落葉踏み紅葉錦の城巡る
仰ぎ見るメタセコイアの黄葉を
城山はあそこもそこも石蕗の花
日の陰にありて鮮やか石蕗の花
遠目にも満開なりし石蕗の花
搦手に近づくほどに石蕗の花
搦手の径はここより石蕗の花
ほどほどでいいのに城の石蕗の花
ほどほどの御殿の石蕗の花美しき
戦災に残り銀杏鈴生りに
極限の美となり銀杏散り始む
時雨来て歩こう会の駆け足に
冬薔薇阿波は南国勢あり
競ふごと咲いて冬薔薇なりしかな
ほどほどといふ美しさ石蕗の花
ほどほどを越へてお城の石蕗の花
黄落の明るさ浴びて子ら遊ぶ
黄落の只中にあり藩主像
黄葉を見上げ落葉を踏み締めて
戦災に耐へし銀杏の照黄葉
品の良く御殿の庭の石蕗の花
岩抱けるやうにも咲いて石蕗の花
流水に沿ふが如くに石蕗の花
石蕗の花ありてこそなり岩の山
平らかや小春日和の瀬戸の海
注連飾る海へ伸びゆく参道に
うどん屋に皇帝ダリア高々と
ひろびろと穭田続く伊予に入る
穭田も黄金の色や予の国は
煙突の煙真っ直ぐ秋空へ
鈴生りの柿をどなたも見てをらず
鈴生りや自家菜園の蜜柑にも
稀に赤混じる四国の照黄葉
冬耕と云ふほどでなく畑に出て
家ほどの山茶花咲ける町屋かな
新幹線生みの親なる里の秋
枇杷の花この駅もまた無人駅
泡立ち草皇帝ダリア並び立つ
ターナー島指呼に皇帝ダリア立つ
家毎に蜜柑の実る伊予の秋
家々に蜜柑たわわや予の国は
街路にも蜜柑の実る街に来て
小春日を俳句ポストのある街で
銀杏散る十重に二十重に敷き詰めて
天辺に緑を残し銀杏散る
翡翠は水に小鳥は山に来る
坊っちゃん電車来れば小鳥の散らばれる
坊っちゃん電車行けば小鳥の戻り来る
枯萩に残る緑の鮮やかさ
枯れて行く萩に明るさありにけり
裂けるほど口開け石榴たわわなる
鈴生りの石榴いづれも口開けて
美しく枯れて音なく柳散る
その下に彩り広げ柳散る
その葉まで朱色に染めて実南天
その上の屋敷の庭の実南天
公園の奥に真っ赤な紅葉かな
日当たっていよいよ真っ赤なる紅葉
喬木を駆け上がりゐる蔦紅葉
やや暗き所にありし蔦紅葉
公園を巡り紅葉に足止める
紅葉と云ふ天然の美しさ
曲がる度桜紅葉の登城坂
冬晴れの城石鎚の峰も見え
マドンナのロープウエイにも冬温し
ロープウエイにもマドンナの街冬温し
石垣に桜紅葉の美しき城
天守閣前まで桜紅葉かな
見惚れゐる桜紅葉の赤であり
大会は時雨るる城を前にして
早々と獅子舞も出て里祭
早々と獅子舞の出る小春かな
冬晴や拍子木太鼓音冴えて
冬晴の空を飛行機縦横に
獅子舞の稚児に冬日の暖かく
掘り出せし史跡の土に冬日差す
笹鳴きと云ふは正しく笹に鳴く
登城阪一息つけば笹鳴ける
笹鳴ける姿見えねど動きけり
笹鳴きの私だけに聞こえぬ日
具沢山過ぎる雑炊持て余す
雑炊の地芋とろけて甘かりし
熱熱の雑炊なれば少しづつ
雑炊に四方山話はづむ夜
猪鍋をジビエ料理と云ふさうな
猪鍋を牡丹鍋とは上品な
子も嫁も孫も好きてふ牡丹鍋
旨かりし鮎料理屋の牡丹鍋
猪出ると云う町に来て牡丹鍋
奥能登の闇の中より虎落笛
波荒き能登の外浦虎落笛
餅搗きし昭和も遠くなりにけり
三味線に合はせて餅を搗ける町
餅を搗くにも序破急のありにけり
餅搗きの餅を反せる手際かな
搗き立てが一番旨し黄粉餅
搗き立ての餅は大根卸でも
柚湯しか思ひ浮かばぬ冬至かな
山の端に冬至の細き月かかる
市巡る買ひし大根ぶら提げて
とれとれの冬菜のどれも百円と
着ぶくれのぶつかり合へる朝の市
冬日差し土佐の刃物の光る市
競り売りやポインセチアも葉牡丹も
寒風に干せよと云ひて鱓売る
寒風に鱓を干せと云はれても
三尺を超ゆる鱓の太さかな
捌くから鱓を買えと云はれても
柿並ぶ大和愛宕と来て次郎
冬の星汀子の星のまたたきぬ
オリオンを見てより冬の星を見る
どれも皆凍てつけるかに冬の星
こんなにもたくさん見えて冬の星
体調を整えおくも年用意
ほどほどにして年用意せしとせん
くたびれぬことが肝心年用意
愛宕柿一箱買ひて吊るしけり
愛宕柿剥ひて吊るせば一と日終ゆ
雪の日の竪穴住居暖かし
臘梅の匂はぬほどの寒さかな
日差受け臘梅らしき香を放つ
日差受け臘梅らしき艶となる
日差受け臘梅少し膨らみぬ
葦葺きの屋根に残りし雪も消え
ぢつと待ちをればやうやく笹子鳴く
葦葺きの史跡の里に雪が降る
雪止みて風の冷たき晴天に
葦葺きの屋根より雪の降り積る
竪穴住居並ぶ史跡に雪が降る
冬晴の阿波の史跡の里に立つ
静かなる史跡に小鳥賑やかに
紅葉山どれも古墳ぞなだらかや
雪止みてきつぱりと晴れ渡る空
阿波の国始まる里に笹子鳴く
菊どんと活けて新装せし老舗
和菓子には旬のありけり栗鹿の子
都心にも芒の戦ぐ庭のあり
ひろびろと芒の咲けるホテルかな
天高しホテルの滝を見上げれば
滝の辺に咲き残りしは萩の花
アメ横の今日の目玉は松茸と
歳末の街にも一度来られよと
秋日濃し本丸御殿石庭に
秋日差す庭の箒目際立てて
内庭に石蕗の花咲く博物館
内庭に水琴窟と石蕗の花
蔵の街巡りてをれば暮れ早し
秋空に男前かな時の鐘
秋一と日汽車の形の乗り物で
銀杏の鈴生りなりし園巡る
庭園の紅葉水面まで染めて
紅葉の日本庭園茶屋で見る
雪吊りの終りし松の高さかな
逃げたかたと見ればまた来て赤蜻蛉
ほととぎすとはこんなにも犇ける
ほととぎす草の煌めき咲ける庭
小さかり盆栽苑の鶏頭は
蔓のごと盆栽苑の竜胆は
庭園の茶室の庭に野菊咲く
近づいて見れば野菊の繊細な
噴水を背にコスモスの鉢並ぶ
噴水もコスモスもまた美しく
天守閣前は今年も菊花展
敗荷の水に鴨来て翡翠も
小田原の宿場の跡や柳散る
酸つぱくて甘き石榴のジュースかな
蒲鉾の老舗秋明菊咲ける
遠目にも秋明菊の白さかな
空港に柿栗林檎並ぶ市
産直の柿よ栗よと空港に
機窓より積雪の富士眺めもし
暮れ早し富士の姿もおぼろげに
捨墓に寄り添ふやうに実千両
ほったらかしされし庭にも実千両
結界の垣根を越えて実千両
木豇豆も枯れ尽くす寺冬に入る
鐘楼の屋根の雑草にも冬日
継ぎ接ぎのされし古刹の白障子
青空の高く明るく冬に入る
青空に白鷺の舞ひ冬に入る
禅林に小鳥来る来るまたも来る
本堂も茶室も閉ぢて冬に入る
庫裏しんとして名刹の冬に入る
観世音笑み湛えつつ冬に入る
ご奉仕の衆に任せて冬に入る
老僧は姿も見せず冬に入る
張り替へぬ障子のままに冬に入る
重文の古刹鎮もり冬に入る
立冬の観音堂に人気無く
蓮根掘るホースの水を鋤として
蓮根掘る外つ国よりの研修生
蓮根掘る高徳線に沿ふ畑で
泥の顔互ひに笑ひ蓮根掘る
生垣の茶のちらほらと花つけて
茶の花の小さきながらも金の蕊
茶の花の小さきが一つ二つ三つ
冬耕の翁について行ける鷺
冬耕の皆に声掛け早仕舞
冬耕は昼間のうちと同級生
世に遠く住むことに慣れ花八手
木洩れ日に少しまぶしき花八手
手入せぬ庭に今年も花八手
御苑にも裏口のあり花八手
薔薇と菊香る花束贈られて
花束を抱き菊の香に包まるる
皆が見る皆既月食なる月を
日本中月と星とのショーに沸く
皆既月食部分月食ともに見て
何事も無かりし如く満月は
我が庭の彼は誰れ時の石蕗の花
一株がこんなにも増え石蕗の花
新米のぼうぜの鮨は阿波の味
柚子の酢のぼうぜの鮨は母の味
お歳暮と三ヶ日蜜柑早も来る
三ケ日の蜜柑昔の上司より
朝の日に紅葉の赤のまぶしかり
真つ赤なる紅葉に残る緑かな
大和柿待ちて今年も吊るしけり
皮剥いて塩湯に通し柿吊るす
特大の大和柿剥き吊るしけり
特大の柿剥く林檎剥くやうに
柿吊るし終へれば寒さ一段と
大仕事したる気分や柿吊るし
大鷲の凧でありけり鳥威
里人のやうな人形鳥威
ビニールの烏を吊るし鳥威
見れば買ふ旬の短き無花果は
木に登り無花果採りし日の遠く
無花果の乳のやうなる汁を垂れ
無花果はごはごはとした葉の先に
搦手は暗き密林小鳥来る
城山は天然の森小鳥来る
小鳥来る野鳥の絵ある公園に
小鳥来る眉山に野鳥観察園
徳島の高尾山でと烏瓜
この径に採りし記憶や烏瓜
蔓引けば二つ三つ四つ烏瓜
烏瓜真つ赤や夕べの光にも
敗荷田一点の白こふのとり
視野果つるまで一望の敗荷田
残したし敗荷田行く鳴門線
敗荷の残れる水に動くもの
ガス設備点検もして冬支度
住所録整理するのも年用意
一番は健康管理冬支度
予定皆書き出すことも年用意
新札を用意するのも年支度
がむしやらに走る子が好き運動会
誰も彼も我が子に夢中運動会
初鴨の中学校のプールにも
初鴨の来てこの川の景となる
初鴨の陣らしきもの早も組み
初物の柿二つだけ選び買ふ
外つ国の市でも柿はかきと言ふ
大和柿待ちて今年も吊るさうか
柿畑いくつも抜けて遍路来る
雲一つ無き秋空に鳶一羽
走る子に追いつけぬ父母秋高し
日曜の秋の公園子ら走る
公園の日影に座せば昼の虫
秋日濃し新品遊具よく光る
公園の日向に座せば秋茜
渓に出て耳をすませば鉦叩
十月の日時計補正八分と
はるかより金木犀の香りかな
日を浴びて金木犀の輝ける
沖縄のシークワーサの届く秋
秋日濃しシークワーサの緑にも
健康で会える嬉しさ夢道の忌
夢道より長生きできて夢道の忌
夢道より長寿が集ひ夢道の忌
餡蜜と動けば寒い夢道の忌
勲章はこれこのみやげゐのこづち
ゐのこづち野良の仕事の勲章と
ウクライナにもこの青き秋天を
ウクライナふとこの青き秋空に
真青なる秋空にふとウクライナ
明るくて少し淋しき十三夜
星一つ寄り添つてゐる後の月
小振りなる焼鮎ならば頭より
塩焼きの鮎の姿の美しく
奥座敷には竜胆の活けられて
松手入朝一番に庭師来る
四方から眺め始まる松手入
天辺の方から始め松手入
手で毟りたまに鋏や松手入
玄関の松の手入れは一と日かけ
松手入終り庭師の饒舌に
鳰をらず鵜を眺めゐる秋の川
藤棚の下は秋風さはやかに
満開のやうな桜の帰り花
青空に輝いてゐる帰り花
鴨はいつ来るかと鷺に尋ねても
さまざまな小鳥の声の中にゐる
何もせず秋の大気の中にゐる
十月の季題の何と多彩なる
秋天の雲の上行く飛行機よ
秋空に白の際立つ飛行機よ
秋晴れのマルシェはどこも家族連れ
秋晴れの一と日をマルシェ巡りして
秋高し武家の衣装で弓を引く
的射れば当りの声の爽やかに
咲き継げるカンナの赤の明るさよ
咲き継げるカンナの赤の新しく
咲き継げるカンナの赤の瑞々し
こぼれてもこぼれても咲き百日紅
風無きにこぼれこぼるる百日紅
青空へ伸びて行きけり百日紅
青空にいよいよ赤し百日紅
雨に濡れ色美しき百日紅
花弁の雨粒光る百日紅
万両のまだ色の無き実をつけて
滴るる水の音にも秋は来ぬ
吾亦紅活けて我らを迎へくれ
お刺身の具に芋茎の添へられて
焼き立ての地鮎が皿にてんこ盛り
鮎飯に水茄子漬も添へられて
裏年と云ふ銀杏の淋しさよ
秋日濃し石庭めける箒目に
門前の左右に萩を咲かす寺
法師蝉だんだん間合長くなる
法師蝉までも静かに鳴ける寺
宝前に音もたてずに来る揚羽
線香も静かに燃えぬ寺の秋
枝撓るほどに青柿鈴生りに
青柿の落ちぬやうにと仰ぎ見る
徳島に夜間中学校できる
白髪の夜間中学生もゐて
晩学は喜びですと夜学生
不登校今はしないと夜学生
山霧の水滴一つづつ光る
山霧の水滴光る中にゐる
霧生まれ積む晴天の山の朝
萩の花咲ける道来て山の湯へ
山の湯の宿は庭中萩の花
山の湯の散歩道にも萩の花
城址公園紅白の萩の花
青空へ鶏冠突つ立て鶏頭は
鶏頭は今日も群がり咲いてをり
庭先の鶏頭を見て店に入る
日本で見て来し月をリスボンで
リスボンの月はジャカランダの空に
月に行く計画を聞き月を見る
幾つもの訃報の届き月を見る
子規庵の糸瓜咲いたか獺祭忌
鶏頭を立ち止まり見る獺祭忌
のぼさんと呼ぶ町に来て子規祀る
スーパーに大根葉が並ぶ徳島は
間引菜と云へば大根葉よ徳島は
浅漬の大根葉の根こそ旨かりし
間引菜を採るためだけの畑てふ
菜を間引く季節先取りする気分
うろつかず消えるがよろし秋の蛇
穴まどひするほどの穴もう無いよ
これはまあ仙人掌までも帰り咲き
帰り咲く仙人掌の花瑞々し
賓客のやうに台風来るを待ち
特別に特に危険な台風と
過去に例無きほどの台風と
吉野川荒れて台風来る気配
全雨戸締めて台風来るを待つ
雨戸締めれば台風の音静か
台風の夜の雨戸のよく軋む
台風のことばかり見て一と日過ぐ
敬老の日は台風で暮れにけり
台風の映像ばかり見て三日
百日紅全て散らして台風は
台風のすべて散らせし百日紅
台風の過ぎたる朝の清々し
台風の綺麗に洗車してくれし
台風の洗ひ出したる空の青
台風に落ちてしまひし青栗よ
蔵元の酒屋真白き萩の花
萩の花愛でて老舗の酒屋へと
式部の実垂れてお洒落なレストラン
雨滴置き撓る紫式部かな
淡路では青田苅田と入り混じり
淡路ではここにも古墳竹の春
淡路行くあそこもそこも竹の春
すっぽりと霧の中なる関ケ原
霧流れ意外に狭き関ケ原
木曽三川過ぎて名古屋も霧の中
浜名湖も鰻の池も霧の中
爽やかな駅のピアノに迎へられ
霧晴れて三年ぶりの浜松に
連休の度に台風来る日本
豪雨過ぎ雲一つ無き秋空に
豪雨禍の噓のやうなる秋晴れに
秋晴れて百周年の式典に
爽やかな吹奏楽で始まりし
声出さぬ万歳なれど爽やかに
食の秋ならん鰻の名店へ
浜松の鰻重旨し秋惜しむ
六十年前の上司と秋惜しむ
八十路なる上司夫妻と秋の宴
初茸に新米新酒新蕎麦も
品書に秋の季題が五つ六つ
会席の締めは松茸ご飯かな
デザートは栗のムースと藷アイス
浜松に二泊三日の秋の旅
浜松の秋は駅でも音楽祭
伊吹山まで一面の豊の秋
秋空に飛行機雲の次々と
肩の凝りテープで癒す秋の旅
青空と入道雲と向日葵と
太陽にたじろぎもせず向日葵は
平らかなウクライナふと向日葵に
向日葵の仰ぐほどなる高さかな
向日葵の顔は真ん丸どの花も
向日葵の大中小の顔並ぶ
向日葵の人死すほどの暑さにも
向日葵の林の中の熱りかな
静かなるウクライナにと向日葵に
平和なるウクライナにと向日葵に
核威嚇する国今も原爆忌
核兵器無き世を願ひ原爆忌
戦争は今もと云ふ子原爆忌
戦争は愚かと云ふ子原爆忌
戦争しない人が強いと原爆忌
核兵器愚かと断じ原爆忌
先制使用せぬを約せと原爆忌
厳粛な式に扇子を使ふ馬鹿
開け放ち大気を部屋に今朝の秋
深々と大気を胸に今朝の秋
吸ひ込める大気の旨し今朝の秋
賑やかにあれど静かや秋の蝉
立秋の風と思へば心地よく
青空に底紅の紅くつきりと
枯蟷螂と見れば全身揺さ振らせ
落ちて来し毬栗青く柔らかし
落蝉も落栗もとて蟻忙し
青空と真白き雲と底紅と
立秋と思へば蝉の音も涼し
立秋の一と日大事に句に遊ぶ
長崎を最後にしてと長崎忌
核兵器無き世界へと長崎忌
長崎忌その語り部の凛として
緑濃き街となり来て長崎忌
あの日から七十七年原爆忌
恒久の平和を願ひ原爆忌
コーラスに平和を祈り長崎忌
静かなる街に鐘の音長崎忌
墓参して蛇口ひねれば日向水
冷水の出るまで待ちて墓洗ふ
墓冷えるほどに水掛け洗ひけり
孫たちが水運びくれ墓洗ふ
弟よ父よ母よと墓洗ふ
清らかな冷たき水に盆の供花
選び来し線香供へ墓参終ゆ
咲かぬかと待てば咲きをり百日紅
殿の役か我が家の百日紅
秋風を待ちて我が家の百日紅
枝と云ふ枝に花つけ百日紅
紅の色淡き我が家の百日紅
指先の動きに気品阿波踊
指先に視線を集め阿波踊
少女らも品よく女踊りかな
雨上がり今日阿波踊最終日
祈り込め終戦記念日の踊り
鎮魂の祈りを込めて阿波踊
阿波踊終りし朝の鉦叩
雨に濡れ色増しにけり百日紅
生き生きと鮮やか雨後の百日紅
ただいまと声を揃へて帰省する
子も嫁も孫も帰省が大好きと
来て嬉し戻りて嬉し子の帰省
稲妻に母へと走る弟よ
ゆっくりと静かに回れ走馬灯
新しきものに取り替へ秋簾
鳴り物を先頭もあり阿波踊
連ごとに違ひを競ひ阿波踊
連ごとに違ふ踊りや阿波踊
枝先と云ふ枝先に百日紅
ちちろ鳴きなほも咲き継ぐ百日紅
かなかなの鳴きぬ宿題しておかな
かなかなを聞きたく高尾山登る
かなかなの声のだんだん遠くなる
かなかなの声に淋しさありにけり
咲き継ぎてなほもカンナの真つ赤つ赤
一列になりてカンナの咲ける道
無人駅ここにもカンナ赤々と
こふのとり巣立つ徳島モラエス忌
モラエス忌来れば徳島熱帯夜
此れやこの滝の焼餅モラエス忌
ポルトガルワインは甘しモラエス忌
モラエス館できぬ徳島モラエス忌
孤愁とは遠ければなほモラエス忌
リスボンは大陸の果てモラエス忌
ヒマラヤを越えてリスボンモラエス忌
おそなへはたんとかすてらモラエス忌
太っちょの鰯丸焼きモラエス忌
モネの絵のやうに睡蓮咲かす池
睡蓮やモネは日本が好きだつた
ひろびろと睡蓮の咲き満てる池
睡蓮の一斉に花開く朝
敷き詰めたやうに睡蓮広がりて
この時季のこの店でこそ鮎背越
ガラス器の氷に乗せて鮎背越
蘭届く暑さ見舞の文添えて
一鉢で明るき部屋に胡蝶蘭
瀟洒なる家に白さるすべり咲く
曇天に夾竹桃の白さかな
もがくほどずり落つ蟻や蟻地獄
修羅場なる静かなる場所蟻地獄
磴上り終へればそこに蟻地獄
平和なる宮に戦場蟻地獄
夏の雨阿波の青石青くして
咲き残りたる夏萩に雨やさし
涼しさや観葉植物店先に
水打って観葉植物並ぶ店
赤よりも赤きブーゲンビリアかな
琉球の旅のブーゲンビリアふと
真っ先に海月を捨つる地引網
水族館海月の館は薄暗く
海月より中華料理のフルコース
桟橋で船の出るまで海月見る
花の付く胡瓜産直市で買ふ
糠漬に胡瓜一山買って来る
揉んで好し叩きて好しの胡瓜かな
一と月も避暑の旅する国に来て
避暑の旅にとサマーバケーション
キャンピングカーで渋滞避暑の道
入院は個室すっかり避暑気分
避暑に来しスイスの旅のこの暑さ
食べ頃はいつとメロンに書いてあり
ずっしりと重きメロンをいただきぬ
日向水そのまま子らのプールにと
行水の無き世なれども日向水
遠き日となりし昭和や日向水
懐かしき昭和の暮し日向水
帰り来て大の字なりし子の昼寝
長過ぎる話は昼寝したくなる
昼寝してきっといい夢見てゐさう
本会議場にあちこち昼寝して
古代蓮満開ですと案内され
古代蓮咲ける鳴門の島田島
二千年眠りてをりし蓮の咲く
二千年前の世伝へ蓮の花
二千年前の世今に蓮の花
上品な薄紅古代蓮の花
古代なるロマンを今に蓮の花
大振りで純白古代蓮の花
生き生きと大きく古代蓮の花
たくましくさわやか古代蓮の花
大賀蓮咲かせ鳴門に来られよと
高原に三万株の濃紫陽花
紫陽花の海抜千の高原に
高原の雨は冷たし濃紫陽花
紫陽花の色増しにはか雨止みぬ
吉野川平野眼下に額の花
遥かなる眼下に眉山額の花
高原は見渡す限り額の花
高原の風はもう秋額の花
鮮やかな色でありけり額の花
いつまでも瑞々しきは額の花
明けてよりぶり返す梅雨藍を刈る
雑草の混じりし藍を刈り上げる
天候の不順相手に藍を干す
藍を干す久しぶりなる晴天に
古びたる大箕大事に藍を干す
作る人絶えし大箕で藍散らす
藍を干すハウス一歩で噎せ返る
干藍の反せば熱りをりにけり
一番の藍干し上げて寝床へと
二番藍そろそろ刈ろか雲の峰
焼き立ての土用の丑の日の鰻
鹿児島の鰻その場で焼いてくれ
焼け過ぎはおまけと鰻くだされし
焼き立ての鰻五匹で子も孫も
店頭で土用の丑の鰻焼く
スーパーの店頭土用の鰻焼く
鰻焼く片つ端から売り切れて
土用かな山のやうなる鰻売れ
仙人掌の蕾こんなに大きくて
咲きさうな仙人掌を見て店に入る
捨て置きし鉢の仙人掌どっと咲き
仙人掌の花の犇き咲ける鉢
仙人掌の一と日限りの花美しき
仙人掌の花睡蓮の花に似て
仙人掌の花は太陽正面に
どくだみのかはたれどきの白さかな
庭中にどくだみの花咲き満ちて
隅々にまでどくだみの咲ける庭
咲きました今年も母のアマリリス
アマリリスほんとに母は好きでした
裏山に実梅鈴生りなる古刹
継ぐ人の絶えし梅にも青き実が
捨て置かれたる梅の実の小さきこと
青梅を採る二の腕の白さかな
孑孑の伸びて縮んでまた伸びて
孑孑に重力てふは無かりけり
目高飼う甕に孑孑湧いて来し
小雨来て勢増しけり立葵
天辺と天辺競ひ立葵
田水引き終えて仰ぎし立葵
鮮やかに咲きて嫋やか立葵
咲き初めし色美しき立葵
若々しき色でありけり立葵
天辺の二つから咲き濃紫陽花
始まりの色は仄かや濃紫陽花
小粒なることが自慢の辣韮と
鳴門かな辣韮の畑は海の砂
辣韮掘る畑の砂の熱さかな
漬け方のレシピ大きく辣韮売る
スーパーの辣韮地物に高値付き
古漬のあれど今年も辣韮浸け
辣韮を漬け大仕事せし気分
闇の夜の三千院の雨蛙
静かなる夜の輪唱雨蛙
雨の降る気配は無けど雨蛙
初物の枇杷種までも瑞々し
特選の枇杷なり種も立派なり
立派なる枇杷の種また立派なる
ノイシュバンシュタイン城ふと糸蜻蛉
とうすみの飛びては止まりまた止まる
とうすみの止まり涼しさ生まれけり
しなやかなものにとうすみしなやかに
翅たたみ笹の葉裏の糸蜻蛉
蜻蛉の句碑ある江津の糸蜻蛉
田水張る早苗の丈を越ゆるほど
早苗田に波紋を残し風渡る
近寄れば強き香のあり花葵
花も好し葉の紋も好し花葵
すかすかで味も無かりし蛇苺
毒々しきほどの赤なり蛇苺
蛇苺葷酒許さぬ名刹に
蛇苺真っ赤や暗き堂裏に
蜘蛛の囲の取ってもとってもできる場所
天空に蜘蛛の囲張りし手際かな
蜘蛛の囲の輝いてゐる高さかな
蜘蛛の子のてんでんばらばら散りぢりに
次々に観潮船の来る鳴門
鳴門かな大渦小渦観潮船
目の前に生まれる渦や観潮船
観潮船渦の始終を目の当たり
仁王門よりの参道濃紫陽花
紫陽花を見てより花の寺に入る
中門に垂れてをりぬ青楓
本堂へ楓若葉の門くぐり
緩やかな坂の参道濃紫陽花
雨の日の紫陽花なればこその色
山際にまで紫陽花の咲ける寺
その中に凛々しかりけり額の花
百合咲ける一輪なれど凛として
金色の蕊美しき白百合よ
七夕の笹に平和の祈り込め
短冊や七夕の笹撓るほど
雨の日の色美しき濃紫陽花
鮮やかな色雨の日の紫陽花は
いろいろな色の紫陽花送りくれ
日向より日蔭の色や濃紫陽花
五月雨の止みし夕べの明るさよ
静けさの戻る道後の夏夕べ
子規の像囲む道後の夏柳
子規像に蔭を作りし夏柳
紫陽花の勢増しけり昨夜の雨
山の手のホテル紫陽花見て入る
雨上がり色増しにけりベゴニアは
一雨のありてベゴニア瑞々し
未央柳雨に洗はれ鮮やかに
未央柳残りの花のまぶしかり
ひろびろと睡蓮の咲き満てる池
睡蓮の一斉に花開く朝
県境の峠に待てばほととぎす
鳴くはずと待てば確かにほととぎす
梅雨の日を人形浄瑠璃見て過ごす
十郎兵衛屋敷を出れば五月晴
好天に心も軽く遊船に
満ち潮の川ゆったりと遊船は
水門を出れば卯波の吉野川
慣れてきて立ち上がりし子遊船に
船遊いつも眉山の見える川
遊船の潮の香のするあたりまで
出来立ての河口橋も見船遊
町並の裏側も見て船遊
橋くぐりまた橋くぐり船遊
橋来れば首すくめもし遊船は
橋潜るスリル満ち潮遊船は
徳島は水の都と船遊
県庁にヨットハーバー船遊
遊船に眉山大きく見えて来し
川四つ巡り遊船終りけり
太陽に今日も元気と向日葵は
二百歳てふ藤の幹節くれて
二百歳てふ藤の幹武骨なる
一木の藤が万朶の房垂らし
幹太く二百歳てふ藤の花
一木で長き藤棚埋め尽くし
豆の花連ねたるごと藤の花
咲き初むはいつも紫藤の花
紫の白へと藤の花替はり
盆栽の藤も並べて藤まつり
盆栽の藤も並べて藤の寺
盆栽の藤に気品のありにけり
何もかも春らしき日の来ぬうちに
筍のあそこにそこに足元に
筍の掘り切れぬほど豊作と
雨の日の筍掘りの泥まみれ
雨の日の筍山はよく滑る
見るほどに掘り頃なりし筍よ
掘り出せし筍を抱く親子かな
筍を掘り出し皮も剥いでくれ
筍の皮剥くこつも教へくれ
遠目にも躑躅明るき公園に
町内に公園四つ躑躅咲く
刈り込まれ犇めき咲ける躑躅かな
蕾まで犇めき咲ける躑躅かな
次々に咲いて鮮やかなる躑躅
躑躅咲く雨に洗はれ美しく
春潮の満ち寄せて来る速さかな
春潮の浜は素足で歩きたし
新緑の断崖の谷埋め尽くし
谷川を覆ひ尽して若楓
ロープウエイ降りればそこに藤の花
隠れ咲きゐる藤の花ありにけり
オリーブの園に風車や異国めく
オリーブの園に五月の風が吹く
オリーブの畑へ躑躅の垣根越え
紅白の躑躅咲き満つ垣根かな
春潮に長き航跡フェリー発つ
春潮に少しも揺れずフェリー着く
庭先に可憐なりけり花菖蒲
菖蒲咲く小振りなれども凛として
日盛りの紫蘭の花に勢あり
紫の模様の美しき著莪の花
鯉幟平和な日本のありがたく
やうやくに風来て泳ぐ鯉幟
その音を聞いてみたかり鳴子百合
日の陰にありて涼やか鳴子百合
薫風に五体預けて海を見る
薫風に椰子高々とありにけり
店先に五月の花の咲き満ちて
薫風の花を活けたる座敷まで
暖簾掛け笹の若葉を挿しもして
千年の楠を見てゐるみどりの日
一木で若葉の森を作る楠
大楠の若葉に勇気もらひけり
見渡せば視野の果てまで楠若葉
大楠の葉蔭涼しき風通る
千年を生きて若葉の瑞々し
大方は着ることのなく更衣
衣更ふるクリーニングの割引日
海渡る大橋渡り今日立夏
眉山好し吉野川好し今日立夏
五種類の花で葺きたる花御堂
江戸の世を伝へ端正花御堂
御僧の独りで葺きし花御堂
花御堂母の育てし花を葺き
手間掛しところを見てと花御堂
旧暦の花無き時季の花御堂
柏餅甘茶と灌仏会の句会
仏前に西瓜旧暦花まつり
夏蜜柑供へ旧暦花まつり
端正なこの実何の実花梨の実
歪など一つも無くて青花梨
裏山は青梅実る寺領なる
黒鯛泳ぐ濠見てをれば松蝉が
松蝉はいづこと城の松巡る
松蝉を聞きしと聞きて道戻る
造花かと触ってみたる鉄線花
蔓伸ばし二階にまでも鉄線花
鉄線は鉄線クレマチスなどと
鉄線のやうにと襟を正しけり
鉄線のやうに筋目を通したし
穏やかな瀬戸内海の卯波かな
卯波立つ小豆島へとフェリー発つ
フェリー着く卯波の中を定刻に
見るほどによくぞ名付けし踊子草
伊予に来て踊子草に出合ひけり
出合ひたる踊子草の見て飽かず
踊子草その名はあとで知りました
雨の日の泰山木の花まぶし
仰ぎ見る泰山木の花凛々し
見下ろせば泰山木の花歪
大奥の跡に泰山木の花
海亀の来る浜泳ぐべからずと
海亀の浜と綺麗に掃除され
海亀の来るを静かに待てる町
散りてなほ真白でありしえごの花
庭先にえごの花咲くレストラン
内海を見下ろす峠車輪梅
潮風に犇き咲きて車輪梅
海沿ひの道は海桐の花の路
鳴門には海桐の花の多かりし
モネの絵のやうに睡連咲かす池
睡蓮やモネは日本が好きだった
遠目にも花咲く山と見てとれて
登るほど咲き満ちてをり花の山
地に届きさうなるほどや糸桜
ぶつからぬしだれ桜のしだれやう
眼裏の色美しきしゃぼん玉
目の前で消えてしまひししゃぼん玉
しゃぼん玉消えて真青な空残る
咲き満てる花のどれもが輝きて
咲き満ちてどっと人来し花の山
糸桜越しに阿讃の山並も
青空に咲き満つ花のまぶしさよ
日差出てまぶしさつのる桜かな
滝のごとしだれ咲き満つ桜かな
記念写真撮るのはいつもこの桜
桜咲き満ちて人来る小鳥来る
ふっくらと垂れてしだれ桜かな
エカテリーナのスカートのごと糸桜
山頂は桜と人と青空と
青空の下で花見の子らはしゃぐ
葉牡丹の色鮮やかに茎立てる
葉牡丹の渦巻き上げて茎立ちぬ
鶯の迎へてくれし花の宿
鶯を聞きつつ染井吉野へと
咲き満ちし花に目白の飛び交ひて
雨の日の染井吉野の白さかな
幹黒き染井吉野の白さかな
弓なりに垂れしだれて雪柳
純白と緑の美しき雪柳
啄木鳥の叩きそろそろ飛花落花
落つこちさうなる崖道花巡る
花と云ふ花を咲かせて若々し
何もかも咲き満つ花の生家なる
花育てゐるが青春てふ米寿
チューリップ桜の影の花小さき
整列と云ふ美しさチューリップ
美しき色の整列チューリップ
赤の中一つ白ありチューリップ
崖下にこぼれ咲きをり諸葛菜
可憐なる薄紫や諸葛菜
遠目にも山吹の黄の鮮やかに
ゴッホなら山吹の黄をどう描く
糸桜越しに花見のできる家
糸桜越しに見る花美しく
山葵田に行き止まりたる山の道
清冽な水が誇りの山葵田と
花筏とはなれずゐる花の屑
花屑の跡形もなく流れけり
花巡り花巡り来し花の宿
野も山も里も桜の花の宿
遠足の列の殿乳母車
遠足の列の伸びたり縮んだり
遠足の塵当番は餓鬼大将
寄り道のしたくなるもの遠足は
隠れ家のやうな離れに沈丁花
香り来し方を辿れば沈丁花
暗闇にあれども確か沈丁花
渦の巻く方へ方へと渦見船
巻き込まれさうにも見せて渦見船
潮見表添へて渦見に来られよと
傾ける観潮船にどよめける
逃げる雌追ひ掛ける雄鳥交る
誰も彼も見てゐる広場鳥交る
誘ひ鳴き踊り追ひ掛け鳥交る
突き出しの標許りの鹿尾菜かな
丼に鹿尾菜の煮物母をふと
御馳走は鹿尾菜尽くしと云はれても
紙風船と云へば富山の薬売
置き薬今もあるてふ紙風船
越中の薬士のくれし紙風船
はるばると来てくだされし紙風船
反魂丹なる名懐かし紙風船
窄めるにこつのありにけり紙風船
御土産にもらひうれしき紙風船
風船を膨らます口膨らませ
春灯の温泉の街行く下駄鳴らし
春灯の街に賑はひありにけり
春灯の街は寄り道したくなる
春灯の街はゆったり歩くべし
この辺も昔は寺領豆の花
田の中の墓への道の豆の花
木札立つ課外授業の豆の花
白てふは高貴な色よ白牡丹
しなやかにまぶしさ返し白牡丹
引き締まる色緋牡丹の緋の色は
大振りの緋牡丹庫裏に群れ咲かせ
花蘇芳そんなに犇き咲かずとも
青空へ赤き紫花蘇芳
緋牡丹の金の花蕊むき出しに
住職は裏から帰り牡丹寺
散りてなほ列を崩さずチューリップ
散り始めゐても整然チューリップ
鹿児島の友より河津桜かな
真つ赤なる河津桜と青空と
はやばやと河津桜や伊豆をふと
懐かしき河津桜の伊豆の旅
今年また花見の宴はできねども
宴できぬままに三年桜咲く
おいコロナ花見の宴はいつできる
桜咲く宴はできねど爛漫と
この桜植樹せし日は皆若く
この桜植ゑられし人二人逝く
城山を巡り蜂須賀桜へと
横綱と蜂須賀桜植ゑし日も
横綱と植ゑしあの日のこの桜
新婚の横綱植ゑしこの桜
結婚指輪見せて桜を植ゑし日よ
私らの植ゑし桜と仰ぎ見る
あの苗のこんな桜の並木にと
あの苗の今や桜の名所にと
若かりしあの日に植ゑしこの桜
植ゑし日を昨日のやうに桜見る
ブロッコリーの芽の犇ける速さかな
太陽へ太陽へと芽ブロッコリー
朝刊に汀子の訃報春寒し
真白なる辛夷散る朝聞く訃報
純白の辛夷散るかに汀子逝く
ほんたうに汀子の逝かれ二月ゆく
ほんたうに汀子の逝かれ春寒し
何もかも春らしき日を待てず逝く
汀子逝く桜咲く日を待ちきれず
み吉野の桜も待てず逝かれしと
真つ赤なる椿落つ朝聞く訃報
真つ赤なる椿落つかに逝かれたる
ほんたうに逝ってしまはれ春寒し
歳時記に汀子忌見ねばならぬとは
蜂須賀の殿の愛せし桜咲く
ちらと咲き蜂須賀桜らしき赤
咲き初めし桜の幹の黒さかな
江戸の世より生きし桜の幹太し
一隅に咲いて水仙勢あり
群れ咲きて犇めき合ひて水仙は
仰け反れるほどなる高さ初燕
鷺鳶をはるか見下ろし初燕
初花よ初燕よと試歩できて
犇ける辛夷の空の青さかな
青空へ辛夷の蕾突っ立てる
駅前の春の光りの明るさよ
街中に春の日差のやはらかく
壮大な一筆書きや蜷の道
途絶えゐるものもありけり蜷の道
何思案せしかぷつんと蜷の道
遊山箱持ちて野遊びせし昔
野遊びと云へば懐かし遊山箱
庭先の野遊び今日はバーベキュー
鳴門では俘虜も野に出て遊びしと
大鳴門橋を見下ろし楤芽掻く
観光の島に客無く楤芽吹く
楤の芽の棘の滴の光る朝
楤の芽と云へば天麩羅しか知らず
江ノ島は名に負ふ漁村白子干す
堤防の先の先まで白子干す
めいめいに役割のあり白子干す
クローバーの四つ葉見つける子の速さ
ママにもと白詰草の花冠
苜蓿犇き合ひて丈長し
カチューシャもリングも白詰草の花
クローバーの花のティアラを孫に編む
見るほどに胴長なりしこの鰆
瀬戸内の鰆が大間まで来しと
野も山も畑も人も陽炎へる
阿讃嶺の燻ぶれるかに陽炎へる
茫茫と四国三郎陽炎へる
虎杖のあれば水筒など要らぬ
虎杖を折るぽつんてふ音聞きたくて
虎杖の味なき味が好きと云ふ
虎杖と云へば塩漬ここは土佐
茎立てる花捨て置きし白菜に
菜の花のやう白菜の茎立ちは
先駆けて蜂須賀桜咲き満てる
青空へ蜂須賀桜らしき赤
満開の蜂須賀桜見ておかな
年毎に蜂須賀桜らしき赤
こんなにも人来てくるる桜にと
この桜植ゑし日の友皆若く
桜並木行けば幸せありさうな
咲き満てる花にシャッター音やまず
原田家の蜂須賀桜見てからと
江戸の世のままに蜂須賀桜咲く
堂々と蜂須賀桜咲き満てる
青空へ蜂須賀桜高々と
若葉また蜂須賀桜らしき赤
花に添ひ出でし若葉もまた赤く
花の色極めてをりし幹の黒
黒き幹太き蜂須賀桜かな
山茱萸のまぶしき庭となってをり
山茱萸の花に逆光なるは無く
満作のそんなにちぢれ咲かずとも
満作は去年の葉捨てず咲きにけり
影と云ふもの見当たらず辛夷咲く
咲き初めし辛夷の花にある遅速
公園の小さき池にも鴨三羽
近づけどそ知らぬ顔の鴨三羽
植樹して十八年のこの桜
十八年経てば桜の名所へと
早咲きの花に人来る小鳥来る
赤々と蜂須賀桜咲き満てる
川赤く染めて蜂須賀桜咲く
お花見のできる日本のありがたく
五節句の故事より雛を語らるる
天冠にガラス鏤め古今雛
首傾げゐるも御洒落や古今雛
贔屓雛引目鉤鼻おちよぼ口
丸顔は次郎左衛門雛かな
狆を曳く官女雛の柳腰
小さきてふ贅もありけり芥子雛
雛段の天児に涙らしき跡
東光斎玉翁作の内裏雛
雛祭守住貫魚の四季図掛け
欠けしもの何一つ無き雛飾
その中に泣き上戸なる仕丁雛
早春の日差が街に満ち溢れ
阿讃嶺はもう春霞たなびきて
眠りから覚めし眉山のふつくらと
早春の青美しき吉野川
颯爽と早春の野を歩きたし
早春の風に乗りたる鳶かな
二月かな眉山山頂鳶柱
スイスかな雪解の水の猛り落つ
轟々と岩削り来し雪解水
岩削り白濁なりし雪解水
青くとも雪解の水は飲まないで
町川にあふれスイスの雪解水
日脚伸ぶ日々歳時記を読むたびに
歳時記をめくりてをれば日脚伸ぶ
早春の朝の空気を深呼吸
梅咲いた見に来られよと便りあり
早春の鳥のさへづり軽やかに
ヴィバルディを聴きつつ春を待ちにけり
窓開けて風を入れれば春近し
早春の風に生命の蘇る
頑張れと云ふかに窓辺四十雀
六キロも減量できて春迎ふ
早春の街青々と明けにけり
はるかには鴨かも川を群れ飛んで
ふつくらと我が家の庭の蕗の薹
我が庭の青美しき蕗の薹
蜂須賀の御世の庭にも蕗の薹
焼夷弾落ちたる庭に蕗の薹
谷川の岩の間に間に蕗の薹
ほどほどに摘みて帰らう蕗の薹
お浸し派子ら天麩羅派蕗の薹
花火して若草山の野焼かな
鎮魂の若草山の野焼とか
奥多摩の川面を染めて野火走る
もたつきしもの走るもの野焼の火
スーパーで二月礼者の鉢合せ
買物の序での二月礼者かな
子ら連れて二月礼者として来られ
病院食今日は巻寿司節分と
節分の豆も病院食に付き
退院の決まり嬉しき春立つ日
立春の光あまねく街に満ち
新しき光まぶしき春立つ日
新しき力ふつふつ春立つ日
透き通る鱵その場でお刺身に
十匹の鱵の刺身これつぽち
小鳴門で鱵を汲むと人の云ふ
美しき朝の光に犬ふぐり
そこそこと言はれ足元犬ふぐり
散歩道いつもこの場所犬ふぐり
犬ふぐりゴッホの墓へ歩きし日
鎌倉の虚子の菩提寺実朝忌
墓あるは虚子の菩提寺実朝忌
虚子祀り実朝祀り実朝忌
下萌や日本は水の豊かなる
お隣に売地の木札草萌ゆる
石擡げゐるものもあり下萌ゆる
瑞々しき色でありけり草萌ゆる
退院の窓に次々囀れる
囀を右に左に退院す
春立ちて瑞々しかり何もかも
梅花節表御殿の庭園へ
梅咲きて表御殿の賑はひぬ
仄かなる香に誘はれて梅に立つ
青空へ伸びてまぶしき梅の花
紅白の梅競ひ咲く御殿庭
青空へ白梅の白際立ちぬ
純白の凛と御殿の梅の花
白壁をいや増す梅の白さかな
石庭の箒目確と冬日濃し
冬日差す御殿石庭箒目に
番かも御殿の池に二羽の鴨
番らし後を追ひ合ひ二羽の鴨
梅咲けるぽつりぽつりと賑やかに
梅を見てより城内を散策す
早春の日差まぶしくパンジーに
パンジー花よ小便小僧よと
紫も輝ける色パンジーは
パンジーの咲けば蝶来る子らも来る
せせらぎの岸辺水仙群がりて
水仙は葉にも花にも勢あり
ひつそりとありて鮮やか水仙は
水仙の剣のごとくに咲きゐたり
薔薇の芽の秘かに棘を持ちゐたり
公園の薔薇の芽の色朱も青も
咲き残る山茶花なほも瑞々し
咲き継いでなほも咲き継ぎ山茶花は
菜の花と小手鞠生けて春祝ふ
菜の花と小手鞠生けてある老舗
和菓子屋の草餅これでお仕舞と
和菓子屋の草餅早も売り切れて
和菓子屋の草餅添へて抹茶かな
抹茶淹れ小さき草餅いただきぬ
早春のおきざり草のまぶしさよ
春の日のおきざり草にやはらかく
列島に寒波南国阿波に雪
みちのくに豪雪続き阿波に雪
十一年ぶりの大雪徳島に
六センチ降れば大雪徳島は
二メートル近い雪ですみちのくは
初雪の阿波雪降ろし死ぬ越後
深々と雪降る夜の静けさよ
子供らの声に目覚めし雪の朝
登校の子らの歓声雪の朝
朝起きてみれば一面銀世界
赤白の車に雪のまぶしかり
真白かな赤い車の初雪は
白銀の野よりの風の冷たさよ
白銀の世界と云ふはひろびろと
雪かぶり黄金色なる金柑よ
雪かぶる金柑めざし小鳥来る
昼までに消えてしまひし阿波の雪
庭隅に残つてをりし初雪よ
2022年1月
初夢の記憶はあれど皆忘れ
目覚めれば初夢消えて仕舞けり
初夢をすつからかんに忘れをり
寒木瓜の花はいづれも日に向かひ
日当たりに寒木瓜並ぶ朝の市
寒木瓜の花目印に市巡る
寒木瓜を挿せば生花引き締まる
山の湯へ氷柱の垂るるバスに乗る
朝の宿氷柱大きく太りをり
昼痩せて夜太りゆく氷柱かな
寒椿まぶしき遍路宿の跡
小正月残してありしシャンパンも
静かなることも贅沢小正月
家族皆去にて二人の小正月
鰤大根煮凝となるを待ち
煮凝れる鰤大根の旨さかな
大皿に残りたるまま煮凝れる
我が庭に寒雀来る嬉しさよ
寒雀遊べば心軽くなる
日陰よりやつぱり日向寒雀
弾みゐるやうな足取り寒雀
此処もまた避寒のための宮殿と
日当たりのよき部屋ですと避寒宿
病院の個室に独り避寒して
凍滝になつていますと案内され
凍滝となつても水のちょろちょろと
凍滝の風に五体の縮こまる
京女郎自水の滝の凍て果てて
冬晴の空ゆく雲のゆっくりと
冬晴の空の明るさありがたく
冬晴の空に勇気をもらひけり
病床に冬空見上げショパン聴く
四温かなショパンの調べゆつたりと
ショパン作雨だれを聴く四温の日
大寒の救急の音跳ね返る
大寒を昼もパジャマや病室は
大寒の日差まぶしき病床に
冬晴や阿讃嶺淡路紀伊までも
冬晴や我が家を指呼の病床に
日脚伸ぶ日を数へつつ病床に
大寒の一と日検査の結果待つ
検査結果今一つなり春を待つ
部屋中に冬日差入れ深呼吸
目の前に来し寒鴉美しく
艶もよく健康美なり寒鴉
歳時記に想膨らませ春を待つ
真つ新になれると信じ春を待つ
春来ればきっと良いことありさうな
体調のよく初場所を見て過ごす
初場所の若手力士の初々し
吉野川橋の寒灯一際に
寒灯の街にサイレンこだまして
寒灯の街真つ直ぐに救急車
午前四時寒灯の街動き出す
寒の雨日曜の街鎮もれる
点滴を仰ぎ寒雨の音を聞く
薄紙を剥ぐごと蘇生日脚伸ぶ
初場所に勝つて関脇大関へ
冬晴や検査の結果良好と
冬晴や今日で点滴お仕舞と
阿讃嶺の全貌視野に冬晴るる
冬晴は好き心まで晴れ渡る
冬晴の街真つ白に輝ける