷭でありしかと

鴨を見て来て熱熱の鰊蕎麦

庭の柿褒めれば採ってゆかれよと

柿採ってゆかれと鋏持ちくれし

好きなだけ柿採られよと言はれても

獅子柚は柚にはあらず文旦と

醤油屋の老舗艶よき柚並べ

醤油屋の老舗の柿の取り放題

醤油屋の老舗の庭の檸檬かな

御屋敷の柿も蜜柑も柚も熟れ

枝付きの大和柿買ひ干柿に

夜なべして柿の皮むく黙々と

大仏殿前の参道焼芋屋

東大寺鳴門産なる焼芋屋

冬晴の大仏殿の高さかな

奈良に来て冬紅葉見て鹿も見て

冬紅葉あらん限りの色尽くし

点灯の早き車や暮れ早し

綿々と銀杏の並木御堂筋

黄落の御堂筋行く真っ直ぐに

冠雪の富士端麗でありにけり

冬晴れや富士全貌を現はしぬ

南天の実も葉も真っ赤なる離宮

実南天見てより園を逍遥す

真っ直ぐに鴨の水尾引く静寂かな

浮寝鳥世は泰平でありにけり

艶やかに色の極まる冬紅葉

競い咲き出しは躑躅の帰り花

精一杯咲きて控え目冬桜

日向よりほころび始め冬桜

雪吊りの松に気品のありにけり

雪吊の終りし松の楚々として

天辺は見上げるばかり松手入

大工事並みの構えや松手入

空港のロビーはやばや大聖樹

空港のいつもこの場所大聖樹

綿虫の湧き出る如く我が前に

綿虫の不意に現はれ不意に消ゆ

一葉づつ剥がれるやうに銀杏散る

大銀杏黄葉散らずにゐてくれし

大銀杏黄葉の色の多彩さよ

落雷に耐えし銀杏の照黄葉

銀杏のかき揚げ蕎麦を我もまた

寄鍋と云へば金沢主計町

寄鍋と云へば「太郎」よ金沢よ

寄鍋の老舗の女将襷掛

寄鍋を仕切る女将の襷掛

襷掛けして鍋奉行仕る

寄鍋の具それぞれに入れ時と

寄鍋をごった煮とせぬ手際かな

ひたすらに全快祈り冬籠

冬籠さて昼飯をどうしやう

冬籠同士の電話長くなる

大年の机一つの小商ひ

お歳暮は洒落たものより旨いもの

年忘句会俄かに男増え

来ぬ人のこと気にかかる年忘

年忘九十八歳紅もされ

歳晩のイルミネーション昼はなく

聖樹には昼も灯りの瞬ける

電飾を待つ年の瀬の街静か

蝦夷鹿のステーキ阿波で薬喰

蝦夷鹿の増えて困ると薬喰

薬喰やっぱし牛が一番と

薬喰ジビエ料理と云ふさうな

薬喰し過ぎて薬飲む

霜降りとミスジ仕入れて牛鍋に

牛鍋の十人分の肉の嵩

子も嫁も孫も牛鍋大好きと

牛鍋に野菜大事と妻の云ふ

年の瀬や電飾に川煌めける

大年の御伽の国の町を行く

2016年11月

行楽の秋の鳴門の渦見かな

秋日濃し鳴門の渦の白波に

渦を見る秋の鳴門の大潮に

屋上にお花畑や秋の雨

睡蓮の池にやさしき秋の雨

盆栽の岩を噛みたる菊根かな

懸崖の揃ひ咲き初む小菊かな

懸崖の小菊の遅速気にかかる

それぞれの菊に個性のありにけり

菊衣着たるキリンの像仰ぐ

真ん中に小学生の菊展示

多種類を集めし菊の展示場も

大輪の菊の咲き満つ艶やかさ

紫の幕のきりりと菊花展

丈揃へ開花も揃へ菊花展

小屋に満つほのかな香り菊人形

それぞれの視線ちぐはぐ菊人形

名場面かくの如しと菊人形

遠ざかるほどに紫花辣韮

文化の日辣韮の花のお祭りに

鳴門には砂畑多し花辣韮

焼芋を辣韮まつりに振舞はれ

焼芋の焼けるを待てる列に着き

辣韮の花のやさしき冬日かな

立冬の日本列島晴れ渡る

立冬の阿波の半袖日和かな

神留守の奥社電灯点きしまま

神留守の天神さんに遊ぶ子ら

公園のいつもこの場所石蕗の花

手入などせしことなけど石蕗の花

江戸の世の大奥はここ石蕗の花

大奥の跡一面の石蕗の花

日向より日蔭の石蕗の花の色

孫崎は四国の起点石蕗の花

石蕗咲いて園の明るくなりにけり

石蕗の花水面の影も明るかり

少年の裸像に冬日暖かく

晴天の銀杏黄葉の明るさよ

真ん中に銀杏大樹の黄葉かな

高齢の方々無料菊花展

蜂須賀の御殿の庭の菊花展

石庭の白を極めし石蕗の花

城山の裏側暗し石蕗の花

本丸の跡は原っぱ小鳥来る

何もなき天守跡かな枇杷の花

木の実散る石段登り本丸へ

郁子を見て天智天皇知世の世を

鳴門かなここも砂畑大根引く

大根引く砂畑なればひょいひょいと

大鳴門橋そこに見る大根引

帰り花一つと見れば二つ三つ

その奥の枝にぽつんと帰り花

頼りなささうに咲きゐて帰り花

満開といふことのなく帰り花

国会の庭ひろびろと石蕗の花

県木の庭の錦木紅葉かな

汁搾り終へたる柚の柚湯かな

皮と汁採られし柚の柚湯かな

日を返す紅葉の赤の眩しさよ

緑より赤へ紅葉の色の数

仰ぎ見る頬に額に木の実降る

木の実降る音にリズムのありにけり

立錐の余地も残さず木の実降る

絶え間なくぽつんぽつりと木の実降る

木の実降る鳥居くぐりて総門へ

木の実踏み樟の実茂る本宮へ

小春日の二千六百歳の楠

御手蒔の虚子の松かな手入され

西の下の句碑高々と西日受く

西の下の西日の中の虚子の句碑

大綿の不連続線描き飛ぶ

黄落といふは天より降ってくる

黄落の庭に伊佐庭翁しのぶ

照紅葉残る緑のあればなほ

旅小春西の下の句碑訪ねもし

小春かな貸自転車で島巡る

西の下に回り道もし旅小春

瀬戸の島日当たりどこも蜜柑山

旅に出て小春の一と日堪能す

小春日となりて足取り軽き旅

小春日の後も小春日続きくれ

千切られし烏瓜なほ真っ赤かな

枝先にぽっと桜の帰り花

咲きっぷりよきは躑躅の帰り花

笹山を行けば笹鳴らしきもの

をらざると思ふていたる綿虫が

土砂降りのなか綿虫と出会へたる

色競ふほどや躑躅の帰り花

2016年10月

雨の日も迎へてくれし道をしへ

人の来ぬ雨の札所に道をしへ

瑠璃残し雨に発ちたる道をしへ

雨避けるやうに小蔭へ道をしへ

降り出せる雨の中へと道をしへ

降る雨に剥き出しの崖藤袴

原色の国より帰り藤袴

露草や名なき遍路の小さき墓

黒揚羽来て曼珠沙華より赤く

雨の日の紫式部艶やかに

雨に濡れ瑠璃艶やかに式部の実

秋霖に鎮もる札所人疎ら

秋霖に伸び放題や屋敷畑

咲き残るデイの花のなほ真紅

青空やまだ緑濃き金鈴子

可憐なるその名知りたし草の花

犇めける白の凛々しき玉簾

小鳥来る藩主の墓地の喬木に

城山は原生の森小鳥来る

藍作る人のなき町夢道の忌

藍農家ありしは昔夢道の忌

藍の町今人参や夢道の忌

夢道忌や人参の畑作らねば

夢道忌の町人参の畑となる

夢道忌やカリフラワーの苗も植え

辛党の甘党なりし夢道の忌

酒供へ餡蜜供へ夢道の忌

長雨にどの穭田も青々と

長雨や穭田の穂のこんなにも

青々と穭田実るほどの雨

青々と穭田実り雨上がる

秋霖に穭田どこも伸び放題

見るほどになるほどタデ科藍の花

種を採るための一枚藍の花

秋晴や徳島平野一望に

秋の山ロープウェイも満席に

秋の日の大歩危峡の舟下り

秋霖の水嵩なりし舟下り

逆巻ける峡谷の水澄みに澄み

渓谷を見下ろす岸辺花芒

秋風を気にして渡るかずら橋

かずら橋渡れば風の爽やかに

実の成る木多き庭園小鳥来る

広葉樹多き公園小鳥来る

小屋掛けの建ちし公園小鳥来る

小屋掛けの屋根に小鳥の来て止る

森深き阿波一の宮小鳥来る

野の中の森は札所や小鳥来る

長雨やここも苅田の青々と

裏作のなき世や苅田捨て置かれ

玉砂利の御所を巡れば初紅葉

一枝に始まる桜紅葉かな

桔梗咲く迎賓館の中庭に

大振りや迎賓館の花梨の実

大振りの傷一つなき花梨の実

大玉の傷なき花梨迎賓館

迎賓館花梨大玉傷もなし

鷺の来る迎賓館の水澄みて

鯉の赤松の緑よ秋日濃し

大空に孤高なるかな鷹渡る

省エネのグライダーかな鷹渡る

羽の紋見ゆる高さや鷹渡る

黒点のたちまち鷹となり渡る

人間の橋を見下ろし鷹渡る

鷹渡る風に乗りたる高さかな

跳ねる鰡鷲掴みして鶚ゆく

後戻りせしは海鵜や鷹渡る

喬木の天辺よりの鵙高音

同僚の予期せぬ訃報身にぞ入む

一声の鵙の高音でありにけり

一声を残して鵙の飛び立ちし

身に入みぬいじめに死せし子の笑顔

身に入みぬあの偉丈夫の逝かれしと

鵙一羽ゐて藩主墓地にぎやかに

ぼろぼろになりても威あり破芭蕉

曝されることは無残や破芭蕉

名刹の墓地の一隅破芭蕉

そのかみの名士の屋敷破芭蕉

人影の見当たらぬ島秋は行く

行く秋や明石海峡真っ平

田仕舞の煙たなびき秋は行く

上着持ち行けとの予報秋は行く

水郷を巡る近江の秋晴れに

水郷は葦生い茂る迷路かな

水郷を巡る葦見て芒見て

水郷の岸辺に群れて藤袴

安土城城跡は秋の野遊び場

安土城ありしは昔蕎麦の花

悲運なる秀次の城尾花散る

城跡は八幡山頂薄紅葉

水澄める八幡堀の舟巡り

溝蕎麦の白美しき水辺かな

蔵続く八幡堀や柳散る

朝顔や近江商人生みし町

菊展示して御城下の案内所

郁子実る近江八幡駅頭に

大病を乗り越え来られ菊を見る

懸崖の蕾に気品菊花展

木犀の香に菊の香のつつまるる

木犀の香を背に菊の香を探る

ひとひらに始まる菊の開花かな

名札皆二文字の漢字菊花展

丈の助せしは減点菊花展

十二種で三色並べ菊競ふ

2016年9月

残暑吹き飛ばすよさこい踊かな

御城下の緑陰にゐて見る踊

炎天下衛兵の列乱れなく

衛兵は流れる汗もぬぐえぬ身

新涼の白美しき故宮かな

秘宝見て故宮の庭の新涼に

灯籠の如く天燈上げる夜

天燈を上げて灯籠流しふと

十份で天燈上げる良夜かな

台北の夜長静かに始まりぬ

秋めける台北駅の夜景かな

九份に昭和の日本偲ぶ秋

九份に八尾の風の盆をふと

九份はレトロな町や秋簾

霧晴れて眼下に海の見えてきし

展望の開け奇観の爽やかに

爽やかや天は巧みな芸術家

飛機の着く日本の秋の心地よく

恙無く二百十日を忘れゐし

落つる梨一つだになき厄日かな

台風の逸れてゆきたる厄日かな

上出来の新米届く厄日かな

写真入り歳時記を読む夜長かな

溜め置きし録画番組見る夜長

秋の夜の酒は静かに飲むべかり

睡蓮の池を離れず赤蜻蛉

松手入済みたる空の広さかな

なほも咲く百日紅かな鰯雲

偽物の堂見て作句蚯蚓鳴く

似て非なる日暮の門法師蝉

偽物の門けばけばし放屁虫

偽物の堂宇見て来て月を観る

けばけばしき寺を見て来て月を観る

偽物の堂宇ばかりや蚯蚓鳴く

偽物の堂宇の並び放屁虫

月仰ぐ極彩色の寺を見て

派手派手の寺を見て来て月を観る

御城下で観月会の準備かな

月を観る月見櫓のすぐ側で

松並木抜ければ天守法師蝉

掘割の風の涼しき蔵の町

掘割を涼しき風の渡り来る

咲き初めし萩の朱色のほんのりと

宵闇に萩の紅白知れぬまま

灯の点り始めし町の暮れ早し

打ち上げはビーフステーキ秋の宵

天空の城への道の長さかな

天空の城へ登れば片時雨

天空の天守涼しき風通る

上り汗下り涼風山の城

霧なくも天空の城ぼんやりを

武家屋敷庭の芙蓉のこんもりと

開け放ち涼風通る武家屋敷

秋日濃し小堀遠州なる庭に

石庭を白き秋風渡り来る

石庭の縞くっきりと秋日濃し

色褪せずなほも咲き継ぐ百日紅

此れやこの青い睡蓮モネをふと

歳時記の出版祝賀爽やかに

爽やかや歳時記上梓せし床屋

床屋さん歳時記上梓爽やかに

ご家族で祝賀の一日新酒汲む

山ほどの青みかん持ち祝ぎの間に

摘果せし青みかんとてかく甘き

青みかん三ヶ日なればかく甘く

歳時記を出せし床屋と青みかん

歳時記をめくれる妻と青みかん

歳時記を出版の師と新酒汲む

浜名湖に島一つあり鱸釣る

剥き出しで咲くこともあり葛の花

犇めける白粉花の香りかな

咲き競ふ溝蕎麦の背の高さかな

虫時雨聴いてゆかれと僧の云ふ

空と水青き浜名湖鯊を釣る

松並木多き浜名湖鯊を釣る

台風の夜の東京早や闇夜

台風の後も東京雲残る

寛一とお宮の像に秋黴雨

マリーナにヨットの並ぶ道の駅

鉄幹と晶子の湯宿柳散る

柳散る東海館の栄華ふと

大甕に活けて花野に思はるる

吾亦紅どんと活けある湯宿かな

路地多き湯の町伊東秋簾

朝顔や昭和通りと云ふべかり

朝顔や昭和のままの出湯の町

露地に咲く秋海棠の丈高く

玄関に秋海棠の花明かり

垣根より糸瓜の垂るる道を行く

街道へ糸瓜たらしてゐる屋敷

竜胆を活けて土蔵の蕎麦屋かな

こぼれたる萩にこぼれてこぼれ萩

大手術乗り越え来られ爽やかに

七輪を出して炭火で秋刀魚焼く

お隣も秋刀魚焼きたる匂ひかな

新物と大きく書いて秋刀魚売る

水澄めるスイスの湖の青さかな

水澄める新町川の魚影濃く

浜名湖は海より水の澄み渡る

水澄みて水族館のやうな川

ラクレット食べシャモニーの夜長ふと

シャモニーの夜長に食べしラクレット

モンブラン下山の後のラクレット

下山して食べしスイスのラクレット

2016年8月

噴水の天辺水の踊り場に

噴水の始めの水のするすると

噴水の終りの水のへなへなと

噴水の虹を生み出す角度かな

噴水や名画の舞台そのままに

噴水を見せるためなる宮殿と

ずぶ濡れになり噴水と遊ぶ子ら

海桐咲くアドリア海の青さかな

教会の白より白く花海桐

中世の城壁出れば花海桐

ベネチアは千里の彼方花海桐

砲台の残る海岸花海桐

海桐咲く安宅関の海岸に

海桐咲く阿波の伊島は亜熱帯

天井に扇風機ある屋敷

天井に扇風機ありジャズを聴く

青空を席巻せんと雲の峰

雲の峰川面の影も堂々と

韋駄天を追ふ韋駄天や雲の峰

見るうちにゴジラとなりし雲の峰

雲の峰また雲の峰雲の峰

入道は妖怪なるか雲の峰

天辺は光を弾き雲の峰

真っ昼間より牛蛙鳴ける川

噴水のてんでばらばらなる落下

父と子の野外工作夏休

立秋の日の秋探し園巡る

秋見つけられたかを聞く秋立つ日

噴水の止まり残暑の蘇る

天空に箒目残し秋の雲

手の届く高さにをりし秋の蝉

素手の子に捕へられたり秋の蝉

秋立つといふは暦の上のこと

秋立てど小さな秋もなき日和

県外の連も溌剌阿波踊

冷房のホールで昼の阿波踊

正調は静かさもあり阿波踊

三味線の音にも年季や阿波踊

正調の調べを笛に阿波踊

小粋なるよしこの節も阿波踊

小気味良き子らの踊りを先頭に

息の合ふ男と女阿波踊

腰屈め網打つ如く阿波踊

ゆったりと品よきもまた阿波踊

連長は鯔背な法被阿波踊

見る阿呆踊る阿呆となる踊

夏休休日なしの恐竜展

夏休恐竜展は親子連れ

かなかなを聞かんと高尾山登る

かなかなの名所と聞きし高尾山

かなかなで知られし山のかなかなと

かなかなをたっぷりと聞き山降りる

かなかなや夕べの風の心地よく

中天の大銀漢を仰ぎ見る

宇宙へも行ける御時世天の川

浅瀬あり渕もありけり天の川

新涼の空の青さでありにけり

新涼の街の白さでありにけり

新涼の街どことなく落ち着きて

新涼の大気の中で深呼吸

溝蕎麦の茎赤かりし長かりし

犇めける溝蕎麦の根を洗ふ水

谷川を埋め溝蕎麦咲ける里

2016年7月

梅雨晴れて心浮き立つ旅路かな

長雨に洗ひ出されし緑かな

梅雨晴れの淡路は緑美しき

夏霧に沈む海峡ゆくフェリー

海峡と言ふは夏霧湧くところ

むくげ咲く神戸は異人多き街

梅雨雲を抜けて飛び立つ飛機光る

佐和山の城址夏草生ひ茂る

鱧尽くし平らげてなほ回顧談

八十を越へて健啖鱧尽くし

年寄りは淡白がよし鱧料理

朝顔の垣根茶店の店頭に

鉢植えの朝顔並べある茶房

朝顔や昨日は昔むかしなる

朝顔や昨日は昨日今日は今日

朝顔のさやけき風に翻る

朝顔の朝一番の鮮やかさ

瀑布山なる山寺の清水かな

瀑布山なる山寺の滝涸れず

万葉の恋の歌碑見て萩を見る

あさがほの名ある朝のむくげかな

八重に咲く赤いむくげの艶やかさ

あさがほと詠まれし桔梗見る朝

山寺の小さな滝に芭蕉句碑

万葉の花ある森の緑濃し

炎天を歩いてゆきし若さかな

炎天を歩いて来られたる若さ

夏霧や意外に狭き関ケ原

夏霧を抜けて新幹線の行く

夏霧の雫真横に走る窓

日没の後も青空残る夏

左右皆蓮田の中をゆく列車

糠雨に白の浮き出し蓮の花

ここもまた無人駅かなカンナ咲く

雨の日もカンナは背筋伸ばし咲く

霧雨に濡れしカンナの艶やかさ

梅雨嬉し植木の町の苗木畑

梅雨てふに川の乾きし讃岐かな

讃岐かなここもため池梅雨嬉し

夏霧の海峡渡りゆく列車

夏霧の瀬戸の島々すっぽりと

瓜実る家庭菜園ダーチャふと

児島湾跡形もなき植田かな

讃岐かなおむすび山に差す西日

夕暮れの早き里山合歓の花

緑陰に椅子を並べて句に遊ぶ

むせ返るほどなる香り藍を干す

たっぷりの雨と太陽藍茂る

一番の藍干す箒新しく

畝筋の見えざるほどに藍茂る

長雨に刈れざる藍の茂りやう

植うる時期ずらしてありし藍を刈る

冷蔵庫開ければ麦茶定位置に

佳き香り麦茶づくりの工場より

甘くなき麦茶を子らも好きといふ

ごくごくと麦茶飲み干す三歳児

さりげなく出せる麦茶の気安さよ

西日受く窓を小さくリフォームす

瀬戸の海赤く染め上げ西日果つ

鬼百合を小鉢に生けて持ちくれし

野の花も野の鬼百合も生花に

徳島は橋多き街船遊

船遊皇居一周せし距離と

舟動き出したる風の涼しさよ

汗臭き救命胴衣頭より

心地よき風に歓声船遊

川筋に洒落た市立ちかき氷

船長は靴屋の亭主船遊

船遊富士のやうなる眉山も見

江戸の世の松並木も見船遊

県庁の前はヨットのハーバーに

船遊水の都の真ん中で

2016年6月

十薬の花の咲き満つ狭庭かな

そこらぢゅう十薬の花咲ける庭

花咲いて十薬増えしことを知る

降る雨に十薬の花凛として

雨の日の白の浮き出し額の花

雨の日の白の眩しき額の花

紫陽花の始めの白でありにけり

紫陽花の始めの鞠の薄緑

待ちゐたる雨に紫陽花目覚めしか

雨降りて紫陽花の紫陽花らしく

摘みし茶葉茹でて揉み漬け阿波番茶

番茶摘み乳酸発酵させる阿波

阿波番茶軍手をはめてしごき摘む

番茶摘む平家伝説残る地に

阿波番茶づくりの記憶かく暑き

阿波番茶出来立て甘し乳児にも

新茶汲む今朝は知覧の新茶汲む

漬け方を添へて辣韮の山積みに

漬けたしと思ふ小粒の辣韮かな

小粒なる鳴門の辣韮選び買ふ

今年こそ辣韮漬けんと見るレシピ

原色の花咲く島の夏来る

サボテンの花咲く島の炎暑かな

紫陽花のこんもりと咲く孤島かな

年毎に人減る孤島額の花

笹百合を見んと連絡船に乗る

登山靴はいて笹百合探訪に

崖に出て見れば笹百合目前に

固有種の伊島笹百合なる香り

笹百合を訪ね杣道一万歩

原生の森に笹百合ひっそりと

日当たりの笹百合の丈低かりし

笹百合の木陰に咲くは丈高く

笹百合の群生見つけたる伊島

群生の笹百合四方から眺め

笹百合に会えたと言ひて船に乗る

雨に咲く泰山木の艶やかさ

なほ上に泰山木の花数多

雨に咲く泰山木の白さかな

裏山の天辺よりの時鳥

段畑のありし裏山時鳥

時鳥もう一度とて登る山

山路来て車下りれば時鳥

読み切れぬ泰山木の花の数

見下ろしてみたき泰山木の花

遠目にも泰山木の花数多

一軒に一人の出役溝浚へ

出ぬ家は罰金の布令溝浚へ

溝浚へ役場の人の来て終る

専門の車両も出で来溝浚へ

我が町は二年に一度溝浚へ

路地毎に順番のあり溝浚へ

群れ泳ぐ鯉の先頭ゆく鯰

ひらひらと泳ぎ上手の鯰かな

遠き日のドナウの鯰料理ふと

耳元に来て離れざる蚊の羽音

小さき蚊に振り回されてゐる私

一匹の蚊に付き纏はるる一夜

アマリリス眩しき梅雨の晴れ間かな

古の邑見下ろせば時鳥

入りてみる竪穴住居涼しかり

古代米作りし畑に藍茂る

こはれたるやうに泰山木の散る

鰻釣る餌てふ蚯蚓の大きさよ

紫は影を作らず花菖蒲

古墳今史跡公園花菖蒲

この谷戸に古代も今も時鳥

屋上のテラスでランチ梅雨晴れて

テラスより満席となる梅雨晴間

原生の森なる梅雨の眉山かな

家ほどの小屋に玉葱干す淡路

今朝もまた新玉葱のサラダかな

畑毎に玉葱小屋のある淡路

玉葱を干せと紐までつけてくれ

三代目藩主は歌人文字摺草

捩花のひしめき咲ける藩主墓地

左巻き右巻きもまたねぢり花

もじずりの歌人の墓にどっと咲く

墓地おほひ尽くさんばかりねぢり花

もじずりを見てひらかなの書展見る

もじずりのやうやひらかなくねくねと

五十度の熱湯で黴退治せん

クリーニングしても黴黴黴の服

思ひ出の多き靴ほど黴多く

養殖の鮎のまるまるよく太り

天然の鮎は腸まで旨し

香魚かな腸までも芳しく

鮎料理子らまで背越好きと言ひ

若鮎の背越膾が一番と

モラエス忌来れば徳島梅雨明ける

変はらざる眉山の緑モラエス忌

リスボンの緑懐かしモラエス忌

リスボンの鰯太っちょモラエス忌

七輪で焼きたし鰯モラエス忌

恋多き人ほど淋しモラエス忌

死といふはある日突然モラエス忌

金あれどなき幸せやモラエス忌

ファド聴きて偲ぶ孤愁やモラエス忌

カステラを食べても孤愁モラエス忌

航海王子エンリケをふとモラエス忌

発見のモニュメントふとモラエス忌

蜘蛛の囲のはじめの糸の大胆さ

蜘蛛逃げる走りときには跳びもして

蜘蛛の巣に封印されてゐし雨戸

葉柳の下に陣取る露天商

倉敷の波止場跡なる夏柳

水枯れし運河の岸辺夏柳

杭州の西湖ずらりと夏柳

堤なきモスクワの川夏柳

泉とは水湧き命湧くところ

足元に生まれ立てなる草清水

水温計下がる速さや草清水

隣にもその隣にも草清水

冷たさの痛いほどなる草清水

ほらあそこ夏鶯の鳴いてゐる

尾を振りて鳴く老鶯を仰ぎ見る

2016年5月

薔薇祭命の水を巡らせて

薔薇祭甘い香りに満ち満ちて

紫の眩しき薔薇のありにけり

黄色とは輝きの色薔薇の花

夕べまで色鮮やかに赤い薔薇

原色の艶比べかな薔薇祭

抜きん出し薔薇はクイーンエリザベス

清楚なる佳人の如し白い薔薇

清楚なる佳人は寡黙白い薔薇

雨後の薔薇凛と背筋の伸びてをり

赤い薔薇マリーアントワネットふと

カルメンといふは知らねど赤い薔薇

背比べしてゐる薔薇の蕾かな

色を褒め香りを愛でて薔薇巡る

うら若き薔薇の真っ直ぐ天に向き

際立てる薔薇はチャールストーンなる

天辺に集まってゐる橡の花

初鰹蕎麦の老舗のメニューにも

不漁なるニュースばかりや初鰹

並ぶればすぐに売り切れ初鰹

この時季の土佐懐かしき初鰹

初鰹土佐は幟の街となる

叩きよし刺身またよし初鰹

袋掛待つ梨畑の広さかな

袋掛すみたるらしき風の音

石廊崎太平洋の卯来る

石廊崎音立て卯浪砕け散る

真青なる海より真白なる卯浪

見下ろせば白の眩しき卯浪かな

薔薇園をぐるりと囲み花茨

そのかみの大奥はここ花茨

薔薇園になほ咲き続く花茨

人はみな古里のあり花茨

サボテンの花の眩しき夏の朝

サボテンの花にやさしき初夏の風

坪庭に白の眩しき額の花

十薬の花は可憐や白十字

かたばみの花の四方に増えし庭

かたばみの花に太陽強過ぎる

寝転びて若葉の風の中にゐる

老鶯の声のだんだん近くなる

境外の木下闇まで無縁墓

時鳥河鹿も鳴かずえごも散り

せせらぎに河鹿は鳴かず川蜻蛉

河鹿鳴いたよとの声について行く

足音を忍ばせて待つ河鹿かな

時鳥待つ俊寛を偲ぶ寺

大竿の撓る遠投鱚を釣る

滑走路見える砂浜鱚を釣る

砂山を越えて来し浜鱚を釣る

遠浅の人なき浜に鱚を釣る

庭園のやうな工場樟若葉

蘇る樟の大樹の若葉かな

神木の札ある樟の大若葉

静岡の昔の上司より新茶

誕生日祝ひて新茶送りくれ

新茶の香胸一杯に吸ひてより

掛川の新茶をリマの友にまで

旨いもの市の新茶の飲み比べ

松籟の間に松蝉はっきりと

耳立てて松蝉なるを確かめる

2016年4月

水面にも千鳥ヶ淵の桜かな

咲き満てる花の下なるボートかな

咲き満てる花を仰ぎてボート漕ぐ

花仰ぐボートの二人寄り添ひて

山寺へ菜の花明かりの道を行く

山門に躑躅の大樹ある古刹

お花見や平和な日本ありがたく

縁日のやうなお花見獅子舞も

曲線の力学垂れ桜かな

花御堂銀座四丁目の店頭に

春灯の銀座まばゆき新店舗

大鉢にどんと蕗の薹を活け

石楠花と連翹競ひ咲ける池

雨滴置き石楠花の紅極まれる

連翹の犇めく花弁重ならず

鶯や富士の全貌見える丘

群れ咲ける馬酔木の花の峠かな

白魚の干物も並ぶ熱海かな

虚子の忌へ伊予と道後の旅終へて

鶯をたっぷりと聴き門くぐる

けふ虚子忌あすは総理と桜見る

鶴岡八幡宮の牡丹見る

牡丹園昨夜の風雨の跡残る

ぼうたんの土に桜の吹雪かな

ぼうたんの昨夜の風雨に散りにけり

一夜さに散りし牡丹のはかなさよ

一夜さの雨に萎れし牡丹かな

ぼうたんの一株毎の和傘かな

小さきほど色の眩しき牡丹かな

招かるる桜吹雪のお花見に

散り敷ける染井吉野の白さかな

牡丹桜まだ六分咲きなる御苑

花屑の新鮮なりし御苑かな

花屑の真白でありし御苑かな

花屑と呼ぶは勿体なき御苑

御苑かな純白なりし花筏

その奥に垂れ桜の茶室かな

山吹の山吹色がことに好き

引き寄せらるる海棠の明るさよ

オランダの風車小屋ふとチューリップ

原色の整列縦隊チューリップ

太陽へ伸びゆく背丈チューリップ

そよ風に揺れ通しなるチューリップ

太陽の明るさが好きチューリップ

湯籠さげ春灯の街そぞろ行く

春灯の道後に黒き人力車

春灯の道後に明治の気配して

春灯の湯宿に残る昭和かな

春灯の控へ目なりし湯宿かな

春灯の路地裏にある昭和かな

遠足の弁当作る朝五時に

保育所の遠足そこの公園へ

痩身の宰相眠る牡丹寺

ぼうたんに南平台の総理ふと

青天の霹靂遠き牡丹かな

三木武夫睦子夫妻や牡丹散る

残り咲く牡丹いづれも健気なる

凛として水田の畦のあやめかな

若楓御手洗の水滾々と

ぼうたんに北京の刺繍壁画ふと

生垣の皐月躑躅の明るさよ

行く春や金比羅歌舞伎早や楽日

行く春や櫓太鼓は閉め太鼓

行く春や庭のどの木もよく茂り

行く春や街を行く人軽装に

行く春や行楽の日々早や遠く

行く春を箱根小田原鎌倉で

行く春の楽しき旅に疲れなし

2016年3月

まだ風の尖ってゐる梅見かな

梅の香のどっと寄せ来てさっと去る

太陽と一対一や犬ふぐり

初音聞き洩らしをりしことを知る

ガリバーの如き吾が足犬ふぐり

この里に帰りし知らせ梅の花

帰り住む新婚さんも梅の里

菜の花を活けて明るきロビーかな

微笑みもお澄ましもあり雛の顔

青空へ蜂須賀桜鮮やかに

水仙と蜂須賀桜競ひ咲く

鴨帰り鷗居座わる町川に

早咲きの蜂須賀桜早も散る

園児らもこれが蜂須賀桜とて

桜見てハワイアン聴き街うらら

トンネルの蜂須賀桜ほんのり朱

トンネルを作りし蜂須賀桜かな

吾の植えし蜂須賀桜これほどに

植樹して花の名所と呼ばれけり

苗植えし日の懐かしき桜かな

舟からも蜂須賀桜見える街

舟からも蜂須賀桜見に来られ

卒業のなき句の道を今日も行く

卒業のセピア色なる写真かな

卒業の昭和も遠くなりにけり

卒業の答辞を読みし日の遠く

卒業の友と九州巡りし日

卒業の写真に弾むクラス会

保育所の卒園式に招かるる

未来への夢を語りて卒園す

薔薇の芽の赤に違ひのなかりけり

薔薇の芽に早や柔らかき棘のあり

薔薇の芽の育ちゆきたる速さかな

木蓮の見上げるほどの高さかな

純白の木蓮青い空に咲く

木蓮の青空覆ひ尽くし咲く

木蓮のどの花弁も天に向き

湯の街の明かりぼんやり春の宵

イングランドホテルのロビー吊し雛

芽柳の青モノトーンなる街に

掘割の水涸れし街冴返る

鴨引きし川満々と水たたえ

鴨引きし川に群れなす鷗かな

鴨引きて川幅広くなりにけり

茎立ちの二束三文なる市場

茎立ちも混じり日曜だけの市

茎立ちの野菜爆発せし如く

茎立ちて弾け飛ぶかにブロッコリー

茎立ちの野菜は隅に仕分けられ

茎立ちの前の芥子菜塩漬けに

貝寄風に吹き寄せられてゐる藻屑

バーゲンの幟はためく貝寄風に

貝寄風の残してゆきし砂の紋

貝寄風に寄せらるる貝なき浜辺

見渡せばあたり一面土筆かな

この土手で土筆を摘みし日の遠く

母の味でした土筆の酢味噌和へ

麗かや遊覧船に人の列

スノーフレーク子らの遊びし公園に

フラミンゴまばゆき春の日差かな

長閑かな象の家族もゆったりと

おおらかや子規の愛せし城の春

春灯のからくり時計見て飽きず

芽柳や道後湯の町人力車

2016年2月

上空に寒気居座り阿波も雪

朝明けてみれば一面銀世界

雪原を吹き来る風の冷たさよ

雪降りて家籠りする日曜日

南国の阿波に一日解けぬ雪

深々と雪降る夜の静けさよ

松手入終はりし松に雪積る

雪乗せて松の緑の引き締まる

雪乗せて金柑の色増しにけり

一夜さに解けてしまひし阿波の雪

積もりたる雪の解け行く速さかな

雪解けの我が坪庭に蕗の薹

寄り添ひて大と小なる蕗の薹

雪解けてみればふっくら蕗の薹

さ緑のまぶしかりけり蕗の薹

剪定の鈴生り酢橘かく重し

酢橘の実付き過ぎてをり剪定す

完熟の実の付く酢橘剪定す

鈴生りの実の付く酢橘剪定す

二代目の初仕事とて剪定す

二代目の思ひ切りよく剪定す

水面まで迫り出すほどに蝌蚪の紐

一匹のこれほどまでの蝌蚪の紐

寒天のお菓子のやうな蝌蚪の紐

施肥なるか大根の葉の撒かれあり

公園の裏は笹山笹子鳴く

折れ曲がり節多き枝濃紅梅

二ン月の水の公園水涸れて

二ン月の光まぶしき徳島市

この船で寒鰡獲りし遠き日よ

霙来て誰言ふとなく山降りる

早春の街新しき道の成る

春光の徳島の街水清く

二ン月の街二ン月の山と川

腹痛に七転八倒する寒夜

サイレンを鳴らして運ばれる寒夜

悴める手にナースの手温かく

身に入るロタウイルスの怖さかな

点滴の粒の光も春隣

生還の我に冬日の暖かく

春昼をICUで過ごす日々

寒月よマチュピチュ旅行断念す

暖かき医師の笑顔に救はれし

病室の窓を開ければ鳥帰る

マスク越しなる医師の目のやさしき日

ICU出て春光の見える部屋

灯台も港も見えて海うらら

救急のサイレンまたも寒空に

春隣朝刊売りの声ににも

今日もまた春の一ト日を病室で

春宵の一週間を病室で

退院の許可出るバレンタインの日

天も地も鳴りを潜めて冴返る

寒明の眩しき空でありにけり

三寒の後も三寒冴返る

寒明かどうか水取終らねば

冴返る街にサイレン跳ね返る

冴返り冴返りして二月去る

寒明や旅行案内どっと来る

甘き香に引き寄せられて梅林に

満開の梅の香りに独りゐる

剪定の後の梅林花万朶

剪定し梅の古木の蘇る

梅見んと風の尖る野辺を来し

梅咲いて古木の園の花園に

梅古木なるにいよいよ花若く

凛として古木の付けし梅の花

薄氷に閉じ込められし蝌蚪の紐

昼までに解けて仕舞ひし薄氷

薄氷を見つけては踏む子らの声

薄氷の寄り合ひてゆくひとところ

野を焼ける香りの中に眠る里

2016年1月

石庭の中に真っ赤な実南天

庭中に南天の実の爆ぜる寺

日溜りは寒牡丹にと空けておく

眉山には湧き水多し実南天

万両よ千両よ南天の実よ

藩侯の世よりの庭の実南天

お元気なお顔が揃ひ初句会

寒鯉の籠り棲む水清からず

広き池なれど寒鯉片隅に

寒鯉に運動不足ないのかな

寒鯉の確かに呼吸してをりぬ

流れなき脇に寒鯉固まりて

山裾は水湧くところ寒の鯉

寒鯉や眉山は水の多き山

分乗し一家総出の初詣

緑児も肩車して初詣

ドイツ俘虜作りし橋や落椿

剪定の梅の小枝を分けくれし

猪垣の中に神田眠りをり

寒禽の森の中なる社かな

剪定す梅の硬さをこぼしつつ

剪定の媼は梅の硬さ説く

梅の木にラジオ吊り下げ剪定す

早梅の見えて足取り軽くなる

戻り来て早咲きの梅眺めゐる

接木せし跡ある枝の梅早し

松過の社の駐車場広し

松過の社寒禽鳴くばかり

松過の境内猿の天下かな

松過の参道行くは我独り

松過の二人の暮らしつつましく

お鏡も霰となりて小豆粥

幼子に少し冷まして小豆粥

ふうふうと吹きて幼子小豆粥

早咲きの梅に集まる視線かな

早梅のありて梅林華やげる

坪庭にあふるる光春隣

坪庭の土やはらかく春隣

野鳥園入れば鵟目前に

大鷹の急降下神風をふと

翡翠の踊り食ひせし嘴光る

沢鵟来て水面の景の一変す

冬枯れの葭原今も沢鵟飛ぶ

Vの字に翼を広げ沢鵟飛ぶ

羽白とは潜りて貝も食ぶ鴨と

鷹狩の大鷹らしき急降下

旋回す大鷹にある気品かな

大鷹の自爆の如き急降下

寒月の空広々とありにけり

寒月よあのお元気な友逝きし

寒月よ賑やかな友逝かれしと

寒月の張り付いてゐる空暗く

寒月も北斗も尖りをりにけり

保育所の迎え明かるし日脚伸ぶ

捨て置きし蘭に蕾や日脚伸ぶ