大鷭の群れより鴨の飛び立てる
大鷭よ鴨よと見れば鳰も来て
ゆったりと大鷭の行く平和かな
仰け反りて反動つけて鴨潜る
目の前に大鷭の群れ漂へる
鳴き声はあの大鷭でありしかと
鴨を見て来て熱熱の鰊蕎麦
庭の柿褒めれば採ってゆかれよと
柿採ってゆかれと鋏持ちくれし
好きなだけ柿採られよと言はれても
獅子柚は柚にはあらず文旦と
醤油屋の老舗艶よき柚並べ
醤油屋の老舗の柿の取り放題
醤油屋の老舗の庭の檸檬かな
御屋敷の柿も蜜柑も柚も熟れ
枝付きの大和柿買ひ干柿に
夜なべして柿の皮むく黙々と
大仏殿前の参道焼芋屋
東大寺鳴門産なる焼芋屋
冬晴の大仏殿の高さかな
奈良に来て冬紅葉見て鹿も見て
冬紅葉あらん限りの色尽くし
点灯の早き車や暮れ早し
綿々と銀杏の並木御堂筋
黄落の御堂筋行く真っ直ぐに
冠雪の富士端麗でありにけり
冬晴れや富士全貌を現はしぬ
南天の実も葉も真っ赤なる離宮
実南天見てより園を逍遥す
真っ直ぐに鴨の水尾引く静寂かな
浮寝鳥世は泰平でありにけり
艶やかに色の極まる冬紅葉
競い咲き出しは躑躅の帰り花
精一杯咲きて控え目冬桜
日向よりほころび始め冬桜
雪吊りの松に気品のありにけり
雪吊の終りし松の楚々として
天辺は見上げるばかり松手入
大工事並みの構えや松手入
空港のロビーはやばや大聖樹
空港のいつもこの場所大聖樹
綿虫の湧き出る如く我が前に
綿虫の不意に現はれ不意に消ゆ
一葉づつ剥がれるやうに銀杏散る
大銀杏黄葉散らずにゐてくれし
大銀杏黄葉の色の多彩さよ
落雷に耐えし銀杏の照黄葉
銀杏のかき揚げ蕎麦を我もまた
寄鍋と云へば金沢主計町
寄鍋と云へば「太郎」よ金沢よ
寄鍋の老舗の女将襷掛
寄鍋を仕切る女将の襷掛
襷掛けして鍋奉行仕る
寄鍋の具それぞれに入れ時と
寄鍋をごった煮とせぬ手際かな
ひたすらに全快祈り冬籠
冬籠さて昼飯をどうしやう
冬籠同士の電話長くなる
大年の机一つの小商ひ
お歳暮は洒落たものより旨いもの
年忘句会俄かに男増え
来ぬ人のこと気にかかる年忘
年忘九十八歳紅もされ
歳晩のイルミネーション昼はなく
聖樹には昼も灯りの瞬ける
電飾を待つ年の瀬の街静か
蝦夷鹿のステーキ阿波で薬喰
蝦夷鹿の増えて困ると薬喰
薬喰やっぱし牛が一番と
薬喰ジビエ料理と云ふさうな
薬喰し過ぎて薬飲む漢
霜降りとミスジ仕入れて牛鍋に
牛鍋の十人分の肉の嵩
子も嫁も孫も牛鍋大好きと
牛鍋に野菜大事と妻の云ふ
年の瀬や電飾に川煌めける
大年の御伽の国の町を行く
行楽の秋の鳴門の渦見かな
秋日濃し鳴門の渦の白波に
渦を見る秋の鳴門の大潮に
屋上にお花畑や秋の雨
睡蓮の池にやさしき秋の雨
盆栽の岩を噛みたる菊根かな
懸崖の揃ひ咲き初む小菊かな
懸崖の小菊の遅速気にかかる
それぞれの菊に個性のありにけり
菊衣着たるキリンの像仰ぐ
真ん中に小学生の菊展示
多種類を集めし菊の展示場も
大輪の菊の咲き満つ艶やかさ
紫の幕のきりりと菊花展
丈揃へ開花も揃へ菊花展
小屋に満つほのかな香り菊人形
それぞれの視線ちぐはぐ菊人形
名場面かくの如しと菊人形
遠ざかるほどに紫花辣韮
文化の日辣韮の花のお祭りに
鳴門には砂畑多し花辣韮
焼芋を辣韮まつりに振舞はれ
焼芋の焼けるを待てる列に着き
辣韮の花のやさしき冬日かな
立冬の日本列島晴れ渡る
立冬の阿波の半袖日和かな
神留守の奥社電灯点きしまま
神留守の天神さんに遊ぶ子ら
公園のいつもこの場所石蕗の花
手入などせしことなけど石蕗の花
江戸の世の大奥はここ石蕗の花
大奥の跡一面の石蕗の花
日向より日蔭の石蕗の花の色
孫崎は四国の起点石蕗の花
石蕗咲いて園の明るくなりにけり
石蕗の花水面の影も明るかり
少年の裸像に冬日暖かく
晴天の銀杏黄葉の明るさよ
真ん中に銀杏大樹の黄葉かな
高齢の方々無料菊花展
蜂須賀の御殿の庭の菊花展
石庭の白を極めし石蕗の花
城山の裏側暗し石蕗の花
本丸の跡は原っぱ小鳥来る
何もなき天守跡かな枇杷の花
木の実散る石段登り本丸へ
郁子を見て天智天皇知世の世を
鳴門かなここも砂畑大根引く
大根引く砂畑なればひょいひょいと
大鳴門橋そこに見る大根引
帰り花一つと見れば二つ三つ
その奥の枝にぽつんと帰り花
頼りなささうに咲きゐて帰り花
満開といふことのなく帰り花
国会の庭ひろびろと石蕗の花
県木の庭の錦木紅葉かな
汁搾り終へたる柚の柚湯かな
皮と汁採られし柚の柚湯かな
日を返す紅葉の赤の眩しさよ
緑より赤へ紅葉の色の数
仰ぎ見る頬に額に木の実降る
木の実降る音にリズムのありにけり
立錐の余地も残さず木の実降る
絶え間なくぽつんぽつりと木の実降る
木の実降る鳥居くぐりて総門へ
木の実踏み樟の実茂る本宮へ
小春日の二千六百歳の楠
御手蒔の虚子の松かな手入され
西の下の句碑高々と西日受く
西の下の西日の中の虚子の句碑
大綿の不連続線描き飛ぶ
黄落といふは天より降ってくる
黄落の庭に伊佐庭翁しのぶ
照紅葉残る緑のあればなほ
旅小春西の下の句碑訪ねもし
小春かな貸自転車で島巡る
西の下に回り道もし旅小春
瀬戸の島日当たりどこも蜜柑山
旅に出て小春の一と日堪能す
小春日となりて足取り軽き旅
小春日の後も小春日続きくれ
千切られし烏瓜なほ真っ赤かな
枝先にぽっと桜の帰り花
咲きっぷりよきは躑躅の帰り花
笹山を行けば笹鳴らしきもの
をらざると思ふていたる綿虫が
土砂降りのなか綿虫と出会へたる
色競ふほどや躑躅の帰り花
雨の日も迎へてくれし道をしへ
人の来ぬ雨の札所に道をしへ
瑠璃残し雨に発ちたる道をしへ
雨避けるやうに小蔭へ道をしへ
降り出せる雨の中へと道をしへ
降る雨に剥き出しの崖藤袴
原色の国より帰り藤袴
露草や名なき遍路の小さき墓
黒揚羽来て曼珠沙華より赤く
雨の日の紫式部艶やかに
雨に濡れ瑠璃艶やかに式部の実
秋霖に鎮もる札所人疎ら
秋霖に伸び放題や屋敷畑
咲き残るデイゴの花のなほ真紅
青空やまだ緑濃き金鈴子
可憐なるその名知りたし草の花
犇めける白の凛々しき玉簾
小鳥来る藩主の墓地の喬木に
城山は原生の森小鳥来る
藍作る人のなき町夢道の忌
藍農家ありしは昔夢道の忌
藍の町今人参や夢道の忌
夢道忌や人参の畑作らねば
夢道忌の町人参の畑となる
夢道忌やカリフラワーの苗も植え
辛党の甘党なりし夢道の忌
酒供へ餡蜜供へ夢道の忌
長雨にどの穭田も青々と
長雨や穭田の穂のこんなにも
青々と穭田実るほどの雨
青々と穭田実り雨上がる
秋霖に穭田どこも伸び放題
見るほどになるほどタデ科藍の花
種を採るための一枚藍の花
秋晴や徳島平野一望に
秋の山ロープウェイも満席に
秋の日の大歩危峡の舟下り
秋霖の水嵩なりし舟下り
逆巻ける峡谷の水澄みに澄み
渓谷を見下ろす岸辺花芒
秋風を気にして渡るかずら橋
かずら橋渡れば風の爽やかに
実の成る木多き庭園小鳥来る
広葉樹多き公園小鳥来る
小屋掛けの建ちし公園小鳥来る
小屋掛けの屋根に小鳥の来て止る
森深き阿波一の宮小鳥来る
野の中の森は札所や小鳥来る
長雨やここも苅田の青々と
裏作のなき世や苅田捨て置かれ
玉砂利の御所を巡れば初紅葉
一枝に始まる桜紅葉かな
桔梗咲く迎賓館の中庭に
大振りや迎賓館の花梨の実
大振りの傷一つなき花梨の実
大玉の傷なき花梨迎賓館
迎賓館花梨大玉傷もなし
鷺の来る迎賓館の水澄みて
鯉の赤松の緑よ秋日濃し
大空に孤高なるかな鷹渡る
省エネのグライダーかな鷹渡る
羽の紋見ゆる高さや鷹渡る
黒点のたちまち鷹となり渡る
人間の橋を見下ろし鷹渡る
鷹渡る風に乗りたる高さかな
跳ねる鰡鷲掴みして鶚ゆく
後戻りせしは海鵜や鷹渡る
喬木の天辺よりの鵙高音
同僚の予期せぬ訃報身にぞ入む
一声の鵙の高音でありにけり
一声を残して鵙の飛び立ちし
身に入みぬいじめに死せし子の笑顔
身に入みぬあの偉丈夫の逝かれしと
鵙一羽ゐて藩主墓地にぎやかに
ぼろぼろになりても威あり破芭蕉
曝されることは無残や破芭蕉
名刹の墓地の一隅破芭蕉
そのかみの名士の屋敷破芭蕉
人影の見当たらぬ島秋は行く
行く秋や明石海峡真っ平
田仕舞の煙たなびき秋は行く
上着持ち行けとの予報秋は行く
水郷を巡る近江の秋晴れに
水郷は葦生い茂る迷路かな
水郷を巡る葦見て芒見て
水郷の岸辺に群れて藤袴
安土城城跡は秋の野遊び場
安土城ありしは昔蕎麦の花
悲運なる秀次の城尾花散る
城跡は八幡山頂薄紅葉
水澄める八幡堀の舟巡り
溝蕎麦の白美しき水辺かな
蔵続く八幡堀や柳散る
朝顔や近江商人生みし町
菊展示して御城下の案内所
郁子実る近江八幡駅頭に
大病を乗り越え来られ菊を見る
懸崖の蕾に気品菊花展
木犀の香に菊の香のつつまるる
木犀の香を背に菊の香を探る
ひとひらに始まる菊の開花かな
名札皆二文字の漢字菊花展
丈の助せしは減点菊花展
十二種で三色並べ菊競ふ
残暑吹き飛ばすよさこい踊かな
御城下の緑陰にゐて見る踊
炎天下衛兵の列乱れなく
衛兵は流れる汗もぬぐえぬ身
新涼の白美しき故宮かな
秘宝見て故宮の庭の新涼に
灯籠の如く天燈上げる夜
天燈を上げて灯籠流しふと
十份で天燈上げる良夜かな
台北の夜長静かに始まりぬ
秋めける台北駅の夜景かな
九份に昭和の日本偲ぶ秋
九份に八尾の風の盆をふと
九份はレトロな町や秋簾
霧晴れて眼下に海の見えてきし
展望の開け奇観の爽やかに
爽やかや天は巧みな芸術家
飛機の着く日本の秋の心地よく
恙無く二百十日を忘れゐし
落つる梨一つだになき厄日かな
台風の逸れてゆきたる厄日かな
上出来の新米届く厄日かな
写真入り歳時記を読む夜長かな
溜め置きし録画番組見る夜長
秋の夜の酒は静かに飲むべかり
睡蓮の池を離れず赤蜻蛉
松手入済みたる空の広さかな
なほも咲く百日紅かな鰯雲
偽物の堂見て作句蚯蚓鳴く
似て非なる日暮の門法師蝉
偽物の門けばけばし放屁虫
偽物の堂宇見て来て月を観る
けばけばしき寺を見て来て月を観る
偽物の堂宇ばかりや蚯蚓鳴く
偽物の堂宇の並び放屁虫
月仰ぐ極彩色の寺を見て
派手派手の寺を見て来て月を観る
御城下で観月会の準備かな
月を観る月見櫓のすぐ側で
松並木抜ければ天守法師蝉
掘割の風の涼しき蔵の町
掘割を涼しき風の渡り来る
咲き初めし萩の朱色のほんのりと
宵闇に萩の紅白知れぬまま
灯の点り始めし町の暮れ早し
打ち上げはビーフステーキ秋の宵
天空の城への道の長さかな
天空の城へ登れば片時雨
天空の天守涼しき風通る
上り汗下り涼風山の城
霧なくも天空の城ぼんやりを
武家屋敷庭の芙蓉のこんもりと
開け放ち涼風通る武家屋敷
秋日濃し小堀遠州なる庭に
石庭を白き秋風渡り来る
石庭の縞くっきりと秋日濃し
色褪せずなほも咲き継ぐ百日紅
此れやこの青い睡蓮モネをふと
歳時記の出版祝賀爽やかに
爽やかや歳時記上梓せし床屋
床屋さん歳時記上梓爽やかに
ご家族で祝賀の一日新酒汲む
山ほどの青みかん持ち祝ぎの間に
摘果せし青みかんとてかく甘き
青みかん三ヶ日なればかく甘く
歳時記を出せし床屋と青みかん
歳時記をめくれる妻と青みかん
歳時記を出版の師と新酒汲む
浜名湖に島一つあり鱸釣る
剥き出しで咲くこともあり葛の花
犇めける白粉花の香りかな
咲き競ふ溝蕎麦の背の高さかな
虫時雨聴いてゆかれと僧の云ふ
空と水青き浜名湖鯊を釣る
松並木多き浜名湖鯊を釣る
台風の夜の東京早や闇夜
台風の後も東京雲残る
寛一とお宮の像に秋黴雨
マリーナにヨットの並ぶ道の駅
鉄幹と晶子の湯宿柳散る
柳散る東海館の栄華ふと
大甕に活けて花野に思はるる
吾亦紅どんと活けある湯宿かな
路地多き湯の町伊東秋簾
朝顔や昭和通りと云ふべかり
朝顔や昭和のままの出湯の町
露地に咲く秋海棠の丈高く
玄関に秋海棠の花明かり
垣根より糸瓜の垂るる道を行く
街道へ糸瓜たらしてゐる屋敷
竜胆を活けて土蔵の蕎麦屋かな
こぼれたる萩にこぼれてこぼれ萩
大手術乗り越え来られ爽やかに
七輪を出して炭火で秋刀魚焼く
お隣も秋刀魚焼きたる匂ひかな
新物と大きく書いて秋刀魚売る
水澄めるスイスの湖の青さかな
水澄める新町川の魚影濃く
浜名湖は海より水の澄み渡る
水澄みて水族館のやうな川
ラクレット食べシャモニーの夜長ふと
シャモニーの夜長に食べしラクレット
モンブラン下山の後のラクレット
下山して食べしスイスのラクレット
噴水の天辺水の踊り場に
噴水の始めの水のするすると
噴水の終りの水のへなへなと
噴水の虹を生み出す角度かな
噴水や名画の舞台そのままに
噴水を見せるためなる宮殿と
ずぶ濡れになり噴水と遊ぶ子ら
海桐咲くアドリア海の青さかな
教会の白より白く花海桐
中世の城壁出れば花海桐
ベネチアは千里の彼方花海桐
砲台の残る海岸花海桐
海桐咲く安宅関の海岸に
海桐咲く阿波の伊島は亜熱帯
天井に扇風機ある屋敷
天井に扇風機ありジャズを聴く
青空を席巻せんと雲の峰
雲の峰川面の影も堂々と
韋駄天を追ふ韋駄天や雲の峰
見るうちにゴジラとなりし雲の峰
雲の峰また雲の峰雲の峰
入道は妖怪なるか雲の峰
天辺は光を弾き雲の峰
真っ昼間より牛蛙鳴ける川
噴水のてんでばらばらなる落下
父と子の野外工作夏休
立秋の日の秋探し園巡る
秋見つけられたかを聞く秋立つ日
噴水の止まり残暑の蘇る
天空に箒目残し秋の雲
手の届く高さにをりし秋の蝉
素手の子に捕へられたり秋の蝉
秋立つといふは暦の上のこと
秋立てど小さな秋もなき日和
県外の連も溌剌阿波踊
冷房のホールで昼の阿波踊
正調は静かさもあり阿波踊
三味線の音にも年季や阿波踊
正調の調べを笛に阿波踊
小粋なるよしこの節も阿波踊
小気味良き子らの踊りを先頭に
息の合ふ男と女阿波踊
腰屈め網打つ如く阿波踊
ゆったりと品よきもまた阿波踊
連長は鯔背な法被阿波踊
見る阿呆踊る阿呆となる踊
夏休休日なしの恐竜展
夏休恐竜展は親子連れ
かなかなを聞かんと高尾山登る
かなかなの名所と聞きし高尾山
かなかなで知られし山のかなかなと
かなかなをたっぷりと聞き山降りる
かなかなや夕べの風の心地よく
中天の大銀漢を仰ぎ見る
宇宙へも行ける御時世天の川
浅瀬あり渕もありけり天の川
新涼の空の青さでありにけり
新涼の街の白さでありにけり
新涼の街どことなく落ち着きて
新涼の大気の中で深呼吸
溝蕎麦の茎赤かりし長かりし
犇めける溝蕎麦の根を洗ふ水
谷川を埋め溝蕎麦咲ける里
梅雨晴れて心浮き立つ旅路かな
長雨に洗ひ出されし緑かな
梅雨晴れの淡路は緑美しき
夏霧に沈む海峡ゆくフェリー
海峡と言ふは夏霧湧くところ
むくげ咲く神戸は異人多き街
梅雨雲を抜けて飛び立つ飛機光る
佐和山の城址夏草生ひ茂る
鱧尽くし平らげてなほ回顧談
八十を越へて健啖鱧尽くし
年寄りは淡白がよし鱧料理
朝顔の垣根茶店の店頭に
鉢植えの朝顔並べある茶房
朝顔や昨日は昔むかしなる
朝顔や昨日は昨日今日は今日
朝顔のさやけき風に翻る
朝顔の朝一番の鮮やかさ
瀑布山なる山寺の清水かな
瀑布山なる山寺の滝涸れず
万葉の恋の歌碑見て萩を見る
あさがほの名ある朝のむくげかな
八重に咲く赤いむくげの艶やかさ
あさがほと詠まれし桔梗見る朝
山寺の小さな滝に芭蕉句碑
万葉の花ある森の緑濃し
炎天を歩いてゆきし若さかな
炎天を歩いて来られたる若さ
夏霧や意外に狭き関ケ原
夏霧を抜けて新幹線の行く
夏霧の雫真横に走る窓
日没の後も青空残る夏
左右皆蓮田の中をゆく列車
糠雨に白の浮き出し蓮の花
ここもまた無人駅かなカンナ咲く
雨の日もカンナは背筋伸ばし咲く
霧雨に濡れしカンナの艶やかさ
梅雨嬉し植木の町の苗木畑
梅雨てふに川の乾きし讃岐かな
讃岐かなここもため池梅雨嬉し
夏霧の海峡渡りゆく列車
夏霧の瀬戸の島々すっぽりと
瓜実る家庭菜園ダーチャふと
児島湾跡形もなき植田かな
讃岐かなおむすび山に差す西日
夕暮れの早き里山合歓の花
緑陰に椅子を並べて句に遊ぶ
むせ返るほどなる香り藍を干す
たっぷりの雨と太陽藍茂る
一番の藍干す箒新しく
畝筋の見えざるほどに藍茂る
長雨に刈れざる藍の茂りやう
植うる時期ずらしてありし藍を刈る
冷蔵庫開ければ麦茶定位置に
佳き香り麦茶づくりの工場より
甘くなき麦茶を子らも好きといふ
ごくごくと麦茶飲み干す三歳児
さりげなく出せる麦茶の気安さよ
西日受く窓を小さくリフォームす
瀬戸の海赤く染め上げ西日果つ
鬼百合を小鉢に生けて持ちくれし
野の花も野の鬼百合も生花に
徳島は橋多き街船遊
船遊皇居一周せし距離と
舟動き出したる風の涼しさよ
汗臭き救命胴衣頭より
心地よき風に歓声船遊
川筋に洒落た市立ちかき氷
船長は靴屋の亭主船遊
船遊富士のやうなる眉山も見
江戸の世の松並木も見船遊
県庁の前はヨットのハーバーに
船遊水の都の真ん中で
十薬の花の咲き満つ狭庭かな
そこらぢゅう十薬の花咲ける庭
花咲いて十薬増えしことを知る
降る雨に十薬の花凛として
雨の日の白の浮き出し額の花
雨の日の白の眩しき額の花
紫陽花の始めの白でありにけり
紫陽花の始めの鞠の薄緑
待ちゐたる雨に紫陽花目覚めしか
雨降りて紫陽花の紫陽花らしく
摘みし茶葉茹でて揉み漬け阿波番茶
番茶摘み乳酸発酵させる阿波
阿波番茶軍手をはめてしごき摘む
番茶摘む平家伝説残る地に
阿波番茶づくりの記憶かく暑き
阿波番茶出来立て甘し乳児にも
新茶汲む今朝は知覧の新茶汲む
漬け方を添へて辣韮の山積みに
漬けたしと思ふ小粒の辣韮かな
小粒なる鳴門の辣韮選び買ふ
今年こそ辣韮漬けんと見るレシピ
原色の花咲く島の夏来る
サボテンの花咲く島の炎暑かな
紫陽花のこんもりと咲く孤島かな
年毎に人減る孤島額の花
笹百合を見んと連絡船に乗る
登山靴はいて笹百合探訪に
崖に出て見れば笹百合目前に
固有種の伊島笹百合なる香り
笹百合を訪ね杣道一万歩
原生の森に笹百合ひっそりと
日当たりの笹百合の丈低かりし
笹百合の木陰に咲くは丈高く
笹百合の群生見つけたる伊島
群生の笹百合四方から眺め
笹百合に会えたと言ひて船に乗る
雨に咲く泰山木の艶やかさ
なほ上に泰山木の花数多
雨に咲く泰山木の白さかな
裏山の天辺よりの時鳥
段畑のありし裏山時鳥
時鳥もう一度とて登る山
山路来て車下りれば時鳥
読み切れぬ泰山木の花の数
見下ろしてみたき泰山木の花
遠目にも泰山木の花数多
一軒に一人の出役溝浚へ
出ぬ家は罰金の布令溝浚へ
溝浚へ役場の人の来て終る
専門の車両も出で来溝浚へ
我が町は二年に一度溝浚へ
路地毎に順番のあり溝浚へ
群れ泳ぐ鯉の先頭ゆく鯰
ひらひらと泳ぎ上手の鯰かな
遠き日のドナウの鯰料理ふと
耳元に来て離れざる蚊の羽音
小さき蚊に振り回されてゐる私
一匹の蚊に付き纏はるる一夜
アマリリス眩しき梅雨の晴れ間かな
古の邑見下ろせば時鳥
入りてみる竪穴住居涼しかり
古代米作りし畑に藍茂る
こはれたるやうに泰山木の散る
鰻釣る餌てふ蚯蚓の大きさよ
紫は影を作らず花菖蒲
古墳今史跡公園花菖蒲
この谷戸に古代も今も時鳥
屋上のテラスでランチ梅雨晴れて
テラスより満席となる梅雨晴間
原生の森なる梅雨の眉山かな
家ほどの小屋に玉葱干す淡路
今朝もまた新玉葱のサラダかな
畑毎に玉葱小屋のある淡路
玉葱を干せと紐までつけてくれ
三代目藩主は歌人文字摺草
捩花のひしめき咲ける藩主墓地
左巻き右巻きもまたねぢり花
もじずりの歌人の墓にどっと咲く
墓地おほひ尽くさんばかりねぢり花
もじずりを見てひらかなの書展見る
もじずりのやうやひらかなくねくねと
五十度の熱湯で黴退治せん
クリーニングしても黴黴黴の服
思ひ出の多き靴ほど黴多く
養殖の鮎のまるまるよく太り
天然の鮎は腸まで旨し
香魚かな腸までも芳しく
鮎料理子らまで背越好きと言ひ
若鮎の背越膾が一番と
モラエス忌来れば徳島梅雨明ける
変はらざる眉山の緑モラエス忌
リスボンの緑懐かしモラエス忌
リスボンの鰯太っちょモラエス忌
七輪で焼きたし鰯モラエス忌
恋多き人ほど淋しモラエス忌
死といふはある日突然モラエス忌
金あれどなき幸せやモラエス忌
ファド聴きて偲ぶ孤愁やモラエス忌
カステラを食べても孤愁モラエス忌
航海王子エンリケをふとモラエス忌
発見のモニュメントふとモラエス忌
蜘蛛の囲のはじめの糸の大胆さ
蜘蛛逃げる走りときには跳びもして
蜘蛛の巣に封印されてゐし雨戸
葉柳の下に陣取る露天商
倉敷の波止場跡なる夏柳
水枯れし運河の岸辺夏柳
杭州の西湖ずらりと夏柳
堤なきモスクワの川夏柳
泉とは水湧き命湧くところ
足元に生まれ立てなる草清水
水温計下がる速さや草清水
隣にもその隣にも草清水
冷たさの痛いほどなる草清水
ほらあそこ夏鶯の鳴いてゐる
尾を振りて鳴く老鶯を仰ぎ見る
薔薇祭命の水を巡らせて
薔薇祭甘い香りに満ち満ちて
紫の眩しき薔薇のありにけり
黄色とは輝きの色薔薇の花
夕べまで色鮮やかに赤い薔薇
原色の艶比べかな薔薇祭
抜きん出し薔薇はクイーンエリザベス
清楚なる佳人の如し白い薔薇
清楚なる佳人は寡黙白い薔薇
雨後の薔薇凛と背筋の伸びてをり
赤い薔薇マリーアントワネットふと
カルメンといふは知らねど赤い薔薇
背比べしてゐる薔薇の蕾かな
色を褒め香りを愛でて薔薇巡る
うら若き薔薇の真っ直ぐ天に向き
際立てる薔薇はチャールストーンなる
天辺に集まってゐる橡の花
初鰹蕎麦の老舗のメニューにも
不漁なるニュースばかりや初鰹
並ぶればすぐに売り切れ初鰹
この時季の土佐懐かしき初鰹
初鰹土佐は幟の街となる
叩きよし刺身またよし初鰹
袋掛待つ梨畑の広さかな
袋掛すみたるらしき風の音
石廊崎太平洋の卯浪来る
石廊崎音立て卯浪砕け散る
真青なる海より真白なる卯浪
見下ろせば白の眩しき卯浪かな
薔薇園をぐるりと囲み花茨
そのかみの大奥はここ花茨
薔薇園になほ咲き続く花茨
人はみな古里のあり花茨
サボテンの花の眩しき夏の朝
サボテンの花にやさしき初夏の風
坪庭に白の眩しき額の花
十薬の花は可憐や白十字
かたばみの花の四方に増えし庭
かたばみの花に太陽強過ぎる
寝転びて若葉の風の中にゐる
老鶯の声のだんだん近くなる
境外の木下闇まで無縁墓
時鳥河鹿も鳴かずえごも散り
せせらぎに河鹿は鳴かず川蜻蛉
河鹿鳴いたよとの声について行く
足音を忍ばせて待つ河鹿かな
時鳥待つ俊寛を偲ぶ寺
大竿の撓る遠投鱚を釣る
滑走路見える砂浜鱚を釣る
砂山を越えて来し浜鱚を釣る
遠浅の人なき浜に鱚を釣る
庭園のやうな工場樟若葉
蘇る樟の大樹の若葉かな
神木の札ある樟の大若葉
静岡の昔の上司より新茶
誕生日祝ひて新茶送りくれ
新茶の香胸一杯に吸ひてより
掛川の新茶をリマの友にまで
旨いもの市の新茶の飲み比べ
松籟の間に松蝉はっきりと
耳立てて松蝉なるを確かめる
水面にも千鳥ヶ淵の桜かな
咲き満てる花の下なるボートかな
咲き満てる花を仰ぎてボート漕ぐ
花仰ぐボートの二人寄り添ひて
山寺へ菜の花明かりの道を行く
山門に躑躅の大樹ある古刹
お花見や平和な日本ありがたく
縁日のやうなお花見獅子舞も
曲線の力学垂れ桜かな
花御堂銀座四丁目の店頭に
春灯の銀座まばゆき新店舗
大鉢にどんと蕗の薹を活け
石楠花と連翹競ひ咲ける池
雨滴置き石楠花の紅極まれる
連翹の犇めく花弁重ならず
鶯や富士の全貌見える丘
群れ咲ける馬酔木の花の峠かな
白魚の干物も並ぶ熱海かな
虚子の忌へ伊予と道後の旅終へて
鶯をたっぷりと聴き門くぐる
けふ虚子忌あすは総理と桜見る
鶴岡八幡宮の牡丹見る
牡丹園昨夜の風雨の跡残る
ぼうたんの土に桜の吹雪かな
ぼうたんの昨夜の風雨に散りにけり
一夜さに散りし牡丹のはかなさよ
一夜さの雨に萎れし牡丹かな
ぼうたんの一株毎の和傘かな
小さきほど色の眩しき牡丹かな
招かるる桜吹雪のお花見に
散り敷ける染井吉野の白さかな
牡丹桜まだ六分咲きなる御苑
花屑の新鮮なりし御苑かな
花屑の真白でありし御苑かな
花屑と呼ぶは勿体なき御苑
御苑かな純白なりし花筏
その奥に垂れ桜の茶室かな
山吹の山吹色がことに好き
引き寄せらるる海棠の明るさよ
オランダの風車小屋ふとチューリップ
原色の整列縦隊チューリップ
太陽へ伸びゆく背丈チューリップ
そよ風に揺れ通しなるチューリップ
太陽の明るさが好きチューリップ
湯籠さげ春灯の街そぞろ行く
春灯の道後に黒き人力車
春灯の道後に明治の気配して
春灯の湯宿に残る昭和かな
春灯の控へ目なりし湯宿かな
春灯の路地裏にある昭和かな
遠足の弁当作る朝五時に
保育所の遠足そこの公園へ
痩身の宰相眠る牡丹寺
ぼうたんに南平台の総理ふと
青天の霹靂遠き牡丹かな
三木武夫睦子夫妻や牡丹散る
残り咲く牡丹いづれも健気なる
凛として水田の畦のあやめかな
若楓御手洗の水滾々と
ぼうたんに北京の刺繍壁画ふと
生垣の皐月躑躅の明るさよ
行く春や金比羅歌舞伎早や楽日
行く春や櫓太鼓は閉め太鼓
行く春や庭のどの木もよく茂り
行く春や街を行く人軽装に
行く春や行楽の日々早や遠く
行く春を箱根小田原鎌倉で
行く春の楽しき旅に疲れなし
まだ風の尖ってゐる梅見かな
梅の香のどっと寄せ来てさっと去る
太陽と一対一や犬ふぐり
初音聞き洩らしをりしことを知る
ガリバーの如き吾が足犬ふぐり
この里に帰りし知らせ梅の花
帰り住む新婚さんも梅の里
菜の花を活けて明るきロビーかな
微笑みもお澄ましもあり雛の顔
青空へ蜂須賀桜鮮やかに
水仙と蜂須賀桜競ひ咲く
鴨帰り鷗居座わる町川に
早咲きの蜂須賀桜早も散る
園児らもこれが蜂須賀桜とて
桜見てハワイアン聴き街うらら
トンネルの蜂須賀桜ほんのり朱
トンネルを作りし蜂須賀桜かな
吾の植えし蜂須賀桜これほどに
植樹して花の名所と呼ばれけり
苗植えし日の懐かしき桜かな
舟からも蜂須賀桜見える街
舟からも蜂須賀桜見に来られ
卒業のなき句の道を今日も行く
卒業のセピア色なる写真かな
卒業の昭和も遠くなりにけり
卒業の答辞を読みし日の遠く
卒業の友と九州巡りし日
卒業の写真に弾むクラス会
保育所の卒園式に招かるる
未来への夢を語りて卒園す
薔薇の芽の赤に違ひのなかりけり
薔薇の芽に早や柔らかき棘のあり
薔薇の芽の育ちゆきたる速さかな
木蓮の見上げるほどの高さかな
純白の木蓮青い空に咲く
木蓮の青空覆ひ尽くし咲く
木蓮のどの花弁も天に向き
湯の街の明かりぼんやり春の宵
イングランドホテルのロビー吊し雛
芽柳の青モノトーンなる街に
掘割の水涸れし街冴返る
鴨引きし川満々と水たたえ
鴨引きし川に群れなす鷗かな
鴨引きて川幅広くなりにけり
茎立ちの二束三文なる市場
茎立ちも混じり日曜だけの市
茎立ちの野菜爆発せし如く
茎立ちて弾け飛ぶかにブロッコリー
茎立ちの野菜は隅に仕分けられ
茎立ちの前の芥子菜塩漬けに
貝寄風に吹き寄せられてゐる藻屑
バーゲンの幟はためく貝寄風に
貝寄風の残してゆきし砂の紋
貝寄風に寄せらるる貝なき浜辺
見渡せばあたり一面土筆かな
この土手で土筆を摘みし日の遠く
母の味でした土筆の酢味噌和へ
麗かや遊覧船に人の列
スノーフレーク子らの遊びし公園に
フラミンゴまばゆき春の日差かな
長閑かな象の家族もゆったりと
おおらかや子規の愛せし城の春
春灯のからくり時計見て飽きず
芽柳や道後湯の町人力車
上空に寒気居座り阿波も雪
朝明けてみれば一面銀世界
雪原を吹き来る風の冷たさよ
雪降りて家籠りする日曜日
南国の阿波に一日解けぬ雪
深々と雪降る夜の静けさよ
松手入終はりし松に雪積る
雪乗せて松の緑の引き締まる
雪乗せて金柑の色増しにけり
一夜さに解けてしまひし阿波の雪
積もりたる雪の解け行く速さかな
雪解けの我が坪庭に蕗の薹
寄り添ひて大と小なる蕗の薹
雪解けてみればふっくら蕗の薹
さ緑のまぶしかりけり蕗の薹
剪定の鈴生り酢橘かく重し
酢橘の実付き過ぎてをり剪定す
完熟の実の付く酢橘剪定す
鈴生りの実の付く酢橘剪定す
二代目の初仕事とて剪定す
二代目の思ひ切りよく剪定す
水面まで迫り出すほどに蝌蚪の紐
一匹のこれほどまでの蝌蚪の紐
寒天のお菓子のやうな蝌蚪の紐
施肥なるか大根の葉の撒かれあり
公園の裏は笹山笹子鳴く
折れ曲がり節多き枝濃紅梅
二ン月の水の公園水涸れて
二ン月の光まぶしき徳島市
この船で寒鰡獲りし遠き日よ
霙来て誰言ふとなく山降りる
早春の街新しき道の成る
春光の徳島の街水清く
二ン月の街二ン月の山と川
腹痛に七転八倒する寒夜
サイレンを鳴らして運ばれる寒夜
悴める手にナースの手温かく
身に入るロタウイルスの怖さかな
点滴の粒の光も春隣
生還の我に冬日の暖かく
春昼をICUで過ごす日々
寒月よマチュピチュ旅行断念す
暖かき医師の笑顔に救はれし
病室の窓を開ければ鳥帰る
マスク越しなる医師の目のやさしき日
ICU出て春光の見える部屋
灯台も港も見えて海うらら
救急のサイレンまたも寒空に
春隣朝刊売りの声ににも
今日もまた春の一ト日を病室で
春宵の一週間を病室で
退院の許可出るバレンタインの日
天も地も鳴りを潜めて冴返る
寒明の眩しき空でありにけり
三寒の後も三寒冴返る
寒明かどうか水取終らねば
冴返る街にサイレン跳ね返る
冴返り冴返りして二月去る
寒明や旅行案内どっと来る
甘き香に引き寄せられて梅林に
満開の梅の香りに独りゐる
剪定の後の梅林花万朶
剪定し梅の古木の蘇る
梅見んと風の尖る野辺を来し
梅咲いて古木の園の花園に
梅古木なるにいよいよ花若く
凛として古木の付けし梅の花
薄氷に閉じ込められし蝌蚪の紐
昼までに解けて仕舞ひし薄氷
薄氷を見つけては踏む子らの声
薄氷の寄り合ひてゆくひとところ
野を焼ける香りの中に眠る里
石庭の中に真っ赤な実南天
庭中に南天の実の爆ぜる寺
日溜りは寒牡丹にと空けておく
眉山には湧き水多し実南天
万両よ千両よ南天の実よ
藩侯の世よりの庭の実南天
お元気なお顔が揃ひ初句会
寒鯉の籠り棲む水清からず
広き池なれど寒鯉片隅に
寒鯉に運動不足ないのかな
寒鯉の確かに呼吸してをりぬ
流れなき脇に寒鯉固まりて
山裾は水湧くところ寒の鯉
寒鯉や眉山は水の多き山
分乗し一家総出の初詣
緑児も肩車して初詣
ドイツ俘虜作りし橋や落椿
剪定の梅の小枝を分けくれし
猪垣の中に神田眠りをり
寒禽の森の中なる社かな
剪定す梅の硬さをこぼしつつ
剪定の媼は梅の硬さ説く
梅の木にラジオ吊り下げ剪定す
早梅の見えて足取り軽くなる
戻り来て早咲きの梅眺めゐる
接木せし跡ある枝の梅早し
松過の社の駐車場広し
松過の社寒禽鳴くばかり
松過の境内猿の天下かな
松過の参道行くは我独り
松過の二人の暮らしつつましく
お鏡も霰となりて小豆粥
幼子に少し冷まして小豆粥
ふうふうと吹きて幼子小豆粥
早咲きの梅に集まる視線かな
早梅のありて梅林華やげる
坪庭にあふるる光春隣
坪庭の土やはらかく春隣
野鳥園入れば鵟目前に
大鷹の急降下神風をふと
翡翠の踊り食ひせし嘴光る
沢鵟来て水面の景の一変す
冬枯れの葭原今も沢鵟飛ぶ
Vの字に翼を広げ沢鵟飛ぶ
羽白とは潜りて貝も食ぶ鴨と
鷹狩の大鷹らしき急降下
旋回す大鷹にある気品かな
大鷹の自爆の如き急降下
寒月の空広々とありにけり
寒月よあのお元気な友逝きし
寒月よ賑やかな友逝かれしと
寒月の張り付いてゐる空暗く
寒月も北斗も尖りをりにけり
保育所の迎え明かるし日脚伸ぶ
捨て置きし蘭に蕾や日脚伸ぶ