今月の俳句

2024年12月

蜂須賀の御殿の池に来し鴨も

寄り添ひて御殿の池の二羽の鴨

石蕗の花石蕗の花へと園巡る

築山の岩の間に間に石蕗の花

青空へ高々と咲き冬薔薇

やれやれと丸太の椅子に日向ぼこ

色違へ銀杏黄葉の連綿と

仰がるるメタセコイアの黄葉かな

城山へどの道行けど石蕗の花

色極め尽くし黄落待つてゐる

あそこにもここにも石蕗の咲ける園

日当たりにあらねどまぶし石蕗の花

蜂須賀の御殿の庭の石蕗の花

城山の石垣に沿ひ石蕗の花

石庭の白砂まぶし石蕗の花

箒目の美しき庭石蕗の花

冬薔薇の競ひ咲きゐる勢かな

黄葉にもいろいろ色のありにけり

日当たれば黄金の色となる黄葉

飛機の窓より白雪の富士も見て

神奈川の沖より雪の富士眺む

すぐそこに雪の富士見る霊園に

紅葉の冨士霊園に墓参もし

目の前に雪の富士見る店に入る

あつあつの南瓜はうたう旨かりし

冠雪の富士見る忍野八海に

灯の点る忍野八海暮早し

クリスマスツリー眩きロビーかな

白銀の聖樹ロビーの正面に

庭園を巡れば処々に石蕗の花

佇めばそこに花石蕗ありし庭

小流れの辺にもありけり石蕗の花

小流れの両岸に咲き石蕗の花

庭園に朱塗りの橋と枯れ尾花

外つ国の人も眺めてゐる尾花

水澄みて鯉の緋色の鮮やかに

水澄みて白の極まる池の鯉

空港のロビー師走の市の立ち

空港に冬の野菜の市が立ち

別腹と言ひて雑炊平らげる

三つ葉散らされて雑炊出来上がる

誰も彼も締めの雑炊待つてゐる

雑炊を食べたく長き列に着く

中華街雑炊のみの名店も

湯冷めするするぞと母の声がする

母の言ふ湯冷めするから早よ寝ろと

風呂吹の隠し包丁母譲り

風呂吹は御馳走と言ふ齢

風呂吹を家族揃つて吹いてゐる

柚子味噌を垂らし風呂吹出来上る

水洟も構はず遊びをりし子ら

涙拭き水洟を拭く忙しき

水洟の子に愛嬌のありにけり

バケツ持ち鳴門の地牡蠣買ひに行く

小振りなる鳴門の地牡蠣食べ易し

蒸し牡蠣にすればするりと殻の剥け

ほどほどの味の鳴門の地牡蠣かな

クリスマスツリー小さくなりし世よ

誰も彼も今宵はメリークリスマス

空港のロビーの聖樹小さくなり

一年の短かさ思ふ年の暮

満足も悔いもありけり年の暮

あれこれと思ふばかりや年の暮

育てたる米で餅搗く小学生

搗き立ての餅を皆んなで頬張れる

家毎に餅搗き合ひし昔かな

搗き立ての餅は大根卸しでと

朝日浴び色の極まる黄葉かな

青空に黄葉際立つ大樹かな

夕映えの紅葉の色の艶やかさ

深深と紅葉の色の濃くなりぬ

いきなりの八手の花でありにけり

花咲いて八手のありしことを知る

第二陣なる大和柿吊るしけり

寒風に任せてをりぬ吊るし柿

十二月八日戦火の今もなほ

十二月八日戦火のなほ絶へず

十二月八日戦火の絶へぬ星

不戦を誓ふ十二月八日かな

長老のお姿見えぬ年忘

阿呆息災の声懐かしき年忘

お元気なお顔の揃ひ年忘

2024年11月

いろいろの菊それぞれに咲き始め

菊花展小学校の作品も

鉢植の小柄な菊にある気品

品評会待ちゐる菊でありにけり

助もして背の揃へあり菊花展

咲き揃へられたる菊の展示かな

菊衣着たる紫式部かな

お互ひに視線合はせず菊人形

菊人形こちら清少納言かな

新しき菊衣かなよき香り

一株に万の蕾の菊なりし

揃ひ咲き初めたる菊の勢かな

盆栽の菊それぞれにある形

盆栽の菊をも一度見て回る

文化の日エミ-ル・ガレの展示見る

芸術の秋かなガレの展示会

点りゐるガレのランプや暮早し

灯の点るガレのランプや秋深し

秋の日をガレのランプを見て過ごす

文化の日ガレの蜻蛉の花瓶見る

爽やかやガレの花瓶のどれ見ても

これはまあ象の花瓶の爽やかさ

ガレ描きしうすばかげろう見て涼し

ガレ描きし蝶は繊細見て涼し

芸術の秋ガレの象嵌も見て

置物のガレの犬見て過ごす秋

北斎よガレよと過ごす秋一と日

ガレ描きし百合を見てゐる文化の日

冬耕の後追ふ鷺のありにけり

冬耕の大雑把なる終り方

冬耕を待つ嘴のありにけり

大根の旨き季節となりにけり

大根を買ってメニューを考へる

評判の大根抱へ来られたる

四分の一の大根売られをり

音のして朴の大きな葉の落つる

思ひ出は飛騨高山の朴葉味噌

高山の味噌焼きをふと朴落葉

朴落葉踏めば音立て崩れけり

朴葉味噌焼きの蟹味噌芳ばしき

これはまあ朴の落葉の皿なりし

愚痴を言ふことはやめます木の葉髪

凩をものともせずに遊びし日

凩に向かつてペダル漕ぎたる日

背を丸くして凩の道を行く

頬被りして凩の畑に出る

立冬に凩一号吹きたると

立冬の日聞く凩一号を

立冬に凩一号来し便り

立冬の暦通りの寒さかな

立冬の暦通りや凩も

帰り花あるかと見れば一つあり

帰り花一つ見つけば二つ三つ

戻り来てもう一度見る帰り花

城山も眉山も石蕗の咲き満ちて

手入れせぬ我が家の庭の石蕗の花

手入れさる御殿の庭の石蕗の花

頂上へどの道行けど石蕗盛り

売れ残りさうなものより切干に

切干を水に戻して甘酢漬

切干の軒一杯に吊るされて

搾ってと里の柚子持ち来てくれし

柚子搾る二日がかりとなりしかな

冬来る肱川あらし来たりしと

地震ありし氷見の寒鰤大漁と

これぞまあ氷見の寒鰤大きかり

艶の良き柿が昔の上司より

柿赤くなるまで待てと追伸に

丸丸と太りし柿でありにけり

吊るさんと大きな大和柿選ぶ

大和柿見ると吊るしてみたくなり

柿剥きて塩湯に通し吊るしけり

放ったらかしにしあれど石蕗の花

手入れすることの無けれど石蕗の花

一升瓶抱へ柚子の酢届けくれ

柚子搾り一升瓶にして来らる

2024年10月

天高し芙蓉の花も高々と

青空に芙蓉の花の白さかな

丸々とフェンスのゴーヤ実る朝

艶のある緑のゴーヤなりしかな

咲き続けこぼれ続けて百日紅

百日紅これでおしまひおしまひと

朝顔の上へ上へと伸びて咲く

仰ぎ見る高さや今朝の朝顔は

鴨のまだ来てをらざりし川広し

初鴨のゐるかと川を見渡せど

鴨の来るには強過ぎる日差かも

鴨のもう来てをり隅に群れてをり

初鴨の三三五五に群れてをり

初鴨のもうゆったりと浮かびをり

奥祖谷の短く太き走り蕎麦

奥祖谷の蕎麦粉十割の走り蕎麦

蕎麦米のお土産付きの走り蕎麦

よき香りなるを確かめ走り蕎麦

神木を仰ぎてをれば小げら打つ

打ちをりし小げらの飛んで行きにけり

げら叩くリズムあるよで無いやうで

玄関の老いし松にも新松子

仰ぎ見るレバノン杉の新松子

啄木鳥の身じろぎもせず眠りをり

熊啄木鳥の鋭き声と嘴と

どの家もたわわに柿の実る里

人住まぬ家の鈴生りなりし柿

鈴生りの柿どれもかも小振りかな

多過ぎて鳥も寄らざり残る柿

椋鳥の来てより眼白来なくなり

金柑をこぼしてゆきし眼白かな

眼の周り見ればなるほど眼白かな

滑走路残し一面草紅葉

放牧の蒜山原の草紅葉

草紅葉から草紅葉へと歩く

跳び来たるばつたの飛んで逃げにけり

きちきちと音を残してばつた飛ぶ

陣羽織つけて殿様ばつたかな

踏み込めばいきなりばつた跳び出して

天辺に残る夾竹桃の花

秋晴の足取り軽くなりにけり

鬼灯と思ふほどなる実をつけて

菊かとも思うふ花壇の花であり

なほも咲き続けてをりぬ百日紅

秋空に残り咲きゐる百日紅

ハロウィンの飾りが一つ増えてゐる

ハロウィンの飾りの前で写真撮る

秋空の下で野外のコンサート

芸術の秋や地面に絵を描き

食の秋かな饂飩屋の満席に

行楽の秋饂飩屋に旅行客

駅前で三々五々に夕涼み

暮早し早々と灯の点る街

涼風の瀬戸大橋を渡り行く

海からの風も爽やかなりしかな

咲き残りをり紅白の曼珠沙華

根にしがみつくかに咲きて曼珠沙華

白鳥の川美しき初紅葉

掘割を覆ひてをりぬ初紅葉

石垣を覆ひ尽くして蔦紅葉

蔦紅葉色鮮やかな美術館

小舟行く風の涼しき掘割を

水澄める川を小舟のゆつたりと

天領の地の紅葉の鮮やかさ

紅葉の向かう倉敷美観地区

掘割の岸辺八重咲き木槿かな

掘割にこちら五弁の木槿かな

客乗せて忙しきかな舟の秋

暮早き街に灯水面にも

短日や天領の街灯を点し

舟に乗り美観地区見る秋の旅

由緒ある旅籠も眺め秋の旅

水澄める美観地区行く舟に乗り

水澄める掘割鯉の髭も見え

両岸に灯籠点る美観地区

灯籠の街をゆつくり逍遥す

灯籠の岸にたたずむ二人かな

灯籠の灯が掘割の水面にも

灯籠の美しき倉敷美観地区

夢道忌へ夢道の句集読み終へて

今日もまた旅行案内届く秋

作りたる蜜柑を提げて来られたる

まあ食べてみてと蜜柑を提げて来る

秋空へ吸ひ込まれゆくホームラン

松茸のいと香しき土瓶蒸し

親子して馴染の店で温め酒

寿司旨し刺身旨しと温め酒

酌み交はし酌み交はしして温め酒

酌み交はし弾む話や温め酒

朝一に庭師来てをり松手入

天辺に始まる松の手入れかな

颯爽と梯子に乗りて松手入

仰ぎ見る高さの庭師松手入

松笠になる芽も摘みて松手入

おほかたは素手で摘みゆく松手入

松手入済みたる松に勢あり

松手入済みて緑の鮮やかに

手入するたびに松の芽込んで来し

手入れされ松に風格出て来たる

2024年9月

台風の来るぞ来るぞと今日も待つ

台風の風に空蝉飛ばされず

賓客のごとく台風来るを待つ

こぼれてもこぼれても咲き百日紅

こぼるほど紅増しにけり百日紅

あつけなく台風行つてしまひけり

事も無く台風一過せし我が家

台風の過ぎたる空の青さかな

晴天の二百十日となりにけり

大過なく過ぎし二百十日かな

倒伏の稲無く二百十日過ぐ

これほどにゐしかと思ふ帰燕かな

寄り合へる帰燕の朝の騒がしさ

寄り合へる帰燕の数のおびただし

黒山のやうに帰燕の集まり来

一羽より帰燕の空の始まりぬ

枝豆をいただきビール買ってくる

枝豆は子らが平らげしまひしと

菅平高原よりの唐黍と

クール便で来し唐黍を即茹でる

茹で立ての玉蜀黍の甘さかな

茹で立ての玉蜀黍を御裾分け

我輩は餌にはあらず真鰯ぞ

大半は餌となりゐる鰯かな

艶の佳き潤目鰯の目刺買ふ

手の爪で鰯の饅を作る母

鳴かねども蓑虫鳴くと人の云ふ

蓑虫のちちよちちよと鳴くと云ふ

蓑虫のははよははよと何故鳴かぬ

寝袋の蓑虫のごとくるまりて

風吹けばあそこにここに葛の花

石垣に沿ひて高々葛の花

葛粉買ひ葛の花咲く道帰る

間引菜の大根葉大好き浅漬に

浅漬の大根葉に酢橘阿波の秋

間引菜の若き命をいただきぬ

棒持てる子らに追はれて穴まどひ

穴まどひまどひてをれる余裕かな

穴まどふそんな贅沢ほどほどに

穴まどひ人目を引けば小突かるる

白露てふ便り届けど秋暑し

暦では白露なれども気配無し

台風の逸れゆく二百二十日かな

猛暑日の二百二十日でありにけり

ハロウィンの南瓜早々飾られて

ハロウィンの南瓜の口の大きさよ

岡山の友より葡萄二箱も

ずつしりと重き葡萄を十房も

茶の会のどかつと芒活けられて

茶会へと蒸し暑き日も着物着て

蝉の穴後生大事に残りをり

蝉の穴出口ばかりでありにけり

とこどつこい坂になほ鳴きつくつくし

今年はも銀杏どれも小振りなる

城跡の毒ありさうな茸かな

雨滴置き輝きをりし百日紅

百日紅雨に洗はれ鮮やかに

像囲み銀杏黄葉の始まりぬ

花の数少なくなりぬ秋の薔薇

城跡の夾竹桃の高々と

少年の像に秋の日やさしかり

松葉牡丹群れ咲いている像の下

雲一つ無き空広し今日の月

通夜終へて仰げば凛と今日の月

通夜の客見送るやうに今日の月

煌煌と人の世照らす今日の月

坂の上の雲を見てをり今日虚子

野球する虚子の像ふと今日虚子忌

窓空けば静かに虫の鳴いてゐる

虫の音の中で夜明けを待ってゐる

虫の音と共に涼しき風も来る

涼風のエアコンよりも心地よし

胸一杯朝の涼風吸ひ込んで

家中の窓開け朝の涼風を

やうやくに涼しき風を迎へられ

待ちきれぬほどに待ちゐし秋の風

目の前で栗搾り出しモンブラン

生搾りせし栗の香のモンブラン

ハロウィンの写真どうぞとホテルでも

ハロウィンの南瓜に南瓜また南瓜

新蕎麦を明治に建てし酒蔵で

昼過ぎに売れてしまひし走り蕎麦

2024年8月

人の死ぬほどなる暑き日本に

今日もまた外出控へる暑さかな

水面にも映ってをりぬ大花火

夜風浴び静かに花火見る二人

大輪の花火や音のやつと来る

花火見る浜の夜風を浴びながら

子供らの勝手知つたる冷蔵庫

帰るなり冷蔵庫へと走る子ら

冷蔵庫開けてアイスをまづ探す

炎天に子らのダンスの発表会

ダンスの子夢はでつかい雲の峰

炎天の子らのダンスに駆り出され

熱中症警報出ぬ日無かりけり

熱中症かもと来てくれ救急車

熱中症でなく安心さあランチ

何をする気にもなれない暑さかな

立秋と云ふに人死ぬこの暑さ

核廃絶言へない総理原爆忌

阿波踊はねたる街に盆の月

静けさの戻りし街に盆の月

故郷の町川照らし盆の月

故郷の眉山の上に盆の月

父母のこと弟のこと盆の月

稲光恐しその音なほ恐し

弟は母追ひ走る稲光

大根葉用なるてふ種は散らし蒔く

大根蒔く猫の額の畑にも

大根蒔く黒土の畝高くして

大根蒔く人誰も彼も無口かな

つくつくし今宵限りと鳴き尽くす

つくつくしけふでおしまひおしまひと

つくつくし鳴きぬやうやく秋が来る

つくつくし鳴けどなかなか来ない秋

つくつくし夏に未練の残るかに

豆腐屋の朝は早かり新豆腐

この香りこの温かさ新豆腐

木綿よし絹なほよろし新豆腐

新豆腐水が命と云ふ老舗

西瓜割そんな贅沢できぬ世に

高級なフルーツですと西瓜切る

野菜から今やフルーツなる西瓜

炎天を来て大シルクロード展

冷房のよく効く部屋で秘宝見る

一級の文物にある涼しさよ

爽やかな金の秘宝でありにけり

初秋のシルクロードの秘宝展

法華経の秘宝に暑さ忘れをり

修復のすみし本館夏簾

浴衣着て道後温泉本館へ

蛇口から蜜柑のジュース出る道後

浴衣着て草履で巡る出湯の町

湯籠提げ浴衣で道後本館へ

湯上りの浴衣で憩ふ道後の湯

胡蝶蘭並ぶ湯殿の大広間

湯上がりの浴衣姿で人力車

噴水もミストもありし美術館

王府井夏限定のメニューも

虫を食ふウツボカズラを覗き込む

木道を行けばニッコウキスゲかな

ご自由にどうぞとありしハンモック

手を貸してもらって降りるハンモック

こんもりとキレンゲショウマ群れ咲ける

犇けるほどにキレンゲショウマかな

雲の峰背ナにプールでゆつくりと

海辺なるプールは海に続くかに

蜻蛉飛ぶ明石海峡大橋を

瀬戸の海真っ赤に染めてゐる夕焼

指先に気品ありけり阿波踊

二拍子のリズムは楽し阿波踊

踊るほどのつて来るもの阿波踊

誰も彼ものつて来るもの阿波踊

徳島は住めば都と阿波踊

フィナーレは徳大生の阿波踊

待ちかねし新米子らに持たせもし

新米を持たせ帰省子見送りぬ

青空に凛と咲きをり百日紅

青空にいよよ鮮やか百日紅

遅れ咲き紅美しき百日紅

薄紅の色美しき百日紅

台風を前に満開百日紅

咲き満ちて蜜蜂も来る百日紅

風吹けば大きく揺れて百日紅

揺れてなほこぼれをらざり百日紅

雨に濡れ瑞々しかり百日紅

風雨止み清々しかり百日紅

2024年7月

たっぷりと降りたる朝の濃紫陽花

徳島にジャカランタ咲きモラエス忌

踊笛聞こえて来ればモラエス忌

阿波踊稽古本腰モラエス忌

モラエス忌来れば緑の徳島に

カステラとワインを供へモラエス忌

徳島の夏は本番モラエス忌

万緑の眉山城山モラエス忌

リスボンは千里の彼方モラエス忌

リスボンは弧愁の生地モラエス忌

リスボンは偉大な田舎モラエス忌

鰯焼くリスボンの路地モラエス忌

この径もまた滴りに遇ふ眉山

滴りにしばし疲れを忘れゐる

滴りの錦竜水なる名水に

滴りの藩主の水の滾々と

蕗の葉で飲む滴りの旨かりし

汕頭の絹のハンカチ買ひし旅

汕頭の絹のハンカチ買ひしまま

汕頭の絹のハンカチ出番無く

汕頭の絹のハンカチ見るばかり

雨上がり潮好しと聞く遊船に

逆コースなるは新鮮船遊

初めての川にも出でて船遊

遊船の樋門を潜り大川へ

遊船の澪標見てゆつくりと

遊船の小船となりぬ吉野川

鯵刺の群れにも出合ふ吉野川

鯵刺の獲物を探す目にも合ひ

橋の間に眉山も眺め船遊

遊船に眉山の見えてほつとする

川も名のまたまた変る船遊

遊船の眉山の下に帰りけり

遊船に街の皆んなが手を振って

遊船の乗り場の辺り市の立ち

沖縄の旅は水着の夜濯ぎも

メロン切る皆の視線を浴びながら

ずっしりと重き箱入りメロンかな

一株に一つのメロンのみ残し

手の平で重さを比べメロン買ふ

子らの目の見つめてをりしメロン切る

塩振って真桑瓜食ふ甘かりし

メロンより真桑瓜かな大好きと

貯蔵庫でないと知りつつ冷蔵庫

買つて来しものはひとまづ冷蔵庫

八分目目指してをれど冷蔵庫

消費期限不明のものも冷蔵庫

自転車で堤防行けば草いきれ

草いきれ遍路の墓は藪の中

魚釣つて帰る土手道草いきれ

床張りに跣足の何と心地よく

帰るなり跣足になつてゐる私

子供らの跣足の何と美しく

一日を跣足で過ごす一ㇳ日かな

歴年の梅酒の梅をおつまみに

去年漬けし梅酒の香り楽しみぬ

我が漬けし梅酒の何と旨かりし

十六人家族揃って夏の那覇

炎天の空の青さよここは那覇

ゴールデンシャワーなる花枝垂れ咲く

ゴールデンシャワーはタイの国花とか

街路にもアリアケカズラ美しく

街頭でソフトクリーム似合ふ街

お洒落かな手縫ひブラウス涼しさう

卒寿過ぎてもサングラスよく似合ふ

緑濃き街の真ん中モノレール

夏の夜のリゾートタウン煌煌と

椰子茂る道行き夏の夕日見る

沖縄の海に真夏の夕日かな

金色に染めて真夏の夕日落つ

金色の海に真夏の夕日落つ

夏の夜の海辺椰子にも点灯し

ハワイかと思ふ街にて夏の夜を

夏の夜を美浜アメリカンビレッジで

夏の夜の昼のやうなる街歩く

沖縄の夏はプールが一番と

沖縄のホテル大好きプール好き

子らの声今日も弾んでゐるプール

子ら誰も出やうとしないプールかな

ジップライン真夏の海を下に見て

ドローンの記録が夏の思ひ出に

白雲の浮かぶ真夏のハイウエイ

夏雲の下に伊江島くつきりと

夏の旅一番人気水族館

夏の子らジンベイザメに無我夢中

古宇利島大橋下で蟹探す

夏楽し十六人の笑顔かな

巡り来しハートの岩の海涼し

蟹探すハートの岩の海岸で

夏の旅那覇空港に別れ告げ

また来ると入道雲に誓ひもし

また来ると七夕飾る短冊に

七夕の笹にまた来る願ひ込め

淡路かな玉葱小屋のある青田

雨の日も若竹の山輝きて

梅雨霧の淡路丸ごと包み込み

梅雨霧の瀬戸の島々ぼんやりと

梅雨霧の京都五山をすっぽりと

梅雨霧に京都タワーもぼんやりと

梅雨霧に比叡も比良も見えざりし

佐和山の城址跡にも青田かな

霧晴れて青田広がる関ヶ原

稲沢は植木の町と聞く緑

名古屋とは偉大な田舎草茂る

梅雨霧の先に浜名湖見えて来し

旧友と蘭の花咲く駅前で

八十歳揃ひ鰻を浜松で

八十歳ともに鰻を平らげて

鰻旨しビール旨しと談弾む

おつまみは鰻の肝の串焼きで

茶碗蒸しにも入ってをりし鰻

健啖や鰻完食八十歳

台湾の友とブーゲンビリア見る

台湾の友とビールを酌み交はす

ビール好しワインまた好し日本酒も

ビール飲み朝まで眠るぐっすりと

夏会席昔の上司ご夫妻と

六十年前の上司と鱧を食ふ

梅雨晴れに卒寿の上司ご夫妻と

夏会席完食されし卒寿

卒寿なほ日本の未来憂う夏

健啖の卒寿酷暑に怯まれず

炎天下卒寿の上司送りくれ

梅雨明けて朝から蝉の大合唱

梅雨明けていいよ蒸し蒸しする暑さ

沖縄を涼しと思ふこの暑さ

梅雨明けていよいよ蒸し蒸しする暑さ

芳しき香り一番藍を干す

一番藍干せば燕もやって来し

一番藍干せば来てをり赤蜻蛉

真っ青な空や一番藍を干す

梅雨明けを待ちて一番藍を干す

一番を干していよいよ藍茂る

庭を掃き清め一番藍を干す

藍を干す周りに網を巡らせて

バナナ生る庭に一番藍を干す

見るたびに藍干しあがり来し日差

これはまあ日干しの蚯蚓続く道

朝の間に乾涸びてゐる蚯蚓かな

地を出でしばかりに蚯蚓乾涸びぬ

蚯蚓には地下も地上も地獄かな

居場所無く蚯蚓乾涸ぶ暑さかな

昼顔の花さへ萎れをりし午後

2024年6月

雨の日の額紫陽花の白さかな

雨の日の額紫陽花の凛として

梅雨晴の空より港見下ろして

梅雨晴の空より見えて江ノ島も

残雪のわずかばかりの富士も見え

六月の富士黒々とありにけり

梅雨晴れて知多半島もくっきりと

梅雨晴れてあれは確かにセントレア

でで虫の逃ぐる速さよもうゐない

でで虫の一目散に逃げてゆく

でで虫の前へ前へと休みなく

ゆっくりとでで虫のごと生きたかり

青紫蘇の苗とはかくも小さくて

青紫蘇の苗の伸び来し速さかな

青紫蘇の育ち過ぎないやう日除

走り来し車に灯虫こびりつき

運転の窓に灯虫のつぶてかな

かぶと虫くはがた虫も街の灯に

灯虫来る町に一つの信号に

灯虫来る明治の街のガス灯に

若竹のもう竹林の背を越えて

若竹の生え放題の伸び放題

流れ無きところを選び鳰浮巣

名水の池の真ん中鳰浮巣

蛇の来ぬやうにと祈る鳰浮巣

大木の木蔭の川辺鳰浮巣

浮巣よく観たく抜き足忍び足

卵ある浮巣と聞けばなほ観たし

つつがなきことを祈らん鳰浮巣

蜘蛛の巣の始めの一糸襷掛け

見えぬほどなる高さより蜘蛛の糸

銀色に光ってをりぬ蜘蛛の糸

梅花藻の花美しき上高地

梅花藻の花咲く水の清らかさ

梅花藻の花水中に水面に

百選の水に藻の花畑かな

十薬も百合紫陽花も白き庭

酢漿草の花犇きて咲く狭庭

日の蔭の酢漿草の花美しき

七夕の笹に戦争やめましょう

七夕の笹に平和の来ることを

解禁の鮎をぜひとも食べたくて

品の良き鮎の香りでありにけり

待ちかねし鮎の背ごしもいただきて

頭ごといただき鮎の天婦羅は

梅雨に入り入梅の日は快晴に

入梅の日の徳島は快晴に

入梅の徳島晴れの日の続く

入梅の徳島今日も晴れ渡り

鉢植の葡萄の早も実をつけて

鉢植の葡萄の葉っぱ大きかり

紫のアガパンサスは夏の花

暑さにも強きアガパンサスの花

鮮やかな白でありけり半夏生

半夏生見てより入るお寿司屋に

明日からは雨の予報よ額の花

雨欲しい雨が欲しいと額の花

これはまあこんな所に捩り花

近づきて見たくなるもの捩り花

2024年5月

二百歳なる藤の根の無骨さよ

藤の花二百歳なる枝垂れやう

百歳の白藤もまた勢よし

紫も白も盛りや藤の花

門入れば藤の香りの中にゐる

藤の香の甘さに蜂の群がれる

藤を見る蜂に刺されぬやうにして

甘き香をたっぷり吸って藤を見る

筍の竹となりゆく速さかな

筍のめったやたらに顔を出し

春菊に綺麗な花が咲いてをり

春菊の花には香りなかりけり

犇ける大葉の苗の小ささよ

こんもりと育ち大葉となってをり

ピーマンの苗に綺麗な写真添へ

野菜にも初夏の太陽たっぷりと

人住まぬ家に鮮やか柿若葉

鮮やかに生きていゆきたし柿若葉

春宵の道後の町をそぞろ来て

宇和島の鯛めしに来る宿浴衣

風薫る平山郁夫美術館

門入れば緑の美しき美術館

清楚なる庭に卯木の群れ咲いて

新緑の庭に卯木の白い花

紫蘭咲く道より美術館に入る

部屋の中からも五月の庭を見る

春の月かもと名画を眺めもし

冷房の部屋で名画の旅も見て

尾道の港にそよぐ風は初夏

初夏の旅尾道ラーメン旨かった

遠浅の海に遠投鱚を釣る

竿上げば鱚のぞろぞろ釣れてをり

砂丘下り遠州灘に鱚を釣る

離陸する飛行機見つつ鱚を釣る

吉野川河口ひろびろ鱚を釣る

母の日の父鱚釣に出掛けたる

橡の花ピエロの帽子みたいだね

松蝉を聞く大神子の松原に

波音に負けず松蝉鳴き始む

松蝉の私呼ぶかにぢいぢいと

長堤の茅花流しのさはさはと

雨意のある茅花流しでありにけり

ペダル漕ぐ茅花流しを浴びながら

我が家の筍飯は具沢山

筍飯この筍は子の掘りし

部屋中に筍飯の香りかな

子も孫も筍飯が大好きと

一夜さにこの狼藉は根切虫

ほどほどにしてくださいよ根切虫

根切虫その正体は知らねども

彩雲のたなびく初夏の青空よ

東京は緑緑の都かな

夏の闇にも眠らない都心

雪の富士見えるよ初夏の東京に

都心からはっきり初夏の富士も見て

涼風に誘はれ滝に立ち寄りぬ

涼しかりホテルの庭の滝なれど

見上げれば目にもやさしく若楓

石庭の五月躑躅の垣の美しさ

鯉の池には睡蓮の三つ四つ

鯉泳ぐ岸辺茅花の残り咲き

犇ける五月躑躅の真っ赤っ赤

遠目にも五月躑躅の明るさよ

十薬とあじさゐ白を競ふ庭

走っても疲れない子ら運動会

昼までで終る五月の運動会

家族とは嬉しきものよ運動会

運動会終へて皆さんご苦労さん

太陽へたじろがぬ花仙人掌は

仙人掌の花は太陽正面に

放ったらかしの仙人掌咲き満ちて

放ったらかしがいいのよ仙人掌は

ほととぎす聞きたく眉山山頂に

山頂に着いた途端のほととぎす

遠峰を眺めてゐればほととぎす

鶯の鳴けど鳴かないほととぎす

鶯の間に一声ほととぎす

聞き止めし一声確かほととぎす

ガリバーの足が来てをり石菖に

几帳面なる作りやう落し文

捨てられず几帳面なる落し文

巻き立てか緑の美しき落し文

風に舞ふ毛虫の糸の強さかな

青嵐眉山丸ごと吹き流し

2024年4月

百歳の枝垂れ桜の威容かな

百歳の枝垂れ桜の枝垂れやう

百歳の枝垂れ桜を仰ぎ見る

百歳の枝垂れ桜を見んと来て

百歳の桜に屋台まで出来て

百歳の桜に臨時駐車場

百歳の桜に人の集まれる

遠目にもほんのり赤き山桜

枝垂れ桜越しに山桜も見え

境内を敷き詰め枝垂れ桜散る

チューリップ眺め桜も仰ぎ見て

原色といふ美しさチューリップ

整列もまた美しきチューリップ

もう走り出してゐる子らチューリップ

咲き初めし染井吉野のほの赤く

チューリップ園に水車の建物も

赤い花白い桜と咲き満ちて

枝垂れ咲く牡丹桜でありにけり

室咲きの胡蝶蘭かな一列に

室咲きの青美しき胡蝶蘭

遠目にも咲き満ちてをり花の山

満開の花のトンネルくぐり行く

下山する人が優先花の山

この山の枝垂れ桜を今年また

枝垂れ桜越しに阿讃の峰も見て

枝垂れ桜とはこんなにも大振りな

風なくも枝垂れて枝垂れ桜かな

満開の桜広場を走る子ら

咲き満てる花を眺めてゐる二人

お花見をするのは大人子ら走る

子ら遊ぶ枝垂れ桜を身に纏ひ

散り敷ける上に一片また落花

桜散る大地に早も蒲公英が

散り急ぐ花はなけれどまた落花

散る桜残る桜もやがて散る

桜散る大地の土に帰りゆく

午後となり少し萎れてゐる牡丹

日を浴びて牡丹いよいよ艶やかに

犇きて咲ける牡丹もありにけり

咲き揃ひ牡丹の寺となりにけり

鉢植の牡丹の紅の艶やかさ

鉢植の白い牡丹に見惚れゐる

咲き満てる染井吉野の白さかな

青空に染井吉野の白眩し

どっと来る日曜のチューリップ園

チューリップ園には家族皆で来る

チューリップ園の水車は喫茶店

とりどりの色美しきチューリップ

見るよりも駆け回る子らチューリップ

チューリップ園には歓声こだまして

放ったらかしでなけれど葱坊主

種を取る積りなけれど葱坊主

プランターの葱にも花の咲いてをり

葱坊主だらけ日曜菜園は

葱坊主畑三枚埋め尽くし

蜜蜂のゐなくて人のする授粉

蜜蜂は仕事師花粉まみれかな

初物の筍なりしやはらかし

いただきし筍その日茹で上げる

筍は旬が命とさっと茹で

大楠を仰ぎ見てゐるみどりの日

植樹祭せし日懐かしみどりの日

県木の楊梅育てみどりの日

風船の行方を誰も知らざりし

風船を貰ふのっぽのピエロより

風船で気象観測せしと聞く

風船を追い掛ける子を追い掛ける

味噌入れるだけや私の浅蜊汁

この旨き浅蜊の採れし浜はどこ

舟でしか行くけぬ浜での浅蜊てふ

浅蜊しぐれ一つで出来る茶漬かな

鎌倉五山巡る道々濃山吹

虚子の墓参りをしても濃山吹

連綿と山吹ばかり続く道

けがれなき色でありけり白牡丹

懸命に生きて真っ赤や赤牡丹

遠目にも薄く紅差し白牡丹

紅差していよいよ美しき白牡丹

日当たりにありても凛と赤牡丹

門前にありし一株赤牡丹

田植機のおもちゃのごとし小さき田

チューリップ育てることが生きがいと

チューリップ咲かせ生家に戻り住む

石垣に犇き咲きて芝桜

犇きて咲く美しさ芝桜

山吹の桜ひとひら乗せて咲き

石楠花も咲かせ八十五歳とか

著莪の花咲ける崖下り河鹿聞く

河鹿鳴く声のだんだん近づきぬ

左から右から河鹿鳴きにけり

木琴を叩けるごとく河鹿鳴く

重唱のやうな河鹿の鳴きっぷり

河鹿鳴く次第に声を張り上げて

独唱の河鹿の声の乗って来る

いやといふほどに河鹿を聞き昼餉

甘酒の差し入れまでもいただきて

山宿の昼は旬の山菜尽くしかな

青空に鶯を聞く露天の湯

たっぷりと鶯を聞く朝の湯に

樟落葉二つ三つ四つ露天の湯

湯上りに残る桜を眺めゐる

鼠木戸より薫風と共に入る

木戸開けて薫風入れて金丸座

歌舞伎見る課外授業や子らの初夏

宙乗りの雀右衛門も見柏餅

空へ舞ふ天女鮮やか風光る

芝居はね初夏の眩しき現世に

2024年3月

雛飾る人の踏み場も無きほどに

とりどりの雛や雅叙園らしく

雅叙園らしき雛の飾られて

早々と河津桜に目白来て

見るほどに河津桜は赤きかな

これはまあ雪の花見となりにけり

青空に紅美しき桜かな

蜂須賀の殿の愛でたる桜見る

蜂須賀の世より伝へし桜見る

戦災を耐えし蜂須賀桜見る

焼夷弾落ちても桜生き延びて

お花見のできる日本のありがたく

戦争の無き世を願ひ見る桜

一と月も早く満開なる桜

雛飾る部屋より眺む桜かな

武家屋敷には春の花生けられて

廊下には安達流なる寒椿

庭園の岩にはミモザ美しく

玄関に椿一輪活けられて

武家屋敷よりも蜂須賀桜見て

蜂須賀桜と木札にありし母樹大き

母樹なりし蜂須賀桜仰ぎ見る

投句箱あるを確かめ桜見る

観光船よりも蜂須賀桜見て

コーヒーをいただきながら桜見る

お花見の一句を投句箱に入れ

エチオピア大使も来られ見る桜

阿波踊しつつ花見に来る人も

一と月も早く花見のできる阿波

阿波藩の世より伝へし桜見る

種芋の貯蔵の穴の床下に

種芋の穴の昼なほ暗かりし

種芋は子芋ばかりでありにけり

植ゑ付けは種芋の芽を確かめて

残りたる種芋甘く旨かりし

水中に葦の角あり句碑のあり

水中句碑ありし水辺に葦の角

葦の角琵琶湖の波に見え隠れ

種袋そのまま挿して苗札に

苗札のカラー写真の美しく

苗札のカタカナばかりなりしかな

苗札の文字より写真見て回る

真っ直ぐの畦がぐちゃぐちゃ陽炎ひて

蜃気楼陽炎もまたぼんやりと

ふるさとの町すっぽりと陽炎ひて

弧を描き上り詰めたる揚雲雀

大地へと一目散に落つ雲雀

雲雀鳴く天下とったる如く鳴く

四方から続けざまなり揚雲雀

休耕の畑は即ち雲雀の野

電光石火落つる雲雀となりにけり

肥やす馬ゐないけれども苜蓿

防風摘む大鳴門橋そこに見て

防風の勝手に伸びてをりし浜

白砂に浜防風の白い花

浜防風つまめば芹の香りして

飲兵衛は刺身のつまに浜防風

卒業をしたとはるばる愛知より

卒業をしたとセーラー服で来る

今年また三万体の雛飾る

雛を見に三万人が来ると云ふ

婚活のイベントもあり雛祭

日替のイベントもあり雛祭

ライトアップまでは見られず雛祭

雛飾眺め人形浄瑠璃も

雛祭る恐竜化石出る町に

雛飾には外つ国の人形も

雛飾りせしは小学三年生

その中に泣きべそのをり仕丁雛

南米の調べも聞こえ雛祭

飾られし雛それぞれに物語

飾られてこその雛人形であり

ウクライナ国旗の描かれし雛も

雛祭記念の写真撮り合ひて

雛の顔時代時代でありにけり

植ゑし人思ひ出しつつ見る桜

花も葉も赤き蜂須賀桜かな

一と月も早く散りゆくこの桜

敷き詰めし上にひとひらまた落花

散り急ぐ花はなけれどまた一花

落つる花しばし眺めてをりにけり

遠目にもはくれんの白際立ちて

上向きに咲きはくれんの白い花

薔薇の芽を覆ひさうなる繁縷かな

清らかな水の岸辺に芹茂る

こんもりと芹の犇めくひとところ

城山の緑に紛れ著莪の花

遠目にも見ゆる川面の花明かり

川面にも桜並木の美しく

散り残る花を訪ねて来し人も

散る花をじっと見る人見ない人

敷き詰められし落花の美しき

敷き詰められし落花を踏んで行く

黄水仙咲いて明るき庭となり

ロンドンの城の庭ふと黄水仙

マーガレット咲かせデンタルクリニック

マーガレット大好きだった人をふと

ネモフィラにまぶしき春の光りかな

ネモフィラにひたちなか公園をふと

世の遠くゐることに慣れ蕨餅

世に遠くゐることに慣れ草の餅

堤防の芥子菜摘んで漬物に

春場所の新入幕の初優勝

春場所のあっぱれ幕尻初優勝

2024年2月

ふるさとの歌作りしと初便り

ふるさとの山河を歌ひ春を待つ

あっぱれな年の始めでありにけり

坪庭に三つ四つ五つ蕗の薹

水仙の四つ並んで咲きにけり

何たって生が一番寒卵

小豆島醤油一滴寒卵

卵かけ醤油を少し寒卵

炊き立ての御飯最高寒卵

黄身二つありてめでたし寒卵

放し飼いしたるを選び寒卵

ぷりぷりの黄身でありけり寒卵

やはらかき日差にまぶし猫柳

門前にせせらぎのあり猫柳

活けられてなほも艶やか猫柳

かはいいと皆に触られ猫柳

水音のかすかに聞こえ猫柳

猫柳触れれば仄と温かし

ぎんねずの控へ目が好き猫柳

青空へぽつりぽつりと梅咲きぬ

梅咲いて寺訪ふ人の増えて来し

青空へ咲き初む梅の白さかな

剪定をされたる梅の花大き

剪定のされし梅林勢あり

春菊はささっと入れてさっと煮る

好き嫌ひあれど菊菜は香りかな

金縷梅何でそんなに縮れ咲く

満作は枯葉大事と咲きにけり

まづ咲くと云ふ満作の咲き初めし

満作の咲きてもうじき一年生

満作の松の廊下のありし地に

満作の町見下ろして咲きにけり

コロナではないです春の風邪ですと

立春の一位当選めでたけり

春立つ日一位で町議会議員

春立つ日見事一位で初当選

春立つ日青年議員誕生す

春立つ日子の旧友が議員へと

新人が一位当選春立つ日

あっぱれや一位当選春立てり

雛段の雛を囲みて吊し雛

高々と雛段の雛飾られて

様々な願ひ込められ吊し雛

手作りの情のありけり吊し雛

鳴門かな詰め放題の新若布

新若布詰め放題と聞くからは

鳴門産牡蠣にも人の押し寄せて

新若布牡蠣と見る間に売れ尽くし

新若布詰め放題に長き列

若布牡蠣ともに完売昼までに

新若布入りのふるまひ汁も出て

新若布牡蠣で祭となる鳴門

ウィスキーボンボンバレンタインの日

孫からもチョコ来るバレンタインの日

義理チョコのバレンタインの日は遠く

その人は知らねどバレンタインの日

春一に船戻り来る戻り来る

春一の恐さを語る老漁師

黄花亜麻大事に育て句碑の春

黄花亜麻句碑を囲みて咲き競ふ

句碑囲み幸せ招く福寿草

日を浴びて開き始めし福寿草

忘れらる日干しの蛙鵙の贄

生殺与奪句碑の辺にあり鵙の贄

日の差せど菰に隠れて寒牡丹

隠れん坊してゐるやうな寒牡丹

句碑の辺に白梅紅梅濃紅梅

句碑の辺に今年も出でし蕗の薹

句碑の辺は土筆に薺犬ふぐり

紅梅は枝も芯まで赤かりし

万両の赤に見惚れて足止まる

紅白の万両句碑を守るかに

水温み目高の親子すいすいと

幕上がる春の選抜出場と

雨に濡れ椿の花に勢あり

句碑よりも少し離れて椿咲く

秩父かな雪の武甲の朝焼けは

朝焼けに輝く雪の武甲山

早春の武甲はなほも雪乗せて

春を呼ぶおきざり草のまぶしさよ

おきざり草春はそこまで来てをりぬ

2024年1月

うっすらと初冠雪の眉山かな

徳島の初雪夕べには晴れて

一年のあっといふ間や去年今年

年毎に速く過ぎゆき去年今年

戦争の無き世を願ひ年迎ふ

辰年に願ひを託し年迎ふ

手作りの小さき門松並ぶ市

小さくとも門松らしく凛として

寒風の仕上げてくれし吊し柿

やはらかく甘く仕上がり吊し柿

正月の道後温泉賑はひて

初売の道後の町の華やかさ

初売の街ぶつからぬやう歩く

初旅は伊予の名所を駆け足で

初旅は内子座にまで立ち寄りて

西伊予の初旅魚尽くしかな

好きなだけ蜜柑どうぞとあるホテル

冬晴の宇和島駅の明るさよ

冬晴の宇和島駅の椰子仰ぐ

松山へ土佐へ行こうか乗初めは

宇和島の駅の綺麗な松飾

正月の四万十川のゆったりと

水澄める四万十川の青さかな

冬日差す足摺岬灯台に

正月の光真白き灯台に

初旅の遠く足摺岬まで

新年を足摺岬より始む

初旅は丸い水平線も見て

初旅ははるか黒潮見ゆ岬

野路菊のへばりつくかに咲く岬

野路菊も見て寒椿咲く岬

冬晴の太平洋の明るさよ

正月の太平洋の青さかな

寒晴にジョン万の像高き岬

初春や土佐は偉人の多き国

門松の立てる鳴門の菓子屋へと

買初めのひっきりなしに来る老舗

歳の数なるは遠き日雑煮餅

塗碗を出していただく雑煮かな

雑煮餅一つで足りる歳となり

子供らの食べっぷりよき雑煮餅

子ら去にて四日の雑煮ゆつくりと

大正の芝居小屋にも松飾り

産直の市の門松蜜柑付け

餅花の柳の枝のよく撓る

料亭の表玄関餅の花

撓るほど花餅つけて客迎ふ

繭玉のふはりふはりと吊されて

繭玉の一つが回ってをりにけり

繭玉の捩れ戻して吊しけり

餅花の咲ける如くに飾られて

女子会と云ふ女礼者の集ひかな

皸の昭和も遠くなりにけり

普段着の女礼者でありにけり

スーパーで女礼者と鉢合ひぬ

霜焼は見れど皸見ぬ令和

皸の子を見ぬ令和の小学校

皸の血が包帯に滲み出て

寒椿咲き満つ端にある岬

寒椿くぐり足摺岬へと

寒椿へばりつくかに咲く岬

寒椿野路菊競ひ咲く岬

天狗の鼻なる岬にも寒椿

橙の転がってゐるどんど跡

爆竹の音凄まじく炎立つ

石庭の箒目にある淑気かな

箒目に踏むをためらふ淑気かな

寒鯉の底にちっとも動かざる

阿呆息災と云ふ長老も初句会

初句会和服のありて花やかに

門松の竹に瑞気のほとばしる

小さくとも正月飾凛として

手水鉢にも正月の飾りかな

浴びるほど日差を集め実万両

枯山水紅一点の実万両

寒晴の枯山水の明るさよ

色とりどりなるもめでたし繭の花

繭花を見れば触れてもみたくなり

美しき花も飾られ初句会

初めてといふ人も来て初句会

初句会全ての料理平らげて

健啖を確かめ合ひて初句会

喜寿傘寿米寿白寿も初句会

新春を祝ひて駅に蘭の花

駅頭に春を先駆け蘭の花

大寒波能登の地震の被災地に

寒波来る命からがら逃げし身に

何もかも失ひし身に寒波来る