百個剥き今年も大和柿吊す
吊し柿には大和柿一番と
不揃ひもまた好しとして柿吊す
柿干してあとは寒風待つばかり
柿を干す物干し竿の撓るほど
知らぬ間に出てをり冬の満月は
白白と冬の満月大きかり
休耕の田にコスモスのなほも咲き
コスモスの仕舞の花の美しく
柿干してそろそろ揉んで仕上げよか
日に一度揉めば干柿甘くなる
牡蠣を剥く軍手に穴あけ指出して
牡蠣剥けば殻の山なす厨房に
牡蠣蒸せば簡単に殻外れると
牡蠣蒸して一気に牡蠣を食べ尽くす
山ほどの牡蠣を家族で平らげて
濃厚な牡蠣のミルクでありにけり
取れ立てのクール便にて届く牡蠣
ちゃんちゃんこベストと言ひて着る私
寒牡丹にも小振りなるちゃんちゃんこ
波高き能登の外浦虎落笛
波音の合間に遠く虎落笛
リフォームし炬燵の部屋の無くなりし
床暖房あれど炬燵のあればとも
炬燵には蜜柑の昭和懐かしく
足元に炬燵を置きて市に立つ
ご隠居は炬燵抱えて檄飛ばす
堤防の草のロールも年用意
山ほどの年木積み上げ山の宿
干草のロール牛舎の年用意
新札を揃へ置くのも年用意
古暦ありしところに新暦
面白きことなく過ぎて古暦
ぺらぺらの一枚となり古暦
御仕舞は師の句の色紙古暦
古暦師の句の色紙にて終る
煤払にも仕来りや東大寺
煤払ふにも装束のあり東大寺
煤払ふ奈良は仏の多き古都
自衛隊今年も城の煤払ふ
リフォームをして七年目煤払ふ
霜焼の子ばかりなりし日の遠く
霜焼のいつも小指にできました
霜焼も皸の子ももうゐない
霜焼の母は働き者でした
雨の日のなくて上出来吊し柿
寒風の仕上げてくれし吊し柿
吊し柿この飴色の嬉しさよ
日々揉んで仕上がって来し吊し柿
小振りなる令和二年の聖樹かな
ショッピングモールの聖樹小さき年
日の差して鴛鴦の羽輝きぬ
鴛鴦の日に輝き鴨は黒きまま
咲き満ちてをれど侘しき冬桜
吊橋を渡れば両手悴んで
山の湯の産直市に鹿の角
寒施行なるか聖樹に吊る蜜柑
その上に一人に一つ牡丹鍋
ひろびろと今年の菊の展示会
菊花展菊人形の無き今年
市役所の庭一面の菊花展
市役所の裏にも菊の展示され
高校も初展示して菊花展
菊師より課外授業の菊花展
高校の課外授業の菊花展
菊師より苦労談聞き菊巡る
菊作りメモ取り学ぶ高校生
饂飩屋の亭主も菊を作る町
鈴生りのままに残ってをりし柿
手の届きさうなところに残る柿
無農薬畑広がり赤のまま
丈高き野菜畑の赤のまま
校庭に黄色い秋の花咲かせ
桃色の小さき秋の花も咲き
乾きたる風の吹き抜け枯蓮田
弁慶の立往生ふと破れ蓮
入れない庭一面の実千両
茶の花のもう実を落としゐる寺苑
木豇豆の実の垂れ寺の秋深し
菩提子の舞ひながら落つ寺静か
童子の墓供花新しく冬に入る
水澄めり鯰の髭のはっきりと
水澄めり鯰は鯰鯉は鯉
雨に濡れ千両の赤一段と
観音堂裏もまた墓所お茶の花
木豇豆の実の鈴生りや秋の寺
菩提子のふはりと落ちし音もなく
紅葉よく実千両よき古刹かな
武家の墓並ぶ名刹破れ芭蕉
時雨来て又時雨来て破れ芭蕉
藤袴大きく咲かせ蝶を待つ
派手でなく地味でなき色藤袴
山頂は石蕗と紅葉と青空と
山頂の句碑への小径野菊咲く
句碑の辺の綺麗に刈られ石蕗の花
そこらぢゆう眉山山頂石蕗の花
事故ありしカーブに菊の白い花
放牧のイベリコ豚ふと猪の跡
冬日向とはこんなにも明るくて
石蕗の花ここにも咲いて暮潮の忌
冬日濃し山の人にも下界にも
敷き詰めたやうに咲き満ち石蕗の花
旅できぬままの一年芭蕉の忌
訪ねたし奥の細道芭蕉の忌
棘の葉に柊の花やさしかり
柊の花の真白でありにけり
香りあり柊の花咲いてをり
こぼれてもなほ柊の花真白
柊の花の香りの通学路
密避けて令和二年の神の旅
神留守の古宮昼も灯の点り
神留守の宮の綺麗に掃除され
神留守の古宮猫のじゃれあって
ノズルより水を吹き出し蓮根掘る
宝物掘り出すやうに蓮根掘る
蓮根掘るとは泥とする格闘技
自家用の一列残し大根引く
大根引く鳴門は砂地ひょいひょいと
浜風の弱き日選び大根引く
ちらほらと咲きてまぶしき帰り花
帰り花あるかと見れば二つ三つ
孫崎は四国の起点帰り花
背丈ほどなる桜にも帰り花
信濃へと阿波の野沢菜茎漬けに
茎漬けの野沢菜あれば菜いらず
茎漬けを音立てて噛む嬉しさよ
負傷者のやうに蘇鉄の冬構
無理しないことが私の冬支度
流感の予防接種も冬支度
風引かぬことが私の冬支度
冬晴れの空に皇帝ダリアかな
高々と皇帝ダリア冬日濃し
聳え立つ銀杏黄葉を仰ぎ見る
黄葉の銀杏の幹の太さかな
大銀杏傷一つなく黄に染まり
大銀杏よりの銀杏小粒かな
水澄めり水琴窟の音も澄み
冬晴や水琴窟の音も冴え
奥院は黄葉と紅葉綾なして
黄葉好し紅葉また好き寺苑かな
山茶花の日当たりにもう咲き初めて
山茶花は太陽が好き南面に
人気無き奥院銀杏散り敷ける
日を返す銀杏落葉の明るさよ
山茶花の弾けるやうに咲いてをり
この花はと聞けばこれも山茶花と
帰り咲く躑躅日差の届かねど
耄けてもなほ凛と立ち藤袴
色失せし山に躑躅の帰り花
笹鳴ける今登り来し山径に
穭田のパッチワークのやうな里
田仕舞の煙ゆっくり上る里
綿虫の宇宙遊泳見て飽きず
仰ぎ見る視野の端まで金鈴子
二人掛かりして冬瓜をいただきぬ
一刀両断して冬瓜の御裾分け
南瓜より冬瓜を斬る方が楽
冬瓜を八つに斬りてお裾分け
冬瓜を斬れば真白き腹の中
南瓜より太き冬瓜すっぽりと
日向より阿波へオープンカーの秋
杉切って明るくなりし寺の秋
藷と栗売り切れ遍路茶屋終ふ
水引の残らぬほどに草刈られ
溝蕎麦の赤に真っ赤な糸蜻蛉
寄り添ひて咲く曼珠沙華ありにけり
実むらさき遍路の宿は畳まれて
紫の玉に艶あり式部の実
浜茄子の一輪なれど香を放ち
曼珠沙華一本なれど凛として
熊笹の中の露草丈高し
竹林に入れば小鳥のシンフォニー
裏山は昼から虫のコンチェルト
添へ木さる小さき桜に帰り花
木の実降る音軽やかでありにけり
残り咲く木槿の花の鮮やかさ
蟷螂は枯れていません緑の眼
蜘蛛の囲の奥に真っ赤や烏瓜
こぼれてもこぼれてもなほ咲ける萩
七分咲いて見頃なりけり萩の花
紅白の芙蓉の花の咲ける庭
咲き満てる芙蓉の株の大きさよ
残り咲く木槿の花の鮮やかさ
いきなりの鵙の高音でありにけり
喬木の天辺よりの鵙高音
禅林は静かなりけり鵙高音
鵙猛る藩主の墓所の高木に
口開けて紅美しき石榴かな
枝撓るほどたわわなる石榴かな
たわわなる石榴もぎ取る人のなく
レバノン杉なるは松なり新松子
品のよき御殿の松の新松子
売家の茂りゐる松新松子
手入れせし松の小さき新松子
大方は早も穭田なる刈田
穭田と刈田のパッチワークかな
裏作をしない刈田の続く里
新酒祭りへと満席の特急で
新酒会各自杯持参して
蔵巡る度の新酒にほろ酔いぬ
香りかぐことより始め新酒会
おつまみは各自持参の新酒会
香り芳し女性の好きな新酒てふ
路地までも新酒の香る町となる
近頃の新酒いづれもフルーティ
年毎に女性の増えて新酒会
植木屋の早やも来てをり松手入
天辺に始まる松の手入れかな
青空に鋏の音や松手入
松手入見上げる空に昼の月
構想を頭に描き松手入
また毟りまたまた毟り松手入
手で毟る松の大樹の松手入
松手入済みて青空近くなる
塵一つ残さず終り松手入
敷き詰めたやうに銀杏落ちし庭
大粒の銀杏なれど捨ておかれ
銀杏を踏みつけぬよう磴上る
街路樹の銀杏拾ふ人の無く
参道の銀杏朝の日に光る
銀杏のぽたぽた落ちて瑞々し
名も知らぬ小さき川に鴨来る
鴨の来てもう一年の過ぎしかと
朝の日に金木犀の輝ける
朝からの金木犀の香りかな
木犀の満艦飾の金こぼし
夕べには金木犀の香にあふれ
蔵のある農家の在所藍の花
観光のトロッコ列車藍の花
椋の実に誰も幼になってゐる
椋の実の七百年の大木に
その種を銘茶にといふ藍の花
種を取る三番藍の花可憐
藍の花咲かせ続けて六代目
そっと手を置けば温か藍寝床
葉の欠片まで無駄にせず藍こなす
古代米実り稲架まで用意され
遠目にも穂先の赤き古代米
田の中の墓に寄り添ひ秋桜
倒れてもコスモスの花美しく
生垣に美男蔓の真っ赤かな
産直の市に桔梗の苗並ぶ
新米と桔梗の苗の並ぶ市
料理屋の離れ木槿の花香る
鉢植の木槿の花にある気品
建物の影濃き街や秋暑し
遊船も出ざるほどなる残暑かな
山頂を仰げば秋の空高し
城山は子らの遊び場赤蜻蛉
正面のロビー生き生き胡蝶蘭
花びらの瑞々しかり胡蝶蘭
あっという間に終りけり秋夕焼
内海のほんのり赤き秋夕焼
日没のあとの青空秋めける
日の入りを待ちゐしごとく虫すだく
内海を見下ろして聞く虫時雨
少しづつ七草植ゑてある御苑
一つづつ七草数へ歩く径
気品かな小鉢に生けし七草の
監獄は秋の七草咲ける野に
七草やここは網走番外地
輪になって夜食取りたる日の遠く
コンビニに集まってゐる夜食の子
夜食とはラーメンライスだった頃
蓑虫の糸の輝く角度あり
蓑虫の父呼ぶ声を風の消す
古宮は蓑虫吹かれゐるばかり
多摩川の中洲ひろびろ蕎麦の花
蕎麦の花日当たる斜面埋め尽くし
祖谷の畑ここも斜面や蕎麦の花
米できぬ斜面の大地蕎麦の花
藍染のマスク町より敬老日
祝なき令和二年の敬老日
世界中女は元気敬老日
老人と呼ばれたくない敬老日
敬老日町より喜寿の祝金
横に来て子らも手を出す枝豆に
枝豆を平らげ話佳境へと
枝豆の一皿子らの平らげて
岡山の友より葡萄二箱も
新種てふ皮も美味なる葡萄来る
いただきし葡萄その日にお裾分け
ライン川行けば葡萄の畑つづく
レマン湖を見下ろし葡萄の畑見上げ
捨て置きし目高の鉢の水も澄み
水澄みて生簀の河豚の鰭動く
待ち時間長き病院虫すだく
あす手術けふは一日虫聞いて
手術すみのんびり秋の雲を見る
手術すみ隻眼で見る秋の雲
眼帯を外して見たし秋の雲
青空に吸い込まれさう秋の雲
鰯かも鯖かも秋の雲高し
夏の雲追ひ出してゐる秋の雲
眼帯の取れてくっきり秋の雲
澄み渡る空に高々秋の雲
青空に流るるごとく秋の雲
挿木せしランタナの花咲ける秋
台風にめげず咲きゐる小さき花
台風の風にも落ちず蝉の殻
空蝉の暴風雨にも耐えて
草刈れば花茎の出でて玉簾
知らぬ間にいつもこの場所玉簾
道の辺に白美しき蓼の花
蓼の花見れば藍刈る頃かとも
表から裏から郁子の実を数へ
場所替えて見れば郁子の実どっと増え
幹折れてゐても銀杏鈴生りに
鈴生りの銀杏なるに誰も見ず
手に来たる秋の蚊打てばやはらかし
あの小さき秋の蚊なるにこの痒み
白萩の走りの花の薄緑
風なくもさ揺れてをりぬ萩の花
秋日濃し御殿の庭の白砂に
石庭の箒目しかと秋日差す
この畑の向日葵どれも東向き
近づいて見る向日葵の高さかな
一面の向日葵畑の明るさよ
ゴッホならこの向日葵田どう描く
一つづつ咲いて向日葵一面に
展望の台も作られ向日葵田
清水湧く辺りの砂の白かりし
次々に水輪の生まれ清水湧く
白き砂巻き上げてゐる草清水
草清水涸れてをらぬをしかと見る
黄菖蒲の花咲く清水湧く水辺
あめんぼの影見ゆ角度ありにけり
梅雨明けの水の公園水豊か
梅雨明けとラジオは言へど雲厚き
長梅雨の明けてピアノの音軽し
長梅雨の明けたる空の青さかな
噴水の止み涼風の背中より
緑濃き水の公園百日紅
梅雨明けの空にまぶしき百日紅
スーパーに並ぶ苧殻の白きこと
箸作り迎火せんと苧殻買ふ
背丈超す苧殻の束のかく軽し
苧殻焚く親父御袋弟に
スーパーに迎火セット並ぶ朝
木槿散る韓のをみなの墓の上に
仰ぎ見る御苑の庭の花木槿
熱中症警報の出る秋立つ日
コロナ禍の今年ないのよ阿波踊
阿波踊なき徳島の静けさよ
心地よき風の朝の虫時雨
踊なき徳島静か盆の月
街川の水面にもあり盆の月
コロナ禍に鎮もれる街盆の月
中天に上り切ったる盆の月
山の端に残ってをりし盆の月
盆の月見しと帰省のできざる子
星のなき夜空は広し盆の月
死ぬほどの炎天に咲き稲の花
豊葦原瑞穂の国の稲の花
日盛りに真白な雌蕊稲の花
都心にも豆腐の老舗新豆腐
東京タワー仰ぎいただく新豆腐
名物の土産は笊の新豆腐
新豆腐結婚式のメニューにも
日本一広い中洲の稲を刈る
開拓の碑のある中洲豊の秋
村落の跡ある中洲豊の秋
秋の蝉一声鳴きてそれっきり
仰ぎ見るその上の上葛の花
山のごと茂る葉の蔭葛の花
近寄れば強き香のあり葛の花
散りてなほのうぜんの花瑞々し
散れば咲くのうぜんけふも花盛り
のうぜんの緑の垣根のっとりて
通りまでのうぜんの花こぼれ散り
のうぜんの艶に夢二の美人ふと
阿讃嶺を低しと思ふ青田かな
水涸れし田にでで虫の干上がりて
田の水の涸れて田螺もでで虫も
出番なく黄に染まりゆく余り苗
出番来ぬままに枯れゆく余り苗
名古屋かな弥富の金魚空港に
空港のロビー弥富の金魚群れ
人急ぐロビーにゆったりと金魚
町中に弥富の金魚なる幟
アフリカの友に扇子をお土産に
扇子開けませんとアフリカの友
開き方教へて扇子アフリカへ
扇子あげ象牙の首輪いただきぬ
リスボンは遠くて近しモラエス忌
焼き鰯食べてきましたモラエス忌
美味でした豚の丸焼きモラエス忌
リスボンの旧居見ましたモラエス忌
モラエスさん今年ないのよ阿波踊
青い目の西洋乞食モラエス忌
文豪の文豪と呼ぶモラエス忌
文豪に語り継がれてモラエス忌
愛されていますよ今もモラエス忌
夏来るモラエスの忌を修すれば
山宿の風呂の天井百足虫這ふ
黴臭き山宿なりし百足虫出る
怪獣か蛇腹の鎧大百足虫
山宿の女将上手に百足虫打つ
人の死ぬ梅雨の線状降水帯
橋二つ見る間に流す梅雨出水
流さるる車は凶器梅雨出水
半夏生雨に洗はれ生き返る
雨の日の片白草の勢かな
路地裏にアガパンサスの花可憐
雨を呼ぶアガパンサスの花の色
色なくもこれも紫陽花雨に咲く
単色といふも紫陽花らしく咲く
よく手入れされたる棚に梨実る
このごろは袋掛けせず梨実る
休耕の田に雀群れ草茂る
休耕の田に生ひ茂る夏の草
あす手術けふは眉山の緑見る
たっぷりの雨の眉山の緑濃し
隙間なく緑犇く眉山かな
梅雨出水余所にベッドで手術待つ
白内障手術の前に見る緑
一日を眉山の緑見て過ごす
何もせずひたすら緑見て一日
何もせず眉山の緑見て一日
梅雨霧の眉山丸ごと包む朝
梅雨霧や眉山は水の多き山
梅雨霧の眉山高くて大きくて
梅雨霧の晴れたる眉山瑞々し
梅雨晴れの眉山の緑清々し
白内障手術始まる梅雨晴れて
梅雨晴れの眉山の緑美しく
白内障手術を終へて見る緑
眼帯を取れば眉山の滴るる
眼帯を取れば万緑なる眉山
手術して仰ぐ緑の明るさよ
何とまあ博物館に源五郎
黒鯛の泳ぐ町川船遊
梅雨出水余所に我らは船遊
手を振ってみたくなるもの遊船は
橋ごとに変はる町の名船遊
もう一巡してみたかりし船遊
河口にはさざなみもなし船遊
踊笛聞かぬ徳島船遊
船遊眉のやうなる眉山も見
県庁も見物の一つ船遊
梅雨晴の船出日和となりにけり
石門に抜け殻残しゆきし蝉
玄関の自慢の松に蝉時雨
朝刊の来れば始まる蝉時雨
グリーンタウンなる新築の蝉時雨
蝉時雨詠んで逝かれし百一歳
そんなにも根詰めないで蝉時雨
息抜いて生きていこうよ蝉時雨
スーパーの店頭土用の鰻焼く
持ち帰りばかり今年の鰻屋は
焼き立ての土用の丑の鰻買ふ
釣り宿の一つある島浜万年青
孤島にも白砂青松浜万年青
浜木綿の島への渡船日に二便
冷やしある大皿に盛る夏料理
此れやこの貴船の川床の夏料理
少しづつガラスの皿に夏料理
河鹿鳴く山の湯宿の夏料理
水抜かれたる田に残りゐる田螺
洋館の前に群れ咲き立葵
今日もまた一つ花咲き立葵
朝の日に背筋伸ばせし立葵
彩の際立つ朝の立葵
立葵群れ咲く道を学校へ
大空へ蕾突っ立て立葵
立葵見上げる空の青さかな
見るたびに花を増やせし立葵
仰ぎ見るほどの高さや立葵
立葵育てた人と立ち話
立葵褒めれば切って下されし
十薬の黄昏時の白十字
十薬の白十字犇ける庭
坪庭の新樹眺めて過ごす日々
窓よりの新樹明りを見て過ごす
窓開けて五月の風を存分に
深々と五月の朝の大気吸ふ
大の字になりて五月の空仰ぐ
喜寿迎ふ五月の空の青さかな
坪庭の昼間の闇の百合の花
ゆっくりと蕾を開き百合の花
ランタナの花美しき新築に
ランタナの犇けるごと咲きし庭
ランタナを褒めれば挿木せよとくれ
ランタナを斜めに削り土に挿す
畦道のいつもこの場所半夏生
ひろびろと田を植ゑてあり半夏生
篤農の大きな屋敷濃紫陽花
球形の紫陽花並ぶお屋敷に
日向より日蔭の色の濃紫陽花
紫陽花の一雨毎の彩りよ
花も葉も光り泰山木の立つ
左右より鶯競ふかの如く
よき風の紫陽花の谷上り来る
晴続く紫陽花の葉のぐったりと
仰ぎ読む泰山木の花の数
雲一つなき梅雨晴となりにけり
久々の吟行に見る山法師
山法師見て句友にも出会へ
薫風の中久々の吟行に
日向より日蔭の花よ紫陽花は
年毎に十薬犇ける庭に
十薬の刈っても刈っても茂る庭
日赤の庭十薬の白十字
深々と十薬茂る江戸城址
御苑かな十薬の丈かく高く
大方は葉裏に隠れかたつぶり
どこにでもゐしでで虫を探す世に
藻の花や穂高の水は滾滾と
藻の花の水清らかでありにけり
藻の花の伸びて縮んでまた伸びて
縺れさうなれど縺れず藻の花は
ここにゐるここにゐるぞと行々子
上る鮎見て葭切の鳴くも聞き
吉野川静かなりけり行々子
スーパーに青梅どっと並べられ
青梅のはち切れんばかりに太り
継ぐ人のなけれどたわわなる実梅
落柿舎へ竹の落葉の道を行く
ふかふかと厚き嵯峨野の竹落葉
ひらひらとさらさらと散る竹の葉の
竹林の竹の落葉のよく滑る
雨の日の片白草の白さかな
雨あとの緑清しき半夏生
まぶしかり梅雨の晴れ間の半夏生
野仕事は今日もお休み半夏生
垣根よりこぼるる光額の花
美容院ここにもできて額の花
一隅の小蔭に咲いて額の花
たっぷりと降りたる朝の濃紫陽花
雨あとの紫が好き濃紫陽花
紫は盛りの色か七変化
哨兵のやうに青鷺突っ立ちて
身じろぎもせず青鷺の立つ江津湖
禅林は青鷺高く棲むところ
青鷺の原生林の城山に
枇杷たわわ手の届かざる高枝に
実を隠す枇杷の大きな葉っぱかな
枇杷剥けば果汁のどっと溢れ出て
枇杷の実の大きかりけり種もまた
枇杷の種植ゑんと思ふほど立派
取れ立ての枇杷はいかがと嫁御より
モラエスさん今年は踊ありません
ウイルスの収束祈りモラエス忌
リスボンの家見てきたよモラエス忌
孤愁とは女人追憶モラエス忌
独り死す独居老人モラエス忌
授粉せしばかりの梨の花に風
曇りゐる空に真白や梨の花
世の中はコロナ一色五月鯉
学校は休校のまま五月鯉
今日もまた外出自粛五月鯉
感染症なき世を祈り五月鯉
筍を掘る竹林の明るさよ
筍の竹林斜面ばかりかな
見つければ掘ってみたかり筍よ
掘り出してみたくなるもの筍は
筍のあそこにそこに足元に
筍を見つけたる子の声弾む
筍の土ほこほことして硬し
筍を掘る足すべらさぬやうに
筍を掘る芽の向きを確かめて
一鍬で筍を掘る手際かな
掘り上げし筍こんなにも重し
筍を掘ったとはしゃぐ子の笑顔
家族して筍を掘る賑やかに
掘り立ての筍に糠添へてくれ
掘り立ての筍剥きて下されし
筍に糠まで添へて下されし
掘り立ての筍茹でて一日終ふ
様々なこと思ひ出す昭和の日
平成の記憶のわづか昭和の日
思ひ出は昭和ばかりや昭和の日
苦しくも夢のある日々昭和の日
思ひ出す脱脂粉乳昭和の日
巻紙に答辞書きしも昭和の日
休みなく働きし日も昭和の日
七万軒訪問せしも昭和の日
証書持ち初登庁も昭和の日
初質問一面トップ昭和の日
皇居へと初タキシード昭和の日
ありがとうのお声の耳朶に昭和の日
ひっそりと卯の花の咲く旧家かな
卯の花の白に散歩の足止まる
鈴蘭のやうなる鳴子百合咲いて
お屋敷は静かなりけり鳴子百合
鈴蘭の鈴の音色のしんとして
可憐なるこの鈴蘭の有毒と
昨日来た道に見知らぬ春の草
雑草といふはよさうよ春の草
背後から吾を袈裟懸けにせし燕
水田の水すれすれに飛ぶ燕
一匹の蚊に安眠を奪はれて
耳元にありし蚊に足刺されけり
あれほどの鱵の刺身これっぽち
お刺身の鱵の何と淡白な
玄関にロベリア咲かせゐる屋敷
ロベリアの垣根のやうに咲き満ちて
夕べにももう一筋と茄子植ゑて
植ゑられし茄子にまばゆき夕日かな
公園の花壇の紫蘭よく咲いて
日の陰の紫蘭の色の際立ちぬ
マーガレット咲きて明るき公園に
カナリア諸島とはどこにあるマーガレット
店先に葵の花の真っ赤かな
緑の葉葵の花の赤極め
朝起きて見れば仙人掌咲き初めて
朝の日に仙人掌の花輝いて
仙人掌の犇めき合ひて咲き競ふ
紅ほのかなる仙人掌の花の色
仙人掌の一日限りの花なりし
美人薄命仙人掌の花もまた
苗代を作り百姓一筋に
農協の苗を買ふ世に苗代田
苗代の水清らかでありにけり
苗代の犇く緑整然と
田植機の運転をみななりしかな
田植機は五列一度やリズムよく
田を植ゑて田舎の景となりにけり
日々散歩するたび早苗伸びてをり
道沿ひに市立つ土佐の初鰹
初鰹土佐は幟を高々と
目の前で叩きとなりし初鰹
縦縞の色美しき初鰹
初物が好きで大好き初鰹
脂もう一つなれども初鰹
黒潮に初鰹釣る研修生
記念碑の周りの草の芳しく
その中に仏の座あり春の草
遠き日の瞼に浮かぶ桜かな
今年またいつものやうに桜咲く
寿福寺の椿尽くしの花御堂
山盛りの椿虚子忌の花御堂
花御堂誕生仏は五頭身
外つ国の花は原色花御堂
大方は外つ国の花花御堂
ご近所の花持ち寄りて花御堂
持て余すほどの甘茶を下されて
咲き継ぎてなほも鮮やか迎春花
降り続く雨に色濃き迎春花
潮引けば繋がる島へ磯遊
子は走り親は貝掘る磯遊
来合せて素手で貝掘る磯遊
整列のままのカーブやチューリップ
整列といふ美しさチューリップ
生まれたるトルコは遠しチューリップ
チューリップ一つで家が買へたとも
町あげて桜街道作らんと
有志より始まる桜街道と
日本一しだれ桜を咲かさうと
年毎のしだれ桜のしだれやう
しだれ咲く桜の間の空の青
青空にしだれ桜の白さかな
どれ見ても散りしばかりの花筏
水弾き浮かんでをりぬ花筏
郁子咲いてむべなるかなの故事をふと
香のありし方をたどれば郁子の花
蔓たどりゆけば三つ四つ郁子の花
色変はる角度ありけりしゃぼん玉
無患子の遠き昔よしゃぼん玉
しゃぼん玉音なく割れて青い空
青空に吸ひ込まれゆきしゃぼん玉
ワルシャワの街に道化師しゃぼん玉
骨折の跡や鳴門の桜鯛
跳ねてゐる漁協直売桜鯛
大漁旗立てて即売桜鯛
遠目にも山吹ならん黄金色
鎌倉の寺へ登れば濃山吹
渓谷の崖一面に濃山吹
山吹が好き山吹の色が好き
片仮名の名札ばかりやチューリップ
原色といふ美しさチューリップ
白といふまぶし色やチューリップ
並ぶとは美しきことチューリップ
新種かな薔薇のやうなるチューリップ
太陽の明るさが好きチューリップ
色競ひ合ふかのやうにチューリップ
どれも皆色美しきチューリップ
本堂へ門をくぐれば飛花落花
参道に桜吹雪の途切れなく
山吹に元気もらったてふ遍路
山吹を眺めて遍路札所立つ
青空を仰げば落花途切れなく
鶯の次々に鳴き迎へくれ
巻き上がる落花を浴びて谷下る
見下ろせる谷底深し河鹿鳴く
吊橋の真ん中にゐて河鹿聞く
谷川の水清らかに河鹿鳴く
聞きをれば近づいて来る河鹿かな
河鹿鳴くまるで合唱するやうに
河鹿聞き鶯を聞き花も見て
山葵田の覆ひ覗けば小鳥の巣
山葵田の細き木道くねくねと
草餅も土筆の菜も句座に出て
鯱を置く藁葺きの寺牡丹咲く
一番に咲いてまぶしき白牡丹
咲き初めしぼうたんの香の満てる寺
ぼうたんの朝の香りの清々し
葦簀張る小屋の牡丹も咲き初めて
牡丹咲く寺苑の奥の奥にまで
花蘇枋咲きてここより裏庭へ
青空に色美しき花蘇枋
ゆっくりと独りで巡る牡丹寺
佇めば香の近寄りて来る牡丹
丈低き牡丹の花の大きさよ
御手洗の辺り明るき若楓
さ揺れゐるところなかりし若楓
鉢植に始まる順路牡丹寺
寺巡る葦簀の小屋の牡丹より
ぼうたんの色褪せぬまま咲き残る
咲き残る牡丹の少し小振りかな
我が狭庭二羽も目白が金柑に
ウイルスにマスク売り場のがらんどう
ウイルスに平らげられしマスクかな
ウイルスは居座るマスク召し上げて
どこもかもマスク売り切れ春遠し
江戸の世を今に蜂須賀桜咲く
母樹と言ふ蜂須賀桜咲き満てる
鈴生りのやうに目白の来る桜
目白来て甘き香りのする桜
遠目にも赤き蜂須賀桜かな
雨多き年の桜は色濃きと
啓蟄や田にこんなにもこふのとり
啓蟄の土新しき土竜塚
鷹化して鳩となるてふよき日和
剪定をせざる梅林荒れ果てて
据ゑ置きし梅の剪定硬かりし
剪定のされて梅林らしくなる
朝市に研ぐ剪定の鋏かな
剪定を待つ梨畑のひろびろと
遥かへと続く梨畑剪定す
ふるさとに蜂須賀桜咲く山を
卒寿なほ元気に桜育てられ
谷越えて山越えて行く梅まつり
氷雨降り風の冷たき梅まつり
橙青の句日記を読む海保の日
橙青の鷹の句碑の上鷹渡る
橙青の句碑の岬へ海保の日
掃海をせし日は遠し鰤起し
掃海は歴史の彼方松葉蟹
斬首さる大根の列続く畑
斬首さる大根太く畑にあり
菜の花の明るき新興住宅地
菜の花のこの黄どう描くゴッホなら
ウイルスに下がる持株春遠し
ウイルスの春雷世界激震す
暴落の株価ウイルス猛る春
爆発す如く茎立ちブロッコリー
葉牡丹の渦巻き上げて茎立てる
茎立ちの芥子菜並ぶ朝の市
茎立ちを待ちて芥子菜漬け込みぬ
茎立ちてこそ芥子菜の旨くなる
燕来る遠路はるばる来られたる
生まれたる巣に帰り来し燕かも
ともどもに来てちりぢりになる燕
水底の途切れ途切れも蜷の道
くねくねとくの字への字や蜷の道
人工の蛍の川の蜷の道
一筆で描き切ったる蜷の道
ドイツ兵俘虜の野遊セピア色
遊山箱提げて野遊びせしことも
遊山箱詰め替へもらひ野に遊ぶ
美しき写真の並ぶ苗木市
値札より話始まる苗木市
花つきしものは前列苗木市
実のつきしものには支へ苗木市
逸物は値札を付けず苗木市
卒業式できなかったと写真撮る
卒業証書大きくかざし写真撮る
卒業式できねど写真晴れ着着て
ウイルスに人間籠り地虫出づ
葉桜も赤き蜂須賀桜かな
ウイルスにお花見会のできず散る
早咲きの蜂須賀桜早も散る
蜂須賀桜植ゑし横綱勝ち進む
お花見のできざるままに花は葉に
風ありて少し間のある落花かな
桜散るそんなに急ぎ散らずとも
何事もなかりし如く桜散る
パンデミックなる世を遠く日向ぼこ
青空に白木蓮の清々し
遠目にも白木蓮の輝いて
ウイルスに五輪も延期雲雀鳴く
パンデミックなる世を余所に雲雀鳴く
田水まだ引かれをらねど初燕
斜交ひにはすかひに飛び初燕
剪定の終り梨畑ひろびろと
剪定の終り明るき梨畑に
休校のプールに鴨の来てをりぬ
休校のプールに鴨の飛んできて
伸び伸びと庭師の庭の新松子
我が庭はぽつりぽつりと新松子
幹黒き柿の大樹の若葉かな
南の更地となりて冬うらら
煮凝の鯛の目玉をいただきぬ
町中にあふれる光り春近し
青空に浮かぶ白雲春近し
冬日差すおきざり草のまぶしさよ
春近しおきざり草の犇めける
早春の光やさしく更地にも
早春の光名のなき墓石にも
早春の森に鳥声途切れなく
ほっこりと土盛り上がり下萌ゆる
下萌ゆる野に吹く風の冷たさよ
下萌や母なる大地なる言葉
先陣を争ふごとく下萌ゆる
よき日かな梅に鶯目の前に
犇めきて立つ生花の水仙は
黄水仙ガラスの鉢に活けられて
目の前の梅に笹子の来て止る
せせらぎの音に紛れて笹鳴ける
帰らんとすれば笹鳴き続けざま
マスク越しにも梅の香のほんのりと
鶯の梅から梅へせはしなく
期せずして梅に鶯なる景を
目の前に梅に鶯見る日和
花札の梅に鶯目の前に
古き葉を纏ひしままに満作は
臘梅の磴は下りの楽しみに
緩やかな磴より上るマスクかな
をばさんもバレンタインのチョコ売場
バレンタイン知らねどバレンタインの日
バレンタイン限定チョコとチョコの店
何故チョコを贈るのバレンタインの日
チョコに合ふ清酒もバレンタインの日
バレンタインデーとは遠き日のことに
君となら濡れて行こうか春時雨
大手門出れば明るき春時雨
湯巡りの下駄に素足に春時雨
春時雨相合傘で行く道後
漁師云ふ春一番は怖いよと
春一は怖いと古老舟返す
満作の古着剝ぎ取り春一番
春一番吹いて眠りの覚めし山
春一番吹いたと今朝の新聞に
春一番吹いたと遠く聞くばかり
春一番来てより寒波次々に
春一番吹いて大雪注意報
海苔篊の場所は毎年籤引きと
江戸前の海苔の黒さでありにけり
東京の海の青さよ海苔の篊
梅林の朝一番の香の中へ
独りゐて梅の香りを存分に
濃く甘き梅の香りでありにけり
カルストの岩ごつごつと梅の里
紅梅は庭白梅は畑に植ゑ
三日月の鋭く尖り冴返る
また一つ空き家の増えて冴返る
大寒気団の居座り冴返る
どこもかもマスク売切れ冴返る
室咲の蘭の明るき展示会
室咲の蘭の種類のこんなにも
室に咲くカトレア蘭の明るさよ
室に咲きこれも蘭かと思ふ蘭
室に咲く蘭の香りの濃く淡く
室に咲くデンファレ蘭の可憐さよ
紅梅の八重咲きといふ明るさよ
紅梅の犇めけるほど咲き満ちて
二月の市に土佐より文旦が
早々と文旦食べて春を待つ
文旦のほっこり丸く着膨れて
二月の文旦なれどかく甘き
文旦の甘く酸っぱく春立ちぬ
文旦を億里平癒を祈る春
麗かや文旦美味と褒めくれて
室の蘭いただき飾る玄関に
梅見よかと来て蜂須賀桜見る
二分咲いて赤き蜂須賀桜かな
桜の根伸びゆく土手に草萌ゆる
海蝕痕ある城の崖椿咲く
搦手は急な崖道落椿
施肥終へし薔薇園早も草青む
葉牡丹の渦盛り上がり茎立ちぬ
蜂須賀の世より咲き継ぎ臥竜梅
梅の白際立ててゐる幹の黒
蜂須賀の御殿の梅に笹子来る
折れ曲がる枝の節くれ臥竜梅
上品な御殿飾りの雛の顔
贅尽くし檜の御殿雛飾る
手の細く袖の突っ張る享保雛
御殿庭眺めるロビー雛飾る
ホワイトデーへとバレンタインの売場
春を呼ぶ生花展の明るさよ
生花展巡れば春の香りして
名刹の裏は竹藪鳥交る
春日差す百二で逝かれし位牌にも
百二まで生きて眠れる墓麗ら
梅の香におぼれて虻も私も
白梅の香る古刹の静かさよ
梅林の日向日向のいぬふぐり
見通しのよき野に出れば初音して
聞くほどに鶯の声らしくなる
大鷭の鴨に紛れて餌を漁る
一切れのパンに崩るる鴨の陣
2020年1月
山眠る店仕舞せしホテル背に
門松立つ閉店決まるデパートに
門松の高々と咲く梅の花
門松の松竹梅のどっしりと
年改まりこの五月には喜寿となる
新年を孫八人に囲まれて
十六人家族揃ひてお正月
寒鰤を一尾平らげ去年今年
寒鰤もぼうぜの鮨も平らげて
新暦にとホ句の日めくりくだされし
虚子の句のホ句の日めくりお元日
正月のホ句の日めくり破り難し
元気なること確かめる年賀状
百四歳からも元気な年賀状
賀状来るアルゼンチンは暑いよと
台湾は花火上げたと年賀来る
旅行する子らを見送る二日かな
ピアノ曲弾き初めたりもして二日
初売に草月流の花生けて
買初はアメリカ製の無水鍋
寒鯛の刺身大好き子も孫も
寒鯛の刺身の後の鯛茶漬
鯛茶漬食べて宴を終ゆ三日
四日はや子ら自宅へとそれぞれに
子ら去にて家中広くなる四日
ゆっくりと新聞を読む四日かな
門松の迎へてくれし交歓会
葉牡丹の白のまぶしき飾かな
初売のバーゲンとなる六日
七割引なる初売の赤い札
七割引なる初売の札並ぶ
雨降りて風の冷たき寒の入
売り尽くしセール始まる寒の入
冬物の一掃セール寒に入る
葉のついた大根買って来る七日
大根の葉っぱ刻みて七日粥
保育園にも七種の並べられ
それぞれの効用書かれ七種並ぶ
指差して七種そらんじる園児
雑炊のやうな七種粥もまた
行平に緑の美しき薺粥
定宿のホテルの朝餉薺粥
雲晴れて朝から冬日明るき日
十六人家族揃ひて初写真
訃報また訃報のあけて初戎
福笹の閉店決まるデパートに
上野なる東照宮の寒牡丹
雪乗せて際立てる赤寒牡丹
巡り見ていづれも小振り寒牡丹
フードよく似合ふ少女や寒牡丹
みちのくの乙女のやうな寒牡丹
何処より来しか風花はらはらと
人気なき里は風花舞ふばかり
尋ね来し古刹風花舞ふばかり
丸丸と黄身盛り上がり寒卵
卵かけご飯最高寒卵
寒卵生とは生でいただいてこそ
放し飼ひせしものですと寒卵
ラガーらのパスした後も突進す
ラガーらの倒れてもなほ前のめり
ラガーらのその太股の太さかな
ラグビーのルール知らねど面白し
華道展会場飾る室の蘭
ひときわの明るさ室の胡蝶蘭
新築のロビー明るき室の蘭
幾重にも飾られ室の胡蝶蘭
生花の中に葉牡丹飾られて
この渦を見てと葉牡丹飾られて
鉢植の葉牡丹並ぶレストラン
鉢植の鉢に葉牡丹犇めける
電線におしくらまんぢゅう寒雀
着膨れてゐるかのやうな寒雀
昨夜鍋に残れるものの煮凝りて
煮凝の鰤大根でありにけり
恐る恐る煮凝食べてみる私
煮凝のゼリーのやうな旨みかな
耕せる土をついばみ寒雀
外食の饂飩で済ます女正月
その姿原始なれども金海鼠
金海鼠私も好きと嫁も子も
真っ先に売れて仕舞ひし金海鼠
初場所の両横綱の不甲斐無く
初場所の小兵力士の勝ちっぷり
初場所の平幕陣の勢かな
初旅の募集案内どっと来る
大寒に黄花亜麻咲き満てる茶屋
大寒の日に国会の始まりぬ
八角のやさしき堂に冬日差す
雨滴置く椿の花と青空と
日の差してまぶしきほどの寒椿
今朝落ちし椿か傷の一つなく
木にありし時のままなる落椿
尾鰭のみさ揺れ寒鯉動かざる
臘梅の香の消えてゐる今朝の雨
臘梅の蝋透き通る雨滴
古宮の奥は竹林笹子鳴く
寒牡丹庭に咲いたと持ちくれし
初場所の幕尻優勝めでたけれ
初場所の初優勝の晴れやかに
初場所の天晴幕尻初優勝