冬ざるる園に一輪帰り花
綿虫のさらりすらりと身をかはし
ぢっと待ちゐれば綿虫湧き出でし
綿虫のペリコプターのやうな羽根
椋の実のジャムのやうなる甘さかな
椋の実の完熟なるを採りくれし
椋の実の懐かしかりし甘さかな
冬蜂の神前に来て事切れし
吊るし柿にとTの字の小枝付け
四尺を越す干鱓や冬の市
冬市の干鱓早も売り切れし
亀の手に磯の香りや冬の市
植木屋の手作り檸檬並ぶ市
小春日に日蔭を選び魚売る
朝の市曲がりくねりし自然薯も
亀の手を食べて見ろてふ冬の市
真鶴の三つ石そこに石蕗の花
真鶴の岬に水仙群れて咲く
紅葉の盛りの宿に来合せて
紅葉の紅の極まる箱根かな
野も山も紅葉の中の墓参かな
日溜りの紅葉照葉の明るさよ
虹鱒や忍野八海水澄みて
滾々と涌き出る水の澄みに澄み
富士山の裾野を巡り秋惜しむ
新蕎麦を香りもろともいただきぬ
春節の龍の飾りのはやばやと
大年の関帝廟の賑はいよ
山深き土佐の紅葉の濃かりけり
朝の日にまぶしき雨後の紅葉かな
待ち合わせ場所となりたる聖樹かな
日向ぼこプラチナ婚も過ごされて
全身に黄落を浴び日差浴び
敷き詰めし銀杏落葉の明るさよ
那須与一ゆかりの宮の銀杏散る
冬枯れの宮に大楠青々と
逃げ所なく寒風に身を曝す
降り積もる銀杏落葉の多彩さよ
真青なる空より北の来る日和
寒風に曝され通しなる社
大方は背後より来る隙間風
懐かしき母の雑炊おみいさん
雑炊を食べんがためのてっちりと
刻み海苔乗せて雑炊出来上がる
雑炊の出て祝宴のお開きに
吉野川中洲広々群千鳥
小走りの脚か細かり千鳥かも
千鳥足とはこんなにも軽やかな
年寄は肉食ふべしと薬喰
薬喰には多過ぎるバーベキュー
年寄は量より質と薬喰
増え過ぎて困る蝦夷鹿薬喰
マスクしてあなたは誰と尋ねられ
マスクとマスクの目と目の会話かな
マスクして予防接種もして街へ
マスクして待てとマスクを置く医院
初めての御顔も見られ年忘れ
初見なる紳士も来られ納め句座
待ち合わせ場所となりゐし聖樹かな
正装の白寿も御越し納め句座
来年は百の数へ日かくしゃくと
もう一句あと一句とて納め句座
大年の閉店セールこの店も
売り尽くしセールばかりや年の暮
クリスマスサンタになりし日の遠く
北欧の菓子甘かりしクリスマス
靴下を吊して寝し子クリスマス
クリスマスカードアルゼンチンからも
ロッキングチェアもろとも日向ぼこ
風邪の来ぬことを確かめ日向ぼこ
未来より昔の話日向ぼこ
正月の飾りはやばや立つロビー
正月へ心はすでに飛んでゐる
雌巡り雄は喧嘩す鴨の世も
居付き鴨なるはおっとり鴨の川
群る鴨へ潜水艦のやうな鯉
こんなにも鴨ゐる川となってをり
鴨のゐぬ川より鴨のゐる川へ
大鷭を片隅に寄せ鴨群るる
餌の欲しき鴨かもどれも忙しなく
雨止まぬ戸外に出れば肌寒し
太陽を見ぬ日の続き肌寒し
こんなにも雨の日続き肌寒し
ひさびさの晴となれども肌寒し
肌寒や弟逝きて八か月
冬近し寒がりだった弟よ
冬近し犬の鳴き声甲高く
濡れて行く雨の冷たき冬隣
嬰児のことより始め冬支度
剣山で初氷とか肌寒し
野も山もモノトーンへと冬近し
城崎の外湯巡ればそぞろ寒
湯上りにそぞろ歩けばそぞろ寒
城崎の街灯暗しそぞろ寒
湯上りの小走りとなるそぞろ寒
秋惜しむ旅の案内今日もまた
秋惜しむ大歩危峡の舟下り
秋惜しむ列車の旅に誘はれて
秋惜しむ臨時列車の客となる
地酒酌み交はし車窓の秋惜しむ
ショッピングモール早々聖樹立つ
なんとなく気忙しくなる聖樹かな
聖樹立ち足取りまでも気忙しく
むしり取りまたむしり取り松手入
残すもの残さざるもの松手入
残す芽の他はばっさり松手入
枯草を刈りたる土手の延々と
直虎の菊の衣の匂ひ立つ
菊人形展示の床に傾ぎあり
どう見ても視線の合はず菊人形
何を見てゐるの菊人形の目は
顔までもドラマのままや菊人形
満開の菊に勢のありにけり
ほのかなる花壇の菊の香りかな
一つ根の菊の同時に咲きし花
咲き揃ふ菊に迷ひのなかりけり
犇めきて重ならず懸崖の菊
懸崖の菊滑らかに垂れ下がり
雲一つなき青空の菊花展
満開の日に来合せし菊花展
菊を見る人の寡黙となりにけり
紫の幔幕張りて菊花展
葦簀よりやさしき光菊花展
子らの声はずむ庭園木の実降る
団栗を拾ひミニエスエルに乗る
文化の日ミニエスエルにはずむ夢
くっきりと阿波の土柱に冬日濃く
冬晴れの土柱の空の青さかな
わら家なるうどんの老舗冬紅葉
粉を挽く水車の水も澄みにけり
石臼の飛石に降る落葉かな
釜揚げのたらいうどんの冬となる
日当りて鮮やかなりし冬紅葉
日当れば枯葉に色の蘇る
初冬の木立きりりとありにけり
晴の日の初冬の風の冷たさよ
干鰈初冬の風に曝されて
初冬かな飛行機雲の三本も
神の旅貧乏神も行っちまえ
神送る出雲街道津山宿
縁側の日差うれしき初冬かな
外つ国の人で賑はふ菊花展
古典菊並ぶ御苑の菊花展
伝統の重み御苑の菊花展
凛と咲き競ふ御苑の菊花展
五百もの菊を同時に咲かす技
一本の根から五百の菊咲かせ
大作り花壇の菊の見て飽きず
白眉なる札立つ菊にある威厳
鉢植を見ざる御苑の菊花展
江戸菊の啖呵切るごと凛と咲く
江戸菊の変化の妙の小粋さよ
肥後菊の火花散らせしやうに咲く
肥後菊を育ててきしは武士と聞く
菊花展前横斜めからも見て
整列の美しさも見菊花展
一万歩歩きし御苑の菊花展
日本に暮らす幸せ菊花展
大銀杏黄葉音立て散り急ぐ
黄落の絨毯なりし御苑かな
日向より日陰の黄色石蕗の花
石蕗の黄に呼び寄せられて仕舞けり
吹き抜けのロビー高々聖樹立つ
どこもかも煌めいてゐる聖樹かな
雪山となりゐし四国山地も見
山下りし伊予は明るき片時雨
明るかり久万高原の冬紅葉
秋の旅久万高原も立ち寄りて
天空の郷なる霧の道の駅
これほどの深山に鮎の魚道かな
のしかかる岩の渓谷水澄める
おづおづと見下ろす谷の冬紅葉
千尋の谷の底まで冬紅葉
見下ろせる谷の深さよ冬紅葉
窓際は怖しと谷の紅葉見る
すっぽりと四国カルスト霧の中
霧深きカルストの道迷路めく
行くほどにカルストの霧深くなる
カルストに来て初雪に出会ひたる
雨晴れて野山の錦いや増せる
昨夜の雨紅葉の色を極めけり
雪の山下りて小春の御城下へ
竜馬像仰ぎ見てゐる懐手
懐手して土佐の朝市を行く
小春日に四国カルスト来たかりし
街小春竜馬の生地尋ねもし
山下りて来て小春日の御城下へ
朝市に立ち寄ってみる小春かな
朝市を二巡三巡する小春
たはむれに朝市巡る小春かな
朝市の土佐弁はづむ小春かな
柔らかに綺羅を返して秋の湖
秋の湖渡り来る風心地よく
爽やかや浅間も見えて句碑巡る
爽やかな日和賜り句碑巡る
爽やかや塵一つなき虚子旧居
虚子旧居へと爽やかに案内され
爽やかやどれも清潔虚子の句碑
横綱を引っ繰り返し爽やかに
横綱の大逆転も爽やかに
小鳴門に音立てて入る秋の潮
秋潮に乗りたる船の速さかな
秋潮のどっと寄せ来る鳴門かな
曼殊沙華林の中を土讃線
畝といふ畝埋め尽くし曼殊沙華
そこらぢゅう飛び火せしごと曼殊沙華
無人駅また無人駅葛の花
谷底の秘境の駅の初紅葉
乗降客ゼロなる駅の草の花
庭先に鶏頭咲かせ谷戸に住む
仰ぎ見る金木犀のある駅舎
大歩危の崖を降りれば曼殊沙華
大歩危の水の青さや曼殊沙華
列なして韮の花咲く山の駅
トンネルを出ればたわわに柿実る
新米のぼうぜの鮨は母の味
新米にぼうぜの鮨の母偲ぶ
新米と云へばぼうぜの母の鮨
新米と云へばぼうぜの鮨の阿波
新米の旨さ引き出すぼうぜ鮨
新米の旨さと香りぼうぜ鮨
新米で作るぼうぜの祭鮨
飛び切りの出来と新米持ちくれし
草刈られ水引凛と立つ小径
もたげ上げ見ればたしかに杜鵑草
この径にこんなにも咲き杜鵑草
へばりつくやうに咲きしも杜鵑草
水涸れし池に水引生ひ茂る
水引の池のっとりし咲きっぷり
藤の実の垂れ放題なる古刹
蟷螂は哲学者かな首傾げ
茶の花に甘き香りのありにけり
茶の花の黄色い蕊の美しき朝
先端はまだ緑なる式部の実
仕上がりし色の光沢式部の実
コスモスの白のまぶしき在所かな
コスモスの色褪せぬまま咲き続く
名月を観てより宴の始まれる
酔眼に観ても真ん丸今日の月
雲一つなき名月の明るさよ
街の灯を下に名月凛として
山頂のホテルで今日の月を観る
中天に名月上がり宴終る
観月の芒と団子手土産に
藍の花供へ夢道の忌を修す
寒露の日動けば寒い夢道の忌
けふ寒露動けば寒い夢道の忌
ほったらかしなる蜜柑の鈴生りに
ぐるぐると蜜柑を木ごと烏瓜
青蜜柑山に真っ赤な烏瓜
露草の日陰の露地に群れ咲ける
蟋蟀を追い駆け行けば跳び立てる
網の蜘蛛の五匹目の餌も取り逃がす
網の蜘蛛の餌に飛び掛かる速さかな
公園の裏道行けば蜜柑山
片隅に種取る花や藍畑
ちちろ鳴く畑に三番藍の花
日陰りて色を増しけり藍の花
音もなく来し秋の蚊に刺されけり
世に遠く藍の花咲く里にゐる
鍬を打つ農婦が一人秋晴るる
虫時雨止まざる畑藍刈られ
藍刈りし畑に止まざる虫時雨
大振りの芙蓉なほ咲く里の秋
仰ぎ見る芙蓉の空の青さかな
仰ぎ見るレバノン杉の新松子
大きかりレバノン杉の新松子
レバノン杉なるは松なり新松子
落鮎の大皿になほ余る丈
落鮎となりて背越のメニューなく
落鮎の抜かれし骨の硬さかな
笹に刺したる落鮎をくだされし
八人目の孫を賜る翁の忌
真っ先に来て咲き初めし石蕗を見る
雨強くなれど止まざる虫時雨
ででむしに秋雨のさぞ冷めたかろ
秋雨にででむしの目の縮こまる
大木に添うて咲く石蕗丈高し
鵯の声山頂広場貫ける
鈴生りのままに残ってをりし柿
始まりは蕾ばかりや菊花展
一輪の咲きて始まる菊花展
降り続く一雨ごとに秋の声
静かさの戻りたる街秋の声
しとしとと雨降る古刹秋の声
啄木鳥の文化の森にまで来たる
吾のゐるを無視せし如く小げら打つ
善入寺島なる中洲稲を刈る
釣師らの静止画となり鮎を釣る
鰯雲仰ぐ巨岩の鼻先に
釣れましたと言うて鮎川上がり来る
地蔵盆なけれど棗鈴生りに
見るうちに空一面の鰯雲
地蔵盆なき里となり赤のまま
名刹の中に古墳やばった飛ぶ
聞くほどにか細くなりし法師蝉
この寺の秋描き金賞取りし日も
礼装の清しかりけり寺の秋
赤蜻蛉即かず離れず赤蜻蛉
この寺の秋の絵描きし日の遠く
踏み入ればばった飛び立つ古墳かな
黒き富士抱く秋雲の白さかな
どこもかも岩ばかりなる宮の秋
大岩の隙間抜け来し風は秋
のしかかる岩背の本社肌寒し
たっぷりと出湯に浸かりて来し花野
松虫草より榛名山始まれる
吾亦紅松虫草と火山灰の道
群れ咲ける松虫草に淋しさも
群れ咲いてゐても淋しき吾亦紅
松虫草だらけと云ふも淋しくて
日陰りて夕菅らしき色となる
邯鄲の榛名山より聞こえ来る
三代の句碑にやさしき秋日かな
榛名湖は水底までも水澄みて
邯鄲も松虫草もたっぷりと
石段を上り抜け来し風は秋
石段に休んでをりし秋日傘
鈴虫に迎えられたる山の宿
静かなる文学の宿虫すだく
さながらに虫の宿なる山の宿
ベランダに火鉢小諸の山の宿
薪くべて下さいとある暖炉かな
小諸なる虚子の旧居の紫苑咲く
虚子の文字ゆったりとして爽やかに
紫苑咲く紫苑の句碑でありにけり
新涼の小諸に虚子の句碑巡る
笠石の句碑は木槿の散る辻に
虚子の道浅間も見えて蕎麦の花
海鼠壁続く街道女郎花
萩茂る海野宿なる街道に
格子戸になほ朝顔の咲き続く
用水の水清らかに赤のまま
桔梗咲く島崎藤村記念館
懐古園なるは城跡芙蓉咲く
子規と云ふ巨人をしのぶ糸瓜かな
雨の日の糸瓜の花の盛りかな
降る雨に糸瓜の花の立ち上がる
絶筆の糸瓜三句の糸瓜見る
子規庵の糸瓜の花の天へ咲き
糸瓜咲き満つ子規庵に来合はせて
子規庵に子規せしやうに糸瓜見る
秋夕焼真っ赤に富士を染め上げて
鳴き交はし帰る燕の集まり来
大空に螺旋を描き燕去ぬ
見るうちに帰燕の空の黒くなる
この町にこんなにゐしか燕去ぬ
あわただしく燕去にたるあとの空
先頭も殿もなく燕去ぬ
仰ぎ見る帰る燕の高さかな
曼殊沙華Ⅴ字の土手を埋め尽くし
曼殊沙華一気に咲ける彼岸かな
降る雨にたぢろぎもせず曼殊沙華
曼殊沙華浄土となってゐし跡地
曼殊沙華林に凛とほたる草
咲きっぷり噴火せしごと曼殊沙華
その中に白のぽつぽつ曼殊沙華
花芒ダイヤのやうな雨滴置き
雨滴置くたびにさ揺れて花芒
蜘蛛の巣の飛蝗乾涸び雨の降る
ラジオ体操で始まる運動会
対抗のリレーで終わる運動会
開け放ちがらんどうなる夏屋敷
掛軸を替へ夏屋敷仕上がりぬ
一坪の茶室のけふの夏屋敷
庭に出る下駄揃へあり夏屋敷
雷の予報を聞きて下山する
空梅雨の明けし証か日雷
はたたがみ怒鳴り散らして行きにけり
段ボール箱でマンゴー届く朝
琉球のマンゴーですとお裾分け
琉球の太陽の香のマンゴーよ
完熟といふマンゴーの甘さかな
お裾分けされしマンゴーお裾分け
乗り継ぎて白夜の街に降り立ちぬ
教会の空高々と夏燕
海よりの風の涼しきタリンかな
バルト海指呼の城跡鷗来る
真青なる空より夕立来るタリン
クルーズ船より降りてくるパナマ帽
しっかりと雨降る街の大夏木
夏が好き太陽が好き日向好き
国境といふもののなき花野かな
人工のもの何一つなき花野かな
人を見ぬ花野にこふのとり四羽
こふのとり農家の庭の高き巣に
白樺の森を彼方に花野かな
何処までも続く花野の月見草
月見草少しまぶしき白夜かな
バス停も丸太づくりや蕎麦の花
万緑の森の丸太の小さき家
北国の秋は駆け足ななかまど
バイソンの駆けゐしといふ花野かな
ラトビアに入りても変わりなき花野
煙突の農家はやばや年来積む
「百万本の薔薇」生まれし国の夏短か
こふのとり家族のやうなキャンプかな
城守るやうに燕の旋回す
鷗飛ぶリガはバルトの港町
天辺に猫の像あり夏の雲
三国を流れ来し川涼やかに
ビールには何といってもソーセージ
擬宝珠のリガの運河の岸辺にも
北国の夏は百花の競ひ咲く
炎昼に弾む乙女の会話かな
旅人の我に笑顔を爽やかに
街に出て短き夏を楽しまん
夜の更けることを楽しむ白夜かな
ラトビアは視野の果てまで麦実る
宮殿のこふのとりの巣大きかり
宮殿を我が物顔の夏燕
宮殿の広場彼方此方蟻地獄
宮殿の花壇ひろびろ夏の雲
噴水の上がりて夏の宮殿と
麦実る黄金の海でありにけり
夏草の野に十字架の十万本
炎昼に追悼の列途切れなく
ななかまど真っ赤やリトアニアに入る
北国の短き夏の花壇かな
リトアニアなるはひろびろ豊の秋
「人間の鎖」を偲ぶ酷暑かな
「人間の鎖」ここより夕立来る
街さっと洗ひ夕立の去りにけり
城跡は涼しき風の吹くばかり
城址へと登りしあとのビールかな
記念碑は青葉まぶしき公園に
植樹せし桜青葉の茂りかな
湖に浮かぶ古城へ船遊び
船遊乗り放題と言はれても
緑陰に鴨も寄り合ひ来る日和
開け放つ命のビザの夏館
六千人救ひし部屋の涼しさよ
日傘して行くは日本の婦人のみ
この街は日焼け楽しむ人ばかり
カウナスの古都の老舗のジェラードよ
市庁舎は博物館に緑濃く
茂り立つ夏木の下の涼しさよ
水涸れし古城の濠の夏の草
緑陰に明るき子らの話声
日除けして六時間てふバスの旅
隣国へ万緑の森抜けて行く
国境といふも夏草茂る野辺
炎昼もヘッドライトを点けて行く
街道は夏の木立の真ん中を
もろこしの畑を突っ切りひたすらに
ポーランドなる麦秋の国を行く
ワルシャワは人多き街蒸し暑し
薔薇園の柳の下のショパン像
ショパン像ありし公園四葩咲く
ワルシャワの溽暑に白の清々し
大学の真白き門の爽やかに
廃墟より蘇生せし街夏燕
瓦礫より復元の街燕飛ぶ
この街のかくも大きなしゃぼん玉
この街はこんなに平和しゃぼん玉
爽やかやショパンの曲の大通り
緑なすワルシャワの街ななかまど
ノーベル賞五つの家系爽やかに
旧市街にもアイス売る店並ぶ
擬宝珠の花咲くショパン記念館
擬宝珠やショパン生まれし庭園に
紫陽花の花のショパンの生家かな
球形やショパンの好きな夏柳
皮剥けば香のほとばしる蜜柑かな
小さくて硬き蜜柑のかく甘く
小さくとも昔の味の林檎かな
スーパーの店頭年木積み上げて
クーラーの列車嬉しき揺れもなく
冷房の効きたる列車揺れもなく
ポーランドなる大平原に牛昼寝
夏の旅その地で買ひしTシャツで
土産屋のTシャツで行く夏の旅
山てふも丘なる国の麦の秋
夏柳また夏柳なる無人駅
ななかまど駅のホームの人無言
赤茶けた川に水着の肌白く
林間に太陽を待つ水着かな
噴水の上がれば子らの歓声も
中世の城の花壇の百合の花
一服し花壇の百合の花を見る
秋明菊群れ咲く城の庭園に
秋明菊見てより日本しのばるる
コスモスよクラクフはなほ秋暑し
真青なる空にコスモスよく映えて
噴水の水に雀も身を沈め
平原の黄に染まりゐる豊の秋
アウシュビッツ訪れし日の酷暑かな
地獄絵の日々偲びゐる溽暑かな
監獄は花野の中にありにけり
炎昼をイスラエルから来し子らも
過去学ぶ子らの瞳の涼しさよ
鉄条網めぐらす獄舎地虫なく
ホロコーストありしはこの地ななかまど
監獄の中にも花野ありにけり
監獄の中にありけり蟻地獄
そのかみの地獄の跡地蟻地獄
ななかまど真っ赤やホロコーストの庭
アンネゐし監獄の跡をみなへし
岩塩を掘りし地底の涼しさよ
地の底にかくも涼しき宮殿を
岩塩のシャンデリアなる涼しさよ
教会の中庭静かカンナ咲く
教会は丘の中腹ななかまど
ななかまど赤く民家の屋根赤く
木造の教会囲む夏木立
木造の教会の中涼しかり
手作りの年木はやばや積み上げて
風通し良き場所選び年木積む
中世の馬車に乗り込むサングラス
緑陰でバカンス過ごす家族かな
「シンドラーリスト」の街の酷暑かな
街中にサングラスまたサングラス
太陽を全身で浴びサングラス
夏帽も日傘も嫌ひサングラス
噴水の止みたる夜の街静か
ビール酌み交し日本を偲ぶ夜
ビール飲み交し長旅終りけり
こんもりと笊に盛り上げ新豆腐
ほのかなる大豆の香り新豆腐
奥祖谷の縄でくくりし新豆腐
流れ星またまたまたも流れ星
流れ星ともに見し人今何処
見んとして待てども見えず流れ星
奥祖谷の露天湯で見し流れ星
盆の月踊り果てたる街照らす
静けさの戻りたる街盆の月
阿寒湖のカムイコタンの盆の月
帰省子の去にて一気に秋めける
やはらかくなりたる日差秋めける
平常の暮らしに戻り秋めける
飛行機の残せる雲も秋めける
秋めける日差に棘のなかりけり
夏至祭のフィンランドの田舎ふと
乙女らの衣裳手作り夏至祭
北欧の御伽の国の夏至祭
夏至祭のファイアストーム高々と
夏至祭を踊り明かせし遠き日よ
夏至祭のサウナのフィンランドかな
天辺にゐるは雀か今年竹
抜け駆けの群雄割拠今年竹
抜きん出て伸びる直線今年竹
弾丸の如き蘇鉄の雄花かな
名選の水湧く水辺花蘇鉄
長堤の前後左右に梅雨の蝶
つつましく健気なる様梅雨の蝶
ふと見ればズボンを登り来る毛虫
モラエスも蛸食べたるか半夏生
リスボンは平和でしたよモラエス忌
梅雨晴れの阿波は熱帯モラエス忌
阿波けふも緑一色モラエス忌
モラエスは聞けず眉山のほととぎす
七夕の飾りに子らの夢はずむ
七夕の短冊笹の撓むほど
たっぷりと降りたる朝の蓮の花
清浄といふはこの白蓮の花
水無月の九州記録的豪雨
水無月の田に泥水と流木と
水無月の雨に鉄橋流される
水無月の山を丸ごと崩す雨
絶海の阿波の伊島の花海桐
弁慶の安宅関の花海桐
海桐咲くアドリア海の青さかな
海月見て観潮船の客となる
海月見る観潮船の船着き場
町川に海月来てゐる徳島市
海月浮き潮入川と知りにけり
八十路なる上司健啖鱧尽くし
鱧一尾買へば骨切りしてくれし
軍手して鱧を外せる釣師かな
開きたる口ばかりなる鱧の貌
豆腐そのものの旨さや冷奴
雨の日は運動不足冷奴
透明のガラスの皿の冷奴
高徳線右も左も蓮の花
吹き抜けのホール七夕飾りされ
青田行く四国の鉄路よく揺れる
夏霧の瀬戸内海に島一つ
ビール飲む飲み放題と言はれても
西瓜出て同窓会はお開きに
蟻登る鼠返しも何のその
高床式倉庫の下の涼しさよ
竪穴式住居を出ればこの溽暑
蹴飛ばせば梅雨茸こっぱみじんかな
蟻を見て来て全身の痒ゆくなる
古墳群背にする深山ほととぎす
音のなき奥宮蟻の世界なる
聞きたしと思ひし途端ほととぎす
ほととぎす一声鳴きてそれっきり
向日葵やゴッホの墓は野の中に
向日葵の顔を揃へて咲き揃ふ
梅雨晴れのアガパンサスの青さかな
アガパンサスまぶしきほどの五月晴
店頭に北京ダックの夜店かな
葉柳の南京町の広場かな
睡蓮の池広々と満たし咲く
睡蓮の水際立てる青さかな
梅雨明けの空の青さでありにけり
中天へ伸びる勢ひ雲の峰
梅雨明けの週間予報全部晴
清らかな水の公園蟻地獄
蝉時雨そんなに熱り立たずとも
葉柳の大樹の幹の武骨さよ
夏柳水面の影も黒々と
見渡せば東西南北雲の峰
涼風はやって来るもの待ちませう
大空の陣取合戦雲の峰
梅雨明けの空の広さでありにけり
ほったらかしなる仙人掌に美しき花
瑞々しきは仙人掌の花の色
庭中に十薬の花咲き満てる
雨の日の十薬の花白眩し
十薬の夜目にも確と白十字
咲き初めし御苑の菖蒲凛として
どれも皆名ある御苑の菖蒲咲く
株毎に名札御苑の菖蒲園
巡り終へやはり紫花菖蒲
咲き満てる杜鵑花の垣の明るさよ
刈り込まれ犇めき咲ける杜鵑花かな
遠目にも際立つ白や山法師
十薬の白より真白山法師
紫蘭咲く御苑の池の一隅に
河骨の御苑の池に咲き満てる
万緑の中に勇者の像立てり
武蔵野の青葉の中の記念館
蛍を川辺に待てば河鹿鳴く
独唱の斉唱となり河鹿鳴く
川面にも光を映し蛍飛ぶ
蛍の闇の底より湧き出でし
仰ぎ見る泰山木の花まぶし
見下ろして泰山木の花数ふ
風に揺れ泰山木の花いびつ
咲き初めし紫陽花どれも色淡し
日向より日蔭の色や七変化
かなぶんの羽音を立てて居座れる
花も葉も光り泰山木の立つ
この辺で蝮蛇見しとの立札が
明易の街に渋滞なかりけり
明易の朝一番に式場へ
明易や日に八組の挙式とか
明易や午前の挙式二組と
明易の朝一番の挙式かな
ウエディングドレスまぶしき夏の朝
鎌倉に紫陽花の寺いくつ目ぞ
ここもまた紫陽花寺となってゐし
紫陽花の間を江ノ電のこのこと
子供らに贈られし旅五月晴
梅雨晴の伊予灘青く真っ平
梅雨晴の日差まぶしき伊予の海
五月晴車窓に確と大洲城
梅雨晴の道後の宿の野外能
梅雨晴を湯籠ぶら提げ坊っちゃん湯
コインランドリーがらんどうなる五月晴
梅雨晴のきりりと辛きカレーかな
富士も見え待ちゐし甲斐の五月晴
百合咲いて狭庭にはかに華やげる
こふのとり巣立ち白百合咲き揃ふ
梅雨晴れて街路の椰子の光る阿波
宅地化に残る野良道半夏生
この時季のいつもこの場所半夏生
見渡せば水田ひろびろ半夏生
半夏生までに田植えを終へねばと
紫陽花の農家の北の裏口に
日の影にありて紫陽花色となる
一株に百越す鞠や濃紫陽花
本堂へ紫陽花咲ける道登る
山寺の紫陽花山を埋め尽くし
雨を待ちゐる紫陽花の淡き色
さ緑の鞠に始まる七変化
日向より日蔭の白よ額の花
日の陰り白くっきりと額の花
焼け残る寺の青葉のまぶしさよ
焼け残る寺の軒よりつばくらめ
再建へ寄進の瓦雲の峰
葉桜の作り出したる大緑陰
葉桜の大パラソルに風通る
登り窯けふもお休み蟻地獄
山蟻に小さ過ぎぬか蟻地獄
大日傘となりてしだるる桜かな
こふのとり巣立ちササユリ咲く阿波路
ほととぎす鳴かぬと草矢放ち待つ
四、五人の大人で草矢飛ばしっこ
谷越へてゆきし草矢に見とれゐる
仕草まね放つ草矢のへなへなと
師の句碑を辞さんとすればほととぎす
ほととぎす鳴けばうぐひす鳴き返す
平なる山頂広場ねじり花
師の句碑の裏より白き梅雨の蝶
梅雨明けて街路の椰子の光る街
梅雨明けて椰子のまぶしき徳島市
子燕の身より大きな口開けて
口となり親の餌を待つ燕の子
街中のシャッター通り燕の子
アーケード街乗っ取りし燕の子
黒南風や週間予報雨ばかり
黒南風に雨来る気配ありにけり
黒南風の雨の気配の湿りかな
梅雨晴れの鳴門の海の青さかな
梅雨晴れの鳴門の空の明るさよ
梅雨晴れて紫陽花ことに輝ける
紫陽花の色を極めて雨上がる
鈴生りの楊梅なるに捨て置く世
楊梅に真っ赤っ赤なる手も口も
楊梅の熟れて落ちたるままの道
塩水で洗ふ楊梅母の味
雨蛙三千院の闇深し
雨蛙こんなに小さき身にあれど
透き通るほどのソプラノ雨蛙
石庭に白き一叢馬酔木咲く
満天星の真白き鈴の犇めける
渓谷のみどりの風に五月鯉
大歩危を舟で下れば岩躑躅
新緑のまばゆき秘境かずら橋
かずら橋揺らすほどなる若葉風
逆巻ける渦に怯まず観潮船
大潮を選び鳴門の観潮に
街中に小流れのあり杜若
小石敷く清き流れに紫蘭かな
外堀の土塁は躑躅また躑躅
城跡へ躑躅明かりの道を行く
混み合ひてゐて重ならず躑躅咲く
近寄りて眺めてみたき躑躅かな
暗きにも浮き立つ白や著莪の花
ひっそりと咲きて気品や著莪の花
亀鳴くをのんびりと待つ日和かな
長閑かな亀寄り添ひて甲羅干す
中世を模せし庭園青柳
内堀の岸辺一面花菖蒲
鶯の声の美濃田の淵渡る
若葉風淵の水面をさ揺らせて
もう一度見頃の薔薇を見に来よと
見頃待ち来たる薔薇園香り濃し
薔薇園に今が見頃と案内され
マーガレットメリルなる薔薇白眩し
薔薇が好きマリアカラスの赤が好き
赤が好き真っ赤な薔薇の赤が好き
イングリッドバーグマンなる薔薇も赤
インカなる黄色い薔薇の秘密めく
クイーンエリザベスなるは一際高き薔薇
ヨハンシュトラウスなる薔薇さ揺れをり
クイーンスウェーデンなる薔薇小振りかな
アメジストなるはピンクの美しき薔薇
深紅なる薔薇は一目でカルメンと
ブルームーンなる薔薇昼も青かりき
ミケランジェロなるは黄色き八重の薔薇
キューガーデンなる懐かしき名の白い薔薇
リンカーンレーガンなるも赤い薔薇
シャルルドゴールなるは青薔薇凛として
甘き香にむせぶほどなる薔薇祭
一巡りして薔薇園の高台に立つ
もんどりを打って堰跳ぶ稚鮎かな
鳥威し吊るせし魚梯鮎上る
跳び損ね跳び損ね堰上る鮎
小太りな稚鮎の堰を跳び損ね
軽々と堰跳ぶ鮎のスリムさよ
似鯉来て稚鮎の群れの散り散りに
音立てて稚鮎吸い込みたる似鯉
群れてゐる稚鮎に忍び寄る似鯉
稚鮎には鮫のやうなる似鯉来し
雨の日の浜豌豆の濃紫
大堰の岸辺ひろびろ花茨
鳴き声の喧嘩腰なる行々子
子ら遊ぶ栄華の跡地芝青む
実休を偲ぶお茶席燕来る
そのかみの栄華を偲び新茶汲む
茶の好きな殿さま偲び新茶汲む
城館の跡青々と芝茂る
初夏の風とはこんなにも心地よく
母の日の母へケーキのサプライズ
庫裏の庭ひっそりとして擬宝珠咲く
鎌倉は路地多き町擬宝珠咲く
鎌倉の裏路地行けば花擬宝珠
雨の日の擬宝珠の花の色淡く
一夜さにこれなる仕業根切り虫
正体を見せることなき根切り虫
怪獣か忍者か夜の根切り虫
芍薬の白のまばゆき日向かな
芍薬の花は清楚でありにけり
後ろ見てよりの遠投鱚を釣る
空港の浜辺遠浅鱚を釣る
砂丘越へ遠州灘に鱚を釣る
芋蔓をたぐるが如く鱚を釣る
晴れの日の続き一気に夏めける
デパートの売場一夜に夏めける
服脱ぎて下校する子ら夏めける
藩主墓仰ぐ足下犬ふぐり
蜂須賀の墓所に蜂須賀桜見る
はくれんの散り敷く墓所の広さかな
日向ぼこしてゐるやうな家祖の墓
蜂須賀の墓所の蒲公英丈低し
初蝶の藩主墓より現れし
春水を鰡一列になりてゆく
木瓜咲ける藩祖の墓の小さかり
はくれんのこはれるやうに散りし墓所
花も葉も赤き蜂須賀桜かな
墓白く雪柳なほ白き墓所
雪柳見上ぐる空の青さかな
犇めける白のまぶしき雪柳
お江戸より花見の便り届けども
花遅き阿波にお江戸は満開と
まだ咲かぬ阿波に江戸より花便り
咲くを待つ阿波に上野の花便り
鎌倉の残花も見たる虚子忌かな
寿福寺へ人波続く虚子忌かな
廣太郎出迎えくれし虚子忌かな
顔見知り探し探さる虚子忌かな
虚子の忌の鎌倉山は丸くなる
実朝と政子の墓も見て虚子忌
椿さんと墓参済ませて虚子の忌へ
麗人と墓参も済ませ虚子の忌へ
窓開けて走る自動車風光る
裾野ゆく真っ赤なポルシェ風光る
ひろびろと耕せる畑揚げ雲雀
黒点となりゆく速さ揚げ雲雀
広き野に雲雀の声の降ってくる
戯れに草笛吹いてみたくなる
草笛の一節鳴りてそれっきり
菜の花に引き寄せられて畦に入る
菜の花や平和な日本ありがたく
菜の花に散歩の足の止まれる
菜の花の花粉まみれの家路かな
チューリップ真っ赤やこれぞチューリップ
マーガレット犇めき咲ける白さかな
鳴門かな漁港直売桜鯛
とれとれを浜値でいかが桜鯛
べっぴんや渦の鳴門の桜鯛
大漁旗立てて即売桜鯛
山二つ越へ来し里も竹の秋
地面まで明るき光竹の秋
茶室へと竹の秋なる小径ゆく
のどけしやどこか寄り道したくなる
長閑かな折り込みチラシまでも読み
ロッキングチェアで転寝のどけしや
のどけしや予定も入れずのんびりと
ドア開けて待てるタクシー長閑かな
ありがとうのお声の耳朶に昭和の日
皇居へと招かれし日や昭和の日
裕次郎ひばりも昔昭和の日
はるかより見えて真っ赤や木瓜の花
平らかに犇めき咲ける棚の梨
城山の裾に真白き著莪畳
木洩れ日を返して白し著莪の花
しなやかにまたたおやかに糸桜
やうやくに咲きし桜を仰ぎ見る
咲き満てる染井吉野の白さかな
咲き満てる花に虚子の句諳んじる
朝刊に見頃とありし桜散る
あっけなきほどなる早さ桜散る
オフィーリアのごと清流に花筏
小流れの澄みたる水に花筏
花屑となりゆく桜さくらかな
雨傘に花屑乗せて来られたる
待ちかねし花の散りゆく早さかな
見るうちに花屑積もりゆくベンチ
花屑を払ひて入るけふの句座
雨の日の桜の幹の黒さかな
海峡も指呼の鳴門の花見かな
はんなりとしだれてしだれ桜かな
しだれ桜しだれ桜とつづく道
輝いて並ぶ原色チューリップ
太陽を真面に受けてチューリップ
太陽へ背伸びしてゐるチューリップ
ほかほかの土にたんぽぽ咲き満てる
咲き満てるたんぽぽの土ほかほかや
闌けてゆく春を眺めてゐるベンチ
うっとりと闌けゆく春の中にゐる
鶯を途切れなる間なく聞きもして
大の字に寝て春風に身をさらす
見下ろせば桜吹雪の帯となる
たんぽぽの野に散り満ちてゆく花弁
あふれゐる春の季題の野山ゆく
石積みの里に明るき芝桜
段畑の土をとどめて芝桜
石積みの段畑毎の芝桜
門前に鉢植を売り藤まつり
大鉢の藤の先駆け満開に
曇天となりて牡丹の色めける
白牡丹には午後の日の強過ぎる
ぼうたんの白に見惚れてしまひけり
巡り終へもう一度見る白牡丹
ぼうたんの白のひときわまぶしかり
うっすらとうっすらと紅白牡丹
虚子の句のとおりと思ふ白牡丹
鐘の鳴るたびにさ揺れて白牡丹
一株に五十を数ふ白牡丹
見て飽きぬ富貴と気品白牡丹
金色に輝ける蕊白牡丹
ぼうたんの白を極める空の青
若葉風寄進の名前いろは順
若楓御手洗の水こんこんと
弟の逝きたる春の早やも行く
年毎に春の過ぎ行く速さかな
散るを待ちをりたる如く春の行く
行く春や静けさ戻る金丸座
桜餅葉まで食べる派食べない派
和菓子屋の道後の老舗桜餅
坊っちゃんの団子より好き桜餅
青空に蜂須賀桜より赤く
早咲きの桜にどっと目白来て
鈴生りのやうな目白や初桜
一本の桜尋ねて人絶えず
地図になき桜尋ねて人の来る
緋毛氈敷きし茶席や初桜
初桜仰ぎいただく抹茶かな
久闊の友とも会へし初桜
武家屋敷より桜見る平和かな
花冷えに熱き善哉ありがたく
薔薇の芽の色に変はりのなかりけり
ブラックティーなる薔薇の芽も赤かりし
黒白の施肥せし土に薔薇芽吹く
海越えて蜂須賀桜見に来しと
城山を仰ぎ蜂須賀桜見る
蜂須賀の世より咲き継ぐ桜見る
二百五十年咲き継ぐ桜幹黒く
幹黒き蜂須賀桜花赤く
全国へ蜂須賀桜この木より
母樹なりし蜂須賀桜仰ぎ見る
蜂須賀の殿の愛せし桜見る
維新も見空襲も見し桜見る
平和なる阿波に蜂須賀桜見る
もてなしはボランティアなる花の宴
啓蟄よ嘴ゐるぞしばし待て
啓蟄の畑をつつき返す鷺
啓蟄か旅行案内読んでみる
啓蟄か重い上着にさやうなら
啓蟄の空広々と青々と
白酒と云へど酒なり酒はだめ
白酒に酔って仕舞ひしおばあちゃん
紅の濃き蜂須賀桜川面にも
育ちたる蜂須賀桜見て宴
植えし日のこと思ひつつ桜見る
善哉をおもてなしされ桜見る
植えし人育てし人と見る桜
音のして椿丸ごと落ちにけり
干上がらんばかりの池に残る鴨
呼び合へるやうな鳴き声残る鴨
牡丹の芽ダイヤのやうな雨滴抱き
引鴨とならざる鴨のよく太り
どすんてふほどの音して椿落つ
去りゆく日間近き鴨の鳴き交す
石庭にいよいよ白き花馬酔木
天平の古刹の庭に馬酔木垂る
春泥を長靴で行く鴨猟へ
宮内庁の鴨猟春泥を行く
鴨猟へ春泥の道乱れなく
皇族は春泥の道上品に
白梅に紅梅の枝接木され
苗木屋の畑挿木の整然と
美しき写真の添へてある挿木
芽の数多付きたる枝も挿木され
新横綱我が世の春の勝ちっぷり
春場所を我が世の春と勝ち進む
黒椿見てより広き園巡る
風痛みなき椿はと園巡る
極まれる真紅なるかな黒椿
挿木せし椿に真白なる蕾
接木さる椿大きな花付けて
取木さる椿に注がるる眼
採り木さる椿に代理母をふと
熱帯の樹木のやうな大椿
確と見る椿の花の大きさよ
風痛みなき大椿あるロビー
椿詠む虚子の椿の軸を掛け
白魚に暴れ逃げらる躍り食ひ
白魚の暴れて逃げる舌の上
こんなにも背丈のありし犬ふぐり
孔雀園跡一面の犬ふぐり
蛇穴を出でし途端に謗らるる
穴出でしばかりの蛇と出合ひたる
霾や阿波の松島遠のきぬ
霾や洗車料金値上げさる
洗車待ちをりたる如く霾れる
泣く如く軋むワイパー霾れる
霾れば賑はふコインランドリー
春歌ふいけばな展の明るさよ
華やかに春来しを告ぐ華道展
蕾なる垂れ桜の紅殊に
咲くを待ちきれず花見にダウン着て
仰ぎ見る羽の大きさ初燕
その羽で海越え来しか初燕
山下りて来たる町にも初燕
初燕高さ競へるやうに舞ふ
をばさんのお花見まづはお弁当
強東風に蜂須賀桜散り急ぐ
尖ってをらねど寒さ残る東風
東風吹かば鰆来るぞと舟を出す
トンネルを抜け来し山も笑ひをり
ふくよかに膨るる眉山笑ふかに
見渡せば山それぞれに笑ひをり
山寺の和尚饒舌山笑ふ
はみ出せるバレンタインのチョコ売場
義理チョコのバレンタインの日も遠く
子の好きな節分の鬼すぐ逃げる
節分のどれもやさしき鬼の面
おもちゃ屋になき節分の鬼の面
節分に笑顔の鬼の面作る
子の描く節分の鬼愛らしく
紙丸め豆まきの豆作りし子
巻き寿司を節分に食ふ恵方向き
節分に巻き寿司食ふも時勢かな
春立つ日寒緋桜も満開と
春立つ日シークワーサーも完熟と
琉球の桶柑届く春立つ日
雨の日の紅梅どこか艶めかし
紅梅の幹黒ければ紅ことに
笹鳴きを聞かんと笹の見ゆ崖に
裏山を独り登れば笹鳴ける
うつむきて咲く臘梅に雨やさし
雨滴置く臘梅ことに透け通る
孕猫らしきはでんと歩き行く
恋猫の足取り重くずぶ濡れに
孕猫らしくゆったりゆっくりと
恋猫のぬっと出て来てさっと去る
麗かや今日もランチに誘はれて
麗かやランチの話長くなる
麗かや猫の欠伸のながながと
大阿蘇の野焼千里の果てまでも
茫々の阿蘇舐め尽くし野火走る
向かうところ敵なき如く野火走る
逆巻ける風を起こして野火猛る
国分寺ここも寺領や畑を焼く
薄氷の吹き寄せられて突っ張れる
融け始めたる薄氷にひび走る
薄氷の昼まで持たぬ命かな
一際の明るさなりし雛飾
一目見んとて手作りの吊るし雛
雛飾りせし一隅の明るさよ
来る春を見ずに逝きたる弟よ
春を逝く六十六は若過ぎる
余生なく逝きし弟春寒し
春めける日和となりぬ見送る日
春寒の遺骨の壺の白さかな
ものの芽の吹けど弟もうゐない
天上の桜を見んと逝かれしか
天上の父母と花見に参られよ
あれほどの鱵の刺身これっぽっち
透き通るほどの鱵の黒き腹
小鳴門を突っ切ってゆく鱵かな
帯となり小鳴門抜けてゆく鱵
お屋敷に野梅の如く茂る梅
干上がらんばかりの水に蝌蚪の紐
大福のやうにふっくら蝌蚪の紐
黒トリュフかけしゼリーか蝌蚪の紐
けきょけきょとただそれだけも初音かな
聞くうちにほけきょも言へて初音かな
ほうほけきょ言へし初音も存分に
山一つ越え来し里も初音して
蜜蜂の羽音の唸る梅仰ぐ
次々に四十雀来る古刹かな
山寺の日差し昼まで春寒し
日溜りにゐても背ナより春寒し
眠るごと逝きし弟春寒し
弟の逝きて十日や春寒し
雛飾るロビー明るく華やかに
自信なささうなお顔も雛人形
定番の炬燵に蜜柑懐かしく
炬燵の手触れてときめく日の遠く
綿々と内緒の話炬燵の間
虎落笛能登の籬の高さかな
出稼ぎの父待つホーム虎落笛
虎落笛能登の外浦海荒れて
虎落笛止むことのなき岬の村
寄り合ひて牛鍋つつく年の暮
御節にと身欠き鰊を持ち来し子
黒門の市の河豚持ち来たる子も
いただきし猪肉持ちて来たる子も
搗き立ての餅のお隣より届く
年の瀬の市の大鰤贈りくれ
生牡蠣と鰻も添へて鰤届く
年越しの蕎麦より河豚のてっちりと
子の作る鰭酒に酔ひ年を越す
十五人分の雑煮の餅を焼く
十五人家族総出の初詣
三台の車を連ね初詣
頑なに新札揃へお年玉
仏前に揃ひし孫にお年玉
子の親となりたる子にもお年玉
お年玉なる散財の嬉しさよ
生きてゐること確かめる年賀状
出せど来ぬ人の気になる年賀状
初夢に出てくる人の皆若く
初夢は白黒映画なる世界
初夢の覚めてしまへばそりっきり
孫とする百人一首お正月
爺の読む歌留多を孫ら競ひ取る
歌留多取り取れずに泣く子励ます子
独楽廻す手本見せてとせがまれて
子も孫も独楽の廻せぬ世代とは
元日の夜は今年も牛鍋と
正月の妻の助っ人なるや嫁
数の子の薄皮剥ぐを教えもし
正月を嫁三人の分業で
初めての猪肉鍋の二日かな
薬喰せし猪肉の淡白さ
薬喰せし猪肉に舌鼓
初めての猪肉嫁も完食す
三ケ日三食付きの帰省かな
ワイワイとガヤガヤガヤで三ケ日
三日過ぎがらんどうなる冷蔵庫
帰省子の去りたる家のがらんどう
初旅の天の橋立股のぞき
臘梅の丘より天の橋立を
初湯浴び越前蟹に舌鼓
越前蟹一人三杯平らげて
門松の凛と立ちたる外湯かな
城崎のどの湯宿にも松飾
城崎の老舗の湯宿注連飾
どの湯宿にも門松の立ちし町
店頭に餅花飾り客を待つ
寒鯉や出湯の城崎川の町
着流しで外湯巡りの初湯かな
足湯にも初湯の客の絶え間なく
新蕎麦の小皿に盛られ出る出石
買初の人かき分けて買初に
福笹を揚げ買初の列に着く
病院の中はマスクの人ばかり
好きな色聞きて手袋編みくれし
編みくれし手袋の指すらり伸び
編みくれし手袋かくも温かく
編みくれし手袋を持ち丹後へと
手編みなる世に二つなき手袋よ
自転車に乗れて竹馬乗れない子
竹馬の最初の一歩出せない子
竹馬に乗れれば偉くなる気分
悴める身のおのずから日溜りに
探梅の日溜りを抜け出せずゐる
冬晴れの翡翠ことに輝きて
吹き寄せられたる薄氷ひび走る
寒風に小便小僧の裸像立つ
庭園の丸太の椅子の温かく
門松の中に小さな獅子頭
梅咲いて椿も咲ける小正月
薔薇園にぽつりぽつりと冬薔薇
色のなき園に真っ赤な冬薔薇
門前に咲き継ぐ二輪冬薔薇
冬薔薇小さけれども色の濃く
刈り込みを終へし薔薇園冬薔薇
闇深き里の冬の灯いと赤し
寒灯の星のやうなる祖谷の夜
寒林に曝け出されし蔦蔓
遍路墓傾く径に時雨来る
遍路転がしを来て笹鳴を聞く
挨拶の礼儀正しき寒稽古
除かれし橙の山どんど跡
弛みゐる産土神の注連飾
松過の寺全域が掃除され