朝の間に初霜消えてゐる畑
初霜を払ひ車に乗り込みぬ
初霜に晴天しかと確信し
川一つ渡れば時雨をらざりし
眉山見ゆあたりばかりの片時雨
傘を差すほどのことなき時雨かな
時雨来るかも傘持って行かれしと
朝の日を浴びて初霜よく光る
行く蟻の影はっきりと初霜に
初霜を踏みて野良へと急ぐ人
冬紅葉となりやうやく色づきぬ
空港のロビー早々聖樹立つ
吹き抜けのロビー高々聖樹立つ
おむすびのやうなお山も粧ほひて
落ちしもの一つもなくて木守柿
駅毎に残る柿ある高徳線
風痛みせずに凛々しき冬薔薇
冬帽を忘れ園出し人は誰
薔薇園に忘れられゐし冬帽子
園ぬくし冬帽忘れしは誰ぞ
園ぬくし冬帽忘れゐし人も
黒鯛の跳ねるお城の菊花宴
石垣と松の緑と菊花展
年寄りは無料お城の菊花展
冬霧の島の灯りの頼りなく
猪の泳ぎ渡りてくる島と
猪の瀬戸の島々渡るてふ
島つなぐ径に潮満ち鴨渡る
鴨渡るエンジェルロード潮満ちて
見るうちに潮満ち鴨の渡りゆく
紅葉散る中を我らのバスは行く
霧晴れて洗はれしごと冬紅葉
渓谷に綾なす錦寒霞渓
山頂駅下りたるそこに笹子鳴く
大綿の一つの消えてそれっきり
渓谷を埋め尽くしたる冬紅葉
赤と黄の緑綾なす冬紅葉
赤と黄を極める緑冬紅葉
絶壁の谷を埋めて冬紅葉
断崖の谷底までも冬紅葉
パノラマの野山の錦果てしなく
ゴンドラの下界紅葉の大斜面
紅葉また紅葉の山を下りて来し
曲がる度上がる歓声冬紅葉
鈴生りのオリーブの実の地まで垂れ
完熟のオリーブの実の艶々と
オリーブの実のこんなにも落ちし朝
オリーブの落果つぶせばクリームに
オリーブの落果つぶして手に頬に
諸味蔵出でれば冬日の暖かく
小春日の諸味の桶の黴の香よ
小春日の醤油の町の香りかな
クレムリン武器庫の秘宝冬帽子
ロシアかな宝物館に冬帽子
秘宝とはこの黒貂の冬帽子
武器よりも高価秘宝の冬帽子
武器庫なる宝物館の冬帽子
黒貂の毛並秘宝の冬帽子
黒貂のこの冬帽のこの毛並
秘宝てふこの冬帽のこの毛並
モスクワの秘宝黒貂冬帽子
二毛作なき世の冬田冷え冷えと
こふのとり歩く冬田のひろびろと
毎年よ冬田ばかりの増えて行く
塩水にさっと湯通し柿吊るす
ひたすらに刃先を見つめ柿をむく
吊るし柿風が仕上げてくれし艶
二人ならできる干柿づくりかな
柿をむくときは無口となる二人
鴨の群れ遠目に鳰の家族かな
小さくとも反動つけて鳰潜る
鳰潜るどこに浮かぶか気にかかる
鴨の間にひょっこり鳰の浮かび出て
太陽光パネルの光りフレームも
フレームの中は野菜の工場か
フレームに穴あけ温度調節す
冬霞抜け来し船に乗ると云ふ
冬霞抜け来し船の大きかり
冬霞む中へ中へと船走る
冬霞む島の灯りのほの暗く
冬霞して穏やかな瀬戸の海
冬霞み何も見えない瀬戸の海
冬霞鬼ゐしてふはこの辺り
冬霞む海来し島は大夕焼
冬霞消え山頂に引き返す
若者はベスト私はちゃんちゃんこ
来客のなき日は今日もちゃんちゃんこ
ダウンなる羽毛の入りしちゃんちゃんこ
外つ国のお遍路さんもちゃんちゃんこ
ちゃんちゃんこなどと言ひつつちゃんちゃんこ
煙突掃除する人形の煤払ふ
エアコンの煤払ふプロ手際よく
煤払せねばせねばと年暮れて
数へ日を黄花亜麻咲く滝茶屋に
冬枯れの庭に愛しき黄花亜麻
こんなにも赤い眉山の冬景色
椰子高く聳え眉山は冬紅葉
冬晴れに聳える椰子の緑かな
クリスマス飾るホテルの客となる
クリスマス飾りホテルの階毎に
痛さうな棘の後に残る柚子
貰ひ来し柚子を搾りて一日過ぐ
昨夜柚子を搾りたる香の残る朝
皮と種袋に詰めて柚子風呂に
此れやこの阿波産柚子にある気品
パリへ行く阿波産柚子となりにけり
武蔵野へ新蕎麦食べに来られよと
新蕎麦を食べに今年も深大寺
即位礼正殿の儀や秋の虹
いきなりの香り一気に木犀は
植木屋の早やも来てをり松手入
天辺に始まる松の手入かな
植木屋は小柄で身軽松手入
地下足袋で梯子すいすい松手入
一本に一日がかり松手入
健康になりたる樹体松手入
松手入終り青空近づきぬ
龍馬てふ菊のわづかに身を反らし
育て来し自慢持ち寄り菊花展
市長けふ決まる市役所菊花展
笑み浮かべ菊人形の一休さん
一休に参ったと殿菊人形
蕾あり満開のあり菊花展
菊衣まぶしき鶴の恩返し
雪景色背に美しき菊衣
駅前に句会場にも菊人形
平穏に暮らす幸せ菊花展
仰ぎ見る菊人形のかぐや姫
我独りゐて菊の香を存分に
お目当ての漬物も買ひ菊花展
助もして丈揃へあり菊花展
同様に咲かすは難し菊花展
懸崖の菊は静かに咲くを待ち
一斉に咲くを待ちをり菊の花
重ね来し歴史の重み菊人形
琉球の至宝首里城焼失す
首里城の火事夜空を朱に染めて
首里城の火事北風にあおられて
焼失の首里城復元誓う知事
焼失の復元知事にできるかな
城壁で消防車両近づけず
首里城の火災各地で募金箱
首里城の火事世界から惜しむ声
復元に三十年一夜にて灰に
復元のなりし翌日の焼失と
展示せし全ての遺産焼失と
冬めける暇もあらず寒に入る
月細く山の端にあり冬めける
朝起きてみれば一夜に冬めける
冬めける大気底まで澄み渡り
一羽づつ鳴門の海を鷹渡る
大空に道ある如く鷹渡る
羽ばたくといふこともなく鷹渡る
三つ巴より始まりし鷹柱
青空に蓑虫一つぶら下がり
青空に小さき桜の帰り花
さながらに紫蘭畳となりし坂
日の差せば茎まで光り藤袴
ひょろひょろとか細き茎や藤袴
秋天を一直線に飛機の行く
天高し国際線か光る飛機
視野覆ひ尽し一樹の金鈴子
一樹にて参道覆ふ金鈴子
金鈴子際立ててゐる空の青
外食にしましょ勤労感謝の日
家族皆朝寝勤労感謝の日
今日もある句会勤労感謝の日
南国の阿波に真っ赤な冬紅葉
黄葉より冬紅葉好し徳島は
名刹の茶室への道冬紅葉
冬紅葉残る緑に映ゆる赤
立冬の琵琶の音色の凛として
令和なる初冬の琵琶凛として
新蕎麦は深大寺へと今年また
深大寺門前に来て新蕎麦を
門前の蕎麦の老舗の菊の花
江戸の世に創業なりし新蕎麦と
無患子の大樹青々深大寺
葉と葉との間に無患子顔を出し
虚子詠みし枯野の句碑に花芒
芒植ゑ虚子の枯野の句の句碑に
虚子しのぶ小春日和の深大寺
小春日の東京の街見下ろして
後光差すやうに冬日の雲間より
天空のビルに冬日の暖かく
眼の下の渋谷の街に差す冬日
正倉院展へ樫の実踏みもして
冬空を二時間待ちて見る展示
正倉院の世界へ木の実踏み
秋の日を正倉院展見て過ごす
正倉院展出れば秋の日暮れてをり
正倉院の琵琶見し小春の日
蜂須賀の家祖眠る山猪の跡
墓碑銘は小六正勝小鳥来る
師の句碑の辺り寒禽鳴くばかり
山頂は猪の荒らせし跡ばかり
師の句碑へ家祖の墓へと小鳥来る
猪吹きし跡のユンボで掘ったごと
石蕗の花明かりを行けば巨草句碑
笹子とはかくも小さくスマートな
飛び立てる時の笹子の大きかり
十二月前に電飾点灯す
冬の夜の花火の音のよく響く
草刈られそそり立ちゐる曼珠沙華
道の辺に石掻き分けて曼珠沙華
ひょろひょろと四五本ありし曼珠沙華
読経の鈴澄む秋の遍路かな
秋の日に色美しき道をしへ
小さくともこの色確か藤袴
山寺はあそこにここに曼珠沙華
赤蜻蛉来て鬼やんま来る小流れに
吾亦紅山ほど咲けど寂しかり
吾亦紅ばかりといふは哀れなる
犇めきて咲けど寂しき吾亦紅
吾亦紅見上げ榛名の山仰ぐ
山ほどの吾亦紅活け山の宿
生花の中の桔梗の凛として
よく見れば黄色なれども曼珠沙華
咲き続くハイビスカスに朝の露
秋の日のハイビスカスの花の色
桃咲く藁家出でて幾年夢道の忌
一つづつ齢重ね合ひ夢道の忌
健やかなお顔の揃ひ夢道の忌
お月見をして来し月のリスボンに
爽やかな風来る高架鉄道に
古都の川染めゆく秋の夕焼かな
月の夜のポルトの街の明るさよ
ワイナリー巡ればそぞろ寒くなる
澄む水にワイン運びし舟浮かぶ
焼栗の香に誘はるる屋台かな
水青く秋空青き古都なりし
古都の空キャンパスにして鰯雲
丸焼きの鰯旨かり鰯雲
爽やかな青いタイルの駅なりし
秋の旅タイルの描く歴史も見
大学の街は白亜や秋高し
金平糖生まれし街に秋惜しむ
伝統のダンスも見たる秋の旅
秋空に子らの歓声届きさう
菊植ゑて日本に姉妹都市ありと
レイリアに古城ありけり秋高し
娘に母と名乗れぬ辛さ身にぞ入む
身に入みる話に国境なかりしと
ジャカランタ帰り咲きをり遠目にも
刑務所に帰り咲きゐるジャカランタ
リスボンは坂多き街秋深し
坂上がり秋の風吹く高台へ
モラエスの旧居も訪ね秋深し
モラエスの旧居に冬日暖かく
招かるる大使公邸秋麗
圧巻は大西洋の黒鮪
リスボンの空の青さよ鰯雲
秋の日に赤い煉瓦の美しく
行く秋や観光客の絶え間なく
教会のばったの像に冬日濃し
霧晴れてここは地の果てロカ岬
ユーラシア大陸果てて冬の波
航海王子エンリケの像秋高し
秋晴や大航海の勇者像
街灯の暗きリスボン冬近し
夜の更けてコートの客の多くなる
飛行機の窓ヒマラヤの雪も見て
ヒマラヤの氷河も飛行機の窓に
二十五種の野菊や牧野植物園
虚子歩しし小諸の径の野菊かな
あれもこれも一絡げして野菊てふ
野菊摘み花束にしてくれし子よ
踏まれしか節くれ曲がり咲く野菊
百一歳野菊の如く嫋やかに
野菊にもそれぞれ名前あるものを
長浜を舟で巡れば葦の花
蘆原でなく葭原と云ふさうな
時代劇映画のロケ地蘆の花
滔々と四国三郎蘆の花
見え隠れして来る遍路蘆の花
肉を食ぶことも私の冬用意
床暖房試してみるも冬用意
鮎落ちて仕舞ひたるかと川巡る
竿出さず鮎の川去る釣師かな
秋風の四国三郎渡り来る
法師蝉鳴きぬ学校始まるぞ
城址はや昼の虫鳴くたたづまひ
蝉の穴ばかり残りてゐる城址
秋風の中洲の砂の白さかな
青竹を根ごと流せし秋出水
橋脚に根ごとの竹や秋出水
晴天の二百十日でありにけり
ミストある野外劇場蜻蛉も来
馬追の陣取ってゐる御宝前
裏山もつくつくぼふしばかりなる
雲高き空よ九月の青空よ
九月かな展覧会を梯子して
異国船阿波へ来してふ鰯雲
噴水の上がり園内鎮もれる
噴水の穂先に高し鱗雲
秋潮の鳴門の渦の青さかな
小鳴門の渡船揺さ振る秋の潮
音立てて秋潮流れ落つ鳴門
瀬戸内に藍色の帯秋の潮
立札は小学校の藷畑
市庁舎の屋上子らの藷畑
藷を掘るこの子の顔も泥まみれ
おねばなる間引菜漬は阿波の味
つまみ食ひ旨かりしごと間引菜も
間引菜のための手作り菜園と
間引せぬものなき間引菜の畑
捨てをきし金魚の水の澄んでをり
神田にたまりし水の澄みし宮
掘割の水澄み鯉の髭動く
野に火矢の刺さりし如く曼珠沙華
赤壁の火矢のやうなる曼珠沙華
天皇もこの曼珠沙華見に来しと
群れ咲きて娑婆即浄土曼珠沙華
穴まどひせずにこの穴入られよ
穴まどひゐしてふあたり抜き足で
穴多き宮の石垣穴まどひ
虫聞きて停電の夜を過ごせしと
聞かせたし停電の夜の虫の音と
停電の夜の虫の音を聞かれしと
停電の夜の七曜を虫の音と
虫すだく停電の夜は一入に
九月来て咲き始めたる百日紅
百日紅ようやく咲きし我が狭庭
名月の照らす鳴門の海静か
正面に芒と団子月を待つ
お下がりの月見団子の柔らかく
上り初めたる名月の大きさよ
金色に海峡初めて上る月
金色の鳴門海峡今日の月
山峡にさ緑まぶし竹の春
街中に秋の風吹く大伽藍
大伽藍巡ればそよと風は秋
新涼の日本最古の寺静か
秋空を仰ぎ五重塔仰ぐ
虫すだくアベノハルカス屋上に
屋上に庭園のあり虫すだく
屋上の庭に紫式部かな
十六夜の今宵上方舞の宴
山村流宗家の舞や月の宴
月を観て翁の月の句碑を見る
一隅に小さき句碑あり虫すだく
寺巡り腰を下ろせば風は秋
石庭の砂真白なり赤蜻蛉
ちちろ鳴く表御殿の庭園に
藩祖像前に銀杏散らばれる
銀杏を拾ひゆかれと火ばさみも
台風の来さうな空に郁子垂るる
郁子の実を一つ見つけば十四五も
先付に無花果天といふ鮨屋
万国旗なき順延の運動会
運動会一番人気阿波踊
阿波なれや運動会も阿波踊
梅雨明けの空青々と清々し
青空を待ちかねしごと蝉時雨
蝉時雨とはこんなにもけたたまし
朝よりの大音響や蝉時雨
玄関の松を揺るがせ鳴ける蝉
薔薇の根を切るはこれなる空蝉か
玄関の松に空蝉しがみつき
帰省子の庭で採れたと酢橘持ち
旨さうな土用の丑の日の鰻
焼きたての土用の丑の日の鰻
旨さうな散らし丑の日の鰻
蛇ゐしといふあたりまでこはごはと
噴水の上がりはじめの涼しさよ
蚊遣火の香の四阿に残りをり
蝉時雨止みせせらぎの園となる
蝉までも鳴くを止めゐる酷暑かな
青空に陣取り合ひて雲の峰
雲の上の雲光りをり雲の峰
先端は今生れしごと雲の峰
雷に泣く子逃げる子戸惑ふ子
雷鳴に青空消えてしまひけり
平凡に生きる幸せ冷奴
半丁で二人の暮らし冷奴
家毎に芙蓉の咲ける里に住む
玉葱の小屋は空っぽ青田風
一番のAは冷房よく効いて
夏の旅帽子もシャツの靴も白
豊葦原瑞穂の国へ稲の花
丹念にまぶしたるごと稲の花
稲の花咲ける美田の続く国
一粒におしべめしべや稲の花
帰省子の先づ一番に墓参へと
父母のこと知らぬ孫らも墓洗ふ
鎌倉の路地に朝顔さかりかな
虚子立子実朝政子へと墓参
夕顔に入日まぶしくありにけり
夕顔の地味でありたる気品かな
夕顔の花は落暉の後も咲き
夕顔や揃ひて元気孫八人
踊り果て静かなる街盆の月
父母も弟も逝き盆の月
嵐来る前の静けさ盆の月
太陽に勢増す赤百日紅
青空に際立つ赤や百日紅
灼熱の街に色あり百日紅
ピアノあるホテルのロビー胡蝶蘭
片蔭に楽器の街のモニュメント
地下街に噴水のある涼しさよ
駅頭に木槿高々花つけて
入る西日待ちて始まるフェスティバル
夏の夜の夢のやうなるフェスティバル
台風が来る前の日の空の青
テントより野外のライブ楽しまん
野良に出ることが楽しみ大根蒔く
職退きて早十五年大根蒔く
産直の市に出すとて大根蒔く
金時の砂地の畑に大根蒔く
辣韭の畑の隣に大根蒔く
法師蝉そんなに急ぎ鳴かずとも
午後からはつくつくぼふしばかり鳴く
吾子の手の小さき花束赤のまま
藍畑の畔埋め尽くし赤のまま
国境は野の中にあり赤のまま
中世の城の庭にも赤のまま
たっぷりの大豆が自慢新豆腐
ほのかなる大豆の香り新豆腐
絹ごしも木綿も旨し新豆腐
暴風雨去りて揚羽の我が庭に
夏雲を脇に秋雲広がれる
白鷺は暑くないのか日を真面
人間は木蔭に鷺は炎天に
生まれ出し穴のまはりに死せる蝉
木の蔭に寄り添ふごとく死せる蝉
落蝉のも一度幹を上らんと
暴風雨去りたる空に郁子垂るる
蔓伝ひ見れば郁子の実五つ六つ
城址はやつくつくぼふしばかり鳴く
法師蝉ばかりとなりて聞こえ来る
城山の北は搦手つくつくし
琉球は午睡の時刻花梯梧
海紅豆阿波は南国城址にも
のうぜんの昨日も今日も花盛り
のうぜんの下向きに咲く花の色
夏物に八割引の赤い札
夏物を八割引と愛想よく
鮎を釣る釣るといふより引っ掛ける
崖の上に立ちて五体を秋風に
幾度も眺めて帰る鮎の川
尻振っていよよ熊蝉らしく鳴く
後退りしつつも蝉の鳴き続け
一匹で大樹揺るがす蝉の声
みはるかすほどなる中洲豊の秋
名前なき異人の墓に秋の風
露の世の韓のをみなの墓小さき
葉柳の雨情の歌碑を覆ふほど
百選の水の公園濃紫陽花
百選の水を韋駄天水馬
百選の清水乗っ取り水馬
名水を我が物顔に水馬
水弾き水を蹴飛ばし水馬
藻の花のさ揺るる流れありにけり
清水来るゆらりゆらゆら青みどろ
待ちかねし梅雨に早苗の生き生きと
入梅の日に生まれたる目高の子
子蛙となり入梅の日を迎ふ
梅雨に入り令和初なる台風も
台風も連れて徳島梅雨に入る
史上初六月末の梅雨入りぞ
青空となれどねっとり梅雨の風
七曜の傘のマークに埋まる梅雨
リスボンの生家眼裏モラエス忌
坂の上の生家も訪ねモラエス忌
孤愁なるファドの余韻よモラエス忌
ファド聴けば募る孤愁よモラエス忌
七輪で鰯焼きたしモラエス忌
鰯焼く香の残る路地モラエス忌
赤ワイン羊羹如何モラエス忌
リスボンへ今年も行かんモラエス忌
七夕の笹に満艦飾の夢
子らの夢七夕の笹撓らせて
黒潮の島の渡船場浜万年青
浜木綿の花咲く島の小学校
会釈する互ひに日傘傾けて
雨傘の日傘となりぬ旅の空
先導のガイド日傘を高々と
門前に待ち構へをり道をしへ
振り返りまた振り返り道をしへ
道をしへぷいと道逸れそれっきり
先とがる白靴履きてどこへ行こ
ローマへの煉瓦の道を白靴で
真白なるクルーズ船に白靴で
白靴を履けば心の引き締まる
日盛の真白きシャツのまぶしさよ
日盛は午睡しましょよここは那覇
日盛に塩舐め塩を作りしと
刻止まりをりし蓮田や日の盛り
国宝の城の茶店の心太
三千院茶屋に床几や心太
一本の箸に掬ひて心太
涼しき灯点る貴船の川床に
黄昏の早き鞍馬の灯の涼し
祖谷も奥早々点る灯の涼し
おふくろよおやじよと呼ぶ帰省子よ
愛知より自家製酢橘持ち来し子
愛知より自家製酢橘持ち帰省
愛知より庭で採れたと酢橘来る
酢橘来る庭で採れたと愛知より
帰省子で我が家現在十六人
来て嬉し去にてほっとす帰省の子
雨を呼ぶアガパンサスの花の色
梅雨晴れてアガパンサスの花青く
街頭に始まってゐる阿波踊
待ちきれぬ踊る阿呆に見る阿呆
保険料のみNPОの船遊
土砂降りに遊船出してくれる人
雨傘を差せどびしょ濡れ船遊
びしょ濡れの遊船皆の見てをりぬ
川変り雨風荒ぶ船遊
土砂降りの止めば御仕舞船遊
船遊終り太陽顔を出す
土砂降りの止み鴨の子の出で来たる
御仕舞になりて雨止む船遊
仙人掌の一日限りの花の艶
仙人掌の予兆もなしに咲きし花
捨て置きし仙人掌に花美しく
純白の一日限りの沙羅の花
落花して咲きゐしを知る沙羅の花
葉に隠れ白つつましき沙羅の花
落ちてなほ白のまばゆき沙羅の花
庭の百合咲いて伊島へ百合を見に
伊島へと渡る日に鳴く雨蛙
百合の香の沖ゆく船に届きしと
船にまで伊島の百合の香の来しと
笹百合の白とピンクの並び咲き
日向なる伊島笹百合丈低し
絶海の孤島の百合の可憐さよ
崖に咲く笹百合の香の降りてくる
百合咲いて狭庭にはかに華やぎぬ
十薬の犇めく庭に百合の花
露霧の彼方に富士の浮かぶ海
鍛錬の御苑の馬車に風涼し
いよいよに艶やかなりし汗の馬
雨模様なる日生き生き菖蒲園
九分咲いて盛りなりけり花菖蒲
巡り来てやはり紫花菖蒲
濃き淡き紫並ぶ菖蒲園
傾ぐもの一つとてなき菖蒲園
揺るるもの一つとてなき菖蒲園
清らかな水や御苑の菖蒲園
御苑かな塵一つなき菖蒲園
九分咲きも二分咲きも好し花菖蒲
その中に際立てる白花菖蒲
色競ひいずれも清楚花菖蒲
清楚なる色や御苑の花菖蒲
外つ国の人と御苑の菖蒲園
外つ国の言葉飛び交ふ菖蒲園
御苑より涼しき風に送られて
国会の庭に涼風吹き抜けて
琉球のパイナップルの大きさよ
琉球の太陽の香のパインかな
一斗缶で送りくれたる海雲かな
琉球の海雲どうぞと一斗缶で
蟻上る鼠返しも何のその
高床式倉庫の下の涼しさよ
泰山木仕舞の花の大きかり
匂ひ来て仰げばそこに栗の花
古代米植ゑありし田の菖蒲田に
ほととぎす鳴かぬ鳴かぬと待てば鳴く
阿波ここに始まる史跡ほととぎす
立葵阿波の史跡の里に咲く
天辺へ天辺へ花立葵
雨来さうななる日の色よ濃紫陽花
一隅にありても主役濃紫陽花
郭公の阿波の史跡の森に鳴く
閑古鳥鳴ける里山人気なく
郭公よ時鳥よと聞き惚れて
母の日の半分父の日の売場
父の日の買ひたきもののなき売場
父の日の特設売場客一人
水換へし目高の鉢に花藻かな
ででむしの干乾びてゐる梅雨旱
菖蒲田の乾き切ったる梅雨旱
父の日の看板小さき花屋かな
かんかん帽かぶり私も笠智衆
梅雨入りのまだなる阿波に梅雨嵐
土砂降りの昼暗き街梅雨嵐
梅雨嵐来て梅雨入りはまだの阿波
鷺巣立つ仰け反り仰ぐ高木に
高き巣に鷺の子のゐて羽ばたける
名刹の参道青葉さざめける
万緑を一門二門三門と
ほととぎすけふ誕生日なる君に
五月晴観音様もお健やか
白鷺も青鷺も来て巣立つ寺
早も実をつけて真っ赤な花石榴
木豇豆の重たげに垂る梅雨の寺
北欧の明るき夏至の夜の祭
北欧は御伽の国か夏至祭
夏至祭のファイアストーム眼裏に
母と編むクロス売る娘の夏至祭
下闇の果てに秀頼自刃の地
木下闇抜け出て仰ぐ天守閣
木下闇とはひんやりと風の来る
空梅雨のスプリンクラー休みなし
師の句碑の見えざるほどの茂りかな
ふっくらと茂り眉山はけふも雨
ふっくらと茂り眉山は雨模様
原生林茂る城山徳島市
ホルトの樹茂る城山徳島市
灯を消して網戸の夜風存分に
部屋中を網戸に障子開け放ち
風のよく通る二階の網戸かな
お隣のカレーの匂ふ網戸の夜
網戸より朝の空気を腹一杯
水馬の脚よ表面張力よ
水馬水面韋駄天走りして
水馬水面凹ませ浮かびをり
読み切れぬ泰山木の花の数
高々と泰山木の花遥か
清水湧くところ見えねど流れ見え
涸れないで暮潮の句碑の草清水
真白とは気高き色よ薔薇の花
校門に白い薔薇咲く我が母校
関口と名付けし薔薇の咲く母校
牡丹の残花に残るの昨夜の雨
平成の御世を見届け牡丹散る
咲き続く矢来の中の牡丹かな
地の牡丹散り鉢植の咲き続く
牡丹散りあやめの色の際立ちぬ
あやめ咲く寺となりゐし牡丹寺
遍路来る苗代寒に身をすくめ
退位の日いつものやうに遍路来る
平成を草餅売りで通せしと
牡丹散り果て平成の世の終る
庫裏裏へ小手鞠の花咲ける道
木戸口を入れば小手鞠咲き満ちて
張る水に影を映してあやめ咲く
水田の畔に群れ咲くあやめかな
ゆったりと舟ゆったりと糸柳
両岸に川端柳続く町
雨上がり躑躅の色の際立ちぬ
貫禄の大球形の躑躅かな
中庭に小手鞠の咲く茶房かな
黒塀に小手鞠の白極まりぬ
海鼠壁並ぶ川端青柳
風止めど揺れの止まらぬ柳かな
大渦に行きつ戻りつ観潮船
春潮を蹴立て観潮船の行く
観潮の船のデッキに人あふれ
渦潮に流されもして観潮船
大渦の際の際まで観潮船
遠州の新茶早々届く朝
五十五年前なる上司より新茶
石松の遠州森の新茶とか
遠州の遠き日偲び新茶汲む
送り下されし新茶のこの甘さ
新茶汲む一滴たりとこぼさずに
茄子苗や茄子に無駄花なしと聞く
茄子苗を植ゑし遠き日暑かった
薔薇園のどっと寄せ来る香りかな
雨模様なる日の薔薇の瑞々し
赤が好き白はなほ好き薔薇の花
小振りなる薔薇は犇めくやうに咲き
大振りの薔薇は視線を集め咲く
可憐なる薔薇にも棘はありにけり
赤という色の多彩さ薔薇の花
黄色とは際立てる色薔薇の花
香の強き薔薇の周りに人の垣
薔薇園にバラ科の花の浜茄子も
花も葉も光り泰山木茂る
仰ぎ読む泰山木の花の数
読み切れぬ泰山木の花の数
江戸城の跡に泰山木の花
散り散りの泰山木の落花かな
雨上がり泰山木の花匂ふ
授粉して袋掛けして疲れ果て
袋掛待つ梨畑のひろびろと
犇めける白に始まる七変化
紫陽花の葉蔭に隠れ蝸牛
鶯に囃されるかに河鹿鳴く
河鹿鳴き止みて瀬音の高まりぬ
鶯の鳴き止むを待ち河鹿鳴く
河鹿鳴く正体見たり石の上に
朝乃山の如き勢ひ今年竹
群れ咲きて赤美しき蛇苺
ルビー玉撒きたるやうに蛇苺
いきなりの平幕優勝今年竹
子燕や巣より落ちゐし餌の蜻蛉
竹林に一番高き今年竹
パンジーの坂を登ればホテルかな
手入よきパンジーの色生き生きと
日の陰りても美しきシクラメン
深紅とは落ち着きし色シクラメン
展示会開催中と雛飾る
阿波おどり会館ロビーにも雛
泣きさうなお顔の雛も飾られて
プリムラと呼ばずに桜草と呼ぶ
桜草引き立ててゐる葉の緑
寄せられし三万体の雛飾る
雛の顔一つに一つ思い出が
一世紀前の古雛にある風雅
昭和初期なるは良き世と雛の顔
泣きそうなお顔の雛は熊手持ち
仕丁なる雛にお一人泣き上戸
戻り来て古巣リフォームする燕
燕の巣ばかり賑やかなる町に
燕の巣続く駅前アーケード
軒下の古巣の横に燕の巣
手の届きさうな軒にも燕の巣
店頭のテントの軒も燕の巣
列成して燕の巣ある道の駅
空家の増え燕の巣増えし里
燕の巣ばかり混み合ふアーケード
斜交ひに鋭く切りてする挿木
挿木して指折り数へ待つ根付き
日本一しだれ桜を咲かさんと
咲き満てるしだれ桜の艶やかさ
鶯もしだれ桜も飽きるほど
葉の出でて咲き初むしだれ桜かな
遅咲きのしだれ桜のピンク濃き
お花見の世間話の途切れなく
桜見て山の出湯に入りもして
桜咲く道来て桜咲く宿へ
万葉の桜の歌のこれっきり
春闌けて万葉の世の桜かな
平成の御代の最後の花見かな
遅れ来て歩きて登る花の山
急かされてゐるが如くに桜散る
鶯は背より燕は目の前を
仰向けに寝て春風の中にゐる
仏の座花壇一面埋め尽くし
花冷えに丸太の椅子の温かく
歩きゐてこそ文字摺に出合へたる
文字摺りの花にほのかな青さかな
戦争のなき世永遠にと桜見る
投票を終えて花見の輪の中に
桜散る校門くぐり投票へ
蒲公英と桜が色を競ひ合ふ
犇めきて咲きてゐてこそ芝桜
春の来て色美しき公園に
桜散る園に文字摺群れ咲きて
効能を書きある甘茶くだされし
洋花と和花取り混ぜ花御堂
ホワイトライオンなる水仙も花御堂
花御堂花材十五種書き連ね
糖尿によいと甘茶をいただきし
花御堂庭の椿も添へられて
花御堂甘茶仏には大御殿
花御堂仰げば香り降りてくる
青空へ桜吹雪の吸ひ込まれ
はるかにも残雪の富士くっきりと
真白なる富士の残雪輝きて
六百年しだれ咲き継ぐ大桜
貫禄の秩父のしだれ桜かな
晴男自負の総理と桜見る
晴天となりお花見の盛り上がる
観桜会終り始まるお花見も
チューリップ群れて咲き満つ園広し
原色といふ美しき色チューリップ
真白とは際立てる色チューリップ
庭園の果ての果てまでチューリップ
花屑の流るる岸辺チューリップ
咲き満てるこの迫力はチューリップ
チューリップ園誰も彼もがカメラ持ち
木の茂る丘を敷き詰めチューリップ
川面にも色を映してチューリップ
ムスカリと色競ふごとチューリップ
手入よき筍山に案内され
急斜面多き筍山登る
筍の山竹の葉のよく滑る
筍のあそこにここに頭出し
筍の断崖にまで頭出し
筍を掘る足元に筍が
筍の根元掘り出し鍬を打つ
一鍬ですくと筍掘り出され
とれとれの筍に蟻早も来て
筍の麻の袋に押し込まれ
とれとれの筍焼けば甘かりし
筍のバーベキューもし鶯も
お土産の筍糠も添へられて
声のして浦島草を見つけしと
腰蓑のやうな浦島草の葉よ
あっち向きこっち向く花浦島草
長過ぎる浦島草の釣糸ぞ
そこらぢゅう浦島草の花の森
可憐なる花よ地獄の釜の蓋
目高なら釣れさう浦島草の糸
葉を傘のやうに浦島草の花
ちょこちょこと頬白白をちらつかせ
鶯を飽きるほど聞く躑躅山
舌落ちし雪洞並ぶ躑躅山
潮引けば繋がる小島磯遊
磯遊して里人と迎へられ
春灯の道後をそぞろ歩きけり
春灯の道後はことに華やぎて
千年の大楠に添ふ藪椿
仰ぎ見る椿の花の高さかな
長塀の旧家の庭のヒヤシンス
小さくともはや小花つけヒヤシンス
三代の大中小の雛飾る
雛人形三万体の来し方を
御殿雛飾りし昭和遠くなる
麗らかや写楽の墓は阿波へ向き
阿波へ向く写楽の墓に初桜
蜂須賀桜写楽の墓に咲き初めし
ホワイトデーへもバレンタインのチョコ並べ
スプリングセールカラフルビューティフル
花冷の風連れ鼠木戸くぐる
花を見て芝翫の宗五郎も見て
啓蟄や旅行案内どっと来る
啓蟄や地球の外へ出てみたし
啓蟄を逃さぬ鷺のぎょろ目かな
ふっくらと膨らむ眉山笑ふかに
鍬振るふ人ふところに山笑ふ
はりつけにあらず穏やかなる寝釈迦
遊行なされし寝釈迦大きな御足
涅槃絵の獅子象猫も鳥も泣き
涅槃会の寝釈迦安らかなるお顔
千年の樟の大樹の新芽かな
芽吹くとは一山の木々悉く
芽吹く音聞こえて来さう朝の森
お彼岸にゴッホの墓に参りし日
子規の母言ふごと伊予は彼岸寒
伊予にあり阿波にもありし彼岸寒
鴨帰る帰れぬ鴨かよく太り
大川の鴨真っ先に帰りたる
旋回の次第に高く帰る鳥
大陣を張りゐし鴨の先づ帰る
外つ国の酢漿草咲ける春の庭
酢漿草の春の光に輝ける
苗代は作らず苗を買ふと言ふ
片仮名の苗札ばかり薔薇の花
薔薇園の苗札どれも写真付け
花付けし木には苗札付けずとも
春泥で遊ぶ子泥が大好きと
春泥を付けずに帰る日のなき子
春泥を水で落として洗濯す
蜂須賀の世より伝はる桜咲く
咲き満ちて蜂須賀桜紅殊に
一本の桜に人の押し寄せて
和装して武家屋敷へとお花見に
青空にピンクまぶしき初桜
菜の花の庭に大きな桜咲く
桜見て日本舞踊もお抹茶も
俯きて咲ける蜂須賀桜かな
花の紅幹黒ければいよいよに
焼夷弾落ちし跡にも桜散る
花吹雪武家の屋敷の茶席まで
上品なピンク蜂須賀桜らし
雨の日の蜂須賀桜真っ赤なる
雨の日は蜂須賀桜垂れ咲く
雨降ればいよいよ赤き紅桜
蜂須賀桜咲けば市長も知事も来て
川縁に桜並木の美しく
花冷えに熱き善哉ありがたく
青空に白木蓮のくっきりと
天へ向く白木蓮の一斉に
葉桜も赤き蜂須賀桜かな
みそさざい来てひよめじろ来る桜
ベトナムの子も大好きとこの桜
植樹せし桜がこんなトンネルを
連勝の横綱植ゑしこの桜
横綱の白鵬植ゑし桜咲く
城址へと蜂須賀桜並び咲く
葉も花も赤き蜂須賀桜かな
遠くから見ても確かにパンジーと
日当たりてさらにパンジーらしくなる
まばゆかり雨後の日差の金盞花
菜の花の畑の中に幼稚園
三番叟で始まる宴春の昼
式三番より春昼の宴となる
徳島で大使と宴春の昼
春昼の宴大使をお迎へし
お彼岸の道後をみなの春祭
湯の町のをみなばかりの春祭
芽柳や道後湯の町人力車
芽柳の広場に足湯ある道後
春祭をみなの太鼓小気味好く
踊り子の列長々と春の宵
宿浴衣踊浴衣について行く
春宵の路地練り歩く芸者衆
道後温泉本館指呼に燕の巣
桜咲く高速道のオアシスに
菜の花の土手来て桜咲く丘に
鶯を背にし桜を前にして
ふんはりと浮かぶ白雲春の空
しだれ咲く桜のこんなにも赤き
日の差して桜の色の引き締まる
地に垂れてなほもしだるる桜かな
風の出てしだれ桜の踊り出す
桜見てをれば頬白二羽も来て
頬白の白の際立つ桜かな
頬白の枝ちょこちょことせはしなく
青空を見上げ桜の赤仰ぎ
バーゲンの赤札ずらり春隣
春隣滞貨一掃できるかな
ダウン皆七割引や春隣
この店もバーゲンセール春隣
琉球のタンカン蜜柑届く朝
新聞に包み琉球より初荷
初荷とて大きなトマト鞘豆も
家籠りして仕舞ひたる寒波の日
テレビ見て過ごす一日寒波来る
マスクする湿った空気が吸ひたくて
梅咲いて寺苑明るくなりにけり
青空へ白梅の白際立ちて
梅を見て芭蕉其角の句碑も見て
ほつほつと梅咲く芭蕉句碑の上に
志士之碑に座して一服梅探る
節分の日の句座滝のやき餅屋
正面に黄花亜麻見る二月句座
黄花亜麻見上げ二月の滝仰ぐ
黄花亜麻咲き雛飾るやき餅屋
雛の間を横目に句会始まりぬ
滝茶屋の池の寒鯉よく動く
滝落つる池の寒鯉元気よく
やき餅を食べて始まる二月句座
柊に節分をふと鰯ふと
立春の日差まぶしき芭蕉句碑
春光の朽ちし其角の句碑にまで
立春大吉苗床作り始めねば
立春大吉藍蒔く準備急がねば
立春大吉朝搾りたる生原酒
針供養鯨尺ふと母をふと
端切れとて無駄にせぬ母針供養
師の句碑の二つある宮針供養
朱の鳥居高く立つ宮針供養
バレンタイン知らねどバレンタインチョコ
バレンタインチョコを自分へご褒美に
ばあちゃんとバレンタインのチョコ売場
孫からのバレンタインの白いチョコ
お遍路もチョコ持つバレンタインの日
義理チョコもなくなりバレンタインの日
チョコ並ぶバレンタインの日の句会
春寒し昨日は昨日今日は今日
最強の寒波来し報春寒し
還付なき確定申告春寒し
左から鶯鳴けば右からも
聴くうちに鶯の声本調子
鶯の破調の声の正調に
鶯の正調の声遠くまで
ガリバーのやうな足元下萌える
下萌えるとは一斉に隔てなく
坪庭の犇めき合ひて下萌える
白梅に始まる道を釈迦堂へ
奥院へ梅の参道続く寺
耳澄まし待てば初音の立て続け
奥宮の裏より初音続けざま
いきなりにホーホケキョと初音して
鶯が鳴いていますと皆を呼び
初音せるあそこあそこと木を仰ぐ
鷹の飛び鶯の鳴く寺苑かな
臘梅の盛りの花の艶やかさ
奥院に臘梅の花明かりかな
梅林を突っ切り独り遍路来る
遍路宿ありたる庭に初桜
ひろびろと犇めき満ちていぬふぐり
青空の大地にもありいぬふぐり
戦ぐにも一糸乱れずいぬふぐり
福寿草かと見る黄色クロッカス
土もたげいきなりの花クロッカス
門前に迎春花咲く野の札所
猪の糞鹿の糞踏み梅探る
猪罠の民家の隣にも置かれ
梅林の奥に竹林猪の罠
寄せ餌してありし竹林猪の罠
カルストの岩の転がる梅の里
落し角ありしこの道糞の道
お隣のこの梅林は風もなく
小鳥来るらし師の句碑に糞一つ
いぬふぐりなづなつくしと句碑囲み
ふきのたう植ゑられてをり句碑の辺に
師の句碑を囲みおのおの日向ぼこ
句碑守のやうな辛夷も芽を吹きて
冬日和の句碑を見てゐる冬日和
草青む園に馴染てをりし句碑
句碑を守り土筆を植ゑてくれし人
句碑守の春の七草植ゑもくれ
大甕に初桜活け門前に
盛り塩のされし門前初桜
旧正はいつかと暦見てをりぬ
春節の日本旅行が人気とか
大甕にどかっと活けし猫柳
大甕に一抱へもの猫柳
ぎんねずの花穂まぶしさ猫柳
猫柳ありたる岸はこの辺と
猫柳ほほける前の艶やかさ
猫柳きりりと立ちし華道展
本降りの雨となりたる雨水の日
雪国も雨てふ今日は雨水の日
俊寛と縁ある寺に聞く初音
平康頼建てしてふ寺初音して
山寺の鶯前後左右より
鶯を下の谷から聞く寺に
遠音にも鶯の声はっきりと
供華のごと朽ちたる墓に落椿
鶯のこの一声の長きこと
竹林に行けば鶯立て続け
せせらぎの奥より初音また初音
いぬふぐりキャベツ畑を埋め尽くし
千年の大楠茂り草萌ゆる
去年今年去年今年とて数へ喜寿
見ゆるもの何も変らず年変る
電子辞書新しくして年迎ふ
改元の年穏やかに明けにけり
変らねど変りて見ゆる初景色
太陽の光やさしき初景色
平成を惜しみ新年参賀へと
平成の御代の最後の年賀へと
七回も新年参賀に応へられ
老友の今年限りと云ふ賀状
大家族なりし正月母の味
手作りの料理の並ぶお正月
箱で買ふ林檎と蜜柑お正月
待ちに待ちをりし正月早や四日
子ら去にて元の二人となる四日
正月に閉店セールする店も
お歳暮の解体セールレジに列
日食に寒梅の紅蔭るかに
臘梅の臘を透かせて雨上る
咲き初めし臘梅の香のほんのりと
注連飾きりりと宮のさざれ石
初句会蜜柑と菓子を賜りて
改元の年の正月晴れ続く
一月の川一月の水の街
一月の山一月の川と海
遠き日の井戸に汲みたる寒の水
寒の水供へし母のやさしき手
寒の水沁み落ちてゆく胃の腑まで
御下がりの餅を寒九の水に浸け
動くものなき山里の初景色
音一つなき古里の初景色
坪庭に雀来てゐる初景色
門松の迎へてくれし岬の宿
初旅は淡路の宿に鳴門見る
初旅の福良の海は波もなく
初旅に鳴門観潮する人も
水仙の五百万本咲ける崖
日蔭ほど水仙の色鮮やかに
水仙を見上げ見下ろし崖登る
見下ろせば水仙崖の底にまで
水仙の崖の果てまで咲き満てる
見上ぐれば水仙の香の降りて来る
水仙の崖の果てまで咲き満てる
水仙の傾れ咲き落つ海の青
塩害に水仙疎らなる崖も
佇めば水仙の香に包まるる
闊歩する成人の式の日の着物
町中に着物成人の式のあと
成人の式へ初めて着物着て
大方は借り成人の日の着物
内股のぎこちなき成人の日よ
成人の日の着物はや着崩れて
星仰ぐかに奥祖谷の寒灯は
家中の寒灯灯し客を待つ
遠くより寒灯目指しつつ帰る
北国の里の寒灯いと赤く
群れ咲きて孤高でありし寒の薔薇
満身に創痍のありし寒の薔薇
はやばやと満開なりし白梅は
蜂須賀の松の庭園八重の梅
無患子の転がってゐる磴登る
無患子の二つ三つ四つ七つ八つ
本丸の跡へ無患子拾ひつつ
鳴らしては無患子ですと手渡しぬ
ポケットの無患子はやも粘着きて
無患子を振れば乾ける音のして
追羽根と石鹸と云ひ無患子を
無患子は後生大事に玉抱へ
本丸は何もなき原梅一輪
白梅の咲き紅梅の咲き初める
城山の原生林に枇杷の花
本丸の跡は寒禽鳴くばかり
遠き日に帰りて竜の玉探す
竜の玉探せし昭和遠くなり
竜の玉昭和いよいよ遠くなり
まさぐれば二つもありし竜の玉
寒の雨眉山城山鎮もれる
城山も濠も鎮もり寒の雨
日当たりに移せぬままに室の蘭
大きくて重さう室の胡蝶蘭
水遣りはせぬがよろしと室の蘭
室咲きの梅の大鉢土佐の宿
室咲の梅の香りの部屋中に
春近し四国三郎煌めきて
春隣遠き北方領土かな
障子越ゆ日差明るき春隣