南国の阿波に鮮烈冬紅葉
冬紅葉松の緑のあればなほ
寺宝展始まる古刹冬紅葉
冬耕のあと白鷺のついばめる
傾斜地は土掻き揚げて冬耕す
隣まで宅地となれど冬耕す
時折は腰を伸ばして冬耕す
手に取りし綿虫濡れてゐるやうな
手に取りし綿虫の身の冷たさよ
綿虫の消えてゆきたる角度かな
鎌切と次の一歩を思案して
鎌切の三角の貌傾けて
立像の微笑みて見ゆ小春かな
蟷螂のいとほしさうに鎌を舐め
澄み渡る空一面の金鈴子
大手門より小鳥鳴く御苑へと
この辺が松の廊下ぞ石蕗の花
一隅に咲き残りゐし石蕗の花
犇めけるままに残ってをりし柿
木に実るままに熟柿となってをり
冬晴や平和な日本ありがたく
冬晴の白亜の堂のまぶしさよ
骨董の市に冬日の暖かく
骨董屋葱も並べて朝市へ
骨付きの鴨南蛮の新蕎麦も
そこの鴨かも骨付きの鴨南蛮
苗木市トゲナシレモンなるも出て
苗木市タネナシスダチと大書して
朝市に探す一つに猪の肉
冬日濃し写楽の墓は阿波へ向き
写楽にと蜂須賀桜植樹して
越谷に阿波の桜を植樹して
謎多き写楽を辿る旅小春
柳枯る八丁堀に写楽の碑
写楽の碑山茶花咲ける橋詰に
電飾のはやばや灯り街師走
師走かな電飾なりし雪達磨
二毛作なき世の冬田ひろびろと
米作の後の冬田は田休めと
一点の遍路となりて冬田道
人気なく冬田ばかりとなりし村
秀頼の自刃の石碑枇杷の花
搦手は急な山道枇杷の花
枇杷の花いつとはなしに咲きて散る
おみいさんなる雑炊は母の味
満腹と言ひつ雑炊平らげる
雑炊を平らげ喜寿のクラス会
三つ葉買ひをりけふは雑炊かもと
料亭の雑炊小鉢に取り分けて
短日のピアノレッスンすぐ終る
短日や葉書を出して一と日終ふ
公園に遊ぶ子たちに暮早し
遠き湯や早も湯冷めの嚏して
湯冷めせぬうちに眠れと母の声
湯冷めせぬやうにたっぷり湯に浸かる
霜柱踏むこの音を聞きたくて
ふかふかに盛り上がる土霜柱
霜柱滅多矢鱈に踏まずとも
踏みつけて見たくなるもの霜柱
湯たんぽを入れてくれあり山の宿
残り湯で湯たんぽつくりくれたると
可愛くて小さき湯たんぽ店頭に
湯たんぽの欲しき齢となりにけり
湯たんぽをつくる母の手やはらかく
これと云ふ進歩なきまま納め句座
来年はとぞこそ思ふ納め句座
銀杏散り楠の緑の迫り出せる
銀杏散り神社の森の深閑と
大木の多き古宮小鳥来る
銀杏散り落雷の跡剥き出しに
銀杏散り果てて青空近づきぬ
散り残る銀杏照葉の明るさよ
風下の一枝残し黄落す
年の瀬も静かなるまま徳島は
控へ目に聖樹を飾り徳島は
師走かな饂飩立ち食ひして街へ
表彰式よりの和服で納め句座
百歳の筆すらすらと納め句座
富士の見ゆ席取りて見る雪の富士
伊豆の島見下ろし雪の富士眺め
芝離宮恩賜庭園冬紅葉
冬紅葉真っ赤や恩賜庭園に
雪吊の松に清しさありにけり
雪吊し松に気品の生まれけり
待ちをれば鴨少しづつ近づきぬ
街騒は子守唄かな鴨浮寝
衛兵のやうなる鷺と浮寝鴨
寝飽きたる鴨かいきなり羽ばたける
水尾に水尾重ねて鴨の水尾を引く
閉会となりし議事堂銀杏散る
黄落の世に議事堂の凛然と
山の湯の今日の露天は柚の湯と
露天なる柚湯に独りゐる至福
山の湯の冬至の柚湯かく熱く
柚の湯に入れば五体の滑らかに
音立てて飛び立つ鴨の大きさよ
飛び立つは忍者のやうな黒い鴨
旋回をしてゐし鴨の戻りくれ
掃除終ふ川に鴨来て鳰も鳴く
掃除されたる川に鴨いつ戻る
餌を奪ひ合ふ鴨ときにダイブして
餌を奪ふ鴨に紛れて大鷭も
鴨の餌に大鷭右往左往して
濁声も金切り声も鴨らしき
尻上げて潜る大鷭すぐ浮かぶ
戦なき平成の世の納め句座
百歳のはやばや来られ納め句座
二つづつ蜜柑の並ぶ納め句座
九十年続く菊人形展に
若武者よ菊人形の西郷どんは
菊人形袴の檜葉のよく匂ふ
どう見ても視線の合はず菊人形
二分咲きの菊にも確かなる香り
始まりは二分咲きもあり菊花展
次々に車椅子来る菊花展
母連れて菊花展へと来し漢
揃ひ咲き揃ひ咲かせて菊花展
九部咲きの菊に勢のありにけり
日溜りにゐて菊の香を存分に
手作りの漬物を売る菊花展
菊花展はりはり漬けをお土産に
畝見えぬほどにコスモス咲き満ちて
コスモスの色を極めし空の青
乱れ咲き白の際立つ秋桜
風止めどコスモスの揺れ止まざりし
明治百五十年菊栽培所初公開
明治百五十年記念六角菊花壇
雲一つなき空高し菊花展
外国人多き御苑の菊花展
御苑かな由緒ある名の菊展示
一流の菊ばかりなる花壇展
直射日光避けたる場所に菊展示
鉢植の一つとてなき菊花展
初めての色と菊師の菊語る
一本の根より五百の菊の花
古典菊育て御苑の菊花展
一輪の菊に歴史のありにけり
江戸っ子の自慢の菊と伝えられ
江戸の世を今に御苑の菊花展
江戸っ子の粋と啖呵や菊の花
泰平の江戸の栄華や菊の花
一文字菊は大輪一重咲き
平なる菊の御紋の菊の花
管物の菊は花弁の管のごと
管物の菊に見飽きぬ繊細さ
一輪の菊に芸術ありにけり
均等に咲かせる苦心菊花展
初日より満開御苑の菊花展
二分咲きも五分咲きもなき菊花展
小さくとも紫しかとほととぎす
ほととぎす広き御苑の道の辺に
踏まんとすその足元にほととぎす
庭園が自慢のホテル石蕗の花
石蕗咲いて明るき庭となりにけり
石蕗の花明かりの庭となる夕べ
石蕗の花巡れば池を巡る庭
固まりてゐし寒鯉の動く朝
寒鯉の動きホテルの朝明ける
温かみある明るさの冬灯
冬の灯の点り始めしエアポート
お花見のできさうなほど帰り花
こんなにも多き今年の帰り花
狂ひ咲きかと思ふほど帰り花
色淡く小振りでありし帰り花
風除けの籬を高く巡らせて
風除けの籬の中の平和かな
風除けの籬の能登の海荒れて
風除けの能登の籬の高さかな
立冬の雲に輝きありにけり
風もなく明るき日差けさの冬
立冬の日本列島よく晴れて
連れ添ひて飛び出せし鴨番かも
小流の方へ方へと鴨の群れ
吉野川水澄みに澄み鴨をらず
着膨れてゐるやうなりし鴨もまた
コスモスの仕舞の花の捩れ咲く
のたうちてなほも咲き継ぐ秋桜
美しき川にあらねど鴨の川
風通るやうにずらして柿吊るす
柿吊るしあとは風待つばかりかな
子らの食ぶ数を数えて柿吊るす
東照宮大権現も御立ちかな
神の旅東照宮御駕籠かな
渋滞の出雲街道神の旅
シャンソンの枯葉のやうな枯葉かな
天辺に一つ残りし枯葉かな
枝先に残る枯葉のカラカラと
初霜の便り早々信濃より
初霜のいつも車にありにけり
日の差せば初霜消えて仕舞ひけり
初霜に野菜の甘くなるを待つ
初霜に愛車すっぽり覆はれて
無職なる身にも勤労感謝の日
発表会でピアノ勤労感謝の日
休んではをれぬ勤労感謝の日
ワイパーに払ふ初霜今年また
秋潮の藍の色濃き鳴門かな
玉葱の小屋は空っぽ冬耕す
天辺に枯葉の残るポプラかな
有馬へは紅葉の山抜けて行く
神戸かな築港一面鴨の陣
築港を埋め尽くしたる鴨の群れ
桜紅葉水面に映る川巡る
両岸に桜紅葉の川巡る
大阪の川に桜の紅葉見る
城も見て桜紅葉もとくと見て
閑もれる御陵の濠の浮寝鴨
時折は羽ばたきもして鴨浮寝
長慶の像はここにと櫨紅葉
石庭の砂の模様に冬日濃し
冬日差す町屋の土間の明るさよ
冬日差す庭見る部屋の飾りにも
寺子屋の部屋に小春日暖かく
菊活けて明るき土間となりにけり
電飾のはやばや灯る十一月
電飾の笑顔まぶしき雪達磨
クリスマス飾り早々灯る街
吹き抜けにまばゆき聖樹高々と
曼珠沙華浄土となりし巾着田
さながらに曼珠沙華浄土なりしかな
曼珠沙華五百万本なる浄土
曼珠沙華浄土の中の小径かな
そのなかに白曼珠沙華の二三本
色変えぬ松の緑と曼珠沙華
曼珠沙華林の中をそぞろ行く
咲き満ちて火の海となる曼珠沙華
古民家の石垣高し萩の花
江戸の世の名主の屋敷萩の花
大株の萩の花咲く大屋敷
古民家の裏庭楚々と芙蓉咲く
芙蓉咲き明るき庭となりにけり
コスモスの石垣よりも高く咲き
コスモスを仰ぎ秋の空仰ぐ
石垣の中にも咲きて秋桜
蔵の町横丁よりの秋の風
人ごみを抜けて来たれば秋の風
蔵の町竜胆の咲く老舗かな
行く秋を高尾の山に楽しまん
山頂の駅に降りれば昼の虫
トンネルの中は静かやちちろ鳴く
都心見ゆ山頂の風秋の風
爽やかに竹のオブジェに迎へられ
千代田区のホテルの庭の花芒
白萩の大樹のかくも堂々と
曇る日に白の極まる萩の花
西郷どんの像へ銀杏踏んでゆく
西郷どんの像に時雨の容赦なく
秋の雨花壇の色を極めけり
秋雨に蘇りたる花壇かな
琉球の糸瓜食べよと送りくれ
台風の来るとて一日家籠り
列島に来て台風の韋駄天に
台風の早やも列島縦断す
台風のあっけらかんと行きし阿波
週末のたびに台風来る日和
野の中の札所の森に小鳥来る
藩主墓所喬木ばかり小鳥来る
名刹の裏は叢林小鳥来る
摩耶山の寺に小鳥の巣箱かな
金柑を小鳥のために残しをく
椋の実の生り放題の古刹かな
椋の実を旨しと食べし世の遠く
寝かしある藍切り返し切り返し
連作の効かぬ藍とて新畑に
種を取る三番藍の花小さき
藍寝床切り返すたび上がる湯気
水を掛け藍の寝床を切り返す
畝見えぬほどに三番藍の花
木犀に噎せ藍寝床にも噎せて
銀杏のひしゃぎつぶれて落つる音
藍寝床守る偉丈夫は六代目
待ちをれば止みさうなりし秋時雨
彦根城巡りてをれば秋時雨
濡れ行けば少し冷たき秋時雨
薄着なる西郷どん像に秋時雨
竜胆の青の犇めく花屋かな
青が好き青竜胆の青が好き
竜胆の凛と榛名を仰ぎ立つ
敗荷の田のひろびろとありにけり
敗荷の田の空襲の街のごと
敗荷の田の真ん中を高徳線
累々と兵の屍敗荷田
天辺の庭師は乙女松手入
舟よりの兼六園の松手入
松手入とはむしり取りむしり取り
全容を見てより始む松手入
観音の眉に愁思のありにけり
秋淋し秋は嫌いといふ人も
秋淋し我より若き人の逝く
文学を生みし愁思と思えども
オペラ座を出し一歩の夜寒かな
奥祖谷の暗き夜寒の道帰る
救急のサイレンまたも聞く寒夜
植木屋の早も来てをり松手入
時折は全容眺め松手入
松手入すみたる空の広さかな
塵一つ残さず終り松手入
一輪の咲き菊花展始まれる
菊花展始まりし日の香の清し
郁子食べて郁子なるかなと云ってみる
鎌切のよろけるやうに歩み出す
お茶席へ和装の続く菊日和
百歳も不老長寿の郁子を食べ
天智天皇食べたる郁子を我も食べ
真白なるパンパスグラス風は秋
向日葵の果つるまで黄を貫ける
冷房の効いた室内植物園
ジャングルに白を極めし胡蝶蘭
一輪の桔梗のかくも凛として
夏行きぬブーゲンビリアなほも咲く
踏み入ればはたとすいっちょ鳴き止みぬ
すいっちょの声熊笹を渡り来る
つくつくぼふし鳴けばすいっちょ鳴き返す
立ち上がる露草の花小さかり
潜みゐし蚊に攻めらるる四方より
百歳の完食見事なりし秋
百歳も唐揚ランチ爽やかに
無花果の振舞はれたる句会かな
田一枚なぎ倒されし野分跡
無縁墓引っ繰り返したる野分
野地蔵の供花吹き飛ばし野分去る
トラックも風車も倒し野分去る
写真付き歳時記めくる秋灯下
秋灯には温かい色がよい
秋灯下虚子の俳話を拾ひ読む
秋灯下今夜も母は針仕事
日本晴台風来るといふけれど
大夕焼あすは台風来るといふ
二百十日越えて咲き継ぐ百日紅
客待てるやうに台風来るを待つ
台風の目に入りてとるランチかな
台風の通過し風の向き変はる
終った人観て晩秋のモスクワに
渋滞の街に西日の容赦なく
山のなき街を染めゆく秋夕焼
ダーチャなる菜園真っ赤なる林檎
菊の花思ふ黄金の花壇かな
小春日の花壇の色の鮮やかに
サルビアの赤のまぶしき花壇かな
教会の庭の林檎も実をつけて
ななかまど赤い煉瓦の庭に咲く
夕顔や土塀の今も続く古都
劇場に遠き日のこと思ふ秋
ビールビール赤の広場のカフェテラス
風雪の歴史の舞台冬近し
赤はこれ美しきこと秋深し
アイス売る赤の広場のデパートに
西瓜売る赤の広場の百貨店
噴水の水に浮かべて西瓜売る
噴水の水に西瓜を浮かばせて
デパートの即売メロン旨かりし
悠久の歴史をしのぶ館の秋
暮れ早き街に電飾始まりぬ
モスクワは街路に林檎実る街
クレムリンなかに森ありななかまど
制服の落葉集めるクレムリン
すずかけの実のたわわなるクレムリン
西日受け金のまぶしきクレムリン
西日受く大砲使はれぬままに
大鐘の西日の中に曝されて
落葉踏み武器庫なる宝物館へ
ペテルブルグへ西日の中を列車行く
ペテルブルグへ走る車窓の暮れ早し
白樺の森に大きな西日落つ
大陸の夕焼は青き空残し
宮殿を仰ぎ秋の空仰ぎ
エカテリーナ宮殿仰ぐ小春かな
小春日の宮殿の部屋明るかり
宮殿にやさしき秋の光かな
宮殿の中に秋の日やはらかく
琥珀の間出て新涼の庭園に
小春日のツートンカラーの烏かな
新松子レバノン杉は松なりし
レバノン杉仰ぎ秋の空仰ぐ
噴水の水に秋の日煌めける
金色に光る噴水見て飽きず
宮殿に赤青林檎たわわなる
栗鼠走る木の実の落つる宮殿に
木の実踏み大帝公の庭めぐる
三百六十五ある噴水を巡る苑
コスモスの白の際立つ花壇かな
コスモスと宮殿白く空青く
サルビアと赤を競へる桜草
フィンランド湾に波なく秋高し
海を見る白いテラスに差す冬日
噴水の西日の中に輝ける
噴水といふ権力の証かな
噴水のしぶきに濡れて苑巡る
西日受く宮殿仰ぎつつ登る
血の上の教会に降る秋の雨
露の日の教会の色しっとりと
露の世の歴史を教会に学ぶ
大帝の騎馬像に降る氷雨かな
庭園に秋の風吹く美術館
川よりの風の涼しき美術館
着膨れたものみな預け館巡る
秋の日に孔雀時計の金まぶし
放蕩の息子の帰還帰り花
爽やかやアルプス越えしナポレオン
爽やかやアルコル橋のナポレオン
手をつなぐマチスのダンス冬温し
秋晴れて青美しき美術館
バレエ観ずホテルに過ごす良夜かな
ロシアから伊予へと秋の旅つづく
三角に残りし畑オクラ咲く
百日紅より百日白へと続く路地
西の下の遍路の句碑に時雨来し
西の下にまだ畑残り茄子の花
木の実踏み瀬戸の海見ゆ師の句碑へ
海峡の木槿の花の白さかな
秋潮の海峡ことに藍の濃く
自転車で海峡渡る爽やかに
門前に小さき斎田稲の花
手入されゐたる神田稲の花
神田は青生き生きと稲の花
神田は清水たっぷり稲の花
秋空へ二千六百歳の楠
老木の天辺よりの秋の声
どの家もコスモス咲かせ山に住む
コスモスや山家はどこも南向き
コスモスや新婚さんのベランダに
コスモスや新婚さんは白が好き
見るうちに見渡す限り鰯雲
真青なる空をキャンパス鰯雲
自転車で渡る海峡鰯雲
子規庵の子規忌に来られよとメール
子規の忌に墨汁一滴展示され
子規の忌に子規の真筆初展示
子規庵の子規忌糸瓜のよく茂り
絶筆の糸瓜三句を詠む子規忌
のぼさんと慕ひし伊予の糸瓜の忌
糸瓜忌に手作り糸瓜競ふ子ら
子規百句虚子百句読む夜長かな
草萎れをりたるほどの暑さかな
庭中の木に蝉の来てけたたまし
台風の来てまろやかになる暑さ
夕立のあればと思ふ暑さかな
全雨戸閉めて台風待ちをれど
異常かな台風までも逆走す
逆走の台風終に迷走も
台風の居座り雨の降り続く
台風の洗ひ出したる空の青
倒伏の田なく台風過ぎにけり
街中が鎮もるほどの炎暑かな
街歩く人を見かけぬ炎暑かな
長岡の三尺玉の大花火
漆黒に起承転結揚花火
色褪せし野に珊瑚樹の真っ赤な実
青空に珊瑚樹の実の真っ赤かな
リゾートホテルビーチパラソル犇めける
子らプール私転寝浜日傘
天空のプールに遊ぶ夏休
救護医もプールに控へゐるホテル
甲子園試合の間に打ち水し
立秋の空の青さでありにけり
立秋の掃きたるやうな雲なりし
立秋の風の気配でありにけり
立秋の角の取れたる日差かな
七夕の今年の火星大きくかり
七夕の笹に宇宙を駆ける夢
七夕の小さき笹に果てぬ夢
出て来たる穴の間近に死する蝉
骸かと思ひし蝉のよろけ発つ
果てんとす蝉の我が身にしがみつく
鳴けぬ蝉ばかりとなりし無気味さよ
朝顔に種ができたと喜ぶ子
学校で育てたる朝顔の実と
絵日記の朝顔の実のこんなにも
家毎に朝顔育て古都に住む
江戸っ子となりて朝顔市に出る
江戸っ子の啖呵朝顔市らしく
ローデンベルクでも朝顔の鉢植を
時雨てもどこか淋しき法師蝉
夕べには鳴りをひそめし法師蝉
一休みだんだん長く法師蝉
法師蝉鳴きぬ二学期始まるぞ
鎌倉の袋小路にある残暑
ご自愛の日のなほ続く残暑かな
まだ残暑なほも残暑と家籠
手から手へ西瓜大きく放り投げ
人家なき大平原に西瓜売る
赤子抱くやうに黒部の西瓜抱く
西瓜売るシルクロードの道の辺に
上へ行くほどに犇めき花木槿
笠石の句碑の真白き花木槿
韓国はまだ行かぬ国花木槿
炎天の野球水飲む休憩も
青空へ夾竹桃の咲きっぷり
原爆の焦土に夾竹桃の花
岩牡蠣の圧倒的な大きさよ
岩牡蠣の二人がかりの料理かな
岩牡蠣の旬のミルクの濃厚さ
箸伏せて子らは素麺流し待つ
箸の間をするり素麺流れゆく
子らの顔真剣となる花火かな
雷の遠のきライブ始まりぬ
テント村めける野外のライブかな
雲の峰ドラゴンの首伸びて行く
ドラゴンの火を吐くやうな雲の峰
やうやくに冷房しなくてもよき日
帰省子の去にて疲れのどっと出る
大雨に洗い出されし百日紅
雨後の紅淡かりし百日紅
万緑の眉山となればモラエス忌
緑緑緑の眉山モラエス忌
水売はもうをりませんモラエス忌
汗流し登りし旧居モラエス忌
お遍路をオヘンドサンのモラエス忌
ホトケサンとなりて幾年モラエス忌
ホトケサンとなり九十年モラエス忌
ホトケサンの夏はどうですモラエス忌
ホトケサンも夏は暑かろモラエス忌
モラエスと花の文字できモラエス忌
梅雨晴れのアガパンサスの煌めける
産直の市に楊梅どっと出て
産直の市の目玉の楊梅と
塩水で洗ふ楊梅母の味
楊梅を食べに阿波まで来られよと
楊梅の旬のいかにも短くて
大玉の楊梅なればかく甘く
燕の巣史跡の里のトイレにも
さっと来てさっと巣を立つ親燕
餌を運ぶ燕とちらと目の合ひぬ
二番子の巣に子燕の戻り来て
ガサと音牙剥かんとす蝮の絵
高床の涼しき道を蟻の行く
竪穴式住居を出ればほととぎす
古代米植ゑありし田に藷挿され
梅雨晴れの空の真青でありにけり
飛機の窓くっきりと富士梅雨晴るる
向日葵の地の果てまでも続く国
向日葵やフランスなるは農の国
アルプスを越えて向日葵咲く湖畔
雨傘の日傘となりぬ旅の空
中欧の街に日傘の人を見ず
西日本孤島となりし梅雨出水
街も田も泥の海なる梅雨出水
南極で素麺流しして来しと
たっぷりと冷やし素麺にも酢橘
海老出汁の冷やし素麺母の味
今日もまた冷やし素麺なる昼餉
竹の香の水の素麺流しかな
子らもまた冷やし素麺大好きと
日焼せんとてエーゲ海クルーズに
デッキには日焼のための寝椅子も出
日焼けなど恐し怖しと日本人
街中に噴水上がるローマかな
真青なる水のトレビの泉かな
噴水のための水道橋なると
豊かさの象徴なりし噴水と
野の市にマスクメロンの出る高知
特上のメロンは桐の箱に入れ
メロンより西瓜が好きと腕白は
蕗の葉でコップ作りて清水汲む
清水汲むコップ登山の必需品
眉山には名水百選なる清水
アセチレン灯す昭和の夜店ふと
北京ダック並ぶ神戸の夜店かな
端に出てまた引き返す夜店かな
百円を握りしめたる子の夜店
琵琶湖より涼しき風の山荘に
夏の夜の琵琶湖湖畔の明るさよ
炎天に金の鳳凰まぶしかり
平等院日傘の列の途切れなく
日盛りに白のまぶしき蓮の花
蓮の花巡り平等院めぐる
川縁に寄れば涼しき風の来る
人の死ぬ灼熱蝉続き蝉哮る
パラソルと簾となりし夏柳
持ち寄りて大緑陰に椅子並べ
名水の川臭ふほどなる暑さ
水鉄砲またまた死ぬる父と母
噴水の水に蜻蛉の羽根光る
死に至る危険な暑さ今日もまた
中世の橋の下行く子鴨かな
夏霧の晴れて明るき街となる
夕立来て赤い煉瓦のしっとりと
赤い屋根青葉若葉によく映えて
マロニエの真っ赤な花と白い壁
マロニエの葉蔭の花のまぶしさよ
一列になり急流をボート行く
急流を過ごし一息船遊
夏空へ大聖堂の屋根凛と
小手鞠の白を仕上げてゆきし雨
雨上がり白の極まる花水木
雨ありてこその水木の花なりし
菩提樹の花の盛りの街を行く
菩提樹の花の香りの満てる街
五月柱なるは高々夏を呼ぶ
人形も五月柱を登る初夏
聖五月民族衣装着て踊る
夏来る喜び子らのダンスにも
高原は夏の草花咲き満ちて
夏霧の下に湖畔の町浮かぶ
霧晴れて緑の美しき町となる
雪渓を置く山見えて湖静か
炎昼に金のまぶしきモニュメント
散策し集合場所は片蔭と
サングラス外し生家の文字仰ぐ
夏空へモーツアルトの像高く
庭園は緑とみどり競ひ合ふ
箱庭のやうな家並み続く街
宮殿の広場打水したくなる
宮殿の裏は庭園風涼し
ハプスブルグ家の名残か赤い薔薇
炎天に黄金の鷲と赤い薔薇
クリムトの接吻も見てカンナ燃ゆ
噴水の四つも上がり庭静か
ビール飲み寝てしまひたるオペラかな
オペラ跳ね暑さの残る街帰る
坂の上の城への道の薄暑かな
炎昼に土管工事の工夫像
暮れなずむドナウに夕焼始まりし
夕焼のドナウの川面染めてゆく
朽ち果てし遺跡に芥子の赤い花
鉄条網張られし遺跡芥子の花
くさり橋渡れば緑燃ゆる丘
橋くぐる船に涼風心地よく
遠足に遺跡を巡る子供かな
川風の涼しき漁夫の砦かな
砦より眺む議事堂風涼し
議事堂はドナウの畔風薫る
燕の巣大聖堂の屋根裏に
接骨木の花咲く岸にドナウ見る
語らひのドナウの岸辺夏の夕
ゆったりと岸辺で過ごす夏の宵
夏の夜のドナウクルーズ金の波
夏の夜のクルーズをして旅終る
山法師より裏道の始まりぬ
光りゐる泰山木の花も葉も
梯子より泰山木の花数ふ
そびえ咲く泰山木の上に蝶
大方の泰山木の花いびつ
美しき泰山木の花は香も
また数へ直す泰山木の花
噴水に涼しき風の湧くところ
崩れ落つやうに噴水終りけり
香り来て探せばあそこ栗の花
はるかから見ても確かに栗の花
果樹園の周りぐるりと栗の花
裏道は栗の花また栗の花
廃園となりし果樹園栗の花
廃校の実習園の栗の花
縄文の史跡公園栗の花
土砂降りに角を引っ込め蝸牛
葉の裏に潜んでをりし蝸牛
エスカルゴ旨しと聞けどででむしは
二輪のみなれど我が庭百合の花
花菖蒲色鮮やかに残り咲く
萎れたる菖蒲の花を見ぬ御苑
残り咲く菖蒲の株の散らばれる
六月に萩の花咲く御苑かな
露載せし蛍袋の傾ぎやう
この草を虎の尾てふは大袈裟な
恵那山のトンネル出れば山法師
山栗の花のしだるる伊那路かな
朝市の隣の湯宿立葵
露天湯に入れば伊那峡ほととぎす
紅白の夾竹桃の咲き競ふ
岡崎の城紫陽花の群れ咲きて
竹千代の城正面の茶屋濃紫陽花
家康の城は空堀濃紫陽花
万緑の中に自動車博物館
楊梅の鈴生りなりし博物館
日当たりの側の楊梅鈴生りに
世に出せし車に出合ふ館涼し
開発に汗流したる日の遠く
今もなほ名車と言はる涼しさよ
涼風の如き名車でありにけり
世に出せし車のシャツを父の日に
かぶと虫くはがた虫も火取虫
べっとりとヘッドライトの火取虫
くはがたもかぶとも火虫外灯に
青芒すくと立ちたる御苑かな
武蔵野を模せしてふ苑青芒
青芒見てより広き苑巡る
信長の城は山里青芒
家康の城は空堀青芒
この時季のいつもこの場所青芒
あめんぼと水輪の影の水底に
真白なる砂を噴き上げ泉湧く
鎌首をもたぐる蛇と出会はせて
手づかみであめんぼ捕ると笑顔の子
蛇よりも執念深く蛇を追ふ
あめんぼの水輪の揺るぎ泉湧く
あめんぼの韋駄天のごと逃げにけり
楊梅の成り放題の落ち放題
竹林の天辺越えし今年竹
目はどこに口はどこにと百足虫見る
山宿の風呂の天井百足虫這ふ
百足虫見てより手も足もむずがゆく
見るほどに怪獣のやうなる百足虫
怪獣のやうな百足虫の面構
朝までに蹴飛ばされゐる夏蒲団
金太郎のやうに夏掛して寝る子
夏蒲団はみ出せし子の脚長し
著莪活けて楽羽亭なる茶室かな
たんぽぽの絮飛ばし合ふ姉妹かな
菜の花や司馬遼太郎もうゐない
ふくよかに咲ける白藤見て飽きず
白藤の幹ごつごつとして太く
さくらんぼとはこんなにも鈴生りに
仰ぎ見る青葉若葉やさくらんぼ
一尾のみ稚向こうの川辺鮎跳ぶ
鷺飛んで稚鮎跳ばざるけふの堰
上る鮎見ず月見草見て帰る
曇る日は昼も満開月見草
茂るほど宵待草の咲ける土手
鴨去にし川を自在に鳰のゆく
横切りし黒は大きなつばくらめ
仙人掌の紅透き通る花の色
知らぬ間に仙人掌咲けり一夜さに
鯉幟限界集落なる里に
廃校の里に高々鯉幟
まんまるの口大きかり鯉幟
東京の孫と上げたる鯉幟
更衣して更衣する日和
半分は腕も通さず更衣
クリーニング割引となり更衣
日差浴びいよよ凛々しき鉄線花
紫は引き締まる色鉄線花
鉄線の花は背筋を伸ばし咲く
長雨の終り一気に夏めける
半袖になりたがる子ら夏めける
マネキンはすっかり薄着夏めける
薄暑かな讃岐まで来てざるうどん
江戸城の跡に泰山木の花
大振りの気品泰山木の花
剥がれ落つやうに泰山木の散る
二度三度数ふ泰山木の花
天守より泰山木の花数ふ
仰ぎても見えず泰山木の花
本丸の跡に泰山木の花
緑陰の藩祖の像の微笑まれ
大振りの薔薇ほど痛み早かりし
大振りの薔薇には早も痛みあり
大振りの薔薇の命の短さよ
薔薇の香の噎せ返るほどなる日和
噎せ返る薔薇の香りの甘さかな
本年も会は母の日母を詠む
母の日の母を迎へてホ句の会
母の日の母健やかに集はれて
下車すれば続けざまなりほととぎす
一山をほしいままなりほととぎす
右からも左からもやほととぎす
粉雪を散らせし如く雪の下
犇めける白の密林雪の下
待ちをれば一声なれど河鹿鳴く
河鹿鳴きあとは水音あるばかり
日曜の家族総出の花見かな
知る人ぞ知るお花見の名所とて
中世の城址より見る春霞
長宗我部氏の居城跡花万朶
国宝のお城を仰ぎ桜見る
日本一早く咲き満つ桜見る
とりどりのブーゲンビリア咲ける園
園芸の団地にバナナ実る土佐
青空に白を散りばめ桜咲く
これほどの染井吉野の白さかな
水青き美濃田の淵の桜かな
鶯の声の美濃田の渕渡る
咲きて知る眉山こんなに山桜
蒲公英の原にごろりと大の字に
見渡せば桜さくらとなりし園
いつも見る山にこんなに山桜
うぐひすの息の長さを競ふかに
蒲公英や平和な日本ありがたし
蒲公英の丘に兜太も遊ばれよ
のどかかな丸太の椅子の温かく
遠山は帯のやうなる花曇
犇めけるほどに咲き満つ桜かな
咲き満てる桜の下の二人かな
滝のごとしだれて垂桜かな
遠目にも垂桜のしだれやう
その奥の木陰に凛と著莪の花
日当たりてあけぼの躑躅らしき艶
桜散るバージンロードなる庭に
ささやかな風に桜の散り急ぐ
チューリップ真っ赤や子供らの頬も
チューリップ園を一年生走る
春眠の子を起こさない日曜日
春眠の子の安らかな目覚めかな
春眠の孟浩然となりてゐる
大振りでありてつましき花大根
種取ると隅に一畝花大根
大根の花は質素でありにけり
朝市に花の咲きたる大根も
秋田より来られし遍路肌白し
国分寺今はお札所豆の花
大根の花咲く路地を遍路来る
犬連れて来しも遍路でありにけり
その中に二羽の子鴨も残る鴨
池の端に寄り添ひてをり残る鴨
うぐひすを後に鐘の音を前に
菜種梅雨とは少し降り少し降り
菜種梅雨大きな傘の一年生
菜種梅雨にも梅雨寒のありにけり
湯煙の上にぼんやり春の月
湯籠提げそぞろ歩けば春の月
春の月墨絵のやうに浮かびをり
春の月三千院の闇の上に
桜草咲いて明るき庭となる
新婚の真白きテラス桜草
桜草名もまた美しき小花かな
プリムラと呼ばずに桜草と呼ぶ
鳥の巣の世界遺産の宮殿に
鳥の巣の木の教会を見下ろして
煙突に鸛の巣置く民家
引き潮となるを待ちかね鹿尾菜刈る
鹿尾菜干し磯の香りの強くなる
給食の鹿尾菜が好きと吾子の言ふ
鹿尾菜には植物繊維たっぷりと
栄養士鹿尾菜を食べと今日も言ふ
鹿尾菜ちょっぴり歌舞伎座のお弁当
春の闇水の張られた田の匂ふ
火の帯のやうに躑躅の群れて咲く
燃え上がるやうな躑躅の咲きっぷり
遠目にも白き一叢著莪の花
著莪咲いて城址明るくなりにけり
藩主墓ぐるりと囲み捩れ花
後室の墓仰ぐかに捩れ花
藩主墓巡ればここも捩れ花
八重一本残して桜散りにけり
桜蕊積もれる土のやはらかく
たんぽぽや一番小さき藩祖墓
敷石の隙間にまでも捩れ花
花冷えの風連れ鼠木戸くぐる
芝翫の宗五郎も見て花も見て
外つ国の人で賑はふ牡丹苑
雨後の牡丹の色でありにけり
牡丹には日除けの和傘よく似合ふ
黄牡丹に甘い香りのありにけり
卯の花の白を際立て雨上がる
本堂になんじゃもんじゃの白い花
ひっそりと御苑の庭の藤の花
青楓さ揺らす風のありにけり
スカイツリーに目高のやうな五月鯉
スカイツリーに纏はる小さき五月鯉
大きかり大内宿の鯉幟
茅葺の家に大きな鯉幟
みちのくの大内宿の鯉幟
山笑ふ中に大内宿の里
打水のされて大内宿の道
庭先のサイダー冷やす雪解水
茅屋根の葺き替へ工事寄り合ひて
葺き替への掛け声もなく手際よく
一本の葱でいただく宿の蕎麦
春風の蕎麦屋の暖簾揺らしゆく
薫風にネモフィラの花さざめける
麗かにネモフィラの咲き満てる丘
春光にネモフィラ青く煌めける
ネモフィラの丘より春の海を見る
緑陰の三つ葉躑躅の明るさよ
見渡せば視野の果てまでチューリップ
畳敷き詰めたるやうに著莪の花
池の端を埋め尽くして紫蘭咲く
犇めきて咲ける躑躅の明るさよ
外つ国の人も御苑の躑躅観に
浜茄子の花の御苑の薔薇園に
霾晴れて東京駅の美しく
山寺の崖一面の蕗の薹
聴きたしと思ふ初音のつづけざま
マスク越しにも香の届く梅の里
広き野に出れば初音のつづけざま
二分咲きの白梅にある気品かな
せせらぎの音にも春のリズムかな
春を待つ千年の楠緑濃く
酒蔵を開けて新酒の飲み比べ
試飲する四国の新酒一堂に
直売の詰め放題の新若布
熱湯にほとばしる青新若布
浜茹での束の間なりし新若布
湯通せばたちまち真青新若布
聴くほどに鶯の声らしくなる
鶯を聴けて足取り軽くなる
部屋中に香りを満たし梅の花
大甕にどっさりと活けある椿
百年の老舗ロビーに山桜
伊予柑の香る道後の朝の町
菜の花の方へ散歩の足の向く
菜の花や隣の畑も宅地へと
異変かな北の大間に鰆来る
大間には臨時ボーナスなる鰆
どれも皆胴長なりし鰆かな
瀬戸内の潮路に傾ぐ鰆舟
野遊びのやうに札所でお弁当
椋鳥に桜の目白散らされて
九分咲きの花をさ揺らし散らすもの
尺八と琴聴き花を見る宴
山里の春の曲の調べを聴く花見
蜂須賀の世より伝へて初桜
青空に紅き蜂須賀桜かな
群れに群れ加へ一気に鴨帰る
はるかへと螺旋を描き鴨帰る
裏庭に山茱萸の咲く武家屋敷
青空へ山茱萸の黄の鮮やかに
早咲きの桜に人も小鳥も来
花冷えに熱き善哉ありがたく
はくれんの膨らみ初めし空青く
はくれんの蕾のどれも天を向き
ジグザグの一筆書きや蜷の道
人工の小川にしかと蜷の道
蛍のふるさとの川蜷の道
芽柳を巡り道後の町巡る
芽柳や道後湯の町坂の町
芽柳の下で足湯をいただきぬ
芽柳の町に人力車の並ぶ
茶室とは簡素で質素利休の忌
菅笠を掛けある茶室利休の忌
金箔の加賀の茶室や利休の忌
裏千家表千家の利休の忌
クローバーの花のティアラをご覧あれ
クローバーの花でティアラを作る子ら
荒畑を緑豊かにクローバー
いぬふぐり足の踏み場もなきほどに
どれ見ても太陽に向きいぬふぐり
お日様とにらめっこかないぬふぐり
車窓より天道虫の飛び込み来
うららかや車の窓を全て開け
アメリカのテンガロンハットなる遍路
遠回りして来る遍路日和かな
梅林の土ほかほかとしてをりぬ
手の届く高さに揃へられし梅
早咲きの桜は赤く空青し
水仙の終りし後の黄水仙
白魚の川寒鯔の川となり
取木さる椿の負傷兵のごと
尻擦りつつ椿山上るバス
その奥に侘助楚々と咲き残る
断崖の絶壁にまで咲く椿
落椿たどれば順路見えて来し
椿咲く尾根は水師の逃げし道
椿咲く径に群れ咲き黄水仙
濡れてゐるやうな椿の艶やかさ
椿咲く幹より直に咲くもあり
侘助を一輪挿して利休の忌
焼夷弾落ちたる庭の土筆かな
見渡せば土筆の海となってゐし
幼な子と数競ひ合ふ土筆狩
酢味噌和へしたる土筆は母の味
はやばやと田水張りあり初燕
初燕眉山山頂旋回す
三寒の畑の土の硬さかな
今日もまた三寒の風尖れる
四温などまだまだ先といふ日和
どっと来る旅行案内日脚伸ぶ
夜型を昼型にせん日脚伸ぶ
待ち時間長き病院日脚伸ぶ
もう一度バイエル弾かん日脚伸ぶ
天気図は縦縞模様春遠し
噴水の柴山潟の凍返る
白銀の世界に鴨の陣を張る
奥能登の雪の山里抜けて行く
藁屋根に積もりし雪の嵩を聞く
買初めは輪島朝市干鮑
店先は雪退かしあり朝の市
冬の海猛る白米千枚田
白雪の荒ぶ白米千枚田
雪積もる駅舎のポストいと赤く
解け始む氷柱の放つ光かな
寒鯔を待ちし櫓の高さかな
内浦の里は静かや春を待つ
能登島も和倉も雪の朝明ける
湯煙や雪の和倉は静かなる
加賀屋なる正月飾り残る宿
弾初の琴の調べを聞く湯宿
海荒れて寒風荒ぶ渚かな
冬波になぎさドライブ中止さる
音もなくしんしんと降る古都の雪
レトロなる街に静かに雪の降る
寄鍋の老舗の今も主計町
路地端に雪に埋もれし寒椿
雪積もる園に真っ赤な傘の人
雪吊の兼六園へ雪の日に
雪乗せし琴柱灯籠見て飽きず
雪溶かし辰巳用水滾々と
薄氷の霞ケ池を埋め尽くし
薄氷に内橋亭も閉ざされて
降る雪や昭和も遠くなりにけり
雪晴れて鏡のやうな浅野川
初旅の金沢駅の鼓門
春めける彩り並ぶロビーかな
雪被る弁慶富樫義経も
雪しまく安宅関は海までも
立春をあすに師の句碑立ち上がる
冬日和賜り冬日和の句碑
霜の朝きっと晴れると祝の場へ
冬晴れに祖谷誌主宰の句碑除幕
辛夷咲き初めたる園に句碑除幕
冬日和に冬日和の句碑除幕
張り付きて瞬かぬ星冴返る
縮こまり尖る蕾冴返る
冴返る能登の輪島の空の青
凍返る輪島の朝の市の露地
いぬふぐりゴッホの描きし畑にも
梅林のふくよかな土いぬふぐり
ふくよかな土に丈あるいぬふぐり
春を呼ぶ三千人の第九かな
外つ国の友と第九を水温む
気負はずに咲きていぢらし寒牡丹
寒牡丹散り初め金子兜太逝く
恋知らぬ乙女のやうな寒牡丹
美しく生きるは難し白牡丹
のぞき込むやうに眺めて寒牡丹
黄牡丹にほのかな香りありにけり
楽日にも蕾をつけし寒牡丹
藁囲されて可愛ゆき寒牡丹
美しき和名の名札寒牡丹
黄金の蠟梅の香のほのかなる
蠟梅の犇めき咲ける明るさよ
満作の赤を満作かもと見て
満作の満作らしくちぢれ咲き
土割りて出でしものあり福寿草
ほころべる黄のみづみづし福寿草
東京の寒波の緩み馬酔木咲く
穏やかな日差しとなりて馬酔木咲く
三椏の花はほぐれを解きて咲く
三椏の花は質素でありにけり
初夢の途切れ途切れでありにけり
初夢のハッピーエンドまで行かず
初夢や富士鷹茄子のちらりとも
ゼロ歳の赤子が主役初詣
十六人家族総出の初詣
揃ひたる孫八人にお年玉
年酒とて大吟醸の飲み比べ
お雑煮の餅は一つで結構と
正月の餅を詰まらせ逝く人も
正月を無事に過ごせし嬉しさよ
子ら去にて元の二人の薺粥
色のなき山に山茶花咲き満てる
山茶花の散り敷く赤の瑞々し
閉校の庭に真っ赤な茶梅かな
こぼれゐし山茶花なほも真っ赤かな
山茶花のモノトーンなる庭に咲く
山茶花の散れば散るほど咲き続く
饂飩屋の一部屋借りて初句会
初句会まづは饂飩をいただきて
饂飩屋の庭に万両凛と咲く
徳島の雪は全国へのニュース
青空も見えて明るき阿波の雪
昼までに消えてしまひし阿波の雪
阿波の雪高速道路まで閉ざす
少し雪降れば渋滞続く阿波
阿波に雪蜂須賀桜植ゑられず
湿りゐて重たき阿波の初雪よ
淡雪の薄化粧せし眉山かな
即吟の句会のありし宵戎
不夜城となりし昔の戎市
雪洞を連ねし昔戎市
寒卵プリンのやうな白身かな
凍てし夜は目高の鉢を家に入れ
名刀展見て来きし街の冴返る
千年の古刀の光り沍返る
吉野川河口一キロ海苔の篊
一筋の航路を残し海苔の篊
川幅をくまなく満たし海苔の篊
震災の熊本よりの猿廻し
猿廻し見て震災の募金もし
いとけなき子猿が主役猿廻し
首傾ぐ仕草に拍手猿廻し
玉乗もビッグジャンプも猿廻し
猿廻しべそをかくのも芸のうち
悴める身に熱かりし草津の湯
悴める五体を出湯にゆったりと
悴みし五体の出湯に解け行く
寒灯の点かぬ空き家の増えし谷戸
寒灯に山の暮らしをあれこれと
寒灯の星のやうなる祖谷に入る
はるかなる寒灯目指し野の道を