匂ひ立つほどや躑躅の帰り花
純白の凛と躑躅の帰り花
見つけたる度に声上げ帰り花
枝先にぽつんと一つ帰り花
帰り花宝探しのごと探す
青空に金を鏤め金鈴子
青空のどの実も光り金鈴子
逆光に綿虫ふはり漂へる
逆光に見ればはっきり綿虫と
日の差して色鮮やかに冬紅葉
冬紅葉人の気配の無き宮に
膝掛を座布団にもしさあ句会
木枯や政治語りし句友逝く
冬空に昼の半月くっきりと
飴色の干芋どれも手作りと
搗き立ての小餅のどれもふっくらと
目の前で切って蜜見せ林檎売る
冬帽子積み上げどれも千円と
日向ぼこするかに花の苗並べ
新米の御負けはジャンボ宝籤
干されても潤目鰯の丸々と
室咲の花の苗買ふ底値待ち
山ほどの蕾散り初む山茶花に
散るほどに蕾の増えて山茶花は
柚子散らし母の風呂吹出来上がる
風呂吹のほどほどといふ柔らかさ
品の良い大根選び風呂吹に
ふと見れば咲いてをりけり枇杷の花
秀頼の自刃の場なり枇杷の花
城山の原生林に枇杷の花
蔵のある屋敷は閑か枇杷の花
風荒ぶ長城白金懐炉して
揮発油の匂ふ白金懐炉かな
小学校へも使ひ捨て懐炉持ち
コンビニで買ふ使ひ捨て懐炉かな
使ひ捨て懐炉配られてバスに乗る
ここにゐるここにゐますと笹鳴ける
耳澄まし待てど笹鳴もうしない
耳澄まし待てば笹鳴き立て続け
目の前の梅に笹子の来て留まる
聴いてくださいとばかりに初音して
踏みつぶさないでください霜柱
奥宮の苔むす庭の霜柱
霜柱綺麗きれいと群がる子
踏みつけてみたくなるもの霜柱
龍馬像はるかに見上げ懐手
懐手見上ぐ龍馬も懐手
側に来て糶を見てゐる懐手
着物着てしてみたかりし懐手
沖を見る鰊番屋の懐手
祝ひ酒抱経へて能登の鰤船に
鰤跳ねる大敷網の広さかな
網の中のたうつ鰤を引っこ抜く
客人の船にと鰤を投げくれて
目の前で獲れた寒鰤ぶつ切りに
祝ひ酒碗に寒鰤平らげる
高値つく能登の寒鰤から売れて
十二月八日ははるか遠き日に
十二月八日よパールハーバーよ
十二月八日は忘れられない日
十二月八日を知らぬ人ばかり
猫好きになれない私漱石忌
八日過ぎ今日は九日漱石忌
鈴懸の黄葉の色の紅葉へと
鈴懸の黄葉の色の多彩さよ
阿讃嶺をほのと朱色に冬紅葉
南国の阿波の紅葉よ冬紅葉
舟も出て兼六園の雪吊は
雪吊の心棒池の中よりも
雪吊し兼六園の景となる
雪吊の縄のほど良き加減かな
雪吊の縄に力みのなかりけり
年金の支給日ですと菫苗
菫苗いただく列に加わりぬ
歳末の閉店セール人気なく
歳末の閉店セール静かなる
枯萩の珠のやうなる実をつけて
咲き残る萩の一叢ありにけり
寒鯉の潜んでをりぬ水底に
水流れ寒鯉少し動き出す
来てみれば小春日和の句会場
九百号目指す誌友と年忘
九百号目指し健啖年忘
赤き実のつく柊に迎へられ
石庭に朱を点々と実万両
老松に寄り添ふごとく実万両
一隅にあって目を引き実万両
庭石の前にきりりと実万両
真っ赤かな枯山水の山茶花は
山茶花の咲き継ぐ庭の日溜りに
冬紅葉枯山水の庭先に
駅弁の鱒鮨旨き秋の旅
懐かしき鱒鮨旨し秋深し
スーパーに駅弁並ぶ食の秋
美しく菊揃ひ咲く助も無く
揃ひ咲き助一つ無く並ぶ菊
日の影を選びて舞台菊人形
白と黄は映える色かな菊人形
栄一も慶喜も若し菊人形
袖口に水管ちらと菊人形
菊人形袂に水を隠し持ち
龍馬なる小鉢の菊の頼りなく
立菊の花壇助無く十二鉢
揃ひ出し蕾見るのも菊花展
刈り込みて木犀の香のいよいよに
刈り込みて木犀の花剥き出しに
雨の日の木犀花も葉も光る
雨滴置き木犀の香の一入に
採集をして来し石蕗の庭に咲く
石蕗咲いて庭の明るくなりにけり
いただきし撫子植うる日当たりに
雨後の撫子の花凛として
その上の与力の屋敷実千両
石敷きの庭に真っ赤や実千両
海鼠壁美しき蔵実南天
蔵のある与力の屋敷実南天
仰ぎ見る紅葉の赤と空の青
青空に紅葉の赤の際立ちぬ
農協の市に室咲シクラメン
室咲にせよと鉢植シクラメン
見るたびに木犀の金輝きて
木犀の黄金の色のいよいよに
水澄みて鯉に交じりし雑魚も見え
名刹の裏は寒禽鳴くばかり
冬日差す丸太の椅子の温かく
本堂の庭ひろびろと枯葉舞ふ
ほどほどに留まってゐる破芭蕉
名刹の裏に神社や小鳥来る
立冬の古刹に人の気配無く
破芭蕉緑の芯の美しく
菩提子の枯れても枝を離れざる
晴れ渡る空に菩提子くっきりと
立冬の空に木豇豆仰ぐ寺
冬耕の鍬を支へに話さるる
昼餉持ち寄りて小春の畑仕事
冬耕の昼は手料理分け合ひて
手料理を持ちて小春の畑仕事
お互ひに声掛け合ひて冬耕す
一声を掛けて冬耕終へにけり
香をたどり来れば柊咲いてをり
葉隠れに咲いて柊なりしかな
柊の花のこぼるる朝の道
石蕗の花咲き満つ庭となりにけり
雨降れば黄を増しにけり石蕗の花
綿虫に光る角度のありにけり
綿虫に重さてふものなかりけり
綿虫の行方は誰も知らざりし
不意に来て不意に消え去り綿虫は
枝先にぽつんと淡く帰り花
帰り花そこにと見ればあそこにも
まぶしきを仰げばそこに帰り花
車輪梅たわわに実り庭小春
丸き実に冬日柔らか車輪梅
昼の月浮かぶ空より時雨来る
時雨るるや眉山は雨の近き山
川渡り来ればもう止み時雨かな
木のどれも刈り込まれたる庭時雨来る
時雨来て観光客のそそくさと
豊かなる孫の髪梳く木の葉髪
髪結ひに注文多き木の葉髪
デパートの消えて聖樹の小さき街
どの店の聖樹も小さき街となり
階段を上ればそこに聖樹かな
聖樹立ついつもこの場所この向きに
群れ成さぬ孤高の鷹の高さかな
天空を神渡るかに鷹渡る
鷹渡る後顧の憂ひ無き如く
ぎっしりと細かな文字で鷹日記
ひたすらに未来目指して鷹渡る
鉢植を南に移し冬支度
庭の木々刈り込み置くも冬支度
今年また婦唱夫随で柿吊るす
皮剥きて熱湯潜らせ柿吊るす
大和柿探し求めて吊るしけり
鼈甲の色に仕上がり吊るし柿
記念日に帰り咲き出し桜かな
門出の日十月桜咲き満ちて
翁忌と嵐雪忌過ぎ一茶の忌
城址かな紅葉の色の美しく
城山へ紅葉黄葉の道を行く
城内はどこもかしこも石蕗の花
城内に陣地広げて石蕗の花
伸び放題咲き放題や城の石蕗
石蕗咲いてどこも明るき城内に
山茶花の花壇にまでも石蕗の花
曲水の岩の間に間に石蕗の花
石庭の石に寄り添ひ石蕗の花
落羽松紅葉高々聳え立つ
落羽松紅葉の並び立てる園
どっとこい坂は搦手木の実踏み
城山の山頂にまで石蕗の花
斬首さる坊への供花か石蕗の花
戦災の石碑に冬日暖かく
木の実落つ音かも次の音を待つ
黄落や藩祖の像は五頭身
藍の花阿波の藩祖の立像に
大銀杏黄葉照葉の艶やかさ
糸瓜かと思えば茘枝垂れてをり
その花の茘枝に似たるゴーヤかな
天辺に行くほど芙蓉咲き残り
仰ぐほど高き芙蓉の残る花
名刹の池ひろびろと鳰一羽
露草の露にまみれて古墳行く
露草の小さき古墳に咲き満ちて
境内に入りたるそこに初紅葉
朝の日を返しまぶしき初紅葉
山寺に声もか細く法師蝉
御手洗の縁に群れ咲き杜鵑草
水清し杜鵑草また清々し
どう見てもてんでばらばら秋の蟻
まだ色の青々として実南天
安産地蔵尊の習字懐かし寺の秋
絵に描きて特選の寺実南天
まんまるは落ちない形芋の露
落ちさうで落ちぬまんまる芋の露
お元気なお顔の揃ひ夢道の忌
夢道忌の句会今年は晴々と
爽やかに集ひ夢道を皆で詠む
夢道忌の句会席題烏瓜
烏瓜真っ赤や夢道忌の句会
何処で採ると聞けば秘密と烏瓜
爽やかな秋の一ㇳ日をドライブし
行楽の秋饂飩屋の混み合ひて
産直の市の通草は採れ立てと
通草割れ美味さうな実の剥き出しに
こぼれてもこぼれても咲き残る萩
店先に鶏頭並ぶ町家かな
鶏頭の四五本背丈競ふごと
秋の花昔のままの町並に
卯建立ち並ぶ町並秋の花
藍商の家の庭先藍の花
干し藍を飾り藍染売る商家
藍屋敷草月流の秋の花
仰ぐほど高き蝦夷松新松子
蝦夷栗鼠の好みの木の実新松子
蝦夷栗鼠の巣穴にまでも新松子
この子栗鼠餌を玩具に新松子
蝦夷栗鼠の走る枝先新松子
栗鼠の頬大きく膨れ新松子
美しき栗鼠の歯形や新松子
カロリーの固まりのやう新松子
ひろびろと刈田裏作今は無く
乾きたる風吹くばかり敗荷田
乾きたる音鳴るばかり敗荷田
敗荷の中を突っ切り高徳線
敗荷の中を一両鳴門線
敗荷の残れる水にこふのとり
こふのとり居着く鳴門の敗荷田
孫崎は四国の起点鳥渡る
鳥渡り来て名水の景となる
郷からと一升瓶の柚子酢持ち
ふるさとの父の搾りし柚子の酢と
柚子の酢も柚子もと持って来てくれし
頂きし柚子半分は手で搾り
頂きし柚子半分はお裾分け
命綱して松手入して来しと
見習の命綱して松手入
松手入とは手で毟り手で毟り
調子出てくればお仕舞障子貼り
霧吹いて仕上がり楽し障子貼り
遠き日の母の手白し障子貼り
障子貼り替へて明るき本堂に
享年の齢に迎えし年尾の忌
阿波に来て詠まれし句読む年尾の忌
年尾忌を詠む年尾忌の日の句会
満開と言へど淋しき藍の花
種を採る三番藍の花は地味
藍刈りて掘り返したる土やはらかき
藍の色わづかに残し藍を干す
銀杏の落ちた途端に潰る音
地に満ちてなほ銀杏の鈴生りに
椋の実の大樹の樹齢七百年
美味さうな椋の実落ちしばかりかな
無花果の古代ローマの遺跡にも
無花果は境最古の果物と
取れ立ての無花果並ぶ直売所
無花果のとろけるやうな甘さかな
雨止んで虫の静かに鳴ける朝
長雨の止みてまぶしき今朝の秋
やはらかな日差のうれし今朝の秋
日曜の朝を静かに虫を聴く
開け放ち虫の音色の中にゐる
十日もの雨止み秋の空高し
雨十日続きし後の秋の空
雨晴れてにはかに増えし赤蜻蛉
長雨の止みて空中赤蜻蛉
秋の蚊に付き纏われてゐる私
秋の蚊に刺されし後のこの痒さ
秋の蚊の三日も残るこの痒さ
秋の蚊の老いの一刺しなりしかな
秋の蚊の暗がりになほ息ひそめ
秋の蚊に刺されし跡の一と月も
七曜にお日様マーク秋暑し
熱中症警報も出て秋暑し
感染症予防のマスク秋暑し
浜松は三十七度秋暑し
稲刈の間に新米届けくれ
新米の一俵だけを精米し
恙無く二百十日を迎へられ
転げ落ちさうで落ちない芋の露
まんまるで転げ落ちない芋の露
石垣は舳先の形秋出水
屋根裏に避難の小舟秋出水
仰ぐほど高き地蔵や秋出水
杉檜丸ごと流し秋出水
秋出水跡くっきりと高地蔵
夜なべして朝一番に起きし母
夜なべして羽織仕立ててくれし母
日照雨来て瑞々しかり百日紅
雨滴置く百日紅の花可憐
四方から集まり帰る燕かな
騒がしき帰燕の空でありにけり
発たんとす帰燕に出合ふ旅の朝
幾度か旋回もして燕去ぬ
先頭はもう雲に消え燕去ぬ
焼栗の屋台にも寄り古都の旅
焼栗の香り辿れば屋台へと
通販の天津甘栗煎り立てと
穴まどひ子らに追はれてただ逃げる
君もまた優柔不断穴まどひ
六尺のその身どうする穴まどひ
道辺にまだうろうろと穴まどひ
間引菜と云へば大根葉よ阿波なれば
間引菜の浅漬けあれば食進む
浅漬けの大根葉の根こそことに好き
法師蝉ばかりの山となってをり
法師蝉ばかりの山にみんみんも
鳴くほどに募る淋しさ法師蝉
ひっそりと熨斗蘭咲ける脇路に
残りゐてけふの一と日を咲く芙蓉
葉に穴のあれど芙蓉の咲き続く
真っ白な芙蓉の花にある気品
天辺の方に芙蓉の咲き残り
底紅の紅にも日差やはらかく
紅白の木槿の花を仰ぐ庭
一面に仙人草の犇きて
美しき仙人草の有毒と
御馳走は母の自慢の衣被
色白の母の作りし衣被
子芋好き親芋もっと好きになり
日本酒に添へて芋茎の酢味噌和え
葛の花はるか昔の尾根路に
四国路はここに始まる葛の花
葛咲ける阿波水軍の隠れ路
大方は葉蔭にありし葛の花
うしろ姿どこか淋しき秋遍路
落ち着きも戻りたる街九月かな
水澄んで鯰は鯰鯉は鯉
ランタナの咲きて玄関花やかに
花こぼしつつも咲き継ぎランタナは
今日厄日明日はテロより二十年
台風の行方気になる今日厄日
平凡に過ぎて嬉しき今日厄日
今日厄日明日は句会で特選を
松虫のおっぺけぺえと聞こえもし
女王と呼ばれ邯鄲実は雄
王様の鈴虫は鳴くりんりんと
がちゃがちゃと鳴きてうるさき轡虫
ころころとさみしき声やちちろ鳴く
虫すだく野分の前の静けさに
秋物の売場シックでエレガント
シックかなエレガントかな街九月
秋物の並ぶ売場の垢抜けて
秋物の売場のどこか垢抜けて
鷹の来ず鳶ののんびり舞ふばかり
羽根たたみ突進するは鵟かも
一羽にて帰る燕を見送りぬ
渡りしは三十六と鷹日誌
種類ごと細かな文字で鷹日誌
重装備して鷹を待つ漢達
あの鷹と聞けば図鑑を見せてくれ
時化後の真青な空を鷹渡る
時化後の鳴門の海に魬釣る
日盛りの松葉牡丹の明るさよ
雨あとの松葉牡丹の鮮やかさ
老人と呼ばれたくない敬老日
年寄りとなるは難し敬老日
敬老を祝ひ町より商品券
町からの商品券や敬老日
雲の間に出でて明るき今日の月
ちらと出てまんまるまぶし今日の月
吾亦紅薄と活けて今日の月
やはらかき月の光に実紫
南国や窓辺に蘇鉄月の宴
望の夜の秋明菊の白さかな
子の撮りしハワイの月を見てほしと
秋分のドライブ窓を開け放ち
トンネルを出れば点々曼珠沙華
本堂へ大師堂へと道をしへ
その背中どこか淋しき秋遍路
この小さき蜘蛛の囲作りしは誰ぞ
一寸に足らざる蜘蛛の囲ありにけり
懐かしき家は空き家に赤のまま
古刹守り生生流転道をしへ
生れ立てなれど斑猫らしき青
秋の日にジンジャエールの花まぶし
秋空へジンジャエールの白い花
朝夕はめっきり冷えて実紫
山寺の色美しき実紫
溝蕎麦の水に蜻蛉もあめんぼも
溝蕎麦の犇めき咲ける一と所
小さくともこの紫は油点草
油点草日陰にありて色淡し
短夜に五輪のニュース多過ぎる
日本は五輪五輪の短き夜
テレビまたテレビで五輪明易し
東京の夏は五輪の熱き夏
テレビでの五輪眠たし明易し
金メダルにはドラマ東京の夏
熱きドラマ次々東京の夏
東京の夏は五輪で沸騰す
高知産マスクメロンを中元に
小豆島醤油今年も中元に
中元のお返しですと胡蝶蘭
玄関に置く一対の胡蝶蘭
胡蝶蘭置けば玄関すっきりと
水遣るは週に一度と胡蝶蘭
初物の梨を抱へて来られたる
まんまるの走りの梨でありにけり
藤の実のさ揺れ涼しき風通る
藤棚の大緑陰に独りゐて
木豇豆の実の垂れ寺はもう初秋
空仰ぎ木豇豆の実を仰ぎ見る
新しき墓あり苔の茂る墓所
蝉時雨涼しき阿波の法隆寺
蝉さへも涼しき阿波の法隆寺
鮎の川子らの遊んでゐるばかり
菩提子のどの実にも付く斜めの葉
大屋根を越えて芭蕉の茂る寺
大芭蕉傷一つなくそよぐなり
名刹の茶室は大芭蕉を背に
新涼の茶室の障子少し開き
逆光の透る芭蕉の葉の青さ
静けさの戻りし街に盆の月
もう会へぬ人のまた増え盆の月
ふるさとの町川照らし盆の月
新豆腐ほのかに豆の香りして
横丁の豆腐屋で買ふ新豆腐
都心にも豆腐屋のあり新豆腐
御苑かな粒揃ひなる花芙蓉
蔵を持ち芙蓉を咲かせ里に住む
傷の無き芙蓉の揃ふ御苑かな
この道のいつもこの辺芙蓉咲く
蔵持てるどの農家にも花芙蓉
包丁を木槌で叩き南瓜切る
包丁にかぶりつきたる南瓜かな
年寄りの切るには南瓜硬過ぎる
一刀両断するに手強き南瓜かな
いただきし南瓜くりやに転がりて
稲妻に臍を隠せと言はれし日
稲妻のだんだん近くなってくる
競歩とは汗汗汗の競技かな
水かぶり全身汗の競歩かな
灼熱の東京五輪は「拷問」と
波立てぬ高飛び込みの涼しさよ
原爆投下されし地に咲く夾竹桃
お湿りのほどの雨降り秋に入る
蝉鳴けど時雨とならず秋に入る
夏の夜の夢かリレーのバトンミス
夏の夜のリレーまさかのバトンミス
夏の夜の夢かメダルの逃げてゆく
金メダル取るも逃がすも夏の夢
ドラマまたドラマの夏の五輪終ゆ
メダル取り感謝の言葉美しき夏
金メダルには汗と涙の物語
金銀銅メダルラッシュの短き夜
ソフト金野球も金で夏終はる
広島と長崎の忌や今朝の秋
メダルの夢潰へし人も夏終はる
諦めないから勝つ東京の夏
灼熱の東京五輪終はりけり
世に希望与へ五輪の夏終はる
世代交代進み五輪の夏終はる
防空壕残る城山敗戦忌
防空壕眉山に数多敗戦忌
防空壕今は閉ざされ敗戦忌
壕の吾は泣かなかったと敗戦忌
二歳児の吾にも記憶敗戦忌
火達磨の銀杏は元気敗戦忌
鉄橋に残る弾痕敗戦忌
琉球の青パパイアの三つも来
抱へたる青パパイアの大きさよ
渋抜けと青パパイアに添書も
肝腎に良いとパパイア送りくれ
切り割けば青パパイアの腹真白
渋抜ける青パパイアを御裾分け
琉球のマンゴー五度も送りくれ
送られしマンゴー知多へ東京へ
八人の孫にマンゴー送りもし
果物は朝がいいねとマンゴーも
朝食にいつもマンゴー添えられて
完熟のマンゴーなりし甘かりし
結果良しマンゴーもまた美味かりし
血糖値下がりマンゴー美味かりし
鈴生りのマンゴー仰ぎ見しマニラ
マンゴーを山と積み上げ露地に売る
ジャカランダ阿波にも咲いてモラエス忌
リスボンは崖多き街モラエス忌
ケーブルで行きたる生家モラエス忌
生家へは二度行きましたモラエス忌
リスボンは大きな田舎モラエス忌
モラエスさん今年何とか阿波踊
モラエス忌来れば徳島梅雨明ける
鯵焼いて鰯も焼いてモラエス忌
独居老人阿波にも増えてモラエス忌
軍人で文人なりしモラエス忌
モラエスは海軍士官雲の峰
わが祖父も海軍でしたモラエス忌
今も美味海軍カレーモラエス忌
領事団首席凛々しきモラエス忌
徳島の小泉八雲モラエス忌
湧き出づるところ見えねど草清水
百選の銘ある水のあめんぼう
竹藪の天辺抜けし今年竹
天辺に鴉が一羽今年竹
捩花のどれも左に巻き上がり
源泉を守るがごとく花蘇鉄
ラグビーのボールのやうな花蘇鉄
百選の清水の川辺濃紫陽花
濃紫陽花ここに清水の始まれる
川を守り川辺に百合を咲かせもし
川岸に百合を咲かせて七年と
犇けるほどにアメリカ芙蓉咲き
一日で萎むアメリカ芙蓉かな
真っ新な芙蓉の花のもう萎み
こはれたるやうに泰山木の散る
楊梅を踏みつけぬやう段上る
ほととぎす鳴かず老鶯鳴くばかり
楊梅の美味さうな実の落ち放題
人去ればあれほど鳴きし老鶯も
遠く見る泰山木の花美しき
近く見る泰山木の花いびつ
大方はいびつ泰山木の花
鈴生りの楊梅なれど捨て置かれ
鈴生りの楊梅甘き香を放ち
老鶯の身を震はせて鳴き通す
笹の中より鬼百合の咲き出でて
鬼百合の一花の凛と笹の中
泉州の水茄子届く箱に詰め
糠漬の紫美しき茄子かな
バーベキュー我が家の締めは焼茄子と
芥子漬するには小茄子一番と
田楽は茄子に始まり茄子に終る
紙魚あれど高値古文書オークション
血か紙魚か阿波の一揆の古文書に
朝顔市ほおづき市もできぬ夏
阿波踊だけは何とかできる夏
空揚げにせんと琵琶湖の稚鮎買ふ
片栗粉まぶして稚鮎空揚げに
撮み食ふ琵琶湖の稚鮎空揚げし
空揚げの琵琶湖の稚鮎お代りす
一時間クルーズをしてもう日焼
日焼して後の祭りの日焼け止め
日焼して丹念に塗る日焼け止め
ちと日焼せしが七日も皮の剥け
日曜の市に目当ての甘酒が
甘酒の重さを語り持ち帰る
妻もまたぐいと飲み干す甘酒は
玄関の松にも蝉の殻三つ
油蝉より熊蝉の多き世に
蝉時雨ひたと止みたる不気味さよ
手の平に取る空蝉の軽さかな
目覚めれば始まってゐる蝉時雨
鳴かぬ日は淋しとさへも蝉時雨
五、六匹なれど我が庭蝉時雨
軍手して夜釣りの鱧の鉤外す
先斗町でいただく阿波の鱧旨し
狼のやうなる鱧の面構へ
鱧買へば骨切りまでもしてくれて
徳島の鱧と京都で愛でられて
獰猛な鱧の切り身の淡白さ
鱧の皮焼けば絶品酒進む
山頂に野鳥の森や時鳥
時鳥鳴かぬと待てば麓より
遠くより来られし人に時鳥
梅雨晴れの山頂鳶の低く飛ぶ
山頂は平らな野原姫女苑
草として抜かれてしまひ姫女苑
山頂の句碑への径の姫女苑
蝉涼し小六正勝眠る墓所
五月晴淡路も紀伊もすぐそこに
五月晴四国三郎蕩蕩と
紫陽花よ若楓よと小糠雨
涼風の戦ぐ山頂濃紫陽花
きっぱりと梅雨明け空の広くなる
梅雨明けて昨日も今日も日本晴
梅雨明けて熱中症のニュース日々
梅雨明けて子らは朝から水遊び
地の中を這ひし鎧か蝉の殻
目の前の蝉は一服蝉時雨
目の前の蝉が尻上げ鳴き始む
命尽き地に落つ蝉も蝉時雨
蝉二十まだまだゐるよこの木には
生きてゐるやうに空蝉しがみつき
鈴生りに蝉ゐる木ありゐぬ木あり
一匹が鳴けば始まる蝉時雨
じっくりと鳴くを待ちゐる蝉もゐて
金メダルラッシュラッシュで明易し
目覚めれば五輪のテレビ明易し
農協の市に向日葵苗も出て
向日葵の大きく咲いてをりし苗
瑞々し雨後の日差の額の花
額の花雨に洗はれ生き生きと
立葵には洋館のよく似合ふ
風跡のあらはなりけり立葵
一雨に背を伸ばしをり立葵
よく肥えた畑の土の立葵
色の無き白で始まる七変化
紫陽花の毬の集まり大鞠に
鯉を見て紫陽花を見て客となる
鯉よりも紫陽花に人寄って来る
鮮やかな赤でありけりアマリリス
咲きました今年も母のアマリリス
紫陽花の一雨毎に色の濃く
紫陽花の紫色の少しづつ
紫は仕上げの色か濃紫陽花
ワクチンの接種の終り桐の花
あっけなく接種の終り風薫る
梅雨晴れてワクチン接種完了す
二回目の接種も終り青田風
白競ふかに十薬と百合の花
額の花十薬百合とどれも白
雨の日の半夏生草遠目にも
半夏生近くで見んと寄り道し
雨の日の紫陽花の色初々し
紫陽花は昔も今も雨に咲き
燕飛ぶ青田の水面すれすれに
豊葦原瑞穂の国の青田風
のどかかなミーアキャットも欠伸して
もぢずりの二つ三つ四つ七つ八つ
遊ぶ子に少し離れてねぢりばな
蝌蚪泳ぐ池の真ん中花菖蒲
白熊もライオン虎も皆昼寝
骨張って象にも夏痩せのあるか
団子虫さがす子夏の動物園
一休みして花菖蒲見るベンチ
睡蓮のあそこにそこに咲ける池
泥水に咲きて清らか睡蓮は
犇ける五月躑躅の明るさよ
影見えぬほどに咲き満つさつきかな
小鯵釣る入れ食ひといふ楽しさよ
小鯵釣る島の漁港の突堤で
一竿に十の鉤つけ小鯵釣る
十の鉤皆に掛かりし鯵重し
鯵買へばなめろうにしてくるる店
クーラーに羊羹鯵の御返しと
青蘆や近江八幡舟巡り
青葦に見え隠れする小舟かな
葭切の葭の河原に夕日落つ
葭原は映画のロケ地行々子
河口には大きな中洲行々子
水郷を行けば姦し行々子
日の光返して竹の落葉散る
ふんはりと竹の落葉の重なれる
からからと小さき音して竹落葉
みな火虫くはがたかぶとかなぶんも
こびりつくヘッドライトの火取虫
誘蛾灯なる名懐かし火取虫
百選の水に群れ咲き鴨足草
虫刺されには鴨足草搾り塗り
耳垂れに搾りし昔鴨足草
解熱には鴨足草なる遠き日よ
穂高よりこんこんと水花藻咲く
藻の花の水澄みに澄む上高地
百選の水に藻の花咲き満ちて
藻の花の水面を出れば突っ立ちて
藻の花のひねもす揺らぎをりにけり
太陽に向かひ藻の花咲いてゐる
藻の花のいつも流れに身を任せ
田の隅のいつもこの場所余り苗
犇きて黄ばみ始めし余り苗
吹き抜けのロビー七夕飾りされ
七夕の竹に短冊鈴生りに
疫病の退散祈り星祭
オリンピックできるやうにと星祭る
仙人掌の今年二度目の開花かな
一と月もおきて仙人掌また咲ける
浮いて来い東京五輪できますと
浮いて来い日本は世界待ってると
川端の夾竹桃の清々し
秋晴れのやうな青空梅雨晴れて
赤ちゃんも手を振ってくれ遊船は
架橋工事眺めて戻る船遊
鱚釣りの船を左右に船遊
潮風の吉野川ゆく船遊び
吉野川河口ひろびろ鱚を釣る
父の日の父のんびりと鱚を釣る
眉山より離れて戻る船遊
街並みを裏から眺め船遊
知らぬ地に来てゐる気分船遊
眉山見え気分落ち着く船遊
遊船の帰路は眉山を正面に
幾つもの大橋潜り船遊
夕べにもアガパンサスの明るさよ
アガパンサス咲いて明るき公園に
筍を掘る斜交ひに山登り
筍を掘る足滑らさぬやうに
筍掘る竹につかまりつつ登り
竹散るやひらひらひらとさらさらと
乾きたる音して竹の落葉舞ふ
見上げれば竹の落葉の日を返し
筍の日差し明るき竹林に
筍の土ふかふかとしてをりぬ
皮を剥ぐ掘しばかりの筍の
茹で上げる堀しばかりの筍を
白壁の家の庭先紫蘭
母の日の母へと胡蝶蘭届く
母の日の母から母へ胡蝶蘭
葉桜のもう深緑となってをり
樹下にゐて鶯の声近くなる
若楓越しの日差のやはらかく
ベランダの楓若葉の明るさよ
錦宝樹真っ赤に咲いて夏来る
夏空にブラシの花の真っ赤かな
雨意孕む茅花流しでありにけり
烟りゐる茅花流しの吉野川
暮れて来し茅花流しの土手帰る
豆飯の豆沢山は母の味
豆飯の豆の犇き炊き上がる
豆飯の水の加減は母譲り
しっとりと硬きがよろし豆ごはん
蚕豆はぽんぽんと莢折って剥く
蚕豆に遠き昭和の味がする
蚕豆を毎日食べし日の遠く
遠州の昔の上司より新茶
初摘みの遠州森の新茶汲む
初摘みの新茶とろりとして甘し
母の日の母にと新茶嫁御より
苗植うる茄子に無駄花なかりしと
高畝に一尺毎に茄子植うる
日の暮るるまでにと茄子を植ゑてゐる
山の子の草笛の音の豊かなる
町の子の草笛ピィッと鳴るばかり
私の草笛鳴らず仕舞かな
草笛の音色のどこか淋しくて
薫風に黒種草の花揺れて
夏来る黒種草の咲き満ちて
一面に咲いて昼咲月見草
夏日にも凛と昼咲月見草
田の隅に苗代作る今年また
苗代は今も手作り貫きて
美しき花打ち捨ておきし仙人掌に
いきなりに仙人掌咲ける朝かな
仙人掌の真珠のやうな花の色
仙人掌の花は太陽正面に
仙人掌の今日一日を咲き誇る
仙人掌の一日限りの花美しき
雨続き二十日も早く梅雨に入る
梅雨に入る庭の緑の美しく
雨滴置く葉の凛々しかり額の花
紫陽花の青き毬にも雨雫
蛸茹でてあるから取りに来られよと
茹で立ての小振りの蛸の旨さかな
渦潮の鳴門の蛸のまるまると
激流の鳴門の蛸のしこしこと
十薬の葉の光りゐる雨の朝
十薬の花の白さよ今日も雨
十薬の花を可憐と思ふ朝
十薬の黄昏時の白十字
桜咲く陽気となれど残る鴨
花咲けど帰る気配の見えぬ鴨
故国には桜は無いと仰ぎゐる
五年ゐて今年最後のお花見と
美しき日本と思ふ桜かな
コンビニの弁当持ちてお花見に
先づ花のトンネル抜けて来られよと
鶯を背ナに桜を眺めもし
花の山より花の山眺めもし
花の下たんぽぽすみれせりも咲き
見渡せば眉山丸ごと花の山
こんなにも眉山に桜ありしかと
此れやこのゆうかの里の糸桜
手植ゑせししだれ桜の咲ける里
十年で三百五十の桜植ゑ
十年で酢橘の山が花の山
酢橘やめ花の名所になりし山
嫋やかなしだれ桜のしだれやう
こんなにもしだれてしだれ桜かな
日本一しだれ桜を咲かさうと
花屑の屑とは何ぞ桜散る
新しき落花の上にまた落花
曙桜なる名の花の大きさよ
曙桜見んと毎年来る人も
眉山より残花の峰を眺めもし
見下ろせば街ぼんやりと花霞
遠目にもマーガレットの白さかな
犇けるマーガレットの美しさ
若葉出てゐても咲き継ぐ桜かな
若葉出て桜の艶のいよいよに
闌けゆけばいよいよ多彩花の山
若葉萌ゆ山に残りてゐる桜
花は嘘つかぬと育て八十路過ぐ
耕してゐるが長寿の秘訣とか
世に名残あるかのやうに桜散る
二十年かかりて花の家となる
チューリップ咲かせ生涯青春と
山住みは楽しいですと花咲かせ
山吹の垣根明るき山家かな
雨に濡れ山吹の色一段と
留まりて渦となりゐる花筏
河鹿聞きたくて今年も吊橋に
河鹿聞く一声なれど嬉しくて
著莪の花斜面の崖を埋め尽くし
著莪咲いて径の明るくなりにけり
珍しき山菜も出て花の宿
山宿は花と若葉に囲まれて
庭先の牡丹見てより来られよと
大輪の牡丹見てより客となる
原色と云ふ明るさのチューリップ
太陽に笑顔の並ぶチューリップ
太陽も子らも大好きチューリップ
並ぶとは美しきことチューリップ
ログハウス風車も並びチューリップ
六十種五万本てふチューリップ
チューリップと云へば赤と白と黄と
チューリップ園に新種も御目見得し
日を浴びて新芽まぶしき百日紅
瀬戸内の初夏の明るき日差かな
初夏の日を返すプールのまぶしさよ
肥として鋤き込まれゆく菜の花よ
休耕の田には菜の花咲かす里
司馬遼太郎邸へ菜の花咲く道を
菜の花の淡路は空も海も青
海にまで菜の花続く淡路かな
菜の花の場所取り合戦吉野川
フレームの中に苗床種を蒔く
小雨来る予報確かめ種を蒔く
店先に筍わらび山蕗も
渦潮に骨折の跡桜鯛
店頭で味見もさせて桜鯛
産直の市にずらりと桜鯛
寿福寺の椿椿の花御堂
そんなにも甘茶なみなみ注がずとも
虚子の忌に参じたる日の花御堂
鎌倉の虚子忌懐かし花御堂
手を引かれ来たる子もあり花祭
庭先に咲きしもの葺き花御堂
再度見る都忘れと教へられ
若葉出ていよいよ白き雪柳
隙間なく犇き咲いて雪柳
この鮨屋いつも満席雪柳
玄関に客間にと生け雪柳
白き点歩き遍路となって来る
遍路標たどり遠道来る人も
七半の遍路新婚夫婦とか
一滴の雨なき穀雨なりしかな
日本中晴天なりし今日穀雨
二分咲いて赤き蜂須賀桜かな
二分咲きの桜に目白椋鳥も
早春の山の古刹に鹿の糞
塵一つなき境内に梅の散る
散り敷きてなほも咲き継ぎ梅の花
蔵のある屋敷大きな臥竜梅
広き野を行けば初音の向かうより
初音聞きたくて野道を行き戻り
畑一枚埋め尽くして仏の座
耕せば雀鶺鴒付いて来る
太陽光パネルの光る里の春
大楠に続いて見上ぐ藪椿
芽を出せばいきなりの花クロッカス
この道のいつもこの場所クロッカス
梅林の梅の野梅となる速さ
梅林の土やはらかく草萌ゆる
彼方此方に犇めき咲ける黄水仙
雑草と云ふ草はなし草芽吹く
江戸の世を今に蜂須賀桜咲く
塵の無き庭に蜂須賀桜咲く
一本で庭埋め尽くしゐる桜
散り初めていよよ咲き満つ桜かな
山茱萸の花咲いてゐる武家屋敷
裏庭に山茱萸の花咲き満ちて
川面にも蜂須賀桜赤く咲き
ダウン着て蜂須賀桜見に来しと
花の下親子の無料撮影会
能面の享保雛は何思ふ
首傾げポーズ取りしは古今雛
芥子雛の少し目尻を釣り上げて
贅沢をするなてふ世の雛小さき
巣作りの小枝くはへて鷺帰る
地虫出づ御殿の庭に鳩雀
人群るる花見の宴はできねども
吉野川堰まで汽水蜆掘る
蜆掘るにも入漁料支払って
潮待てば中洲ひろびろ蜆掘る
蜆掘る漁師は水に胸までも
接木して世に無き新種作らんと
薔薇園に挿木の並ぶサンルーム
挿木して枯らしてしまひまた挿木
虎杖を折ればすぽんと音のして
虎杖の瑞々しさよ酸っぱさよ
塩ありていよいよ旨き虎杖に
懸命に螺旋描きて揚雲雀
引力に任せゐしごと落雲雀
地に降りし途端に雲雀ゐなくなる
雲雀野を来て雲雀野に出る札所
手作りの蓬餅にて迎へられ
餡もまた手作りといふ蓬餅
一輪の添へて出されし蓬餅
蓬餅一品だけの小商ひ
畝立てていつもこの場所芋植うる
里芋の子芋が好きで芋植うる
自家用の芋は屋敷の内に植う
野蒜摘み酒は清酒か白ワイン
野蒜摘む心弾んでをりにけり
野蒜とはあそこにそこに足元に
紀の海へいかなご舟の淡路より
ゆったりといかなご舟の浮かぶ海
釘煮好しちりめんも好し小女子は
小女子のちりめんですと送りくれ
料理屋の生垣真白雪柳
咲き満ちてこその青春雪柳
船着き場ありしは昔馬酔木咲く
馬酔木咲く卯建の町の港跡
川端に柳の大樹芽吹く町
ほんのりと黄ばみ始めし柳の芽
葉牡丹の渦盛り上がり茎立てる
店先の鉢植春を彩りて
鉢植に春の日差の暖かく
控え目でゐる美しさ霞草
花嫁のベールのやうな霞草
春風に家中の窓開け放ち
箒目の残る寺苑に落椿
地に落ちし椿のなほも瑞々し
春雨に鯱鉾烟る国分寺
春雨に庭の青石美しき寺
巨岩組み合はせし庭に牡丹の芽
去ぬ気配なき鴨のよく太りをり
花の雨滑らぬやうに磴下りる
初場所の平幕優勝めでたけれ
初場所の平幕重いと賜杯抱き
初場所の賜杯を抱きて重かった
初場所の賜杯は突きの平幕に
鴨群るる中学校のプールにも
七羽もの鴨の来てをり学校に
こんもりと畑一面仏の座
仏の座茂る畑を冬耕す
鬼やらふ園児も声をはりあげて
節分の鬼の面つけにこにこと
立春の光まぶしき新居かな
立春の風のわづかに尖って
立春の風に残ってをりし棘
立春の光りは松の葉先にも
玄関の松に春立つ日の光
立春の星座明るくありにけり
春耕の後に雀も鴉も来
春耕の土掘り返す鴉かな
地虫出て雀に鴉白鷺も
二ン月の四国三郎きらめいて
噴水のしぶきまぶしき二月かな
水撥ねてまぶしき春の光りかな
満作のもじゃもじゃの黄のまぶしさよ
眉山嶺のパゴダまぶしき二月かな
マスクしてゐても梅の香ほんのりと
昨夜掘りし土竜の土か温かし
土竜打なるは知らねど土竜跡
草萌ゆる土竜の土のほかほかと
満作の枯葉纏ひて咲きにけり
満作の後生大事に枯葉つけ
去年の葉を大事に咲けり満作は
満作の咲き満つ空の青さかな
満作の黄に始まれる磴上る
畦を焼く寺領ひろびろ国分寺
野焼の火いきなりどっと走り出す
生き生きとワイングラスの椿咲く
水吸って見る間に伸びし蕗の薹
春の風邪なんぞ引いてはをられぬと
熱の無く一安心の春の風邪
春風邪と云へど巣籠りしてゐると
昼はただ寝てゐるばかり恋の猫
猫の恋三毛もペルシャも野良猫に
恋猫に「放蕩息子の帰還」ふと
ずぶ濡れて虚ろな眼恋の猫
春耕の畑に椋鳥鶺鴒も
なづなもうぺんぺん草となってをり
なづなからぺんぺん草になる速さ
ひろびろと雛を飾りあるロビー
階段を上ればそこに飾り雛
梅咲いて昔と同じ空の青
清き水流るる岸辺梅の花
咲き満てる梅林の土やはらかく
独りゐて梅の香りを存分に
そこここに咲き初む梅の白さかな
梅咲いて亡き人のこと語り初む
山に野に川辺にも梅咲ける里
梅林の土ほかほかと仏の座
盛り上がるほどに群れ咲き仏の座
石垣の上の方より枝垂れ梅
釣鐘のやうな形に枝垂れ梅
春一番吹いたと後で聞くばかり
春一の恐さは伝へ聞くばかり
春一の来るてふ予報聞かざりし
踊り食ふ白魚の目のいとほしく
椀泳ぐ白魚の目のいとほしさ
群れて来る白魚じっと待つ四手
朝潮に乗りて白魚来ると云ふ
寒戻る阿波に初雪牡丹雪
降り続きゐても積もらず牡丹雪
きっぱりと晴れ渡りたる雨水の日
青空のまぶしきほどや雨水の日
寒牡丹ならぬ葉牡丹藁苞に
藁苞の葉牡丹渦を巻きあげて
句碑の辺に紅白の梅咲き添ひて
句碑の辺に少し離れて蕗の薹
近づけば蜘蛛の子のごと目高散る
日の差せば水面に寄ってくる目高
この小さき初蝶の目と目の合ひぬ
くっきりと紋あり小さき初蝶に
うららかや句碑を囲みて句に遊ぶ
句碑の字の墨黒々と梅白し
2021年1月
スーパーに竹輪麩けふはおでん鍋
竹輪麩のおでん東京日々遠く
蟹の身を詰めたおでんよ金沢よ
正月の客に振る舞ふおでんかな
客迎ふ亭主自らおでん茹で
大鍋におでんを茹でて迎へくれ
冬紅葉越しなる空の青さかな
ちらほらと咲いて満開冬桜
つまものに冬の日差の暖かく
山葵田にやさしき冬の日差かな
冬枯れの山に山葵の田の緑
葉山葵の緑輝く冬日向
取る人もなくて残ってをりし柿
キャンピングカーも来てゐる冬の宿
青竹の正月飾り凛として
門松の材で正月飾りかな
門松の凛と創業百年目
門松の青竹高く正門に
門松や今年創業百年と
門松を見上げ出社の足軽く
初暦めくれば小川芋銭の絵
初暦一茶の句にて始まりぬ
初暦掲げば気持ちしゃんとして
年毎に小振り我が家の鏡餅
鏡餅飾らぬ家の多くなり
子の家は鏡餅なく餅もなく
子も嫁も鏡餅など飾らぬと
鏡餅飾る頑固と言はれても
鏡餅だけは断固として飾る
鏡餅飾れば気持ち引き締まる
鏡餅飾れば早もひび割れて
鏡餅だけは飾ると頑なに
鏡割して七草の粥の具に
欠餅にしていただきし鏡餅
欠餅にすれば絶品鏡餅
欠餅にすれば完食鏡餅
濡れ羽色いと美しき寒鴉
颯爽と来て颯爽と去る寒鴉
群れてゐて一つ一つや福寿草
禁苑のいつもこの場所福寿草
ふるさとはもう福寿草咲きしかと
ふくよかな母の顔ふと福寿草
庇より槍のやうなる氷柱垂れ
落ちさうな氷柱の槍の真下行く
背丈越す氷柱草津の宿の朝
いと赤し雪の越後の寒灯は
星かとも思ひし祖谷の寒灯は
昼もなほ寒灯灯しある末社
迷ひ来し径の寒灯ありがたく
寒灯の一つに一つある夕餉
見つけたりわが坪庭に竜の玉
その奥に潜んでをりし竜の玉
お散歩のブルドッグにもちゃんちゃんこ
首すぼめ身じろぎもせず番鴨
山茶花の垣根ばかりの輝きて
戻り来し鷺の冬日の暖かく
どの鷺も身を乗り出して冬日受け
冬日向鷺のコロニー復活す
石庭に一点の赤実万両
梅一輪一輪なれど凛として
その中に独りで来る子大試験
一抱へもの山茱萸の花活けて
山茱萸の花の明るきロビーかな
雨三日臘梅の香の消えてゐず
雨三日臘梅の艶いや増して
雨滴置き瑞々しかり落椿
散るほどにいよよ咲き満ち姫椿
石段の青石真青寒の雨
除かれし橙に雨どんど跡
受験子の絵馬新しく美しく
初場所の天晴平幕初優勝
初場所の平幕上位を総嘗めし
初場所を突き押し一本まっしぐら
初場所の上位力士の腑甲斐無さ
葉牡丹を眺め入って来られよと
雨の日の葉牡丹にある勢かな